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■続・受験生に****は不要!!・夏(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-11-03
 
斉藤はこの後もしばしば美夏と春紀に連絡しては、いろいろ情報を持ってきてくれたり、あれこれ便宜を図ってくれたりもした。斉藤の大学法学部時代の同輩、織田さんという人が都内の大手法律事務所に勤めているということで、その人を紹介してくれて、春紀は法律事務所の見学にも訪れた。
 
その時はちょうどその事務所の所長さん・磯島さんが手が空いているということで磯島さんともお話させてもらえた。所長さんは春紀を気に入ってくれたようで、時々顔を出してよと言われたので、春紀は遠慮なく訪問させてもらった。
 
破産の申請や、取り立ての訴訟などの書類をサンプルを見ながら書かせてもらったりもした。実際この手の簡単な事件では、裁判所に出す書類は弁護士ではなく事務員が書いているケースが多い。弁護士は内容をチェックしてサインするだけである。春紀はこの手の作業を「勉強になるので」と言ってやらせてもらったのだが、所長さんは書類1枚につき2000-3000円の報酬をくれた。これは「バイト」としてもずいぶん実入りのよいものとなった。
 
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そこで春紀も秋以降はファミレスのバイトのシフトを最小限の週2回に減らす代わりにこの法律事務所での補助作業に当てるように変えていった。
 
斉藤との出会いは結果的に春紀の生活を大きく変えたのであった。
 

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春紀が法律事務所に出ていると、しばしば顔を合わせる同年代の男の子がいた。柴田初海という子で、最初名前を聞いた時は女の子かと思ったのだが、実物を見たら男の子だった。でも向こうも
 
「春紀って名前見た時は男かと思ったら、どうも女みたいだし。とりあえず着衣で見た感じでは」
などと言っていた。
 
「まあ私の裸は恋人以外には見せないから」
と春紀。
 
「ああ、恋人がいるんだ?」
「実は結婚してるんだけどね。でも『主人』とかは言いたくないし、結婚のことでいちいち驚かれるのも面倒だから、だいたい恋人って言ってる」
 
「ああ。それでいいんじゃない? でも女性が自分の夫のことを人に言う時の適当な言葉が日本語にないのは不便だよね」
「そうそう。英語なら My husband、フランス語ならMon mari と言えるんだけど」
 
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と言いつつ、実際には美夏は my wife, ma femme だけど、自分もwife, femmeだから話が面倒だよな、などと思っていた。
 
柴田君は慶応の法学部2年生ということで、今来年の司法試験を受けるため、かなりの勉強をしているということだった。彼と何となく話すようになったことで、春紀はまた新たな法律の勉強のチャンネルを得た感じもあった。
 

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ところで、美夏は1年生の春に1ヶ月ほどの通学で運転免許を取ったのだが、春紀も免許は必要だと思っていた。しかしなかなかタイミングが難しかった。春紀は夏休みも年末年始も帰省せずにファミレスと法律事務所でバイトをしつつ法律の勉強をしていたし、ゼミで弁論も鍛えていた。
 
結局、1年生後期(2学期)の期末テストが終わった後、春休みになって春紀は合宿方式で運転免許を取りに行った。費用は分割払いである! 実は美夏が免許を取った時の分割払いが2月にやっと終わったので、次は春紀の番ということになったのもあった。ファミレスのバイトはこの機会に「2年生になると勉強が忙しくなるので」と言って退職させてもらったが、春紀は人あたりがソフトなので、重宝していたのにと言われ、もし勉強のほうに余裕がある時は短期間でもいいから声をかけてと言われた。1年間バイトしただけだったのに、退職金までもらった。
 
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バイトでは履歴書の性別で女の方に○をつけ、大学では女学生として登録されている春紀ではあるが、免許は公的な書類なので、法的な性別を書かないとまずいだろうなと思い、自動車学校の入校書類では性別は男の方に○をつけておいた。
 
でも入校後、講義受講のための生徒票を渡されたら、しっかり性別は女にされていた! 春紀は訂正してもらうべきだろうかと思ったが、まあいいかと思いそのままにしておいた。
 
初日に実車教習を受けるため、実習待合室で待っていたら
「あれ?」
と声をかける男性がいる。見ると、法律事務所でいつも会っている柴田君だった。
 
「こんばんは。柴田君もここに通ってるんだ?」
「うん。もし順調に司法試験通っちゃったら免許取りに行く時間がなくなるからこの春休みが最後のチャンスと思ってね。まあ合宿なんだけど」
「へー。私も合宿」
「いつ入校したの?」
 
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「先週。今日見極めをしてもらって、よければ明日仮免試験」
と柴田君。
 
「わあ、がんばってね」
「亀井さんは、いつ入ったの?」
「今日が初日〜」
「へー。落ち着いて運転してね」
「うん。ありがとう」
 
それで柴田君が春紀の持っている生徒票をのぞき込んでいる。
 
「何見てるの?」
「あ、いや確かに性別は女に○ついてるなと思って」
「そうだね。とりあえず自分では女だと思ってるけど」
「いや、ひょっとして亀井さん、女装っ子ってことはないよな、とチラっと思ったりしたんだけど、やはり本当に女の子だったんだ?」
「まあ女装している女かもね。柴田君のも見せてよ」
「まあいいか」
「ふーん。ちゃんと性別は男になってるじゃん。柴田君、もしかして男装してる女ってことはないよな、とチラっと考えたんだけどね」
「そうだなあ。男装してる男かも。とりあえず生理は無いみたいだし」
 
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「男の人に軽々しく生理なんて言葉を使ってほしくないな」
「ふふふ。実は僕は本当は元女だから」
「へー。実は私は本当は元男なのよ」
 

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合宿の宿舎は男女が別のところになっており、春紀はちゃんと?女子の宿舎になっていたので、宿舎付近で柴田君と顔を合わせることは無かったものの、朝晩の食事の場所では、結構顔を合わせたので、柴田君がわざわざ春紀の隣に座って一緒に話しながら食事を取ることもあった。
 
「別に口説いたりはしないから、いいよね?」
「口説かれてもなびかないから平気」
と最初に言っておいた。
 
ふたりが並んで食事をしていると、同期に入校して知り合いになった他の女子が遠慮して、離れた場所に行こうとすることもあったが、春紀は
 
「透子ちゃん、こっちこっち」
などと呼んで、一緒にご飯を食べたりしていた。
 
「お邪魔じゃない?」
「全然。私、この人とは何でもないから」
と春紀。
「単に同じところでバイトしているだけだよ」
と柴田君も言う。
 
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「へー。そうなんだ?」
 
そんなことを言いながらも、最初やや遠慮がちにおしゃべりしていた透子や、同様に同日入校で意気投合した月子なども、すぐに、どうもふたりは本当にただの友達関係のようだと判断して、その後は遠慮せずに寄ってくるようになり、結果的には柴田君は透子や月子ともよく話していた。
 
「なんだ。透子ちゃんも、月子ちゃんも、彼氏いるのか」
「うん。ごめんねー」
「春紀も売約済だしなあ、誰かフリーの女の子はいないだろうか?」
「**ちゃんや、**ちゃんは彼氏居ないって言ってたけどね」
「お茶とかに誘ってみようかな」
「時間があったらね」
 
「そうそう。合宿コースって全然時間が無いよね」
「空いてる時間も自習室のパソコンで問題に答えたり、教科書読んだり」
「近くの白糸の滝を見学に行けます、なんて入校案内には書いてあったのに、とても3時間とか掛けて滝を見に行く余裕なんて無いよ」
 
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柴田君は順調に一週間後に卒業して行ったが、第二段階の試験コースのルートを書いた資料などを春紀たちに渡してくれたので、春紀たちはそれを同期の女子の間にコピーして配っておいた。卒業試験のコースは建前上はその場で地図を渡されて目的地を告げられルートを自分で考えなければならないことになってはいるものの、実際にはこうして代々、合宿生の間で地図が受け渡されているようである。
 
そして春紀もその一週間後に無事卒業してグリーンの帯の運転免許を手にすることができた。春紀の生徒票が性別女になっていたので、運転免許証もおそらく性別女のまま登録されたかも知れないとは思ったが、免許証には性別の記載が無いので確かめるすべはない。
 
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なお、透子は春紀と一緒に卒業したが、月子は仮免試験を1回落として1日遅れの卒業になったようであった。
 

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6月上旬。東大では進振の志望先登録が行われる。むろん春紀は法学部、美夏は薬学部薬学科を登録した。
 
なお法学部は内部で更に第1類・私法コース(法曹志望)、第2類・公法コース(公務員志望)、第3類・政治コース(政治学の研究)に分かれるが、各々の定員が無く、途中でのコース変更もできるので、進振の段階では問われない。むろん、春紀は第1類に進学するつもりである。
 
なお薬学部は以前は薬学科・製薬化学科の別があったのだが、数年前に統合されて薬学科のみになっている。(ちなみに薬学科が6年制になったのは2006年である)
 

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6月のある日、春紀が大学から戻ると、美夏が布団に入っている。
 
「美夏、どうしたの? 風邪でも引いた?」
「ううん。大丈夫だよ」
 
と言って美夏は布団から半身を起こしたが、上半身に何もまとっていない。
 
「今日は何の日か覚えてる?」
と美夏が訊く。
 
「忘れてた!ごめん。美夏の誕生日だ。誕生日おめでとう!」
「ありがとう。20歳になっちゃった」
「美夏、おとなだね」
 
「私をおとなにしてくれない?」
 
春紀は美夏を見つめた。
 
「いつも指入れてるじゃん」
と春紀は言う。
 
「おちんちん入れてよ。私、まだ誰のおちんちんも自分の中に受け入れたことがないの」
 
「ごめん。私、もうおちんちん戻さないかもしれない」
と春紀は正直な気持ちを言う。
 
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自分でも最初の内はやがて男に戻るつもりだった。でももうとても戻れない気分なのだ。一応自分のおちんちんは桜木先生の病院でずっと冷凍保存されてはいる。その気になったら、いつでもくっつけてあげるよとも言われてはいる。しかし・・・。
 
「じゃ、春紀、女の子になっちゃうの?」
「女の子のままでいい気がしてきつつある」
「私たちの関係はこのまま?」
 
それを言われるとつらい。
 
「ごめん。美夏、どうしても男の子がいいんだったら、私を振って、他の男の子を探して」
 
美夏はふっとため息をついた。
 
「そうなんだろうなとは思ってたけどね」
「ごめんね。離婚した方がいい?」
「離婚するなら慰謝料1億円」
「そんなに払えないよ」
 
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「いいの。体で払ってもらうから」
と言って美夏は布団から完全に出て立ってこちらを見た。
 
「えーーーー!?」
と春紀は声を上げた。
 

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翌日の明け方、ふたりは中央道のサービスエリアで朝食を取っていた。美夏がレンタカーを借りていたので、それでドライブしてここまで来たのである。大半を美夏が運転したが、ひとつ前のPAからここまでは春紀が運転してきた。ただし駐車枠にきちんと駐めるのができなくて、美夏が修正してくれた。
 
「私たちって、どこに向かっているんだろう?」
と美夏が唐突に言った。
 
「わからないけど、私はずっと美夏と一緒に居たい」
と春紀は言う。
 
「そうだなあ。とりあえずあと5年くらいはつきあってもいいか」
「5年したら離婚する?」
 
「またその時考える。私もやっとバージンを卒業できたし」
 
そんなことを言う美夏の横顔を、春紀は愛おしい気持ちで見つめていた。
 
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入口から男性2人組が入ってくる。何気なく目をやったら、片方は柴田君だ!
 
目が合ったら、こちらに寄ってきた。
 
「なんか最近よくあちこちで遭遇するね」
「おはよう、柴田君」
 
「可愛い女の子だね。紹介してよ」
「こちら、私のパートナーの美夏」
 
「もしかして結婚してるって、この子と?」
「うん」
 
と言って春紀は満面の笑顔で柴田君を見る。
 
「女の子同士だったのか!」
「そちらは?」
 
と春紀が訊くと、柴田(初海)君はちょっと照れたような顔をした。
 
「こちら僕のパートナーの令次。同じ慶応だけど、こいつは文学部。まあ実は僕たちも結婚してるんだよ」
「へー!」
 
なんだかその彼氏の方もちょっと照れている雰囲気。優しい雰囲気なので照れるとむしろ女の子っぽい感じになる。
 
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「いいんじゃない?男同士でも」
と春紀は言ったが、結婚しているのに自動車学校では女の子ナンパしてたのか〜?と思ってあきれる。でも男の人ってそんなものなのかなあ。でも要するに彼ってバイなんだ!
 
「いや、なかなか理解してくれる人がいないから、ふだんはただの友達ということにしてるんだけど」
 
「見れば一目瞭然ですよ」
と美夏が言う。
「それは同類の人からは言われるな」
と令次君。
 
4人を包み込むように初夏の朝の暖かい風が吹き込んできた。
 

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