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■春草(2)
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青葉は千里姉と“地鎮祭”をするのに来ていたのだが、千里姉が車を降りた瞬間から、この領域の“清掃作業”が始まり、15分ほどで雑霊の類いが駆除されて、きれいな空間になるのを見た。
「ここまで出来たら、後は結界作りかな」
「それを私と青葉でやろうよ」
「うん」
それで青葉は千里姉と一緒に土地の外周(270m×270mの範囲)を見て回った。既に境界線には縄が張られているので、それに沿って歩いて行くが、青葉たちが歩く所が霊的にも境界として定まっていき、その外側の“もの”は中に侵入することができなくなる。一周回って結界が作動した後、千里姉は敷地の四隅(境界標の内側)に行って、何か袋に入ったものを埋めた。
「領域を拡張したら、これも埋め直さないといけないなあ」
と南田さんが言っている。
「取り敢えず体育館を建てる間の御守りということで」
体育館の基礎は今あるものを流用するので、すぐ建設に入れるが、アクアゾーンの方は敷地の一部が新たに町から購入することになった領域に掛かるので、現在の境界線に暫定的な山留めをしてから、現在の敷地の部分の地下を16mくらい掘り下げるのだということだった。
体育館を播磨工務店、アクアゾーンをムーラン建設が担当するのだが、この地面を掘る作業が大変なので、暫定的にその作業は播磨工務店が行い、ムーラン建設はその間に、体育館の基礎にかぶせてある保護用の土を取り除くという話であった。そこまでやった所で担当交換である。
4つ目の袋を埋めて土を被せた所で「ブーン」という音がした気がした。青葉が見回してみると、わりとアバウトな結界が敷地全体に作動している。
こんな結界で大丈夫か?
と青葉が思ったら、千里姉が“答えた”。
「あまりしっかりしたものを作ると後で移動させる時に面倒だから軽く掛けたんだよ」
「袋に入れたまま埋めたのもそのせい?」
「そうそう。四獣に土が付かないようにするため。いったん土が付いてしまったら、もうそこから動かせないから」
「へー」
そうか。四獣の置物か何かだったのか、と青葉が思ったら
「見えてたくせに」
と千里姉が言う。
「何が入っているかは分からなかった。というか、私しゃべってないのに」
と青葉が答えると、
「そんなにハッキリ“思えば”しゃべっているのと同じ」
と千里姉は言った。
後ろで《姫様》も呆れたような顔をしている。
「取り敢えず結界もできたしこれで地鎮祭は終わりですな」
と南田は言っている。
「神様へのご挨拶は?」
と青葉が尋ねると、
「青葉が心の中で『よろしくお願いします』と言えばいいよ」
と千里姉は言った。
それで青葉は“こちらかなぁ”と思う方角を向いて
「ここで工事をして体育館兼ライブ会場、プール&スパ、テニスコートやグラウンドゴルフ場などを建設させて頂きます。よろしくお願いします」
と大きな声で言った。
《姫様》が頷いているので、これで良かったようだな?と思った。
(千里は「心の中で言えばいい」と言ったのだが!)
§§ミュージックのタレント、研修生大量出演の『The源平記』は、アクアの時間が比較的取れる9-10月の平日の夜に主として撮影が進められた。どうしてもふつうのドラマの撮影は土日に集中しがちなので、平日を使うのである。
但し、9月中旬に伊豆半島付近のいくつかの場所を使用して野外ロケを敢行している。実はまだ他の場面をあまり撮っていない中での撮影になったので、出演者もストーリーを把握しておらず混乱していたが、季節的にこれ以上遅い時期には寒くてできなかったのである。11月下旬とかに撮影していて水に落ちたりすると心臓麻痺などの事故も起きかねない。特に今年は寒くなるのが早かったので、この判断は結果的に良かった。
どうしてもこのロケで撮影したものとストーリーが矛盾してしまったものについては実は11月になって熊谷市のアクアリゾートの50mプールにセットを組み撮影したものもある(壇ノ浦の船上の戦いは実はかなり撮り直している)。その時期は、オリンピック候補組が湯の丸の標高1750mの高原プールに移動していたので、一週間ほど借り切ることが出来た。
源平の合戦を描くと、出てくるキャラのほとんどが男性である。ところが§§ミュージックのタレントはアクアと西宮ネオンを除くと、ほとんどが女子である。それで多くのタレントが男装して演じることになった。
弁慶は長身の品川ありさで、格好いい弁慶を演じてくれた。高崎ひろかは最初、源頼朝を演じる予定だったのだが、諸事情から北条政子に回り、頼朝は秋風コスモス社長が演じることになった。白鳥リズムは前半最も目立つ役である木曽義仲である。豪快な雰囲気のリズムは野生の男・義仲が似合う。逆にいかにも儚い感じの平敦盛を、本当に儚い雰囲気の東雲はるこが演じる。
「葉月ちゃんは佐藤忠信をしてくれる?男装で申し訳無いけど。今回は殆どの女子タレントが男装なのよ」
と川崎ゆりこは言った。
「ええ。いいですよ。佐藤忠信って、おキツネさんでしたっけ?」
と今井葉月は逆に尋ねた。葉月は小さい頃、両親が『義経千本桜』を上演していたのを見た記憶があった。
「まあそのあたりは曖昧な部分あるね」
などとゆりこは言っていた。
「男装ね・・・」
と言って桜木ワルツは腕を組んで悩んだ。ワルツは佐藤継信を演じることになる。佐藤行信は姫路スピカである。ただこの付近は微妙に複雑なことになっている。
さて青葉の方である。
千里2・南田社長と3人で“地鎮祭”をした1週間後の10月16日(水)、今度は多数の関係者を集めて起工式をすることにする。
播磨工務店の南田社長、ムーラン建設の石田社長、萬坊工業の野村社長、青葉と千里(千里2)に〒〒テレビの神谷内ディレクターと森下カメラマン、幸花。銀行の頭取、など関係者が揃う。萬坊工業の人が連れて来た近所の神社の宮司さんが起工式を執り行うことになった。この様子は〒〒テレビとNHKが撮影し、NHKは夕方のローカルニュースで放送したらしい。
(明恵と真珠については『平日だし学校に行きなよ』と言ってパスさせた)
テントも前日の15日に張り、祭壇が作られ椅子が並べられた。仮設トイレまで置かれている。このあたりの準備は萬坊工業が播磨工務店と連携しながら、やってくれている。出席者は下請けの主な会社の社長なども入り、更には津幡町の助役さんまで来てくれて、50人ほど!に及んだ。
9:00ジャスト。神職さんがテントの北端に作られた笹竹による四角形の結界の前に進むと、いつも青葉の後ろに居候している《姫様》がすっと祭壇の所に移動し、ジロッと宮司を睨んだ。
宮司がビクッとした。
宮司が固まっているので、野村社長が
「どうかしました?」
と尋ねた。すると宮司は言った。
「申し訳ありません。本宮の神職を呼んでもいいですか?」
野村さんはこういう事態は初めてのようで困惑しているが、播磨工務店の南田社長が笑いながら言った。
「どうもこの土地は“特殊”なようですね。神職3〜4人居ないとダメかもね」
それでいったん起工式は休憩となり、出席者にお茶とお菓子(千里姉が用意していて、南田さんに渡していたもよう−つまりこの事態を予測していた??)が配られる。神社の宮司は白山市にある大きな神社の宮司さんに来てもらった。宮司さんだけでなく、他にも神職さんが4人に、巫女さんが3人も来ている!
その宮司さんも祭壇に陣取っている《姫様》の方角を見てギョッとしたようである。土地のオーナーである青葉が呼ばれる。
「今日は取り敢えず起工式を致しますが、ここはきちんとお社を建ててお祭りした方がよいです」
「分かりました。祠のようなものでいいですかね?」
「取り敢えずはそれでもいいですが、正式の神社を建てた方がいいですよ。物凄く神格の高い神様がいらっしゃるようです」
「分かりました。早急に検討します」
《姫様》が指でOKサインをして青葉を見ている。
もう!
また“別宅”を作れという要求なのかね〜。しかもかなり大きなものを!
それで宮司は11時から2時間!掛けて、念入りな起工式を執り行った。もっとも普通行うような降神の儀・昇神の儀は省略された。神職が降神の儀をしようとしたら《姫様》がギロッと神職を睨んだので、神職も「これは不要のようです」と言って、次の手順に進む。実際、わざわざ降ろさなくても神様は居るもんね!神様を降ろさなかったので、当然お帰り頂く儀も不要であった。また、四方清め祓いも省略された。神職は「これは既に完了しているようです」と言った。
儀式で使用する鎌(かま)は播磨工務店の南田社長、鍬(くわ)は施主である青葉、鋤(すき)はムーラン建設の石田社長、が持って、各々「えい!えい!えい!」と声をあげて、草を刈る仕草、土に鍬を入れ鋤でならす仕草をした。
(誰がどれを持つかは地域によってまた神社によっても様々なパターンがあるが、石川県はどうも設計者=鎌、施主=鍬、施工者=鋤という東京方式が多い模様。なお今回は播磨工務店とムーラン建設が並行して工事をおこなうので、両者で鎌と鋤を分け合った)
玉串奉奠(たまぐしほうてん)は、宮司、青葉、千里(千里2)、若葉の代理の永井麻衣さん、冬子の代理の佐野麻央さん、〒〒テレビの石崎部長、播磨工務店の南田社長、ムーラン建設の石田社長、萬坊工業の野村社長、の順に行った。
祝詞がやたらと長く、笛・太鼓に巫女さんの舞まで入る。その間、《姫様》はどこから出てきたのか、6-7歳くらいの童女と遊んでいた。ひょっとしたら、ここの地主神様かなぁ〜?という気がした。
《姫様》は儀式の最中に唐突に千里姉の所にくると何か言う。すると千里姉のバッグから小さなバスケットボールが出てくる!後で聞いたら小学校低学年用の4号球というサイズだということだった。
でもなんでそんなの持ってるのさ!?
《姫様》がそのボールを童女の所に持って行くと、童女は嬉しそうにボールで毬撞きをしていた。
ここはバスケットの聖地になるかもね!?
神職さんたちの儀式は続く。
青葉は『こんな仰々しくしてもらって10万という訳にはいかないよぉ』と思った。すると千里が青葉のバッグの中に何か押し込む。札束のようだが、分厚い!ちゃんと祝儀袋に入っているようである。
それで青葉は式が終わった後、平然とした顔でその祝儀袋を神職さんに渡した。
後で千里姉に尋ねてみると「念のためと思って200万用意しておいた」と言っていたが、道理で神職さんたちのご機嫌がよかった訳である!でも祝儀袋は100円ショップの5枚100円って感じだった!さすがちー姉だ!むろん受け取る側は、外側より中身である!!
起工式は13時過ぎにやっと終了し、神職さんに初穂料と御車代(大人数になったので初穂料として用意していた10万円をこちらに入れ直した!)を渡した上で、神職さんたちを含めて全出席者に菓子折・お弁当にお茶を紙袋に入れて渡した。実はお弁当とお茶は、時間がずれ込んだので幸花に買ってきてもらったものである。
なお施主から出席者への祝儀については事前に野村さんに相談したら不要と言われたので入れないことにした(個人経営の工務店と違って大手では受け取りを禁止している所も多いらしい)。
菓子折の袋を渡す作業は、青葉・千里・幸花の3人のほか、永井さんと佐野さんも手伝ってくれた。遠くから来てくれた永井さんと佐野さんには交通費・宿泊費も渡した。
「交通費・宿泊費は若葉からもらっているんだけど」
「交通費・宿泊費は冬子からもらっているんだけど」
「では二重取りということで」
この起工式の様子はNHKではその日の夕方のニュースで、石川県および富山県のローカルニュースのコーナーで流れたのだが、ニュースの直後、青葉に電話が掛かってきた。
水泳部の先輩・桜池布恋(桜池裕夢の姉)である。
「青葉、面白いもの作るのね」
「なんか成り行きで」
「プールも作るんでしょ?」
「ええ。アクアリゾートの地下に公式のを作りますが、それだと完成が春頃になるので、その前から使えるように暫定プールも作るんですよ」
「その管理人とか雇った?」
「いえ。どこかの会社に委託しようかと思っていた所なんですが」
「私を雇わない?」
「布恋さん、今の仕事は?」
確か布恋は愛知県の映像機器会社に就職したと思った。この話もニュースを見た弟の裕夢から聞いたのかなと思った。
「先週倒産した」
と布恋。
「ありゃあ」
「お父ちゃんからは富山に帰ってこいと言われてるんだけど、帰ったら結婚させられそうな気がしてさ。だから帰ってもいいけど何か仕事したいのよ。でも女子の仕事ってなかなか無いじゃん。バイトは男子より多いけど」
青葉は考えた。
「だったら、プール衛生管理者か何かの資格を取って下さい。受講費とかはこちらで出しますから」
「了解!受講できる所、探してみるよ」
そういう訳で、臨時プールの管理人は布恋にお願いすることになったのである。
起工式の後で、播磨工務店とムーラン建設の人たちが最初にした作業は敷地内に仮設の工事事務所・宿舎・建材置き場を建てる作業だった。
(この手の建築作業用の仮設建築物については建築確認等は不要−建築基準法85条2項)
ムーラン建設の設立の元になったミューズパークの建設には1300人ほどの大量の職人・作業員が関わっている(延べ人数では12万人ほど)のだが、その内、工事終了後に小浜に残留してムーラン建設に参加した人は150人ほどで、実は若葉の目論見より多かった。小浜ではミューズタウンの整備や“風光台”のアパート建設が続くものの、そちらはこれほどの人数は不要である。それで若葉は、彼らにしてもらう作業を探していたので、青葉がスポーツセンターの土地を買ったという話に飛びついたのである。埼玉県熊谷市の郷愁リゾートの開発にも20人ほど行ってもらっていたのだが、津幡町は“福井県と同じ北陸”ということで、人を動かしやすかった。
そこで若葉は小浜から30人ほどの職人さんを連れてくることにし、彼らが住む仮設アパート(小浜と同様の1K×10室仕様)を敷地内に念のため4棟設置した。例によってユニットハウスなので現場で部品を組み立てるだけである。
ちなみにムーラン建設に入った人には「小浜に定着したいから」入った人と、
「ムーランの社風あるいはオーナーの若葉や播磨工務店の人たちが気に入ったから」入った人とがあり、熊谷や津幡への派遣は後者の人たちが中心である。結果的にこの組には性別の曖昧な人が多い!津幡の現場には仮設トイレもMFN3棟建てたので、萬坊工業の人たちが「Nって何ですか?」と尋ねていた。
「男性でも女性でも中性でも無性でも両性でも使っていいトイレですよ」
「最近はなんかそのあたり複雑だよね?」
「ちなみに男性と女性の連れションもOK」
「やってみたい!」
ムーラン建設の大矢副社長(実はミューズパーク建設時の自警団団長)もここに泊まり込んで指揮をすることになっている。彼はこの道20年のベテラン職人である。自衛隊出身・元ボクシング選手なので腕力も凄い。玉掛け技術も天才的で若い作業員たちから歓声があがっていた。現場にはこの他に、播磨工務店社員用の仮設住宅1棟(これもムーラン建設で一緒に建てた)、両社の共同建設事務所も建てている。
なおムーラン建設はムーランが70%, 播磨工務店が20%, サマーガールズ出版が7%, 小浜市の中山開発が3% の株を所有する会社である。関連企業になっているので連携がやりやすい。
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