【女子中学生・ミニスカストーリー】(3)

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2004年8月15日(日).
 
小樽の杉村家では、道内数ヶ所に散る親族60人以上が集まって、共同でお盆の行事をした。毎年やっているが、ここまで多くの人数を集めたのは10年ぶりである。そして10年後は多分もっと大規模になる。
 
旭川杉村家の当主・杉村八助も奧さん、子供の蜂郎・松郎・浪子、およびその配偶者、子供たち(八助の孫たち)まで連れて大型バス!で小樽に行き、この行事に参加した。八助の弟・妹やその子供・孫たちまで入れて30人近くになる。中には仕事などで欠席した人もあったが旭川系だけで親族の半数近くを占めていた。
 
札幌から来た親戚から言われる。
「蜂郎さんの所は男の子2人と女の子1人ですか。なんか理想的な男女構成ですね」
「そうですね。でも色々頭が痛いこともあって」
などと蜂郎は言っていたが、
 
「頭の痛いことって、私のことかなあ」
と高校の女子制服を身につけた、古広(こひろ)は思っていた。
 

行事が終わると、各自地元に戻る。札幌で大学生をしている真広(まひろ)は札幌組のマイクロバスに同乗させてもらい、札幌の自宅アパートに戻った。
 
「親戚と話をするのは疲れるけど、運賃がタダなのがいいなあ」
などと彼は思っていた。
 
「真広君、美男子だね。もてるでしょ?」
「そんなことないですよー。初広兄は彼女いるみたいだけど、ぼくは彼女とかできたことないです」
「彼女とか居ないなら、うちの娘を嫁にもらってくれない?」
「すみません。理系で勉強が忙しいから、女の子との交際までできないです」
「何学部?」
「理学部ですー」
「理学部は忙しそうだ」
 
「将来は学校の先生とかあるいはコンピュータ関係?」
「理学部って潰しが効くから、様々な分野に就職してるみたいですね」
「確かに潰しが効きそうだ」
 

一方、初広(はつひろ)と古広(こひろ)は両親などとてもに旭川に戻った。
 
翌日8/16、高校生の古広が可愛いワンピースを着てお化粧までして、お出かけの態勢なので、母の律子が声を掛けた。
 
「お友達か何かと待ち合わせ?」
「ううん。ユミちゃんとデートだよ」
「ああ、あの子ならいいわ。何か良さそうな子ね」
 
母は一度2人のデート場面に偶然遭遇したことがある。明るくて気持ちいい感じの子だった。むしろこんないい子が、よくうちの古広と・・・と思った。
 
「ぼくのこと、性別を気にせず付き合ってくれるし、いい子だよ」
 
母は急に心配になった。
 
「あんたセックスしてるんだっけ?」
「そりゃ4ヶ月も付き合ったらセックスくらいするよ」
 
うーん・・・最近の若い子の感覚はこうなのだろうか。でも相手は女子大生だし、自分のことは自分で責任持てるよね?(それでも向こうのお父さんが怒鳴り込んで来たらどうしよう?という不安はある)
 
「ちゃんと避妊してるよね?」
「避妊はしないけど、妊娠させることはないから大丈夫だよ。じゃね」
と言って、古広は出掛けてしまう。
 
「避妊しないけど妊娠させることはないって・・・・あの子、やはりもう睾丸取っちゃったのかしら?」
と母は思ったが、まあいいかと思った。
 
お兄ちゃんが2人いれば、どちらかで跡継ぎはできるだろうし、お父ちゃんも古広のことは諦めの境地みたいだし。
 
(↑甘い!!)
 
でも睾丸無くてもセックスってできるんだっけ??今一(いまいち)男の子の構造は分からないわあ、と母は思った。
 

2004年8月15日(日).
 
小樽の佐藤家では、昨年12月に死亡した小登愛(おとめ)の初盆供養が行われた。どこにも報せずに完全に身内だけでおこなったが、義浜配次と左座浪源太郎、天野貴子からは御花代が送られてきていた。
 
小登愛たちの父の姉の娘・田中音香(26)は母の名代でこの法事に出席した後、帯広に帰ろうとしていた。それで小樽駅で切符を買おうとした時
「すみません、小登愛さんの従姉さんでしたっけ?」
と声を掛けられた。
 
30歳くらいの“仕事のできそうな”女性である。着ている服もモリ・ハナエでエルメスのバッグを持っているし、経済的にもゆとりがありそうだ。
 
あ、この人は葬式の時にも見たぞと思う。あの時は喪服だし地味なバッグを使っていたけど。
 
「小登愛ちゃんのお友達でしたね。もしかして初盆にいらしたんですか?」
「彼女とは仕事仲間だったので、お墓参りだけさせて頂きました。法事はお身内だけでなさっていたようでしたので、ご遠慮しました」
「そうでしたか」
 

それで結局、駅構内のカフェに入り、少し話した。
 
「あの子が“おとめ”で、私が“おとか”で“おとおとコンビ”とか、親戚の集まりの度に言われてたんですけどね」
「偶然似た名前になったんですね」
「そうなんですよ。小登愛ちゃんの名前を付ける時、私と名前が似てしまうことに、佐治夫さんが全く気付かなかったらしくて」
「へー」
「元々あの人、何でもうっかり屋さんだから」
「あ、そんな気がした!」
 
「でもコンビの片方が逝っちゃったら寂しいね。まだ若かったのに」
「ほんとほんと。人生これからだったのに」
と言って、音香が何か辛そうな顔をしたので
 
「どうかしました?」
と貴子は訊いた。
 

「いえ。こんなこと他人様(ひとさま)に話すことじゃないんですけどね」
「むしろ無関係の他人だから話せるかもよ」
「そうですよね!」
と言って、音香は話し始めた。
 
「小登愛ちゃんと私って、約半年違いで結婚して」
「親戚の人は御祝儀が大変だ」
「だったと思います!」
 
「どちらも結婚でトラブって」
「お姑さんか何かの問題?」
「小登愛ちゃんはそれでブチ切れて離婚しちゃったみたい」
「ああ」
 
別れちゃえ、別れちゃえ、と煽ったのは私だけどね。
 
「私も義母と激しく衝突したけど、夫が絶対的な私の味方になってくれて」
「それはいい人と結婚したね」
「ほんとに思いました。でも困ったことがあって」
「何があったの?」
 
「私ってわりと背が高いでしょ?」
「そうだね。173cmくらいかな。でもモデルさんとかにはもっと高い人たくさん居るよ」
「そうそう。夫もそう弁護してくれたんてすよ」
「うん」
「でも義母は『あんた、女にしては背が高いし、実は男なんじゃないの?だからまともに御飯も炊けないんじゃないの?』とか言って」
 

「性別と料理は関係無いと思うけど」
「ですよねー。でも実際私、料理ほとんどまともにできないんですよ」
「あらあら」
「でも夫は『気にすることないよ。料理はぼくが作るから掃除とか洗濯とか頼む』と言ってくれて」
「ほんとうにいい彼氏だ」
 
「そう思います。それで夫は『この子が女だという証拠に3年以内に子供作りますから』と言ったんですけど、どうしてもできそうになくて」
「あらあ」
「婦人科で見てもらったら、私卵管閉塞らしいんです」
「狭窄じゃなくて?」
「水を通すテストとかしましたけど、通りませんでした」
「左右とも?」
「そうなんです。だから卵子が子宮まで来られないから、妊娠は無理だと言われて」
 
「でもそれなら、卵巣から直接卵子を採取して、試験管内で受精させて子宮に戻す方法が採れるはず」
 
「それ言われたんですけど、費用がかなり大変みたいで、夫はそんなに収入があるほうではないので、厳しいみたいで、保留にしてるんですよ」
 

貴子は言った。
 
「小登愛ちゃんのね。成熟した未受精卵が冷凍保存してあるんだけどね」
 
ほんとは卵巣まるごと“ライブ保存”してるけどね。
 
「そんなのがあるんですか?」
「私と取引しない?」
「取引?」
 
「私は小登愛の子供が欲しい。だから、あなたの夫の精子を小登愛の卵子に受精させて1度それで、あなた子供を産んでくれないかしら。産んだ子供はあなたが自分の子供として育ててもいいし、私に引き渡してもいい。私としては小登愛の遺伝子を継ぐ子がこの世に存在してくれたらそれでいいから。報酬はどちらの場合でも2000万円払う」
 
「2000万!?」
 
「これは代理母だから、代理母の報酬はそんなものだよ」
「・・・」
 
「そしてその報酬をもらったら、今度はあなた自身の卵子を採取して、再度試験管受精して妊娠しない?そしたら、あなたと夫の間の本当の子供が作れる。2000万円もあれば、体外受精の費用くらい払えるよね」
 
音香はしばらく考えていた。
 

「その話乗ります。但し条件があります」
「うん」
 
「私、小登愛ちゃんとは凄く仲良かったんです。だから彼女の子供なら、自分の子供と分け隔て無く育てる自信あります。私の子供として育てさせて下さい。それに私と小登愛ちゃん、元々顔立ちも似てたし、血液型も同じAB型だから、DNA鑑定でもしない限りバレません」
 
「いいよ。私は小登愛の子供がこの世に生まれるだけで充分だから」
 
(実を言うと小登愛の孫に期待している。霊的な能力は隔世遺伝する。千里が“寿命で死んだ後”の“遊び相手”にきっと、ちょうどいいかもと思っている)
 
「そしてその子の出生の秘密は私と貴子さん2人だけの秘密にさせて下さい」
「それでいいよ」
 
それで音香は貴子と握手したのであった。
 
(貴子が立派な身なりなので音香は簡単に信じちゃった。身なりは大切)
 
ちなみに、きーちゃんはエイリアス使いなので、旭川で合宿する千里たちをサポートしているのとは別のエイリアスを小樽に飛ばして、音香との“遭遇”を演出した。むろん音香が妊娠できない問題で苦境に陥っていることは事前に察知してこの計画を練ったのである。
 
そして貴子は旭川で合宿中の沙苗の身体の中にシールドされて密かに収納されている小登愛の卵巣からちゃっかり卵子を採取して、帯広に持ち込んだのであった!
 
(適当な人が見付からなかったら灰麗に強引に産ませることも考えていた。男の子に妊娠させるというのは250年ほど前にやったことがある。ただ灰麗は年齢的にも厳しい。前やったのは(数え)17歳の男の子で、元々女の子にしか見えない子だった。妊娠したことで乳房が膨らむなど、完璧に女性化したので、本人同意の下、男性器は妊娠中に除去した。博識の和尚が「中国で昔、女が男に変わったことがあったことが古い本に記載されている」と言うので、性別が変わることは希にあるようだということになり、村長の決裁で人別帳も女性に変更された)
 

8月16日(月).
 
真広は朝爽快な感じで目が覚めた。
 
なんかぐっすり眠れたみたい。今日から月末までバイトだし、頑張ろう。
 
理学部は忙しいので通常の学期中のバイトは困難である。それで夏休みに少しバイトをしようと思っていた。ハンバーガー屋さんの店舗で裏方の調理補助をする予定である。面接に行った時、採用と言われた後で
「え?君男の子だったの?」
などと言われて、店長さんは少し悩んでいた。どうも女性クルーが欲しかったようであった。
「まあいいや。君、お料理は得意ということだし、調理の補助をしてもらって、誰か調理スタッフのおばちゃんを表に回そう」
などと店長さんは言っていた。
 
まあ女の子と間違われるのは小さい頃からだから気にしないけどね!
 
「女の子になったら?」と言われたことはたくさんあるけど、弟(もはや妹かも)の古広を見てると、自分まで女の子になっちゃったら、お父ちゃんに悪いと思う。それに自分はとても古広みたいに堂々と女の子の格好で学校に通う勇気は無いし。
 

それと、真広は、兄・初広のことも気になっていた。前から怪しいと思っていたのだけど、先日の東京旅行で疑惑は濃厚になった。兄が女物の服のことを凄くよく知っているのに驚いた。ぼくの足の毛とかもきれいに剃ってくれて、眉毛も整えてくれたし。もしかして、お兄ちゃんこっそり女装とかしてるのでは?それにお兄ちゃんの恋人のスズカさんってなんか妙に男っぽい。声も低いし。あの人、実は男の娘なのでは?という疑惑も感じていた。
 
旭川市内の大学に通うのに、実家から通わずわざわざ大学のそばにアパートを借りて独立したのも、実は女装したいからだったのでは??
 
もしお兄ちゃんが性転換とかしちゃったら、弟もあれだし、ぼくしか跡継ぎになれなくなってしまう。となると、ぼくは女の子になる訳にはいかない、と真広は最近責任感を感じているのである。
 
(性別不快症候群の傾向は概してきょうだい全員に表れがちである。優性遺伝??)
 

そんなことを考えながら、青汁を1杯飲む。そしてトイレに行く。いつものように便座に座っておしっこをする。真広は決して立っておしっこをすることはない。小学6年生の時、今後は一切小便器は使わない、というのを自分で決めて、その後は、友人からからかわれながらも個室だけを使ってきていた。
 
ところがこの日、おしっこをした時、その出方が全然違っていたのである。
 
え?どうしたの?
 
と思って自分のお股を見た時、真広は『自分が跡継ぎになるしかない』という決意がガラガラと崩れていくのを感じた。
 
まあいいよね。松郎おじさん所は男の子4人だから、きっと誰かか後を継いでくれるよと思い直した(←後を継げる男の子が残ったらいいね)。
 

それで真広はおしっこの出て来た所を拭き、水を流し、手を洗ってからトイレを出た。
 
まあ、女の子になっちゃったものは仕方ないし。
 
区役所に性別変更届けとか出さないといけないんだっけ??と考えたが、手続きとかは後からゆっくり考えることにする。
 
そして「この身体ならこちら着るべきかなあ」と思い、女の子ショーツを穿き、ブラジャーを着けて、レモンイエローのブラウスに、マリンブルーのプリーツスカートを穿いた。先日東京で兄に買ってもらった服である。
 
鏡を見ながら、眉毛を整える。洗顔フォームで顔を洗ってから、カラーリップを塗った。
 
中性的なトートバッグを持ち、ローファーを履いて
「行ってきまーす」
と言ってアパートを出た。
 
バイト帰りに女の子の服、たくさん買っちゃお♪と、真広は楽しい気分になった。
 

バスに乗って、今日からバイトに入る予定の店舗に行く。
 
「お早うございます。今日からシフトに入らせて頂きます、杉村です」
と店長に挨拶した。
 
店長が目をパチクリしてる。
 
「えっと・・・君、男の子じゃ無かったんだっけ?」
「よく分からないんですが、朝起きたら女の子になってました」
 
「助かるよ!昨日も女の子が2人辞めちゃって、絶対的に女の子の数が足りないんだよ。もう君に女装させてフロア係やってもらおうかとも思ってた。田代君、この子に女子の制服出してあげて」
 
「はい。杉村ちゃんおいで」
「はい」
 
「あんた可愛いし、女装しないのかなあと思ってたよ。あんたのことは普通に女の子して扱うからね」
「はい、それでお願いします」
 
それで真広はハンバーガー屋さんの女子制服を身につけ、早速フロア係として実戦投入されたのであった。
 
「でもミニスカートはさすがに少し恥ずかしいなあ」
 

2004年8月22日(日).
 
栃木県小山市。今日は全国中学校剣道大会の個人戦が行われる。
 
公世は明け方、ちんちんを没収されて、おっぱいをくっつけられる夢を見た。変な夢だったなあと思いながら、起きてからトイレに行き、便座に座っておしっこをしたら、なんかおしっこの出方が変だった。
 
何で?と思って、お股を覗いてみて、公世は衝撃を受けた。
 

あまりのショックに10分近くぼーっとしてたかも知れない。
 
トイレのドアをノックする音がある。
 
「まだぁ?」
と言っているのは玖美子である。
 
「ごめん。出る」
と言って、公世は取り敢えず、おしっこの出た付近をトイレットペーパーで拭き、ボクサーパンツを上げ、ジャージのズボンを上げ、水を流してからトイレを出た。
 
「ごめんね」
「ううん」
 
と言葉を交わして交替する。
 

取り敢えず布団の中に戻る。
 
そしておそるおそる指で触って確認する。
 
なんでこんなことになってるの〜〜〜!?
 
公世は、異変が“その付近”だけでなく、上半身にも起きていることに気づききゃーっと思った。
 
これじゃまるで女になったみたいじゃん。
 
でもこれどうしよう?
 
などと悩んでいる内に、みんな起きたようで、玖美子が
「ジョギングに行くよ」
と言う。それで公世も靴下を履き、みんなで旅館の外に出て、早朝の小山市の町を3kmほど軽くジョギングした。
 
ジョギングしてて公世は思った。
 
おっぱいが痛い!!
 
女子はいつもこの痛みに耐えてるのかなあ。あっそうか。だからブラジャーを着けるのか。ぼくもプラジャーが欲しいかも!?
 
ジョギングを終えると、軽く体操をしてから旅館に入り、食堂で朝御飯を食べる。
 
「きみよちゃん、どうしたの?何か元気が無いみたい」
と千里が心配そうに言う。
 
「ううん。大丈夫」
と公世は答える。
 
沙苗が言う。
 
「なんか昨日も一昨日も試合見て、びびってたみたいだけど、ここに来てる人はみんな同じ条件だよ。今更ジタバタしても始まらないんだから、思いっきりやるしかない。それで勝ってもいいし負けてもいいじゃん。ここに来れただけで、充分な価値のあることだよ」
 
「そうだよね。開き直るしかないよね」
と公世も答えた。
 
焦ったって、この身体がどうにかなる訳じゃ無いから、何も考えずに試合に集中しよう、と公世は思った。この後のことは大会が終わってから考えればいいじゃん。
 
公世はこの場に及んで、やっとそういう気持ちがまとまったのである。
 

部屋に戻って着替えるが、いちばん入口側の布団に陣取っている公世は入口側を向いて、他の3人は窓側を向いて着替える。これがこの4人のルールである。
 
それで着替えるためにジャージを脱ごうとした時、玖美子がいきなり後ろから抱きついてくるので、公世は思わず「きゃっ」と声を挙げた。
 
胸も触られた気がした!
 
玖美子は公世の“感触”がいつもと違うので首を傾げているが、
「まあいいや。それより、きみちゃん。女の子下着パワーで優勝しようよ」
「優勝!?」
 
「これあげるから着けなさい」
と言って、玖美子は女の子パンティーとブラジャー?を渡した。
 
「スポーツブラ?」
 
ここ1ヶ月ほどの練習の間に“洗濯係”の姉に徴用されてみんなの服の乾いているのを取り入れる手伝いをしていた。それで、この形のブラジャーもたくさん触っている。村山さん、沢田さん、原田さん、木里さん、前田さん、と女子選手全員が、このタイプのチューブ型ブラジャーを使用しているようだ。
 
「そそ、スポーツブラだよ。女子がスポーツする時には必要なもの。これでバストをしっかり押さえておかないと、バストが揺れてまともに身体を動かせないからね」
 
「バストが揺れると痛いよね」
「なんかよく分かってるじゃん」
 
「借りる」
「そのスポーツブラは弓枝さん協力のもとに、きみよちゃんサイズで、私と千里と弓枝さんの3人でお金を出し合って買ったものだから、そのままあげるから」
 
「姉貴が絡んでいるのか!」
と公世は呆れたように声を挙げて
 
「だったらもらう」
と言った。
 
「白い道着も用意したんだけど」
「紺を着る!」
 
玖美子もそれは無理強いしないようだ。
 
「じゃ私たちは後ろ向いてるから、恥ずかしがらずに着替えてね」
「うん」
 
それで公世はジャージと、ジョギングで汗を掻いた下着(アンダーシャツとボクサーパンツ)を脱ぐと、まずはグレイの女の子パンティを穿く。稚内の道大会で女子用ショーツを穿かされた時は、ちんちんの収納方法に悩んだのだが、今日は悩む必要が無い。ピタリとフィットするのですごーい!と思った。これは本当に女の子のための下着なんだなと思う。ついあの付近を上から触って、そのスムースな感覚にドキドキする。
 
そしてスポーツブラを着ける。着け方がよく分からないけど、訊く訳にもいかない。訊いたら着け方を指導してくれるだろうけど、結果的にバストが膨らんでいるのを見られてしまう。『穿けばいいのかな』と思い、足から入れて胸の所まで持ち上げ、それで左右のバストをその中に収めた。(上からかぶるように着ける人もいる。どちらから入れるかは好み)
 
あ、何となくいい感じ。
 
この着け方、正解かどうかは分からないけど、間違いではない気がする。
 
でもこれ着けると、バストががっちり押さえられる。
 
これいいかもと思った。ジョギングの時はバストが揺れてほんとに痛かったのだけど、これだけしっかり押さえられていたら、試合中に揺れたりする心配も無い・・・・と思って、これって男子のサポーターと同じ原理かと思い至った。公世は特に不都合を感じたことがないので着けないが、竹田君などはいつもサポーターであそこを押さえているようである。
 
もっとも今後はサポーターとか着ける必要は全く無くなって、ずっとスポーツブラを着けないといけないのだろうかと一瞬考えたが、そのことは後で考えることにする。
 
バストを何かの間違いで見られたりする前に道着を着ける。紺色の胴着だから下着の線が見えることはないなと思った。そして下は取り敢えずジャージ生地の黒いショートパンツ(ブルマだったりして!?)を穿いた。これはよく女子でやってる人がいるというので姉に勧められたものである。トイレに行きたい時は控え場所で袴を脱ぎ、ショートパンツ姿でトイレに行ってくれば、トイレの個室で時間を取らずに済むと姉は言っていた。そういえば、羽内(如月)さんがこういうの穿いてたなと思い起こす。
 
公世はここまで着てから、トイレに行った上で袴を穿いた。会場に入場する時はちゃんと袴を穿いていなければならない。
 

旅館が運行する送迎バスで、会場の栃木県立・県南体育館(けんなん・たいいくかん)に行く。ここで岩永先生・鶴野先生・広沢先生と合流し、道具の検印を見せて一緒に受付を済ませる。そして入場する。トーナメント表を確認する。公世が
 
「良かった。ぼく、ちゃんと男子のトーナメントに入ってる」
などと言っているので
 
「きみよちゃんを女子に入れると人数が合わなくなるからね」
と沙苗が言っていた。
 
個人戦の参加者は47都道府県から2名ずつと、開催地の栃木県からは更に2名追加されている(都合4名)ので、男女とも各々96名である。それで試合進行はこのようになることになる。
 
1回戦 32試合(64->32)
2回戦 32試合(64->32)
3回戦 16試合(32->16)
4回戦 8試合(16->8)
準々決勝 4試合(8->4)
準決勝 2試合(4->2)
決勝 1試合(2->1)
 
96名の内、32名は2回戦から、64名は1回戦からになる。千里のような都道府県予選を2位(以下)で通過した人はもれなく1回戦からだが、1位通過した人47人の内32人が2回戦からで、15人は1回戦からである。どちらになるかは抽選次第。清香は1回戦不戦勝になっていた。なお男子で公世も2位通過なので1回戦からである。
 
アリーナには試合場が8つ設定されているので8試合ずつ進めていくことができる。1回戦・2回戦の32試合も4交替で終わってしまう。例によって女子1回戦→男子1回戦→女子2回戦→男子2回戦、のように男女交互にやって休憩時間が取れるようにしている。
 
↓進行予定表(1試合7分計算。あくまで目安なので実際には前後する可能性があることが注意されている)
 
9:30女子1回戦(32)
9:58男子1回戦(32)
10:26女子2回戦(32)
10:54男子2回戦(32)
11:22女子3回戦(16)
11:36男子3回戦(16)
11:50女子4回戦(8)
11:57男子4回戦(8)
12:04お昼休み
12:40女子準々決勝(4)
12:47男子準々決勝(4)
12:54休憩時間
13:00女子準決勝(2)
13:07男子準決勝(2)
13:14休憩時間
13:20女子決勝(1)
13:27男子決勝(1)
13:34end
14:00表彰式
 

千里は1回戦は他県の2位の人とであった。千里は30%くらいのゲージオープンでこれに軽く勝って、まずは2回戦に進出した。しかし初戦から30%も開けないといけないのが、さすが全国大会だなと思った。
 
さて公世だが、例によって試合場に入った所で進行係の人から
「君、今は男子の試合だよ。女子の試合時間じゃないよ」
と言われる。岩永先生が
「すみません。この子、女に見えるけど男子です」
と言って、公世に剣道連盟の登録証を呈示させて男子であることを主張する。(もはや「女に見えるけど」と言われている)
 
「女子なのに男子として登録してるの?」
などと進行係の人は言っていた!
 
ともかくも試合が始まるが、相手も
「この子、女子だよね?」
と思った感じがある。だいたい公世は(男子としては)背が低いし体格も華奢である。それで相手は手加減する感じになってしまった。
 
そこに公世の鋭い小手が決まる。
 
この時、公世の「小手〜!」という声を聞いて、相手は「やっぱり女じゃん」と思った。
 
しかし1本取られたことで向こうも
 
「女ではあっても都道府県予選を男子として勝ち抜いてきた奴だ。あなどれない」
と思い直し、“やや本気”になる。
 
しかし公世はとにかくフットワークが良い(公世は普段にも増して身体が軽くてよく動く気がした)。それで相手の1本が決まらない。焦ってきた所で公世の面が決まり、公世はまず1回戦に勝利することができた。
 
「君強いね。男子の部に出たい訳が分かったよ」
と向こうは試合後、完敗の弁を語っていた!
 

2回戦が始まる。
 
千里の相手は他県の1位の人だったが、やはり30%くらいの感じで2本取って勝った。清香は他県の2位の人で、1分で2本取り、初戦をものにした。これで2人とも3回戦進出(Best32)である。
 
公世はまたもや試合開始前に対戦相手から
「ちょっと待って下さい。なんで女子がここにいるんですか」
と言われたが、審判さんは
「彼女は男子の部にエントリーしていますので」
などと言っていた! もう完全に“彼女”と言われている。
 
それで相手は「やりにくいなあ」などと言いながらも対戦する。彼も1回戦の人と同様に、最初は少し手加減気味である。更に接近戦になった時に、公世から女性特有の甘い香りを感じて、一瞬「うっ」と思った。それに胸に膨らみがある気がするし。
 
公世の色気にくらっと来たところで、引き際に公世の面が鮮やかに決まる。
 
「めーん!!」という高い声を聞き、今、女の香りを感じたこと、胸に膨らみがあることで、この相手は公世が女であることを確信する。
 
しかし1本取られたので
 
『女とはいえかなり強い奴だ。現代の巴御前?』
などと思い直して“結構本気”になる。
 
しかし公世はフットワークで常に動き回っているので攻撃のタイミングが全く読めない。それで2分ほど経った所で鋭い踏み込みから公世の小手が決まり2本勝ちである。
 
試合が終わった後、相手は
「君、ほんとに強いね。女子の部に出たら優勝できるよ。でも強い男たちの間で揉まれて自分を鍛えたいの?」
などと言っていた!公世が男という可能性は全く考えていない!
 
これで公世もBest32である。
 
北海道もうひとりの代表・西田君も1回戦・2回戦を勝ってBest32に残っているので、北海道代表の4人が全員Best32である。この段階で男女とも4人が残っているのは北海道・東京・大阪の3つだった。
 

男子の2回戦が終わって、女子の3回戦が行われている間に、公世はトイレに行って来ようと思った。今日は袴の下に黒いジャージのショートパンツ(やはりブルマなのでは?)を穿いているので、控え場所で袴を脱ぎ、トイレに行こうとする。すると玖美子が
「あ、私も一緒に行く」
と言って、一緒にトイレに向かう。
 
玖美子は出場しないので、今日はセーラー服である(表彰式に付き添う可能性も考えての選択)。
 
それでおしゃべりしながらトイレまで行く。入口のところで公世が
「じゃ」
と言って、男子トイレに入ろうとすると
「こら何やってる」
と言って、玖美子にキャッチされる(胸に触られた気がした)。
 
「だからトイレ」
「公世ちゃんは女の子なんだから、ちゃんと女子トイレに入らなきゃ」
「えっと・・・」
「試しにそちらに入ってみなよ」
と言うので、公世が男子トイレに入ろうとしたら、1回戦で当たった人とお見合いになる。
 
「わっ。君、こちらは男子トイレだよ!君、男子の試合に出るのはいいけど、トイレはちゃんと女子トイレを使わなきゃ」
などと言われる!
 
玖美子が近寄って来て
「すみませーん。この子、近眼なんです」
と言って、腕を組み、公世を女子トイレに連行した。
 
だいたい、公世の体格でブルマ穿いてたら、誰の目にも女子にしか見えない!
 
それで女子トイレの個室を使ったが、個室の中ではブルマを下げてパンティを下げるだけだから、トイレがとっても楽である。このやり方いいな。これからはこのやり方にしようかな、と公世は思った。
 
そしておしっこの出たあたりを拭き、パンティとブルマを穿いて水を流してから個室を出る。手を洗っている所で玖美子と一緒になり、並んで控え席に戻った。
 
どっちみち、ぼく今後はもう女子トイレしか使えないのかなあ、などと公世は悩んでいた。
 
学校ではどうすればいいんだろう?と思ったが、大会が終わってから考えることにした。
 

3回戦。
 
このあたりからだんだん敵も強くなってくる。千里の相手は武田さんという人である。物凄いオーラを帯びていた。千里は竹刀を持って蹲踞の姿勢で相手を見た時「この人かなり強いな」と思った(実は優勝候補の1番手だった!つまり今大会に出てる人の中で最強の人だった)
 
パワーゲージを40%にあげた。武田さんはスピードではこちらより劣るものの、攻撃にシャープさがある。何度も1本取られそうになるが、巧みなフットワークで回避していく。「この人、ほんとに強い」と思い、パワーゲージを50%まで上げる。それで2分ほど経過したところで何とか面で1本取ったものの、ギリギリで1本が成立した感じだった。
 
その後も彼女の鋭い攻撃が来るが、それを何とかかわしていく。そして終了間際、向こうが面打ちに来た所を竹刀で防ぎ、そのまま面打ち。
 
これが決まって何とか2本勝ちしたが、竹刀で相手の打撃を止めた時に凄い衝撃があった(*9)。一瞬手がしびれた。この人、パワー自体はそれほどでもないのに、こんなに鋭い面打ちをするなんて、と千里は上位陣の強さが“別次元”であることを認識した。
 
私はまだまだこういう部分を強化しないといけないなあと対戦を終えて思った。
 
しかしこれでBEST16である。
 
(*9)千里を含め上級者は相手の防具表面に“当て止め”をするが、途中を受け止めた場合は、大きな運動量が乗った竹刀を強引に止めるので、防具表面に受ける衝撃より遙かに大きい衝撃がある。それで↓のようなことになった。
 

清香も強敵に苦労していた。1分ほど経った所で1本取られるが、終了間際に相手の面打ちをかわして返し胴を取り、延長に持ち込む。そして延長の終わり付近で鋭い踏み込みから小手を取り、何とか勝利した。
 
清香は対戦後思わず首を振って「強ぇ〜!」と小さな声をあげた。
 
しかし清香もこれでBest16である。
 
この段階で、女子で代表2人がともに残っているのは北海道と東京だけである。他の都道府県で残っている人は全員府県1位で出て来た人ばかりである。
 
「千里その竹刀見せて」
と玖美子が言うので見せる。
 
「折れてる」
「え〜〜〜!?」
「武田さんの面を受け止めた時に折れたんだろうね。何か変な音したもん」
「ひぇー。でも竹刀2本持って来てて良かった」
「じゃこちらの折れた竹刀は私が預かるよ。間違えないように」
「よろしく」
 
玖美子はその竹刀にマイネームで大きくX印を書き込んでいた。
 

男子の方で西田君はここで強敵に当たり負けてしまった。彼はBest32で終了である。
 
公世はまたまた相手(西田君の相手以上に強い人だったと思う)が「女じゃん」と思って、最初やや甘く見ていた隙に、きれいに面を1本取る。例によって「めーん!」という公世の声に「やはり女だよな?」と相手は思う。更にすれ違い様に“女の香り”を感じたし。
 
しかしその後は向こうも真剣度が上がり、全開に近くなるので、公世は防戦一方になった。しかしこの1ヶ月、鍛えに鍛えたフットワークでひたすら相手の攻撃をかわし続ける。
 
結局そのまま時間切れ。
 
公世は1本勝ちで、Best16に進出した。
 

4回戦は8試合なので、女子の4回戦8試合が同時に始まる。
 
千里は3回戦の相手同様に50%くらいの感じで対戦したが、わりと簡単に2本勝ちできたので拍子抜けした。どうもさっきの人が物凄く強かったようだと認識する。
 
清香は全開であったが、彼女の相手も3回戦の相手ほど強くはなく、時間内で2本勝ちできた。
 
これで2人ともBest8に進出である。
 
女子の4回戦8試合の後、男子の4回戦8試合も同時に行われる。公世の対戦相手は「なぜ女が男子の部に出てる?」とは思ったものの、ここまで勝ち上がってきた相手である。女だからと思ってなめてはいけないと思った。それで女というのは忘れて、全力で行こうと思った。
 
それで相手は全開で来る。しかし公世は巧みなフットワークで相手の攻撃をかわしていく。一応こちらからも攻撃に行くのだが、9割方相手が攻めて、こちらはひたすら逃げる感じにはなった。しかし2分半ほど経ったところで自分の攻撃がなかなか決まらないのに焦った相手が、やや強引な面打ちに来た。
 
そこをすさかず返し胴で1本取る。
 
向こうは1本取られたのでますます強引な攻めをしてくる。結果的に隙もできる。それで終了間際に小手を1本取って、公世は2本勝ちで、Best8進出を決めた。
 
(今大会で公世は小手での1本が多い)
 

大会はお昼休みに入る。
 
沙苗・玖美子・柔良はお弁当を食べているが、千里と公世はまだ先があるのでそんなものを食べてはいられないと思い、おにぎりを1個食べた。でも清香は「軽く小腹を満たす」と言って、柔良に買ってきてもらったケンタッキーをペロリと3本!食べていた。
 
ここで一部の関係者から公世の性別問題が提起される。
 
それで公世は剣道協会の登録証に加えて、生徒手帳も呈示したし、岩永先生のほか、チームメイトの千里・玖美子・沙苗も彼が確かに男子であることを証言した。更には大会前に受けた健康診断のカルテも参照し、カルテにも「性別:男」と記載されていることが確認された。声が高い問題については玖美子が
「この子、声変わりがまだなんです」
と言った。確かに中学生だと時々そういう子も居る。
 
それで大会長は
 
「学校にも男子として通学しているのであれば男子の部に出るのは問題ありません」
 
と言い、公世が男子の部に出ていることは問題無いということになった。
 
基本的に男子が女子の部に出ようとするとハードルが高いが、女子が男子の部に出るのはあまり大きな問題とはされないことが多い。大会長も半陰陽かFTMさんかと思ったふしもあった。
 
しかし結論が出るまでの間、公世はここで身体検査とかされたらどうしよう?とドキドキしていた。
 

公世の性別問題の議論をしている内にお昼休みが終わり、大会は再開される。
 
準々決勝となる。
 
最初に女子の準々決勝4試合が同時に行われる。
 
ここで残っているのは、千里と清香だけが2年生の初段で、他は全員3年生の二段である。都道府県2位で残っているのは千里だけである。優勝候補の一番手だった武田さんが実は3回戦で千里に負けた!ので、ここに残っている中で優勝候補は、大阪の青木さんが1番手、福岡の菊池さんが2番手である。しかし、ここまで勝ちあがって来た選手は、みんな猛烈に強い人ばかりなので、もはや優勝候補も何も無い。
 
無心で闘うだけである。
 

千里の相手は千葉の平田さんである。物凄く強烈なオーラを帯びている。千里はとうとう70%までパワーゲージを上げた。この人も千里や清香と同様、細かく動き回るフットワークの使い手である。そしてそこから、物凄くシャープな打撃が来る。対戦していて、こういう相手は攻撃の“解像度”が高いんだということに思い至った。
 
攻撃のタイミングが読みにくいし、打ち込みもシャープだが、全体的なスピード自体は千里の方が速いので、相手の攻撃を感じ取ってからでも何とか逃れることができる。しかしそれでも、防戦一方という感じになった。こちらから打ち込みに行っても鮮やかにかわされる。
 
千里はこの相手にはパワーゲージを上げても意味が無いと認識した。パワーゲージを上げるというのは、いわばコンパクトカーを2000ccに、2000ccをスポーツカーに交換するようなものである。しかしシャープさはどうにもならない。攻撃の精密さが高いのである。それはレーシング・ドライバーの運転と生活で車を使っているだけの人の運転との差だと思った。
 
しかし3分も闘(や)っていれば、必ずどこかで隙ができると思い、千里は我慢に我慢を重ねた。
 
そしてもう3分の試合時間の終わりかけ、ほんの一瞬相手に隙ができた所で千里は瞬間的な踏み込みから小手を取った。
 
その後はすぐ時間切れになったので、結局この1本の成立で千里は試合に勝ち、Best4に進出することができた。
 
物凄い強敵だった。3回戦で当たった武田さん以上だと思った。
 
(千里が武田さんに勝てたのはまだ3回戦で武田さんは充分エンジンが掛かっていなかったこと、千里の“見た目オーラ”が小さいので、あまり大した相手ではないように見えてしまったことがあったと思う)
 

清香の相手も強烈に強かった。
 
わずか1分で清香は1本取られてしまうが、その後は清香も踏ん張り、なかなか2本目を取らせない。そしてこのまま時間切れで負けかと思った時のことである。相手が面打ちに来て、清香がぎりぎりでかわした。その時、相手は滑ってしまった!
 
竹刀も落として倒れるので、むろん清香は面を打ち込む。竹刀は副審の足元まで飛んできて、思わず副審が飛んで避けた。
 
これで1対1になる。
 
相手が起き上がる。副審が竹刀を拾ってあげて、渡そうとしたのだが、その時、副審は気付いた。
 
「ちょっと待って。この竹刀、検印が無いじゃん」
 
「え〜〜〜!?」
 
相手は青くなっている。主審もその竹刀を見るが確かに検印が無い。検印らしきスタンプはあるのだが、この大会の検印ではない。
 
「私・・・間違って別の竹刀持って来たのかも」
 
(実際誤って練習パートナーの竹刀を持って来てしまったらしかった:後で始末書を書く羽目になった)
 
主審は彼女に反則負けを宣告し、清香は規定により、2-0での勝利となった。清香が
 
「道具を検印のあるものに交換して再試合にはできないんですか?」
と言ったが、
 
「ダメです」
と言われた。
 
それで清香は不本意だったが、とにかく勝ちは勝ちである。思いがけない形で勝利を拾い、清香はBest4に進出した。
 

女子の準々決勝の後、男子の準々決勝が行われた。
 
公世はここで強烈な相手、東京の飯田さんと当り、1分で2本取られて負けた。
 
それで公世はBest8停まり(5位扱いになる)となった。
 
男子ではこの飯田さんが優勝したので、公世はBest8停まりではあっても、優勝者に負けた人ということで、価値あるBest8である。北海道2位で代表になってここまで来ただけでも大健闘であった。だいたいBest8まで来た他の人はみんな二段だったのに公世だけ初段でもない1級である。
 

女子の準決勝2試合が同時に行われる。
 
菊池(福岡)┳┓
木里(北海)┛┣
青木(大阪)┳┛
村山(北海)┛
 
清香の相手は本当に強かった。柔良や玖美子に公世もこの試合を見ていたが、強さの“次元”が違うと玖美子たちは思った。千里や清香は初段ではあっても実際は三段か四段くらいの力があると多くの人に言われていたが、菊池さんは二段ではあっても実際には四段か五段くらいの力があるように思われた。
 
まず1分で1本面を取られ、清香も頑張って2分で1本返し胴で取り返したが、終了間際、相手の面が再度決まって勝負ありである。
 
それで清香は今回は3位に終わった。
 
千里の相手は、更に強かった。千里は初めてパワーゲージを80%まであげ、その上げ際に相手から1本取る。しかしこちらが1本取ったことで相手は更にレベルアップした(パワーアップではなくレベルアップという感覚)。そしてあっという間に2本立て続けに取られて敗退した。
 
やはりパワーを上げるだけでは、“解像度”の高いシャープな攻撃には対抗できないと千里はあらためて感じた。
 
それで千里も今回は3位に終わった。
 
なお3位決定戦は行われない。
 

女子の準決勝に続き、男子の準決勝が行われる。
 
公世に勝った東京の飯田さんと、もうひとり佐賀の森田さんが決勝に進出した。
 
休憩をおいて決勝が行われる。
 
先に行われた女子の決勝では、延長戦にもつれる激戦の末、大阪の青木さん(千里に勝った人)が福岡の菊池さん(清香に勝った人)を制した。
 
そして男子の決勝では飯田さんが勝った。
 
これで試合は全て終了した。
 

20分ほどおいて表彰式が行われる。
 
まず男女1位が表彰される。大会長が賞状を読み上げそれを渡す。そして金メダルを掛けてもらう。賞状を付き添っている練習パートナー(制服姿)に持ってもらい、優勝トロフィーを受け取る。このトロフィーも練習パートナーに持ってもらい、記念の木刀を授与される。この木刀は男女の個人戦優勝者だけがもらえるものである。
 
「いいなあ。あれ欲しいね」
と、千里の隣に居る清香が言うと、千里は
「来年また頑張ろう」
と言った、ふたりはうなずき合った。
 
2位にも、賞状・メダル・トロフィーが授与され、3位の表彰となる。大会長が賞状を読み上げ清香と千里が受け取り、銅メダルを掛けてもらう。賞状を玖美子・柔良(2人ともセーラー服姿)に持ってもらい、3位のトロフィーを受け取った。双方、トロフィーを左手で抱えたまま右手で握手した、
 
その後、男女の5位の選手7人(*10)に敢闘賞の賞状が渡される。公世も満面の笑顔であった。賞状をもらって戻って来てから千里・清香と握手した。
 
この後、大会長の短いメッセージがあり、表彰式は終了した。その後、閉会の辞があった。
 
(*10) 清香との対戦で反則負けになった人は、敢闘賞を辞退した。
 
清香は彼女に「インターハイで再戦しましょう」と言って「再戦!」(きっと再見(ツァイチェン:See you)のもじり)と書いた色紙を渡していた。彼女も泣いて清香と握手し、再戦を誓っていた。
 

一般の観客の声。
 
「なんで敢闘賞は、男子3人と女子4人だったの?」(*11)
「ああ。なんか男子で5位になった人のひとりが実際は女子だったということで失格になったらしいよ」
「へー。でも女子なのに、男子の5位まで行くって凄いね」
「現代の中沢琴だね。新撰組唯一の女性隊士で、自分から1本取った男と結婚すると言ってたけど、ついに1本取れる男が現れなかったから一生結婚しなかったという」
 
「2年生だったから、来年は女子の部に出てねと言われたらしい」
「まだ2年生なのにそこまで行ったんだ!?だったら来年はきっと女子で優勝するね」
「女子の優勝候補一番手だろうね」
 
(*11)むろん敢闘賞として表彰されたのは、“公世を含む男子4名”と女子3名である。でも公世が女子に見えるので男女人数を誤解される。
 

大会が終わってから全員でホテルに戻る。会場の更衣室は混むからホテルで着替えようよということになったので、公世は“お着替え”どうしよう?と思った。
 
「ぼく浴室で着替えようかな」
「だったら先にシャワー浴びるといいよ」
「じゃそうさせてもらおう」
 
それで(男物の)下着を持って浴室に入ろうとしたのだが、玖美子が
「きみよちゃん、結構その下着、気に入ったでしょ。今夜もこれ着けて寝るといいよ。いい夢見られるよ」
などと言って、下着を渡してくれる。
 
見ると、イチゴ模様!の女の子パンティと“普通の”ブラジャーである。
 
今朝渡されて今穿いているパンティはグレイの無地なのだが、イチゴ模様!?というのにクラクラとする。でもぼくこれからはこういうの着ないといけないのかなあと思った。
 
「借りようかな」
「これは弓枝さんが買ったものだから、そのままあげるから」
「分かった。もらう」
 
と言い、公世は結局男物の下着はバッグに戻し、玖美子から渡されたパンティとブラジャー、それにTシャツとジーンズのパンツを持ち、浴室に入った。
 
 
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【女子中学生・ミニスカストーリー】(3)