[携帯Top] [文字サイズ]
■春九(4)
[*
前p 0
目次 #
次p]
3月6日(月)、青葉は高岡市内のF産婦人科に入院した。最初にかかって妊娠診断書とかを書いてもらったQ産婦人科でもいいと思っていたのだが、そこの先生が
「あなたはスリムな体型で骨盤も細いから難産になって帝王切開になる可能性もあるから設備の整った病院で」
と言われ、そこへ回されてしまったのである。
骨盤が細いって私が元男だからかなあと青葉は少し憂鬱になった。先生は
「そこにいる妹さん(月子のこと)とかは安産体型だね」
などとも言っていたので、やはり2人目は月子に産んでもらわねばと青葉は思った。
病院には、昼間は朋子・千里・桃香が、夜間は月子が付いててくれた。
「お母さんやお姉さん・妹さんが付いててくれるんだね。旦那さんは埼玉と言ってたっけ。こちらに来るの?」
「間に合わないかもだけど母と姉たちがいれば大丈夫です」
「そうだね、こういうのは男はあまり役に立たないしね」
月子が困ったような顔をしていた。
3月7日には、千里が佐賀の祖父母を連れて来てくれた。佐賀空港からホンダジェットで能登空港に飛び、明恵の運転する車で高岡まで来た。2人は青葉の家に泊めた。
7日には、彪志の両親も来てくれた。こちらは花巻空港からビーチ400に乗せて能登空港に運んできた。こちらは真珠が伏木まで運んでくれた。こちらも青葉の家に泊めた。
先生は「予定日より早くなるかも」と言った。予定日は3月15日である。青葉はやはり震災の日3月11日に出てくるかもと思ったのだが、陣痛は3月8日の朝には始まってしまった。月子は一晩中付いててくれたのだが、8日は会社を休む旨、連絡していた。朋子・桃香が千里の運転で一緒に出て来た。朋子と月子が両手を握っていてくれる。桃香がお腹をさすってくれる。
「そろそろ分娩室に移動しようか」
「はい」
「さあ立って」
「歩いて移動するんですか〜?」
「当然」
「歩く自信無いですー」
「仕方無いね」
それで車椅子で運んでもらった。分娩台に寝る。
え〜?赤ちゃんもう出てくるの?予定日はまだ一週間先なのに。
でも陣痛の間隔はどんどん短くなり、破水が起きる。
「もう子宮口は全開したね」
「いよいよか」
「頑張ってね」
まだ心の準備が。
「呼吸法思い出してヒッヒッフー」
「はい」
それで腹式呼吸していると赤ちゃんはどんどん産道を進んでいるようである。
「もう赤ちゃん見えてきたよ。あと少し」
「はい」
長い呼吸に切り替える。その時青葉は千里姉の秘書の天野貴子さんが助産師服を着て傍に立っていることに気がついた。天野さんって助産師なの??
しかしその天野さんが上手に誘導して、赤ちゃんはとてもスムースに出て来た。帝王切開を覚悟してたのに必要無かった。会陰切開さえもしなかった。
「赤ちゃん全部出たよ」
「お疲れさん」
え?もう終わったの?
やがて、おぎゃー、おぎゃー、という赤ちゃんの泣き声が聞こえる。
わあ。
青葉にはそれが天使の声のように聞こえた。
「女の子だよ。おめでとう」
という千里姉の声が聞こえる。
若い助産師さんが外に出て、廊下で待機していた朋子・桃香・月子に
「女の子です。おめでとうございます」
と伝え、歓声が上がっていた。
天野さんが赤ちゃんを抱いて、最初に青葉に、次に千里に、そして分娩室に入ってきた朋子・月子にも赤ちゃんを抱かせてくれた。
出生時刻は2023/3/9 0:50 と記録された。体重は3429gであった。桃香姉が分娩室に入ってきて
「青葉よく頑張った」
とねぎらってくれた。これでやっと終わったのかという気分になる。なんか桃香の言葉に一番ほっとした。
出産が終わると青葉は病室に戻される。赤ちゃんも同じ部屋に入れてもらった。ここに明恵・真珠・初海が入ってきて。赤ちゃんの映像・青葉の映像を撮っていく。どうも出産の時も分娩室の外で待機していたようだ。全くお疲れ様である。
佐賀の祖父母、彪志の両親は朝になってから千里姉の助手・夏川さん(サハリン)の運転する車(アルハンブラ)で病院に来た。そして自分達の曾孫・孫の顔を見て喜んでいた。
朋子の妹の典子、朋子の母の敬子も午前中に典子の車で来て赤ちゃんを見ていった。敬子にとっても“ほぼ曾孫”である。
赤ちゃんの名前は青葉と彪志で話しあい“紗織”とすることを決めた。天使が舞い降りてきて、自分達の子供になってくれたかのように青葉が感じたからである。“さおり”とは神様の降臨を意味する。
「へー、さおりちゃんか。可愛い名前だね」
と朋子も文月(彪志の母)も言ってくれた。
出生届は病院の先生が母:鈴江青葉、父:鈴江彪志、という出生証明書を書いてくれて9日の内に彪志(月子)の手で高岡市役所に届けられた。母子手帳にスタンプももらった。彪志は今自分の住民票が“鈴江月子”になってるけど“鈴江彪志”が通るかなと不安だったが、出生届はちゃんと受け付けられたようであった。病院の先生は「お父さん間に合わなかったね。残念だったね」などと言っていた。桃香は
「凄い安産でしたしね。仕方無いですよ」
と言っていた。まあ長く苦しむよりはよい。
[*
前p 0
目次 #
次p]
春九(4)