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■寒凰(2)

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それで1年生の担任2人と教頭・校長、それに保健室の先生で急遽話し合った。それでトイレに関しては女子トイレを使わせた方が問題が少ないという結論に達した。それで担任の先生は再度青葉を呼んで通告した。
 
「川上君、君はやはり女子トイレを使ってくれる?」
「はい、そうします」
 
先生たちは、そのほかの微妙な問題についても話し合った。その結果、
 
・体育では一応女子のグループに入れる
・着替えも当面は女子たちと一緒で良い
・身体測定については次回からは男子とも女子とも分けて青葉単独で測定する。
 
水泳の授業については先生たちの間でも結論が出なかった。しかしその件について尋ねられた青葉は
 
「水泳の授業は見学させてください。私泳ぎは得意だから授業受けなくても大丈夫です」
 
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と言ったので、取り敢えず今年は保留にして来年以降また検討することになった。
 

そんなことをしている内にゴールデンウィークがやってきた。貧乏な青葉の家では連休だからといってどこかに行くわけでもない。そもそも父は3月の中旬からずっと自宅に戻っていなかった。この時期は母がパートで工場に勤めていたので、少ないながらも収入はあった。しかし乏しいパートの給料では、水道代や灯油代を払うのが精一杯(電気とガスはもう2年ほど前から停まったまま。調理はカセットボンベでしていた)で、遊ぶ余裕など全く無かった。
 
ところが、連休直前になって、曾祖母が「未雨と青葉を出羽まで連れて行っていいかい?」と言ってきた。
 
「出羽まで何しに?」と母。
「うちの弟子の佐竹さんのお父さんが具合が悪いみたいでね。佐竹さんが様子見に行って来るというから、私もちょっと一緒に行こうかと思って。それでついでに青葉たちも連れて行こうかと」
実際には、治療に青葉が必要なのである。
 
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「なんだか付き添いが多いね。うん、連れてって、おやつでも食べさせてあげて」
と母は笑顔で言った。母はどうもボーイフレンドと連休中に遊びたい雰囲気でもあった。
 
ともかくも、そういう訳で青葉たち姉妹は、曾祖母、佐竹、と一緒に連休中に出羽に行くことになったのである。
 

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5月1日の朝、曾祖母は年代もののサニーを出して来て、佐竹を助手席に乗せ、青葉と未雨を後部座席に乗せて、大船渡を出て鶴岡市を目指した。
 
大船渡から西の方に行く場合、国道343号・県道19号を突破する北ルートと、気仙沼に出て国道284号を通る南ルートがあるのだが「直線距離」で走るのが好きな曾祖母は国道343号を通る北ルートを選んだ。
 
どっちを通っても結局は山道なのだが、曾祖母の運転は荒いので笹の田峠のループ橋で未雨が気分が悪くなってしまった。車を停めると、外で吐いている。
 
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「う、う、少し休ませて。あんたは平気なの?」
「うん、まあ。結構きつい加速度だなとは思ったけど」
 
結局そこで未雨が体力を回復するまで1時間ほど休んだ。更には摺沢でも少し休んだりしていたので、一ノ関に着いたのが15時近くになってしまった。
 
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「子供連れですし、無理せず1泊しましょうか?」
と佐竹が言うので、一関市内で泊まることになった。
 

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宿を取り、お風呂に入って一息し、外に食事に出る。ファミレスに入って青葉はキノコの雑炊、未雨はイタリアンハンバーグセットを頼んだ。
 
「わぁ!お肉だ!お肉だ!」
と言って未雨は美味しそうに食べている。
 
「あんた、そんなので良かったの?少しお肉あげようか?」
と未雨は言うが
「ううん。私はこれでも多いくらい」
と言って微笑んでいる。
 
賀壽子は山菜そば、佐竹はマヨネーズコーンピザを食べている。後で話したのでは、青葉にしても賀壽子にしても、なぜか、まだ「なまぐさ」を食べてはいけない、という気がしたのである。
 
「あ。あのトラック」
と声を上げたのは未雨だった。もう食事はだいたい終わってそろそろ出ようかという雰囲気になりつつあった頃だった。
 
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青葉が見ると車線を無視するようにふらふらと走るトラックがこちらに向かって暴走してきている!居眠り運転??
 
「お姉ちゃん、逃げるよ」
と言って青葉が未雨の手を引くようにしたが、その次の瞬間、テーブルの向こう側にいた佐竹が、テーブルを飛び越えて来て、未雨を抱き抱え青葉の身体を押すようにして、店の奥へダッシュした。賀壽子もそれを見ながら自分もダッシュする。
 
そしてほんの2〜3秒後、トラックがレストランに突っ込んできた。
 
青葉は隣のテーブルにいた小学4〜5年生くらいの男の子がまだ逃げ切れずに呆然としているのを見た。青葉はありったけの念を込めて、その男の子に「足を動かせ!!!!!」とメッセージを送った。それで男の子はやっと動き出してトラックと正面衝突するのは避けられたが、完全には逃げ切れずに下半身をトラックに押しつぶされるような感じになった。
 
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物凄い悲鳴と轟音がこだました。
 

店の奥まで佐竹に抱かれて逃げたので無傷ではあったものの未雨は「キャー」
と悲鳴をあげた。しかし少し落ち着くと、そばで青葉が意識を失って倒れているのに気付き「青葉、青葉」と揺り動かす。
 
「あ、ちょっと待って」
と佐竹が言い、青葉の身体の上に手をかざす。青葉は5分ほどで意識を回復した。
 
「あんた、意外に神経弱いのね。気を失っちゃうなんて」
などと未雨が言ったが、青葉は曾祖母に尋ねた。
「どうだった?」
「助けたつもり。まあ1ヶ月くらい入院することになるだろうけど」
「よかった」
 
ちょうど救急車が来て、トラックの下敷きになっていた男の子を引き出し、運んでいく所だった。
 
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衝突の瞬間、賀壽子が青葉のパワーを全部使って、男の子にガードを掛けたのである。いきなり全パワーを持って行かれたので青葉は気を失ってしまった。
 
曾祖母も座り込んでいる。自分のパワーも全部使い切り、すぐには立てないのだ。
 
レストランの店長さんらしき人が店内の客を見てまわり、怪我をしている人はタクシーを呼んでスタッフに付き添わせて病院に行かせるようにし、無事な人には御食事券とタクシーチケットを渡して、お詫びをして送り出していた。
 
青葉たちは別にどこも怪我していないので、ありがたくチケットをもらって、レストランを後にした。途中のコンビニでおやつをたくさん買った。
 
「あ、御飯代ただになったね。ラッキー」
などと未雨は言っていた。
 
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翌日はゆっくりと宿を出て東北自動車道に乗る。曾祖母は国道457号から国道47号を通る「直線ルート」で行くつもりでいたようだが、昨日未雨が山道で体調を崩したので素直に高速を通ることにする。一関ICから東北自動車道に乗り、村田JCTで山形自動車道に移る。そしてお昼前に寒河江SAで休憩したが、車から降りた途端、青葉は何かゾクっとするものを覚え、その方角を見た。
 
「分かるかい?青葉」と賀壽子が訊く。
「凄い霊気」と青葉は答える。
「この距離から分かる人は少ないよ。私も若い頃は分かってたけど、60すぎた頃から、この距離では分からなくなった」
 
「凄く強いのが2つ並んでて、その向こうにもうひとつ。弱く感じるのは遠いからだろうけど、きっともっと強い」
「並んでるのが月山と湯殿山だよ。遠いのは羽黒山」
 
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佐竹(伶)の父、佐竹旺が住んでいるのは鶴岡市、羽黒山のお膝元である。
 
「うちのお祖父さんと親戚になるんですよね?」
と青葉はSAの食堂でお昼を食べながら尋ねた。未雨は今日はトンカツ定食を食べていて、「トンカツなんて食べるの、何年ぶりだろう」などと言っている。
 
青葉はキムチうどんだが、賀壽子はスパゲティ・ミートソース、佐竹はサイコロステーキ定食を食べている。賀壽子と佐竹は、もうリセットしているようだ。青葉は出羽三山の霊気を感じて「お仕事モード」になってしまったので、肉・魚を避けている。
 
「そうそう。佐竹旺さんの亡くなった奥さんが、雷蔵じいさん(礼子の父)のお父さんと従姉弟になるんだよ」と賀壽子が説明するが、家に帰ってから系図を書いてみないとつながりが良く分からないなと青葉は思った。
 
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「旺さんは修験者で、若い頃から出羽の山を山伏の格好して走り回っていた。雷蔵さんのお祖父さんたちは3人きょうだいで、お寺の子供だったけど、雷蔵さんのお父さんが寺を継がずに漁師になって、イタコをしていた人と結婚して、雷蔵さんを作った。それで一ノ関のお寺に行ってた次男さんの息子がこちらのお寺を継いだ。今の££寺の住職はその人の息子だよ。そして一番下の妹さんは鶴岡のお寺にお嫁に行ってたんだけど、その人の娘さんが旺さんと結婚して、伶ちゃんを産んだんだ」
 
やはり話が複雑だ!
 
「僕も最初は親父に倣って修験者をしていたんだけどね」と佐竹。
「ある時、母の実家を訪問しに大船渡に来たら偶然、師匠(賀壽子)に会って、そのパワーに圧倒されてね。その場で弟子にしてくださいと頼み込んだんだ」
「まあ、私も若い頃はそれなりにパワーがあったからね」
と運転しながら賀壽子も笑って言う。
 
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「じゃ、うちのおじいちゃんと、££寺の住職と佐竹(伶)さんは従兄弟どうしになるんですか?」
と未雨が尋ねる。
「イトコじゃなくてハトコになるね。そしてその縁で雷蔵さんは市子と結婚したんだよ」
「へー!」
「市子さんとうちの女房とが友だち同士でね。雷蔵さんと僕と4人でよく一緒に遊んでいて、最初の頃はどっちがどっちとくっつく?みたいな緊張感があったよ。まあすぐに組合せは決まったけどね」
「すごーい」
 

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食事が終わり少し休憩した所で出発することになる。車の方に戻ろうとした時、若い女性が青葉たちに声を掛けてきた。
 
「あの、すみません」
青葉は黙殺しようとした。賀壽子も佐竹も一瞬目の端で捉えたものの構わず車の方に行こうとした。しかし未雨が返事をしてしまった。
 
「どうかなさいましたか?」
 
「実は乗っていたバスに置いてけぼりにされてしまって。もしよかったら途中まででも乗せてもらえないでしょうか?」
とその女性は言った。
「わあ、可哀想。どこまで行くんですか?」
「鶴岡に行こうとしていたのですが」
「あら、私たちも鶴岡まで行くもん。乗せてあげていいよね?」と未雨。
 
「まあ、お前がそう言うなら」と賀壽子は言い、その女性は青葉たちの車に同乗することになった。
 
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後部座席に左から、その女性・青葉・未雨と並んで座る。女性は佳穂と名乗った。
 
「鶴岡のどのあたりなんですか?」と助手席に座る佐竹が話を振った。
「海岸の方で。由良っていって温泉とかのある所なんですけどね。そちらはどちらまで?」
「市街地です。じゃ、鶴岡駅で降ろしましょうか?」
「助かります。その後は路線バスで行けますから」
「しかし置いてけぼりというのは大変でしたね」
「ええ。トイレ休憩でトイレに行った後、ぼんやりと売店見てたら、ふと気付いたらもうバスは出発した後で」
「ああ」
 
「由良というと、蜂子皇子の伝説がある所ですね」
「ええ、そうです」
「はちこおうじ?」と未雨が尋ねる。
 
「羽黒山を開いた人だよ。崇峻天皇の皇子で、都でクーデターがあって崇峻天皇も后も暗殺されたんで、難を逃れて東北まで逃げ延びて来たんだけど、鶴岡沖を船で航行中に由良の海岸の岩の上で8人の乙女が舞を舞っているのを見て、あまりの美しさに魅せられて、そこに船を着けた。すると三本足のカラスが降りて来て、皇子を導くようにして羽黒山に連れて行った。それで皇子は羽黒山に住むことにしたというんだね」
と佐竹が伝説を説明する。
 
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「そうです、そうです。その乙女が舞っていたという舞台岩というのが今も残っています」と佳穂さん。
「八乙女の像なんてのも作られてるんですよね。でもなぜか2人だけ」
「わあ、それじゃ残りの6人が可哀想」と未雨が言うと、佳穂は同意するように深く頷いた。
 
その後、車の中は鶴岡地方の昔話や伝説をネタに盛り上がった。
 

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1時間ほどで鶴岡に到着し、彼女を鶴岡駅前のバスセンターで降ろしてから、佐竹の父の家に向かう。
 
車が動き出してから青葉が言う。
「お姉ちゃん、意外に大胆だね」
「え?だって困ってる人見たら助けてあげなくちゃ」
「そうだね。『人』ならね」
「へ?」
「今の、人じゃなかったもん」
「は?」
「どこかのお使いさんですよね?」と青葉は賀壽子に尋ねるように言う。「うん。何かの眷属さんだよ」と佐竹が代わって答える。
 
「えーーー!?人間じゃなかったの?」と未雨。
「ふつうの人にはそもそも見えない。お姉ちゃん霊感無いっていつも言ってるけど、あの人が見えたんだから、霊感やっぱりあるよ」
「うっそー! 私、幽霊とかも見たことないのに」
 
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「まあ幽霊よりは見えやすいかもね」と青葉。
「何かに巻き込まれているようですね」と佐竹。
「うん。もう関わってしまった以上、なるようになれだね」と賀壽子。
 

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