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■夏の日の想い出・たまご(8)

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その女性の後ろ姿を見送ってから私は細川さんに言った。
 
「差し出がましいことをしましたが、奥さんが赤ちゃん産んだばかりの時に浮気するのはどうかと思いますよ」
 
「済みません」
と言って細川さんは謝る。
 
そしてふと思いついたように
「そうだ。唐本さん、ちょっとお聞きしたいのですけど」
と言った。
 
「何でしょう?」
「あまり大きな声で話したくないのですが」
「はい?」
 
それで私は細川さんの隣に座った。
 
「唐本さん、千里とは古い付き合いみたいですね」
 
「そうですね。頻繁にやりとりするようになったのは4年前からですけど、それ以前にもあの子とは随分ニアミスしてたんですよ。私とあの子とを両天秤に掛けていた人がいて。あ、いや恋愛的な意味ではなくビジネス上なんですけどね」
 
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「あの子って実は生まれながらの女ですよね?」
と細川さんは言った。
 
「え?生まれた時は男ではあったものの、その後完全な女になったんだと思いますが」
と私は言った。
 
「本当にそうなんでしょうか?」
「違うんですか?」
 
「私は千里とはもう12年もの付き合いになるのですが、あの子は会った時から自分は男だと言っていたし、最初の内はそれを信じていたんです」
「はい?」
 
「でも付き合っている内に、この子、男だってのは嘘で本当の女なんじゃないかと思うようになって」
と細川さん。
 
「あの子、たぶん中学生くらいの内に性転換手術してますよ」
と私は言う。
 
「私もそんな気がしていた時期もあったのですが」
「ええ」
 
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「今はむしろあの子は生まれながらの女だったのだと確信しています」
「うーん」
 
「だからあの子、女装男子ではなく、男装女子だったのを、本来の女子としての生き方に戻したのではないかと」
 
「うーん・・・・」
 

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「京平は実は元々私と千里の子供だったんです」
と細川さんは言った。
 
「どういう意味でしょう?」
「千里の周囲には昔から色々不思議なことが起きていたんです。それで千里は彼女が高校2年の時、2007年の4月に京平と会って、お母さんになってあげる約束をしたと言ったんです」
 
私は意味が分からなかった。
 
「その時千里は言ったんです。自分は子供を産めないから、代わりに私に父親になって欲しい。私を父親として生まれた最初の男の子に京平という名前を付けてくれたら、それは自分と私との子供だと」
 
私はどう反応していいか分からなかった。
 
「そして千里は2009年の12月に私を京平に会わせてくれたんですよ」
 
この人は何か夢でも見ていたのだろうか? こんな話、夢でなければこの人は頭がおかしくなっているのではと私は思った。
 
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「その後、私と千里と京平は何度も3人で会いました。そして京平は2015年に生まれてくることを予告していたんです」
 
私はこの話に困惑した。
 
「阿倍子とは2012年の春に会いました。彼女、実は自殺しようとしていた所を私が助けたんです」
 
そんな話があったのは私も知らなかった。
 
「阿倍子は前の旦那と別れたばかりで。どうしても子供ができないことから離婚されたらしいんです。何度も体外受精を試みたのに子宮に着床してくれない。10回目の挑戦でやっと着床したものの、5週目(=受精後3週目)で流れてしまって。その後、前の旦那のお母さんと険悪になってしまって、離婚になったらしいんです」
 
「あんた本当に女なの?実はオカマなんじゃないの?とか言われたらしいです。実際当時、阿倍子は自分が本当に女なのかというのも自信を失っていたらしい。色々悩んで、さすがに自分は女だとは思うけど、子供は産めないようだし、これでは他の人と結婚してもまた離婚される。そんな思いから、もう死んでしまおうと思ったらしいんです」
 
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「僕は言いました。妊娠って相性があるから、たぶん前の彼との精子卵子の相性が悪かったのではないかと。別の彼とならきっとうまく行くと」
 
「それで彼女を慰めている内に、ついセックスに近いことをしてしまって」
 
私はその状況では細川さんを責められない気がした。その場でセックスまでしていなかったら、阿倍子さんは再び自殺したかも知れない。ん?いや今、セックスに近いことと言った??セックスではないのか???
 
「それで何となく阿倍子と交際しているかのような状態になってしまって。結果的には千里と二股状態になってしまったのですが、その状況に陥っている時、阿倍子が言ったんです。他の人となら子供が作れるかも知れないと言うのなら、私と子供を作ってくれないかと」
 
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「それで結婚なさったんですか?」
と私は訊いた。
 
「拒否したら自殺しそうで、私も悩んでいた時に、唐突に千里が『しばらく会えないかも知れない』とメールしてきたんです。どういうことなのかと思って電話しても取ってくれないしメールしても返事をくれないので、とうとう千里のアパートまで直接会いに行きました。それで阿倍子とはどういう関係になっているのかと聞かれたので正直に状況を説明しました。そしたら千里は阿倍子と結婚していいよと言ったんです」
 
私は目を瞑って考えた。その時期というのは、たぶん千里が「性転換手術を受けた」と主張していた時期だ。千里は実際、高岡の桃香の実家や千葉のアパートでほとんど寝ていたのではないかと思う。そして桃香と密かに結婚式をあげた時期ではなかろうかとも思った。千里も当時は細川さんに愛想を尽かしていたのかも知れない。いや逆だ。きっと細川さんが阿倍子さんと結婚したいと言ったから、千里は桃香の愛を受け入れて結婚式を挙げたんだ、と私は思い至った。
 
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「それで千里とはお互い友だちに戻ることを同意して。千里は私に結婚祝いまでくれたんですよ。本当は友人として結婚式に出たいくらいだけど、奥さんに悪いから、お祝いだけあげると言って」
 
「それで阿倍子さんと結婚式を挙げられたんですね?」
 
「ええ。最初は2012年中に結婚するつもりだったのですが、阿倍子のお父さんが亡くなってしまって。一周忌を待ってから式を挙げました」
 
青葉が一度言っていた。千里が2013年頃に随分落ち込んでいて、得意なはずの車の運転さえも控えていた時期があったと。私はそれがこの細川さんが結婚式を挙げた時期なのではと私はこの時思った。元彼に結婚を勧め、自分も桃香と結婚式まで挙げはしたものの、千里は完全には細川さんのことを思い切ってしまうことができなかったのかも知れない。人の恋愛感情というのは凄く難しい。
 
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「阿倍子とは最初から自然妊娠は無理だろうと考え、お医者さんの指導のもと色々な不妊治療をしました。それで人工授精を何度か試みて、やはり無理なようだから体外受精にしましょうという話になり、それで最初私の精子と阿倍子の卵子で体外受精を試みたものの、どうしても受精卵が育ってくれないのです。分裂を始めてもすぐ停まってしまうんですよ」
 
「それで生殖細胞を借りることにしたんですね?」
 
「はい。私の精子の代わりに、私には兄弟が居ないので、私の父の精子、従兄の精子などで試してみたものの、どれも受精卵が育ちませんでした」
 
「それやはり阿倍子さんの卵子に問題があるのでは?」
「医者もそう言っていました。でもそんな時に話を聞いた千里が『この精子で試してみて』と言って冷凍精子のアンプルを持って来てくれて。それで試してみたら、初めて受精卵が育ったんですよ」
 
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「へー! それは誰の精子だったんですか?」
「千里は自分の精子だと言いました。でもあり得ないと思うんですよ」
「うーん・・・」
 
千里は去勢前に精子をかなりの数冷凍保存したと言っていた。その1本を持ち込んだ可能性はあると思う。しかし千里が生まれた時から女だったというのは眉唾だとしても、本当に千里に精子を作る能力があったのかはかなり疑問だと私は思った。あの子は、青葉などと同様、第二次性徴発現前に去勢したとしか思えないので、精子を作れたはずがない気がするのである。
 
「でもその受精卵を阿倍子の子宮に2個入れてみたものの、2個とも流れてしまいました」
 
これは多分千里が昨年秋に「体外受精に失敗した」と言っていた時の話ではなかろうか。
 
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「それでやはり卵子を借りようということになって。でも阿倍子には女の親族が全く居ないんですよ。実は以前お母さんの卵子でも試してみたこともあったのですが、そもそも受精もしてくれなくて。無理矢理顕微鏡受精させた卵子も分裂を開始してくれませんでした」
 
「さすがにお年ですしね」
 
「ええ。それで私は千里に頼んだんです。千里の卵子を貸してくれと。千里の卵子と私の精子を受精させれば本当に当初の予定通り、京平は私と千里の子供として生まれて来ます」
 
「自分の愛人の卵子を使うことに細川さんは罪悪感は無かったのですか?」
と私はストレートに尋ねた。
 
「阿倍子には悪いとは思いました。でも、阿倍子にはとにかく妊娠出産というものを体験させたかったんです。そうしないと、あいつまた死ぬと思ったから」
 
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私はこの時感動していた。細川さんもちゃんと奥さんを愛していたんだ。奥さんがどうしても子供が産めなくて、それでそのことで死の誘惑に取り憑かれている。その奥さんを救うためには本人に出産させるしかなかった。でも本人の卵子ではどうしても妊娠できない。それで他の人の卵子を借りる。でも阿倍子さんに女の親族がいないのなら、確かに愛人の卵子を借りるのは「次善の選択」だ。
 
でも千里、卵子あるんだっけ???
 
「千里は『阿倍子と同じ血液型の女性に提供させる』と言い、卵子採取の現場に私が立ち会わないこと、誰の卵子かを詮索しないことというのを条件として卵子の提供をしてくれました。ですから私は本当は誰の卵子を取ったのかは知りません。医者も守秘義務によって私にも阿倍子にも卵子の提供者については語りません。でも私は千里が提供してくれたことを確信しています」
 
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私は悩んだ。千里に本当に卵子があるのであれば、千里が提供した可能性が高い。でもそれはやはりあり得ない気がする。次に考えてみたのは、実は桃香が提供したのではないかというもの。しかし自分の浮気相手のことで千里が桃香に協力を求めるというのも考えにくい。その卵子は本当に誰のものなのだろう?
 
「阿倍子さんと千里は同じ血液型なんですか?」
と私は尋ねた。
 
「はい。どちらもAB型なので、千里の卵子を使ってもABO式の血液型では阿倍子と京平の親子関係に矛盾は発生しないんですよ」
 
「細川さんの血液型は?」
「B型です。ですから、AB型卵子との組合せでは、AB型・B型・A型は生まれる可能性がありますが、O型だけは生まれる可能性が無いんです。実際には京平の血液型はA型です」
 
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「なるほど」
 
「一応、前回受精卵が育った千里が持ち込んだ冷凍精子と阿倍子の卵子の組合せ、そして今回提供してくれた人の卵子と私の精子を組み合わせたものを作って、どちらも細胞分裂を開始してくれたので、2個とも子宮に投入したのですが、片方はすぐ流れてしまいました。そして1個だけが育って、何度か流産の危機はあったものの、何とか6月まで持ちこたえてくれて、京平が生まれました」
 
私は頭の中で考えた。その精子が千里の精子であったとした場合、AB型とAB型の組合せでは、やはりAB・A・Bが生まれる可能性があるものの、O型は生まれない。どちらにしても矛盾が起きないようになっている。
 
「でもそれ、たぶんその誰かの卵子と細川さんの精子を組み合わせたものの方が育ったんでしょうね」
 
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「だと思います。その件に関しては、私も阿倍子も、そう確信しています。DNA鑑定はしないことにしていますから半ば信仰ですけど」
 
「そういうことだったら、奥さんをもっと大事にしてあげましょうよ。少なくとも京平君が2〜3歳くらいになるまでは浮気を我慢しませんか?」
と私は言った。
 
「いや、ほんとにその件は面目ないです」
「どうしても奥さん以外の女性としたくなったら、せめて千里とするとか」
 
と私は言ったのだが、
 
「させてくれないんですよ!」
と細川さんが言った。
 
「私が他の女性と結婚している限り、絶対にセックスには応じられないと言うんです、あいつ」
 
私は吹き出した。
 
へ〜! てっきり千里は細川さんとたくさん寝ていると思っていたのに。でも千里、細川さんと結構密会してるよね!? 密会してセックスしないのなら一体何をしているのだろう???
 
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ちょうどその時、お店の人が「パーティーバーレル2つお待たせしました」
と言って、大きな袋を持って来た。私は「ありがとうございます」と言ってそれを受け取ったが、今細川さんから聞いた話で受けた感動を音楽にしたくてしたくて堪らなかった。
 
細川さんに「何か紙を持っていません?」と尋ねるが、彼が渡してくれた紙はいやに少女趣味のレターペーパーだ。
 
「あ、いや、それ千里がこないだ合宿所に忘れて行っていたものをスタッフの人から預かったのですが、使ってしまってもいいと思うので」
と言い訳がましく言う。
 
恐らくふたりの関係はけっこう多くの人に知られているのだろう。しかしこれ報道機関とかにバレるとスキャンダルになるぞと私は心配した。
 
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ともかくも私は微笑んでそのレターペーパーを受け取り、心の中に沸き上がってくる思いを、音符として書き綴って行った。
 
その曲を私は、数日後に政子が奈緒との合作で作った『たまご』という詩に合わせる楽曲の中核として使用することにしたのである。
 
 
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■夏の日の想い出・たまご(8)

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