広告:ここはグリーン・ウッド (第2巻) (白泉社文庫)
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■春夢(2)

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「血液検査の結果を見ても完全に女性ホルモン優位ですね。これは通常の女性のホルモン量ですよ。女性ホルモン剤を飲んでいる人ではなかなかこういうきれいな数値は出ないです。ホルモン剤飲んでません、というのは本当ですね」
「私『生理』があるんです。出血とかするわけじゃないけど、その前後になると精神的に少し不安定になりますし、『生理』の少し前にお腹が痛くなったりします。黄体ホルモンと卵胞ホルモンの分泌のサイクルができているみたいです」
「へー。それは面白い」
 
「実は、病変もなく、半陰陽でもなく、女性ホルモン優位になって自然にバストが発達した事例というのが過去に1度、アメリカで報告されていることはされているのですよ。その人も体質が女性的になるように暗示を自分に掛けていたと言っていたらしい。ただこの事例『そんな馬鹿な』といわれてまともな医学雑誌には論文が掲載してもらえなかったようで、三流雑誌に取り上げられただけ。私は偶然にも訪米中にそれを読んでいたのだけどね。あなたのケースと似ているので、今あらためてあの事例は本当だったんだなと思うことができます。どっちみちこれは非常に稀な事例のようですね」とその医師は語った。
 
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「性別適合手術を希望・・・・していますよね?」
「はい。希望します。できるだけ早く受けたいです」
「分かりました」といって医師はカルテに入力する。
「ただ、年齢的なものもあるからね」
「ええ、年齢的に許されるようになったら即受けたいです」
「お母さんは、その点はどうお考えですが?」
 
「この子を保護した直後くらいはこの子の姉たちとも、せめて18歳くらいになるまで待とうね、と言っていたのですが・・・・この子のあまりに完璧な女の子ぶりを見ていて、もう少し早くてもいいかな、とも思い始めた所です。そして現実に学校のご厚意で女子中学生としての生活がスタートしてみてやはり男性器がこの子の身体に付いていることが、物凄く大きな障害となっていることを再認識しました。それ以外はほんとに完全に女の子なのに、それがあるために、日々多大なストレスを受けるし、この子にしても周囲の人たちにしても、その配慮をしなければならない」
 
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「だから私は思うんですよね。この子の意志が固ければ、そして対応してくれる病院があれば、できるだけ早く手術を受けさせてあげて、完全な女子学生として、やっていけるようにできないものかと。戸籍上の性別は20歳まで変更できませんけどね。それに」
 
「それに?」
「実際問題として、この子、おっぱいがあって下着姿になっても女の子にしか見えない状態だし声も女の子なので、それで中学に入った頃から友達にほぼ完全に女子と認めてもらって同級生の女子たちと垣根の無い交流をしてきているんですね。この子におっぱいが無かったらここまでみんなに仲良くしてもらえなかったんじゃないか、もう少しお互いに遠慮のある付き合いになってしまったんじゃないかと思います。やはり身体の問題って重要なんですよね。だからこの子が少しでも楽に生きていけるようにしてあげたいと思っています」
 
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医師は頷きながらカルテに入力していた。次回は青葉の言うところの『生理』が近づく頃にあたるはずの一週間後に受診することになった。青葉の診察カードは性別Fで作ってもらったので、そのカードで他の科にも掛かれることになった。
 
5月の連休に高知の菊枝の家に行ってきた時、青葉と菊枝は資料館データベースのコピー(ハードディスク5台)を、過去に青葉・菊枝の双方が関わったことのある北海道在住のクライアントで資産家の越智さんのツテで、北海道銀行の貸金庫に預かってもらうことを決めた。青葉のいる北陸、菊枝のいる高知、まだ仮住まいではあるもののとりあえずデータベースだけ5月中に再起動する予定の岩手の佐竹家、それに北海道銀行の貸金庫、と4ヶ所にコピーがあれば、多少の災害が起きても、全部が一度にやられることはあるまい、というわけである。貸金庫のデータベースは半年に1度くらい最新のものに差し替えることにした。
 
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「でも、青葉ちゃん、ほんとに大変だったね。お姉さんやご両親も亡くなったとということだけど、力落とさずにね。何かあったら、こちらもできるだけ力になるから」
データの性質上、宅急便や郵送の手段を使いたくないという話に北海道からわざわざ高知の菊枝のところまでデータが入っているハードディスクを取りに来てくれた、越智さんの娘・舞花は、帰り道?高岡の青葉の所にも寄って、青葉を励ますように言っていた。舞花さんは今大学2年生である。
「ありがとうございます。何となく岩手にいた時より私、元気です」
と青葉は答える。
「うん。確かに凄く表情が豊かになった気がするし。それに・・・・」
「はい」
 
「前回会った時からなんだかぐっと女っぽくなった気が」
「あはは、お年頃ですから」
と青葉は照れ笑いしながら答えた。
「胸、それホンモノだよね」
「はい。今月からブラをBカップに変えました」
「女として成長過程か・・・・青葉ちゃんは色々気になる子だわあ」
 
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その晩、青葉が氷見産の鰤や、この季節ならではのホタルイカ(美味だが寄生虫がいるのでルイベと同様いったん超低温冷凍したもの)を使って、握り寿司を振る舞うと「すごーい。青葉ちゃんが握るんだ!」とまず感動し、実際に食べると
「美味しい!菊枝さんとこで頂いた鰹も美味しかったけど、ここの鰤もすごく美味しい」などと感動していた。
 
「能登半島の氷見・佐々波・宇出津付近で獲れる鰤は凄く美味しいんですよ。この味って日本一かも。今はシーズンオフですけど、冬場は『寒鰤』といって脂が乗ってまた美味しいから、一度冬にいらしてください」
などと青葉は(自分もつい最近知った知識で)解説していた。
 
なお資料館の運営主体については、菊枝も自分も調べてみたけどやはり社団法人がいいみたいだと電話してきた。
「宗教法人にした方が税金なども助かるんだけどさ。宗教法人にする場合、凄まじく大きな問題があって。役員が20歳以上でないといけないのよね。青葉を役員にしない訳にはいかないから、少なくとも青葉が20歳になるまでは宗教法人の線は無し」
 
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「宗教法人って、うちは別に宗教でもないし、信者さんもいないしね」
と青葉は笑って答えたが菊枝は
「その件だけどさ。瞬嶽師匠が私と青葉に印可を渡したいのだけどって、こないだ手紙が来てたよ。阿比留文字を達筆な毛筆で書いてあったから、判読に時間掛かったけど。それもらってくれば堂々とお寺を名乗れるよ」
と言う。
「あ・・・それはうちにも来てたけど、読めなかったから放置してた。たぶん同じ内容かな。で、菊枝は取りに行ったの?」
「いや、私もそんな柄じゃないし」
 
菊枝は法人化するなら自分も出資し、また自分の手持ちの資料も電子化を進めて、青葉の資料と相互に参照しあえるようにしたいと言っていた。青葉も菊枝の手持ちの資料には大いに関心があった。連休に高知に行った時も、そのボリュームに圧倒されたのであった。
「こんなに資料あるのなら、うちの資料とか不要では?」
などとその時、青葉は言ったが
「それが、うちには無い資料がたくさんそちらにはあるのさ」
という。お互いの興味の傾向やコレクションの方向性が異なるようであった。相互に補いあうことができると、どちらにとっても嬉しい。
 
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そういう訳で青葉と菊枝のふたりが代表になる線で手続きの準備を司法書士に依頼することにした。できたら「そういうのパス」と言っている慶子も代表に入れたいけどとふたりとも言い、菊枝が一度話してみると言った。
 

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それは5月下旬の金曜日の午後であった。学校から帰宅したばかりの青葉の携帯に岩手の慶子から電話が入った。
 
「ちょっと祈祷したいのでハニーポットを出してもらえますか?」
「自動起動モードを使わずに、わざわざ電話してくるというのは、少し難しめの祈祷なのね?」
「ええ。ふつうの祈祷のつもりで来たのですが、症状が重いのでホンモノが必要みたいなんです」
青葉は何か嫌な予感がした。
 
「今現場にいるんですよね」「はい」
「その人のそばに行ってください」「来ました」
「患者さんの左手を取って」「(ちょっと失礼します) 取りました」
 
「あ、女の子だ。私と同じくらいの年か・・・・・やっぱり。その人やばいです。直接行きます。そのまま手を握っていて下さい。応急処置します。。。。しました。これでこれ以上悪化することはないです。ハニーポットは今から起動しますから、祈祷は祓えの祝詞を使って。仏教系の呪法は使わないで下さい」「分かりました!」
 
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「今からそちらに行きます。確か夕方19時のはくたかに乗ったら仙台に24時前に着けたはずなので」「じゃその時刻に仙台駅に迎えに行きます」「お願いします」
 
青葉は電話を切ると、母に緊急事態なので今から岩手に行ってくると告げた。「じゃ高岡駅まで送るわ」と言って朋子はヴィッツを出した。
 
実際には道があまり混雑していなくて高岡駅には17:20頃に着いてしまったので、17:41のはくたか23号に乗ることができた。青葉は母のヴィッツの助手席で予約センターに電話して仙台までのチケットを確保したので(この手のものを決済するために青葉は自由に使えて限度額も無いクレカを1枚、ある資産家のコネで発行してもらい所有していた)、駅に着くとすぐにみどりの券売機でチケットを発行し、そのまま、はくたかに飛び乗った。母が駅弁を買ってきてくれたので、それを夕飯にした。青葉はひとつ早い便に乗れたので仙台に22:42に着くと慶子に連絡した。
 
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高岡1741→1959越後湯沢2008→2054大宮2102→2242仙台
(はくたか23 Maxとき348 はやぶさ505)
 
無駄に大きい気がする越後湯沢の駅の中を走って東京行き新幹線に飛び乗り、大宮で東北新幹線に乗り継ぐ。大宮駅も8分待ちという慌ただしい乗り換えだ。仙台に着くと慶子の友人で青葉も何度か会ったことのある槇子さんが迎えに来てくれていたのでその車に乗り、大船渡を目指した。慶子は何かあった時のために患者さんのそばに待機しているのだという。深夜2時頃に病人の家に着いたが、向こうは感謝していた。
 
「富山県から駆けつけてきてくださったんですか!」
「3月まではこちらに住んでいたんですけどね」
すぐにヒーリングを始めた。
 
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「祈祷・・・とかではないんですね」
「祈祷までしている余裕がありません。これはヒーリングしまくります。朝まで連続6時間くらいかな」
といって、青葉は患者の女性のそばでヒーリングを続けた。見た感じ、電話で感知した通り、自分と同じくらいの年の女の子だ。尋ねると青葉と同じ中学2年生で柚女(ゆめ)さんといった。
 
「ところでこれ、病名とかは分かりますか?病院では先生が迷っている感じで。それで様子見ましょうなんて言われたら急に夕方4時頃にこの状態になって。救急車呼ぼうかとも思ったけど、病院まで遠いし、この状態で動かしていいものかどうか迷ってた所に、お義母さんが呼んでくれた佐竹さんがちょうど来てくださって」
「病院の先生に分からないの当然です。これ霊障から来たものですから」
「霊障!」
 
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