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■春九(1)
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月子(彪志)が3月5日のイベントを終えてウィングライナーで帰宅すると青葉の家に千里さんが来ていた。
「青葉がそろそろ(出産)だろうと思って来た」
「ありがとうございます」
「出産したばかりのあんたが一番いろいろ分かるだろうと言われて私が来た」
と言っている。それで青葉はこれは2番さんかと思う(正確には2A)。
「でも月子ちゃん何でそんな男みたいな服着てるの?」
「ねー。ちゃんとレディススーツ着ればいいのにね」
「これ千里さんが買ってくださったメンズスーツなのですが」
「ああ。彪志君の男性化を図ってる千里もいるんだな」
「月子ちゃんの女性化を応援してる、ちー姉もいるよね」
「というか月子ちゃんは間違い無く女性だと思うけど」
「私はそれでいいよー」
「ほら奧さんの許可も出てることだし女として生活すればいいよ」
「僕は男です」
「男より女の方がいいよ。男なんてやめて女になろう」
「いやです」
「今更という気がするなあ。別にちんちん無くてもいいんでしょ?」
「無くてもいいけど、たとえちんちんが無くなっても僕は男です」
「ほんとはちんちん無くしたいんでしょ?」
とあきらは歌音に訊いた。
「無くなって女の子になれたら、という気持ちは結構強い。でも当面は男のままでいるよ」
「ふーん。まあ正直なのはよろしい。私はよっしーが女の子になっても好きだからね」
「僕も自分の性別とは無関係にじゅねちゃんのこと好きだから」
「ありがと。でも女の子になる手術受けるときはできたら事前に言って」
「それは必ずそうする」
「うん」
初海は予定日が迫る青葉の所に来て尋ねた。
「伏木菓子神社の御祭神について見解が別れてる気がするんですが」
「どういうこと?」
「最初聞いたのは、土地神様、お伊勢さん、津幡の姫様、千葉の玉依姫神社の神ということだったんですが、宮司の花代さんから、おじいさんの神様1柱と姫神3柱と聞いたとクレールの佐藤さんが。それからこないだあの近くを歩いてたらお婆さんが『あら、弁天様が復活してる』と言うんですよ。それでちょっと、お話を聞いたんですけどね」
「うん」
「そのお婆さんによると、ここには小さな池があって、鳥居があって
誰からともなく弁天様と呼ばれていたらしいです。でもここを管理していたお爺さんが亡くなった後、相続した息子が池を潰して、鳥居も取っ払って駐車場にしてたらしいです。でも息子さん、事故には遭うわ奧さん出て行くわでろくなことなかったらしいです。そのあとしばらくコンビニになってて」
「ああ、コンビニ時代は知ってる」
「でもはやってなかったらしいです」
「うん。何か入りにくかった」
「やはり弁天様とか潰すもんじゃないよと言ってました」
「弁天様の波動は感じたことないなあ、初海ちゃん、私を今の神社に車か何かで連れてってよ。行って見れば分かると思う」
「大丈夫ですか〜?」
と言いつつも初海がマーチで青葉(R)を神社に連れて行った。青葉は神社を見ると
「ああ。分かった。家に帰って説明するよ」
と言う。
それで青葉邸に帰る。サンルームで説明した。青葉はホワイトボードにこのように書いた。
1.伏木大神(男神)・伏木大神(姫大神)
2.お伊勢さん(天照大神・豊宇来大神)(神明社)
3.津幡姫
4.玉依姫
「ちー姉が斎藤宮司にたのんだように、ここには最初に神明社が復元された。元々あったのが弁天様ではなく神明社だったから。そのあと津幡姫と玉依姫が勧請された。ここで神明社というのは特殊な神社なんだよね。伊勢の内宮・外宮の神を祭る神社だけど、基本的には遙拝所なんだよ」
「リモートですか」
「そそ。お伊勢さんは分社を作らない。正確には作れない。だって、太陽は、ひとつだけだし」
「なるほど」
「だから神明社があっても、そこに天照大神や豊宇気大神がおられる訳ではない。だから、その神社におられる神の数には数えない」
「へー」
「神明社作る時、土地の神様は無視できないからそれも祭った。
これが夫婦神なんだな。男神はこの地域全般の神。女神は水の神。これをお婆さんは弁天様と誤認してたんだな。この神様は弁天様ではなく海から幸を持って来てくれる神。乙姫様とかに近い。ちー姉がうちの姫様の案件だと言ったのは鋭いよ」
と青葉が言うと、姫様は
「伏木姫とは仲良くなったぞ」
と言っている。
「海からやってくる“まれ人”の神だから、弁天様より恵比寿様に近い」
「そういえば『まれ』ってドラマありましたね」
「うん。能登にケーキ屋さん作る話だね、縁起がいいじゃん」
「ほんとですね」
「佐藤さんが花代さんから聞いたというのは、姫神3つをこう数えてる。伏木の姫神、津幡姫、玉依姫」
「そうか。豊宇気大神がはいってないのか」
「ここにおられるわけではないからね。御祭神ではあるけど」
「それで明快になりましたよ」
ガトームーランの北陸地区で売り出した“水車饅頭”には兵庫県産の小豆・白インゲン・はちみつを使用したが、これは千里が兵庫県内に多数の小豆畑・白いんげん畑・養蜂園を持っていたからである。千里がそれらを所有するに至った経緯はそのうち詳細を書くことになると思うが、簡単に見て行くと次のようであった。
千里の姫路の家の近くに立花K神社という小さな神社があり、高校時代、千里はここのバイト巫女であった(その後様々な経緯があって、現在は禰宜)。この神社で“万代飴”という素朴な飴を売っていて、参拝客や地域のお年寄りに人気があった。
その万代飴をもう作れないという話から事は始まった。
作っていたのは万代堂という小さなお菓子屋さんでパートのおばちゃん3人くらいで細々と作っていた。材料は近隣の養蜂園の蜂蜜と地場の醤油店の醤油である。このお菓子屋さんが数年前に屋根が傷んで直すのにお金が掛かったのをきっかけに資金繰りが辛くなり、もうパートさんの給料も払えないし、材料の蜂蜜も買えないという話だった。
千里は天野産業名義でこのお菓子屋さんを実質買収。資金繰り問題を解決した。70代の社長さんはこれを機会に引退して、娘の婿に社長を譲りたいと言った。これが交野(かたの)淳一さんといって、朱雀フーズの業務拡大はこの人の手によるところが大きい。
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春九(1)