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■春草(3)

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ところで、青葉が土地の売買契約をしたのは9月30日で、その日の内に50m臨時プール、体育館、アクアリゾート、と3つに分けて建築確認の申請をしている(アクアリゾートは建てる場所が10m移動したのでその時点でそこだけ修正して出し直した)。その内、まずは条件が最も緩やかな50m臨時プールの建築確認は10月14日(月)、起工式の前に取れた。青葉が播磨工務店の南田社長に伝えると
 
「では起工式の後で池の移動とプールの基礎工事をやりますね」
と言う。
「どのくらいかかりますかね?2ヶ月くらい?」
と青葉が尋ねると
「まあ3日ですね」
と南田社長は答えた。
 
「3日でできるんですか!?」
「できますよ。ですからプール屋さんには、21日の週から作り始めていいと伝えておいてください」
「分かりました」
 
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と返事したものの、3日でどうやって仕上げるのさ?と青葉は思った。
 

しかし実際に青葉は10月18日(金)の夕方には南田社長から
「できましたよ」
という連絡を受けた。
 
それで行ってみると、池は移動されていて!その北側に浄水施設が作られており、その浄水施設の北側に幅40m, 長さ80m, 深さ20mほどの穴が掘られていてその底にはコンクリートの基礎らしきものが作られていた。穴の周囲は山留めのような処理がなされていた。浄水施設には福井県の会社のシールが貼られていた。
 
↓池の暫定場所(再掲)

↓最終的な場所予定(再掲)

 
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「播磨工務店さんって、動員できる人数が凄いんだろうな、20-30人でなら最低でも1ヶ月かかるだろうし」
などと青葉はそれを見て言っていたが、全然分かっていない!
 
ともかくもそれでヤマハの人たちが10月21日(月)から入り、11月上旬までにFRP製の50mプールは完成。浄水施設を通して水が入れられる状態になった。実際には金沢地方は11月11-20日に断続的に雨が降っており、川の水が増水したので遊水池に結構な水が溜まっていた。それでそこから水を吸い上げて浄水施設に通し、この臨時50mプールにいっぱいの水を溜め、青葉たちが合宿から戻って来る頃には使えるようになっていた。
 
ちなみにこれを水道から溜める場合、“公共の用に供する”プールなら水道局から特例の安い料金で使用することができるのだが、このプールはプライベートプールなので特例が受けられない。個人の家のお風呂と同様の扱いである。つまり川から取水できないと、このプールは水代がかなり高くつくところであった。
 
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ヤマハの人たちが11月4日(月)までにプールを設置してくれたので、播磨工務店の人たちは5-6日(火水)に、プールの上に天井を作り(仮設の宿舎などを建てているムーラン建設の人が「階段を付け忘れるなよ」という恐ろしい声を聞いたらしい)、その上に必要な配管などを通した上で鉄製の基盤、土、そしてアスファルト舗装してラインまで引き、駐車場を作ってしまった。
 
ここの駐車場は最終的には関係者(ライブの時は出演者とスタッフ、プロの試合などがある時はそのチーム関係者。また来ないとは思うがVIPなど)用の駐車場になるらしい。駐車場の入口には警備人小屋っぽいものが建っていたが、実は池のそばにあった小屋を移設したものである。中にある取水・放水などの操作卓なども、そのまま移している。ここから遊水池に降りる階段が分岐させて、片方をプールに降りる階段にした。ただし方向音痴の友人が誤って遊水池の方に降りて行くと危険なので、分岐点にはドアを設置し、各々“別のサイズの”電子鍵を開けないと先に進めないようにした。
 
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なお、警備員小屋にも太陽光パネルを乗せ、照明程度はこのパネルで取れるようにした。浄水設備は池の周りに暫定的に置いた太陽光パネルの電気で動作する。
 
ここまでが11月6日(水)に出来上がり、その週の内に検査にも合格したらしい。物凄いスピードである。播磨工務店からの引き渡しは青葉が合宿中なので、神谷内さんと幸花が代行してくれた。
 
以上の作業の工賃については千里姉が「5000万円でいい」と言ったので、その通りの額を姉の口座に振り込んだものの(ヤマハへの支払いは別途青葉が直接振り込んだ)、本当に5000万円でできるの?と大いに疑問を感じた。だいたい浄水施設だけで2-3億円しそうである。あるいは差額は千里姉が出してくれるのかも知れない、と青葉は思った。
 
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本格的な工事を始める前に“彼岸花の移植”をすることにした。テレビ局で募集したボランティアの人たちにも入ってもらい、植栽の専門家にも来てもらって、旧バッティングセンター近くにあった“黄色い彼岸花”の株を丁寧に掘り返して、いったんプランターに移植した。これは工事の邪魔にならない、敷地南西の外周付近に並べた。
 
ボランティアの一部はその後X町のZZ集会所にも行き、“白い彼岸花”の株を少し分けてもらった。これもプランターに植えてデファイユ津幡の工事の邪魔にならない一帯に置いた。最終的には別の場所から“赤い彼岸花”も分けてもらって、3色の彼岸花が楽しめるようにする予定である。
 
なお、敷地の境界付近には既に防音と境界表示を兼ねた仮設フェンスが建てられている。そのフェンスの傍にプランターを並べた。このフェンスは外周部分の土地購入の契約ができたら10m西へ移動される予定である。それで直植えせずにプランターを使用することにしたのである。
 
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むろん今日の作業は全てテレビ局のカメラで撮しており、幸花や明恵に真珠も出て指示をしたり、参加者に飲み物を配ったりしていた。
 
なお、この作業が終わった後、荒廃した旧バッティングセンターは一夜で撤去された!
 

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青葉は10月末の短水路日本選手権の後2週間、長野の高原プールで高地合宿をした後、その参加メンバーの大半と一緒に津幡町にできた(作った)ばかりのプライベートプールで夜間練習を重ねつつ、日中は卒論の仕上げに時間を使った。だいたい11月いっぱいで形になったので指導教官と話し合って調整していく。それで12月上旬には完成と言ってもらえたので、印刷・製本して提出した。これで青葉はこの3月で大学を卒業できることがだいたい確定した。
 
しかし本人としてはどうも悔いの残る学生生活だった。霊能者の仕事はほぼ全部断って、学業に専念したかったのだが、冬子からうまく乗せられて楽曲を提供したアクアが売れに売れたので、結果的にその関係で結構な時間を取られた。また、すぐに辞めるつもりだった水泳部をなかなか辞めさせてもらえず、更に3年生になってからは不本意にも(?)日本代表になってしまい、大会や合宿が相次いだ。それでそもそも大学自体に行けない日々が続いた。実際青葉は昨年の春以来、授業には半分くらいしか出席していない。ひたすら日本代表の活動をしていた、ちー姉とかも大学にはほとんど出てないのではという気がした。正直青葉としては何のために学生をしているのか分からない気分だった。
 
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2019年1月に小浜に巨大アリーナを建築しようという話が出て来た時、千里2はこれは普通に建設したのでは夏までにとても間に合わない。3年くらい掛かると考え、若葉に話して播磨工務店を投入した。彼らは2月から7月に掛けて全力で仕事をしてくれて、わずか半年で7万人を収容できるシアター・アリーナが完成した。彼らの手助けをして“人間の”工務店や作業者との仲介をしてくれる存在として若葉はムーラン建設を作った。播磨工務店のメンバーの異常な身体能力をムーラン建設のメンバーがうまくオブラートに包んでくれた。
 
9月1日若葉は唐突にシアターを逆向きにすると言い出した。そのためには盛り土をする必要がある。最初は必要な土は買うつもりだった。ところが9月下旬に津幡で大規模な開発をすることになった。ここでは地面を掘って地下にスパを作り込む。それで大量の土砂が出ることになった。
 
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それで播磨工務店のメンバーは津幡で出た土砂(というより正確には地面をそのまま崩さずに切り取ったもの)を小浜に運んで盛り土として利用したのである。地面を切り崩さず、そのまま切り取って固まったまま運んだので、小浜側でも物凄くしっかりした盛り土となった。「こんな硬い盛り土って初めて見た」と地元のゼネコン、中山開発(ムーラン建設の株主にも名を連ねる)の技師さんが言っていた。
 
(通常掘った土は圧力から解放されて数倍に膨れる。結果的に密度も数分の1に疎になる)
 
余った土は千里が自己所有する山林に取り敢えず“置いた”のだが、これは本当は違法である。こういう土は土砂災害などを起こしやすいので厳しく規制されている。もっとも彼らの“わざ”なので雨で崩れるようなヘマはやらないとは思う(実際にはすぐ使い道が見つかることになる)。
 
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「あの土、最終的にはどうするの?」
と千里(千里2)は南田兄に訊いた。
 
「どこかに小島でも作ろうか?」
「騒ぎになるからやめなさい」
 

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《こうちゃん》はその海の上に立ち
「この付近でいいかなあ。噴火させて小島を作るのは」
と呟いた。
 
鱒渕の命を助ける時に虚空にその代償としてどこかに新しい大陸を作ってと言われていた。さすがに冗談だろうと思って放置していたら、取り敢えず島でもいいから作ってと言われたので海底火山を噴火させて作ろうかと、やって来たのである。
 
それで海に潜ろうとしたら、目の前に《りくちゃん》に乗った千里がいるのでギョッとする。
 
「お前は誰の眷属なのか言いなさい」
と千里は言った。
 
「俺は千里の眷属だ」
「だったら噴火は中止」
「ちょっと島でも作ろうと思っただけだよ。ここは航路から離れているから被害が出るとは思えない。日本の領土が増えて排他的経済水域も広がるよ」
「私が生きている限りは私の指示に従ってもらう。私が死んだら早紀ちゃんに従っていいよ」
と千里は言う。
「千里、いつ死ぬの?」
「さあそれは天の思し召し次第だからね。それとも今すぐ私を殺す?」
と千里が言うと《りくちゃん》も戦闘態勢を取る。
 
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《こうちゃん》は千里と《りくちゃん》を数秒間見ていたが、やがて言った。
 
「絶対無理。返り討ちに遭う」
「じゃ一緒に帰ろう」
「ああ、そうする」
「それで南田さんたちを手伝って」
「何するの?」
「土運び」
「工事の手伝いか!」
「肝心な時にいちばん力のありそうな人が居ないんだもん」
「それで探しに来たの?」
「あんたの居場所はすぐ分かるからね、8人とも」
「参った参った」
と言って、《こうちゃん》は千里を乗せた《りくちゃん》と一緒に津幡へ帰還した。千里は帰りは《こうちゃん》の方に乗った。
 
「ところで、こうちゃん。私は何番だと思う?」
「え?2番だろ?オーラが凄まじい。六合無しで、千里だけと戦っても負けると思った」
 
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千里が瞬嶽の術を繰り出してきたら負けるかも知れない気がした。
 
「ブー。不正解。私は3番だよ」
「馬鹿な。3番がこんなにオーラがある訳ない。かついでないか?」
「なんだ。オーラの量なら・・・ほらこのくらい小さくすれば1番並み」
「ほんとに1番かと思うオーラ量だ」
「今度は大きくしてみせようか?」
と千里は言ったが《こうちゃん》は一瞬考えてから
「いや、やめてくれ」
と言った。
 

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青葉の最近の霊能者活動のほとんどを占めているのが“金沢ドイル”としての活動である、9月の番組では、裏磐梯から浄土平、浄土松公園を探訪してその風景を伝えたのと、X町集会所の幽霊の件、津幡町のスポーツセンター計画地での幽霊の件の処理を伝えたのだが、ここで成り行きで青葉はこの土地を買ってしまい“究極の自爆営業”と言われてこの放送内容がyoutubeに(無断)転載されて全国に知れ渡り、そして呆れられた。ここは“エグゼルシス・デ・ファイユ津幡(略してデファイユ津幡)”という名前で体育館、レジャープールとスパ、テニスコート、グラウンド・ゴルフ場などが建設されることになってしまった。ここで体育館の建設費は千里姉と冬子、レジャープールとスパの建設費は山吹若葉が出して、運営も各々でやってくれるのである。青葉はただの地主である。計画があっという間に勝手に進んでしまい、青葉は正直な所、唖然としている。
 
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さて12月の放送ネタであるが、番組アシスタントの明恵や友人の真珠が高校時代に所属していたというH高校ミステリー・ハンティング同好会に取材することになった。しかし取材に行って、青葉も幸花も驚いた。
 
「えっと、君たち男の子?女の子?」
と幸花が郷ひろみの曲のタイトルのようなことを尋ねると
「ボクたち男の娘!」
という開き直ったお返事が返ってきた。放課後に取材に行ったので全員体操服を着ていたのだが、体操服姿だと性別の判断に悩むような子ばかりだったのである。正確にはどうもMTFさんが4人とFTMさんが2人の6人による同好会のようである。さすがに放送の時はカットしたものの幸花は
「ミステリー・ハンティング同好会というよりミステリアス・ジェンダー同好会だったりして」
などと発言して、彼ら(彼女ら)も笑っていた。
 
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それで彼ら(彼女ら)と一緒に幽霊屋敷を4ヶ所巡ることにしたのである。この手の処理には多分必要になると思い、ちょうど高岡に滞在中だった千里姉(千里1)に打診するとOKということだったので、10月22日(祝)に一緒に幽霊屋敷探訪をすることになった。
 
取材陣は神谷内ディレクター、森下カメラマン、城山ドライバー、金沢ドイル(青葉)、金沢コイル(千里)、皆山幸花レポーター、霊界アシスタント・沢口明恵、霊界サポーター伊勢真珠、それにH高校ミステリーハンティング同好会(以下MH同好会)のメンバー6人と合計13人にも及び、城山さんが運転するマイクロバスでの探訪となった。今回も真珠が参加することになったのはH高校MH同好会のOGだからである(多分OBではなくOGでよい)。ちなみに千里に“金沢コイル”と命名したのは神谷内さんである。千里は『電脳コイルみたい』と面白がっていた。
 
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最初に行ったのは金沢市郊外にある家であった。道路沿いに建っているのだが、この家の周辺には他の家が無い。ぽつりと一軒だけ建っている。しかし見た感じ誰も人が住まなくなってから10年以上放置されている感じだ。
 
「確認したんですが、ここ一帯は地目が山林で本来家を建ててはいけない場所なんです。確信犯だったのか、欺されたのかは分かりませんが、取り敢えず違法建築なんですよね」
 
そんなことを言いながら青葉たちがその家に近づいて行くと・・・・目の前でその家が崩壊した。凄い音を立てて崩れて、土埃も物凄い。何人か咳をしている。
 
「建築も手抜き工事だったんじゃない?」
「きっと悪質な業者に欺されて、大枚巻き上げられて、酷い家を売りつけられたんですよ」
「違法建築だから崩す以外の道は無かったですよね」
「というか壊れちゃいましたね」
「結果的には幽霊も退去せざるを得ないのでは?」
「ここはこれでゴーストスポットではなくなるでしょうね」
 
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しかし千里姉も大胆なことをする! でもここはこれ以外の処理方法が無かった気がするよ。祓っても祓っても新たなのが寄ってくるもん。
 
目の前で家が崩れたのを見て放置という訳にもいかないので、神谷内さんは警察にも連絡した。やってきた警察もきっと手抜き工事か何かで、先日の大雨で耐久限度を超えたのかも知れないですね、などと言っていた。放置していたら火災とかの原因にもなりかねないので、市役所に連絡してがれき撤去することになると思うと警察の人は言っていた。
 

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春草(3)

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