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■寒竹(4)

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ファミレスで青葉はシーフードスパゲティ、彪志はステーキセットを頼んだ。
 
「どうせ仙台行くなら未雨ちゃんも誘うと良かったんだろうけど、俺が青葉とデートしたかったからさ」
「・・・あまりからかわないでよね。私、そういうのでは傷つきやすいから」
「からかってないよ。俺、青葉のこと好きになっちゃったんだ」
「・・・・ストレートだね」
 
「ね、俺の恋人にならない?俺たちけっこう話が合いそうな気がする」
「・・・私、女の子の器官を持ってないから、彪志と男女の仲になることもできないけど、男の子の機能が既に消滅しているから、彪志と男の子同士の恋もできないよ」
 
「ああ、やはり男の子の機能はもう無いんだね。ここ何度か一緒にいて、青葉から男の子的な雰囲気を全く感じなかったから。でも俺、青葉の性別抜きにして好きだよ。青葉が男の子であるか女の子であるかというのは、今の俺には関係無い。もっとも俺、ホモじゃないから、青葉のこと基本的には女の子として好きなんだけどさ」
 
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「そんなこと・・・・言ってくれる男の子がいるんだなということ知っただけで私は嬉しい」
「だって、青葉って充分可愛いもん。これだけ可愛かったら性別関係無い」
「ありがとう」
「じゃ、恋人になろうよ」
 
「・・・御免。私好きな人がいるの。ずっと会ってない人だけど」
「そっか・・・それじゃ仕方ないか。でも交際しているわけじゃないのね?」
「うん」
 
「じゃ、俺が青葉をたまにデートに誘うくらいならいい?」
「うんまあ。。。。キスとかはしてあげられないけど」
「メールとかしてもいい?パソコン持ってるんでしょ?」
 
「持ってるけど、自宅に置いてないの。自宅にそんなもの置いてたら、親に売りとばされちゃうから。それでたまにしか接続できないからメールもらっても実質放置になっちゃうと思う」
「そっか。じゃ手紙書くよ」
「うん。そのくらいなら少しはお返事書けるかも。あ・・・・」
 
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「何?」
「キスしてあげられない代わりに、私のこと女の子だって認めてくれた彪志に、ここ触らせてあげる」
そういうと青葉は彪志の手を取って、自分のバストに当てた。
「おっぱいがある?」
 
「うん。まだ膨らみかけだけどね。知り合いには誰にも見せてない。女の子の友達にもまだ非公開のものだけど、彪志には教えないといけない気がした」
「ほんとに少しずつ女の子の身体に改造していってるんだ?」
「うん」
「ホルモン飲んでるの?」
「ううん。男性機能停止させたのも、おっぱい膨らませ始めたのも精神力」
「一種の性魔術か」
「うん。そういう話を信じてくれそうなのも彪志だけという気がする」
 
「青葉なら出来る気がするよ。性魔術で股間の形状も完全に変えちゃったりして」
「そこまではさすがに無理」
「心霊手術しちゃうとか」
「あれはトリックだよ。別にそんな面倒なことしなくたって、専門の医療として確立してるんだから、そういうお医者さんにふつうに手術してもらえばいいし」
「ふーん。性転換手術は受けるつもりなんだ」
「もちろん」
 
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「じゃ、性別も女に変更するんだね」
「当然。20歳になったらすぐ変えるよ」
「じゃ、俺と結婚できるじゃん」
 
「そうね。。。。その時にまだ私のこと好きだったら考えてもいいよ。だけど元男の子だった女の子と結婚するなんていったら、ぜったい親に反対されるよ」
「既成事実作ってしまえばいい。結婚式も親戚が来てくれなくてもいいから、理解のある友人だけ招待してやっちゃう」
 
「そんなこと言ってくれる人が・・・・」
「ここにいるさ」
彪志は青葉の左手にキスをした。青葉は抵抗しなかった。
 
ふたりは高速バスで地元に戻った後、握手をしてその夜は別れた。
 

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彪志の父は結局青葉が霊的な処理をした一週間後、急速に回復して退院してしまった。とっくに退院してよかったはずのものが霊的に抑えられていただけだから当然で、自分の祈祷やヒーリングが効いたわけではないと青葉は言ったが
「息子から聞きました。かなり危険な処理までしてくださったそうで。これこそまさに心霊治療ですよ」
と父は言っていた。彪志の父はなんと50万円も相談料をくれた。今回の件は相談料不要と言っていたのに!
 
青葉は振り込まれた金額を見て驚き「金額がさすがに多すぎる」と彪志に言ったが、「保険から見舞金で100万出たからその半額だって。青葉がいなかったら、まだ数ヶ月入院していたか、あるいは命も危なかったろうしね。これでも安いだろうけど、貧乏だからこのくらいしか払いきれないからって親父は言ってたよ。あ、そうそう青葉の性別も親父には言っといたから」
「ばらしちゃったのか・・・・」
 
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「ばらしておいた方が俺としてはこのあと都合がいいし。このあと青葉との交際状況を少しずつ見せていく。既成事実作り。でも親父、女の子にしか見えないのにって、ほんとにびっくりしてたよ」
 

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青葉は今後の「拝み屋さん稼業」について、佐竹の十日祭(神式の葬儀で亡くなってから10日目の儀式)に慶子と話し合った。
 
「慶子さん、この商売このあとどうしますか?」
「お客さんはいるし、実質青葉さんがやってることを知った上で依頼してくる人もいるし、できたら続けたいのですが。私も祈祷のまねごとくらいならできますが、いかんせん私は父みたいに霊的な力は無いので」
 
「じゃ、アクティブ・ハニーポットしましょうか?」
「アクティブ?」
 
「お父さんとはパッシブ・ハニーポットだったんです。お父さんは霊的な力があったから、私は純粋に必要な時だけ不足する霊的なパワーを提供していただけ。私は電気のコンセント。アクティブ・ハニーポットの場合、慶子さんに私の端末になっていただます」
「じゃ私が現場で祈祷とかすると、実際には青葉さんが全部してくださるんですね」
 
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「そういうことです。そうすれば今回みたいな事態も避けられます。危険なものは私が分かりますから。ただ、この方式だと、それやっている間、私は1割くらいこっちに来てしまうので、反応が鈍くなるから、学校の授業中とかはできない。それで対応できる時間帯が限られますけど」
「そのあたりは時間調整していきましょう」
 
「実は曾祖母が亡くなる前、最後の2年くらいも私がハニーポットで、特に最後の半年くらいはほとんどアクティブ・ハニーポットだったんです」
「そうだったんですか!」
「私が現場に連れて行かれていたのは私に現場を見せて覚えさせるというのもあったのですが、半分は私のパワーを使うためだったんです。曾祖母は最後のあたりはとても他人の祈祷などできるような状態ではなかったのですが、何とか自分を頼ってくる人たちを助けたいといって、私に実質代行させていました」
 
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「お父さんの場合は、けっこう自分で処理できていたし、お父さん自身の力で不足する時だけ、私がハニーポットになってました」
「じゃ、今後は全面的に青葉さんにお願いしましょう。そのほうがすっきりするし」
「報酬の分配はこれまでの共同作業時と同じで山分けで」
 
相談事に対する報酬分配はけっこうややこしいルールになっていた。お互いの貢献度をもとにいくつかのパターンを決めていたのだった。それはできるだけたくさん青葉に報酬を払いたい佐竹と、それを固辞する青葉との妥協の産物だった。
 
「いや、それは減らしてください。5割もいただけません」
「でも、そちらは生活がかかってるし。お嬢さん来年大学受験でしょう?」
 
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色々話した結果、慶子の取り分3割、青葉は従来通り1割で、青葉の言う「みんなのもの」口座(資料館の資料購入費やデータベース化費用などに使用)に6割を入金することとした。
 
これで佐竹側の取り分が減ったのではあったが、実際にはこの時期から依頼自体が増えるようになり、結果的に佐竹家の総収入は前年より微増した。
 
「たぶん全部青葉さんがやってるから祈祷のパワーが上がって、リピーターが増えたり口コミが広がったからだと思います。うちの父ちゃんの祈祷はあんまり効いてない感じだったもん」
と後で慶子は言っていた。
 

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事件から1ヶ月後、職場復帰した彪志の父にいきなり転勤の辞令が出た。行き先は八戸支店である。
「いやあ、参った」と彪志は青葉に言った。彪志が緊急に青葉を呼び出し(青葉の家には電話が通じないので未雨に伝言を頼んだ)、ふたりは海岸で座って話していた。
 
「サラリーマンだもん。転勤は仕方ないよ」
「4ヶ月半も入院して会社に迷惑掛けてたからね。文句も言えない。しばらく会えなくなっちゃうけど、俺青葉のことずっと好きだから」
「ありがとう。でも向こうで好きな人ができたら私に遠慮しないで」
「・・・手紙書くからさ」
「お返事書くね」
「八戸はそんなに遠くも無いし。またすぐにきっと会えるさ」
 
そんなことを言って別れたものの、実際にふたりが再会したのは1年9ヶ月後、震災後の連休に青葉が岩手に行った時であった。ただし手紙のやりとりは続いていたし、電話でも月に数回話していた。電話は彪志から掛けてもつながらないので、彪志の手紙の末尾に「○月○日の放課後、電話欲しい」などと日時の指定があり、テレホンカードが同封されていて、その時刻に青葉の方から公衆電話で掛けるようにしていた。
 
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その時はそういう先のことまでは考えずにふたりはふつうな感じで駅でお別れをした。嵐太郎を見送った時は駅舎の隅で話したのだが、彪志とは他のみんなもいる前で、友人のひとりとして、ふつうに列車のそばで
サヨナラを言った。これで「お別れ」じゃないから、と彪志も青葉も言った。
 
「ほんとにお世話になりました」
と彪志の父が青葉に挨拶をした。彪志とは握手をした。
「誰?この子?」と質問が飛ぶので彪志は「俺の彼女」と言う。
「ひゃー」とか「ひゅー」とか声が飛ぶ。
「私、恋人関係になること同意した覚えはないんだけど」
「でもここには来てくれたからね」と彪志。
 
「キスしないの?しばらく会えなくなるんだから」と彪志の友人が煽るが「まだ小学生だからキスは無し」と彪志は答えた。
ふたりは笑顔で手を振って別れた。
他の友人達がホームから離れても、青葉は列車が線路の向こうに見えなくなるまで、ずっとホームに立ち続けて列車を見送った。
 
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(旅立つ大伴狭手彦を岬でずっと見送った)松浦佐用姫(まつらさよひめ)の気分かな、と青葉は一瞬思った。
 
 
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