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■寒蘭(2)

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ふたりは公園を出るとしばらく海岸沿いを散歩した。
「僕、仕事柄、女装の男の子たくさん見ているけど、青葉は女装男子とは全然雰囲気が違んだよね。オーラ自体がホンモノの女の子という感じだし」
「私、自分は女の子だと確信しているから」
「そのあたりの気持ちの持ち方なのかな。あ、女装のテクニックとかは盗ませてもらうけど、僕自身としては青葉のことは女の子とみなしてるよ」
「ありがとう」
「とっても可愛いし。僕の恋人になってほしいくらい」
「あはは」
「いや、冗談じゃなくてさ、一目惚れしちゃった感じで」
「まあ、そのくらいで」
と言って、青葉は話を遮る。これ以上続けると何を言われるか分からない。
 
やがて商店街のほうに進んでいく。青葉も嵐太郎の態度から、これはやはりデートだったんだ!ということに気付いていた。ただ、こうして歩いている所を他の人が見ても、ふつうに女の子が友達同士2人で一緒に歩いているように見えるだけだろう。
 
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ふつうの男の子が女の子の服を着ても「女装している男の子」に見えがちだけど、嵐太郎はちゃんと「女の子」に見えている。スカート穿くのは初めてとは言っていたけど、女物の着物をふだん着こなしているからその応用で初体験でも穿きこなせているんだろうな、と青葉は思った。クラスメイトの男の子にお遊びでスカートを穿かせたりしたことがあるが、いきなり転んでしまう子も多かった。ズボンを穿いている時のような足の運びをスカートですれば、足がスカートにぶつかってまともに歩けない。嵐太郎はちゃんと女の子的な足運びができていた。
 
嵐太郎がドーナツでも食べない?という。「ごめん、私あまりお金がなくて」
と青葉が言うが「あ、大丈夫。ぼくが出すから」というのでおごってもらうことにする。
 
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ドーナツ屋さんで嵐太郎はチョコドーナツとアップルパイにオレンジジュース、青葉は豆乳ドーナツとミルクティーを頼んで店内で食べた。
「こんなことしてると、まるでデートみたい」と青葉はわざと言う。
「僕はデートのつもりだけど」と嵐太郎がまじめな顔で言った。
「やはりそうか」と青葉はわかりきったことを答えた。
「来週もまたデートしてくれない?」
「いいよ。また女の子モードでならね」
「うん」
 
その日はドーナツ屋さんでしばらくおしゃべりをしてからそこの店内のトイレで嵐太郎が服を着替えてデート終了となった。旅芸人の子供としてあちこち回っていて体験したこと、様々な出会いと別れなどを嵐太郎は語っていた。青葉はその聞き役に徹していた。
 
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その週の週末、青葉と未雨はまた祖母の家に行くことになった。祖父が車で迎えにきてくれた。出がけに郵便物をチェックし、父や母宛のはそのまま玄関に置いたが、未雨宛と青葉宛のが1通ずつあったので持って出た。青葉宛のは嵐太郎からであった。
 
「なんか随分厚いね」と未雨。
「あはは。何書いてあるんだろ?」といって青葉は開封し、車内で読む。
 
「便箋30枚あった」
「ラブレター・・・・だよね」
「そうみたい」
「ふーん。そんな手紙をくれる男の子ができたんだ」
「うーん、何といったらいいか」
「その子、青葉の性別は知ってるの?」
「知ってるよ」
 
「あら、青葉、男の子からラブレターもらったの?」
などと向こうに着いてから祖母も言う。
「でもどこまで本気なのかなあ」と青葉は少し照れている。
「便箋30枚もラブレター書いてくるなんてかなり本気だって。お返事書きなよ。そうだ、これ今日買ったレターセットだけど青葉にあげる」
と言って未雨はキティちゃんのレターセットをくれた。
「ありがとう。じゃお返事書くかなあ・・・あ、ボールペンが無かった」
 
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宿題をするのに筆箱は持ってきているのだが、入っているのは鉛筆ばかりである。「これ使うといいよ」と言って祖母がボールペンを1本渡してくれた。「ありがとう」と言って青葉は受け取ると、少し迷いながらも嵐太郎にお返事を書き始めた。
「あれ?このボールペン、すごく書きやすいね」
「気に入ったんなら、あげるよ」
「え?ほんと?ありがとう。もらっちゃおう。でもなんか高そう。なんて読むの?これ。シーファー?」
「シェーファー。盛岡とか仙台のデパートに行くと替え芯売ってるから、そういうとこに出た時に替え芯買っとくといいよ」
「ひゃー、なんか本格的に高そう。もらっていいの?」
「いいよ。友達から海外旅行のお土産にもらったものだけど、青葉が使うのなら、あげるから」
「わあ。そんな品を。大事に使うね」
「うん」と祖母はニコニコして言った。
 
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2年後にこれが唯一の青葉の所持品かつ祖母の形見になるとは、この時は夢にも思わなかった。
 
その週末明けに青葉は嵐太郎と2度目のデートをした。こないだよりぐっと可愛い短めのフレアースカートとガールズっぽいポロシャツを持っていって着せた。
「あ、私より可愛い感じになった」
「可愛いけど、これちょっと恥ずかしいよ。だいたいこれパンツ見えそう」
「見えないように歩こう。あ、座り方も気をつけてね。ちゃんと両膝がくっつくように座る」
「あ、そうか。それこないだも言われたんだった。でもつい忘れちゃう」
「男の子はおまたによけいなもの付いててやりにくいだろうけど、ちゃんと膝をくっつけておかないと、おかしいよ」
「あのぉ、それ僕にはよけいなものじゃなくて、大事なものなんだけど」
 
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そんなことを言いながらもまた散歩したり商店街を覗いたりしながら、いろいろおしゃべりをする。
「でもラン、こないだよりずっとスカート姿に慣れた感じ」
「そう? 青葉の着こなしとか、醸し出している雰囲気をコピーしようとしているんだけど、なかなかうまくいかない」
「舞台の方も早紀が最初見た時より女っぽさが増している、なんて言ってたよ」
早紀は毎日公演に行っているのである。さすがに青葉も咲良も付き合ってない。
「いや、毎日見に来てくれてありがたい。でも急に女らしさが増したっていうのは母ちゃんにも言われた」
「しかし私がランとデートしてるなんて聞いたら猛烈に嫉妬されそう」
「あはは」
 
「でもさ・・・」と嵐太郎が少し遠い目をして言う。
「うん?」
「僕、この仕事をずっとしてていいのかな、なんて思ってんだよね。今は親に付いて歩かないといけないからこの仕事をする以外の選択肢が存在しないんだけど、大人になっても続けるのか、飛び出しちゃうのか。とりあえず中学卒業するまではどうにもならないけど」
 
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「ランは役者続けていいと思うよ。この一座に居るか、あるいはどこかの劇団に入るかという選択は出てくるだろうけどね」
「そう思う?」
「だって才能あるもん」
「あるかな?」
 
「センスがいいよ。そのセンスもっと鍛えたほうがいいからさ、テレビとかででも、歌舞伎や日本舞踊の中継とかはもちろん、現代劇の公演とか、バレエの中継とかも、どんどん見るといいと思う。旅芸人という枠で仕事をするのか、他の分野で活躍するのか、それはランの気持ち次第だけで、ランはきっといい役者になれる」
 
「なるほどそうか・・・旅芸人という枠で僕は考えすぎていたかも知れない」
「なんなら色々とやってみて、最終的に自分がやりたいと思う世界に行くのもいいかもね。演劇といっても実に様々なものがあるんだし」
「うん」
 
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「ね、青葉は自分の将来はどう描いているの?」
「え?」
「何かになりたいとか」
「うーん。特にないけどな」
「手術して完全な女の子にはなるつもりなんでしょ?」
「もちろん」
 
「でも、女の子になることだけが目的だったら、女の子の身体になれた途端きっと心が迷子になっちゃうよ」
「ああ、たしかにそうかも」
「女の子になったあとの、自分の人生をしっかり思い描いておかなきゃ」
 
「ほんとにそうだね」
「ふつうの女の子でも、将来の夢と訊かれて『お嫁さんになりたい』という子がたまにいるけど、それじゃ結婚した途端人生が終わってしまうよ」
「うーん。ありがちだ。それ」
 
思えば、物心ついた頃から役者として舞台に立ち続けてきたランと、物心ついた頃から霊能者としての仕事をしてきた自分とは似ているのかも知れないという気もした。ランにはいろんな世界を見ろなんて言ったけど、自分もそうだ。何か「表の仕事」を持てるといいな、という気がした。
 
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青葉がそんなことを考えて数秒間無言になった時、
「ねえ、青葉」
と嵐太郎が言ったので、青葉は何気なく嵐太郎のほうを見る。え?
 
嵐太郎が真剣なまなざしで青葉を見つめていた。ドキッ。何これ?
「好きだよ」
嵐太郎は確かにそう言った。え?え?え?ちょっと待って。
青葉は視線を逃がそうとしたが、それを嵐太郎の視線が許してくれない。
 
嵐太郎の顔が近づいてくる。ちょっとー!?これってまさか。
嵐太郎との距離は既に警戒区域を突破していた。
うそー!?青葉は堪えられずに目をつぶった。
 
接触の瞬間身体に強烈な電流が走った気がした。
一瞬全身の気の流れが乱れる。きゃー!
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寒蘭(2)

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