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■春夢(4)

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「でも青葉、ピアノもだいぶうまくなったね」
「去年の9月から練習しはじめて、まだ1年たってないからね。でも即興でメロディー聞いてその和音を弾ける程度にはなったよ」
「ぜんぜんピアノやったことなかったんでしょ」
「うん。ピアノ弾ける女の子は素敵だとか、私を乗せた人がいたから。ちょっと頑張ってみた」
「八戸の彼氏だよね、それ」
 
「うん。でも彼氏ではないよ。それとこないだ来た時は言いそびれたけど、彼、4月に一関に引っ越したんだ」
「へー。近くじゃん、って富山からはどっちみち遠距離か」
「一応連絡したら会いたいというから、明日のお昼ちょっと会ってから帰る」
 
「ちゃっかりデートの約束もしたんだ」
「いやだから恋人じゃないし」
「まあ深くは追究しないけど。でも恋をすると巫女は力を失うから恋愛禁止、なんて昔は言ったみたいだけど、そのあたりってどうなの?」
 
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「恋愛するとパワーは上がる筈だよ。ただ恋愛絡みの自分の欲望に惑わされて正しい答えを出せなくなったりする人もいるし、上昇したパワーを制御できなくなる人もいるんじゃないかな。ちゃんと欲望を制御できる精神力があって、上昇したパワーをちゃんと扱えるだけの修行を積めば問題無いと思う。この世界のお仕事するには心をいつでもニュートラルにできないといけないんだけど、恋心、特に嫉妬とかの心があると、ニュートラルにできない場合もある。私はドライだから恋心なんて簡単に心の中から排除しちゃうけどね」
「なるほどねえ。性格もあるのかな」
「たぶんね。霊的な仕事ってガラスみたいな華奢な心ではできないよ」
 
青葉は午後には椿妃と一緒におしゃべりをしながら、柚女のヒーリングをした。それが終わる頃には柚女が
「私、お腹すいちゃった」
などといって、そばを食べられるくらいまで回復したので、もう大丈夫でしょうということで夕方に、柚女の家を辞した。その日は椿妃が「ぜひうちに来て」
というので椿妃の家(仮設住宅だが)に泊めてもらった。
 
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翌日の朝、また椿妃と一緒に柚女の家を訪問し、かなり回復しているのを確認の上で、1時間ほどのヒーリングと祈祷をした。
 
「じゃ、私はこれで」と椿妃を置いたまま昼前に出ようとすると
「デート楽しんできてね」と言われた。
 
慶子の車で一関に送ってもらい、2時に彪志と一ノ関駅前で落ち合うと、近くのレストランで一緒に遅いお昼御飯を食べた。
 
「変だな・・・八戸と大船渡なんてすぐ行けそうなのに全然会えなかったのにさ。高岡と一関なんて、恋愛するのには絶望的な距離になってからもう2度目のデートができるなんて。遠距離恋愛から超遠距離恋愛になったのに」
 
「私、2ヶ月に1度くらいこちらに来るつもりだったんだけど、それでは追いつかないわ。どんどん案件が溜まるんだもん。昨日は夜中から朝までは全力でヒーリングだったけど、午後からと今日の午前中は、その子のそばに付いていながら、同時に溜まってた霊的な処理もずっとやってた。今回は一応緊急出動だったんだけど、緊急でなくても月に2回くらいこちらに来ることになりそう」
「来る時は事前に連絡してよ。一ノ関でも大船渡でもいいから会おう」
「うん、連絡する」
 
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結局、青葉の仕事処理のための定期的な岩手行きはこうして、毎回彪志とのデート?にもなることになったのであった。もっとも青葉は彪志のことを友人たちには「あくまで友達」と言っており、これが「恋人とのデート」であることは認めていなかったが。
 
青葉は震災の直後、嵐太郎には敢えて自分の無事を報せなかったのに、彪志には当日電話して無事を報せていた。彪志は自分には他に好きな人がいると言っているのに、無理にライバル心を出して来ようとはせずに、優しく包み込んでくれるので、そんな彪志の心を青葉は心地よく感じていた。
 
しかしいろいろ不思議なこともある。嵐太郎の場合、今は祭壇に置いているシェーファーのボールペンとか、スキャン画像が残っている絵はがきとか、記念の品があるのに、彪志とはもらった手紙も震災で失ったし、そもそも全然記念の品がない(青葉が書いた手紙はぜんぶ取っていると彪志は言っていた)。嵐太郎にはキスをされたが、彪志とはキスはしていない。おっぱいは触らせてるけどね・・・・
 
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連休に会った時に触らせたら「すごい。大きくなってる。このおっぱいが俺のものだなんて感激」なんて言っていた。「さわったからといって彪志のものじゃないんだけど」と言うと「触れるんだから実質俺のものさ」などと彪志は言っていた。今日も出会い一番に彪志は青葉の胸を触っていた。
 
「ふーん。じゃあ、性同一性障害の診断書もらったんだ」
「うん。この水曜日にもらいたて。診断書は2枚書いてもらって日本語で書いてもらった1枚は学校に提出した。もう1枚は英語で書いてもらって、これを手術受ける時に提出する」
「ああ、それが無いと手術してもらえないのか」
「うん。実に面倒なことに手術を受けるには、ふたりのお医者さんに書いてもらった診断書各1枚が必要。それで来週にも別の病院を訪問することにしてる」
「大変だなあ。俺は女になりたいなんて思ったことないから分からないけどさ」
「ふつうの男の子はそうだろうね」
 
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「診断書取れたらすぐ手術するの?」
「まだ14歳だからね・・・・この年齢では手術してくれないのよ」
「ああ」
「年齢誤魔化してやっちゃう人はいるけど。でも一応正規ルートでいこうよ、と姉ちゃんから釘を刺されている。正規ルートなら低年齢でしてくれる病院でも16歳以上」
「2年後か」
「ただね・・・・桃香姉ちゃんから、低い年齢で手術してもらえるかより、そこの病院の考え方や手術の方法に自分が納得するかを優先すべきで、納得できる所がたとえば20歳以上でしか手術してくれないなら20歳まで待ちなさいとも言われた」
 
「うーん。俺もその意見に賛成」
「桃香姉ちゃんは鋭い所突いてくるからなあ」
「俺、青葉が結婚できるようになるまで待つし、もし手術するのやめることにして戸籍が修正できなくなった場合でも、事実婚してあげるから」
 
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「・・・あんまりそういうこと言われてると、私、期待しちゃうよ」
「期待してよ。ほんとに俺、青葉のこと好きだから」
 
「私・・・自分の気持ちが分からなくなっちゃいそう・・・・」
 
「実際結婚できるのは、俺が大学出て就職して1年くらい経ってからになるから、6年後くらいかな、いちばん早いケースで。それまでに俺のこと好きになってくれたらいい」
「その時、私は20歳か・・・たぶん戸籍はちょうど変更終わってる」
「青葉の戸籍が変更できるタイミングと俺が経済的に自立できるタイミングが同じというのは、やはり俺たち運命的なんだよ」
「ああ、言いくるめられてしまいそう」
青葉は困ったような笑いを抑えながら少し視線を外した。
 
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「彪志は大学どこに行くの?」
「関東方面の大学に行こうかなと思ってる」
「ふーん。有名私大コース?」
「いや、私立に行くにはお金がきつい。といって東大に合格する頭は無いからさ。今狙っているのは☆☆大学」
「学部は?」
「理学部」
「わあ、じゃ、うちの姉ちゃんたちの後輩になるかも、なのか」
「え?」
青葉はもともと自分を震災後に保護してくれたのが☆☆大理学部に通う女子大生2人で、今は自分の姉代わりになってくれていることを話した。
「その内のひとりのお母さんが私の後見人になってくれたの」
「そうだったのか。じゃ、やはり俺たち縁が深いんだよ」
 
青葉はせっかく話題をずらせたと思ったのに、またここに舞い戻ってきて、しまったと思った。
 
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しかし青葉も彪志との縁の深さは認めざるを得ない。同じ月にふたりの男の子から、あらためて「好き」と言われると、青葉の心は揺れてしまう。嵐太郎はいろいろ自分と共通のものを感じる相手だ。ただずっと会えていない。彼は座長として跡継ぎを作らなきゃいけないし、自分は旅から旅への生活はできないし、自分との結婚はあり得ないだろう。愛人にはしてくれるかも知れないし、青葉はそれでもいいという気はしていた。
 
一方の彪志は自分との共通点は少ないが、なぜか関わりが出やすい。今まで何度も結婚しようと言われている。周囲から反対されそうで実際に結婚できるとは到底思っていなかったが。でも自分は嵐太郎には1度好きと言ったことがあるが彪志にはまだ言ったことが無い。好きとは言ってないけど、彪志とは会って以来毎月数回は電話で話していた。青葉が携帯を買った時も彪志の電話番号は1桁の所(8番)に登録していた。今は週に2-3回通話したりメールしたりしている。
 
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「夢への無意識な侵入」でも実は、青葉がうまく侵入できない人が3人いた。
 
まず菊枝の夢には、入ろうとしても半分くらいの確率で入れてもらえない。向こうが気が向いた時だけ入れてもらえるのである。これは向こうの方がパワーが大きいので仕方がない。
 
桃香の場合は霊的な呼びかけを無視されてしまうので、夢の中に入ってもこちらが向こうの夢を単に鑑賞しているような状態になってしまい、夢の中で会話することができない。
 
そして彪志だけは不思議でなぜか1度も夢の中に入ったことがない。以前それを菊枝に言ったら「好きな人の前では女の子はかえってなかなか自然な行動が取れないものなのさ」と言われた。私、彪志のことも好きなのかなあ....と青葉は迷う。
 
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ただこうして彪志とおしゃべりしている時って、私、心がすごくリラックスしているけどね、などとも思いながら、青葉は彪志といろいろな話をしていた。
 
翌日の朝、学校で少しぼーっとしていると美由紀から肩を叩かれた。
「どうしたの?青葉がぼーっとしてるの珍しい」
「あ、週末急用で岩手まで往復してきたから、その疲れもあるかな」
「へー。頑張るねえ」
 
「ね。美由紀」「うん?」
「美由紀なら、ふたりの男の子から好きと言われたら、どうやって選ぶ?」
「何何?ふたりの男の子から告白されたの?でも珍しいね。いつもなら、青葉が相談を受ける側なのに」
「いや仮定の話で」
 
「でも、そんなの単純じゃん。自分が好きな方を選べばいいのよ。好きと言われたら心は揺れるけど、自分の人生なんだし、利己的に判断しなきゃ。あくまで、自分の好み。他人を思いやって人生選んだら後悔するよ」
「そうか・・・・利己的選択か」
「ま、恋なんて経験無い私が言うのもなんだけどね」
「いや、ありがとう」
 
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そっか・・・私が他の子から相談されても、そう言うような気がする。だけど私はどちらが好きなのかな?それをあらためて考えようと思っていたところにメールが着信した。彪志からだ。「おはよう。眠れた?」という超短文。「おはよう。列車の中でぐっすり寝たよ」と返信した。
 
「今のメール、その彼氏から?」と鋭い指摘。
「あ、えっと。。。別に彼氏のつもりは無いんだけど・・・・・・でも確かに好きと言われた子のひとり」
と青葉はここでとぼけてもしょうがないと思い正直に答える。
 
「青葉、恋する乙女の顔をしていたよ」と美由紀は言った。
 
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