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■春光(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-05-31
 
青葉は岩手県で東日本大震災に被災し、姉・両親・祖父母を一気に失ったが、縁あって女子大生の千里と桃香に保護され、桃香の母の住む北陸の町で新たに「女子中学生」としてのスタートを切ることになった。
 
4月25日の月曜日、母に付き添われて初登校した青葉は、1時限目の時間を使って校長・教頭・生活指導主事・学年主任・担任・保健主事と今後の学園生活について打ち合わせをし、必要な書類を書いたり、教科書を受け取ったりした上で、2時限目がちょうど担任の小坂巻子先生の授業になるので、小坂先生に伴われて教室に入った。
 
先生が「転校生を紹介します。岩手県で今回の震災に被災して御両親やお姉さんなどを亡くしたのですが、縁があってこちらの学校で就学することになりました、川上青葉さんです。みなさん仲良くしてあげてくださいね」と紹介する。
 
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教室内はざわざわしていたが、青葉が
「みなさん、おはようございます。岩手から転校してきました川上青葉です。よろしくお願いします。えっとこの通り、女子として通学させていただくことになりましたが、戸籍上は男子なんです。『お、美少女転校生』なんて思っちゃった、男子のみなさん、結婚してあげられないのでごめんなさい」
と可愛い声で挨拶すると
「えーー!?」「うそ!!!」
という悲鳴に似た驚きの声が湧き上がった。
 
先生が少し困ったなという顔をする。
「ちょっと静かに!その件は先に私から言うつもりだったんだけどな」
「あ、ごめんなさい」
 
「えー、本人から説明があったように、川上さんは性同一性障害です。戸籍上は男子ですが、見ての通り、本人はほとんど女子ですので、少しだけ配慮してあげてくださいね。体育は女子のみなさんと一緒に受けてもらいますし、トイレも女子トイレの使用を許可していますが、更衣室については、この教室の隣の使っていなかった用具室を、青葉さん用の更衣室とすることになりましたので、男子も女子も覗いたりしないようにね」
と先生が言う。
 
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「それから、もうひとつ」と先生が言う。
「ごらんの通り、川上さんはちょっと表情が硬いのですが、実はこれまで暮らしておられた家庭で、ネグレクトされて暴力も随分振るわれていたようで、その影響で感情表現が下手なのですが、みんなに仲良くしてもらえば、少しずつ心もほぐれてくると思うので、無表情であっても、少し勘弁してあげてください」
と言った。すると青葉は
 
「というわけで、震災孤児でオカマで無表情という三重苦の川上青葉です。どうしようもない子ですが、よかったら色々いじってください」
と、青葉は冗談っぽく言うと、笑顔でぺこりと頭を下げた。
その言い方がおかしかったので、教室が一瞬笑いの渦で包まれる。小坂先生は困惑していたが、青葉は「どこに座ったらいいですか?」と平気な顔で尋ねる。
 
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「あ、えっと、そこに机を入れておいたから」と2列目の右端の机を指した。青葉は赤い学生鞄を持ったまま、その席に座り、隣の席の女子に
「よろしくお願いしまーす」と言って、可愛く挨拶した。
 
「あ、よろしくね」と挨拶された美由紀は笑顔を返した。美由紀は
『どうしよう?この子に私、少しドキドキしちゃう』と思った。
 
教室はざわめいたままであったが、小坂先生は「さ、英語の授業を始めるよ」といって教室を鎮める。
 
「Today, we will start from page 21. Open the textbook. Someone read the text? Hi, Kawakami!」
と先生はいきなり青葉を指名する。
「Yes, ma'am」
と青葉はきれいな英語で答えて立ち上がると、テキストを読み出した。
「Mr. Smith comes to the Airport. "Where are you going?" .....」
 
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教室の中に小さなざわめきができていた。小声でみんなが口にしていたのは2点。青葉って英語の発音が凄くきれい!というのと、青葉の声って女の子の声だよね、というものであった。
 
青葉がテキストを読み終わると、その発音に感心した小坂先生は
「Thank you. Your pronounciation is excellent!」と言う。
すると青葉は笑顔で「Thank you for your compliment.」と答えた。
小坂先生は青葉がさきほどから、けっこう豊かな表情を見せるのに気付いていた。一週間前にチラっと見た時とはかなり違う!新しい家族の人たちの『リハビリ』が多分強烈に効いているんだろうなと思った。
 
2時限目が終わると、たちまち青葉のまわりに人だかりができる。取り囲んでいるのはほとんど女子である。
 
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「ね、ね、ほんとに男の子なの?声も女の子だよね」
「うーん。自分では、私は女の子のつもりなんだけどね。戸籍上は男子ということになってるんだよね〜」
「喉仏も無いよね。まだ声変わりしてないの?」
「私、声変わりはしないよ。だって女の子だから」
この返事にはみんな意図をはかりかねている。
 
「胸はそれパッドとか入れてるの?」
「ううん。生胸だよ。触っていいよ」
「えー?触っちゃおう」と言って、美由紀が青葉の胸に触る。
 
「わー、普通の胸、というか、青葉ちゃん、けっこう胸あるじゃん」
「あ、名前は呼び捨てでいいよ。今一応Aカップ付けてるけど、最近少しきつい感じになってきたのよね。Bカップに変えようかなと思ってるところ」
 
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「あ、じゃ私も呼び捨てにして、青葉。私美由紀だから。女性ホルモン?シリコン?」
「了解、美由紀。お薬とか手術とかはしてないよ。これはおっぱいが大きくなあれ、大きくなあれ、という魔法を掛けたの」
 
「それだけで大きくなるの?」と別の子が信じられないという声をあげる。
「うん」
「じゃ、私にも掛けてよ、その魔法」と、その子、日香理は言った。
「あ、私も呼び捨ててでいいからね。私は日香理」と付け加える。
 
「いいよ、日香理。でも毎日掛けないといけないけど、いい?」「うん」
「それと、これ漫画の魔法みたいに『元に戻す』ことはできないよ。
大きくしちゃってから、小さく戻してって言われても困るけど、ホントにいい?」
日香理はそう念を押されると、ちょっと考えていたが
「うん。いい。やっちゃって、青葉」と言った。
 
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「じゃ、とりあえず今日の分。椅子に座って」と言い、青葉は席を立って日香理をその自分の座っていた椅子に座らせた。
 
青葉はその横に膝を付くと、右手を印でも結ぶような形にして左手を日香理のお腹の下のほうに当てずに2〜3cm浮かした感じにする。そして目をつぶっていたが、やがてその手をお腹の付近から胸のあたりまで上下に動かし始めた。身体にはタッチしない。
 
他の子から青葉に質問が飛ぶが、青葉は返事をしない。集中しているので、聞こえてない感じだ。青葉はその動作を5分ほどやっていたが、やがて次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴ると、動作を中断した。
 
「今日はここまで。また明日」と言う。
「これって気功? ね、ひとつ質問。胸だけじゃなくて、お腹の方からやるのね」
「そう。気功に似たもの。で、おっぱいを作るのは女性ホルモンだから、女性ホルモンを出している卵巣の機能も高めるの」
「ああ!」
「日香理、ちょっと生理の乱れあるでしょ。このヒーリングでそれも治っちゃうかも」と青葉が言うと、「よく分かるね!」と日香理は驚きの声を上げた。「あと自分でツボを押してね。場所はね、触るよ」「いいよ」
「ここと・・・ここと・・・ここ、これが効果強い」
青葉に指で触られたポイントは、確かに感触が違っていた。
「場所、分かんなくなっちゃったら、いつでも教えてあげるから」
「うん」
3時限目・社会の先生が入ってきて、みんなは席に戻った。
 
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実際に日香理の胸は青葉のヒーリングで少しずつ大きくなっていき、6月に入る頃には日香理はAカップを卒業してしまった。青葉の所にはそれを聞いて、胸を大きくしたい子、生理不順などを治して欲しい子などが集まるようになり、青葉はその報酬は「おやつ1個」としておいた。もらったお菓子はみんなで食べるようにしたので、青葉のまわりにはいつもおやつがあふれるようになった。
 

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その日はとりあえず休みの時間になる度に青葉のまわりに生徒が集まり、色々と質問責めにしていた。みんなの質問は主として青葉の性別問題に集中する。震災の被災者というのは半ば忘れられていた。
 
「前の学校でも『女子生徒』だったの?」
「授業中だけ学生服だったの。通学もクラブ活動も女子制服。私みたいな変則的な生徒がきて混乱した先生達の妥協の産物だよね」と笑いながら言う。
 
「トイレとか更衣室とかは?」
「トイレは私、幼稚園のころからずっと女子トイレだよ。更衣室は小学生の頃からずっと専用更衣室あてがわれていたんだけど、去年は同級生の女子たちにしばしば拉致されてって、みんなと一緒に女子更衣室で着替えることが多かった」
「よし、私達も青葉を拉致していこうよ」という声が数人から上がる。
 
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「水泳の水着とかは?」
「小学1年の時はいろいろ準備不足で全部見学したんだけどね。小学2年生以降は女子用のスクール水着で授業出てたよ」
「水着着たら、あのあたりとか、あのあたりとかはどうなってるの?あ、胸はあるのか・・・・」
「私の水着姿は、水泳の授業が始まった時のお楽しみね」
 
青葉が前の学校でコーラス部に入っていたと聞くと、日香理から「じゃうちの部に来て」と誘われ、コーラス部の部室に行った。この学校では音楽室をブラスバンド部が使っていて、コーラス部は理科室で練習していた。理科室に1台古いアップライトピアノが置かれているのであった。
 
「この子、実は男の子なんだけど、ふつうに女子の声が出るんですよ」
と日香理が青葉を紹介する。
「私も君が女の子の声で話しているの何度か聞いたけど、女子の声でどのくらいの声域が出るの?」と顧問の寺田先生に聞かれた。
「D3からC7まで出ます」
 
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「嘘!4オクターブも?」
「出してみます」というと青葉は自分でピアノの前に座り、鍵盤を弾きながら下の方はD3から上の方はC7まで、安定した声で発声してみせた。
「すごーい」
部室のあちこちで歓声が上がる。
 
「調子が良ければC#7とかD7まで出る時もあるけどどうしても出ない時もあるので使えません。C7は一応安全領域ではあるのですけど、風邪引いてたりすると、A6くらいまでしか出ない時もあります。ということで私、アルトでもソプラノでも歌えますよ」とにこりと微笑みながら言う。
 
「もちろん、ソプラノでお願いするわ」と寺田先生は嬉しそうな声で言った。
「ちなみに男子の声は出るの?」
「それは出ないんです。ごめんなさい」
 
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「ね、『夜の女王のアリア』歌える?」という声が部員の中から掛かった。青葉は笑いながら「やっぱりそれ歌わされるんですね」と言うと、自分でピアノの和音を弾きながら階名で歌い始めた。
 
ソドーレーミー、ソソドーレーミー、ソソソソソソソソド、ミミミミミミミミラ、ドドドソ、レレレソ、ミドミソ・ドソラファ・ソドミソ・ドソラファ・ソドドレーファーソーラシドー、ソソソソソソソソド、ミミミミミミミミラ、ドドドソ、レレレソ、ミドミソ・ドソラファ・ソドミソ・ドソラファ・ソド・レレ(♭)ミミ(ナチュラル)ミド・ソーラシド
 
「すごーい!」「ブラーバ!」みんな凄い拍手をする。ドソラファの「ド」がいわゆる「High-F」(F6)でこの音をきちんと出して歌えるのは一流のソプラノの証しである。青葉はそのF6の上のG6,A6も安定して発声することができた。
 
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「先生、ソプラノソロのある曲やりましょう」と3年の女子から声が出る。「うん。何かいい曲がないか探してみるわ」と寺田先生は笑顔で答えた。
 

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