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■受験生に****は不要!!・結(2)

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3年生ではまた成績順にクラスが再編成される。ボクはもちろん3年8組に入れられたが、2年8組から3年8組にそのままあがれたのは約半分だった。女の子のメンツは完璧に寂しくなって、ボクと西川さんの2人だけだった。西川さんは成績も10位前後で安定していて、志望校を京大の理学部に変更していた。そしてボクも志望校を変えようと思っていた。都合良く、3年8組の新しい担任の先生が一人ずつ面談をしてくれることになり、ボクは理3ではなく理1にしたいということを伝えようと思っていた。
 
この3年8組の担任になった松崎先生はここ5年ほどずっと3年生を担当している。進路指導について、かなりの腕らしかった。ボクはちょっと警戒して面談に臨んだ。ところが松崎先生は意外な人物だった。
 
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「理3を理1に変えたい。それは構わないけどどうして?」「実は理3って出した時点では、まさか本当に理3を狙える所まで成績が上がるとは自分では思っていなかったので、適当だったんです。ボクは医者になる気は無いので」
「あぁ、なるほど。では何になりたいの?」
 
ボクは聞かれて詰まってしまった。
「まだ考えてないか。あのね、君はどこの学校に入りたいか、ということより、将来何をしたいのかということを考えるべきだね」
松崎先生は優しく話し始めた。
 
「よく模擬試験の結果表などにね、あなたは何点で偏差値が幾らだから、どこの大学の何学部に入れる、なんてことが書かれているけど、それはおかしなことだよね。大学を入ることの困難さだけでランキングするのは間違っている。例えば水が100cc, 牛乳が90cc, ガソリンが80cc あった時に、これをその量だけで、水100cc, 牛乳90cc, ガソリン80cc の順に役に立つ、なんて言うことはないでしょ。マラソン走った人には水100ccがありがたいけど、イチゴを食べようとしている人は牛乳90ccがあった方が、それを掛けて食べるとおいしい。バイクを走らせたい人にはガソリン80ccが一番ありがたい」
 
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「物はひとつのメジャーでランキング付けるべきものではなくて、自分の目的にあったものを選択すべきものなんだよ。ただ、それで自分の行きたい所が例えば東大の宇宙工学の学科で将来ロケットの開発に関わりたい、という場合に、でも成績がうちの学校の順位で100位くらいなら、これは合格するのは難しい。そうなったら、合格できるように頑張って勉強すればいいということだよね。つまり、大学に入ったあと何を勉強して卒業後何になりたいか、ということを考えれば自然と自分の進路は見えてくるものなんだよ。現在や過去の自分から未来の自分を限定してはいけないね」
 
ボクはそれは自分の性別のことについてもそうだ、という気がした。完全に女の子化してしまっている自分の身体。でも自分が本当に男に戻りたいのなら折角移植してもらったのに悪いけど卵巣は摘出してもらって、男に戻ればいいんだ。でも自分が本当は女の子でいるのが好きなら、このままでいればいい。そして保存している男の子の性器は破棄すればいい。それは自分の生まれた時の性別や現状の性別ではなく、自分の意志で判断すればいいんだ。ボクはようやくそういう考えに辿り着いた。ボクは先生に
「志望校もう一度考えてみます」
と言って最初の面談を終えた。
 
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ボクは進路資料室で職業のガイドブックを丁寧に読んで、自分がそれを一生やっていってもいいと思える仕事がないかと思って探した。その時ボクはいやでも
「男として就職するのか、女として就職するのか」
ということを考えざるを得なかった。世の中、ほとんど男にしか開かれていない仕事もあれば、逆に女でなければやりにくい仕事もあるのだ。「男女不平等な世の中だな」とボクは思った。
 
そんな中でボクは自分の中で固まってきた幾つかの「好み」を整理することができるようになった。
 (1)組織の中で動くタイプの仕事より、実力主義の仕事がいい
 (2)できれば男女関係なく仕事ができる所がいい
 (3)若い内だけでなく少なくとも50歳くらいまでは現役で働ける仕事
 (4)やはり将来の発展が見込めるか、ずっと続いていくことが確実な業種
 
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そういう中で浮かび上がってきた仕事は、教師・弁護士・コンピュータ技術者・通訳・作家・写真家・医者・といったものだった。この内、医者は6年間大学に行かなければならないので却下。教師はコネが無ければ就職先の確保は絶望的と聞かされたのでパス、通訳はうまく仕事を取れるかどうかがかなり不安、作家は学校など関係ないが成功確率が低すぎて、しかも大学は無関係。写真家も大学とは無関係。またコンピュータ技術者はいかにも安定しているように見えるが、実際には世の中で要求される内容が数年単位で大きく変化しているのではなかろうか、というのをボクは古い資料と比較して見て感じた。
 
そういう訳で、ボクの頭の中で「弁護士」というのがひとつの候補として残った。そのことを美夏に言ったら「春紀が弁護士やったら、無罪の人でも有罪にされちゃうよ」とからかわれた。ボクは確かにあまり弁が立つタイプではないかも知れない。でも、必要な技術であれば身につけられるという気もした。
 
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「美夏は何になりたいのさ?」と聞く。
「私は薬剤師になるよ。だから薬学部」
「薬剤師って、あまり就職先無いんじゃない?」
「教師よりはあるかもよ」
「あぁ。今狙っているのはどこの薬学部?」
「白金のK大学」
「おぉ、名門!でも今の美夏の成績なら楽勝だよね?」
「うん。でもね、密かに東大の薬学部もいいな、という気もしてるんだよね」
「薬学部はもしかして理3?」
「理2が多いけど理1や理3からでも行ける」
「今のまま頑張ればそれも充分可能性あるね」
「うん」
「美夏がもし理1行くんならボクと一緒に行けるな」
「弁護士は理1じゃないよ」
「あ、そうだった。法学部は文1だった。くそ」
「ふふ、大学に進学したら、もう私たち結婚するんだから、別に同じ所でなくても構わないよ」
「そうだね」
 
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ボクは弁護士、だから文1から法学部、という線を想定しながらも志望学部は暫定的に理1にしておいた。理1で何するの?と聞かれたら、理科の先生、と答えておいた。
 
目標が微妙に定まらないながらも、成績の方は安定度を増していった。5月の中間試験は2位、6月の実力試験は1位、そして7月の期末試験も2位だった。
 
夏休みはフルに補講だ。美夏も今年の夏はさすがにバイトはしない。それから早苗と前島はあの日は一時的に仲直りしたものの結局数日後に別れてしまったらしい。早苗はあの店でまだバイトを続けていたが前島は辞めていた。早苗は最近は店長さんと親しくなりつつある、と言っていた。美夏は受験準備のため、塾の特別夏期コースを受講し、それが4時までなので、そのあと今度はボクと一緒に勉強した。お互いに教材を交換して勉強し、分からない所を相互に教えあった。
 
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2学期になるとボクの学校は、もう授業なんだか補講なんだか、訳の分からない体制になった。受験科目中心に生徒はみな自分の好きな教室に勝手に出て、勝手に先生の話を聞いている。人数が入りきれる限り、どこで聞いてもいいことになっていた。学校に出てこずに塾に入りびたりになっている子もいたが、先生は別にとがめなかった。出欠は朝の朝礼で取った後は、誰がどこにいようと誰も気にしていないようだった。もう全員臨戦態勢である。
 

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10月の雨の日、ボクと美夏は相合い傘をして、町を歩いていた。ふとバス停が見える。ボクらはお互いに苦笑いした。そこへ近づいて行った時に、意外な人物と出会ってしまった。
 
「前島さん....」
 
「やぁ、久しぶり。あっそうか、このバス停だよな、あの事件があったのは」
と前島は頭を掻きながら笑っている。ボクは前島に謝った
「あの時は申し訳ありませんでした」
 
美夏も
「変なことしちゃって御免なさい」
と謝った。前島は慌てて
「いや、いいんだよ。気にしないで。僕と早苗は早晩だめになっていたと思うし」
とサバサバした感じで言う。
 
「君たち、恋人同士なんだろう」
と前島は言った。
「早苗から聞いたよ。でも自分たちの信じる道を行くのはいいことだと思う。僕も影ながら応援しているから、世間の偏見なんかに負けずに頑張れよ」
 
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前島さんはボクたちがビアンだと思っているようだ。でも別に悪い誤解では無い。確かにボクは最近自分が男として美夏を愛しているのか、自分は女だけど同性の美夏を愛しているのか分からなくなってきていた。それは美夏も同様のような気がする。
 
「そうだ。立ち話も何だし、どこかでお茶でも飲む?ケーキくらいおごるよ」
と前島が言った。すると美夏は悪戯っぽい顔をして
 
「じゃ、あの時のケーキ屋さんで」と言う。
「もう、君には参るな」と笑いながら、前島はボクたちをそのフルーツパーラーに連れて行った。
 
「前島さん、今何なさってるんですか」
 
ボクはケーキセットを注文してから尋ねた。
「環境アセスメントの仕事」
「あ、なんか格好いい」
と美夏が言う。
 
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「今需要が伸びている分野ですね」
ボクは就職資料室で見た内容を思い出しながら言った。
「そう。どこも人手不足だから、かなり忙しいんだけど、面白いよ。まぁ、会社が出した結論に個人的に納得のいかないことも多いけどね」
「それは仕方ないですね。今の制度は基本的に開発優先だから」
美夏はシビアな見方をしている。
 
「生物系や化学系の出身者が多いんですか?」
とボクは尋ねた。
「そう言われた時期もあるけどね。今はどこからでも来る。でも僕は生物学科の出身だよ」
「理学部出て、ファーストフードやってたんですか?」
美夏がびっくりしたように言う。
 
「うーん、理学部ってさ、つまり潰しの効く学部なんだよ。そこを出て何かになろうとした時、何にでもなれるけど、逆に何かなれる確率の高い物もない。経済学部出たら経営の仕事するか、会計士などを目指すかだろう、医学部出たら大抵の人は医者になるよね。まぁ国家試験通らなきゃ話にならないけど。薬学部は薬剤師、法学部は弁護士か裁判官、この辺も国家試験だな。農学部からは農業試験場などに行くとか獣医になるとか。工学部はだいたい企業の技術職。大学の学部でもたいていの学部はそこに進んだらその先にある職業が限定されるけど、理学部ともうひとつ文学部だけは何でもありなんだよね」
 
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ボクは、自分が理1を選んだ場合に何になれるのか見えてこなかった原因を解説してもらったような気がした。
 
「それで目的が定まらなくて不真面目な学生も結構いるよね。サボリ学部、アソブン学部、なんて昔から言うでしょ」
 
ボクも美夏も詰まらない駄洒落だと思ったが敢えて触れなかった。
「僕は大学出てから最初コンピュータ関係の会社に入ったんだけど、そこが今の不況で1年くらいで潰れちゃって。すぐにいい所が見つからないんで、取り敢えずの生活費稼ぎと思って、あそこにいたんだよ」
と前島は笑って話した。
 
「じゃ、今はむしろ本来の専門が生かせてるんですね」
「うん、君らのお陰でね」
ボクたちも笑った。
 

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