[*
前頁][0
目次][#
次頁]
あっという間に12月がすぎ、年が明ける。ボクらは最後の追い込みに必死だった。ボクも美夏も、西川さんも充分それぞれの志望校に合格する学力はある。今の時期の勉強はそれをより確実にするための物だ。高校受験の時みたいに急に体調を崩したりしたら、もったいない。
2学期もその傾向が強かったが、3学期はもう授業など無いに等しかった。そして3学期に入ってすぐにセンター試験が行われる。ボクらは万全の体調で試験に臨んだ。ボクはしっかりとした手応えを感じた。美夏も相当いい感触だったようだ。学校が準備してくれた模範解答と比較してみても、ボクにしろ、美夏にしろ満点近い点数を取っていることは確実だった。西川さんもかなりのハイスコアを出していたようだった。ボクらは予定通りの大学に正式に願書を提出した。
2月に入り、本試験が始まった。西川さんは結局5つくらいの大学を受けることにしたらしく、忙しく飛び回っていた。ボクと美夏は大学を絞っているので、残された時間を集中力を高めるのに使っていた。また風邪の予防に外出後のうがいを欠かさなかった。
最初は美夏のK大学だった。2月の頭だったが、美夏の表情が満足げだったから、きっと万全だろう。東大の一次選抜はボクも美夏ももちろん通っていた。前期日程の本試験は25〜26日に行われた。
万一交通機関が止まった時のために都内の試験場の近くのホテルに泊まって受ける人たちもいたが、ボクらは高校受験の時のエアコン事件のことがあるので、逆にそれを避けて早めに伯母さんの家を出て、電車で都内に入った。
試験会場には独特の緊張感がある。しかしセンター試験でも多少の緊張感を経験していたので、その分自分を落ち着かせるのには時間がかからなかった。美夏が「ねぇキスして」と言う。ボクは校舎のかげに入ってディープキスをした。美夏はそれで落ち着けたようだった。
充分に勉強して体調も万全で精神的に落ち着いて受ければ、試験は基本的に楽勝だ。ボクは試験を終えた時点で、もう合格を確信していた。美夏も同様のようだった。
「でもひとつくらい女子大も受験してみたかったな」
とボクは美夏の前でひとりごとのように言った。
「すれば良かったのに」
「実は募集要項をいくつか見てみたんだけど、女であることを証明する書類の提出なんて不要なんだね」
「それは大抵、本人を見れば分かるからね」
「男が紛れ込むことって絶対無いんだろうか」
「大学に合格したあとで、健康診断とかがあるんじゃない?その時に、春紀みたいに身体が完璧に女の子になっていなかったらバレてしまうよ」
「ボクだったらバレない?」
「春紀は大丈夫だって。今からどこかの二次募集でも受ける?」
「ううん、別に。でもさ」
「なに?」
「女子大を受けてみたいと思うなんてボク、もしかして助平?」
「あはは。そうかも知れない。けど....違うな。きっと春紀、自分の女としてのアイデンティティを確立したがってるのよ」
「アイデンティティ?」
「自己同一性と言えばいいのかな。自分自身を今まで男と思おうとしていたのが崩壊してしまって、逆に自分を女とみなし始めているんだよ、春紀は」
「あ、何となく分かる」
「でも焦らなくても最近の春紀は精神的にもほとんど女の子だよ」
それはボクも実は感じ始めていた。
試験の結果が発表される。ボクも美夏もしっかり通っていた。ボクらは4月から一緒に東大の教養学部に通学することになる。ボクは文科1類から法学部を目指し、美夏は理科2類から薬学部を目指す。どちらも国家試験にパスしないと仕事に就けないけど、逆に狭き門故の面白さもありそうだ。西川さんも希望通り京大理学部の物理学科に合格した。
美夏はボクがもう女の子の身体になってしまっていることを母親に打ち明け、それでも結婚する、ということで説得してしまった。彼女の母親も、うすうすそのことには気づいていたようで、思ったより簡単にこの結婚を認めてくれた。ボクはこの3年間、何度も彼女のお母さんには会っている。その雰囲気は女装の男の子には全然見えなかったのだろう。
ボクは改めて美夏のお母さんに会いに行き
「必ず美夏さんを幸せにします」
と誓った。
「春紀ちゃん、小さい頃もよくスカート履いてたもんね。美夏も女の子同士みたいな感覚で遊んでいたもん。こういうふうになったのも自然よね」
と優しく言ってくれた。
「あ、それいつだったか姉からも言われたんですけど、ボク自身は全然その記憶が無いんですよ」
と頭を掻いた。
「それに美夏って昔から男嫌いだったから、ちょうどいいわね」
「ええ、美夏さんの男嫌いはボクも知っています」
とボクは笑顔で言った。
ボクらは4月からの新婚生活のためのアパートを探し、中野区の少し不便な場所にかなり安い家賃のボロアパートを借りた。不動産屋さんにはボクたちの関係は言ってないけど、女友達二人で暮らすんだろうと思ってくれたようだ。そして家が決まると二人ともさっそく学資を稼ぐためのバイトを探し始めた。
美夏は前とは別のファーストフードのチェーンで見付けた。そこは以前の所とは違ってマニュアルが徹底していて、実際に店に配属される前に講習も受けるようになっていた。ボクは同じ外食産業でもファミレスのウェイトレスの口を見付けた。こういう時はやはり女の子は便利だと思った。昨今、正社員になろうとすると、男子でもなかなか無くて女子はほとんど無い、という感じだが、逆にバイトは女の子ばかりで、男の子の仕事はあまり無い。
ボクたちは入学式を前にして、こういうことに理解のある友人だけ(全員女性)を集めて、ささやかな結婚式をあげた。西川玲子や飯島早苗は当然来てくれている。前島さんも祝電を送ってきてくれていた。話し合いの末最初美夏は白いウェディングドレスを着て、ボクは青いウェディングドレスを着てその隣りに並んだ。そして途中のお色直しでそれを交換して着た。体型がほとんど同じなのでこういう真似ができる。二人で一緒にブーケを投げたら玲子が受け取ってくれた。「私、京都に行ったら女の子の恋人探そうかな」などと、ブーケを持ってビアン宣言をしていた。
親族としてはうちは母と姉、美夏の所も美夏のお母さんとお姉さん、ボクらのお世話を3年してくれた遼子伯母さん。ボクの父は勤務先がブラジルから隣のアルゼンチンに変更になっていたが、帰国はどっちみち無理な情勢。出席していない。そもそもボクが女の子になっていることも知らないが、美夏と結婚するという話に電話でおめでとうを言われた。父とは幼稚園の時以来ずっと会っていない。電話で話したのも5〜6回しかないような気がする。
ボクらは結婚式の日に婚姻届を提出。その日は都内のホテルで宿泊して初夜を迎えた。新婚旅行はお金を貯めて夏くらいに行こう、ということにしていた。
ボクたちはホテルに入るとシャワーを浴びたが、疲れが出てそのまま眠ってしまった。夜中にふと目がさめたら、美夏がボクの乳首を吸っていた。お返しに足で彼女のお股を刺激する。次第に目が覚めてきたボクらはダブルスプーンから起きあがって乱れ牡丹、そのままボクが上に乗ってシックスナイン、などなどと体勢を変えながら、お互いの存在を何度も何度も確認しあうように愛し合った。美夏はこの日初めて自分の中にボクの指を入れるよう要求した。
ボクは今までそこには決して何も入れなかった。だから美夏はこの瞬間までは物理的にずっと処女だった。ボクの方はいつも入れられていたけど、美夏のその場所はボクも絶対に入れようとしなかったし、美夏も敢えて要求しなかった。でも結婚した以上、解禁ということなのだろう。本当はボクは自分にチンチンが戻ってきてから、そこにそれを入れるつもりだったのだけど、自分でももう、おちんちんを戻すつもりはなくなっていた。ボクがそっと指を入れて勘でGスポットの付近を刺激すると、美夏はすごく気持ちよさそうにしていた。
「区役所の係の人がさ、あなたは亀井美夏さんですか?と聞くんで、いえボクは鶴田春紀です、と言ったら、え?と言って一瞬見つめられた」
「でも書類に不備は無いもんね」
「うん。都会の役所だから、それで済むんだろうな。たまにこういう人いるかも知れないし。で、だいたい一週間程度で戸籍の作成作業は完了します、ということだったよ」
「春紀が戸籍上男だから、こうやって正式に結婚できて。私たち運がいいね」
「それはそうだね」
「でも春紀におちんちんがあったら、私達こういうことになってなかったかも知れない」
「それもそうなんだよね」
「私、おちんちんの付いている春紀って想像ができないな。ずっとこのままの身体でいてよ」
「いいよ」
「だから、春紀も、もう少し女言葉を覚えない?」
「それは何だか照れがあって」
ボクは頭を掻いた。でも、これを機会に女言葉に切り替えてしまおうかな、という気もし始めていた。自分を「ボク」と呼ぶことに最近少しずつ違和感を感じ始めていたのだ。
「さすがに大学行きながら子育ては大変だから、赤ちゃん作るのは大学卒業した後にしない?」と<私>は提案した。
「うん。赤ちゃんは交互に産もうよ」
「え?」
「春紀も生めるんでしょ」
「でも遺伝子的にはボク...その、私の子じゃないよ」
「あら『私』って言えたじゃない。でも精子は春紀の使うんだよ」
「あ、そうか。....私が父親なのね。複雑。私って遺伝子上の父・兼
・産みの母になるわけ?。あれ、美夏の遺伝子が入ってない」
「春紀の子だったら、私愛情持てるよ」
「待って。美夏の卵子を使って私の子宮に定着させる手もあるよ」
「あ。なるほど。でも春紀、その春紀が持ってる卵子使わなくていいの?遺伝子は違っても、それはもうほとんど春紀のものでしょう?」
「うん。考えてみる」
私たちは少しずつ自分たちの将来のプランを組み立て始めていた。
[*
前頁][0
目次][#
次頁]
受験生に****は不要!!・結(4)