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■続・受験生に****は不要!!・春(2)

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美夏が大学生協を通した割引料金で自動車学校に申し込み、一方春紀はバイト情報誌で、ファミレスのバイトを見つけて面接に行った。ここで春紀ははなっから「女子」としてバイトをするつもりであった。履歴書の性別も女に○を付けている。それで即採用してもらい、勉強に差し支えないよう、深夜時間帯と土日を中心に週4回ほど働くことにした。
 
入学してまもなく、大学の新歓コンパがある。会費が1000円と聞いて、お金のない春紀も、そのくらいならいいかなと思って出て行った。
 
大学1年のクラスは文1(法学部)・文2(経済学部)を合体して第二外国語の選択をベースに35人単位ほどで二十数クラスに分けられている(文1と文2の1学年の人数は750人ほどでそのうち女子は130人程度)。
 
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春紀のクラスは女子は春紀を入れて5人であった。学内の会館を借りて、コンロと鍋を出しスキヤキをしたが、女子は材料を切ったり食器を準備するのにかり出される。未成年のはずなのにビールが用意されている。
 
「でも、未成年者飲酒禁止法で、第一条、満二十年ニ至ラサル者ハ酒類ヲ飲用スルコトヲ得ス、と書かれていますけど」
「堅いこと言わない」
「ビールくらいお酒のうちに入らないよ」
「えーー!? そうなんですか?」
 
とても未来の法律家や政治家たちの卵とは思えぬ会話である。
 

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新歓コンパは盛り上がり、春紀も来て良かったと思った。コンパでは女子は散ってといわれて、あちこちのテーブルに1人ずつ配されて、男子たちとおしゃべりする。さすが東大、みんな頭良さそう、などと思いながら春紀は彼らの話を聞いていた。このあたり、春紀は元々が男子なので、男子たちと話すのは全然問題ない。特に田村君という宮城から出てきた子と、岩津君という佐賀県から出てきた子とは何となく話が合った。どちらも、春紀同様、中学まではあまり目立たなかったものの、高校で頭角を現してきたタイプのようであった。ふたりとも大規模な私立の進学校ではなく、県立高校の出身である。
 
「じゃ、田村君は検事志望、岩津君は裁判官志望なんだ?」
「俺、あまりしゃべるの得意じゃないから、弁護士は無理。顔が優しいから、おまえの顔じゃ検事なんて無理って、高校の先生に言われてた」
と岩津君。
 
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「私もあまりしゃべるのは得意じゃないけど、私には裁判官って無理。死刑の判決なんて書き切れない気がする」
と春紀が言うと
 
「亀井さん、弁護士志望? でもしゃべるの鍛えないと、弁護士はつとまらないよ。死刑確実って犯人の弁護をして、何とか無期懲役に落とすところが弁護士の腕の見せ所だよ」
と田村君は言う。
 
「私、弁護士も無理かなあ」
「そんなことない。鍛えればいい」
「鍛えて改善されるもの?」
「話し下手な人にはよく誤解している人がいるけど、話すのって技術なんだよ。性格の問題じゃないんだ」
「そういうもの?」
 
すると田村君の向こう側に座っていた2年生の片山さんが言う。
 
「亀井さん、ちょっと内向的な雰囲気だよね。そういう人が実は優秀なセールスマンや弁護士になれるんだよ」
「えーー!?」
「確かに、元々がベラベラしゃべるタイプは弁護士には向かない。弁護士って言って良いことと言ってはいけないことをきちんとコントロールできないといけないから」
「そう言われたら、そんな気もしてきた」
 
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「亀井さん、予備校はどこに行ってるの?」
「予備校? いえ、私は現役合格ですけど」
 
「大学に入る予備校じゃないよ。司法試験に合格するための予備校」
「え? そんなのあるんだ。知らなかった」
「司法試験目指すやつはたいてい入っているよ」
 
「あ、でも私お金無いから」
「ふーん。だったら、学内でやってるゼミに顔を出す? 話してやってもいいよ。ただ、最低限の法的な知識はないと話にならないんだけど・・・」
と片山さんは迷ったように言う。
 
「片山先輩、この子は文1の女子の中ではトップ合格だったらしいですよ」
と田村君が言うと
 
「へー。それならむしろ誘いたいな」
と片山さん。
 
トップ合格? そんな話は聞いてなかった。でも田村君はそんな情報をどこで得たのだろう?
 
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そこで春紀は言う。
「じゃ、ゴールデンウィーク明けに良かったら誘ってもらえませんか?それまでに基本の六法の条文を全部頭にたたき込んで来ます」
 
「それだけじゃ足りない。刑法・刑訴法・民法・民訴法・商法の有斐閣から出ているコンメンタールくらいは読んでおかないと」
「読みます」
「よし、それじゃ話してあげるよ」
 

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それで春紀は4月中にそれらの基本的な法律の条文を頭にたたき込む上にコンメンタールを読むことにしたのである。春紀は六法全書の条文を生協でコピーを取り(本当はいけない)、それをいつも持ち歩き、バイトに行く電車の中やファミレスのバイトの空き時間に読んで暗唱できるようにした。覚えたら捨ててしまう(食べる人もいるという伝説もあるが、条文を印刷した紙を食べても記憶には残らないと思う。ドラえもんの暗記パンでもない限り)。
 
昼休みは春紀はいつもひとりで食事をし、そばにコンメンタールを置いて読みながら食事をする姿がクラスメイトたちに目撃されている。同じクラスの女子で彰子なども似たような感じでひとりで食事をしながら文献を読んでいたし、こういう「変人」型の学生は東大には結構いたので、春紀も特に奇異には思われず、同じクラスの女子である定子や安子なども、彰子や春紀が声をかけても大丈夫そうな時は声をかけて、一緒にケーキなど食べに行ったりすることもあった。
 
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「えー? 春紀ちゃん既に結婚してるんだ?すごーい」
「えへへ。実は高校時代も同じ屋根の下で暮らしてた」
「わあ、ふしだら〜」
「一応別の部屋に住んでいて、お互いの部屋に入るのは禁止されてたんだけどね。でもおばちゃんの目を盗んで時々入ってた」
「なるほど、なるほど」
「でもうっかり妊娠したりしないように気をつけなよ」
「うん。大丈夫だよ。ちゃんと避妊してるから」
「きゃー、避妊ってやっぱりアレ使うの?」
「うん。コンメンタール使ってるよ」
 
「ん?」
「コンメンタールでどうやって避妊する?」
「間違った!コンドームだった」
「きっと侵入してきた精子に、ここに入るのは法律違反であると通告して退去させるんだよ」
「言うことを聞く精子だといいね」
 
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ある時は電車の中で、いかにも、か弱い感じの春紀が何かを読みながら無防備に吊り革につかまって立っているのを見て、ひとりの男がムラムラとして、春紀のお尻に触ろうとした。しかし男は触る直前、春紀が読んでいるものが何か法律の条文のようであることに気づき、ぎょっとして、すんでのところで触るのをやめた。「危ない危ない。婦警だろうか?女弁護士だろうか。とにかく関わらない方がいい」と男は思った。
 
そうして春紀はしばしば痴漢の被害に遭わずに済んでいたのだが、そのことを春紀自身は知るよしもない。
 

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バイトの方では、連休中は帰省する学生がいる上にお客さんは多いので春紀はお店から頼まれたこともあり、たくさんシフトを入れたが、その通勤時間が春紀にとってとても良い勉強の時間になった。電車で移動中というのは、物を覚えるのには非常に良い集中のできる時間なのである。
 
そして連休明け、先輩の片山さんに連れられて本郷キャンパスのゼミをやる教室に出て行った。
 
ご存じの通り、東大のキャンパスは教養部が駒場(目黒区で最寄り駅は駒場東大前)、専門課程の多くは本郷(文京区で最寄り駅は本郷三丁目)にある。春紀はこちらに来るのは入学当初の頃に来て以来まだ2度目であった。
 
最初に主宰者の院生・栗原さんから簡単な問答を受ける。
 
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「民法第735条を言える?」
「直系姻族との婚姻禁止の件ですね。直系姻族の間では、婚姻をすることができない。第728条又は第817条の九の規定により姻族関係が終了した後も同様とする」
「その規定というのは?」
「728条は離婚や配偶者死亡による婚姻の終了です。ですからたとえば息子の嫁とは息子夫婦を離婚させても結婚できない。817条の九は特別養子縁組によって戸籍から抜けた場合です」
 
別の院生・吉塚さんから別の質問をされる。
 
「ある男が銀行に押し入り、行員に金を要求したが行員は応じなかった。男は怒って持っていた灯油をカウンターに掛け、火を付けた。これは現住建造物放火罪になるか?」
 
「なりません。カウンターは建物の一部ではなく、そこに置いてある物にすぎないので、その段階ではまだ建物に放火したことにはなりません」
「では、どこまで燃えたら建物に放火したことになるか?」
「その建物の一部とみなされるものです。たとえば天井や壁に燃え移った場合は建物への放火が成立します」
 
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4年生の竹森さんも質問する。
 
「笑っていいともに、よく性転換して女になった人とかが出てきているけど、あの人たちは男性と結婚することは可能か?」
 
「できません。性転換手術を受けて体が女性になっていても戸籍上の性別は変更できないので男性のままです。男性と男性は結婚できないので彼女たちが男性と結婚することは不可能です」
 
(この時期はまだ特例法の施行の遙か前で、性転換しても戸籍の性別は変更できなかった時代である。性転換して戸籍を変更できたのはおそらく1980年のbokeさんのケースのみ)
 
「男性同士が結婚できない根拠は?」
「日本国憲法第24条に、結婚は両性の合意に基づいてとあります。両性と書かれている以上、結婚は男女間でしかできません。民法には実は同性婚を禁止する条文が存在しないんですけどね」
 
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「法的な問題はそれとしてそのような事例について君の見識は?」
「外国では数は少ないですが、同性の結婚を認めている国もあります。公式な結婚でなくてもドメスティックパートナーといった呼び名で事実上夫婦に準じる関係を認めている国もあります。また性転換した人の法的な性別変更を認めている国、法的な制度はなくても訴えに応じて認めた実績のある国はありますので、今後日本でもそのような方向に法的な制度が変更されていく可能性はあると思います。現状のままですと同性で実質結婚している夫婦が共同オーナーであった会社で、たとえば片方が死亡した場合、遺産の相続ができず会社の運営にまで問題が生じる可能性があります」
 
「基本的な法的知識はあるみたいね」
「背景的なこともある程度勉強しているみたい」
「うん。さすが今年の女子トップ」
 
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「なんかぼーっとしている感じなのに、結構落ち着いて話すところは法律家、どちらかというと弁護士向きな感じもする」
「あ、私、もっと慌てろと言われることよくあります」
 
「とりあえず参加を認めようか」
「ありがとうございます」
「ただし今の段階では仮に参加を認めた状態。レベルが足りないと思ったら、以後の参加を断る場合もあるから」
「そうならないよう、しっかり勉強します」
 
「じゃ参加する以上は積極的に発言して」
「はい」
「毎回、交代で30分ほど講義もしてもらうから、順番が回ってきた時はがんばるように」
「はい、がんばります」
 
それで春紀は毎週土曜日の午前中にこのゼミに出席することになった。ゼミの内容は、設定したテキストを使った30分の講義をした後、判例の事例研究をして、その後ディベート合戦をした。くじ引きでチーム分けをして、何かのテーマに関して(たとえば卵が先か鶏が先か、ピカソとダリはどちらが凄いか、など)、お互いに相反する主張をして討論をするのである。このディベート合戦で春紀はかなり弁論を鍛えられることになった。
 
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またゼミ参加者の多くが予備校にも通っているので、そちらでやっているテキストを春紀に見せてくれたりもして、春紀は更に鍛えられていくことになる。
 

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