広告:ここはグリーン・ウッド (第6巻) (白泉社文庫)
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■寒椿(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-05-01

 
それは青葉が千里たちと出会う1年前、青葉が中学に入学した時のことであった。
 
入学式の朝。早朝に青葉と姉の未雨は起きると目配せして早めに家を出た。両親ともまだ寝ていた。2人が起きるのはだいたい7時半か8時頃である。顔を合わせると難癖付けて殴られたりするので、青葉も姉も両親が起きてくる前に家を出るのが習慣になっていた。
 
ふたりだけの秘密の「隠れ家」に行き、前日乏しい予算で買っていたスーパーの残り物のパンをふたりで分けて食べる。
「青葉、私バイト探すから」「どんなバイト?あまり変なのはやめてね」
「大丈夫よ。何か食べ物を扱う所がいいな。残り物をもらえるような」
「それいいね」
「青葉がいろいろ心霊相談とかしてもらった報酬のおかげで私も生き延びてる訳だし、私も少し稼がなきゃって。それとさ、私高校出たらあんたを連れて家を出ようと思う」
「揉めそう。。。」
「揉めたっていいさ。あと2年なんとか頑張ろう」
「うん」
 
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「でもさ、青葉。あんたその格好で学校に行くつもり?」
「制服無いから仕方ないし」
「じゃなくてスカート姿でいいの?」
「だって小学校ではずっとこんなだったしね」
「まあね。。。。ホントに青葉、女の子だったら良かったのにね」
「私は女の子だよ」
「うん」
無表情で返事をする青葉に未雨は優しく微笑んだ。この子の顔に笑みが戻るのはいつのことだろう、と未雨は思った。いつも父親の暴力から自分を守ってくれてひとりで責め苦を受けていた。そのためいつしか感情を失ってしまったかのような表情になってしまった。しかし不思議なのは青葉の体質だ。かなり父親から殴られているのに、殴られた跡のようなものが一切無い。青葉は「殴られ方があるの」
などと言っていたが・・・・
 
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制服については自分の中学時代の制服がせめて使えたら、と未雨は思った。あれは自分が卒業したあと母が売り飛ばしたのである。売る時に未雨は写真を取られた。母がいったいどこに売ったのか考えたくも無かった。母はしばしば自分用に妙に色っぽい下着を買ってきて穿かせてはすぐに脱ぐように言って、それを売っているようであった。ほんとにいいかげんにして欲しい。こんな家早く出なくてはと未雨は思う。バイトを見つけるのは独立のための第一歩だ。
 
「じゃ頑張ろうね」とふたりは手を振り、各々の通う学校へと別れて行った。
 
青葉が私服のポロシャツとスカート姿で学校に出てくると、早速教師に咎められた。
「君、なぜ制服を着ていないのだね?」
「済みません。制服を買ってもらえなかったので」
「そんな馬鹿な話があるか?」
などと教師が言ったが、すぐに小学校時代からの級友が弁解してくれた。
「先生、この子、親から何も世話してもらってないんです。御飯さえもらってないんですよ」
「何?御飯もだと?」
「はい。それで小学校の時は、御飯とか洋服とかも友達から分けてもらってました」
「うーん・・・・入学式終わったらちょっと職員室に来なさい」
 
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青葉は結局私服のまま入学式に参加し、そのあと職員室に行って、担任の先生から家庭での実態についていろいろ訊かれた。途中から校長や生活指導の先生らも加わり青葉の話を聞くと、皆「それはひどい」と言っていた。
 
制服にしても姉が2年前まで使っていたものが使えたら良かったのだが、それは姉の卒業直後に母がブルセラショップに売り飛ばしてしまったと語るとなんて親なんだと怒る先生が多かった。
 
「これ児童相談所に通報すべきですね」と生活指導の先生が言う。
「やめてください。私と姉は取りあえず何とか生き延びているので。大人の人が来て、私達の養育のことで話をしたりすると、そのあとひどく殴られるんです。今まででも」
「うーん。。。。」
「とりあえず、何とか制服が調達できないか努力してみますので、それまでは私服での通学を認めていただけませんか?」
 
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青葉が感情を殺したような独特の口調ながらも、ひじょうに大人びた言葉遣いで話すため、先生達もとりあえず青葉の家庭との接触に関しては少し様子を見てからということになった。
「制服は、私がちょっと卒業生に声掛けてみるわ」と保健室の佐々木先生が言った。「それ、お願いします」と生活指導の先生が言った。
 
翌日、佐々木先生が早速制服を調達してきてくれていて、青葉は保健室に呼ばれた。
「うまい具合にまだ持っていた卒業生がつかまったのよ。さ、着替えてみて」
「ありがとうございます」
青葉はいつもの無表情で感謝のことばだけ言うと、その場で着ていたポロシャツとスカートを脱ぎ、佐々木先生が渡してくれたセーラー服の上下を身につけた。青葉が下着姿になった時、佐々木は青葉の体に虐待の跡が無いか注意して見たがそのようなものは見あたらず、少しホッとした。ブラに収められた胸がまだ小さい。栄養が充分でないせいかも知れないとも思ったが、1年生ではホントに胸の無い子もいるから標準からそんなに外れてもいないだろう、と佐々木は思った。
 
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「これで中学生らしくなったわね。さ、これで授業受けてらっしゃい」
「ありがとうございました」
青葉はていねいにおじぎをして教室に戻っていった。
 
青葉がセーラー服を着て教室に入ってくると、青葉のことを知る級友たちからざわめきが漏れた。特に仲のいい早紀から突っ込みが入った。
「何?青葉、女子として学校に通えるの?」
「うーん。とりあえずこの服もらったから、これ着とく」
「ふーん。ま、いっか」
 
その日の2時限目は身体測定であった。青葉は当然女子のほうに付いていく。何人かそれを見てぎょっとしている女子がいるが、青葉はふだんめったに見せない笑顔で手を振った。早紀などは気が気ではない。さすがに下着姿になれば、女の子でないことがバレるのではと思って少しハラハラして見ていた。
 
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青葉のほうが早紀より少し前の順番である。名前を呼ばれてパーティションの向こうに消えていく。そろそろ服を脱いだ頃?もしかしてそろそろ悲鳴が?などと心配していたがそれは空振りに終わった。やがて青葉は何事もなかったかのように、いつもの無表情な顔で出てきた。
 
「終わった?」「うん。終わったよ」「何か言われなかった?」「別に」
いったいどうなってるんだ?? 早紀は青葉の次の子が出てきたところを捕まえて聞いた。この子は他の小学校から来たので青葉のことを知らない。
 
「ね、青葉、何か変じゃなかった?」「変って?」
「その・・・・」
「うーん。わりとおっぱい小さい方かな。でももっと小さい子もいるしね。身長低いからおっぱいの発達も遅いんじゃない?」
などと言っていた。たしか青葉は身長が150cmくらいの筈である。
 
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青葉まさか性転換しちゃってないよね・・・・と早紀は首をひねっていた。
 
翌日は体育の時間があった。青葉は当然のごとく女子更衣室に入ったが、小学生時代の級友数名につかまった。
「青葉、あんたが女子更衣室を使っていいかどうか確認させて」
「どうぞ」
「まず服を脱いでよ」
「うん。着替えるには脱がなきゃ」といってセーラー服を脱ぎ、ブラとパンティーだけになる。
「よく見せて」
といって、取り囲んだ級友たちがじっくりと青葉の体を見ている。
 
「おっぱい、一応あるね」と顔を見合わせている。
「あるよ。小さいけど」と青葉はいつも通りの顔で答える。
早紀は取り囲むメンツには入っていないものの、少し離れた所から心配そうに眺めていた。ほんとに青葉は胸にかすかな膨らみがあった。どうやってあんな胸を作ったんだろう。小学生時代は、青葉は男子とも女子とも別の部屋でひとりで着替えていたので、早紀も青葉の下着姿を見たのは小学2年生頃以来だった。むろんその頃はブラなどはつけていなかった。女の子パンティに少し異様な膨らみがあったけど。。。。でも今の青葉にはその膨らみが見あたらない。
 
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「でもおまたにはあれがあるんでしょ?」
「さあ」と青葉はとぼける。「触ってみていいよ」
取り囲んだメンツは顔を見合わせていたが、そのうちひとりが
「あたしが触る」と言って、青葉のおまたにパンティの上から触った。ん?ん?などと言いながら数秒触っていたが、やがて手を離した。
「何にも付いてないよ。それに割れ目みたいな感触あった」
 
「青葉、性転換しちゃったの?」と取り囲んでいたメンツのひとりが訊く。
「秘密。でも私自分では自分のこと女の子だと思ってるの。だから女子更衣室に来たんだけど」
取り囲んでいたメンツはしばらく顔を見合わせていたが、そのうちひとりが
「青葉の体がどうなっているのかは分からないけど、一応見た目女子だから女子更衣室でもいいんじゃない?おちんちん、もし付いてたとしても、それをぶらぶらさせたりはしないだろうし」と言う。
「そうだね」
「じゃ、いいことにしよう」
ということで、彼女たちの『試験』を青葉はパスしてしまった。
 
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早紀は彼女たちが離れたあと青葉に近寄り「ね、取っちゃったの?」と訊く。「秘密」と言って青葉はめったに見せない笑顔を一瞬早紀に向けたあと、またいつもの表情に戻り、制服と同様に保健室の先生が調達してくれていたジャージを身につけた。
 
翌週月曜日の放課後にクラブの紹介と勧誘が体育館で行われた。青葉は説明を聞いたあとそのまま帰ろうとしていたが、更衣室で青葉のおまたに触った子・椿妃に捕まってしまった。「ねえ、青葉どこか入るクラブ決めた?」「別に」
「じゃ、コーラス部に来ない?あんた凄い高音出るでしょ」「うん、いいよ」
椿妃は相変わらずこの子は表情からは何も気持ちが読み取れないなと思いつつも、別にいやがってはいないようだよなと思い、コーラス部の部室になっている音楽室に連れていく(ブラスバンド部は隣の音楽準備室を使っていた)。
 
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入部届に椿妃に続いて青葉が記入する。名前を記入して性別は女の方に○を付けるのを椿妃は見た。「私、パートは分からない」などと言っているが、「この子、ソプラノでいいですよ。テストしてみてください」と椿妃がいうので、テストしてもらった。ピアノの音に合わせて青葉はしっかりとした伸びのある声を出す。実は声明で鍛えているので大きな声を出せるのだが、そこまでは椿妃も知らない。
 
青葉の声は下の方はE3まで出た。アルトのいちばん下の音より低い。そして問題が上の方である。まだ出るのか?とピアノの音を出している3年生が目を見張っている。教室にいた部員たちがみんなおしゃべりをやめて青葉の方に注目した。結局青葉の声はA6まではきれいに出てB6は苦しかったが、B♭6なら何とか出る感じだった。
 
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「この子、小学校の音楽の時間の合唱ではアルトに入れられたりソプラノに入れられたりしてましたけど、どちらもきれいに歌えてました」と椿妃はいう。「ソプラノでお願いできる?」と部長の3年女子が言った。「でもここまで出たら、魔笛の『夜の女王のアリア』とか歌えるでしょ」と言う。青葉は「はい。それ随分歌わされました」と言って、「Cの音下さい」と言ってピアノの人に音をもらうといきなりアカペラで歌い出す。
 
「So bist du meine Tochter nimmermehr.
 So bist du meine Tochter nimmermehr.
 hahahahahahahaha-ha, hahahahahahahaha-ha,
 hahahaha hahahaha hahahaha-hahahaha-hahahaha-hahahaha-ha,
 meine Tochter nimmermehr.
 hahahahahahahaha-ha, hahahahahahahaha-ha,
 hahahaha hahahaha hahahaha-hahahaha-hahahaha-hahahaha-ha,
 So bist du meine Tochter nimmermehr」
 
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部室全体から割れるような拍手。
『この子、無表情だけどノリはいいのよね』と椿妃は拍手しながら思っていた。
 
部長が「ブラーバ!」と言って拍手しながら近寄ると「6月に大会があるからさ、ソプラノで出てよね」と嬉しそうに言う。
 
ただ椿妃にはひとつだけ不安があった。「青葉、声変わりとかしないのかな」と。
 

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