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■春草(4)

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ここで1時間余分に取ってしまったが、次に行く。次は内灘町の農道沿いにある幽霊屋敷というより廃業したスーパーだった。ここも10年以上放置されている感じだった。
 
「これはなんでこんな所にスーパーを建てたんだろう」
「住宅地からも遠いね」
「ここ車の通行は?」
「この道は知る人ぞ知る抜け道だから、あまり通りませんよ。私はたまに走ることあったけど、めったに対向車を見なかったです」
とドライバーの城山さんが言う。
 
「私たちが前回訪ねた時も、保護者の車2台に分乗してきたんですけど、探訪中1台も車が通りませんでした」
と真珠が言っている。
 
「ここは幽霊というより、夜中になったら、キツネさん、タヌキさんのお祭り会場だろうな」
と千里が言う。
 
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「うん。そういう系統。ここは幽霊スポットではなく妖怪スポットですよ」
と青葉も千里の言葉を追認した。
 
「まあ妖怪さんたちも娯楽が必要だろうし放置かな」
「実害は無いでしょうね。夜中ドライブしていたカップルがここの駐車場に駐めて、よからぬことをしようとしていたら妖怪さんたちに覗かれてびっくりするくらいかな」
「そういうカップルくらいしか、こんな所に来る人はないかもね」
「では次行きましょう」
 

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ということで、次に来たのは県境を越えて高岡市内の住宅街にある家だった。狭い路地の先にあるので、近くのスーパーでお店に頼んで駐めさせてもらい(後で神谷内さんが飲み物、青葉と千里がアイスを買ってみんなに配った)、そこから撮影機材を手分けして運んでいった。
 
「ここは火事になったら消防車が入れないなあ」
「昔は建てられたんだろうけど、今では再建築不可物件ですね」
 
かなり荒れ果てた家である。近所の主婦っぽい40代の女性が通り掛かったので取材する。
 
「ここ、ネズミとかの住処になってるんじゃないかって近所じゃ噂してるんですけどね。衛生上も良くないし、漏電とかで火事でも起きたら嫌だし、崩して更地とかにして欲しいけど、所有者がよく分からないんですよね。大阪の方に住んで居るとかいう話を聞いたこともあるけど、今更こんな田舎の家には関わり合いになりたくないのかもね」
 
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「住んで居るのはネズミだけですか?」
と幸花が訊く。
 
「いやたまに、夜中に2階に灯りが灯っていることあるんですよ。持ち主が来ているとも思えないし、浮浪者でも入り込んでいるんだろうか、なんて話をしていたんですけどね」
 
「それ人間なんでしょうかね?それとも」
と幸花が言ったら
 
「人間じゃなかったらパンダ?」
と主婦は言った。この発言は放送時、大いにウケていた。なぜ唐突にパンダ?
 
「いや、幽霊とかは?」
「ああ、幽霊くらい出てもおかしくないかもね」
 
「お姉さんの見立ては?」
と青葉は千里に訊く。
 
「パンダの幽霊は居ないよ」
「人間の幽霊は?」
「浮遊霊だろうね。地縛霊は感じないもん。ドイルもそう思ったでしょ?」
「まあそんなものだろうね。恨みとかその手の感情は感じられないし。無害だよね?」
「うん、無害。でも確かに衛生上良くないよね」
 
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「ここまで荒れてなくても田舎にはこの手の放置物件が多いよね」
「そうそう。都会に出て行った子供たちは、実家の親が死んでも、そこに戻る気は無い。田舎だし売りに出しても誰も買わない。結果的に放置される」
 

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そういう訳で、無害なので放置ということで最後の物件に行く。今度は南砺市の住宅街にある物件だった。
 
右隣に空き地があり、その更に右に火事で半焼したままの家があった。
 
「あれ?これはこないだセイタカアワダチソウの焼却から延焼した所では?」
「だね。空き地の黒い燃えた草はたぶんセイタカアワダチソウだよ」
「火もそちらの民家じゃなくて、こちらの幽霊屋敷に延焼すれば良かったのに」
「それなら一石二鳥だったのにね」
 
「でもセイタカアワダチソウは花粉症とは関係無いんだけどね」
と千里は言った。
 
「そうなの?」
と青葉が驚いたように言う。
 
「花粉症を引き起こす植物は、風に乗せて花粉をばらまくタイプの植物で、風媒花と言うんだよ。ところがセイタカアワダチソウは蝶とか蜂とかに花粉を運んでもらう虫媒花だから花粉は飛ばさない」
 
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「そうなんだ?」
「花粉を飛ばすのは、セイタカアワダチソウに似ているブタクサだよ。同じような背の高い黄色い花だから勘違いされたのではとも言われる」
 
「それは雑草殲滅隊の人たちに教えてあげたいね」
と神谷内さん。
 
「ええ。可能ならテレビ局で植物学とかの専門家でも呼んで特集でもしてあげてくださいよ」
と千里は言う。
 
「それに今、外来植物で、最も駆除に力を入れたほうがいいのはナガミヒナゲシですよ」
「何それ?」
 
「漢字では長い実の雛の芥子(けし)。細長い実が成って、中にはケシ粒のような種が何万個も入っている。セイタカアワダチソウと同様、周囲の植物の成長を阻害する性質、アレロパシーを持つから農地に入り込むとやっかいな雑草になる。車のタイヤに付着して広まっていると言われる。草刈り機で刈っても、実を付けた後なら、草刈り機の震動で種が飛び散って、翌年はもっとたくさんのナガミヒナゲシが生えてくる」
 
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「やっかいだね」
 
「花が咲く前のロゼット状態、つまり葉だけが地面に沿って放射状に広がっている状態の所を駆除する必要がある。花が咲いていたら手で摘み取るのがお勧め。ロゼット状態の物は草刈り機では刈り漏れしやすいから駆除は結構難しい」
と千里は説明する。
 
「ほんとにやっかいそうだ」
 
「そのあたりテレビでぜひ広報してくださいよ」
「それ石崎さんに相談してみるよ」
と神谷内さんは言っていた。
 
青葉は風向きが気になった。
 
「火事があったのって夜中ですよね?」
「そうだけど何か?」
 
「風向きがおかしいです」
と青葉は言った。
 
「現在風は左から右へ吹いています。これは谷風だと思うんです。実際私たち、左手側からここへ上ってきましたよね」
「あ、うん」
「こういう内陸地では、昼間は太陽の光で温められた空気が山の斜面に沿って上昇して谷風となり、夜間は山上で冷えた空気が斜面に沿って下降するので山風になるんです」
と青葉は説明する。
 
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「それ海陸風と同じようなものですか?」
と明恵が質問する。昨年やったH高校七不思議の特集では海陸風が謎に絡んでいた。
 
「そうそう。似た原理で起きる。海の近くでは、昼間は海風、夜は陸風になるけど、山間(やまあい)では、昼は谷風で夜は山風なんだよ」
と青葉。
 
「あっ」
と幸花も声を挙げた。
 
「夜間は今とは逆に右手から左手へ風が吹いていると思うんです。だから空き地で焚き火をしたのが、この幽霊屋敷に延焼するなら分かりますけど、向こうの民家へ延焼したというのはおかしいと思います」
 
「それは警察に連絡した方がいい」
と神谷内が言う。
 
青葉は話が通じやすい人として管轄外ではあったが、高岡警察署の旧知の春脇警部補に連絡した。色々な事件でさんざん青葉に手伝ってもらっている春脇はすぐ来てくれた。それで現在の風向きを確認した上で
 
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「確かにこれはおかしい。南砺警察署の知り合いに連絡を取るよ」
と言ってくれた。
 
それでこれは再捜査になりそうな雰囲気であった。
 
ちなみに幽霊屋敷自体については
「まあ幽霊は出るでしょうけど無害でしょう」
ということで、取材を終了した。
 

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12月16日(月)、デファイユ津幡体育館が竣工。工事を担当した播磨工務店から、工事発注者であり運営者であるサマーフェニックス株式会社(Summer Phoenix Coporation 略称SPC)に引き渡された。この会社は千里と冬子が半々出資した会社で、会長が冬子、社長が千里で2人とも代表取締役であり、同等の権限を持っている。引き渡し式には、冬子が忙しいので、代理の玄子絵菜マネージャーと千里(どの千里かはよく分からない)が来ていた。ここを練習場所として使用する社会人バスケットチーム・女形ズの福石侑香監督以下選手たちも来ていたが、むろん青葉も立ち会った。
 
「物凄い短期間でできあがっちゃったね」
「まあ播磨工務店はいつもこんな感じだね」
 
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玄子さんは冬子に報告するのにたくさん写真を撮っていた。この体育館は早速2月のローズ+リリーのツアーで使用することになっているらしい。
 
他には、津幡町の助役さん、地元の報道各社、地下にお店を出すムーランから企画部長(東京和食店店長)前山さん、地下のスポーツクラブ施設に入ってくれることになった大手のアムセル・スポーツクラブの店長予定者さん、なども来ていた。
 
ムーランは別途羽咋市内と高岡市内にも土地を確保して三店循環方式で運営する。つまりどの場所でも和食・中華・洋食の3つが日替わりで楽しめることになる。若葉によれば“加越能三国への出店”ということらしい。
 

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12月20日(金)深夜『金沢ドイルの北陸霊界探訪』が放送された。今回の番組構成は前回放送枠に入りきれなかった、立山の浄土沢の景色、浄土山の姿、また福井県の浄土寺川ダムに行った時の様子の放送、H高校ミステリー・ハンティング同好会の子たち(多くの視聴者は女子高生の集団と思ったよう)と一緒に回った幽霊屋敷4軒の探訪の様子、そして最後に着々と建設が進むデファイユ津幡の様子で、池の底さらい、起工式、彼岸花の移植、暫定プールの様子、そして体育館の引き渡しと早速営業開始したムーラン津幡店の様子やムーランのシステムの説明なども放送した。今回も1時間枠での放送である。
 
「ムーランは“トレーラーレストラン”なので毎日違う場所に行きますが、ムーランが出ている所にいけば、どれかのトレーラーが来ています。つまり同じ場所で毎日違うお店が楽しめる訳です」
と言ってムーランの“巡回予定表”を見せる。
 
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__ 日月火水木金土
津幡 軽洋和中洋和中
羽咋 洋和中洋和中軽
高岡 和中洋和中軽洋
 
軽食トレーラーは金土日のみの運行で一週間7日が3で割り切れないための穴埋め用である(調理スタッフの休みのため−個々のスタッフはどれかの曜日も休んでいいので週休2日になる)。軽食カーは調理スタッフがおらずレンチン(ノーパン?)・メニュー中心である。
 
「ちなみにスタッフさんは、主として調理系の人はトレーラーと一緒に各地を巡回しますが、フロアスタッフの大半は毎日同じ場所に出勤します。でも日によって着る服が和風・洋風・漢風・カジュアルと4種類変わります」
と言って各々の制服を着た女性スタッフ4人を映す。視聴者からは
「漢服可愛い」
という声が出ていた。中国の服というとチャイナドレスを想像する人が多いが、あれは清国(満州民族)の服であり、本来の中国伝統の服はむしろ日本の振袖などに似ている(多分振袖の元になった服が当時の中国の服の影響を受けている)。
 
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暫定プールは青葉をはじめとする水泳日本代表候補のメンツを映したので、トップスイマー用の専用プールなのだろうととった視聴者が多かったようである。春にアクアリゾートが完成すると一般の人が泳げるプールやスパもできるという説明がなされている。
 

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最後の5分間を使っていくつか補足説明が行われた。
 
デファイユ津幡の完成予想図なども示して、屋内テニスコート、屋内グラウンド・ゴルフ場などもできること、周回ジョギングコースも作られることが説明される。
 
「ドイルさん、石川ミリオンスターズのためにドーム球場を作る予定は?」
「さすがにそこまではお金が無いです」
「ドーム球場っていくらくらい掛かるんですかね?」
「500億円くらいじゃない?」
「何か大きすぎてピンと来ません」
「アクアのCDが1200円で100万枚売れても12億円です。その売上額の40倍ですね」
「じゃアクアが500回くらいミリオンセラー出したら作れますかね?」
「その5倍でしょうね」
「なんかとてつもない金額だというのが少しだけ分かりました」
 
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南砺市の火事現場については、警察の捜査が進み、別途報道されていたのだが、番組でも少し触れた。
 
結局あの火事は雑草殲滅隊が来たのに気づいたあの家の主人が今家が燃えたら延焼と思ってもらえると考え、保険金狙いで自分で火をつけたものと判明。雑草殲滅隊は濡れ衣であったことが分かった。火災保険を払っていた保険会社は当然返還を要求。一方、雑草殲滅隊のツイッター・アカウントは返済は無用だから適当な団体への寄付を求めるという声明を出した。それで本人も火災保険の分は借金返済で消えてしまっていたので、雑草殲滅隊からもらったお金の一部を原資に保険会社に返還、残り4000万円ほどを赤十字に寄付した。なお、本人は現住建築物放火罪(最高刑は死刑)と詐欺罪で逮捕され起訴されて現在は拘置所に入っている。
 
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千里が指摘した“セイタカアワダチソウは濡れ衣”という件は、東京の中央局の情報番組で取り上げることを予告。その番組は翌週放送されたが、植物学の専門家・花粉症の専門家を呼んで話を聞くと、ふたりとも「花粉症を起こしているのはセイタカアワダチソウではなく似た植物であるブタクサである」と言明、またナガミヒナゲシの危険性もまさにその通りであるとして注意を促した。
 
この放送の後、また雑草殲滅隊はツイッターで声明を出し、このように述べた。
 
・セイタカアワダチソウは濡れ衣だったとのこと、大変申し訳ない。これまで焼いてきたセイタカアワダチソウの諸君に謝りたい。
 
・我々は今後はブタクサとナガミヒナゲシの殲滅に尽力する。
 
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確かに焼いてしまうという手段は、刈り取るのと違って種子を飛散させないし、ロゼットになっている草にも効果的だから、ナガミヒナゲシ対策としては最も強力かも知れない。彼らの手段自体は無茶苦茶だが!
 
そういう訳で雑草殲滅隊のターゲットは変更されたのであった。
 
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春草(4)

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