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■寒竹(3)
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翌日、慶子に車で学校まで迎えに来てもらい病院に行く。まだ彪志は学校から帰ってきてなかった。付き添っていた奥さんにいったん病室から出てもらってから、青葉は病室の四隅に塩を盛り、それから用意してきた「こけし」に室内にいる3人、鈴江さん、慶子、自分、に付いていた「標的マーク」を移した。
ここでの処理を終えたところで、奥さんに「もう入っていいですよ」と声を掛けたら、彪志も来ていた。
「現場に行って仕上げをしてきますから」と青葉が言うと「あ、俺また案内してくるね」と彪志が言った。3人で現場に向かう。車を廃車より手前に停めた。青葉と彪志に清めの塩を振ってもらい、2人で歩いて現場に近づく。
「だけどこうして見てると、青葉って、ほんとに女の子にしか見えないね」
「私、女の子だよ」
「気のせいかな・・・・体臭も女の子の臭いという気がする」
「体臭で性別が分かるって、彪志さん、いい鼻してるね」
「あ、俺のことは呼び捨てにしてよ。「さん」付けされると気持ち悪い」
「了解、彪志」
「女の子の臭いは甘酸っぱい感じの臭い。女の子の集団がいた部屋に入ると、強烈に感じるよ」
「・・・実はね、その臭い、私も去年くらいまでは感じていたんだけど」
「うん」
「今、それが分からなくなっちゃったんだよね。女の子の集団がいた部屋に入っても何も感じないの」
「つまりそれは青葉自身がそういう臭いを出すようになったということだね。青葉、肉体改造中なんだろ?」
「うん、まあね。あ、これ持っててくれる?」
と言って、青葉は青葉神社の御守りを彪志に渡した。
「君の神社?」
「伊達政宗公を祭る神社だよ」
青葉たちは問題の廃屋と反対側の歩道を歩いて現場前まで行く。青葉は彪志に、この歩道のガードレールからは出ないように言い、ひとりで道を横断して向こう側に渡り、その廃屋の中に入っていった。10分ほどで出てくる。彪志は言われた通り、歩道から出ずに待っていた。
青葉は車道上、彪志から2mほどの所で立ち止まると「その御守りをこっちに投げて」と言った。彪志が投げて青葉がキャッチする。青葉はそれを握ったまま廃屋のほうを振り返り、何かしている感じだった。「よし」
というと、青葉は彪志の方を見て、ニコリと笑い、歩道上まで戻って来た。
「終了。でもこれ、彪志に来てもらって良かった。女の子だと、私にちゃんと投げてくれなかったりして私困っちゃってたかも」
「あはは」
「でも、これでこの場所と私達の縁は切れた。お父さんの怪我もこれで回復に向かうよ」青葉は元来た道を戻るように彼を促しながら言う。
「ありがとう。こけしは?」
「あれは身代わりだからね。廃屋の中に置いてきた」
「誰かがあそこに侵入してそれ持ち出したりしたら?」
「禍を受けるだろうね、持ち出した人が。でさ」
「うん」
「驚くなかれ。あの廃屋の居間にこけしが既に2体あった」
「えー?」
「私と同様の処理をした霊能者の先客が2人いたってこと」
「すごいな」
「こけしって身代わりにするには最高の術具だからなあ。ま、とにかくここには、そこの廃車より先には近づかないことだね。この廃車が『地獄の一丁目』の合図。霊的な力までなくても霊感体質の人ならこの廃車で引き返すよ」
「あ、こっちにきたら何となく空気が変わった気がする」
「ああ、彪志も分かる?この手のスポットにはしばしばこういう緩衝領域があるのよ」
「その御守りはどうするの?」
「もうこれは使用済み。中身空っぽになっちゃったから、週末に私仙台まで行って青葉神社に納めてくるよ。それで完全に終了」
「病室の盛り塩はどうするの?」
「放置でいいよ。もし崩れたり溶けたりしたら片付けておいて。ふつうにゴミに出せばいいから」
「OK」
慶子の車で病院まで戻り、そこで念のため3人全員と車に清めの塩を振った。病室に行き、処理が終わったことを報告し、最後に仙台まで行って処理に使用した御守りを納めてくると言ったら、週末なら彪志に送らせましょうと鈴江さんは言った。
青葉は「助手の私が行ってきます」と言ったのだが鈴江さんは「隠さなくてもいいですよ。あなたのほうが先生でしょ。見てたら分かります」と笑いながら言った。
「それであなたが最初ここに来た時『真打ち登場か』と思って、処理をお願いすることにしたんですよ。だって、あなたの持っている雰囲気が強烈だもん」
慶子が「済みません。ご推察の通りです。うちの先生、まだ小学生なので、こちらが先生と言っても、ふつう信用してもらえないもので、私が前面に立たせていただきました。でも腕は確かですから」と恐縮して説明した。
青葉も「済みません。私の曾祖母が凄い人だったのですが、私が小学2年の時に亡くなったあと、事実上私が継承しました。実際には曾祖母が亡くなる2年前、私が幼稚園の年長の時から実質継承していたのですが」
「凄いですね」
「佐竹には申し訳ないことをしました。早めに異変に気付いてあげられたらよかったのですが」
佐竹の遺体は、亡くなった時の状況が特殊であったため、警察の検死に回され今日戻って来ていた。このあと、お通夜になり、明日葬儀の予定である。
そして週末、青葉は彪志と2人で高速バスに乗り、仙台に出て、青葉は先日修学旅行で訪れたばかりの青葉神社を訪問した。「空っぽになった御守り」を納め、代わりに病気平癒の御守りをもらった。彪志にその場で渡す。
「ベッドの支柱に掛けておいて」「了解」
「晩飯食べてから帰ろうよ。交通費・食費は全部俺のほうで出せと親父から言われてるから。美味しい天麩羅屋さん知ってるけど行かない?」
「マクドナルドでいい」
「しかし昼がミスタードーナツで夜がマクドナルドじゃ、親父から叱られそうだ」
「小学生の好みなんて、そんなものだよ」
「ふつうの小学生ならね。青葉は小学生と思えない。俺より年上みたいな感触あるよ。頼りになるお姉さんって感じ」
「でも私の場合、ミスドとかマックとか凄い贅沢品だから。ふだんほんとにつましい食生活なんだよ」
「未雨ちゃんからそのあたりも聞いてた。じゃ、せめて、ファミレスにしようか」
「まあそのくらいなら」
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