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千秋は町の中心部で電車を降りた。あまり長時間ひとつの電車に乗っているのは良くない。
取り敢えずどこかのファーストフードにでも入って腹ごしらえしよう。千秋はあまり考えずに降りたそばにあったエスカレーターで上にあがった。考えてみると、この時既に仕掛けは動き出していたのであろう。
改札を出る。さて、ここはどこだろう?あまり出たことのない改札だ。取り敢えず人の流れにそって歩いてみる。その内見慣れた場所に出るだろう。
やがて人の流れが何度か来たことのあるビルの地下街に吸い込まれた。少し安心する。ここからならどこにでも行けるはずだ。確かここの地下1階にロッテリアが入っていたはず。エスカレータで上がって、フロアを回って、あった。
千秋はハンバーガーと飲み物を頼むと、席に持っていき、ひとごこち付いた。
何の変哲もない風景だ。女の子たちがおしゃべりしている。新聞を読んでるサラリーマン風の男性。荷物をたくさん持ってるカップル。さて、このあとどこへ行こうか?
千秋は店を出ると再び下りのエスカレーターに乗った。地下2階からさっきの改札を通って、もう一度地下鉄に乗ろう。しかし。
降りては見たものの連絡通路が見つからない。あれ?別のエスカレーターだった?
仕方ないので、もう一度上に上がる。え?見たことのない場所だ。さっき入ったロッテリアのあったフロアーとは違う。そんなばかな。「高橋ビル連絡通路」というのを見つけた。これでさっきの所に行ける?千秋はその通路を通った。が知らない場所だ。戻ろう。
しかし千秋は戻れなかった。どんなに移動しても、エスカレーターを上下しても、全然見たことのない場所ばかりで、しかも同じ所に二度と出ないのだ。千秋はこの町にもう4年住んでいる。この地下街もかなり歩いていたつもりだった。それが迷子になるなんて信じられない。
地上に出た方がいい。そう判断すると千秋はとにかく手近のエスカレーターで1階まで昇って、ビルの外に出た。出てみると、さすがに知っている場所だ。私はいったいどの付近をうろうろしていたのだろう。千秋は少しおかしく思えて苦笑してしまった。
できるだけ通り慣れている地下鉄入口まで地上を歩いた。エレベーターに乗る。このまま地下2階へ降りれば地下鉄の改札口は目の前にあるはずである。B2のボタンを押す。ドアが閉まる。エレベータが降りていく。止まってドアが開く。千秋は何も考えずにエレベータから出た。
(1998.8.4)