広告:メイプル戦記 (第2巻) (白泉社文庫)
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■春光(2)

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「ただいまぁ」と言って青葉が帰宅すると、桃香の母・朋子は「おかえり」と言って出迎えた。すると、青葉が玄関のところで立って・・・・泣いている!
 
「どうしたの?」とびっくりして朋子が尋ねる「学校でいじめられた?」
「違うの。学校のみんな親切だったよ。仲良くなれた。そうじゃなくて」
「そうじゃなくて?」
「私、家に帰ってきて『お帰り』て言ってもらったのって、凄く久しぶりな気がして・・・・」
 
朋子は玄関に行くと、青葉をぎゅっとハグする。
「いつでも『お帰り』って言ってあげるからね。ここに帰ってくる時も、お姉ちゃんたちの家に行った時も『ただいま』と言うんだよ」
「うん、ありがとう」
「さ、涙拭いて、靴脱いで」
「うん!」
 
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青葉は鞄を置き、制服から私服のトレーナーとスカートに着替えると、宿題を取り出してそれをしながら母に今日あったことを楽しい口調で語った。母はお茶を入れて、その話をニコニコしながら聞いている。
 
「よし、宿題終わった!」
「じゃ、これ」といって朋子は携帯電話を差し出した。
「最低限の機能があればいいと言ってたから適当に選んだよ」
「ありがとう!」
「わあ、防水機能付きだ、これ助かるかも」
「まずは何ヶ所か電話番号登録しなくちゃ」といって、アドレス帳を持ってきて登録しはじめる。
 
携帯電話は母が持つように勧めたものであった。
 
震災以降でも、佐竹さんの所に様々な「霊的相談」が寄せられていた。それを青葉は毎日1度くらい佐竹さんと電話連絡をして、話を聞いては、できる範囲で対応していたのだが、けっこうな長時間通話になることが多く、電話代もかなりかさんでいるものと思われた(一応、青葉が対応できる時間帯に佐竹に掛け、向こうからコールバックしてもらう形をとっていた)。それだけ長時間電話を使うなら、いっそ1台青葉専用のがあったほうがいいと言って、携帯電話を買うことにしたのであった。
 
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青葉は携帯電話など使ったことがなかったので、よく分からないからお任せしますと母に言い、母は「適当に選んだ」と称して、最新のいちばん機能の高い携帯電話を買ってきた。青葉の仕事にはそのくらい必要と考えてのことだった。
 
青葉の所に寄せられる相談の中で震災以降、もっとも多かったのが「行方不明者探索」であった。これには最初正直青葉も困った。行方不明者とはいうものの事実上死んでいる人がほとんどである。青葉が依頼を受けた探索の中で、単に連絡が取れていなかっただけで実際に生きていたのは、最初の頃頼まれた人の中の、4人のみであった。
 
生きている人の場合、その人につながるヒントからその人の反応を探って見つけることができる。これは青葉が子供の頃から得意とする霊査で、曾祖母が生きていた頃も「私よりうまい」と言われてよくやらされていた。ところが、死んでいる人は青葉が霊的に呼びかけても反応してくれないので最初の内青葉はどうしていいか分からなかった。
 
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悩んで考え出したのが「愛用品探し」に似た方法だった。亡くなった人の周囲には、その家族のオーラが付着している。そこで依頼人のオーラをよく確認して、それと同じオーラが残る場所を探すことにした。これをやると、依頼者の行動範囲や、生きている知人などもどんどんヒットしてしまうのだが、根気よく探していれば、見つけることができる。しかしこの方法は、どうしても1人30分以上はかかり、その間ずっと集中を続けなければならないので、さすがの青葉もかなり消耗した。
 
最初に「行方不明者探索」の依頼があったのは、青葉が桃香たちと出会った翌日、酒田まで移動する途中に佐竹さんに電話連絡を入れた時であった。その時はやり方が分からずずっと悩んでいて、翌日の朝、特急に乗って移動していてなにげなく月山をながめていた時に突然方法を思いついた。そして早速列車のデッキで集中してやってみて「ここだ」と思う場所があったのですぐ、乗換駅の新潟で佐竹に電話した。そして佐賀に着いてから再度佐竹に連絡すると果たしてその場所で遺体が見つかったということであった。
 
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この時点では青葉も単に「良かった良かった」と思ったのであったが・・・・・
 
佐竹さんとこに頼むと、行方不明になっている家族の遺体が見つかるらしい、という噂が広まり、依頼者が毎日どんどん来るようになった。佐竹も困ったが、青葉も「さすがにそんなにたくさんできません」と言わざるを得なかった。
 
そこで青葉と佐竹は話し合って、この件の依頼については依頼者を減らすために最低料金を決めることにした。
 
青葉は元々、霊的な相談に関しては、料金を定めず「御厚志」ということにしていたのだが、この「行方不明者探索」は1件最低3万円と定めた。また毎日先着3名までということにした。先着枠を越えた分についてはどんなに頼まれても「これ以上は無理ですから受けられません」と佐竹が突っぱねてくれた。
 
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青葉は、行方不明の人が震災時にいたはずと思われる場所の位置を地図上で確認してもらうとともに、依頼主との会話を録音しておいてもらうように頼んでいた。特に依頼主から行方不明になっている人に『メッセージ』を語ってもらうように頼んだ。青葉が後で、それを聞いて、それをもとに霊査をおこなうためである。
 
青葉は毎日午後の数時間をこの「行方不明者探索」に当てていた。ほんとうは午前中のほうが探索のパワーは高いのだが、探索がヒットする時、青葉は実際にその遺体と対面するのと同様の感覚を味わうので、午前中からそういう対面をするのは青葉自身辛かったからであった。遺体の中にはほんとに酷い状態のものもあり、何度か青葉はつい霊査中に吐き気をもよおしてトイレに駆け込んだりもしていた。
 
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青葉は携帯電話を母から受け取ると、自宅、桃香たちのアパート、桃香・千里・母の携帯、学校、佐竹の連絡用携帯、菊枝の自宅と携帯、佐賀の祖父の家、早紀の母の携帯、咲良の母の携帯、椿妃の母の携帯、弁護士の事務所、などを登録した。岩手の友人達はみんな当面携帯でないと連絡が取れない。
 
「あ、この短縮機能って便利なんだね」などとマニュアルを見ながら言うので母は驚く。「ほんとに携帯のこと知らなかったのね」
 
「うん。人が使っているのは見てたんだけど、たまに借りて使っても番号押してコールする以外のことしたことなかったのよね。マニュアル読んで勉強しよう」
といって熱心に取扱説明書を見ている。母はそういう青葉を楽しそうに見ている。
 
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朋子は桃香を産んだ2年後にもうひとり子供を妊娠したのだがその子は流産してしまった。直後に夫が亡くなってしまったので、もうひとり子供が欲しかったなという気持ちが残っていた。ここでにわかにもうひとり育てることになり、何か楽しい感じがしていた。しかもこの子はいろいろな荷物はしょっていても、根は素直な子だと思った。どちらかというと周囲の人の気持ちを配慮しすぎるくらいのところがある。これまでの家庭環境や、小さい頃から関わることになってしまった『お仕事』がこの子を物凄く早熟な子にしたのだろう。
 
青葉の知識は一般に物凄く、呪術関係はもとより、外国語、化学関係、医学薬学関係、などは凄かったが、一方で今携帯の短縮機能に感動していたみたいに、けっこう世俗のことで知らないことがある。朋子は先週青葉を、映画や落語や遊園地などに連れ回したが、青葉は「落語」というもの自体を全く知らなかった。遊園地でも青葉はジェットコースターというものを知らず「何?この乗り物!山道走っていて崖を駆け下りる時より怖い!」などと感動?していた。
 
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その日はカレーライスで、材料は午前中に朋子が買い出してきていたのだが、青葉が作ってみたいというので、教えながら作らせた。包丁さばきなどは上手であるが「へー、タマネギを最初炒めるんだ!」「アク取りってしたこと無い」
などと基本的なところで知らないことが多かった。
 
「これから毎日青葉に作ってもらおうかな」「うんうん。やりたい!」
「青葉、物覚えはいいから、きっとすぐ料理上手になるよ」
「そうかな」
「うん。お料理上手になると、いいお嫁さんになれるよ」
「私・・・・お嫁さんになれるかな・・・」
「なれるって。ちゃんと理解してくれる人も世の中にはいるから」
「えへ。そうなるといいなあ」
 
朋子はまた驚いた。青葉が涙を流している。「どうしたの?」
「なんか似たようなことを昔、おばあちゃんに言われた気がしたら、なぜか涙が出てきた」
祖母もこの震災で亡くなっている。
 
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「いいんだよ。悲しくなったら泣けばいいの。青葉って、いつも無理しているようなとこ、あるでしょ。いつも笑顔でいるのがいいけど、悲しい時は泣いてこそ楽しい時に笑顔が出るんだよ」
「うん、ありがとう。でももう元気になった」
と言って青葉は「ごはん盛ってくるね」と言い、台所に立っていった。
 

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翌日、学校の2時限目が体育だった。青葉は隣の用具室に行って着替えようとしたが、同級生の女子たちは昨日言っていたように、青葉に「いいからこっち来て来て」と言って、青葉を女子更衣室に拉致していった。
 
「ね、ね、ここでみんなでおしゃべりしながら着替えようよ」
「いいよ」といって青葉は笑っている。みんながこちらを見ているのを意識して「では、青葉、脱ぎまーす」などと右手を挙げて宣言すると、制服を脱ぎ、その下のブラウスも脱いで、ブラとパンティだけになる。
 
「では1分間だけ鑑賞タイムです」などというので、みんな寄ってきて青葉の下着姿を見る。一緒に着替えている他のクラスの子たちも事情がよく分からないまま「何?何?」と言って寄ってくる。
 
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「ほんとにブラがきつそう」
「ウェストのくびれがすごい。青葉、ウェストいくつ?」「57だよ」
「ほっそーい。体重聞いていい?」「身長152cm,体重40kg」
「40kgなのに、このウエストの細さって・・・・」
「私、足とか手とか太いからね。毎朝10km走ってるし」
「おまたに膨らみが無いのはなぜ〜?」「だって女の子だもん」
 
などと質問に答えていたがやがて「1分経過〜。今日の鑑賞タイム終了♪」
と言って、青葉はジャージを着てしまった。
 
その日の体育の授業は走高跳びだった。ウォーミングアップで校庭を3周し、ふつうの準備運動をしたあと「2人組になって柔軟体操」と言われる。青葉がさて・・・と思っていたら、美由紀が寄ってきた。
「青葉、組もうよ」「うん」
日香理も寄ってきていたが、先を越されたのでチェッという顔をしている。しかし、青葉も美由紀や日香理とは昨日からたくさん話しているので気兼ねがない気がした。最初に美由紀が青葉の背中を押す。
 
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「青葉、触った感触も女の子の身体みたい」と美由紀が言う。
「えへ。だって私、女の子だもん」と青葉は答える。
「そうだよね。でも青葉、よく曲がるね」
「うん、私けっこう身体は柔らかいほうかな」
 
開脚して足を伸ばした状態で背中を押すと青葉の胸は地面に付いてしまう。「ね、ね、180度開脚できる?」「できるけど」「やってみて」
青葉は頭を掻きながら、左右に180度開脚してピタリと腰を地面に付け、次は前後に足を開いてやはりピタリと地面につけてみせた。
「すごーい」と近くの組からも声が掛かる。
「新体操とかできるじゃん」
「あはは、パスパス。さ、次は美由紀の番」
 
「私、身体固いのよね−」
「身体が柔らかい人と組んで柔軟体操してると、自分も柔らかくなるんだよ」
「え、そーなの?じゃ、青葉いつも組もう」
「うん」
青葉は美由紀の背中の比較的下のほうを押してあげた。
「わー、ここまで曲がる。こんなに曲がるとは思わなかった」などと言ってる。
「このポイントを押すと曲がりやすいの。これで身体を慣らしておくと、ここから外れた場所を押しても曲がるようになるよ」
「へー。覚えとこう」
 
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「青葉、前の学校でも柔軟体操、女の子と組んでしてた?」
「うん。小1以来の友達の早紀って子と組んでしてたよ。小1から中1まで、ずっと同じクラスだったんだ」
「へー。ちょっと嫉妬したりして」
「なぜ嫉妬する〜?」
 
走高跳びはバーを80cmから始めようとしたが、最初に飛んだ5人が連続してバーを落とす。
 
「なんだ、みんななってないなあ。誰か模範演技。お、川上、おまえ運動神経良さそうだな。やってみ」と先生が指名した。
 
「えー?私高飛び苦手です」などと言いながらも正面に立つと助走して、踏み切・・・・・ろうとして、足が滑ってしまった。「あっ」青葉は飛べずにそのまま顔面からバーに激突してそのまま正面からマットに倒れ込んだ。
 
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「おい?大丈夫か?」
「すみませーん。失敗!足すべっちゃった」と青葉が立ち上がって照れ笑いすると、みんなも爆笑する。ただ1人、日香理だけが笑わずにじっと青葉を見ていた。
 
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