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■寒蘭(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-06-13
 
これは青葉が小学5年生の11月頃の物語である。
 
その日は連休の最終日で、青葉と未雨のふたりは土曜日から泊まりがけで祖母の家に来ていた。最近、青葉たちの両親は青葉や未雨が家に居ても居なくても全然気にしていないため、ふたりは週末を祖母の家で過ごすことがよくあった。その日の夜は祖母・祖父・未雨・青葉の4人で食卓を囲む。
 
「いっそ、お前たちずっとこちらで暮らすかい?」と祖父から言われたが「たぶんそれ言い出すと、抵抗されると思うんだよね」と青葉は言う。
「それに私、今の学校が気に入っているから転校したくないし」
「青葉、今の学校では完璧に女の子してるもんね。学校がけっこう配慮してくれてるんでしょ?」
「お前、ずっとその格好のままで通していくつもりなのか?」と祖父が言うが「だって私、女の子だから」と青葉は『いつものことば』を主張する。「いいじゃないの。この子、本当は女の子に生まれるはずだったのよ」と祖母がかばう。
 
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「しかし小学校は私服だけど、中学になると学生服着ることになるぞ」と祖父が言うが
「どうかしら。この子、セーラー服着て中学に行ったりしてね」と未雨。
「青葉はきっと、中学に行っても高校に行っても、女の子のままという気がするねえ。そして、きっといい恋人ができて、可愛いお嫁さんになりそうな気がしてならないわ」などと祖母が言った。
 
「お嫁さんか・・・・私、なれるかなあ」
「なれる、なれる。青葉みたいに可愛ければ、言い寄ってくる男の子いるから」
青葉はそうなったらいいなあ、などと思うが、そう思いつつも、実はその問題に関して青葉は、ほとんど諦めていた。
 
春頃から始めた「男性機能停止大作戦」はほぼ完成しつつあった。
 
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青葉は自分の性腺がほぼ完全に機能停止したことを確信していた。それはもう『男になってしまう』ことを恐れる必要がなくなったことを意味したが、同時に自分はもう子供を作ることができなくなったことをも意味していた。そのことを青葉はさすがに少しだけ寂しい気がした。両親の愛を得られない青葉にとって、ほんとうは自分がいづれ愛情ある家庭を作りたいというのが夢だった。しかし、子供を作ることができなくなったということは、その夢は諦めて一生ひとりで生きていかなければならないということを意味する気がした。
 
私、結婚とかは不可能だろうしな・・・・・と青葉は思う。性転換手術のこと、「特例法」のことは理解していたので、自分もいづれ性転換手術はしようと思っていたし20歳を過ぎたら戸籍上の性別は女性に変更するつもりではいたが、自分みたいな女の子を愛してくれる男性なんていないだろうし、などと思ってしまう。そしてそれはそんなことを考えていた、連休明けの火曜日のことだった。
 
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朝礼で担任の先生が、スラリとした身長165cmくらいの美男子という感じの男の子を伴って入ってきた。
 
「転校生を紹介する。橋元嵐太郎(はしもと・らんたろう)君だ。橋元君は、土曜日からこちらの市内で公演をしている橋元劇団の座長の息子さんで、劇団が公演をする1ヶ月間だけ、この学校に通うことになる。1ヶ月後にはまた転校してしまうが、その間みんな仲良くしてやってくれ」
「橋元嵐太郎です。短い間になりますが、みなさん、よろしくお願いします」
 
嵐太郎はよく通る、ハイトーンな声で挨拶をした。美形なこともあり、女子の間でざわめきが起きている。
「なんか格好いいね」と隣の席の早紀も言うので、青葉も「うんうん」と頷いておいた。ふーん。ああいうのが女の子には人気なのかなあ・・・・青葉はその時は嵐太郎にそう興味を感じなかった。
 
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その日の3時限目、青葉たちのクラスは理科室で実験をしていた。嵐太郎が青葉たちの班に入っていた。試験管に薬品を入れてホルダーに置こうとした時、一瞬青葉は嵐太郎と目が合った。嵐太郎がニコっと笑う。思わず青葉はニコっと笑顔を返してしまった。その瞬間、ドキっと心臓が音を立てたような気がした。何?今の?1日ほぼ全部無表情で通している青葉にとって、そもそもニコッとすること自体が『不覚』という気がしたのではあったが・・・・
 
その日の放課後、嵐太郎が「招待券あげるから、ぜひうちの公演見に来て」
などと言っていたら、早紀が「見に行く、見に行く」といって招待券を3枚もらってきた。「3枚?」「私と青葉と咲良ね」などという。
「私も行くのか」青葉と咲良は同時に声を上げた。
 
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会場は市内の旅館であった。中に入ると、ホールにはけっこうな人がいる。青葉は幼稚園の頃、ここで1度旅芸人の公演を見たことがあったのを思い出した。しかし旅から旅へというのはたいへんだろうな、などと思ったりする。物語は何かの時代劇のようで、たぶん有名な物語なのだろうなとは思ったが、青葉には筋がぜんぜん読めなかった。これたぶん、本来の物語展開の見せ場だけをつないでいるのかな?という気がした。元々の物語を知らないと、筋が分からない訳だ。
 
やがて凄い拍手があって、お姫様風の衣装を着けた子供の役者が出てくる。「きゃー、嵐太郎君、かわいい!」などと早紀が声を上げるので、よくよく見ると確かに嵐太郎だ。ああ、女形(おやま)なのか、と青葉は思い至った。俗世間のことに知識のない青葉だが、性別問題の絡みで『女形』という言葉は知っていた。「ね、ね、ね、凄い可愛いね」と早紀は興奮気味である。青葉は咲良と顔を見合わせている。
 
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嵐太郎は傘を持ったまま何かの舞を舞っていたが、きれいな踊りだと青葉は思った。かなり傷んだ感じのカセットテープ?から流れる音楽に合わせて舞っているが、音楽のひどさに比して嵐太郎の舞にはセンスの良さを感じた。青葉は初めて嵐太郎に興味を感じた。
 
公演後、早紀は青葉と咲良を連れて楽屋のほうに行く。
「済みません。こちらは関係者以外立ち入り禁止なので」と言われたが「あ、それ僕のクラスメートだから通してください」と奥から嵐太郎が言って3人は楽屋の中に入った。
 
嵐太郎はもう衣装を脱いでジャージの上下を着ていたが、メイクはまだこれから落とすところのようだ。
「嵐太郎君、すっごく可愛くなるのね」と早紀はまだ興奮した感じで話す。
「ありがとう」
「同じ女装でも、青葉のとは全然タイプが違うんだな、と思っちゃって」
「え?青葉ちゃんって女装なの?」
青葉は苦笑いしながら「まあね」と答える。
「だって、女の子にしか見えないよ」と嵐太郎が言う。
 
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「まあ、物心ついた頃から、私は女の子の服しか着てないから」
「僕も物心ついた頃から、女物の服着せられて舞台にあがってたけどね」
「へー。じゃ女装歴は、青葉も嵐太郎君も似たようなものか」
「いや、それは少し違う」「いや、そういう分類は乱暴」
と嵐太郎と青葉がほぼ同時に言った。
 
「だいたい僕は舞台の上だけ女物の服を着ているけど、青葉ちゃんはたぶんいつもそういう服なんだよね」
「うん」
「それと女形というのは『物語の展開の上で女役をしている男の役者』というのを主張しないといけないんだ。基本は男。『女にしか見えない』のでは僕が思う女形じゃないけど、青葉ちゃんは根本的に女の子であって、そもそも男の子の要素が存在してない感じ」
「ああ、そうか。私、嵐太郎君は女物の服を着ていても恋愛対象になるけど、青葉はもし男の子の服を着ていたとしても恋愛対象じゃないもんなあ」
 
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「私も女の子は恋愛対象じゃないよ」と青葉は苦笑しながら言う。
「私の恋愛対象は男の子」
「そういえば前にもそんなこと言ってたね」
「ふーん、青葉ちゃんは男の子が好きなのか。恋人とかいるの?」
「いませんよ」と青葉は困ったような顔で答える。どうも今日はポリシーにしている無表情が貫けないな、と青葉は思った。
 
それから一週間ほどした日の放課後だった。青葉はストックしていた食料が前日母に見つかり全部持って行かれてしまったので、補充の買い物をしに、スーパーに来ていた。また別の隠し場所考えないと・・・などとも思うが、自宅内でものを隠せるような場所は限られている。
パスタコーナーを見ていた時、ばったりと嵐太郎と出会った。
 
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「あ、こんにちは」「こんにちは」
「偉いね、買い物のお手伝い?」などと嵐太郎が訊く。
「うーんまあそんなものかな。嵐太郎さんも買い出し?座長の息子さんでもそういう雑用するのね」
「いや、むしろ雑用こそが座長一家の仕事」
「あ、なるほど、そんなものか」
「ね、今少し時間ある?」などと言うので、お互いの買物を終えてから、道々話しながら帰ることになった。
 
「でも青葉ちゃんの女装はほんとに完璧だね。色々教わりたいなあ。どうやったら、そんなにちゃんと女の子のオーラが出るのか」
「むしろ、私は男の子の感覚が分からないけどね」
「ね、一度じっくりと青葉ちゃんを観察させてくれない?」
「観察って何するの?」
と青葉は苦笑する。どうも嵐太郎の前ではポーカーフェイスが保てない。
 
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「うーん。一緒に散歩したり、おしゃべりしたり」
「そのくらい、いつでもいいけど。嵐太郎さんも女の子の服着てくるの?」
「僕、舞台ではいつも女物の着物着てるけど、時代劇ばかりだからさ、ふつうの女の子の服って持ってないんだよね」
「・・・貸してあげようか?スカートとか女の子っぽいパーカーとか」
「ええ?ほんと?そういうの1度着てみたいと思ってた」
「ただ嵐太郎さん、背が高いから、私の服合うかなあ」
 
「何とかなるさ。ね、明日は公演が休みなんだ。2時間くらい一緒しない?」
「いいよ」
「じゃ明日4時半にサンシャイン公園のシンボルの所とかどう?」
「OK。あ、早紀が嵐太郎さんのファンみたいだから一緒に連れて来ようかな」
「えーっと、とりあえず明日は青葉ちゃんと2人だけで話したいな」
「ふーん」
と青葉は答えてから、『あれ?これってもしかしてデート??』と思い至った。
 
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翌日の放課後、青葉は適当にみつくろった服を持って公園のシンボルの所に来た。「やあ」と嵐太郎が片手をあげて挨拶する。青葉は軽く会釈をした。
早速公園のトイレで着替える。
「わあ、スカート穿くの初めて」などと喜んでいる。
「やみつきになったりしてね」
「女装って癖になるっていうもんなあ」
膝下まであるスカートだったのだが、嵐太郎が穿くと膝上になってしまう。裾長めのパーカーを持ってきたのだが、嵐太郎が着ると短めになった。しかしちゃんと破綻無く着こなせている感じだ。
 
「ちゃんと女の子に見えるよ」と青葉は言う。
「そう?こういう格好するの初めてだから少しドキドキ」と嵐太郎。
「じゃ、少し散歩する?」
「うん。しようしよう。ありがとうね、青葉ちゃん」
「あ、私のことは呼び捨てでいいよ。みんな友達はそうしてるし」
「そう?じゃ、青葉。あ、僕のことは『ラン』と呼んで」
「OK、ラン」
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