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■寒蘭(3)

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そっと嵐太郎の唇が離れた。
 
青葉は自分の唇の感触をいつまでも短期記憶の中でループさせていた。青葉の頭の中の時計が一時停止している。
 
「あ、そろそろ戻らないと」
「うん」
まだ思考が停まったままだ。
 
「適当な所まで送っていこうか。僕はこの格好で帰っても構わないから。服は明日学校で返すし」
「うん」
促されて立ちあがり、歩き始めたがまだ何も言葉が出ない。
 
しっかりしろー!私!青葉は自分の脳に再起動を掛けていたが、なかなかリスタートしてくれない。
 
「だいじょうぶ?」
青葉がほんとに何も言葉を発しないので、さすがに嵐太郎が心配して尋ねた。
「う、うん。大丈夫」
あ、やっと少し言葉が出た。頑張れ!私。
 
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「来週もデートしてくれる?」
「うん。いいよ。また、あの時間あの場所?」
青葉はやっとまともな言葉が出たなと思った。そのついでに自分でもしばらく経験していなかったような凄い笑みが出る。
 
「わあ、青葉ってそんな表情もするんだ」
などと嵐太郎にも言われる。
 
そんな会話をしながら青葉は自分の身体の中に何か未体験の変化が起きているのに気付いていた。何か自分でも知らなかった物質が身体の中を大量に流れている。これって何だろう?この時はまだ青葉はその正体が分からなかった。
 
翌週、青葉は先週とは一転して、清楚なちょっとお嬢様風のブラウスとプリーツスカートを持ってきた。
「青葉、僕のいろいろな面を引きだそうとしてくれてるね」
「まあね・・・・お。いい雰囲気。お姉様って感じになるね」
「先週のは着るのが少し恥ずかしかったけど、今週のは別の意味で難しい。心を乙女らしくシフトしないと、この格好を受け入れられないというか」
「そうそう。先週がポップスなら今週はバロック。でも着こなしが心の問題だというのは、さすがよく分かってるね」
「一応役者ですから」
 
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「あ、それからさ」と嵐太郎。
「明日から12月1日まではずっと公演が続くんだ」
「そして引っ越してしまうのね」
「うん。だから今日は・・・」
「最後のデートなのね。カレンダー見てたぶんそうだろうと思った」
「ごめんね」
「ううん。最初から期間限定というのは分かってたから」
「また手紙書くから」
「気にしないで。それぞれの場所にそれぞれの恋があるんだろうし」
 
「・・・僕、女の子とデートしたのって、青葉が初めてだよ」
「・・・ほんとに?」
「ほんとだよ。そして青葉のこと、ほんとに好き」
「あまり私を本気にさせないで」
「本気にさせちゃう」
「あ・・・・」
 
2度目の接触は最初の時ほどの衝撃は無かった。しかし接触の瞬間は、やはり青葉の身体中の気の流れが乱れて、アラートが付きっぱなしの感じになった。
 
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先週ほどではなかったが、それでも気の流れが元に戻るまで3分くらい掛かった。その間ずっと青葉は嵐太郎の顔を見つめていた。嵐太郎も熱いまなざしで青葉を見ていた。青葉は、この人、私の事を本当に好きなのかな。。。などと考えていた。
 
ふたりはそのあとしばらくそこに座ったままふつうのおしゃべりを楽しんだ。「商店街の方に行こうか」と嵐太郎が言い青葉も「うん」と言って立ち上がる。並んで歩き始めたが、嵐太郎が手を伸ばしてきた。青葉はためらいながらもその手を取り、ふたりは手をつないで商店街に入っていった。
 
早紀や咲良となら手をつないで歩いたことは何度でもあるが、男の子と手をつなぐのって、それとは全然違う感覚だ!
 
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「ね、こんな感じの服もまた可愛くない?一度挑戦してみるといいよ」
「ああ、これはまた着こなしが難しそうだ」
などと洋服屋さんの前で立って話していたら、トントンと肩を叩かれた。
 
え?と思って振り替えると、早紀だ。
「青葉、何してんの?そちらは友達?」などと訊いてくる。
あはは、これは最悪の状況で最悪の相手に遭遇したかもなどと青葉は思いつつ開き直って紹介した。嵐太郎がわあ、どうしようという感じの顔をしている。
「ラン、こちら私の親友の早紀。って知ってると思うけど」
「あ、うん」
「え?私のこと知ってる?」
「うん。早紀、こちらラン。早紀が毎日通い詰めている相手。フルネームは橋元嵐太郎ね」
 
「何!? え? あ、ほんとに嵐太郎だ!全然気付かなかった」
「いやまあ」
と嵐太郎が照れている。
「わあ、嵐太郎って、こういう格好もするのね」
「私が女装の教育中」
「えー、そうだったの?」
「ランと呼んであげて、この格好している時に男名前で呼ばれるのは辛いから」
「あ、ごめん。じゃ私もランと呼んじゃおう」
と早紀は少し興奮ぎみだ。
 
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「ねえ、ラン、もうこれランにとっても最後の自由時間だし、ランの最強のファンとランの最愛の恋人と、3人でカラオケにでも行かない? 私今日は少しお金持ってきてるから」
青葉は今日は突発的な展開があるかもしれないと思い、1万円札を財布に入れてきていた。
「ちょっと待て、その最愛の恋人というのは?」と早紀。
「へへへ。早紀に抜け駆けして実はランとデートしていたのだ」
「えー!?ずるい。あ、でも私そしたらデート邪魔しちゃったのかしら」
「いいじゃん、あのさ、早紀、ランは明日からずっと連続公演で、そのあとすぐ引越なのよ。だから、今日は最後の自由時間なんだ」
「わあ」
「だから、最後は3人で。ね?」
「青葉がそれでいいなら、いいよ」と嵐太郎も言うので、3人は町の中心部にこの夏オープンしたばかりの全国チェーンのカラオケ屋さんに入った。もう17時なので、一応小学生である青葉たちは18時までの1時間コースである。
 
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「まずは、今日の主賓、ランから1曲どうぞ」
と青葉が言うので、嵐太郎は舞台でも歌っている「私の城下町」を熱唱した。青葉と早紀が拍手をする。「うまい。さすがプロね」
「じゃ次は嵐太郎ファンクラブ会長、早紀どうぞ」
「お、肩書きもらっちゃった。よし」
と言って、早紀はアラジンの「陽は、また昇る」を歌う。
嵐太郎と青葉は途中からコーラスで参加した。
歌い終わってお互いに拍手する。「私もこの歌、大好き」と青葉。
「日本はもっと自信を持って頑張らなきゃだめよ」
 
「さ、それでは真打ち、青葉どうぞ」などと早紀が言う。
「私あまりヒット曲とか知らないのよね・・・」などと言いながら青葉が歌ったのは「Amazing Grace」だった。美しいソプラノに嵐太郎が思わず「凄い!」と言う。
 
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「しかし3人とも趣向が全く違うな」と早紀。
「つまりお互い歌いたい曲がかぶらなくて良いんじゃない?」と青葉は応じる。
 
3人は時間まで歌ったりおしゃべりしたりして、時を過ごした。青葉は嵐太郎とデートしていることで早紀に少し後ろめたい気持ちもあったので、3人でこういうことができて、少し気分的に楽になった。嵐太郎は私と2人で過ごしたかったかも知れないけどね。。。。
 
早紀は毎日公演を見に行っていたのだが(顔パスで入れてもらっていたので結局早紀は1度も木戸銭を払っていない)、青葉は時々しか行っていなかった。しかし最後の2日間は青葉も早紀と一緒に午後の公演に行き、終了後(夜の公演が始まるまでの間)は楽屋で、嵐太郎といろいろ話をした。
 
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そして当地での最後の公演が終わり、翌日いっぱいで嵐太郎は学校も離れて、その日の夕方、次の公演地に移動することになった。青葉と早紀は咲良も連れて駅まで見送りに行った。しばらく4人で立ち話していたが早紀が「ね、青葉とふたりで話したいこともあるでしょ。そこの売店の陰なら誰にも見られずに話せるよ」などと言う。「うん。じゃちょっと失礼して」と嵐太郎は言って、青葉を促し、売店の陰に行く。
 
「いろいろありがとう。楽しかった」
「うん。私も楽しかった」
「青葉」
嵐太郎が青葉を見つめてキスしようとしたが、青葉は手で制して拒否した。
 
「愛を誓うキスはするけど、私、別れのキスはしない」
「分かった。でも僕ほんとに青葉が好きだよ」
「私も好きよ」
と言って青葉はあれ?私自分から『好き』と言ったのは初めて?などと思ったらそのことを言われた。
「ありがとう。やっと好きと言ってくれたね」
嵐太郎が再びキスを試みるが、青葉はやはり制する。
 
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「また会えると思うんだ。日本のどこかにはいるから」
「元々終わりのある恋だから盛り上がったと思うの。だから、嵐太郎は新しい土地では新しい恋を見つけて」
「恋はするかも知れないけど、青葉のことはずっと好きなままだと思う。移動する度に住所連絡するよ」
「私、都合のいい女になるつもりはないからね」
「うん。でも葉書とか出してもいい?」
「うん。でもたぶん私返事出さない」
「分かった。でも受け取ってくれるなら出すね」
 
「返事は出さないけど。ずっと応援してるから。いい役者さんになってね」
「うん。頑張る」
「じゃ・・・・」青葉はめったに見せない満面の笑顔を嵐太郎に向けた。「青葉・・・・」嵐太郎はその青葉の顔をしっかり見つめると、その手をつかんでしっかり握りしめた。その手から愛情の念が流れ込んでくるのを感じて、青葉は嵐太郎がほんとうに自分を愛してくれていたんだなというのを感じた。
 
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発車ベルが鳴る。
「行かなくちゃ」
「うん」
嵐太郎が手を振り、青葉も応えて手を振る。
そして嵐太郎は振り向くとそのままこちらを見ずに走って行き、列車のそばで待っていた早紀と握手をしてから、汽車に飛び乗った。
 
ドアが閉まる。青葉も列車近くまで来て、ふたりは見つめ合っていたが、やがて汽車は動き出した。そして嵐太郎の姿はあっという間に見えなくなってしまった。
 
その時、青葉の目から涙が一粒落ちた。また先日から体内で活動しているのを感じていた物質が青葉の体内に大量放出された。そしてその時、青葉はそれの正体がやっと分かった。これって・・・・・
 
女性ホルモンだ!自分の身体の中に女性ホルモンが広がってきている。
 
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私、この恋で初めて女の子になれたのかも・・・・青葉はそんな気がした。青葉が涙を流しているのに気付いて早紀が手を握ってくれた。
「あ、ありがとう早紀」
青葉は思わず早紀をハグしてしまった。
「青葉〜、抱きしめる相手が違う」「ごめん」「でも今日はいいかな」と言って早紀も青葉を抱き返した。
 
その後、嵐太郎は律儀に引っ越す度に青葉に現地で買った絵葉書を送ってきてくれた。青葉は別れ際に言った通りいちども返事は出さなかったが、もらった絵葉書はスキャンしてメインシステムの自分のプライベートフォルダに画像保存しておいた。(メインのデータベースにつながっていない私用PCのほうに保存せず、メインシステムの方に入れたのはそちらにしかスキャナがつながっていなかったためである)
 
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震災前に菊枝が資料のデータベースをコピーしていった時、青葉はそのプライベートフォルダでもコピーできる強い権限を与えていたので、菊枝もうっかりそこまでコピーしてしまっていた。しかしおかげで、その画像は震災後まで残ることになったのであった。
 
嵐太郎は中2の6月に座長を継承したが、その時青葉は大きな花束を贈ってあげた。
 
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