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■寒凰(4)
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目次 #
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朝ご飯を食べてから、また3人で旺の家に行った。そして青葉を見るなり旺と伶は「青葉ちゃん、何をしてきた?」と訊いた。
「えへへ」
と青葉は笑って誤魔化した。
そして旺に横にならせて、青葉は旺のヒーリングをした。青葉は旺の身体の中で膵臓がいちばんヤバイと思っていた。膵臓癌の進行は確実に生命を奪う。青葉はそこに集中治療をすることにした。
『鏡』を持っているお陰で、膵臓の病巣が物凄くよく見える。青葉はその領域をじっくり観察して頭にたたき込んだ。そして『鏡』本体を起動する。一気に気を集中する。
と同時に青葉は気を失ってしまった。旺も同時に「うっ」という声を上げて意識を失った。
「青葉!」「青葉ちゃん!」「おじさん?」「親父!」
賀壽子や伶がびっくりしてふたりを介抱する。旺は5分ほどで意識を回復したものの何だか変な気分がするというので漢方薬を飲ませる。青葉の方は物凄いパワーを一気に流したのですぐには意識を回復できない。賀壽子が青葉のヒーリングをする。そして15分ほどたって、青葉はやっと目を覚ました。
「大丈夫?」
「大丈夫です。私、気を流したのと同時に自分が気を失ったんですね。修行が足りないなあ」
「いや、今の物凄かった」
青葉は再度、旺の膵臓を観察した。病変部分の中で正常部分に侵食して行っているフロント部分に明らかに変化が認められた。たぶん薬品や放射線でその付近を攻撃したのと同様の効果があったはずだ。賀壽子も、また自分自身を観察してみた旺も「すげー、これ」などと言っている。
「このワザ、使いこなせるようになるのに、かなり修行が必要みたい」
「そうだね。また一緒に修行しよう」
と賀壽子は笑顔で言った。
伶が数日泊まってくるということだったので、置いて帰ることにし、賀壽子と青葉・未雨はその日のお昼前に旺の家を車で出た。
「ひいばあ、ちょっと行きたい所があるんだけど」
「うん?」
一行は鶴岡市の西端、由良温泉に行った。
「あ、この光景に見覚えがある」と青葉。
「この島を見たんだよ」
「へー」
海岸の前に白山島という、ひょうたん島みたいな雰囲気の小さな島が浮かんでいる。グラスボートに乗って、八乙女海岸を見学に行った。
「あ、あの大きな岩、見覚えがある」
「お嬢ちゃん、前にも来たことあるの? あれは舞台岩と言って、昔蜂子皇子という人がこの沖を通りかかった時、この岩の上で舞っている乙女を見て、船を寄せたというんですよ」
「へー」
船は断崖の前を通っていく。
「あれ?形が違う」
「ん?」
「夢の中で見た時はあそこに縦の亀裂があったんだけど、今見ると無い」
「ああ、元々はそのあたりにも海蝕洞があって、それを八乙女洞窟と言っていたんですが明治時代の地震で入口がふさがってしまったんですよ。仕方無いので今は南側の白龍窟と言っていた洞窟を八乙女洞窟と言ってるんですけどね」
「へー」
青葉が「夢」の中で入った洞窟がその崩れた洞窟らしい。では「数日」前に入って鏡を動かしてしまったという探検家はどうやってそこに入ったのだろうか?
「神様の1日と人間の1日って違うのかなあ」
と青葉が言うと、船頭さんが
「人間の世界の50年が、天では1日だそうですよ。『人間(じんかん)五十年、下天の内を比ぶれば夢幻の如くなり』ってね」
と『敦盛』の一節を引いて語った。
賀壽子が頷くが、小学5年生の未雨はキョトンとした顔をしていた。
グラスボートで海岸を見てきてから浜に降り立った時「八乙女の像」に気付いた。八乙女と言いながら像は2人(恵姫・美鳳)である。
「2人しか作らなかったのは予算の都合かもね」などと青葉が言う。
「実際問題として、八乙女の顔を見ている人なんていないだろうし、顔は想像かな」
と未雨。
「でも佳穂さんと会ったじゃん」と青葉。
「え?あの人、この八乙女の1人なの?」
「そそ」
「へー!」
由良海岸に行った後は、羽黒山に行った。随神門の所で車を置いて遊歩道を登っていく。未雨が「きついよー」と言うので、休み休み、ゆっくりと登って行った。でも未雨も五重塔がきれいとか、空気が美味しいとか言っていた。
やがて厳島神社・蜂子神社の所まで辿り着く。厳島神社に女性の神職さんがいたので青葉はちょっとギクっとしたが「夢」の中で見た人(美鳳)とは別の人だった。
合祭殿でお参りをした後、境内を散策した。
「たしかにここと由良とはつながっているという説があるんだよ。ここで神殿を建てている時に落とした大工道具が由良の洞窟から出てきたとかね」
と曾祖母が言う。
その日は今度は山形市で一泊してから、翌日4日に大船渡に戻った。
青葉が鶴岡・羽黒山まで行ってきた翌日、5月5日。早紀が青葉を誘いに来た。
「あおば〜、どうぶつえん行こう!」
「動物園?」
「そそ。うちのおかあちゃんが車でいこうって。さくらとあおばと3人で」
「ごめーん。私、お金が無いから」
と青葉は正直に言うが
「どうぶつえん、小中学生はタダだよ」
「へー、タダ!」
「あら、だったら行ってもいいんじゃない?」
などと母も言うので、付いていくことにした。身の回りのもの、ハンカチとティッシュをリュックに入れて出かける。出がけに母が「お弁当代」と言って500円玉を握らせてくれた。
「ありがとう、お母さん」と青葉は笑顔で言った。
母が青葉にお小遣いをくれたなんてのは、青葉の記憶の中でほんとに数回しか無い。青葉たちが鶴岡に行っている間に母はボーイフレンドの所に行っていたようなので、きっと彼氏から少しお小遣いをもらっていたのであろう。
青葉が出かけようとしていたら、未雨が「わあ、動物園?いいなあ」などと言うので、早紀が「お姉さんも行きます?座席、まだ1つ余裕がありますよ」
などというので、未雨も付いていくことになった。母は未雨にも500円あげた。
咲良の母が運転するシビックの、助手席に未雨が、後部座席に青葉・早紀・咲良の3人が座り、盛岡までの道すがら3人で、おしゃべりのしどおしであった。未雨もしばしば会話に参加していた。
「早紀や咲良は連休中、どこも行かなかったの?」
「私は青森のおばあちゃんちに行ってた」と咲良。
「私はうちの(猫の)ミーちゃんが病気で様子見てたからずっと家にいた」と早紀。
「ミーちゃん、大丈夫?」
「うん。おしっこのくだの中に石ができるびょうきとかで、ミーちゃん、おちんちん、きったんだよ」
「へー。大変だったね」
「でももうげんきみたい。おちんちんなくてもいいのね」と早紀。
「ああ、おちんちんは無い方がいいよ」と青葉。
「あおばもおちんちんきってもらえたらいいね」と咲良。
「ああ、切ってもらいたいけど、動物病院では切ってくれないかもね」
盛岡の動物園はパンダみたいなのは居ないものの、ライオン・象・キリン、シマウマ・ラクダ・ダチョウ、などがいて、なかなか楽しめた。そもそも入ってすぐの所の猿山で、猿たちの動きに見とれて30分くらい眺めていた。
「私たちがサルを見てるのと同じ感じで神様は人間を見てるのかもね」
などと未雨が言うが、青葉は思わず同意した。
そうそう。神様は見守ってくれている。でも基本的に干渉しない。ただずっと眺めているだけなのだ。人間の世界のことは、基本的には自分たち人間が何とかしなくてはならない。
それはここ1年ほど、曾祖母の代行で「お仕事」をしていて感じた。力及ばずしてクライアントが亡くなったこともあった。何とか助けたこともあった。助かった人と助からなかった人にそんなに差があったとは思えない。私たちが必死で助けようとしている姿をも、神様はただ俯瞰しているのみという気がする。それでも、「助けて」という意志が伝われば、何とかしてくれる場合もある。人間が猿を気まぐれで助けてあげることがあるように。
曾祖母は若い頃は本当に凄かったと佐竹から聞いていた。20〜30代の頃は仙台から青森まで動き回って仕事をしていたらしい。特に戦後間もない頃は降霊系の仕事をかなりこなしていたという。それもさすがに年とともに力が衰えて最近は大船渡を中心に、せいぜい陸前高田・気仙沼・南三陸くらいの範囲でクチコミで主として古くからのリピーターさんの祈祷などの仕事を受けていた。しかし1年くらい前から「若い頃みたいにまた凄くなった」と言われるようになった。それは実は青葉の力によるものだが。
鳥さんたち、そしてライオンやシマウマを見たりして、結構歩き回ってから芝生があったので休憩する。
「青葉ちゃん、そのスカート可愛いね」と早紀の母。
「ありがとうございます。昨日山形で買ってもらったんです。早速穿いて来た」
「あおばちゃん、学校にくるときはいつもズボンだよね。かっこいいけど」と咲良。
「うん。でもそもそもスカート派が少ないよね」
「それはあるなあ。とよかもスカートはいてるところ見たことないし」と早紀。
「咲良はスカート多いよね」
「うん。あおばちゃんもスカートはけばいいのに」
「うーん。お母ちゃんと学校では男の子の服を着るって約束しちゃったからなあ」
「ふーん」
連休が終わり、学校が始まる。父は連休が終わった所で疲れたような顔をして帰って来て一週間ほど家に居たが、母と喧嘩ばかりしていた。青葉はまた父に何度か殴られた。そしてまた父は出て行った。父はお金は置いていかなかったが、督促状を数枚持って出ていき、若干の支払いはしてくれたようだった。
青葉は学校には母との約束を守りズボンを穿いて出て行っていたが、いったん帰宅した後で、早紀たちと遊ぶ時には結構スカートも穿いていた。咲良は青葉の<スカートの中身>に興味津々という感じで、しばしば中に手を突っ込んでは「タッチ禁止」などと青葉に言われていた。早紀は笑って見ていたが、自分もちょっと触ってみたいなという気がしていた。
やがて5月も下旬になる。ある夜、青葉は夢?を見ていた。
「あ、こんにちは」
「こんにちは」
それは羽黒山で会った美鳳さんだった。八乙女のひとりである。先日は神職の服を着ていたが、今日は巫女さんの服を着ている。
「今日はあなた、お誕生日ね」と美鳳は言った。
「・・・誕生日か。。。。世の中にはそんなものもあったのね」
「あのね、あなたを女の子に変えてあげちゃダメ?って訊いてみたんだけど、そんな大それたことはダメと言われたんだけど、おちんちんが大きくなったりしないように男の子の能力を取っちゃうのは、してもいいと言われたの」
「嬉しいです。時々勝手に大きくなって困ってました」
「でもそれすると、お婿さんになれなくなるけど」
「私女の子だから、お嫁さんになりたいです」
「じゃ青葉ちゃんの男の子の力を取っちゃって、代わりに男の子の力が無くて困ってる子にあげていい?」
「はい、あげてください」
「じゃ、もらっていくね」
「はい」
美鳳さんは青葉のお股の所に手を当てた。
「もらっちゃった。それじゃね」
「あ。待って」
「ん?」
「八乙女の像が恵姫さんと美鳳さんだけなの可哀想って姉が言って、佳穂さんも頷いていたので、8人揃っている所を姉とふたりで描いてみました」
と言って、青葉は机の引き出しに入れていた、クレヨンで描いた絵を美鳳に渡した。
「わあ、ありがとう。可愛く描いてくれてる。佳穂に渡すね」
「はい」
「じゃ、またね」
「ええ。またいつかどこかで」
美鳳は青葉の枕元から離れると、そのまま一関市内の病院に行った。そこに、交通事故で下半身をトラックに轢かれ大けがをした小学5年生の男の子が入院していた。美鳳は眠っている、その子のお股の所に手を当て、青葉から抜いた「男の子の力」を注入した。
彪志はふと目が覚めた。そして自分のおちんちんが立っているのに気付く。
「立ってる!すごっ!回復したんだ。良かったぁ」
思わず彪志はそのまま3週間ぶりのオナニーを味わった。
あの事故は大事故で、トラックの運転手を含め数人亡くなっていたが、彪志の怪我は意外に軽く、骨折もしていなくて、もう月末には退院できますよ、などと言われていた。裂傷の傷跡もあまり目立たない感じに治っていた。
しかしたったひとつ問題があった。
事故以来、彪志のおちんちんは立たなくなっていたのである。何か不具合はありませんかと尋ねられて、彪志は恥ずかしがりながらそのことを言ったので、泌尿器科の先生に診てもらい、ED治療薬などを処方してもらったものの効果は出ない感じであった。
「このままチンコ立たなかったら、いっそ立たないチンコなんか取って女の子になるか?お父さん、娘が欲しかったんだよね」
などと父は冗談を言っていたが、彪志本人は結構落ち込んでいた。
しかしその夜彪志の勃起能力は回復し、先生も「やはり事故のショックによる一時的なものだったのかも知れないね」などと言った。
彪志はその男性能力が回復した夜に「見た」ような気がする巫女衣装の女性のことが気に掛かっていた。
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