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■寒梅(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-05-05
 
避難所に来たファミレスの炊き出しスタッフのひとり千里に声を掛けた青葉は、その日千里の好意で彼女のその日の宿舎に連れて行ってもらった。女物の服の着替えを借り、部屋についているバスルームで汗を流す。震災以来5日間入浴もできず着替えることもできずにいたので、熱いシャワーを身体に当てると、とても気持ち良かった。身体を洗い、髪を洗ってコンディショナーを掛ける。幼い頃、髪を伸ばし始めてこのコンディショナーをする時に女の歓びを感じていたことを思い出した。短い髪だとシャンプーだけでいいもんね。
 
バスタオルは2つしかないのでそれを千里と同室の桃香のために取っておき、自分はフェイスタオルで身体を拭く。少しだけ身体のほてりが引くのを待ってから、千里から借りた服を身につける。ちゃんと洗濯された服は気持ちがいい!
 
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浴室から出て礼を言うと「わあ、可愛い。やはり女の子なんだね」と言われた。夕食を分けてもらって食べたあと、今後のことを話し合ったが、いまや青葉にとって生きている唯一の肉親となってしまった佐賀の祖父のところに行くよう言われた。青葉は気が進まなかったが、桃香に合理的に諭されるとなかなか反論ができない。渋々承知する。
 
翌朝ふたりに見送られてタクシーに乗り一関まで出た。そこから山形へのバスに乗り、更に酒田へのバスに乗り継いで、その日は酒田市内の公園のトイレで1晩明かした(ホテルに泊まれと言われていたのだが・・・)。
 
なお、この日は姉・父母・祖父母の初七日にあたったので、青葉はちょうど地震と津波が来たくらいの時刻にバスの中で気持ちを岩手の方に向けて合掌し般若心経と阿弥陀経を唱えた。
 
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翌朝いちばんの特急いなほで新潟へ。北越に乗り継いで金沢まで行き、サンダーバードで新大阪に出て、そこから新幹線で博多まで。特急みどりに乗って夕方、佐賀駅に到着した。
 
酒田542-749新潟755-1131金沢1156-1432新大阪1445-1713博多1732-1815佐賀
 
しかし酒田から佐賀まで1日で来れるというのは青葉も初めて知った。もっともさすがに特急4本と新幹線のはしごをすると若い青葉でもなかなか疲れる。
 
ぐったりしていたが、気合いを入れ直し、降車前に洗面所で顔を洗ってから佐賀駅に降り立った。途中の駅から到着時刻は報せていたのだが、こちらは何といっても女の子の服を着ている。祖父は自分を男の子と思っているだろう。会えるかな?
 
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駅の構内で人を探しているふうの老人を探す。。。。。あの人かな?
青葉はその人に近寄り「こんにちは。古賀太兵さんでしょうか?」
「え?君は?」「お久しぶりです。川上青葉です」
太兵は「へ?」という顔をしていた。
 
あまり気持ち良くない多少の軋轢があったあと、ともかくも青葉は太兵の運転する車の後部座席に座っていた。シートベルトを付けたかったが、この車のシートベルトは引き出してない。そもそも運転者本人もシートベルトを付けてない。
 
こういう時、ほんとに自分の「無表情」は便利だなと思った。この表情でいる限り、あまりしゃべらなくても済む。ただ、青葉は感じていた。千里と出会った時に心の中で、5年間掛けたままにして自分でも解き方を忘れてしまっていた感情と表情の鍵が外れてしまったことを。千里とはおそらく数ヶ月以内には再会できるような気がしていた。
 
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太兵の自宅に着き「お邪魔します」といって中に入る。太兵の妻の梅子が「あら?」というので「お久しぶりです。川上青葉です」と挨拶すると、「あらまあ、青葉ちゃんなの?可愛くなっちゃって」と笑顔で言った。
 
青葉はとても小さい頃に両親に連れられて未雨とともにこの家を訪れたことがある。しかし自分でもその記憶は曖昧だったし、もう何年も音信不通だったので「久しぶり」とは言ったものの事実上「初めまして」に近い感じだった。
 
太兵はすこしぶすっとした表情であったが、梅子がよくしゃべるのに助けられた感じであった。その日の食事はお寿司がとってあった。青葉はつい習性で安いネタのばかり選んでしまいがちであったが、梅子が「あら、マグロ食べてね。タイもどうぞ。イクラ美味しいわよ」などといって皿にもってきてくれるので途中で「すみません。もうお腹いっぱいです」と言わざるを得なかった。
 
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その日はお風呂を頂いて寝た。お風呂に入る前に電話を借りて、千里の携帯にこちらに無事着いた旨を連絡した。翌朝、千里からもらっていた別の服に着替えてから出て行くと、太兵が「おまえ、男なら男の服を着ろ」とどなった。しかしその場は梅子が「あら、いいじゃないですか。こんなに可愛いんだもの。女の子のかっこうがとても似合っているし」などといってかばってくれた。
 
そんなやりとりを数日続けていたが、ある日ついに太兵はもう我慢できんという感じで、梅子に「こいつ用にズボン買って来い。スカート穿いてるのなら叩き出せ」
と言い出した。梅子が困っていたようなので、青葉は「私、ズボンでもいいですよ。でも1枚も持ってなくて」という。「じゃ私買ってくるわ」というのでサイズを聞かれる。W57ですと答えると「そんなサイズあるかしら?」と不安がられた。青葉は「メンズには無いでしょうね」と笑って答えた。(青葉自身この時に笑いの表情が出たことに驚いた)
 
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結局梅子は子供用の150サイズのズボンを買ってきた。W57ならボーイズなら130サイズ相当なのだろうが、青葉が女の子体型なのでヒップが収まらないだろうという判断だった。実際150サイズのズボンはウェストがゆるゆるでヒップはぴちぴちであった。丈も短い。
「ごめん。また160サイズを買ってくる。ウエストはベルトで留めましょう」「はい」
 
太兵はまた「おまえは根性が腐っている。叩き直してやる」と言って、最初青葉を柔道の道場に連れて行った。正直参ったなと思った。柔道着を借りてTシャツの上に着て出て行くと、いきなり強そうな人がきて「組んでみよう」という。青葉はやれやれと思い、相手をする。これって気合いの勝負だよね?
 
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青葉が気を集中して相手の前に立つ。特に身体は動かさない。相手は最初軽く揉んでやろうという感じであったようだが、青葉が気を集中したのを見てビクッとした。ふむふむ。この気が分かる程度には強い人か、と青葉は思った。
 
青葉は棒立ちでただじっと相手の目を見ているだけだが、相手は距離を取ったまま、なかなか近寄ってこない。そりゃそうだ。隙を作っていないから、飛びかかる場所が無いはずだ。しばらく相手は何とか打開しようとしていたが、やがて「参りました」
といってお辞儀をして下がった。祖父はポカンとしていた。
 
師範代の人が出てきた。きゃー。こちらは柔道自体の心得はない。さっきの人には、まさにハッタリが効いたけど、この人には無理だろうなと思った。
 
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さっきの人と同様に気を集中したが、今度は棒立ちではなく防御態勢を取る。相手はやはり攻めあぐねているが、さすがに師範代である。隙の無い所から無理矢理せめてきて、青葉の道着の腕をとった。投げられる。ひぇー。私、受け身なんて知らないのに。。。。しかしとっさに身を転がして身体を守った。でもこれで負けたからいいかな?と思ったら、負けになっていなかった!
 
青葉がうまく逃げてしまったので、1本が成立していなかったようである。うっそー。早く負けたいのに。師範代はかなりマジな顔をしている。その顔が怖いよ−。隙を作って攻めさせるのは楽だが、それをやると想定外の怪我をしかねない。それはいやだ。しかも向こうはこちらを相当強いと思っている。手加減はしてくれない。こうなったら仕方ない。青葉は気の防御を解除して「負けました」とお辞儀をした。師範代は不満そうであったが、とりあえずその日はそれで解放してもらえた。
 
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「柔道ではないですね。合気道か中国拳法とかをしてますか?」
と師範代は聞いてきた。
「いえ、武術は何も心得がありません」
と青葉は冷や汗を掻きながら答える。
「いや、この気合いはただものではないと思いましたけど。五輪選手クラスの気合いを感じましたよ」
あはは、それは目に見えない者たちとなら、命賭けの戦いを何度もしてるからね。負けたら死ぬという状況も今まで3回は経験している。
 
次の日は剣道の道場に連れていかれた。やれやれである。こちらは道具がある分、柔道より楽だった。誰も青葉に1本打ち込むことができない。向こうが面とか小手を取ろうと打ち込みをする前に、青葉には相手の行動が見えてしまうので、その間に逃げてしまうし反射神経は鍛えていて反応が速いから、向こうの攻撃が全く当たらないのである。といって青葉は「人間は攻撃しない」主義なので、こちらから当てには行かない。
 
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ここでも師範代が出てきて勝負となったが5分たっても1本も取れないまま引き分けとなってしまった。
 
「女性の剣士と引き分けになったのは3年ぶりです」と師範代は言った。
「前に引き分けになったのは全日本のチャンピオンになった人だったのですが」
と言っていた。あはははは。そうそう。とりあえず私は女に見えるよね。
 
3日目は空手、その次はボクシングに連れていかれたが結果は大差無かった。さすがに太兵は凹んでいた。
 
ボクシングでも相手のパンチは全く青葉に当たらなかった。父から殴られる時も本当はかわすことができていたのだが、かわしては悪いかなと思っていつも受けとめていた。しかしパンチを受けるのは気を集中させて怪我を避けられても、痛いのには変わりないから、できたらかわしたいのである。
 
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梅子は優しくしてくれていたが、太兵はどうしても青葉の生活を変えたいようで、その緊張感は日増しに高まっていく感じであった。これはもう長くはもたないなと青葉は感じ始めていた。
 
それは4月4日の昼頃のことであった。太兵は突然、新学期から中学にやらなければいけないから、挨拶に連れていくと言い出した。本当はもっと早く学校に連絡すべきだったのだろうが、青葉の服装や女性的なしぐさ・ことばなどが気になりすぎて、どうも忘れていたようであった。
 
それで挨拶に連れていく以上、その髪は切らなきゃならん。五分刈りにするといってバリカンを持ち出してきた。梅子にこいつを捕まえておけ、というもののさすがに梅子はそれはできませんと言う。しばし家の中で追いかけっこになった末、青葉は自分の荷物を置いている部屋に逃げ込むと、てばやく身の回りの品(特に佐竹の家から回収した4つの『鍵』)と最低限の着替えに、残っていた現金を手早くリュックに詰め、窓から飛び出して逃走した。
 
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かなり走った後、追いかけてきていないのを確かめ、ふっと息をする。しかし参ったなと思った。とりあえず履き物が欲しい。青葉は商店街まで行くと、100円ショップでサンダルとウェットティッシュを買った。物陰に座って足を拭き、サンダルを履く。
 
しかしどこに行こうか・・・・・
 
思いつくのは菊枝のところと千里のところだ。岩手に帰っても頼れる人はいない。佐竹さんの娘さんの所にはさすがに世話にはなれない。菊枝の顔と千里の顔を思い浮かべる。菊枝とは長い付き合いである。千里はこないだ知り合ったばかり。でも菊枝と自分は、いわばライバルでありかつ恋人のようなもの。千里はむしろお姉さんかなという気がした。
 
よし。
 
青葉は書店で小さな地図を買うと、千里の住む町への行き方を調べはじめた。
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