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(C)Eriko Kawaguchi 2014-11-02
鶴田春紀は高校受験を目指していた中学3年の冬休みに勉強もせずにおちんちんいじりばかりしていると母親から叱られ、おちんちんを手術で取られてしまった。
「何度言ってもやめないんだったらもう、おちんちん取っちゃうしか無いわね」
などと言われるので、単に警告かと思ったら本当に取られてしまった!
それで高校3年間は女子の制服を着て、女子高生として通学した。しかもその間に、喉仏も削られてしまったし、女性器の移植手術まで受けてしまった。
春紀は自宅から離れた高校に通ったので、下宿をしたのだが、それは中学時代の同級生・亀井美夏の伯母さんの家で、美夏もまたそこに下宿していた。ふたりは高校自体は別の学校であったが、隣り合う部屋で暮らし、3年間一緒に勉強をしている間に、「女同士」ではあっても、愛し合うようになっていった。
最初は春紀の「女体」は大学に合格するまでで、合格したら(冷凍保存されている男性器を再接合して)男の身体に戻してもらうという話だったし、本人もそう言っていたが、美夏は多分春紀は男に戻るつもりは無いのではなかろうと思うようになっていった。そのことでイライラしたりもした美夏だったが、次第に女の身体ではあっても自分を愛してくれる春紀のことを愛おしく思うようになり、また「レスビアン・セックス」にもはまってしまった。
そして春紀と美夏はそろって東京大学に現役合格した。春紀は文Iで法学部への進学を目指し、美夏は理IIで薬学部を目指している。そしてふたりは入学前に結婚した。
結婚式に出席したのは、春紀と美夏、双方の母、春紀の姉の優子、美夏の伯母の遼子、もうひとりの伯母、春紀の母の親友ということにしている桜木ユミ医師、春紀の高校の友人である西川玲子(京大に合格したのだが、わざわざ京都から来てくれた)、美夏の高校時代の友人の高橋慶子、バイト先で知り合った春紀・美夏共通の友人である飯島早苗、といった面々である。
最近は何かと相談相手になってくれている前島和宏も誘ったのだが、遠慮しておくと言ってご祝儀と祝電だけくれたので出席者は全員女性になった。
新婚旅行はしなかったが、結婚式の日は市内のホテルに泊まって初夜を楽しんだ。
ところで、今日では多くの大学で「教養部」が廃止されてしまったが、東大は現在でも教養部制度を維持している。昔の多くの大学では大学入学後1年半は教養部で学び、後期2年半は専門課程で学ぶ方式だった。東大の場合、教養課程は2年間になっており、法学部の場合、教養部の文科I類で2年間一般教養科目を勉強した後、法学部に進学して2年間専門科目を勉強するシステムである。
ただ実際問題として、東大など帝大クラスに合格するレベルの学生たちにとって教養部の授業は高校受験よりもレベルが低い内容も多くとても退屈であり、時間の無駄と考える学生も多い。そのため東大でも教養部を廃止すべきという意見は根強い。
教養部から専門課程への進学は、希望と成績による選考が行われるが、春紀たちの時代は文Iから法学部へは希望すればよほどのことがない限り進学することができた。
それで、春紀は少しでも余裕のある1−2年のうちに可能な限り学資を稼いでおきたいと考えていた。しかし美夏は「バイトに終始したら何のために大学に行くのか分からない」と言い、取り敢えず夏休み前までには基本の六法(憲法・刑法・刑事訴訟法・民法・民事訴訟法・商法)の条文くらいは暗唱できるようにし、コンメンタール(判例などを挙げた法令の解釈本)も熟読するように課題を出した。
婚姻届けを出す時、ふたりの姓は美夏の方の姓を選択した。春紀がいっそ苗字を変えた方が、中学時代までの「鶴田春紀」を知っている人に遭遇しても大丈夫だからということで、そう決めたのである。そもそも母が春紀を「お嫁さんにしたい」と思っていたふうなのもそれを後押しした。実際結婚式ではふたりともウェディングドレスを着たのである。
高校の卒業式から合格発表、入学手続きとアパート探し、そして結婚式、東京への引っ越し、大学の入学式といった流れは慌ただしかった。
「ありゃ〜、持って来た荷物にナプキンが入ってないや。春紀持ってない?」
と美夏が旅行カバンを開けて言う。
「私の方も持ってない。いつも持ち歩いている生理用品入れに3枚あるだけ」
「私もそのくらいはあるんだけどね。じゃ、突然来たら貸してよ」
「美夏が生理来たら、私も来るよ」
ふたりの生理は連動しているのである。女の子同士がいつも近くに居ると生理の周期は「移り」やすいらしい。
それで仕方ないので、他にもいろいろ買い物があるしということで一緒にドラッグストアに行った。
「あん、私の好きな資生堂のセンターインが置いてない」
「他のところに行く?」
「ううん。とりあえず他のでもいいから買っておく」
「じゃ、私はいつものユニチャームのソフィで」
「あ、だったら春紀のしばらく貸してよ」
「いいけど」
「だけど生理って、最初来た時は戸惑ったけど、なれてくると結構煩わしいね」
と春紀は言う。ふたりはついでに、洗剤や食品なども一緒に買い物かごに入れていた。
「そうだね。12歳くらいから50歳くらいまで、延々と続くし、そのたびに結構憂鬱になるし」
と美夏。
「なんか生理の前後って自分でも精神不安定になる気がする」
「それは仕方ないよ。ホルモンが変動するから」
「生理って結局何回くらいあるんだろう」
「うーんと、仮に38年間に毎年13回くらいあるなら、13×38で、えっと・・・494回。約500回だね」
2桁のかけ算を暗算でできるところが、さすが理系女子である。(春紀は筆算するか電卓をたたかないとできない)
「そんなにあるのか!」
「でも戦前の女性は10分の1くらいしか生理来てないんだよ」
「嘘? そんなに早くあがってたの?」
「戦前の女性はたくさん子供産んでるから」
「あ、そうか! 妊娠中は生理来ないもんね」
「出産してから1年くらいも来ないよ」
「でも昔って避妊もしてないだろうから、生理が再開したらすぐ妊娠したりして」
「そういうこと。だから、まともに生理が来てたのは、初潮が来てから結婚するまで、そして最後の子供を産んでから閉経するまでの間」
「昔の人って結婚年齢も低いよね?」
「うん。逆に初潮は遅い。そして閉経は早い。だから仮に14歳で初潮が来て16歳で結婚し、2年おきに子供を12人産んだ場合、最後の子供を産むのが39歳。でも42歳で閉経しちゃうと、最後の出産をして生理が再開してから閉経までは2年間しかないから、結婚前の2年間と合わせて4年、50回くらいしか生理は来ていなかったことになる」
「ほんとに今の10分の1なんだ」
「人によっては閉経することで出産サイクルを終えていたと思う」
「むしろそう考えた方がいいかも」
「そして昔の女はしばしばその閉経くらいの年齢で死んでたんだよ」
と美夏は厳しい顔で言う。
しばらくふたりは沈黙していた。
「じゃ更年期以降に長い人生があるのは、いいことなんだ?」
と春紀は言った。
「そうだよ。女を卒業したあとの人生」
と美夏は笑顔に戻って言う。
「私、女を卒業した後で、男の体に戻ろうかな」
と春紀。
「ふーん。まだ男に戻る気あったんだ?」
と美夏。
「あるよぉ、私、一応男の子なんだから」
と春紀は口をとがらせて答えた。
入学式が終わり、授業が始まるという時に、春紀は学生課から呼び出しを受けた。入試の成績が「女子の中で上位」だったので、奨学金がもらえるという話だった。「女子」という所にひっかかる春紀だったが、懐事情が苦しかったので、ばっくれてもらってしまうことにした。
春紀の書類は高校の生徒名簿に女子として登録されていたため、大学でも女子ということになっているのである。
受験時の書類が「鶴田春紀」になっていたのに、入学手続きが「亀井春紀」になっていたので
「お母さん、離婚したの?」などと訊かれる。
「あ、いえ。私が結婚したので」と答える。
「へー!」と驚かれる。
「結婚している人は本当は推薦対象外なんだけど、もう決まっちゃってるから推薦時はまだ未婚だったってことで、いいことにしとくね」と学生課の人。
「ありがとうございます」
「相手も学生さん?」
「はい。理2に入りました」
「ああ、同級生か何か?」
「ええ。高校は別ですが、中学の時の同級生で、ずっと一緒に勉強していたので。でも理2も文1も忙しくてあまりバイトできないから奨学金は助かります」
「うん。その分、勉強は頑張ってね」
春紀が書類を提出して出て行ったのを見送り、学生課の主任は
「しかしあんな可愛い子がもう結婚してるなんてね」と呟いた。
相手はどんな奴なんだろ。理2って言ってたわね....えっと亀井、亀井....亀井美夏?こいつか?? ミカなんてまるで女の子みたいな名前ね。いや、ヨシマサとでも読むのかな。ま、いいか。春紀ってのも男の子みたいな名前だし。最近の親の名前の付け方ってサッパリ分からないわ」
50代の主任は肩を叩いて端末の学籍簿のページを閉じた。そしてその件はすっかり忘れてしまった。
学生課でも本人が言ったように、春紀たちの生活は苦しかった。
一応双方の親から2人で合計12万の仕送りをしてもらっている。そのほか日本育英会(現・日本学生支援機構だが、この当時はまだ日本育英会)の奨学金が各々月額4万円あった。これで月の収入は約20万。
ふたりが住んでいるのは家賃4.7万円のぼろアパートである。バスタブが無くてシャワーだけなのだが、底値だろうと思って借りた。しかしクラスメイトに3.4万などという家賃の所に住んでいる子がいてびっくりした。さすがにそこは風呂が無い。空気を入れて膨らませるビニールプールを買ってきて、やかんでお湯を沸かし入浴しているらしい。根性だ。
そして授業料は半額に減免してもらったのでふたりで4万。ふたりとも少食なので食費はあまり掛からないが、それでも月3万くらい。しかしやはりふたりとも本代がかなりかさむ。法律関係・薬学関係の本の購入費が月6万近く掛かった。洋服代や一部の化粧品(化粧水・乳液など)は共用がきくのでその分、安く済むものの、それでも雑費が月に2〜3万というところで、費用は毎月20万ほどかかる。
つまりバイトをしなければギリギリの生活である。
その中で春紀がもらえることになった月額2万円の奨学金はとても助かったのである。
そこで春紀は美夏に運転免許を取るように勧めた。免許を取りに行くとなればその費用がかかる問題以上に時間が削られる。勉強の時間は絶対に削る訳にはいかないので結果的に免許を取り終えるまではバイトができない。
美夏は渋ったが確かに取るなら1年の内に取っておかないと上の学年になるほど厳しくなるのは目に見えている。
「私もがんばってバイト探すからさ、ローンにすれば月2万くらいの支払いで済むから、何とか払えるよ」
「でも春紀のほうが大事なのでは? 女の子は免許なくてもどうにかなるけど、男の子は免許無いと、仕事に就くのにもバイトでもやばいよ」と美夏は言う。
「美夏が取ったら、そのローンが終わった後で、私が行くよ。美夏の方が運動神経いいから楽に取れるだろうし」
「確かにそうだね」
美夏は100mを14秒代で走れる。春紀は22〜23秒かかる。美夏はクロールで遠泳を何キロも泳げるが、春紀はクロールは10mか15mがやっと。そもそも息継ぎがかなり怪しい。美夏は中学時代は剣道をしていたが、春紀はスポーツ部には無縁であった。
そうか。だから私と春紀と見比べられたら私がタチと思われるのかな、と美夏は初めて少し納得がいった気がしたが、少々不愉快だった。
ふたりが恋人であることを明かすと、みんなそれは受け入れてくれるものの、大抵の人が「春紀ちゃんの方がネコちゃん?」などと言うのである。実際にはふたりの関係では特にどちらが男役というのもなく、相互にお互いの女性器を刺激していたしふたりは、変な道具とかも使っていなかった。
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続・受験生に****は不要!!・春(1)