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■続・受験生に****は不要!!・夏(4)

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母は春紀を18歳で産んでいる。しかし23歳の時から父は海外に出たまま一度も帰国していない。今母も38歳。子供を産める年齢としてはタイムリミットに近い。ずっと子供がほしかったのかもしれないなと春紀は思った。
 
「私、男性器を取り外したままだから、このままだときっと私に子供はできないだろうし、来年の6月に生まれる私の妹か弟がやがて普通に結婚したらお母さんにも孫ができるんだね」
と春紀は言った。
 
しかし美夏は言う。
「そんなことないよ。春紀、男性器は取り外しちゃったけど、今女性器を取り付けてるじゃん。だから、春紀もお母さんの孫を産めるよ」
 
「私が産むの?」
「こないだも言ったじゃん。ちゃんと産めるはずって」
 
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「待って。でもこの女性器って元々は私のものじゃないから、この女性器で妊娠しても、それって遺伝子的には私の子供でもないし、お母さんの孫でもないよね?」
 
春紀がそんなことを言うと
 
「ふふふふふ」
と美夏は笑う。
 

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「何?」
「それが君の子供、お母さんの孫を産む方法があるのだよ、春紀君」
「どうやって?」
 
「春紀の男性器も冷凍保存されているけど、精子も冷凍保存されてるでしょ?」
「あ、うん」
 
春紀はオナニーしようとしていたところを母に見つかり、病院につれていかれて男性器を切断されてしまった。その時、春紀の男性器には今射精する直前であった精液がたっぷり詰まっていた。春紀の男性器を切断した桜木医師はその精液をきちんと保存した他、更に手術直前に麻酔で眠っている春紀の前立腺を刺激して、いわゆるトコロテン射精までさせてその精液も保存している。これらの精液は6つの容器に分割して保存されているので、春紀は男性器を体に戻して男性として子供を作る以外に、実は人工授精を6回試みることができるのである。
 
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「だからね。私の卵子に春紀の冷凍精液を人工授精させて、それを春紀の子宮に入れればいいのよ」
 
「えーーー!?」
 
春紀は美夏の言う言葉の意味がすぐには分からず、結局紙に絵を描いてみた。
 
「それって、私の子供でもあり、美夏の子供でもあるんだ!?」
「そうだよ」
「だからお母さんの孫なんだね!」
「うちのお母さんの孫でもある」
 
「でも私、妊娠維持できるだろうか?」
「まあ失敗した時は失敗した時で」
 

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美夏が桜木医師に電話をすると、桜木医師は
 
「うん、確かにそういう妊娠は可能」
と言った。
 
「ふつうの代理母って、自分と遺伝子的に全く無関係の胎児を妊娠するから、けっこうそこでトラブりやすいんだけど、この場合は、春紀ちゃんは自分の子供を妊娠するから、むしろ問題が起きにくいよ」
 
「じゃ、試してみていいですか?」
「うん。いつでもおいで」
 
その会話を聞いて、春紀が慌てる。
 
「ちょっと待って、それ今やるの?」
「もちろん」
と美夏。
 
「今受精したら出産はいつですか?」
と美夏は電話の向こうの桜木医師に尋ねる。
 
「春紀ちゃん、美夏ちゃん、前回の生理はいつあった?」
「先月の26日です」
「ふたりとも同じ日?」
「なんか同じ日に来ちゃうんですよ」
「女の子同士が一緒に暮らしてたらそうなるのさ。だったら、ふたりとも明後日くらいに排卵があるね。だったら明日そちらに私行くから。それで美夏ちゃんから卵子を採取して春紀ちゃんの精子と受精させて、春紀ちゃんの子宮に投入する。そしたら出産予定日は来年の8月2日」
 
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「卵子のすげ替えをするんですね?」
「そうそう。でも卵子の採取って、とっても痛いよ。かまわない?」
「平気です」
と美夏は明るく言った。
 
そして電話を切ってから美夏は言った。
「これで来年の8月には春紀もママになるね」
 
春紀は思いも寄らぬ展開に何を言ったら分からない感じであった。こんなに脳みそがパニックになったのは、唐突に男性器を切断されてしまったあの日、そして突然女性器を移植されてしまったあの日以来だ!
 

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桜木医師は実際にはその夜、車を飛ばして東京に出てきたようである。翌朝早々にお茶の水駅前で落ち合って、ふたりを車に乗せて、都内の某産婦人科医院に連れて行った。まだ病院が開く前であるが、院長の春川先生という女性が3人を迎え入れてくれた。
 
「ここの施設を借りるのよ。ここの先生は私のジョンズ・ホプキンス大学時代の同期なんだ」
 
最初に春紀のエコーを取り、念のため唾液と子宮内粘膜まで取って排卵のタイミングが近いことを確認した。
 
次に美夏の卵巣から卵子の採取を行ったのだが、麻酔を掛けてやっているのにベッドの上の美夏は凄く痛そうで、春紀はずっと手を握ってあげていた。ひゃー、これ自分ではやりたくないなと春紀は思った。
 
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その後、試験管の中で、解凍した春紀の精液(最初に取ったもの、ファースト・ブルー(first brew)だねと桜木医師は言った)を受精させた。
 
顕微鏡で受精を確認した上で、受精卵を2個、春紀の子宮に入れる。今度は春紀がベッドに寝て、そこに注射器を使って入れる。ちょっと変な気分だ。
 
「これでOK」
「これで妊娠します?」
「運だね」
「2個入れましたけど、双子になる可能性は?」
「一般に、体外受精の妊娠成功率は2割くらいと言われる。でもそれは元々不妊治療していて、卵子や精子にそもそも問題があるケースが多く含まれているんだ。君たちは卵子・精子自体はおそらく健康。だから成功率は50%くらいだと思う」
「それで計算すると、双子になる確率が25%、妊娠不成功の確率が25%、1個だけ着床する確率が50%になりますね」
「さすが理系女子。即答で暗算したね」
 
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「でも私、今妊娠しちゃったら、勉強の方はどうすればいいの?」
と春紀は不安そうに言う。
 
「普通に学校に行っていればいいですよね」
と美夏。
 
「うん。まあ土方のバイトとかはしないでね」
「そんなのはしません」
「体育の授業くらいは出てもいいけど、トライアスロンやったりチョモランマ登山とかはしないこと」
「しません!」
 
「妊娠したら、12月くらいにつわりが来ると思うから」
「きゃー」
 
「これで母娘同年出産になりますね」
と美夏が言う。
 
「うん。本当は母と息子だけどね」
「まあ母の出産はいいとして息子が出産するというのは珍しい話ですね」
「うん。すごーく珍しい」
 
「ね、桜木先生」
と美夏が訊く。
「何?」
「春紀のお母さんの子供の父親って誰なんですか?」
「聞いてないの?」
「ええ」
「春紀のお父さんに決まってるじゃん」
「えーーー!?」
 
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10月の26日に生理が来たので、次の生理は11月23日くらいの予定だったが、春紀も美夏も生理は来なかった。
 
「私が妊娠したんだったりして」
と美夏が言うので。春紀はまじめに悩んでいた。
 
12月に入ったところで桜木医師の指示に従い、人工授精を行った春川医院に行く。
 
「おめでとう、妊娠してますよ」
と言われる。
 
美夏は「やった!」と喜んでいたが、春紀はまだ戸惑いを隠せないでいた。
 
「子供は1人ですか?2人ですか?」
「あんたたち、2人だったら2人とも育てる?それとも減数する?」
「2人とも育てます」
「だったら、多分2月くらいになったら分かるから、教えてあげるよ」
「よろしくお願いします」
 

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春紀と美夏は診断結果をすぐ桜木医師に報告した。
 
「やったね。レスビアンカップルはこうやって子供を作れるんだよねー」
「ゲイカップルは厳しいですね」
「子宮がないから難しいね」
 
「今回は私の卵子を使いましたけど、もし春紀の卵子を使ったらどうなるんでしょう?」
「妊娠は可能だと思うよ。春紀ちゃんの排卵タイミングで春紀ちゃんの精子を子宮内に投入すればいい。体外受精もしなくていいから簡単」
 
「それって父親も母親も春紀になるんですか?」
「遺伝子的には父親だけ。母親はその卵巣のドナーだよ。だって卵子って、女の子が生まれた時に既に全部卵巣の中にできていて、あとは1個ずつ成熟して出てくるだけだから」
「あ、そうか。卵巣移植って、卵子ごともらうんですね。精巣を移植した場合の精子はどうなります? 精子は日々生産されるものでしょ?」
 
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「私も確かではないけど、やはりドナーの遺伝子を引き継ぐと思う。精子を生産するシステムがドナーの遺伝子を持つ細胞でできているから」
「なるほどですね」
 

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春紀が妊娠のことを母に連絡すると母は
「すごーい。妊娠しちゃうなんて、春紀ほんとに女の子になったんだね。来年一緒にお母さんになろうね」
などと、うきうきした声で言っていた。
 
うーん。いいんだろうか?と春紀は悩む。うちのお母さんもホント適当だよなあ。でもお母さん、やはり私を女の子にしたかったんだろうな、などとも春紀は思った。
 
一方、美夏が春紀の妊娠のことを自分の母に報告すると
「あんたたち、ちゃんと避妊してなかったの?」
などと言われる。美夏の母は、てっきり美夏が避妊に失敗して妊娠したのだと思ったのである。
 
「違うよ。計画的な妊娠。だって司法修習生やったり、新人弁護士やってる時に妊娠なんてできないから、今のうちに子供作っちゃうのよ」
 
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「司法修習生??」
「あ、妊娠したのは私じゃなくて春紀だよ」
「嘘。春紀ちゃん、妊娠できるの?」
「まあ、世の中にはいろいろ不思議なこともあるから」
「で父親は誰よ?」
「私だけど」
「あんた精子あるの〜?」
 

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「でもさあ、これ受精卵を私の子宮に入れる必要性あったの? 美夏の子宮の方が安定して育たない?」
と春紀はやっと、そういうことに気づいて美夏に尋ねた。
 
「だって私勉強があるもん」
と美夏は言う。
 
「私だって勉強があるんだけど!?」
「まあ、できちゃったものは仕方ないから、春紀、ちゃんと産んでね」
 

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春紀はいつも出ている弁護士事務所で、直接の上司にあたる戸川弁護士にも自分の妊娠のことを話した。
 
「在学中に妊娠しちゃうなんて大胆だね!」
「今の予定だと、8月上旬に出産なんです。ですから口述試験は出産後になりますから」
「ほほぉ、口述試験を受ける気満々なんだ?」
「はい。ですから、こちらでのバイトもできたら、そのまま続けさせてください」
「うん。体調的に支障がなければ、こちらは全然問題ないよ」
「ありがとうございます」
 

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初海君と令次君も話を聞くと
「大胆だね」
と言った。
 
「精子は誰かからもらったの?それとも生でやった?」
「人工授精ですよ」
 
「いいなあ。僕たちは子供の産みようがないから」
と初海君は言う。
「初海に子宮を移植してそれで産んでもらうなんてどうだろ?」
と令次君が言うと
「産むなら令次だな」
と初海君は言った。
 

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マンションに帰ってから斉藤さんにも話すと「えーー!?」と驚いていた。
 
「春紀ちゃん、実はバイだったの?」
「違いますよ。私は美夏ひとすじ。人工授精したんですよ」
「でも精子は?」
「友人に頼んだんです」
「どうせなら、僕に言ってくれたらよかったのに。精子なんて捨てるほどあるのに、というか毎日捨ててるのに」
 
2年くらい前の春紀なら、そんな言葉を聞いたら恥ずかしがっていたかもしれないが、さすがに20歳にもなると耐性ができている。
 
「うふふ。その精子さんが捨てられずに活用される日が来るといいですね」
と春紀は言っておいたが、お茶を入れてくれた藤村さんは
 
「和ちゃん、精子余ってるなら、僕にもちょうだいよ。人工授精じゃなくて直接注入してくれてもいいよ」
などと言う。
 
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「真樹、おまえだって精子持ってるだろ?」
「だって和ちゃんの赤ちゃん産みたいもん」
「おまえ、産めるの?」
「和ちゃんのお嫁さんになりたいから夜這い掛けようとするのに、和ちゃんたら夜中は鍵をしめてるんだよね」
「だから俺はホモじゃねぇってのに!」
 
春紀たちの貞操が危ないからと言って斉藤さんはこのマンションに引っ越してきたのだが、これでは多分斉藤さんの貞操の方がよほど危ないなと春紀は思った。
 

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大学の友人たちも一様に春紀の妊娠に驚いた。
 
「凄い。在学中に妊娠か」
「それ、うっかりじゃなくて、わざとなんだ!?」
「休学して出産するの?」
「ううん。うまい具合に出産予定日が8月なんだよ。だから夏休み中に産めるから全然問題ない。司法試験も論文式が終わった後だし」
「大きなお腹かかえて、司法試験受けるんだ」
「当然」
「偉い、がんばれ!」
 
「だけどあれだね」
と彰子が言うので
「何?」
と訊く。
 
「いや、実はさ、春紀って女の子にしか見えないけど、実は男の娘なんじゃという噂もあったけど、妊娠したってことで、それはガセだったことが証明されたね」
 
「そうだなあ、とりあえず今のところ、私は男の子じゃないよ」
と春紀は笑顔で言った。
 
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