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■春閼伽(2)

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翌日は松梨詩恩を迎えた。
 
「松梨詩恩ちゃんでーす」
「パチパチパチ」
「今日はほとんど身内というか」
「実は高崎ひろかちゃんや松梨詩恩ちゃんのお母さんが§§ミュージック女子寮の寮母さんをしているので、詩恩ちゃんもそこに住んでいて、§§ミュージックのタレントは日常的に会ってるんですよね」
 
(朱美とはるこは、女子寮から独立はしているが、レッスンや制作のため日常的に女子寮に来る)
 
「最近は姉の結婚のことばかり聞かれます」
「ひろかちゃん、詩恩ちゃん、水森ビーナちゃんで三姉妹だよね」
「ええ。三人とも父が同じなんです。特に私とひろか姉は母も同じなんです」
「その人に寮母をお願いしてるんですよね」
「最初は寮生たちに御飯作ってあげるのが仕事だったんですが寮生が増えすぎて不可能になりました」
「今寮生は90人くらい居るからねー」
「玄関の所に座ってみんなに『いってらっしゃい』『お帰り』を言うのが仕事になってます」
 
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「10代の若い子が親元離れて東京に出てきてるから、みんな亜矢子さんの顔見るとほっとすると言うよ」
「みんな売れてくれたらいいのにと言うけどなかなか難しいですね」
 
「でも詩恩ちゃんとビーナちゃんは特に似てるよね」
「ええ。私とビーナは父は同じでも母は違うんですけどね。凄く似てるからお互いに代役やってます」
「詩恩ちゃんのドラマにビーナちゃんが代わりに出たり、ビーナちゃんのドラマに詩恩ちゃんが代わりに出たりしてる」
「どっちでもいいからちょっと来て、とか言われるんですよ」
「あはは」
「CMの撮影が終わってから『君どっちだったっけ』と訊かれたり」
「あははは」
 

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詩恩ともアクアの話をかなりした。
 
「星原琥珀ちゃん、詩恩ちゃん、アクアと3人。高校で一緒だったんですよね」
「そうです、3人共早めに学校を早退することが多くよく3人で一緒にタクシーに乗って放送局に向かってました」
「アクアはスカート制服ですよね」
「もちろんです。女子高生はスカートですよ」
「アクアが女の子であることは全国民が知ってますよねー」
「全世界で知られてますよ」
「ただズボンの日もあったんです。ですから多分、男アクアと女アクアが交替で学校に来てたんだと思います」
「なるほどー。ずっと二人一役してたんでしょうね」
「アクアは忙しすぎましたからね。ひとりしか居なかったら多分高校も卒業できなかったと思います」
「ああ、出席日数が足りませんよね」
「一応学業優先にはしてもらってるけど体力が足りませんね」
「音楽科ですよね」
「ええ。音楽の授業が歌唱・ピアノ・理論とかもハイレベルだし、朱美ちゃんも同じ学校だから分かるだろうけど、英語もレベル高いよね」
「ああ、だからアクアって英語が凄いうまいですよね」
「ここ数年日独合作映画撮ってるけどドイツ人の俳優さんやドイツ側の映画会社の社長と英語で流暢に会話してますよ」
「やはりうまくコミュニケーション取れないといい映画は撮れませんよね」
 
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アクアの音楽能力が高いことは知られていてピアノやギター・フルート・ヴァイオリンなどを弾く所はよく披露されているが、英語力はあまり知られていなかったので「へー」と思った視聴者は多かった。また二人一役していたからこそ、あれだけ多忙な中、勉強もできていたのだろうと思わせた。
 

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「まあ世の中、一人二役とか二人一役って多いよね」
「舞台のお芝居とかダブルキャストよくありますね」
「“紅天女”もダブルキャストになるんじゃないかなあ(*3)」
「ああその説は昔からある」
 

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(*3) 2020年にリアルで上演された『紅天女』では、主役の紅天女を2人の女優さんがダブルキャストで演じた。
 

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「江戸時代の江戸町奉行とかふたりで隔月交替だよね」
「江戸町奉行って都知事と警視総監を兼ねたような仕事だから無茶苦茶忙しかったろうからね」
「市中に出歩いて遊び人してる時間なんて無い」
「うん。そんな時間無い」
 
「まあ工場とか病院とか船舶とかの交代制勤務も似たようなもんだね」
「うん。船がシフト勤務でなくて平日の朝9時から夕方5時までしか営業しませんとかなら怖いね」
「土日や夜の間に沈没しちゃう」
 
「だから海軍は“月月火水木金金”だった」
「私たち芸能人も“月月火水木金金”だね」
 
BGM:明恵のバイク仲間の男の子4人(卯辰山麓男声合唱団)による『月月火水木金金』
(高橋俊策作詞・江口夜詩作曲)
 
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「それで曜日感覚が分からなくなるから“金曜日はカレーの日”」
「ケイさんとこも“金曜日はカレー”でしょ?」
「そうそう。マリんちが昔からそうだったらしいのよ」
「神田あきらちゃんちもだそうです」
「醍醐先生もでしたね?」
「うん。あれはいい習慣だと思う」
 
歌唱では詩恩は最新の曲を朱美の伴奏で歌った。
 
インタビュー後の焼肉では、詩恩が「醍醐先生、私馬鹿だから、馬と鹿の肉が食べたいです」と言ったので、熊本県産の馬肉、兵庫県産の鹿肉が持ち込まれた。朱美も
「みんなで馬鹿になろう」
などと言って食べていた。
 

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岡安は大学でお昼を学食で食べた後、食堂そばのトイレにはいろうとした。入口の自動ドアを通り中にはいったら、背の高い男の子がこちらを驚いたように見て
「君こちら違う」
と言った。岡安は反射的に
「すみません」
と言ってそのトイレを出ると、隣のドアのほうに入った。列ができているので並ぶ。しばらく並んでいる内に彼は奇妙なことに気付いた。
『なんで、列に並んでるの女の子ばかりなの〜?』
 
そのとき、2つ前に並んでいたクラスメイト女子の坂井さんが訊いた。
「ねえ、俊ちゃん、私今日スマホ忘れちゃって。今日のオフィスの講義、場所はどこだったっけ」
俊夫は答えた。
「大講義室のほうだよ」
「ありがとう!」
「スマホ忘れるとほんと色々困るよね」
「うん。何にもできなくなる」
 
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しかし個室が3つ続けて空いたので、彼女も、その次の人も俊夫も中に入った。便座除菌シートでピンクの便座を拭いて座る。そして、おしっこをしながら考えた。
『もしかして、ここ女子トイレということは?』
 

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草場かすみ(墓場劇団での名前:草場影見)は座長の妻・浅子(劇団での名前:戦死)に電話してきて言った。
「去年勝手に出て行って迷惑掛けたのに申し訳無いんだけどさ、私金沢に戻ってきたのよ。またそちらに入れてくれたりしないかなあ」
 
浅子は言った。
「大歓迎!また一緒にやろうよ」
「ありがとう」
「取り敢えず一度会わない?」
 
それで浅子はかすみと金沢駅近くのマクドナルドで会った。
 
「誘われて東京に出ては行ったもののさ、向こうでは練習生扱いで、役とか全然もらえないし、コロナでエキストラのクチも無いし、居酒屋とかのバイトで生活費稼いで、公演をするのに寄付を集めて、私何のために東京に出てきたんだろうと思って。アパート追い出されたんで向こうは退団して、取り敢えず戻って来た。悪いけど一週間くらい泊めてくれないかなあ。ホテル代も無くて」
「いいよ」
 
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それで浅子は彼女を泊めてあげて、アパートを借りる保証人にもなってあげた。更に敷金も貸してあげた。
 
(歌音が結婚して独立したので部屋に余裕があった)
 
しかしこれで墓場劇団に女優が1人復帰したのである。
 
しかも彼女は脚本の校正担当だった。浅子は学が無いので、浅子の書く台本は誤字脱字・文法間違い、主語述語の不対応、言い間違いなどが物凄く多いのである。
 

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また墓場劇団は昨年の秋から、死国巡礼とずっと合同公演をしていたが、劇団自体再合同することになり新劇団“墓場巡礼”を結成した。劇団は総勢14人になる。
 
泣原死亡(座長)
泣原戦死(脚本担当)
 
夜野棺桶
黒衣魔女
境界迷子
草場影見
 
槇原歌音
槇原合掌
槇原安里愛
 
地獄大佐(副座長)
成仏霊子
死神大鎌
涅槃安楽
三途川守
 
新体制で8月の公演『しがらみ誤認ひょっとこ』の準備をする。
 

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元々、墓場劇団が、コロナで観客を入れての上演ができなくなったので、座長の泣原は、無観客上演・テレビ中継という路線を開拓した。しかし地獄大佐など3名が「観客の居ない所で芝居をするのは喜劇の姿じゃ無い」と言って退団し、死国巡礼を作った。もっとも死国巡礼は面白い脚本を作れなかったし、資金力も知名度も無いので、舞台の観客はいつも2〜3人だった(無観客と大差無い)。
 
昨年墓場劇団は大作『クラインの墓穴』上演のため人数が足りないので死国巡礼に協力を求め、合同公演をした。この公演は“あけぼのテレビ方式”で行われ、ネットを通して繋がっている全国の観客から声援や拍手があるので、死国巡礼のメンバーもこの方式なら今後もやってもいいと妥協し、合同公演が続いていた。
 
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ラピスラズリが歌う『おじいさんの時計』が話題になると、振り子時計を求める人が増えたのでメーカーでは30cmサイズの振り子付き電波時計を増産した。
 
時計の設置方法は2通りあり、振り子ユニットを文字盤の後ろに取り付けると振り子の重りが振れているのだけが見えて30cmサイズで設置できる。振り子ユニットを文字盤の下に取り付けると振り子の全体が見えて趣きがあるが、設置スペースは50cmほど必要になる。
 
ムーランが各店舗に置いたものと同仕様だが、文字盤の絵は動物とか花とか無地である。時報代わりに次のようなメロディが鳴る(時刻の数のチャイムにしたり、鳴らないようにもできる)。
 
6:00 小鳥の鳴き声
7:00 ペールギュントの朝
8:00 トルコ行進曲
9:00 真珠採り
10:00 エリーゼのために
11;00 乙女の祈り
12:00 女学生(ワルトトイフェル)
13:00 天国と地獄
14:00 白鳥(『動物の謝肉祭』より)
15:00 アルルの女のメヌエット
16:00 喜びの歌
17:00 家路(『新世界より』より)
18:00 アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク
19:00 夜想曲2番
20:00 蛍の光
 
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振り子の長さは約25cmにしている。この長さにすると振り子の周期が1秒になるのである。(振り子の周期は紐の長さの平方根に比例するので長さを4分の1にすると周期は半分になる)
 
メーカーではCMも流したが、このCMにもラピスラズリの歌を使用した。
 

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希望は性別女と記載されたマイナンバーカードを受け取った翌週にはパスポートセンターからのハガキをもらい、sex:F と書かれたパスポートを受け取った。
 

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初海の妹。双葉は無事四輪とバイクの免許を取得した。
 
初海がお金を出してあげて双葉はNinja250を買った。初海のと同じ型だが、初海のはグリーン、双葉のは黄色で、色違いである。
 
明恵(YZF-R25)と一緒に珠洲市までツーリングして須須神社に所蔵されている源義経ゆかりの笛をレポートしてきた。
 

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霊界探訪編集局ではY温泉に居たのがいつの間にかF温泉に居たという話について情報を募集したものの情報は全く集まらなかった。またY温泉やF温泉でも聞き込みをしたものの「そんな話聞いたことない」という意見ばかりであった。
 
希望は言った。
「そういう出来事が実際に起きていたとしても温泉関係者は認めませんよ。客足に影響するから」
「それあるかもね」
と幸花も言った。
「それに温泉の利用者なんて地元の人よりよそから来た観光客が多いだろうから金沢で情報収集しても情報は寄せられないと思う」
と明恵は言った。
「それもありそうですね」
と双葉。
「ただY温泉とF温泉の間には地図で見ると遊歩道みたいな細い道があって昔は20-30分で移動できたらしいです。でも10年くらい前の大雨で崖崩れして現在は通行禁止になっているみたいです」
「じゃそのあたりのことをまとめてレポートにするか」
「仕方無いですね」
 
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希望は、この件はコイルさんが何かして怪異が起きなくしたのではないかという気がした。
 

振り子時計が話題になったことから、悪乗りしたおもちゃメーカーが“風も無いのに揺れる金時計”を発売した。電波方式ではなく、安価に作れるクォーツ発振である。そして揺れているのは“金の玉”である。CMにはカップソープ・カップしるかが起用され“例の歌”を歌った。これが小学生たちにおおいに受けた。なお女の子向けに花が揺れるバージョン、また子ダヌキが揺れているものもある。(揺れる物は家庭で交換可能でオプションとして販売した。ウサギ・鳥・手鞠・碇・飛行機・UFOなど)
 
税込み990円という低価格で、時計自体、耳・しっぽ付きでタヌキの形をしている。文字盤はタヌキのお腹に相当するが、文字盤には“こぶた・たぬき・きつね・ねこ”の絵が入っており、正時にはメロディが鳴る(鳴らないようにもできる)。組み込まれているメロティも童謡が多い。
 
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7:00 静かな湖畔
8:00 さくらさくら(日本古謡)
9:00 おはぎがお嫁に行く時は
10:00 メリーさんの羊(アメリカ民謡)
11;00 ゆかいな牧場
12:00 アヴィニョンの橋で
13:00 アルプス一万尺
14:00 山の音楽家(ドイツ民謡)
15:00 クラリネットを壊しちゃった(フランス民謡)
16:00 フニクリフニクラ(鬼のパンツ)
17:00 夕焼け小焼け
18:00 証城寺の狸囃子
19:00 きらきら星
20:00 月の沙漠
 

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和栄はお得意様のバス会社にお弁当を10個、お店のアルトを使って届けに行った。
「こんにちはー、お弁当のアイゼンです。お弁当お持ちしました」
 
お弁当を10個一度に運べるのは、さすが男の娘である。女の子には厳しい。
 
「ああ、お疲れさん。あれ?アイゼンって女の子のバイトさんもいるんだ?」
「いえ、私男ですよ」
「うそー」
「女の子にしか見えない」
「声も女の子の声だし」
「可愛いから、うちのガイドに雇いたいくらいだ」
 
和栄は“左手”を顔の高さに挙げて言った。
「皆様〜、右手をご覧ください。それが右手でございます、とか?」
「あはは、そういう感じ」
「君歌は歌える?」
「女の子らしい声を出す練習に女性歌手の歌はよく歌ってますが」
「何か歌ってみてよ」
 
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と言うので、和栄はClariSの『border』を歌ってみせた。
 

「うまーい!」
「君マジでガイドになる気無い?」
「でも私男ですよー」
「バレない、バレない」
「今大学生?」
「4年生です」
「就職先は決まってるの?」
「内々定もらってたんですが、女装癖がバレて首になりました」
「だったらうちにおいでよ」
 
「ちなみにおっぱいは本物?」
「はい。Bカップしかありませんが」
「Bもあれば充分。ちんちんはまだ付いてるの?」
「もう無いかも」
「だったらもう女ということでいいじゃん」
 
「ちんちんは無いけど金玉はあるってことはないよね」
「たまたまとは3年くらい前にサヨナラしたかな」
「ああ、それで女らしいんだね」
 
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それで和栄はこのバス会社に入ることになったのである。和栄は採用通知とかをもらう前から「これ覚えて」と言われてガイドブックを渡され、年内のツアーに投入されることになる。ツアーでは山代(やましろ)温泉でお客様と一緒に温泉にもはいった。
 

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春閼伽(2)

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