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■夏の日の想い出・たまご(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-12-13
 
2029年秋。私がフラワーガーデンズと(まとめて)出会った頃、私は彼女たちに訊いてみた。
 
「このバンドの楽曲って誰が書いているの?」
「ミズキが書いているのと私が書いてるのがあります」
とランが言う。
「メロディアスな曲はミズキ、リズミカルな曲はランが多いですよ」
とフジが言う。
 
「どっちみち編曲はフジがしてる」
とジャスミンが言う。
 
「フジ自身の曲もあるけど、寡作だよね」
「うん。私は年間7−8曲しか書けない。今まで年間作品番号が10を越えたことが1度しか無い」
などとフジは言っている。
 
「音楽の才能の出方もいろいろなんだろうね」
と私は言う。
 
「私は今まで曲を書いたことがない」
とキキョウ。
 
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「あんな凄い作曲家の娘なのに、と言われてるね」
とジャスミンが笑って言っている。キキョウの父は上島雷太先生である。
 
「お父ちゃんがきっと私の分まで作曲の才能持って行っちゃったんだよ」
とキキョウ。
 
「まあ私もほとんど曲を書かない。今まで10曲も書いてないよ」
とジャスミンが言う。
 

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「みんな最初の作曲っていつ頃?」
 
「私は小さい頃から作曲してた。というか、させられていた」
とミズキが言う。
「だから4歳の時に書いた曲が譜面で残っているんですよ」
「凄い。モーツァルトより早い」
「さすが子供の作った曲という感じだけどね」
 
「でもお母さんに英才教育受けてるな」
とキキョウが言う。
 
ミズキはスイート・ヴァニラズのEliseの娘である。
 
「お母ちゃんには殴られたり蹴られたりという記憶ばっか。いつも優しくしてくれていたのが、ノリママ(Londa)だよ」
とミズキは言う。
 
「小さい頃はお父ちゃんって呼んでたんでしょ?」
「うん。本当にお父ちゃんと思い込んでいたから。実は今でもお父ちゃんって呼ぶことある」
と言ってミズキはちょっと嬉しそうな顔をする。
 
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「結局、ミズキの実の父って、教えてもらえないの?」
「母ちゃんは誰だったか忘れたと言ってる」
「うむむ」
「でも私の心の中ではやはりノリママが私のお父ちゃんなんだよ。それでいいことにしてる」
とミズキは言う。
 
「血が繋がっていたとしても、実際ミズキに何も関わってこなかったんでしょ。その人。だったら無関係でいいと思うよ」
とフジが言ったが、私も頷いた。
 

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「私はアイドルにならないかと誘われて、福岡の芸能学校に通うようになった頃に作曲もし始めたんですよね」
とランは言う。
 
彼女は小学5−6年生の間芸能学校で歌と踊りのレッスンを受け、中学1年生でアイドルとしてデビューしている。
 
「譜面とか残してる?」
「レッスンで使ってた五線ノートに、自分で書いた曲も書き留めていたんですよ。だから、その気になったら発掘できると思います」
とラン。
 
「そういうのはいいね。私とか、その辺の紙に書いたのばっかりだから、書いてから何年も経ってから突然出てきてびっくりすることがあった」
 
と私は言う。
 
「『天使に逢えたら』とかも作ってから何年も経ってから出てきたんでしょ?」
「うん。あれは4年くらい行方不明になってたんだよ」
 
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「美しい曲ですよね。ローズ+リリーの美しい曲Best10とかアンケート取ったらまず上位にランクされると思いますよ」
とミズキ。
 
「うん。そういうこと言われたことはある」
 

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「フジはいつ頃から曲を書いていたんだっけ?」
 
「本格的に書き始めたのは中学に入ってからだけど、書くのは小学4年生頃から書いていたんだよね。恥ずかしくて人に見せられないような習作ばかりだけど」
とフジ。
 
「最初に書いた曲の名前は?」
「『卵』と言うんだけどね」
 
「へー!」
「どんな曲?」
 
「うーん・・・」
と言いながらフジはピアノでその「初めての作品」というのを弾き語りしてみせた。
 
「可愛い曲だ」
「二部形式か」
「中学3年の時までの曲は全部二部形式だよ。ロンド形式とか歌謡曲形式とか使い出したのは高校になってから」
とフジは言う。
 
「ケイさんも最初に書いた曲が『たまご』でしたよね」
「うん。私もフジちゃんと同じ小学4年生の時。当時はやはり16小節の二部形式だったんだよ」
 
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「へー」
「それを改訂して、あの名曲が生まれたんですか」
「その改訂のきっかけを与えてくれたのがランだったんだよね」
「えー!? そうだったんですか!?」
 

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2015年8月11日(火)。
 
私は★★レコードで、田中蘭と母の美子、加藤課長・北川係長、そして七星さんと打ち合わせをした。
 
ちょうど1週間前の8月4日に★★レコードの加藤課長が熊本の山村星歌コンサートに行っていて偶然ランに遭遇し、「アイドルにならないか」と勧誘したのだが、私はランの母・美子さんから連絡を受け、加藤課長なら信頼できる人物ですと答え、また加藤さんに私と知り合いだということ言って良いですよと言った。それで加藤さんと私はちょうど遭遇した時に蘭の件について話し合い、取り敢えず一度東京で一緒に会うことになったのである。
 
その日私たちは★★レコードの窓際の応接セットの所で話したのだが、私が行った時、七星さんが別件でこの場所で北川さんと打ち合わせしていた。用事は既に済んでもう雑談モードになっていたようで、私たちが行った時、帰ろうとしたのを
 
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「まあまあ、ケーキくらい食べてから行けばいい」
などと加藤さんから言われ、結局居残ってしまったのである。こういうのもこの世界ではよくあることである。
 
そしてそれがきっかけで、七星さんと蘭とのつながりができることになった。
 
基本的に蘭本人が、こんなチャンス滅多にないから、ぜひアイドルやりたいと言うし、お母さんも、まあ若い内は色々なものに挑戦してみるのも良いだろうと容認の構えであったので、この案件は積極的に進めていこうという方向になった。
 
「へー。じゃケイと田中さんが毎年年賀状のやりとりをしていたんだ?」
と七星さんは驚いたように言った。
 
「まあ生まれた時に立ち会った縁ですね」
と私。
 
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「それ以外に、けっこう九州方面でのライブに招待してもらっていたんですよ」
と美子さん。
 
「私、ケイさんにオールヌードをいきなり見られたみたいで」
と蘭は言う。
 
「まあ洋服を着たまま生まれてくる赤ちゃんは居ないだろうね」
などと北川さんは言う。
 

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話し合いはなごやかに進んだ。最初ケーキと紅茶が出てきたのだが、七星さんが「何か身になるものも欲しいな」などと言ったら、若い人がお使いに行ってきてくれて、ケンタッキーが出てきたし、そのあとピザとかおにぎりとか、最後はラーメンまで出てきて、話し合いは5時間ほどに及んだのである。
 
もっともこの話し合いの大半は雑談である!
 
だいたい芸能界の打ち合わせというのは4〜5時間雑談をしてから最後の30分で話をまとめることが多い(そこで帰りそこねると更に数時間雑談をするハメになる)。
 
この日は最後の方になってから
「じゃ、取り敢えず小学生の内はずっとレッスンを積んでもらって、中学校に進学する時に、東京に出てきてもらってアイドルデビューという線で」
 
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と北川さんが言って、その線で全員了承した。
 
「でも娘ひとりの上京になりますかね」
「お母さん付いてこられます?」
「やはり中学生の娘ひとりでは不安なので」
「もしお仕事変わられるのでしたら、適当な所を紹介しますよ」
と加藤さんが言う。
 
「助かります!」
 
「名前とかは田中蘭のままでいいんですかね?」
と七星さんが訊く。
 
「そうですね。デビューの時にそれはまた検討しましょうか」
と北川さん。
 
「田中という苗字がありふれてるから、何か別の苗字を考えた方がいいかもね」
と私は言った。
 
「福岡までレッスンに通う交通費とかレッスン代は○○プロに出させますよ」
と○○プロの人間がこの場に誰も居ないのに加藤さんは勝手に言っている。
 
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「でもそれ後で返せとか言われませんか?」
と美子さんは心配そう。
 
「そういうことを絶対に言わないのが○○プロの良いところなんですよ。中にはそういうのを借金とみなすプロダクションもありますけどね。○○プロは純粋に投資として処理するから」
 
「私もデビュー前に随分○○プロのレッスンをタダで受けさせてもらいましたよ」
と私が言うと
 
「だったら安心ですね」
と美子さんはホッとしたようであった。
 
「歌手なんて当たるかどうかはほとんどバクチに近いんです。売れたらプロダクションも大きく潤うんだから、売れなかった人への投資もムダではないというのがあそこの考え方で」
と加藤さんは言う。
 
「まあでもデビューして1年くらいしても芽が出なかったら、見切りを付けた方が良いかもね」
と七星さん。
 
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「その時はふつうの中学生に戻ればいいですよ」
と私も言った。
 

私たちは隣接する★★スタジオに移動し、蘭の歌を聴いてみたが
 
「うまいですねー」
とみんな言うほどの出来であった。
 
「小学5年生でこれだけ歌えるなら即デビューさせたくなるほどだ」
と加藤課長は言うが、私も七星さんも北川さんも反対した。
 
「確かに歌の技量はある。でも今この子は無垢すぎる。いきなり芸能界に入れば、その独特の習慣、そして上手い人に対する妬み・やっかみで意地悪されたりして潰される。だから、この世界に慣れる時間があった方が良い」
 
と七星さんは言う。
 
「やはり当初言ってたように小学生の間は福岡あたりでレッスンを積むのがいいです。そうすれば似た年代の友人もできるだろうし、その間もちょくちょくライブのバックとかで踊らせたりして、ステージに慣らすのもいいと思います」
と私。
 
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「集団アイドルとかにいったん入れてという手もあるけど、ああいうのだと、実力も無いのにちやほやされて良くない。それよりもしっかりと訓練受けさせてからの方が、耐性のある歌手になれると思いますよ」
 
と北川さんも言い、やはり当初の方針で進むことになった。また一応週に1回福岡でレッスンを受けさせるとともに、2ヶ月に1回程度は東京にも呼んで、あちこち顔を売るとともに、色々経験も積ませることにした。
 
なお、彼女のプロダクションに関しては、やはり○○プロがいいだろうということで、加藤さんが○○プロの丸花社長に電話して了承を得る。それで北川さんが付き添って、そちらに挨拶に行くことになった。
 

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田中親子が北川さんと一緒に○○プロに移動した後、私と加藤課長と七星さんの3人で雑談的に話した。
 
「まあ○○プロ側の意向もあるだろうけど、彼女がデビューする時は、ケイちゃんとナナちゃんで、曲を提供してもらえない?」
と加藤さんが言う。
 
「そうですね。1年半後に私がまだ芸能界に居たら」
と私。
「1年半後に私にまだ作曲才能があるなら」
と七星さん。
 
「うん。ではその時に」
 
「加藤さん、かなりあの子に入れ込んでますね」
「いや。あの子はかなりの素材だと思うんだよ。今の年齢ではアイドルとして売るしかないと思うんだけど、恐らく10年後はもっとビッグになる気がしてね」
 
「縁は切れていてもう10年以上音信不通らしいんだけど、あの子の父親は流しの演歌歌手だったらしいです」
と私は言う。
 
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「へー」
 
「美子さんのお母さんは薩摩琵琶の師匠だったらしくて、あの子、両親の双方から音楽的な素質を受け継いでいるんですよ」
「なるほどねー」
 
「でもその父親の現状はちょっと気になるな。あの子がデビューして有名になったところで名乗り出てきて、おかしなことされては困る」
と加藤課長は心配する。
 
「そのあたりは丸花さんに言っておけば適当に処理されるのではないかと」
と私は言う。
 
「あの人の人脈は怖いからなあ」
「まあヤクザより怖いみたいですね」
 

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「でもこういう歌手の卵のような子を育てていくのも楽しみだね」
と加藤さんは言う。
 
「ひとつひとつの卵を大事に育てていきたいですね」
と七星さん。
 
「私にしても、醍醐春海とかにしても、加藤さんに育ててもらったようなものです」
「確かにケイちゃんとも、醍醐ちゃんとも付き合いは長いなあ」
と加藤さんは過去を回想するかのように言う。
 
私と加藤さんとの関わりは、松原珠妃の件で動いていた時からなので私が中学1年生の時からで10年半ほどになる。醍醐春海こと千里の場合は高校2年の時かららしく、それでも8年くらいだろうか。私にしても千里にしても、随分と加藤さんから便宜を図ってもらっている。
 
「ところで結局、僕と知り合った時、ふたりとも既に性転換済みだったんだよね?ここだけの話」
と加藤さんは唐突に訊いた。
 
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「醍醐は中学生くらいで性転換していたと思いますが、私はまだ男の子でしたよ」
と私は言ったのだが
「醍醐君も、自分は性転換したのは20歳過ぎてからだけど、ケイはきっと小学生で性転換手術しちゃってますよと言ってた」
と加藤さん。
 
「どちらも嘘ついてるな」
と七星さんは笑いながら言う。
 

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「でも割れてしまう卵が多いよね、この世界」
と七星さんはしんみりと言った。
 
「それはやむを得ないなあ。本人の問題、周囲の問題、またちょっとしたことがファンの反発を招くこともあるし」
 
「親のせいで潰れる子も凄く多いんだけど、あの子の場合は大丈夫そうだね」
と加藤さん。
 
「女手ひとつであの子育てて来たから。色々苦労しているだけにまろやかな性格になったみたいです」
 
「苦労して丸くなるタイプと、苦労してとげとげしくなるタイプがいるよね」
「不思議ですね。似たような体験から、どちらに行くか。もしかしたら紙一重なのかも知れないけど」
 

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夏の日の想い出・たまご(5)

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