【娘たちのベイビー】(5)

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「よし、お着替え!」
とコスモスが号令を掛ける。
 
ネオンと山本君、撮影担当の男性が部屋を出る。
 
「みんな別の振袖に着替えて」
「お着替えするんだ!」
 
それで着付師さんたちが入って来て、全員今着ている振袖を脱ぐ。長襦袢はそのままである。そして別の振袖を着付けてもらう。
 
「年が変わったら、服も変えなくちゃね」
「なるほどー」
「これ予算掛かってますね」
「そりゃこういう所で手抜きしてはいけないんだよ」
とコスモスは言っている。
 
アクアは着付けしてもらっていて、何だかさっきのより豪華な振袖のように思ったので、訊いてみた。
 
「そうそう。全員グレードアップしている。みちるちゃんとアクアちゃんのは250万円くらいの加賀友禅、ありさちゃんとひろかちゃんのは120万円くらい」
 
「なんかさっきのように高そうな気はした」
 
「社長、私のはさっきのより安い気がする」
とゆりこ。
 
「うん。私たちのは90万円くらいの振袖。タレントさんたちが主役だから、私たちは引き立て役」
「ま、いっか」
 
ゆりこはだったら本当はさっき自分たちのとひろかたちのが逆になっていたんじゃないかという気がしたが、些細なことである。
 
しかし本人も含めて誰もアクアが他の女子たちと一緒に着換えていることに問題を感じていない。
 

12-13分で着替えは終了する。ネオンが入ってくる。ネオンも青い和服から黒い和服に着替えている。今度はこのように並んだ。
 
(ピアノ)アクア・ひろか・みちる・ネオン・ありさ
 
みちるが中心というのは変わらないが他の4人の位置は少しシャッフルした感じである。
 
今回ピアノも交換している。さっきのはカワイのGX-7(341万円)だったが、今回はヤマハのC7X (336万円)である。
 
「ピアノは5万円安い」
「それ誤差の範囲という気がします」
 
今度はコスモスは黒い指揮棒を持った。それで撮影担当の人が入って来て、カメラを回し撮影する。ゆりこが弾くC−G7−Cのピアノの音に合わせて全員お辞儀をした上で
 
「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」
 
と一緒に言った。これは1月1-3日に放送されるらしい。
 

「お疲れ様でしたぁ!着換えて帰宅ね。全員ちゃんとおうちまで送らせるから」
とコスモスは言ったが
 
「私、寮に泊まります」
と品川ありさ。彼女は海老名市なので自宅まで戻るのは大変である。既に終電も出ている。
 
「ボクも寮に泊まろうかな」
とアクア。
「うん。龍ちゃんもそうすればいいよ」
 
「じゃ寮に行く人はタクシー相乗りしていこうよ」
 
みちるは都内の分譲マンション(今年春に10年ローンで買った)、ネオンも都内の賃貸マンションなので2人とも別途タクシーで帰ることにする。
 
「でもネオン君が羽織袴なら、ボクも羽織袴着たかったなあ」
などとアクアは言ったが
 
「嘘つかないように。振袖着て嬉しそうにしてた癖に」
とありさから言われている。
 

「実際アクアちゃん、声変わりしないように、東郷誠一先生の勧めで、こないだ睾丸取る手術したんでしょ?それで年明けからは女の子タレントとして売り出すと聞いたけど。だから今日は振袖だったんでしょ?」
などとネオンが言っている。
 
「そんな手術してないよ!」
 
「その話聞いて、社長に僕も睾丸取ってくれなんて話にはなりませんよね?と訊いたら、アクアちゃんは声変わり前だから睾丸を除去する意味があるけど、僕はもう声変わりが済んでるから去勢する意味ないから大丈夫と言われてホッとした」
 
「ネオン君ももし睾丸取りたいのなら手術代くらい事務所で出してあげるよ。今睾丸取れば、あまり男っぽい身体にはならずに中性的な魅力をキープできるよ」
とゆりこが言うが。
 
「遠慮します!」
とネオンは即拒否した。
 
しかしうやむやの内に、アクアは睾丸を除去した、とネオンが信じたまま(?)彼はタクシーで帰っていった。
 
「まあ実態は、龍ちゃんの場合、睾丸を除去しようにも、最初から睾丸なんて無かったんだけどね」
とひろかは言っている。
 
「それは私たちお風呂で確認したもんね〜」
とありさ。
 
「ふーん、やはりねぇ」
と桜野みちるまで言っていた!
 

2015年12月6日(日).
 
今年のYS大賞が発表になった。大賞は半年間の突然の休業を経て美事に復活したAYAの『変奏曲』、そして最優秀新人賞にはアクアが選ばれた。
 
そのほか新人賞に選ばれたのはホワイト▽キャッツ、丸山アイ、東山順之助、ユーカラ・ユーカリ・ユーカルであった。
 
丸山アイは2014年12月3日メジャーデビューなので、今年の新人賞の対象である。
 
なお、今年アクアに次ぐ大きなセールスを挙げた新人歌手・宮城イナイは“人間ではないので”という理由で選考から外された!
 
「人間じゃないからといって選考から外すのは20年後には差別と言われるかも知れないですね」
などと言って丸山アイは笑っていたが、
 
「アイちゃんも本当に人間なのか怪しいよなあ」
などと受賞式に出席していた千里は呟いていた。
 
(千里はこの日東京都クラブ選手権もあったが40 minutesは1回戦免除なので出ていない。LFBの試合もあったが深夜なのでこの時間帯は日本に居た。実はWJBLのレッドインパルスの試合もあったが日中に千葉市だったのでこの時間帯は東京に居ることができた)
 
授賞式でアクアは満面の笑みでトロフィーを受け取り、それを抱えて元気に受賞曲『白い情熱』を熱唱した。
 
番組が終わった後でアクアは同席したコスモス社長に相談した。
「このトロフィーって、どこに置いておけばいいんでしょう?うちにはとても置く場所がないんですけど」
 
「だったら事務所に飾ろうか?」
「あ、助かります!」
 
§§プロで、YS大賞の最優秀新人賞のトロフィーは実は立川ピアノ以来15年ぶりであった。
 

12月6日、貴司は阿部子・京平を連れてAUDI A4 Avantに乗ってショッピングモールまで買い出しに出ていたのだが、居眠り運転の車による事故に巻き込まれ、A4 Avantは大破する。しかし丈夫な車だったおかげで3人とも無傷であった。
 
3人は病院に運ばれ、念のためMRIなども取られたものの異常は無いということであった。それで貴司と京平はすぐ解放されたものの、阿部子は気分が悪い気がすると言って取り敢えずその日は入院して病院に1-2泊することになった。
 
貴司はこの機会を利用してDNA鑑定を実施することにした。あらかじめ自分の会社宛に送ってもらっていた鑑定キットを会社から取ってきて病室に持ち込み、
 
「これ病院の検査に必要なんだって」
と阿部子に言って、口腔内粘膜を採取してもらったのである。そしてそれを持って、京平を連れ鑑定会社の大阪支店に行った。
 
そしてここで貴司は自分の運転免許証、京平の母子手帳を提示し、写真も撮ってもらい、指紋も採取した上で看護師さんから口腔内粘膜の採取をしてもらった。また貴司は千里に連絡し、千里には翌12月7日に、同じ会社の東京支店に行ってもらい、免許証提示・写真撮影・指紋採取の上、こちらも看護師さんに口腔内粘膜を採取してもらった。
 
それでこの鑑定は
・京平−千里、京平−貴司、の鑑定は“法的鑑定”
・京平−阿部子、の鑑定は“私的鑑定”
 
で行われたのであった。
 

2015年12月9日(水).
 
アクアの初めてのアルバム『閼伽(あか)』が発売された。発売日にはアクアの学校が終わるのを待ち夕方から、★★レコードで記者会見が行われたが、この日は会見場に入りきれないくらいの多数の記者が詰めかけていた。
 
記者会見では、アクアがエレメントガードの伴奏でアルバム内から3曲ショートバージョンで歌ってから、説明や質疑応答が行われたが、アクアが生で歌っているのを聞いて
 
「口パクじゃないんだ!」
「この子、こんなに歌がうまいのか!」
と驚いている記者も随分あった。
 
今日のアクアの衣装は『翼があったら』のPVで使用したもので、背中に翼がついた修道士風の服(トゥニカ tunica)である。これは現代の女性用の服チュニック(tunic)の原型となったもので、要するに裾の長い上着である。上着にすぎないので、アクアは下半身には普通のスキニーを穿いている。
 
しかしトュニカは洋服の形としてはワンピースに似ているので、この記者会見を見た多くの人が
「アクアちゃん、今日はスカートなんだね」
などと思ったようである!
 
そしてアクアがスカートを穿いていても誰もそれを不自然なものとは思わない!
 
伴奏を務めたエレメントガードは実は12月7日にドラムスのレイが正式合流して4人揃い、すぐこの日のお披露目となった。レイは本名ノリコ・タカギ(日本名は鷹木礼子)と言い、ライブハウスの専属バンドに居たのをヤコがスカウトした。彼女はハワイ出身の日系4世である。
 
彼女の就労ビザの在留資格変更に実は少し時間が掛かり、やっとその許可が降りての合流となった。
 

この日の記者会見に並んだのは下記である。
 
アクア、事務所社長の秋風コスモス、★★レコードの福本深春と加藤課長、伴奏を務めたエレメントガードのヤコ。
 
東郷誠一さんも出席の予定だったのだが、風邪を引いたというので欠席の連絡があったと加藤さんから発表された。しかし記者たちの多くは、東郷先生があまりにも暴走発言が多いので、とうとう出席させないようにしたのではと思ったようである。ネットでもそういう想像をするファンが多く見られた。
 
ちなみに★★レコードの担当者は『白い情熱』の時は氷川真友子、2ndシングルの『ぼくのコーヒーカップ』では北川奏絵、先日の3枚目のシングル『冬模様』は富永純子、そして今回は福本深春と毎回変わっている。
 
その点について記者たちから最初に質問があったが、現時点でアクアに関する作業があまりにも膨大すぎて、とても1人では処理できないので集団対応になっていると加藤からは説明があった。
 
「取り敢えずリーダーを決めようという話はしているのですが、現時点では難しい状況です。日常的に執行する予算の額が大きいので、最低でも係長クラスの人を充てる必要があります。場合によっては現在主任の肩書きを持っている人を係長に昇格させて専任にすることになるかも知れません」
 
と加藤は説明していたが、実はこの時点で既に三田原係長がアクアの専任でメイン担当になる方向で、現在三田原が担当している他の業務の引き継ぎを進めている最中であった。
 
記者会見では、コスモスが楽曲の説明をして、アクアが随時補足していく。福本は主として営業面でのコメントをする。質問は随時受け付けていたのだが、音楽雑誌の記者が東郷誠一でクレジットされている『テレパシー恋争』に関して、変わった和音進行がありましたね、と言って専門用語を交えた質問をした。しかしこの場にその問題について分かる人間が居なかった。
 
加藤課長は「少しお待ち下さい。東郷先生に尋ねてみます」と言って電話したが、実際に掛けた相手は、本当にこの曲を書いた千里である!
 
千里はこの時はグラナダのアパートで仮眠していたのだが、加藤さんからの電話にはヤコに代わってもらい、彼女にも分かりやすいように丁寧に説明した。それでヤコがその内容を伝え、記者も納得したようであった。
 
しかしヤコは最後に
「でも東郷誠一先生って女性だったんですね。全然知らなかった」
と言っちゃって、記者たちの間から苦笑が漏れていた。
 

アクアが主演している『ねらわれた学園』は12月14日(月)の放送で、野球部員が3人、敷地外に飛び出したボールを追ってオーバーフェンスしたのを生徒会のパトロール委員が見つけて告発したのに対して、関耕児(演:アクア)が対抗し、2年3組に属する吉田一郎(演:鈴本信彦)に関する処分は関が委員長を務める同組の学級会に委ねられることになった所までを描いた。そして続きは1月4日(月)の1時間スペシャルに続くことが、ナレーターを兼ねる西沢響子役・馬仲敦美によって語られた。
 
この時点でここまで全く顔を映さず、後ろ姿や首から下だけのショットだけになっている、高見沢みちるの演者について、多くの視聴者が主題歌を歌っている品川ありさではないかと想像していた。一部、ここ半年ほど休養している女優の榊森メミカ説、アイドルの松梨詩恩説、この番組にセリフのない男子生徒役で出ている古賀秋生説なども一部で出回っていた。榊森説は制作側が意図的に流していた感もある。古賀説は出演者かスタッフの誰かから漏れたものと思われた。
 

スペインでは千里たちのチームは12月6,13,19日に試合があり2勝1敗であった。ここまでの累計は8勝5敗である。次の試合は1月3日である。
 
千里は19日の翌日12月20日には東京都クラブバスケット選手権の準々決勝に出た。この日は実はレッドインパルスの試合も宇都宮であったのだが、日程重複した場合は当然正式に所属している40 minutes優先である。また千里は12月20日以降オールジャパンの終了まで、後述の理由により、レッドインパルスの練習場にも立ち寄らないことにしていた。
 
クラブ選手権は23日が準決勝と決勝なのだが、千里はその間を縫って12月22日、大阪に行った。
 
貴司との“非結婚記念日”なのである。
 
ふたりは千里中央駅前で待ち合わせた。この日阿部子は実家の権利問題(**)で揉めている従伯母との話し合いのため神戸に行っていた。京平はベビーシッターさんに見てもらっている。
 

(**)阿倍子の実家の権利問題
 

 
・この土地建物を所有していたのは保子の伯父・龍造である。龍造は結婚もしていないし、実子も居なかった。
 
・輾子は太平洋戦争で戦死した龍造の友人の遺児で、育てる人がなかったので龍造が引き取って養女にした。
 
・保子は龍造の妹・忠子の娘だが、忠子が突然失踪(生死不明)したため龍造が育てた。
 
・龍造と保子の関係は良好で、龍造は保子に自分を「お父さん」と呼ばせていた。養女にしたかったが、輾子の手前、正式な養子縁組は届けていなかった。
 
・輾子は龍造との折り合いが悪く、中学を出た後、どうも名古屋に行ったようだが、すぐ音信不通になった。
 
・龍造は全財産を保子に遺すという遺言書を書いて亡くなった。それで通常の相続手続きをしたので、現在この土地家屋は保子の名義になっている。
 
・ところが龍造が亡くなってしばらくして突然輾子が連絡してきて、自分こそが正当な相続者であり、龍造の遺書というのは偽造ではないか?万一本物だとしても自分は龍造の娘なのだから遺留分(50%)があるはずとクレームをつけてきた。
 
・以降10年ほど、ずっと揉めている。本来は保子が輾子と話し合うべき所だが、逃げているのでやむを得ず阿倍子が代理で話し合いに応じているものの双方の主張は平行線である。
 

12月22日に、千里と貴司が最初にしたのは、先日事故で大破したAudi A4 Avantの後継の車を買うことだった。2人はトヨタの販売店に行き、各々の希望を摺り合わせて結局ランドクルーザー・プラド(TZ-G Diesel 7人乗り)を購入した。
 
車選びの後は、いつものようにランチを食べ、バスケ練習をしてからNホテルの同じ部屋に入り、練習で掻いた汗をシャワールームで流す。そのあと“非結婚”3年目の皮婚式で革製品を贈り合った。
 
貴司がいつものようにダメ元でセックスさせてと言う。すると千里は根負けしたようなふりをして、貴司がジャンケンに勝ったらセックスに応じてもいいよと言った。それで千里はわざと負けてセックスをした。本当は千里はもう貴司の妻に復帰したのでセックスもOKという気持ちなのである。
 
一眠りして起きてから千里は貴司の目の前で
「こないだ久しぶりにこれをつけてみた」
などと言って、大学1年の時にもらったアクアマリンの指輪を左手薬指にはめてみせた。
 
「この指輪は私が持っていていいんだよね?」
と千里は再確認する。
 
貴司は真剣な眼差しで見つめて
「うん。それは千里が持っていて欲しい」
と言った。
 
そしてふたりはキスをした。
 

貴司はバッグの中に入っていた書類を取り出した。
 
「これ、鑑定書が送られてきた」
と言って貴司は千里にその書類を見せた。
 
《ムラヤマチサトがホソカワキョウヘイの生物学上の母親である可能性は未鑑定の母親候補(事前の可能性=0.5)と比較して99.999%以上です》
 
《ホソカワタカシがホソカワキョウヘイの生物学上の父親である可能性は未鑑定の父親候補(事前の可能性=0.5)と比較して99.999%以上です》
 
《ホソカワアベコがホソカワキョウヘイの生物学上の母親であることは否定されました。親子である可能性は全くありません。0%です》
 
「へー。やはり京平の生物学的な母親は貴司なのか」
「千里だよ! 僕は男なんだから母親になれるわけない」
「私も元男なんだから母親になれるわけない」
 
「いや、元男だったという千里の嘘がこれで明確になった」
 
千里は苦笑していた。
 
「でも京平とはお母ちゃんになってあげる約束していたからね。だからあの子の母親ということでいいよ」
 
「こないだの事故では突然京平が泣いて僕が暴走車に気付いていなかったら3人とも大怪我するか、へたしたら死んでいた。やはり京平って物凄い霊感を持っている気がする。そのことで僕はあの子はやはり千里の子供だと確信したよ」
などと貴司は言っていた。
 
「まあまだあの子は本来の能力の0.1%も使えてないけどね。1歳の誕生日をすぎたら1%くらいは使えるようになると思うよ」
「へー」
「封印は徐々に外れていってフルパワーになるのは1000年くらい先かな」
 
「よく分からない話だ」
 

2015年12月22日の午後(13:50)、建築中であった§§プロの新しい研修所(寮を兼ねる)が竣工して検査の上引き渡された。年末年始は忙しい人が多いので1月中に各自引っ越してもらって、旧研修所は2月以降に解体することになる(最終的に3月になった)。
 
この土地は用途が比較的自由で、建蔽率60% 容積率300% なので、新しい研修所は(建て面積は敷地の30%なので)地上8階・地下2階とし、主として防音のため、地下に音楽練習室を作った。そのため真夜中にフルパワーでエレキギターを鳴らしても全く平気である。
 
1階にダンス練習室、講義室、サロン、楽器倉庫、図書室などを作り、2階より上が居室(宿泊室)になっていて、各部屋にシャワー付きユニットバスを装備した。このため1フロアの居室数が10から8に減っている。また建物の1階と門の所に守衛室を設置し、交替で女性の警備員さんに24時間常駐してもらうことになった。門には警備員さんもいるが、電子キーのセットされたカードを持ち生体認証もパスしないとここを通過できない。むろん研修所全体にセキュリティが掛かっている。
 
フロア間はむろん階段でも移動できるがエレベータ付きなので大きな荷物などを運ぶ時はエレベータを使用してよいと言われた。
 
でも『体力を鍛えるため階段を利用しよう』という紙が貼られている。
 
「体力を鍛えるためというより、経費節減のためということは?」
「若者は歩こう」
「はーい!」
「深夜帰ってきた時はエレベータ使っていいよ」
「使わせてもらいます!気力が足りないです」
 
「しかし、お風呂が個室に付いているのは便利だけど、龍ちゃんの入浴を襲撃できなくなるのが残念だ」
などと愛心が言っていたので
 
「あんたたち、ふだん何やってんのさ?」
と川崎ゆりこが呆れていた。
 

↓新しい部屋番号
 
201.秋田利美(小5)
202.南田容子(中1)
203.佐藤ゆか(中2)
204.米本愛心(中2)
205.
206.
207.
208.
 
301.
302.
303.
304.大村祭梨(高1)
305.川内峰花(高2)
306.品川ありさ(高1)
307.高崎ひろか(高1)
308.田代龍虎(中2)
 

中学生以下を2階、高校生を3階にしたが、アクアだけは中学生だが3階である。これはデビュー済だからということで説明された。各々できるだけ元のと同じ数字の号室にしているが209の品川ありさだけは9号室が無くなったので3階の6号室に移動になった。大村祭梨は本来なら302になる予定だったが、1人だけ離れるのは寂しいと言って304になった。また、船橋市の伯母の家から通ってきていた南田容子が、部屋が増えたのを機会に入寮することになり、202に入った。
 
なお旧206号室に置かれていた海浜ひまわりの荷物は1階のストックルームに移動された!
 
「今井葉月君は入寮させなくてもいいんですか?彼、桶川市でしょ?終電がなくなってビジネスホテルに泊まったりしてるみたいだけど」
と大村祭梨が心配して言った。
 
「この寮は基本的に男子禁制だから」
と川崎ゆりこ。
 
「あっそうか」
「どうにもならなくなったら、西宮ネオン君と同様に都内にアパートを借りてそこを使ってもらうよ」
「なるほどー」
 
という会話をしたが、アクアだって男子かも?という問題には祭梨もゆりこも全く気付いていない!
 

12月25日、都内の病院で伊藤秋好(秋風コスモスの姉で芸名は秋風メロディー、作曲者としては上野美由貴・阿木結紀などの名前使用)が赤ちゃんを出産。父親との話し合いにより薫と名付けられた。
 
源氏物語で薫大将が両親から見放されたものの、秋好中宮に可愛がられて育ったというのを下敷きにしている。
 
「ごめんね。忙しい時に顔出してもらって」
と秋好は妹の宏美(秋風コスモス)に言った。
 
「まあ私は何もしてないけどね。偶然様子を見に来たら、ちょうど出産に立ち会うことになっただけだし」
 
「でも色々手伝ってもらったり連絡とかもしてもらって助かりました」
と赤ん坊の父親も言っている。
 
「籍はいつ入れるの?」
「赤ちゃんは母子手帳と出生証明書を書いてもらったら、すぐこの人に出生届け出しに行ってもらうよ」
「いや、赤ちゃんじゃなくてお姉ちゃんたちの婚姻届けは?」
 
ふたりは顔を見合わせた。
 
「僕は今すぐにでも出したいんですけど」
「私は出したくない」
 
「なんで〜〜〜?」
と宏美は困惑したように声をあげた。
 

2015年12月27日(日)早朝。都内の雨宮三森の自宅にこういうメンツが集まった。
 
龍虎、田代涼太・幸恵、長野支香、長野松枝、志水照絵、高岡越春・尚子、南川彩佳、上島雷太・茉莉花、下川圭次、雨宮三森・三宅行来、水上信次、海原重観、山根次郎、加藤銀河、秋風コスモス、鱒渕水帆、紅川勘四郎・知世子、佐々木川南、白浜夏恋、村山千里、若生暢子、ケイ。
 
高岡猛獅・長野夕香の十三回忌の法要なのである。
 
それで龍虎の親族ともいうべき人たち、特に個人的な関わりの深い人たちが集まった。龍虎自身の友人では、龍虎の実親が誰かを元々知っていた彩佳だけが出ている。
 
なお上記のリストは各自の記帳にもとづくが、秋風コスモス(伊藤宏美)とケイ(唐本冬子)は本名ではなく芸名で記帳した。三宅行来は戸籍名の行恵ではなく通称の行来で記帳した。“喪主”の龍虎本人は、高岡・長野・志水・田代のどれを名乗っても他の両親に悪いからといって苗字を付けずに龍虎とだけ記帳した。
 
ともかくも総勢27名である。
 
実はこの人数が入る場所として雨宮の自宅が選ばれた。ここは駐車場も広く、(常識的なサイズの)普通乗用車なら20台くらい駐められる。実際今日は14台も車が駐まっている(千里があらかじめ石灰で白線を引き、駐車場の誘導係もした)。
 
この日は朝4時頃から車の相乗りで集まり始め、4:51に1分間の黙祷を献げ、海原先生が般若心経を唱えた。その後、用意していた仕出しで朝食を食べる。これは24時間営業のお弁当屋さんが対応してくれた。千里・川南・夏恋の3人で予め出やすい場所に駐めていた川南のウィングロードを使い取りに行ってくれた。
 
6時過ぎにお坊さんが3人来てくれたので、お経をあげてもらう。焼香をして7時すぎに儀式を終了。お坊さんたちには仕出しのお弁当を出し、既に朝食を食べている参列者には、紅茶とサンドイッチまたはケーキを配って、お斎(おとき)にしようとしたのだが
 
「もう1個弁当お腹に入るよ」
という声があちこちからあがったので、結局半分くらいの参列者に予備で用意していたお弁当を配った。
 
もっともケイは
「マリを連れてこなくてよかった。まあ熟睡していたから放置して出てきたんだけどね」
などと言っていたが。
 
「実はそのマリさんが来た場合に備えてお弁当は20個余分に用意していたんです」
「ああ、あの子が来るなら、そのくらい必要」
「だったらもしかしてまだ少しある?」
「ありますよ」
「じゃ全部配っちゃおうよ」
 
ということで、お弁当は全部はけてしまった。
 

お坊さんたちはお弁当を食べて30分ほどで帰ったのだが、その後、集まりは宴会と化していく。楽な服装に着替える人たちもある。そしてお酒が入る!何しろ雨宮邸にはたくさんお酒がある。雨宮先生はお酒が入ると気前がよくなるのでドンペリを5本も開けている。
 
5時の会食でも生前の猛獅・夕香のことを知っていた人たちを中心に2人の昔話が色々出ていたのだが、この“宴会”では、お酒のせいで、かなり暴走した話も出ていて、上島や加藤などの“常識派”が「その話はまずいよ」と言って停めたりするシーンもあった。
 
でも龍虎は父や母のことがたくさん聞けて、凄く嬉しかった。
 
「だけど龍は、そんな男物の喪服ではなくて女物の喪服を着ればよかったのに」
と言い出したのは(お酒は入っていない)川南である。
 
ふつう中学生が法事に出る場合は制服でよいのだが(実際彩佳はセーラー服で来ている)、今回は喪主なので正式の喪服(和装・袴付き)を着ている。
 
「川南さんは絶対それ言うと思った」
「女物の喪服賛成。ついでに1月に新学期が始まったら学校へはセーラー服で通学を」
「もうそれ言われるのだいぶ慣れた」
「そう言われて実は嬉しいんだろ?」
「えっと・・・」
 
「龍がセーラー服で通学してきても誰も驚かないと思う」
と彩佳は言っている。
 
「誰もそのこと自体に気付かなかったりして」
と夏恋。
 
「ああ、人は普段と違うものを見たら違和感を覚えるんだけど、龍ちゃんのセーラー服姿なんて、龍ちゃんと長く関わっている人はみんな見ているしね」
とアルトさんまで言っていた。
 
なお龍虎は仕事があるので、鱒渕と一緒に9時で離脱。彩佳やアルトなど女性陣にもそれを機に帰る人たちが出てくる。車はきちんと通路も確保された白線内に駐められているので、内側に駐まっている車も問題無く出ることができた。
 

アクアは年末年始に全国ドームツアーをおこなった。
 
12.19-20(土日) 年末ライブ 埼玉ドーム 2日間
12.23(祝) 年末ライブ 関西ドーム
1.2(土) 新年ライブ 博多ドーム
1.3(日) 新年ライブ 愛知ドーム
1.10(日) 新年ライブ 北海ドーム
 
夏のツアーで、博多・関西・愛知・北海・関東を使用していたので、今回埼玉ドームを使ったことにより、6大ドーム制覇となった。
 
北海道が1週おいてになったのは、冬の北海道に行く場合、交通機関が停まって予定通り移動できない場合を想定したのと帰省Uターンラッシュを避けるためである。
 
セットリストは公演によって配列が異なったり、一部楽曲が異なった場合もあるのだが、最後の札幌公演ではこんな感じであった。
 
前半
『翼があったら』アルバムから by Element Guard
『冬模様』最新シングル
『テレパシー恋争』アルバムから “ねらわれた学園”挿入曲
『走って告りに行こう!』アルバムから
『ぼくのコーヒーカップ』2ndシングル
 
『恋するフルート』(大宮どれみ)by Special Band
『いちごの想い』(日野ソナタ)
『白い通学バス(川崎ゆりこ)
『琥珀色の侵襲』(小野寺イルザ)
『スキーに行こうよ』最新シングルc/w
後半
(アルバムから)
『ロックバンドの少女』by original band
『夢見るコレジエンヌ』〃
 
『半分少年』Ya!Ye! ここからElement Guard
『憧れのピーチガール』
『ウォータープルーフ』
『ライオンと少女』
『The Young and the Freshness』
『水辺のニュムペ』
『貝殻売り』2ndシングルc/w
『朝食ラーメン娘』アルバムから
『nurses run』デビューシングル
アンコール
『恋人たちの海』デビュービデオから
『白い情熱』デビュー曲
 
多くの曲で信濃町ガールズがバックダンサーを務めたが公演地に近い所に住んでいる練習生を使っているのでメンバーは毎回異なる。
 
伴奏は基本はエレメントガードなのだが、彼女たちは今回は2時間半連続で演奏するだけの体力が無かったため(ゴールデンシックスは体力があった)、リレー方式の伴奏となった。最初の5曲をエレメントガードが演奏した後、女性ミュージシャンによる"Special Band"が5曲演奏する。実は高崎ひろかのバックバンド“ナイスエンジェルズ”のベース朋希とドラムス小夜の2人に、各々の公演場所で現地ミュージシャンを加えて編成している。それで朋希と小夜はこの公演全部に帯同する。ちなみに高崎ひろか自身は、ローズ+リリーのカウントダウン・ライブ(安中榛名)で司会役をした。
 
『ロックバンドの少女』はこの曲のPVにも出ていたオリジナルバンドに準じた構成で伴奏した。こういうメンツである。
 
ギター:米本愛心、ベース:秋田利美、キーボード:今井葉月、ドラムス:佐藤ゆか
 
ベースはPVではハナちゃんが弾いていたのだが、この時期月嶋優羽と一緒に南米旅行に行っていたので、代わりに秋田利美が弾いた。利美はベースを弾いたことが無かったのだが、ハナちゃんから「代わりに頼む」と言われ、Gibsonの白いSGベース(10万円くらいの品)まで彼女からプレゼントしてもらい11月頭から猛練習。とにかくこのライブで使う曲だけは弾けるようになった。
 
なお、実際にはこの4人はツアーに随行して様々な雑用もこなしている!リハーサルではアクアに代わっていつもの“リハーサル役”秋田利美が歌唱したが
 
「ドームで歌うのって気持ちいい!最高!」
と言っていた。
 
この曲と次の『夢見るコレジエンヌ』をこの4人で伴奏した後、エレメントガード自身が作曲した『半分少年』以降はアンコールまで彼女たちの演奏で突っ切る。
 
なおこのツアーの幕間には西宮ネオンが自分でギターを弾きながら歌っている。ネオンは1人別の楽屋が割り当てられていた。“男性だから”女性ばかりの大部屋の楽屋から分けたということであったが、アクアも今井葉月もその大部屋の方を使っているのを見て何だか悩んでいた!
 

アクアの年末年始の予定はこのようになっていた。
 
12.19-20(土日) 年末ライブ 埼玉ドーム 2日間
12.21-22 12.23(祝) 年末ライブ 関西ドーム
12.24(木) 夕方、FM局のクリスマス公開生番組にサプライズ出演。
12.25(金) 学校は終業式。
12.26(土) 桜野みちるのライブ(横浜エリーナ)にゲスト出演。
12.27(日) 早朝、猛獅・夕香の十三回忌。
12.28-29 12.30(水) 夕方からRC大賞の授賞式
12.31(木) 国際パティオでカウントダウンライブ。夕方からは紅白歌合戦。1.1(祝) 元旦の生番組に出演。
1.2(土) 新年ライブ 博多ドーム
1.3(日) 新年ライブ 愛知ドーム
1.4-6(月火水) 挨拶回り
1.7 学校は始業式
1.8(金) 学校が終わった後札幌に移動
1.9(土) 1.10(日) 新年ライブ 北海ドーム
 
空いている所は休めるわけではなく、様々な番組(主として年末年始の特別番組)の撮影・録音、雑誌などの取材、が入っている。アクアとコスモス・ゆりこ・沢村・鱒渕の5人が共有している電子スケジュール表には、12月に入った後は1月中旬まで全く休みの日が無かった。紅白は3日前からリハーサルが何度も行われるのだが、とても出席していられないので、秋田利美と米本愛心に代役をお願いした(利美1人では辛い)。
 

12月30日にはRC大賞の授賞式が行われた。
 
今年のRC大賞は津島瑤子、最優秀歌唱賞は松原珠妃、そして最優秀新人賞はホワイト▽キャッツが取った。
 
そのほか、金賞にはローズ+リリー、AYA, KARION, ハイライト・セブンスターズ、ステラジオ、富士宮ノエル、Wooden Fourなど。最優秀新人賞以外の新人賞にはアクアと丸山アイが選ばれた。
 
アクアは『白い情熱』で受賞したので、作曲者の上島雷太、事務所社長のコスモス、★★レコードの三田原係長と4人で出席し、賞状をもらってしっかり歌ってきた。
 

12月30-31日に放送された§§プロ所属タレント5人+2人による『今年はお世話になりました』のCMは物凄い反響を引き起こした。特にアクアが振袖を着て出演していたのには男女双方から
 
「かっわいぃ!」
という声が多数あがっていた。
 
更に1月1-3日には『今年もよろしくお願いします』のCMに変わったが、並ぶ順序が変わっただけではなく、全員振袖を着替えていることに気付いた人も多く、更には川崎ゆりこが弾くピアノや、コスモスが持つ指揮棒まで変わっていることに気付いた人もあり「凝ったことするね!」とみんな感心していた。
 

千里は12月30日のRC大賞授賞式に出席したほかは年末は40 minutesのメンツとずっと練習をしていた。12月31日には安中榛名でおこなわれたローズ+リリーのカウントダウンライブに龍笛などの演奏で参加。明けて1月1日には早朝温泉の中で花野子と話してから東京に戻りオールジャパンに参加する。
 
千里はオールジャパンは3度目であるが、毎回別のチームで参加している。
 
2008年は旭川N高校
2012年は千葉ローキューツ
2016年は東京40 minutes
 
そして来期はレッドインパルスに移籍するので、次回はまた違うチームで参加することになるのは確実である。
 
今年のオールジャパンには千里の母校・旭川N高校も出てきていた。ウィンターカップは北海道代表は1つしか枠が無いので、それを巡って“女王”札幌P高校と死闘を演じたものの、敗れてしまい、代わりにこちらに出てきた。
 
この詳細は↓参照
http://femine.net/m/read.php/seijinshiki/wbp.htm
 
初日・2日目と、40 minutesも旭川N高校も勝った。40 minutesのメンバーは初日は焼肉屋さんで、2日目はお寿司屋さんで祝勝会をした。
 
3日目の第3試合、千里たちの相手はWリーグ上位のブリリアント・バニーズだったが、向こうがこちらを全く研究していなかったこともあり、まさかの大差で40 minutesが勝った。この日の祝勝会は中華料理屋さんだった。この3日間の祝勝会の場所は全て江東区内のお店を使っており、数年後のプロ化も見据えて“地域に愛されるチーム”を目指しての活動も兼ねていた。
 
実際には千里は3日目の試合(16:00-17:30)が終わると、お酒大好きな《びゃくちゃん》と入れ替わった。それでこの日祝勝会に出たのは《びゃくちゃん》である。
 
千里は葛西のマンションで30分ほど仮眠してからスペインにいる《すーちゃん》と入れ替わり、今日のLFBの試合(日本時間19:00-20:30)に出た。疲れは取れていないがむしろアマチュアチームの陣営でプロを倒したことで良い気分が残っている。それで大活躍し、試合は千里のブザービーターで75-76という1点差逆転勝ちをおさめた。千里は試合が終わるとすぐ《すーちゃん》と入れ替わって、その後、翌日日本時間のお昼くらいまでひたすら寝た。
 
なお旭川N高校は残念ながらこの日で消えた。
 

1月4日(月)、オールジャパン準々決勝である。
 
第1試合は“女王”サンドベージュがステラ・ストラダを倒した。第2試合は玲央美たちのジョイフルゴールドがWリーグのビューティーマジックと戦い、激しい戦いとなったが、最後は2点差でビューーティーマジックが勝った。3試合目は、亜津子たちのエレクトロ・ウィッカがフラミンゴーズを破った。
 
千里の活躍を目の前で見せられて、この日は亜津子も、サンドベージュのエレンも物凄く頑張った。
 
そして第4試合、千里たち40 minutesは、千里自身が練習生として参加しているレッドインパルスと激突する。実はここで対戦する可能性があったので、12月20日以降、千里はレッドインパルスの施設には一切近寄らないことにしていたのである。
 
この試合で千里はふだん40 minutesの選手たちにも、レッドインパルスの選手たちにも見せていない、スペインでの試合と同等の本気100%のプレイを見せた。それで特にレッドインパルスの選手たちが「嘘だろ?」という顔をしている。
 
誰も千里を停められない。
 
それでまさかの20点差でレッドインパルスに勝ってしまった。
 
「サン、お前ふだんの練習では手抜きしてないか?」
「この数日で進化したんです」
と千里は言っておいた。
 
この日は40 minutesの祝勝会はやはり江東区のしゃぶしゃぶのお店に行った。
 

1月4日の夕方、『ねらわれた学園』のお正月特大版が放送された。普段は30分番組なのだが、この日は1時間で、しかも視聴者の間でも議論が起きていた高見沢みちるの演者が明らかになるとあり、物凄い視聴率になる。
 
そして演じていたのがアクアであったことが分かった時、日本中に
「うっそー!?」
という声があがった。
 
ドラマの今日の分が終わった所で、アクアは高見沢みちるの声は関耕児の声と同様にボイスチェンジャーで出していたことを明らかにし、実演してみせた。これにも物凄い反響があった。
 

アクアは12月31日は紅白歌合戦に出たが、高校生なので途中で退席させてもらい、その夜は予め取っておいた都区内のホテルのスイートルームで、田代の両親と3人で過ごした。1日からの仕事に備えるには都区内に泊まる必要があったが、一方で田代の両親とも一緒に過ごしたかったので、こういう選択になった。
 
1月1日は早朝、お屠蘇代わりのサイダーで乾杯して今年も良い年であることを祈る。朝6時にはFM局に入って新年の生番組に出演した。この日はテレビ・ラジオ合わせて10本もの番組に出演した。そして最終の飛行機で福岡空港に飛び、福岡市内のホテルに泊まる。
 
それで2日は博多ドームでライブをし、夕方の飛行機でセントレアに飛んで名古屋市内のホテルに泊まる。3日は愛知ドームでライブをして夕方の新幹線で東京に戻り、寮に泊まる。
 
そして4日から6日までの3日間は様々な所に挨拶回りに行くことになった。この挨拶回りには川崎ゆりこ副社長が付き添ってくれることになっていた。公共交通機関を使うとファンに捉まって面倒なことになりかねないので、この3日間はゆりこ副社長の愛車ポンガDXに乗って移動する。この車は馬力があり頑丈なわりにコンパクトなので、駐車に困らないのが利点である。国産にはなかなかこういう傾向の車が無い(NISMOやスイフトスポーツくらい)。概して小さい車はヤワで非力である。昔のミニが割と良かったのだが最近のミニは巨大化して“ミニ”の名前を返上すべき状態になっている。アクアも車体を見てコンパクトカーと思っていたら意外にパワーがあるので驚いていた。
 
「まあそういう訳でまずは着換えようか」
と言われて連れて来られたのは、呉服店である。ここで和服を借りることになっているらしい。
 
「はい、承っております。訪問着と振袖でしたね」
「ええ。よろしくお願いします。こちら肌襦袢と長襦袢は持参しました」
 
アクアはゆりこに尋ねた。
 
「もしかしてボク、振袖を着るの?」
「着たいでしょ?」
「え?でもいいのかなぁ」
「タレントさんはお正月にはみんな振袖着るんだよ」
「そうですよね!」
 
ということで簡単に“転んで”振袖を着付けしてもらった。
 

足には草履(ぞうり)を履くが、ゆりこは運転の時はそれを脱いで足袋(たび)だけの状態で運転していたようである。特に今日ゆりこが履いている足袋は裏にゴムが貼ってあって滑りにくいものだと言っていた。
 
最初にテレビ局6社を回っていくがこれだけで4日の15時まで掛かった。アクアは自分が振袖を着ていることで何か言われないかなとドキドキしていたが誰も何も言わず、むしろ「おっ、可愛いね」とか「さすが似合ってるね」と言ってくれた。
 
テレビ局を回った後、アクア・プロジェクトの名目上の統括者である東郷誠一先生の所に行ったのだが・・・・
 
この日はこれで終了となった。東郷誠一さんの家を出たのはもう24時すぎであった。中学生はもう帰さないといけないのでとゆりこが頑張ってくれたので何とか離脱できたが、一緒に先生につかまっていた丸山アイやリダンタリダンなどはどうも徹夜態勢のようだった。
 
「着付師さんがこの時間からは手配できないけど、なんとか自分で脱いで、できるだけしあわにならないように衣紋掛けに掛けておいてくれない?」
と疲れた表情のゆりこが運転しながら言う。
 
「大丈夫です。ボク振袖の着付けもたたみ方も分かりますから」
「そうだったんだ!」
「川南さんにだいぶ習ったんですよ」
「なるほどねー」
 
「だから明日も自分で着付けておきますから」
「助かる。じゃ明日朝8時に寮に迎えに行くね」
「はい」
 

5日は早朝から、AM4局、FM3局にMUSIC BIRD とラジオ系の放送局を回った。それで15時をすぎた所で、上島雷太の家に行ったのだが、この日は昨日同様ここで終了となった。春風アルトさんや、偶然来ていた松浦紗雪さんから「おお、可愛い可愛い」「このアクセサリーも付けてごらん」などとたくさん“可愛がられ”、やっとここから脱出できたのは夜中の2時だった。
 
「だめだぁ、とても五反野まで辿り着けない」
「この付近のホテルに泊まりましょうよ」
「そうしよう」
 
ということで、上島邸からあまり遠くない所のビジネスホテルに入り熟睡した。部屋が1つしか空いてないのを、“姉妹”ということにして一緒の部屋に入った。(少なくとも姉弟には見えない)
 
「アクアちゃんを襲ったりはしないから」
「ゆりこさんなら大丈夫そう。社長はちょっと怖いです」
「ああ、アクアちゃんを解剖してみたい顔しているよ」
「あはは」
「私はアクアちゃんが女の子の身体だというのは知っているから問題無い」
「うーん・・・」
 
ゆりこの訪問着はアクアが脱がせて畳んであげた。
 
「ごめんね〜」
「いえ、こういうのはできる人がすればいいし」
 
それで朝までひたすら寝ていた。
 

翌6日朝は交替でシャワーを浴びて朝御飯を食べた後、アクアが自分の振袖とゆりこの訪問着を着付けして、ゆりこが自分とアクアのメイクをした。そしてこの日は昨日までに回れなかった作詞家・作曲家さんの所を訪問した。
 
9:00 醍醐春海
10:00 南国花野子(Golden Six)
11:00 絹川和泉(KARION)
12:30 音羽・光帆(XANFUS)
14:00 マリ&ケイ(Rose+Lily)
15:30 松浦紗雪★早めに引き上げる
16:30 蔵田孝治★早めに引き上げる
17:30 日野ソナタ(=霧島鮎子)
19:00 秋風メロディー(=上野美由貴)
 
ケイのマンションに来たとき、ちょうど別コースで挨拶回りをしていたコスモス社長と遭遇。その後の松浦紗雪さんと蔵田孝治さんの所はコスモス社長と一緒に回ったが「ここは挨拶だけしたらさっと帰るよ。あがってと言われてもあがらないよ」とコスモスが事前に言っておいたので、今年のアクアは松浦紗雪に拉致されて女の子への改造手術を受けさせられることもなく、蔵田孝治に襲われて貞操を奪われることもなかった!!
 
この2大難関を何とか無事通過した後は、ほぼ身内の日野ソナタさんのところで一息付き、最後は完璧な身内の秋風メロディーの家で、生まれたての薫生ちゃんと戯れながら、のんびりと今日1日の疲れを癒やしたのであった。
 

「でもこれでアルバムに楽曲を提供してくれた作家さんたちには一通り挨拶を終えたね」
とコスモス社長は言った。
 
「あれ?そうですかね?」
「ヤコちゃんたちは身内だからいいでしょ」
「ああ、そうですね」
 
アクアは指を折って数えてみた。
 
東郷誠一、上島雷太、千里と花野子、和泉、音羽と光帆、マリ&ケイ、松浦紗雪、蔵田孝治、日野ソナタに秋風メロディー。。。
 
「ゆきみすず先生は?」
「外国旅行中だから省略」
「なるほどー。紅型明美先生は?」
「あの子たちには、頻繁に会っているからいいでしょ」
「あの子たち!?それボクが知ってる誰かですか?」
「あれ?知らなかった。あとでアコちゃんにでも訊いてごらんよ」
 
「そうします! あと針谷童夢(はりがいどうむ)先生は?」
「今日会ったじゃん」
「え〜〜〜!?」
 

1月7日は学校の始業式だった。龍虎は年末年始のCMで振袖を着たのを何か言われたりしないかとドキドキしていたのだが、それより、4日に放送された『ねらわれた学園』1時間スペシャルの反響が凄くてクラスメイトたちから質問攻めにあった。
 
「でも学生服なの?3学期からはセーラー服着てくると思ったのに」
「ボクのこと分かってるくせに」
「じゃ3年生になったらセーラー服にするの?」
「しないよ!」
 

7日は学校が終わったら、放送局に入って、まだ続く特別番組の撮影を1本やった上で、生番組にも出演した。
 
8日は普通に授業を受けた後で、学校が終わってからそのまま熊谷駅に直行。新幹線で東京に出て、羽田から新千歳に飛び、札幌市内のホテルで泊まった。そして1日置いて10日は北海ドームでライブをして、今回のツアーの打ち上げとなった。アクアはそのまま夜の便で東京に戻り、自宅のお布団でひたすら寝た。
 

オールジャパンの準決勝は少し日を置いて1月9日(土)に行われた。40 minutesの相手は亜津子のいるエレクトロ・ウィッカである。
 
試合は第4ピリオド途中まで40 minutesが優勢で進んでいた。
 
今日も誰も千里を停められない。
 
亜津子がタイムを要求した。ベンチで仁王立ちになった亜津子は水のペットボトルを2本開栓すると、両手に持ち、いきなり頭から水を掛けた。
 
他の選手たちが仰天している。
 
トレーナーがタオルを持って来て亜津子に拭くように言うが、亜津子はコートを見つめたままである。仕方ないのでトレーナーが亜津子の服を拭いた。
 
(亜津子は試合後この行為について運営側から厳重注意を受け、始末書を書かされた。実際その場で退場をくらっていても仕方ない行為だった)
 
コートに戻った亜津子の動きが見違えた。彼女はこの後4本連続でスリーを決め、あっという間に2点差まで追い上げた。
 
更に1本決めてとうとう逆転。そしてこの後、1点を争うシーソーゲームが続き、残り3秒で79-78とエレクトロ・ウィッカが1点のリード。ここで40 minutesはロングスローインから千里が亜津子を抜いてシュートするも、これを中丸華香がぎりぎりで指1本当ててボールのコースを変え、ゴールを防いだ。
 
結局40 minutesは1点差で敗れ、アマチュアチームが決勝戦に進出するという快挙は成し遂げられなかったのであった。
 

オールジャパンは3位決定戦が行われないので、千里たちはこれで銅メダルを獲得した。優勝はサンドベージュであった。千里はむろんスリーポイント女王になり“鳥の居ない島の蝙”という自称を返上することになった。千里はベスト5にも選出された。
 
スペインの方は、この後10,17,23,30日に試合があったが、この月は3日の試合も含めて5連勝で、チーム成績は13勝5敗となった。
 
「コラ、最近ちょっと凄くない?」
とサンドラなどに言われたが
「うーん。まあ調子いいかもね」
などと千里は答えていた。
 

1月11日(月).
 
★★レコードの持ち株会社である★★ホールディングと大手流通会社トラゴンは共同で記者会見を開き、両者の合弁で株式会社TKR (Tool Kit for Retail) を設立し、下記のアーティストを★★レコードから分離することを発表した。
 
(1)§§プロで2014年秋以降にデビューしたアーティスト、具体的には
アクア・高崎ひろか・品川ありさ・西宮ネオン。【Marine Record】
 
(2)ΘΘプロのステラジオ世代以下のフォーク系アーティスト、具体的には
ステラジオ、キープロス、立山みるく。【Broad Record】
 
(3)主としてファン層が20代以下の委託契約(に移行される者を含む)アーティスト
Cry暗いクライシス、ビヨンドシー、香宮由佳、田倉真一など。【Verre Record】このレーベルは配信をメインとする。
 
新会社の会長兼CEOは★★レコードの松前社長が兼任、社長兼COOはトラゴン傘下の通信会社トリプルスターの森原専務、副社長が★★チャンネルの朝田常務で、森原と朝田は現職を外れてこちらの専任となるとされていた。
 
(4月には会長と社長が交代して、森原会長・松前社長になる)
 
アクアを分離した理由は、アクアに関する売上げが物凄くて、万一病気や不祥事などで突然彼の売上げが消滅した場合、★★レコードの倒産が免れないので、リスク回避である。
 
ステラジオを分離したのは、彼女らがあまりにも無軌道で、業界でも寛容なほうである★★レコードでも、とても容認できない状態になっていたためである。しかし無軌道すぎるといって契約を切れば巨額の利益を失うことになる(おそらくもっと寛容なЮЮレコードか龕龕レコードに移籍するだろう)。それで子会社に分離することにしたのである。
 
(他のアーティストは道連れである)
 

1月11日の午後、§§プロの紅川会長・秋風コスモス社長は記者会見を開き、会社分割を行うことを発表した。
 
現在の§§プロダクションを§§ホールディングと社名変更した上で、その100%子会社として、§§プロダクション、§§ミュージック、§§出版という3つの会社を設置する。現在§§プロダクションに所属しているアーティストの内、下記のアーティストを§§ミュージックに移籍し、それ以外のアーティストは(新)§§プロダクションに残す(手続き的にはこちらも移籍)。§§出版は著作権・原盤権などを管理する“音楽出版社”とする。
 
§§ミュージックに移籍されるアーティスト:
秋風コスモス、川崎ゆりこ、アクア、高崎ひろか、品川ありさ、西宮ネオン、今井葉月。
(桜野みちるは新§§プロに移籍)
 
各々の役員はこのようになる
 
§§ミュージック 秋風コスモス社長・紅川勘四郎会長・川崎ゆりこ副社長
§§プロダクション 紅川勘四郎社長・日野ソナタ副社長・桜野みちる常務・新宿信濃子取締役
§§出版 紅川勘四郎社長・日野ソナタ取締役・秋風コスモス取締役・ケイ取締役
 
会社分割の表向きの理由は、昨年コスモスが社長になって、彼女より上の年代のタレントさんたちが少しやりにくそうだったので、その人たちとコスモスより若い世代を分離するというのがあった。その時、日野ソナタが
 
「でもこれだとシニア会社の方は売上げが少ないから、誰かひとりこちらにトレードしてよ」
と言って、桜野みちるはジュニア会社ではなくシニア会社に行くことになった。
 
しかし実は言及しなかったもうひとつの理由がある。それは桜野みちるを§§プロ、アクアを§§ミュージックと、2枚看板を別会社に分離することで、両者を競わせるというのがあった。同じ会社のままであれば、どうしても今売れているアクアが中心になってしまい、ここ数年§§プロを実質1人で支えてきた桜野みちるは面白くないだろう。彼女は温和な性格なので文句を言ったりはしないし、アクアにも優しいが内心は複雑な思いだったはずである。
 
 
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【娘たちのベイビー】(5)