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■春事故(1)
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「事故と言ったら、やはり僕は小学校の時のあのダンプに轢かれた事故が忘れられないよ」
と彪志は言った。
「あれはほんと凄い事故だったよね」
と青葉も言う。
「あの事故現場に青葉も居たんだろ?」
「そそ。ちょうど旅行中だったんだよ」
それは大型トラックがレストランに飛び込んで来る事故であった。レストランの中の窓際に居た彪志はトラックの下敷きになり重傷を負う(青葉は奥の方の席だったので無事)。それで彪志は睾丸を失ったのだが、出羽の美鳳の手で『睾丸とか要らない』と言っていた青葉の睾丸が移植され、彪志は男性能力を回復した。その後、青葉には彪志の姉・銀杏(数年前に死亡)の女性器が移植された。だから実は紗織は、青葉由来の精子と銀杏の卵子から出来た子供である。だから間違い無く青葉の子供だが、彪志にとっては実は姪にあたる(それでも文月にとっては正真正銘の孫)。
青葉が紗織を出産した少し後青葉が病室に戻り、病室に彪志だけが居た時、唐突に美鳳が出現した。青葉と彪志は今子供の名前(紗織)を決めた所だった。
「青葉、出産お疲れさん」
「あ、あなたは」
と彪志が驚く。
「彪志、美鳳さんと会ってたの?」
「まあ色々な」
と美鳳。
「美鳳さん、彪志に何したんですか」
「まぁ悪いようにはせんから」
「ほんとかなあ」
「青葉、出産は大変だったか」
「大変でしたけど、女として生きるからには頑張りますよ」
「お前たちには3人の子供ができる予定で1番目と3番目は青葉が産むことが確定しているが2番目はどうする?青葉が産む?月子が産む?」
「月子が妊娠出産した場合、その父親は誰かというのが問題になります。結果的に私の性別問題が蒸し返されて、多分私は女子選手としての資格を剥奪され、オリンピックや世界水泳での記録も末梢され、これまで私の性別問題でかばってくれた人たちにも迷惑をかけます。だから2人目も私が妊娠出産するしかありません」
「だったら彪志君は男に戻すか?」
「やはり彪志の性別問題は美鳳さんの悪戯だったんですね。彼は男に
戻してください」
「おや、お前はRか」
「ええ。Lはこの問題に全く気付いてません」
「妊娠でここまでパワーが落ちるとはな」
RとかLという話は彪志はさっぱり分からない。
「では彪志君は男に戻そう。いいかい?彪志君。女のほうがいいと思い始めてない?」
「話が見えないですが、僕は男に戻りたいです」
「じゃ車の中ででも少し仮眠するといい。2晩青葉に付いてて疲れたろう。起きた時には男に戻ってるから」
「ほんとですか。ありがとうございます」
それで彪志は病院の駐車場に駐めたフィットに行って仮眠した。
「要するに彼の睾丸を自分の遺伝子を持つ睾丸に変えるために、一度女に変えてまた男に戻したんですね」
「さすがRだね。するどいね」
「彼の元々の睾丸は20年前の事故で失われてしまいましたからね」
「それで2度性転換させることで復活させた。アクアの傷が消えたのと同じ原理」
「ああ、あれも性転換の副作用ですか」
「そうそう」
「しかしだから3人目はR、お前が産む必要あるぞ」
「頑張ります」
彪志は2度性転換することで自身の遺伝子をもつ睾丸を所有している。2人の青葉のうち、Lは銀杏の女性器、Rは青葉自身の遺伝子をもつ
女性器を持つ。だから正しく彪志を父とし青葉を母とする子供を作る
ためには、2度性転換を終えた彪志と青葉Rの間で子供を作る必要がある。
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