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■寒桃(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2012-12-02
 
青葉が2歳の時、一家は埼玉県大宮市(現さいたま市)から、岩手県大船渡市に引っ越した。お父さんは当時新興メディアであったインターネットを利用した旅行代理店を営んでいて、ネットなのでどこに住んでいても良かった。それでちょうど大宮で住んでいた家が再開発に引っかかったことから、母の実家の近くに移り住んだのである。またこの年はちょうど4月から青葉の姉・未雨が小学校に入る年だったので、今引っ越せば転校させずに済む、という問題もあった。
 
引っ越しの半年前に、祖母(礼子の母市子)の妹さん(双乃子)が亡くなって空家になった家があったので、その家を借りて住むことになった。そこは曾祖母(賀壽子)の家から100mほどで、祖母(市子)が年老いた曾祖母の身を案じて、近くに住んでもらえたらと願ったこともあった。
 
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もっとも拝み屋さんをしていた曾祖母・八島賀壽子は実際にはとても元気で、見た目も76歳にはとても見えず、まだ60前後のような外見で、体力なら54歳の祖母よりもあり、毎朝山道を10km走る日課をこなしていた。
 
青葉が大宮で生まれた時にも、自分で車(古いダットサン・サニー)を運転して市子と一緒に埼玉に出てきたのだが(市子は車の免許を持っていない)、生まれたての青葉を見るなり「この子は凄い才能を持っている。私の跡継ぎに欲しい」
と言ったらしい。後に青葉が小学1年生頃に本人から聞いた話では、曾祖母はその後、まだ赤ん坊だった青葉に常に「気」を送って、修行をさせていたらしい。
 
だから青葉の修行歴=年齢なのである。
 
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その青葉が両親とともに岩手に引っ越してきた時は、とても喜んでいて、昼間パートに出ている母に代わって未雨と青葉の面倒を見てくれていたものの、しばしばふたりを連れて「散歩」と称して、山歩きをしていたらしい。青葉は楽しく山道を歩いていたものの、付き合わされていた未雨は結構辛かったと後に姉は青葉に言っていた。
 
青葉は曾祖母と一緒に滝に打たれたりもしていたが、そういう時未雨はそばで見学していた。
 
「つめたくないの?」と未雨は訊く。
「冷たいけど気持ちいい」と青葉。
「わたしはそれしなくていいんだよね?」
「うん」と曾祖母は笑顔で答えた。
 
青葉が物心付いた頃から、女の子の服を着たがった件については、それが好きなのなら、そうしておけばいい。小学校にあがるまでは、構わないでしょうと曾祖母が言ったので、母も「まいっか」という感じで、未雨のお下がりの服などを着せていた。また当時父の仕事が2001年の同時多発テロ、2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)騒ぎのダブルパンチで旅行客が激減したことからうまく行かなくなっていたこともあり、一家は経済的にも苦しかったので、青葉の服が未雨のお下がりで済むのは助かったという事情もあった。
 
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岩手に引っ越してきてから2年たった時、青葉は幼稚園に入ることになる。
 
さすがに幼稚園には男の子の格好でやらねばなるまいと母は思ったのだが、そもそも入試に行く時、青葉は男の子の服を着ることを拒否した。仕方無いのでふだん通り、女の子の服を着せて連れて行ったのだが、幼稚園の先生たちからも、ふつうの女の子と思われてしまったようであった。
 
一応入園願書は性別・男で出していたのだが、用意されていた制服は女の子用だった。母はあまり細かいことを気にしない性格なので、そのまま青葉には女の子の制服(青いスモックに膝丈のスカート)を着せて幼稚園に通わせた。
 
その年、とうとう父が経営していた旅行代理店は倒産、父も自己破産に追い込まれた。とは言っても、父は何の資産も持っていなかったので、新たな借金ができなくなったこととクレジットカードが使えなくなったこと以外は、普通の生活を続けることができた。
 
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(後から考えると)その破産処理が片付いた頃。時期的には7月の上旬くらいではなかったかと、当時の断片的な記憶から青葉は思う。
 
青葉は夜中に突然父から起こされ
「お父さんとドライブに行こう」
と言われた。
 
「お母さんとお姉ちゃんは?」
「寝てる。そっとしておこう」
と言い、父は青葉を車の後部座席に乗せ、車を出発させた。青葉は夜中に起こされたのでまだ眠くて、車にゆられながら眠ってしまった。
 
目が覚めたらもう朝が明けていて、右手に海が見えていた。普段大船渡で見ている海と、海の色が違うなと思ったことだけ、青葉は覚えている。
 
「お父さん、お腹が空いた」
「じゃ、次のサービスエリアで朝ご飯にしよう」
と父は言った。
 
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サービスエリアで父は何だか機嫌が良くて、好きな物食べていいぞと言った。青葉は久しく食べていなかったトンカツが食べたくなって言ったら買ってくれた。
「お父さんは食べないの?」
「お腹が空いたら食べるよ」
 
こんな優しい父を見たのはほんとに久しぶりの気がした。青葉は物心付いた頃から、いつも父に殴られていたし、酒に酔って乱れている父ばかり見ていた。
 

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お昼くらいに何だか凄くきれいな海岸に出た。大船渡の碁石海岸も美しいが、この海岸もちょっとそれと雰囲気が似ていて美しかった。いい所だなあと青葉は思った。
 
海岸そばの海の家で、父とふたりでラーメンを食べた。何やらスープの黒いラーメンで見た目でぎょっとしたものの、食べてみると美味しかったので、へーと思った。
 
ボートに乗ろうと言われて父がボートを借りて沖に出る。父とこんな形で遊ぶのは初めてだったので、いつも今日みたいな優しいお父さんでいてくれたらいいな、と青葉は思った。
 
近くを大きな船が通り、横波が来てボートが揺れた。怖いっと思った。
「そこ動かないで。動いたらバランスが崩れる」
と父が厳しい声で言う。そう言われると、動く訳にはいかない。怖かったが青葉は我慢した。
 
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そしてしばらくしてボートは安定を取り戻した。
「怖かったか?」
と父が訊く。
「うん」
と青葉は答えた。
「でも我慢したな、いい子だ」
 
父に褒められて青葉はとても嬉しくなった。父がオールから手を離して立ち、こちらに来る。そして頭を撫でてくれた。青葉は笑顔で「お父さんありがとう」
と言った。
 
そして次の瞬間、父は青葉の身体を持ち上げると、水の中に放り投げた。
 

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え!?
 
不意打ちだったので、何も抵抗できなかった。身体が沈む! 水中で息ができない。どうしたらいいの? と思った時、脳内に曾祖母の声が響いた。
 
『落ち着いて!』
そのひとことで青葉は冷静さを取り戻した。
 
『泳ぎ方、分かるよね? こないだ教えたよ』
『うん』
『息ができないのは気にしない。しっかり手足を動かしなさい』
『はい』
 
青葉はつい先日、町のプールで曾祖母から基本的な泳ぎ方を習ったばっかりだった。バタ足をかなり練習させられて「きついよー」などとグチを言ったりもしていたが、それが役に立った。
 
青葉が力強く手で水を掻き、バタ足をすると、身体が前に進む。そしてすぐに水面に浮き上がった。大きく息をする。助かった!
 
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最初父が乗っているボートの方へ泳いでいこうとしたのだが、父は青葉が浮上してきたのを見ると、ボートのオールを外してこちらに投げつけて来た。一瞬早く水中に潜る。オールは青葉の頭付近の水面をスキップして後方に飛んで行った。更にもう1本のオールも飛んできた。
 
『ボートから離れるように泳ぎなさい』
と曾祖母の声がした。
『はい』
 
青葉は、ようやく父が自分を殺そうとしていることに気付いた。美味しい御飯とか食べさせてくれたのは、殺すつもりだったから、最後の食事だからということだったんだ!
 
青葉はふだんの、父に対して構えている自分に戻った。そして、父のボートからとにかく離れることを第一に泳いだ。
 
少し泳いだところで『左に曲がって』という曾祖母の声がする。泳ぐ方向を調整して左に曲がり泳ぎ続ける。
 
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『ひいおばあちゃん、疲れてきたよ』
『疲れても泳ぐしかないの。頑張りなさい。エネルギーは送ってあげるから』
『うん』
 
青葉も今は泳ぐしかないことは分かっている。曾祖母にグチは言ったものの、頑張って泳いだ。
 

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やがて岸が見えてきた。わあ、後少しだ。
 
と思った途端、力尽きてしまった。
 
きゃー。。。
 
かなりの時間、多分20分くらい泳ぎ続けていたので、幼稚園児の青葉にはそのくらいがもう限界だった。だめー、頑張らなきゃと思うものの身体が動かない。
 
えーん。やっぱり私、死んじゃうの?
 
と思った時、誰かに髪を掴まれる感触があった。
 
水面に引き上げられる。
 
「助けてあげるから落ち着いて」
と12〜13歳くらいのお姉さんの声がした。
 
「うん」
 
そのお姉さんは青葉の長い髪をつかんだまま岸に向かっておよいだ。青葉も体力の限界を超えた手足を何とか動かしてそれに協力する。
 
そしてふたりは岸に辿り着いた。
 
「君、大丈夫?」
とスクール水着を着た小学校の高学年かあるいは中学生くらいかなという感じのお姉さんが訊く。
 
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「大丈夫です。ありがとうございました」
と青葉は笑顔で答えた。手も足も激しい疲労でこわばっている。
 
「ちょうど近くに居たからね。どうしたの?沖まで流されたの?」
「ボートから落ちたんです。あそこに父のボートが」
と青葉が沖合を指さす。
 
「ああ、なんかボートが漂流してる」
「オールも落としちゃって」
 
「それはいけない」
と近くに居た大人の男の人が言うと
「**君、**君、あのボートを助けに行って」
と叫んだ。
 
その声に応えて、大学生くらいの男の子がふたりでボートに乗り、父のボートに向かって漕いで行った。そして向こうのボートを曳航して戻って来る。
 
「お父さんも助かったよ。良かったね」
「ありがとう、おねえちゃん」
 
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「しかし、桃香お手柄だな」
「さすが水泳のジュニア・チャンピオン」
 
とそのお姉さんが言われていた。へー、ももかさんなのか。と青葉は思ったが、その名前は数年経つ内に忘れてしまっていた。
 
「でもこの女の子もかなり泳ぎがうまかったよ。最後はちょっと力尽きたけど、私が行くまで頑張れ、と祈りながら私、泳いだ」
と桃香。
「水泳好きなの?」
「はい」
「その内、オリンピック選手になれるかもね」
と言って桃香は青葉の頭を撫でた。
 

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やがて父のボートが岸まで辿り着く。助けられた父はじろっと青葉を見た。青葉もいつもの冷たい目で父を見返した。
 
父は黙って青葉の手を取ると車の方に戻る。
 
「あ、お嬢さんずぶ濡れだから、着替えさせてあげて」
と言って桃香が追いかけてくる。
 
「私のTシャツでも良かったら着せてあげてください」
と言って桃香が服を差し出す。
 
父は無言でそれを受け取ると、そのまま青葉を駐車場の方に連れて行った。車に乗り込むと、その服を青葉に投げつけた。青葉は無言で服を脱ぎ、桃香がくれたTシャツを着た。サイズ160のTシャツなので、5歳の青葉が着るとまるでワンピースだ。パンティは無いけど仕方無い。青葉は脱いだ服と下着は車内に常備しているビニール袋に入れた。
 
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なお、この時桃香からもらったTシャツを青葉はずっと大事に取っていたのだが、それも震災で失われてしまった。
 

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車内で父は無言であった。やがて途中のサービスエリアでトイレ休憩する。
 
青葉が女子トイレから出てくると
「男のくせに女子トイレに入るなんて、ふざけた奴だ」
と言っていきなり殴る。
 
でもこんなのは慣れているので気にしない。父は青葉を10発くらい殴り、更にお股を5〜6回蹴り上げてから運転席に着く。今にも車を出しそうなので青葉は急いで後部座席に飛び乗る。それとほとんど同時に父は車を出した。
 
「お前、股を蹴られても平気なのか?」
「私、男の子じゃないから平気」
「ふーん」
 
と言って、今度はいきなりコーラの缶を顔に向かって投げつけられた。これは青葉がしっかりキャッチする。いつものことなので青葉は「ありがとう」と言って、コーラの缶を開けて飲んだ。
 
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「そのコーラ、お前に渡す前に20回くらい振ったのに」
「そういうの、私には効かないよ」
「ふん。詰まらん変態娘だ」
 
と言って、父は初めて笑った。父が「娘」と言ってくれたことで青葉はちょっとだけ心がゆるんだ。
 
「お前を殺して死ぬつもりだったのに。助けやがって」
「死ぬ気なら、何でもできるよ」
「お前、ほんとに幼稚園児か?」
 
と父は呆れるように言った。しかしその後は、父と会話は無かった。
 
その日の晩御飯は結局そのコーラだけだった。父はひとりでおにぎりを食べていたが、青葉には分けてくれなかった。しかし、青葉は御飯をもらえなかったり、食べている最中の御飯を突然取りあげられて捨てられるのにも慣れているので、気にしなかった。
 
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