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■続・受験生に****は不要!!・春(3)

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5月の下旬、春紀はひとりで新宿の町を歩いていて、二人連れの男性に声を掛けられた。
 
「ねえー、君ア○ア○って知ってる?ちょっとモデルにならない?」
 
春紀はア○ア○でよく街頭のスナップなどが載っているのを見ていたので、軽く「いいですよ」と言って付いて行ったら、ホテルに連れ込まれてしまった。今時こんなのに気付かずに引っかかるのは、よほどの、おのぼりさんである。スカウトしている側も付いてくるということは「その気」があるものと思い込んでいる。
 
「じゃ、ちょっと脱いでみて」と男は言った。
「え?洋服着ている所の写真撮るんじゃないんですか?」
 
男たちは顔を見合わせている。
「えっと、これはアダルトビデオの撮影だから、当然裸を撮るんだけどね」
「そんな話、しなかったじゃないですか?」
 
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男たちも、これは本当に知らずに付いてきたのか。今時こんな女の子がいるなんてと思って戸惑っている。
 
「あ、えっと君、可愛いしさ。ちょっと考えてみない?ギャラは10万円あげるし」
「え!? 10万ももらえるんですか?」
 
春紀はそんなにもらえるなら考えてみてもいいような気がした。
 
「どんなのを撮影するんですか?」
「これはレイプものだから。町で男に誘われてホテルに行ったら、無理矢理強姦されちゃうって筋なんだけどね」
「じゃ、強姦される真似をすればいいんですか?」
 
「いや、真似じゃなくて本当にインサートする」
「え!?」
「今時ほんとに入れた映像でなきゃ売れないからね」
「でも、本当に強姦したら、刑法177条の強姦罪になりませんか?」
 
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彼らは顔を見合わせる
 
「いや、君がそれを事前にOKしているという前提だけど。レイプったって演技なんだから」
「でもそれでも違法性が高いですね。本人が同意していたら強姦罪は成立しませんが、対価をもらって性交をするとなると今度は売春防止法違反の疑いがあります。この場合は、売春防止法第五条あるいは第七条または第十一条のどれかにひっかかる可能性があると思いますが」
 

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注意.
 
この場合は単発であり、反復して出演する訳では無いので「不特定」の相手と性交するという条件にはあてはまらず、売春防止法違反にはならないのだが、春紀はAVに無知なので、よく分からずに言っている(ただし実際に単発であっても再出演の意志があったとみなされると違法性が認定される可能性はある)。
 
またそもそも春紀は戸籍上男性なので裁判になった場合、春紀と男性との性交が法的な意味では性交とみなされない可能性がある(もっとも国内では例がないが韓国では性転換した女性への強姦が通常の女性への強姦と同等と認定されて有罪になった例がある。しかしこの付近は裁判してみないと分からない)。
 
なお、職業的AV女優・AV男優の場合は売春防止法第三条違反になるが、この法律には売春行為自体を罰する規定は無く、売春側も買春側も罰せられない。勧誘・斡旋などを処罰する規定があるのみである。これは元々売春をする女性は困窮している女性であり、処罰ではなく保護すべきものという思想が背景にあるためと言われる。ただし法律家が売春をした場合は、罰則はなくても法律違反である限り、倫理上の問題を追及されるのは確実である。
 
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男達はまたまた顔を見合わせている。
 
「あんた、まさか婦警さん?」
「いいえ。ただの法学部の学生です」
 
男達は苦い顔をした。
 
「いや、済まなかった。この話は無かったことにしよう。これ、あげるから君も僕たちとは会わなかったことにしてくれない?」
と言って、男は1万円札入りのポチ袋を渡そうとした。
 
「え?お金ですか?それは不要ですよ。私は弁護士の卵ですから、クライアントの秘密は守ります。守秘義務が守れないで法律家はできませんから。それにまだ正規の弁護士の資格は取っていませんから、報酬を貰うと弁護士法72条に違反します」
「そ、そう?」
 
「じゃ帰っていいですね?」
「あ、どうぞ、お帰り下さい」
 
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彼らは深くおじぎして春紀を送り出した。
 

その翌日、美夏が新宿の町を歩いていたら、ふたり連れの男たちに声を掛けられた。
 
「ねえー、君ア○ア○って知ってる?ちょっとモデルにならない?」
「ふーん」
 
と言って美夏はふたりの男を見た。趣旨は何となく「分かった」。が東京に出てきて初体験だし、しばし付き合ってみるかなと思う。でもなるほどね、ア○ア○って知ってるか?と言っただけで、ア○ア○の記者だなんて一言も話してないもんね。
 
「でも今日は暑いね。アイスコーヒーでも飲まない?」と美夏は言った。
「あ、じゃそこのカフェにでも入ろうか」
 
と言って男達は近くのカフェに入る。アイスコーヒーを3つ注文して飲みながら話す。
 
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「お姉さん、物わかりが良さそうだね。で、どう?君可愛いからギャラ8万出すよ」
 
美夏は彼らが春紀には10万出すと言ったのを知らないが、知ったら憤慨する所だ。
 
「内容は?」
「レイプものなんだけどね」
「ふーん。でもそれってインサートは真性?」
「真性。うちは真性以外は撮らない」
 
「うーん。興味は感じるけど(だって入れられること永久に無いし)、やっぱりパスかなあ。私恋人がいるから悪いし」
「そう?でも1回くらい、いいじゃん。ちゃんとコンドームは付けるから」
「へー。付けるんだ」
「妊娠させて裁判沙汰とかにはしたくないし、病気感染も怖いじゃん」
「案外しっかりしてるのね」
「じゃ、やってみる?」
 
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「うーん。。。。やっぱりパスかなあ。ごめんね。あ、これアイスコーヒー代」
と言って、美夏は500円玉をテーブルに置いて立とうとする。
 
が男のひとりが美夏の手をがっしり掴んだ。
 
「そう言わないでさあ。君ほんとに可愛いから特別に10万だしてもいいや」
「離して」
「男優さんうまいから、彼氏との夜の生活にも役立つかもよ」
「ああ。なるほど。でも手を離して」
「ストーリーとしてはレイプだけどさ、実際には充分濡れたの確認して入れるから痛いことないよ」
 
「ね。。。離してくれないと、刑法第208条・暴行罪が成立するよ」
 
男の顔がピクッとする。
 

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「あんた、まさか婦警さん?」
「ううん。でも私の恋人が法学部の学生だからね、しょっちゅうそばで法律の話されてるから、私も少し覚えてるのよね。何の罪が何条かなんて、暗記の手伝いしてたから、こちらまで覚えちゃったよ」
 
法学部の学生?彼らは顔を見合わせて昨日の女の子のことを一瞬いやーな思いで連想した。
 
「お見それしました。どうぞ、お帰りください」
「あ、そう。じゃあね」
 
「あの、これは少ないですが、こういうことは無かったものと思ってください」
と言って、腕を掴んでいた方の男が1万円札入のポチ袋を渡す。
 
「あら、素敵ね。え?1万円も。悪いわね。ありがとう」
と言って、美夏は出ようとしたが、踏みとどまった。
 
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「しまったー。私罪を犯すところだった」
「へ?まだ何か?」
 
「だって、恋人が法学部の学生なんだからと言って、それで何もせず1万円もらっちゃったら、それって私があなたたちを恐喝したことになるじゃない。刑法249条恐喝罪。危ない、危ない。でもこの1万円は今私確かに受け取っちゃったからな。今から返しても罪は消えないんだよな。そうだ、ねぇ、その映画にレイプされちゃう子の友達とか出ないの?その役やってあげるよ」
 
「えーっと、そんな役は無いんですが.....」
「サービスでパンチラくらい写させてあげるからさ」
「パンチラですか?うちの映画は過激さが売り物なので、スカートの中を盗撮するような感じだったら」
 
「うん、そのくらいいいよ」
「では、少しセクシーなパンティーなど付けていただければ」
「うーん、それくらいいっか。私も生娘じゃないし」
「分かりました。30分待って下さい。台本を書き直します」
 
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男のひとりがパソコンを取りだして台本の修正を始める。その間にもうひとりの男は町に出て、女の子をスカウトしに行く。美夏はカフェに残って台本を修正している男と、AVをネタにあれこれ雑談をする。美夏が興味津々という感じなので、男は饒舌になっていた。
 
「でも君、ちょっと不思議な雰囲気持ってるね。ひょっとしてレズ?」
「えー?そんなの分かるんだ!」
「君、リバでしょ?」
 
(注.リバ(reversible)とはタチ(男役)・ネコ(女役)のどちらもする人のこと)
 
「すごーい。みんな私を見たらタチですか?って訊くのに」
「そりゃ、僕もたくさんレズの女の子見てるから。今度レズものとか撮らない?」
「ごめーん。パス」
 
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やがてスカウトされてきた女の子と一緒にホテルに移動する。すぐに男優さんも着て、レイプシーンの撮影を始めた。スカウトした女の子の気が変わらないように、最初にレイプシーンを撮ってから、その前のシーンを撮るらしい。実際のレイプシーンを美夏は『きゃーっ』と思いながら見ていた。やっぱ、私このシーンの撮影は無理だったわあと思う。
 
でも男の人ってこんなに激しいセックスするのね・・・・と思って春紀との夜のプレイを思い出す。私たちはなんかお互い包み込むようなセックスだもんなあ。春紀って、もともとレズ向きなのかも知れないという気がした。
 

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ホテルでのシーンの後、町中での撮影、エスカレーターを使ったスカート内盗撮をするシーンの撮影などを終えて、この日の撮影は終了した。サービスでレイプされる役の女の子と抱き合うシーンなども撮った。
 
「いい映画が作れそうですよ。これお礼です」
「さっき貰ったよ」
「いえ、あれだけでは少ないので、これは追加です」
というので袋の中を見ると2万円も入っている。凄い!
 
「じゃ、もらっとこ。さっきの1万と合わせて出演料ね」
「はい、そうです」
「ありがとう。じゃあね!」
 

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春紀は時間が取れる時はよく裁判所に行くようにした。実際の法廷を傍聴して勉強するためである。もっとも、裁判というのはたいていつまらないものである。それほど大きな争いがあるわけでもなく、淡々と審議が進んでいく。法廷推理小説のようにドラマティックではない。というか、全ての裁判があんな感じであったら、検事も弁護士も身が持たない。
 
6月のある日、春紀が深夜のファミレスでバイトをしていると、来客があり、水を持って行った。メニューを渡し
 
「ではごゆっくりお選び下さい。おきまりになりましたらベルでお呼び下さい」
と言って、いったん引き上げようとしたが
 
「あ、和風ハンバーグステーキセット。パン、サラダ付き。それとドリンクバー」
とすぐに注文をする。
 
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「かしこまりました」と言って端末に入力し、メニューを下げる。
 
「あれ、君こないだ裁判所にいたよね?あの事件の関係者?」
「えっと、あの事件というと?」
 
たくさん傍聴しているから分からない
 
「いや、ほら銀座のホステスの窃盗事件」
「あぁ、あれですか。あれは結審しましたね。判決は来月でしたけど、前科も無いし執行猶予が付きますでしょう? あ、私は法科の学生なんで見に行っているだけですよ」
 
「へー。しかし、法科なら忙しくて、こういう所でのバイトは大変なんじゃないの?」
「お金無いから仕方ないです。掃除したり食器の片づけをしながら頭の中で条文の反復したり関連性を考えたりしてますから」
 
「ふーん。刑事訴訟法210条言える?」
「210条というと緊急逮捕の要件ですね。『検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができない時は、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられない時は、直ちに被疑者を釈放しなければならない』第2項も必要ですか?」
 
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「凄いじゃない」
「それは基本的な法律の条文くらい頭に入ってますよ。でもお客様済みません。長時間、お客様と会話をしてはいけないことになっていますので、もうよろしいですか?」
 
「あ、ごめんごめん。他の客の迷惑だよね、済まなかった。あ、名刺あげとくよ」
「では頂いておきます」
 
<東京地方検察庁検事・斉藤和繁>と書かれていた。ふーん。検事だったのか。
 

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