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■寒梅(3)

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ゴールデンウィークの最後は四国への旅であった。青葉は飛行機で羽田乗継ぎで高知まで行き、菊枝の家まで行った。菊枝は大学を卒業したあと、この4月に引っ越したのだが、連休直前に北陸まで資料のコピー(ハードディスク5台)を持ってきてくれた時「住所は教えないから自力で探しておいで」と母に言付けしていた(青葉はその時は学校に行っていた)。
 
空港を出てから物わかりの良さそうな運転手さんのタクシーを停め、少し面倒なお願いなのだけど、友人とゲームをしているので、曲がり角の少し手前に来る度にどちらに進行するかを言うので、それで目的地まで行って欲しいと頼んだ。
 
タクシーに乗り「受信機」の感度を上げて菊枝の気配を霊査する。
「次右にお願いします」
「ここはまっすぐで」
など、だいたい大きな交差点にさしかかる100mくらい手前で指示を出す。
 
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気配が明らかに強くなり、だいたいこの近くだと思うところで停めてもらって、降りてあとは足で探す。その付近を歩き回って5分で「ここだ」と思う家を見つけた。菊枝の気配は逆に弱くなったが結界が凄い。表札は出ていないが青葉は確信した。
 
呼び鈴を鳴らそうとしたら「鍵開けといたよ」とインターホンから菊枝の声がした。
 
「久しぶり」
「うん。久しぶり、といっても4ヶ月前に会ったばかりだけどね」
「4ヶ月前にこの事態は想像できなかった」
「全くだね。でも青葉がたぶん北陸に行くだろうというのは実はあの時分かってた。それがいつになるかまでは分からなかったけどね」
「すごーい。その時点では私、北陸とは何の接点も無かったのに」
 
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「まあね。でも感情と表情の封印は完全に解除されたみたいね」
「うん。新しくお姉さんになってくれた千里さんが私と同じMTFで、すごく親身に私のこと思ってくれてるの。新しいお母さんもとても優しいし。もうひとりのお姉さんの桃香さんは、私を叱ってくれるし」
「理想的な家族ができたみたいね」
「うん」
 
「さて、どのくらいちゃんと女になってるか見せてごらん」
「また裸になるの?」
「もちろん」といって菊枝はもう脱ぎ始めている。
青葉もちょっと微笑みながら服を脱いで全裸になった。
「ふーん。青葉、もう完璧に女の子の身体になってるじゃん」
「おっぱい、1月の時より少し成長してるよ」
「感心感心。で、おちんちんはどこに行ったの?」
「タックっていうんだけど。ここ接着剤で留めてるんだけど外した方がいい?」
「いつもそうしているのなら、そのままでいい」
 
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「寝たほうがいいかな?」
「うん。そこ、私のベッドだけど取りあえず横になって」
菊枝はそこに腰掛けて優しく青葉を見ながら青葉の身体を霊査していった。菊枝のバストがまぶしい。青葉はなぜわざわざ菊枝まで裸になったんだろうと考えていた。
 
「ふむ。ここまで完璧に女性器官を再現するというのは大したもんだね。気をかなり扱える人でもここまではできないよ。しかもこの女性器官がちゃんと働いているんだね」
「だって生理あるもん」
「そう言ってたね」
「ね、私の再現、どこかおかしいところとかは無い?実物は3年前に1度見ただけだから」
「うーん。ちょっと待ってね・・・・ああ、ここ少し修正しておこうかな」
などといって菊枝は何ヶ所か、気の流れで作り上げられた青葉の女性器官を修正して行った。その修正のしかたが優しい!青葉はその修正された形をしっかり記憶に刻み込んだ。
 
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「これで、青葉の卵巣も今より快適に働いてくれるんじゃないかな。女性ホルモンの分泌も増えると思うよ」
「私、この身体お医者さんに見せたら、絶対ホルモン剤飲んでると思われるよね」
「でしょうね。ふつうあり得ないもん」
 
「チェック終わったから少しヒーリングしてあげる」
「え?」
菊枝は裸のまま青葉の横に寝て一緒に毛布をかぶると、青葉をしっかり抱きしめた。
「あ・・・・・」
「心を楽にして」
「うん」
菊枝はただ抱きしめているだけだが、青葉は涙がたくさん出てきた。たくさんの悲しいことがあった。青葉はそれを気力で押さえていたが、菊枝はその感情の門を優しく開いてしまった。
「たくさん泣くといいからね」
「ありがとう」
ふたりはそのまま30分くらい抱き合っていた。
 
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菊枝に抱かれたまま少し寝てしまったようだ。ふと気付くと菊枝が起きて服を着ている最中だったので青葉も起きあがり服を着た。
 
「おはよう」
「おはよう。どう気分は?」
「なんか心が軽くなった」
「良かった。あれ?」
 
「なあに?菊枝」
「青葉、数珠を使い始めたんだ」
「ああ、気付いた?」
といって青葉は千里に買ってもらった数珠を取り出した。
「きれいな数珠だね」
「ありがとう。千里姉ちゃんに買ってもらった」
「わざとその人に買わせたね」
「うん。私の心の鍵を預けてるから」
「優しい数珠だ。ローズクォーツは今いちばん青葉に必要なものだよ」
「ありがとう」
「何に使ってるの?これきれいだから霊的な処理には使ってないでしょ」
 
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「うん。私、般若心経を毎日108回唱えるのを始めたんだ」
「供養に?」
「うん。姉貴と、それに姉貴と一緒に消えちゃった小さな命のために9回、ばあちゃんとじいちゃんのために9回、父と母のために9回、亡くなった友人たちのために9回、この震災で亡くなった全ての人のために9回、今生きていて頑張っている人達のために9回、応援してくれている世界中の人のために9回、私の新しい家族3人のために9回ずつ、今いる友人たちのために9回、そして自分のために9回。これで合計108回」
 
「毎日それだけ唱えてたら頭が透明になるでしょ」
「うん。やってみて分かった」
「この手の修法は実際にやらなきゃ分からないんだよね」
「だね。この数珠はその回数を数えるのに買ってもらったの」
「ちょっと触っていい?」
「うん」
と言って数珠を菊枝に預ける。
「いい石だね。持った時に暖かい」
といって菊枝はしばらく数珠を触っていたがやがて
「ありがとう」
といって青葉に返す。
「あ。数珠がパワーアップしてる!」
菊枝は優しく微笑んでいた。
 
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菊枝とは「資料館」の法人化についても話し合った。自分でも色々調べてみたけど社団法人として設立するのがいいのではないかと思うと言うと、菊枝もそのあたりは自分も詳しくないので調べておくと言っていた。社団法人を設立する場合、社員が2名必要なので、その場合、自分と菊枝の2人で設立しない?と青葉は誘った。菊枝は考えておくと答えた。
 

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「はい、これおみやげ」
といって青葉は千里と桃香にあちこちのおみやげを出した。
 
「一関のごますり団子、八戸の南部煎餅、高知の土左日記」
「大旅行だったね」
「お母さんにも同じの買ったから。でも久しぶりに友達に会えて嬉しかった」
「良かったね。青葉の表情ももうすっかり普通の10代の女の子の表情になってきたみたいな気がする」
「ありがとう。まだまだ自分でも充分顔の筋肉が動いてないなとは思うんだけど」
「毎日笑顔の練習してる?」
「うん。朝起きたら鏡に向かって笑顔で」
「よしよし」
 
桃香も青葉がたった1ヶ月でここまで感情豊かな感じに変身するとは思っていなかった。お母ちゃんのリハビリが効いてるんだろうなと思った。毎日26時間くらい笑っているような人だからなと思う。
 
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「今夜食べてから帰るよね?」
「うん。23時の高速バスで帰る」
「それで明日の朝、間に合う?」
「だいじょうぶ。バス降りてからそのまま学校に直行するから。ちょうど学校まで歩いて5分くらいのところに高速バスが停まってくれるのよね」
「JRのほうが楽なのに」
「今回は時間の関係で青森から高知までと高知からこちらまで飛行機使ったから、少しは節約しないと」
「倹約家だよね、青葉は」
「ただの貧乏性」
 
「夕飯はどこかに食べに行く?」
「家で食べるほうがいい!」
「だよね。青葉はそのほうが嬉しいんでしょ」
「うん」
「じゃ一緒にスーパーに買い物に行こう。そして調理は青葉に任せた」
「わー、そういうのも初体験かも」
「じゃ、このおやつ食べたら出かけようか」
 
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青葉は、千里の入れてくれたお茶を飲みながら笑顔でごますり団子を食べる。そしてこういうのがホントの家庭なんだろうな、と思っていた。千里の心が、桃香の心が、暖かくて涙が出そう。そのうち私もこんな感じの暖かい家庭を持てるかな、などとも考えていた。
 
 
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