【夏の日の想い出・3年生の冬】(3)
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(C)Eriko Kawaguchi 2012-10-14
私は1日に大阪でローズクォーツの新年ライブをやった後、ローズクォーツの他のメンバーおよび美智子と一緒に、東京にも戻らず大阪伊丹からそのまま新千歳に飛んで、東京から飛んできた政子・氷川さんと合流する。その日は更に旭川まで行き旭川市内のホテルに泊まり、翌2日からキャンペーンである。
旭川のホテルで政子は「遊ぼ・遊ぼ」と言ったが、私は「年越し徹夜だったから眠たい。寝せて」と言う。
「しょうがないなあ。じゃ寝てていいよ。私勝手に遊んでるから」
「はいはい」
ということで私は眠らせてもらった。けっこう寝た所で政子に揺り起こされる。
「ねえ」
「どうしたの?」
「私、冬のあそこに魚肉ソーセージを立てて、おちんちん切断ごっこして遊んでたんだけどね」
「変な遊びするね」
「それでね、それでね、おちんちんを切った後、残りのソーセージが中に入り込んじゃって」
「ん?」
「うまく取れないんだけど、どうしよう?」
「え〜〜!?」
私は一気に目が覚めた。確かに中に入り込んでる感触がある。指を入れて摘まもうとするのだが、つるっと滑ってなかなか出ない。
「これ病院に行かなきゃだめかなあ」と政子。
「そんな恥ずかしいこと勘弁。新聞に書かれて、私たち謹慎食らうよ。ネットにも書かれて何十年も先まで記録が残るよ」
「それはいやだな・・・」
私は青葉に電話を掛けた。
「ごめーん。深夜に」
「うん。いいよ。どうしたの?」
私は恥を忍んで青葉に状況を説明した。青葉は笑っていた。
「横になって、楽にして、携帯を子宮の上に置いて」
「了解」
私が横になり、携帯を「仮想子宮」の上に置いて力を抜く。青葉のパワーが携帯を通して流れ込んでくるのを感じる。1分もしないうちにソーセージはヴァギナから飛び出してきた。
「サンキュー!青葉」
「あまり変な遊びしないようにね」
「うんうん。夜中に御免ね」
「うん。おやすみなさい」
ということで、青葉のおかげで私たちは世間に恥をさらさずに済んだのである。
「このソーセージどうしよう?」
「あ、食べるよ」と政子。
「食べるの?」
「だって私たち、お互いにいつもクンニしあってるのに」
「そりゃそうだけど」
「じゃ、頂きます」
と言って、政子は私のヴァギナから飛び出してきたソーセージを美味しそうに食べた。
翌日、私たちは6人で午前中旭川市内の小ホールで最初のミニライブをした後、札幌に移動してお昼前にFM局に行き、全国のリスナーに向けて「明けましておめでとうございます」のメッセージと新曲発売の告知をした。
5分間取ってもらった枠の中で、ローズクォーツの『ウォータードラゴン』
『ナイトアタック』『メルティングポット』、ローズ+リリーの『夜間飛行』
『ハッピー・ラブ・ハッピー』『ピンザンティン』をそれぞれ40秒くらいずつ流してもらった。この編集は氷川さんがしたのだが「格好いい曲ばかりで、どこを抜き出すか、かなり悩みました」などと言っていた。
放送が終わると札幌市内の小ホールに移動する。そこでまたミニライブである。
マキ・タカ・サト・ヤスと私の5人でステージに上がり「明けましておめでとうございます。ローズクォーツです」と言って、短いMCの後、早速演奏を始める。
『ウォータードラゴン』はPVでは、私がウィンドシンセを吹いている所が映っていて、PVの中では私は一切歌っていないので「この曲、歌は無いんですか?」
という問い合わせがたくさん来たのだが、実際問題として、私はこの曲では最初の2分間、ひたすらウィンドシンセを吹いていて、Cメロに入る所からやっと歌い出すのである。ライブでも私がなかなか歌い出さないので戸惑うような雰囲気。この曲には「とっても長い前奏ですね」などというお便りも来て、私とタカは楽しい気分になった。
『ナイトアタック』は下川先生のアレンジだが、下川先生らしいキラキラした演奏になっている。演奏の難易度は『ウォータードラゴン』と双璧を成し、私たちは音源制作した後、この2曲をライブで演奏出来るようにするため、毎日かなりの練習を重ねた。
『メルティングポット』は美智子の最初のアレンジでは「ふつうに格好いい曲」
だったのが、私があらためてしたアレンジで「かなり格好いい曲」になった、とタカは言っていた。様々な楽器の音が交錯するのをキーボードで処理するが、ライブではひとりでは演奏がさすがに間に合わないので、私もキーボードの前に座り、ヤスのキーボードとのツインキーボードで演奏した。このライブ版のアレンジを作るのに私はパズルを解くような気分で頭をひねった。
この3曲を弾いた所で私は「ローズクォーツでした」と言い、4人が下がる。と同時にマリがステージに上がる。そして「こんにちはローズ+リリーです」
と挨拶する。こういうパターンは初めての試みだったので、結構戸惑うような雰囲気。それを制するかのようにマイナスワン音源がスタートするので、それに合わせて『夜間飛行』を歌う。最初の2曲では私はキーボードの前に座って演奏しながら歌い、マリはいつものように私の左側に立って歌った。今回のミニライブ用の音源では、CD音源に入れている航空機のエンジン音は入っていない。代わりに私のキーボードで離陸上昇していくような感じの音を出した。
その次の『ハッピー・ラブ・ハッピー』は明るくとっても楽しい曲である。「今回のキャンペーンではステージ上でのキス禁止」などと言われたので、マリはキーボードを弾いている私の首に後ろから抱きつくようにして歌った(これも翌日から禁止を言い渡されたので、このポーズを見たのは旭川と札幌で見た人だけである)。
ここで私は長めのMCを入れる。
「お正月早々、ローズクォーツとローズ+リリーのキャンペーンライブに来てくださってありがとうございます。今年はヘび年。蛇は脱皮するので、新たな成長をする年だとも言われますね」などとたわいもないトークをする。この付近はある程度話すことを決めてはいるものの、アドリブ部分も大きい。
5分くらいしゃべった所で、タカがステージ脇からエプロンとお玉、それにヘッドセットを持って来てくれるので、私たちはエプロンを身につけ、ヘッドセットを付けてから、お玉を持ちキーボードから離れてふたりで並んで立った。
マイナスワン音源が始まるので、私たちはお玉を振り振り、お料理をするポーズをしながら『ピンザンティン』を歌う。
そして歌い終わると『ごちそうさまでした! ローズ+リリーでした』と挨拶した。
この時札幌会場では「どうしてお玉なの?」という声が掛かった。
「野球の球ではお料理できないからです」と私が答えると会場がどっと沸く。
「ケイはお股にもお玉持ってたけど、もう取っちゃったね」などとマリが言うと、ざわめくような声。マリはしばしばフォローに困る発言をする。
「そうだね。私はお玉を取ったおカマ。こちらはお鍋で使うお玉」と返すと、また会場が沸いた。
(このネタも次回から禁止を通告された。もちろん例の「マリちゃん発言まとめサイト」に掲載された)
私たちは観客にお玉を振りながら、笑顔でステージから下がった。
その日は札幌市内の全日空ホテルに泊まった。このホテルに泊まるのも4回目くらいだが、政子はすっかりこのホテルが気に入ったようである。
北海道に来たので蟹を食べたいと言うかと思ったのだが、政子はラーメンを食べたいというので、クォーツの他のメンツが蟹料理店に行ったのと別れて、私と政子、それに付き合ってくれた氷川さんとの3人で、昼間FM局で聞き込んできた福来軒という所に行った。
何やら今にも崩れないだろうかと不安になるお店ではあったが、味噌ラーメンが割とあっさりした感じで美味だった。政子は「美味しい・美味しい」と言って、大盛りを3杯食べた。何やら芸能人のサイン色紙が多数貼ってある。そこにスカイヤーズの色紙もあるのを見つけて「おぉ!」などと言っていたら、「もしかして、あんたらも芸能人?」などと常連客っぽい人に言われる。「ええ、一応端くれで」と答えると、店主さんが「あ、じゃサイン書いてくれません?」と言うので、私たちはOKして、ローズ+リリーのサイン色紙を書いて置いて来た。
ラーメン屋さんの後は、近くの洋菓子屋さんに入り、ケーキを食べながら美味しい紅茶を飲み、のんびりと3人で話した。
「こないだの大分みたいな大きな会場でのコンサートもいいけど、今日の旭川みたいにホントにこぢんまりした会場でのキャンペーンも良かったね」
と政子。
「マリはキャンペーンで歌ったのは、高2の10月以来だもんね」
「ああ、そういえばそうだなあ」
「あの時はCDショップとか、デパートの前の広場とか、ショッピングモールとかやってたね」
「ああ。通行人のたくさんいる所ってのはまた楽しいよね。ひとり足を止めふたり足を止めて、だんだん観客が増えていくのが凄く面白い」
と政子が言うと
「そうやって観客が増えて行くというのは、つまり歌が魅力的なんですよ」
と氷川さんが言う。
「そっかー」
と言って、政子は微笑んで遠くを見る目をする。その通行人が足を止めて・・・というのは、ここ1年半ほど、私と政子が東北の各地で「ゲリラライブ」をやって体験してきたことだ。
「普通は、演奏していても誰も足を止めてくれません」
と氷川さん。
「確かに、ストリートライブは東京でも町中でよくやってる人がいるけど、自分が通行人の場合、よほどでないと足を止めないですね」
「でしょ?マリちゃんの歌が素敵だからですよ」と氷川さん。
氷川さんの褒め方は政子のツボにハマる。政子はお世辞は嫌いだが、氷川さんは本気で政子を褒めるので、それは政子にも心地よいようである。
「でもケイが上手だっていう前提があるから」と政子。
「デュエットって、片方だけうまくてもきれいにはなりませんよ。ふたりの歌が調和するから、美しい響きになるんです」
「私も4年間に少しは進歩出来たのかな」
「マリはとても上手くなったよ」と私。
「ケイはとても女らしくなったね」と政子。
「そうだね。それまではふつうの男子高校生だったのに」
「いや、ふつうの男子高校生ではなかったはず。なんか、奈緒や麻央ちゃんたちの話から想像するに、もう小学生の頃から女子小学生だったみたいだし」
「そんなこと無いと思うけどなあ」
「あ、分かった!」と唐突に政子は言う。
「何が?」
「4年前、私たちは少し不完全な女性デュオだったんだよ」
「へー」
「私は歌に難があって、ケイは身体に難があった」
「ああ」
「それで4年の間に、私は歌を進化させて、ケイは身体を進化させたんだ」
「面白い解釈だね」
「だから、今私たちはやっと完全な女性デュオになったんだよ」
「じゃ、完全になった所で、この後、沖縄まで、そして最後の埼玉まで走り抜けよう」
「OKOK」
と政子は笑顔で言った。
翌日は朝から新千歳空港→仙台空港と移動し、仙台市内の小ホールでイベントをした。この日の予定は盛岡と仙台で、北海道から行くなら盛岡の方が近そうだが、本州と北海道の間は基本的に空路になるため、飛行機の便の良い仙台の方が結果的には札幌に近いのである。
私たちが昨日お玉を振りながら歌ったことがツイッターなどで広まっていて、仙台会場には、お玉を持って集まってきた客がかなりいた。私たちは緊急の会議をして、凶器になる可能性の低い、総プラスチック製のもののみ持ち込みを許可することにした。(金属製のもの、金属部分を含むものは入場時に預かり番号札を付けて管理して退場時に返還した)
そのこともすぐさま伝搬して、午後の盛岡会場に集まってきたお客さんはみんなプラスチック製のお玉を持参していた。
その日の夜には「初音ミクと共演させたい」などという書き込みも見られた。
盛岡の翌日は新潟になるので、その日は盛岡市内で早めの夕食を取ったあと(政子はおそばをたくさん食べていた)新幹線で大宮経由で新潟まで行き、夜遅く新潟市内のホテルに投宿した。
そして3日目は朝新潟のFM局に出演してから午前中市内でミニライブ、その後JRで金沢に移動して金沢のFM局に出演した後、金沢市内の小ホールでミニライブして、その日は金沢の全日空ホテルに泊まる。ホテル内の日本料理店で金沢の海の幸をふんだんに使った夕食を取った後、各自の部屋に入る。
ここも政子のお気に入りのホテルのひとつである。氷川さんからプレミアムフロアのインペリアルスイートを取りますよと言われたのだが、敢えてスタンダードフロアのデラックスツインにしてもらった。高校時代にここに泊まった時にそのタイプの部屋に泊まったからである。
「やっぱりこの部屋でも充分贅沢な感じだよね〜」
と言って、政子は下着姿になってベッドの上で跳ねている。
「超豪華な部屋もいいけど、このくらいの部屋の方が落ち着くってば落ち着く感じもするよね」
「基本的に貧乏性なのかも知れないけどね〜」
「この広さなら子供2人くらいと一緒にも泊まれるよね」
「そうだね。ベッドが広いから、大人2人、子供2人くらいは大丈夫だと思うよ。子供がもう少し増えたらエクストラベッド入れてもいいだろうし」
「あ、そうか。そしたら子供4人でも行けるかな」
「子供も中学生くらいになったら別室にしてあげないといけないけど小学生くらいのうちは家族全員1室でもいいかもね」
「私、子供何人くらい産もうかなあ」と政子。
「前、4人とか6人とか産みたいって言ってたね」
「私ね・・・・8人くらい欲しい気もするんだけどね」
「そんなに産むの!?」
「でも8回もお産するの大変そうだなあ。半分冬が産んでくれたらいいのに」
「ごめんねー、子供産めなくて」
「よし」
と言って、政子はいつもの赤いボールペンに、黄色いレターパッドを取りだした。
詩を綴り始める。私は政子の横に一緒に寝転がって、その言葉の並びを見た。何だか楽しい詩だ。私は政子のバッグの中から勝手に五線紙と青いボールペンを取り出すと、その詩に合うはずの曲を書き綴っていった。
20分くらいして政子が「できたー」と言う。私も「こちらもできた」と言う。
「じゃ、歌ってみて」と政子。
「OK」
と言って私は歌い出す。政子の詩は途中までしか見ていなかったが、自分の書いた曲と合うはずという確信があった。
政子は目を瞑って楽しそうな顔をして私の歌を聴いている。そして途中から私と一緒に歌い始めた。
歌い終わって相互拍手。
「タイトルは何にする?」
「せーの、で言ってみない?」
「よし、せーの」
「8人の天使たち」「天使が8人」
「惜しーい!!」
「でもまあいい線だね」
翌日は早朝の「しらさぎ」に乗って名古屋に出た。FM局に出たあと午前中に名古屋市内の小さなホールでイベントをする。その後新幹線で静岡に移動し、またFMに出演してからイベントをした。静岡では政子は富士宮やきそばを出している店に行き、たくさん食べていた。
5日目は新幹線で京都に出て、午前中京都、午後は神戸でイベントをする。神戸は特に1800人ほど入るホールを使い、身分証明書などで本人確認をしながら入場させた。神戸では政子は「玉子焼き」と「神戸薄焼き」から始まって、豚まん、ぼっかけうどん、と食べ歩いて、神戸ラーメンで締めた。私は途中から注文して数口食べただけで残りは政子に任せていた。
5日目は岡山と高松だったが、この日は翌日の都合で福岡泊にする。福岡ではラーメン屋さんに行くかな?と思ったら、政子は「牧のうどん」に行った。キムチうどんとかゴボ天うどんとか、具を変えながら何杯も食べて嬉しそうにしていた。政子お気に入りの「ふくやの明太子」も4箱買い、クール宅急便で麻央のアパート宛に送っていた。(4箱の内1箱は麻央が取って残り3箱をマンションに持って行ってくれるよう頼んだ。佐野君用に萬代の純米酒もセットしておいた)。
そして6日目は午前中早めに福岡市内でミニライブをしてから、お昼の便で福岡空港から那覇空港に飛び、午後3時から那覇市内でミニライブとなった。この日は福岡と那覇のFM局には生出演ではなく、録音しておいたものを流してもらった。
沖縄に来たのならということで麻美さんに連絡し「30分だけ。ローズ+リリーは15分だけなんだけど」と言ったのだが
「行きます!整理券下さい」
と元気そうな声で言うので、お母さんと陽奈さんの分も入れて3枚、整理券を管理しているFM局の人から渡してもらっておいた。
その日は宜野湾市内のホテルに泊まった。晩御飯には(私と政子だけ)町食堂でゴーヤチャンプルを食べた。(他のメンツは高級レストランに行っている)
例によって、私と政子はスイートルームを当ててもらっている。ここもまた政子お気に入りのホテルである。
「ゴージャスさでは、年末に別府で泊まったホテルのお部屋が物凄かったけど、ここのスイートも落ち着く感じでいいなあ」
と政子は下着姿でソファに寝転がり、ノートにボールペンで詩を走り書きしながら言う。
「マーサが詩を書きながらおしゃべりするって珍しい」
「うーん、まあそういう気分の時もあるのよ。あ、マッサージし合おうよ。私の足を揉んで〜」
「了解〜」
といって私は政子の足を柔らかく揉みながら、時々あのあたりを悪戯したりする。すると政子は「あ、そこもよく揉んでね〜」などと言っていた。
「あんたたち、しばしば他人には見せられないような創作の仕方してるだろ?」
と美智子にも、琴絵たちにも言われるゆえんである。
政子がやがて詩を書き終わると、私たちは交替する。私がソファに寝て、政子が私の足を揉みほぐし、揉まれながら私は今政子が書いた詩に曲を付けていく。政子のマッサージもまた私のあの付近によく手が来る。
「ちょっと気持ち良すぎて気が散るから勘弁して〜。足を揉んでよ」
「OK。もっと気持ちよくしてあげるね」
「だから、それは曲を書き上げてから〜」
というものの、また攻めてくる。
「やっぱり冬が女の子になってくれたおかげで、自分のを刺激するのと同じ感覚で冬のも刺激できるからいいなあ」
などと政子は言う。
「女の子同士って、性感帯の研究を自分の身体でもできるのが便利な所だよね」
「ね、ね、冬のあそこにバナナ入れてみてもいい?」
「こないだみたいに抜けなくなって騒動になったら嫌だから、やめようよ」と私。
「ああ、それはまずいな」
「また青葉に頼むの恥ずかしいよ」
「でもバイブとかならいいよね〜」と政子。
「それ曲を書き終わってからにして〜」
「了解。すぐ入れるね」
と言うと、政子はどこに隠し持っていたのか小型のピンクローターを私のあそこに入れてしまい、スイッチを入れる。
「きゃー、勘弁して〜。気が散る」
「集中力を鍛える練習よ。気持ち良さに耐えて、精神を集中して曲を書こう」
「ひー」
そんな遊びをしながらも、私たちは1時間ほどで曲を書き上げた。
「タイトル何にする?」
「せーので言ってみよう」
「よし。せーのっ」
「不言実行」「言葉は要らない」
「うーん。。。」と私たちは少し悩む。
「ちょっとずれたね」
「愛が足りないのよ。今夜は最低3回は私を逝かせることを命じる」と政子。
「じゃ、愛し合ってから、また考えてみる?」
「うん、それがいい」
私たちはキスして、それからベッドに行った。
「ねえ、冬。私が女の子の恋人作ったら妬く?」
政子を結局4回くらい逝かせた後で、政子はそんなことを言い出した。
「当然。男の子の恋人ならもし複数作っても気にしないよ」
私がこんな言い方をしたのは、政子がここ半年ほど、道治君という大学の後輩の子と付き合いながら、一方で大阪に住む高校の時の同級生・貴昭君にも友達以上の感情を持っている風だったからである。二股はしない主義の政子が同時にふたりの男の子を好きになるのは珍しい。
「いやそれがさ・・・・11月に道治に女装させてみたら可愛くなっちゃってさ」
「ああ」
「可愛い、可愛いって褒めてあげたら、本人まんざらでもない感じで、先月は会う度に女装させてたんだけど『僕、可愛いかな?』なんて言っちゃって」
「あはは」
「もし、道治が女の子になりたいとか言い出したらどうしようかなと思って」
「道治君との関係は妬かないから、ご自由にどうぞ」
「えへへ」
「でも彼が性転換したいとか言い出したら、マーサ結婚できなくなっちゃうよ」
「うーん。それは困った。結構、道治と結婚する気あるんだけど」
「タックしたりした?」
「してあげた。凄い!これいい!と叫んでた」
「ああ・・・既に女装にハマってるな」
「そんな気がするのよねー」
「貴昭君との関係はどうなのさ?」
と訊くと、政子は沈黙してしまった。あれ?あまり訊かれたくなかったのかなとも思ったのだが、政子はゆっくりと口を開いた。
「彼とはね・・・・まだしばらくお友だちのままかも」
「他の女の子に取られても知らないよ」
「でも・・・・私、今は道治と付き合ってるから」
「道治君が女の子になっちゃったら、貴昭君をボーイフレンドにできたりして」
「むむむ」
沖縄に泊まった翌日は朝の飛行機で羽田に戻り、そこから直接横浜に入り、キャパ2000人ほどのホールでミニライブをした。最初は500人程度のホールの予定だったのが、希望者が募集期間中に2万人も登録されたので、急遽偶然にも取れたこのホールに変更した(それでも競争率10倍)。元々韓流アーティストのライブが行われる予定だったのが、期日までに使用料の納付が無かったため、キャンセルになったところをドロップキャッチしたのである。それで、その元々の韓流歌手の公演があるものと信じてやってきた人が数十人居て納得してもらうのに苦労したようであった。
ここは更に身分証明書または携帯で当選者と同じ人であることを確認しながら入場させたので2000人を入れるのに時間を食ったようであった。神戸でも本人確認はやったのだが、アバウトな照合をしたため、1800人のはずが1850人ほど入ってしまったので(恐らく申し込んでいた人数を超える人数で入った人達がいたため)、ここでは厳密にやったら手間取ってしまった。結局開演が30分遅れることになった。
「ちょっと色々あったので、何かサービスできますか?」
と入場管理の応援で来ていた加藤課長が言う。
「じゃ、ステージ上で私たちがキスを」と政子が言うが
「却下」と美智子。
「1曲、多く演奏しましょう」と私は提案した。
「何を?」
「『僕は女の子』」と政子。
「あれは却下」と私。
「面白い曲なのに」
「あんなの歌ったら、今日の観客から1%くらい女装始める子が出るから」
「可愛い子は女装させればいいのよ」と政子。
「女装始めるの、必ずしも可愛い子とは限らないよ」
「うむむ」
「まあそういう訳で『君待つ朝』」と私は言う。
「ああ、あれならいいか」と政子。
「その曲名は初めて聞いた」と美智子。
「そうですね。今年の夏のアルバムに入れてもいいかな」
「へー」
「MIDIはあるので、それをmp3に変換しましょう」
と言って、私はパソコンを開き、変換作業をする。再生してその場でふたりで歌ってみせると、「わあ、なんか甘酸っぱいせつなさ」と氷川さん。
「高校生の頃っぽい曲だね」と美智子。
「『Month before Rose+Lily』を聴いてたらできたんです」
「結構未発表の曲ってあるんですか?」と氷川さん。
「うーん。数えてはみたことないですが、多分50〜60曲はありますよ」
「へー!」
「その中にはこの『君待つ朝』みたいに、機会があれば発表してもいいかなという曲、それからこれはその内絶対発表したいと思ってる曲もあるし、これはさすがに発表出来ないかなというのもあります」
「発表出来ない曲というと?」
「さっきマリが言った『僕は女の子』とか、『君のバナナ切っちゃうぞ』とか『可愛い子には女装させよう』とか『男性絶滅計画』とか」
「あんたたちの私生活暴露はもういいや」と美智子。
「発表しちゃった曲で『去勢しちゃうぞ』という曲もありましたね」と氷川さん。
「あの曲を聴いて去勢する勇気が出て手術を受けました、ってファンレターいただきました」
と私は苦笑いしながら言う。
その日のステージでは、ローズクォーツの3曲を演奏して、4人が下がり代りにマリがステージに上がってきてまずは『夜間飛行』を演奏してから
「本当はこの後、『ハッピー・ラブ・ハッピー』『ピンザンティン』を歌ってミニライブは終わりなのですが、今日は入場にかなり混乱があったとのことでお詫びに何か追加してもらえませんか?という話がありましたので、今回のCDには入ってない曲ですが『君待つ朝』という曲を歌います。これは秋くらいに出す予定の次のアルバムに入れようかと思っています」
と言うと「わあ」という声が広がる。音源をスタートさせてふたりで歌うと聴衆の3分の1くらいは手拍子を打たずに歌に聴き入っている感じだった。この曲は「高校三部作」(『遙かな夢』『涙の影』『あの街角で』)や『私にもいつか』などの系統に属する曲である。
歌い終わり拍手。それから『ハッピー・ラブ・ハッピー』をひとつのマイクで一緒に歌った後、エプロンを着てお玉を振りながら『ピンザンティン』を楽しく歌って、ステージを終えた。客席でも多数のお玉が振られていた。
その日はお昼に東京でFM局に出て、全国放送の番組内で曲の宣伝をした。そしてFM局の入っているビルでローズクォーツ・ローズ+リリーの6人と美智子、氷川さん・加藤課長まで加わりお昼を食べたあと、埼玉県内の2000人キャパのホールに移動する。この会場で今回のキャンペーンは終了である。ここはキャンペーンの最後ということで、最初から大きな会場を確保していたのである。
まだ入場させる前、ステージで楽器などの設置状況を確認していたら、PA卓の所にいる女性と目が合った。思わず笑顔になってお互いに手を振る。私は彼女の所に歩み寄った。
「有咲、今日のPA?」
「ううん。まだ助手だよ〜。さすがに1年目ではメインは任せてもらえない」
小学校の同級生である有咲は高校卒業後、専門学校で2年間音響技術を学び、昨年春に都内の音響技術会社に就職した。まだまだアシスタントということのようである。
「でも今日、ローズ+リリーのPAやると聞いて、ちょっと張り切ってきた」
「よろしくね〜」
などと言っていたら、メインのPAエンジニアがやってきて
「町田君、接続は終わった?」と有咲に声を掛ける。
「はい、終了しました」と有咲が答えるが、エンジニアさんは私にも気付いた。
「あれ、唐本君、久しぶり〜」
「ご無沙汰しておりました。麻布先生」と私は挨拶する。
「君も今日のライブの何かのスタッフ?」と麻布さんが訊く。
「いえ、出演者です」と私。
「あ、コーラス隊か何か?」
「いえ。メインのアーティストです」
「へ?」
「先生、この子がローズ+リリーのケイですよ」と有咲。
「えー!?」と麻布さんは驚いた様子。
「・・・じゃ、君って、本当は女の子に見える男の子だったの?」
「そうですね。今はもう完全に女の子になっちゃいましたが」
「あ、もう性転換しちゃったんだっけ?」
「戸籍も女になってます」
「へー! 君のことはホントに女の子だと思い込んでいた」
「済みません。言って無くて。でも、有咲、麻布先生の会社に入ったんだ?」
「うん、やはり先生のコネで」
「私も有咲も、あの時期、だいぶ鍛えられたもんね〜」
「学校出てきたばかりの子は必ずしもすぐには使えないんだけどね。町田君も唐本君もあの時期、結構鍛えたつもりだったし。だから町田君が専門学校を卒業して仕事先を探していると聞いた時に、僕が戻るつもりでいた会社を紹介したんだ。それで帰国してからすぐ僕のメインアシスタントにしたんだよ。立派な戦力」
と麻布さん。
「私の方は実は、あの後急にローズ+リリーで忙しくなっちゃって」
「ああ。なるほどね。凄く忙しいみたい、とは町田君から聞いてたけど」
「でも、私もあの時期鍛えてもらったおかげで、自分のCDとか音源制作する時、私が制作途中の仮ミックスダウンとかやってたりしますし、何度か最終ミックスダウンしたこともあります」
「うん。まあ、そのくらいしても大丈夫だろうね。音源のミックスダウンはやり直しもきくし」
「ええ」
私はしばしは有咲と麻布さんと昔のことで話をしていた。私がステージの方に戻ると、氷川さんが不思議そうな顔をしている。
「お知り合いですか?」
「ええ。私、高校1年から2年の時期に、今日のメインPAの麻布さんが以前いた会社でバイトしてたんですよ」
「えー?」
「助手の女の子は私の元同級生で、当時一緒にバイトしてたんです」
「へー!」
「当時いた会社は潰れてしまって、その後、最近までアメリカにおられたんですけどね」
「ああ。あの業界も小さな会社が多いし、たいへんでしょうね」
「ええ」
この埼玉会場でも、やはり横浜と同様に携帯電話か身分証明書で本人確認しながら入場させたが、横浜での混乱も受けてやり方を少し変えたので、幸いにもこちらは混乱もなく、比較的スムーズに入場ができた。しかし、午前中横浜で1曲余分に歌ったのが伝わっていて、前半のローズクォーツから後半のローズ+リリーに交替した時「君待つ朝〜」とリクエストが掛かった。そこで、こちらでもその曲をサービスで歌うことにした。客席の反応はとても良かった。後で氷川さんが「この曲、次のアルバムの中核にできますね」などと言っていた。
最後の曲『ピンザンティン』を、お玉を振りながら歌うと、やはり客席もみんなお玉を振ってくれる。とても盛り上がった状態で、この日のイベントを終えた。
今日のイベントに来てくれた人は、既にCDを買っている人も多かったはずだが、それでも会場売りしたCDが、横浜と埼玉合わせてローズ+リリーの分約400枚、ローズクォーツの分約100枚が売れた。そのほか、出張販売に来てくれているピエトロさんの方もドレッシングがかなり売れたようであった。
また物販をした他の会場でも聞かれたのだが、年末の大分の会場で売ったPV集のDVDが無いかと尋ねる人も多く、これについては何らかの方法での再販売を検討することになった。
埼玉のステージが終わってから、私とタカと美智子の3人で★★レコードに行って、町添さんと会談した。
「今の所、ローズ+リリーの『夜間飛行』が初動40万、昨日までに70万。これは久しぶりにミリオン行くかも知れない」
「わあ」
「『夜間飛行』が格好良い!という声と『ピンザンティン』が面白い!という声が多い。個別でもこの2曲のダウンロードが圧倒的に多い。これは上島先生の闘争本能が刺激されるね」
と町添さんは言う。
「でも多分、ハッピー・ラブ・ハッピーは結婚式とかでたくさん歌われますよ」
と私が言うと
「うんうん。それで定着するかもしれない」
と町添さんも笑顔で言う。
「それでローズクォーツの『ナイトアタック/ウォータードラゴン』だけど、初動は2万と、前作・前々作(初動3万)より低調なスタートだったのだけど、昨日までに8万に達している」
「へー」
「色々購入者の声とかを分析しているのだけど、やはりマリちゃんが参加しないなら、買わなくてもいいやと思った人が結構いたようで」
「やむを得ないでしょうね」
「それがキャンペーンで会場で聴いた人、FMの番組で聴いた人が『何だか格好いい曲だ』と思って、キャンペーン会場で売っているものを買ったり、ダウンロードしたりしたケースが、けっこうある感じ。須藤君の狙い通りだね」
「ゴールド行きますかね?」
「行くと思う。行ってもらわないと困る。今回はキャンペーンに1000万掛けたしね。もっとも予算はローズ+リリーの方から出てるんだけどね」
私は微笑む。そのあたりは少し混同して使わせてもらったところである。で、ローズ+リリーの予算というのは、つまりお金を出しているのは結局、サマーガールズ出版、要するに私と政子だ!
「あ、そうそう。これはケイちゃんだけに言っておこうと思ったんだけど」
「あ、僕は聞きません」とタカ。
「同じく」と美智子。
「うん。須藤君も星居君もよろしく」と町添さんは言ってから
「花村唯香が今月末に性転換手術を受けることになった。このことは当面公表しない」と言う。
「わあ、それは良かった。先月発売した新譜もよく売れてるようですからね」
「うんうん。その印税で性転換手術代が出たようだね」
「手術代高いですからね。ふつうの人は捻出が大変ですよ。手術した後しばらくはとても稼働できないし」
「一応、7月いっぱいまで休養させる予定。その後は本人の回復状況次第。復帰後はまた、エリちゃんとケイちゃんに曲をお願いしたい」
「ええ。こちらは大丈夫です」
「手術後1ヶ月で活動再開したケイちゃんや、2ヶ月半で復帰した春奈ちゃんは例外中の例外だからなあ」
「スリファーズは、年末に緊急発売になった『女になった日』どうですか?」
「うん。ここでケイちゃんだけに話すモード終了。で、『女になった日』は予約が凄まじくて、初動で50万超えた」
「ひゃー」
「もう60万を越えてる。多分70〜80万くらい行くかな」
「凄いですね」
新曲キャンペーンが終わった週末。私と政子はまたヴァイオリンとフルートを持ち、東北新幹線に乗った。福島駅で降り、南相馬市へ行くバスに乗る。
私たちはバスの中で先月福島に「ゲリラライブ」に行った時に、福島県の職員という方から頂いた地図を眺めていた。
警戒区域・計画的避難区域・帰還困難区域・居住制限区域・避難指示解除準備区域といった文字が記入されている。思うことは色々ある。
しかし私たちはいつもゲリラライブに行く時と同様、無言であった。
原ノ町駅前でバスを降りた。
現在常磐線は南側は上野−広町間、北側は原ノ町−仙台間のみ運行(但し一部バスで代替中で2017年頃鉄道復旧予定)されていて、広町と原ノ町の間は復旧のメドは全く立っていない。ここから南には行くことができない。
東京方面からここに来るのにも、北側の相馬市から回り込まないといけない。双葉町や大熊町には近寄ることさえできないが、南相馬市も南部の区域がまだ避難指示解除準備区域である。私は2010年10月にここに「ドサ周りライブ」に来た時のことを思い出していた。あの時は双葉町の公民館でも歌ったが、いつかまたあそこに行くことができるのだろうか・・・・
私はもう唄わずにはいられなくなった。
「ハアアーアイヨー、道の小草にヨ 米なるときはヨ
ハアアー 山の木萱にも ヤレサ 金がなるヨ」
「ハアアーアイヨー 月はまん丸だヨ 踊りも丸いヨ
ハアアー 主と私も ヤレサ 丸い仲ヨ」
道行く人が何人か立ち止まってこちらを見ている。政子がヴァイオリンケースを開けて、私が唄う相馬盆唄に合わせてヴァイオリンを弾き始めた。ヴァイオリンという楽器はギターなどと違ってフレットが無いので、民謡の音階にも合わせやすい。
やがて政子のヴァイオリンは突然西洋音階の和音を弾きパッヘルベルのカノンになる。私は微笑んで歌い続ける。
「春の花、夏の海、秋の風、冬の山」
「甘い瞳、熱い吐息、揺れる袖、静かな閨(ねや)」
「その日君と出会った時から、僕の心は天空を舞い」
「鳥のさえずり、木々の葉擦れ、人のざわめき、雨の雫」
「全てが愛を語るようで、全てが恋を祝うようで」
一通り歌った所で私もフルートのケースを開けて政子のヴァイオリンに合わせて吹き出した。
やがてヴァイオリンは『荒城の月』を示唆する。物悲しげなヴァイオリンの響きを背景に柔らかいフルートの音色がメロディーを奏でて行く。
更に私たちは『花』『カチューシャ』と弾き『福島県民の歌』『I love you & I need you ふくしま』を弾いてから、最後に『神様お願い』を演奏して町中での突然ライブを終えた。
最後の方は20人くらいの人が私たちを取り囲み、拍手もしてくれた。最後の3曲は一緒に歌ってくれる人が随分いた。途中で観衆の中に制服のお巡りさんが加わったので何か言われるかとも思ったのだが、最後まで一緒に聴き、拍手までしてくれた。私たちは聴いてくれた人たちにお辞儀をし楽器をケースに入れ駅に戻った。
駅前で相馬行きの列車を待っていたら、ひとりの女性に声を掛けられる。
「もしかしてローズ+リリーのおふたりですか?」
「はい」
と私たちはにこやかに答える。この人の顔には見覚えがある。さきほどのライブを最初から聴いていたひとりだ。
「よくここまで来られましたね」
「この突発ライブは去年の5月から毎月東北のどこかでやってたんですけど、先月福島市に行って、偶然県庁の職員の方とお話をして、この区域に来たくなったんです。結局はこの南相馬市が私たちみたいな外部の者が来るには限界のようだったから」と私は言う。
「双葉町とかには双葉町の住人でさえ入れません」
「そのお陰で、ここに来るのに回り込まないといけないから大変。こちらの人たちも東京に出るの大変でしょ?」
「そうなんですよ!」
「でもいつか必ず復旧しますよ。人間の力だって凄いんだから」
「ええ。私もそれを信じて頑張ります」
私たちは彼女と握手した。
「来月はどこに行こうか?」と仙台行きの常磐線の列車の中で私は訊いた。
「3月11日は石巻、時間的に可能だったら鮎川にしない?」
「そうだね。じゃ2月11日は陸前高田」
「OK」
「一応、今度の3月11日でゲリラライブも、いったん終了しようか」
「うん。ここまで誰にもバレずに来たのが奇跡的だけど、あまり騒がれたくないしね」
「うん。こういうのって騒ぐべきものじゃないよ」
私たちは仙台に辿り着くまで、そのくらいの会話しか交わさなかった。
仙台に着いてから、私たちは駅の構内のカフェでしばし休息を取っていた。ここまで来ると政子もやっと饒舌になる。少しHなやりとりなどもしながら私たちはいろいろな話をする。その内突然政子の口が止まる。私がレポート用紙を渡してやると、政子は「青い清流」の方をバッグから出して詩を書き始めた。政子がこのボールペンを使う時は、悲しい詩や厳しい詩を書く。
10分ほどで書き終えてタッチと言って、自分のバッグから五線紙を出し、ボールペンと一緒にこちらに渡してくれた。私は微笑んでその詩に曲を付けて行った。少し悩みながら、またところどころ「この詩、こう変えてもいい?」
などと訊きながら、作曲作業を進め、曲は20分ほどで完成する。
私が小声で歌ってみせると「うんうん、いい感じ」と政子は言った。政子はタイトルのところに『事象の夜明け』というタイトルを書いた。
「ふーん。ちょっと抑制したね」と私は言った。
「本当は『プロトンの夜明け』にしようかと思ったけど、あまり政治的な意図とか見られたくないから」
「私も、あまり政治的な思惑に取られやすい曲は出したくない。怒りはあるけど、自分たちの歌をそういうことには使いたくない」
と私。
「私たちフォークライターだって随分いわれたけど、フォークは本来すごく政治的なんだけどね。『花はどこへ行ったの』とかね」と政子。
「私たちは完璧なノンポリだもんね」
「でもマーサって原発に反対なの?賛成なの?」
「冬は?」
「じゃ、せーので。反対なら指は下向き、賛成なら上向き」
「よし。せーの」
私たちはお互いの指を見つめて「うーん」とうなった。
「愛が足りないのよ!今夜は私を5回くらい逝かせて」と政子。
「いいけど」
と言って、私は微笑む。
そんなことを話していた時、私はカフェの窓の外を通りがかった人物とふと目が合ってしまった。私が挨拶すると向こうも手を振り、店の中に入ってきた。
「おはようございます、部長」
「おはよう、マリちゃん、ケイちゃん」
「こちらは仕事だっけ?」と町添部長。
「個人的な行動です。今日は南相馬市まで行ってきました」
「おお」
「私たち実は昨年の5月から月に1回くらいのペースで東北のあちこちで突発ストリートライブしてたんです」
「なに〜〜!?」
「だいたいはマリのヴァイオリンと私のフルートだけですけど、歌うこともありました」
「マリちゃんも歌うの?」
「今日は歌わなかったけど、けっこう歌ってたよね」
「うん。私にとっては人前で歌ったり演奏するリハビリも兼ねてたんだけどね」
「なるほど」
「でも今度の3月11日で一応結願にしようかと」と私。
「ああ」
「偶然にもここまて誰にも知られずにやってきたので。知られて騒がれると、ずっと続けないといけない雰囲気になっちゃうから。今まではとにかく何かしなきゃという気持ちで行動してきたけど、惰性でするのは嫌だし、私たち偽善的な行動も嫌いだし」
と政子が言う。政子がこんな長くて理屈っぽいことを言うのは珍しい。だいたい彼女は感覚人間だ。
「ああ、そういう気持ちも分かる」と町添さん。
「先月福島市に行った時、あの地域のことを聞いたので、今日は南相馬市まで行ってきたんです」と私。
「双葉町に行きたかったけど、無理に行っても誰もいないし」
「そうだね。今あそこにいるのはネズミくらいかな。でも例のカントリーソングのPVに使われているのが双葉町の映像だってことに気付いた人たちがポツポツと出ているみたいね」
「自然に噂が広がるのは構わないと思います」
と私は微笑む。
「昨年は『暗い小径』の悲鳴のようなピッコロも随分ネットで議論されてたけど、結局あれって何だったの?」
『暗い小径』は昨年のアルバムに入っていた曲で、少し寂しい小径を辿りながら、片思いの彼のことに思いを馳せる女の子の思いを歌った曲だが、曲の途中に入るシンバルの音と悲鳴を思わせるピッコロの音が何を意味するのか、物議を醸した。
「ああ、あれは」
「私が蛙を踏んじゃったんです」と政子。
「えー!?」と言って、町添さんが大笑いする。
「でも蛙は無事で逃げて行きましたよ」
「それは良かった」と言って、町添さんはまだ笑っている。
「そうそう。南相馬市の農産物直売所で少しお野菜買ってました」
「・・・大丈夫なの?」
「全部放射能検査通ってますよ」
「だったら問題無いか」
「今夜サラダにして食べます。ピンザンティン」
「君たち、ほんと時々不思議なことばを発明するね」
「ああ、そういう能力って女性だけにあるという話です。男は既存の言葉を組み合わせることしか思いつかないんですって」
「なるほど、そうかも知れないね」
「ケイも結構不可思議な単語を作り出すよね」
「ああ、私の脳みそは女性型だってのは、結構奈緒たちから言われてたね」
「ケイちゃんって、いつ頃から女の子だったんだろう?」と町添さん。
「私が想像するのには、生まれた時既に女の子だったのではないかと」
「ふふふ」
「そうだ、部長。私たちのライブ、5月に仙台でやりますが、一度福島でもできませんかね。南相馬市はさすがに難しいでしょうけど、福島か郡山か、あるいは原発から離れる意味で会津若松でもいいですが」
と私は言ってみた。
「うん。。。。それは考えてもいいけど。福岡で予定している年末のライブを振り替える?」
「今のラインナップに加えていいですよ」と政子。
「分かった。考えてみよう」
「ありがとうございます」
翌12日はローズ+リリーの名古屋公演(2月23日)のチケットが発売されたが、一般発売した2800席が3分でソールドアウトした。むろんチケットは転売禁止で入場には予約に使用した携帯電話か写真付き身分証明書が必要である。私は何人かの友人からチケット何とかならない?と言われたが、今回は会場が狭いので無理、といってお断りした。
その翌日1月13日はGD賞の授賞式があり、ローズ+リリーは『影たちの夜』
で、ローズクォーツも『起承転決』で受賞したのでみんなでぞろぞろと出て行った。高校の時に『甘い蜜』で受賞した時は、上島先生が私たちの代理で授賞式に出席してくださった賞である。
これで私たちは今年の年末年始の大きな音楽賞のほとんどに入賞した感じもあった。またローズクォーツもこの賞だけでも受賞したので私はホッとした。
「なんか悔しいなあ。マリちゃん・ケイちゃんはどれかひとつくらい大賞を取っても良かったと思うんだけど」と一緒に入賞したAYAが言う。
「私たちよりたくさん売ったグループも複数あったからね」
「あれは買ってる人の『中の人』の数に疑問があるけど」
「それに私たちテレビに出ないし。今日の賞なんかは単純に統計で選考するみたいだけど、年末のRC大賞とかは、やはりテレビに出るアーティストにあげたいんじゃない?」
「うん。それはあるかも知れないけどね」
19歳頃までは結構テレビに積極的に出ていたAYAも最近は音楽番組以外にはほとんど出ていない。むしろライブ活動の方に力点を置いている感じだ。
「なんかテレビに出るのが時間の無駄のような気がしてさ」とAYA。
「そう感じる人も多いだろうね。スリファーズも最近もうバラエティ系に出てないけど、事務所の社長が言ってたのよね。テレビに出しても全然宣伝効果が無いって」
「テレビ見てるのは小さな子供かお年寄りだけって感じだしなあ。中学生世代から60歳前後くらいの人はテレビ見てるより、ゲームしてる時間の方がたぶん長いよ」
そんな話をしていた所に XANFUS のふたりがやってくる。私たちはいつもの流儀で、音羽と私、政子と光帆がハグし、それから光帆と私、政子と音羽がハグし、最後に私と政子、音羽と光帆でハグする。
「あんたたち、いつもそれやってるね」とAYA。
「そうそう、友情の儀式なんだよ」とXANFUSの音羽。
「私も混ぜて」とAYA。
「ダメ」とXANFUSの光帆。
「なんで〜?」
「だって私たちビアン同士だから」と光帆。
「むむむ。私は確かにストレートだ!」とAYAは残念そうに言った。
その日、私たちがマンションに戻って、まずは夕食前にちょっとだけ愛し合い、それから曲作りをしていたら、政子の携帯に着信がある。政子のお母さんからだ。
「あ、もしもし。うん。うん。えー!?」
「いや、それはお疲れ様。あ、えっと。。。。はい、お掃除します!」
「じゃ、4月1日からはしばらく東京本店勤務なのね? 了解!」
と言って政子は電話を切った。
「参った・・・・」と政子。
「もしかして、お父さん、日本に戻ってくるの?」と私は訊く。
「うん。正式辞令はまだなんだけど、向こうを3月29日金曜日で離任して4月1日月曜日からは東京勤務だって。その後国内の支店のどこかに赴任するらしいけど行き先が決まるまでは東京本店に籍を置くらしい」
「良かったじゃん。5年間のひとり暮らしだったからね」
「まあ、途中1年間母ちゃんと一緒だったけどね。というか、今私、実際問題として冬と同棲状態だし」
「別にそれは今までと一緒でいいんじゃない?」
「そうだよね。私、春以降は主としてマンションで寝泊まりしよう」
「今既にそうだと思うけど」
「そうかも知れん・・・・でもそれより、実家のお掃除しなきゃ!」
「・・・色々見られたらやばいものあるよね」
「うんうん。冬の緊縛写真とか、逆さ吊り写真とか、冬のヌードにボディペイントした写真とか、私たちの愛の記念写真とか、今となっては貴重なちゃんと立ってる冬のおちんちんが写ってる写真とか、女の子になったばかりの冬のお股を撮った写真とか、Hな道具とか、拷問の道具とか、医療器具とか・・・」
「まあ、確かにそういうの、あまり人には見られたくないね」
逆さ吊りなんてあったっけ?などと思いながらも私は答えた。
「高3の時は母ちゃんがいたから、あまり散らかしてなかったけど、その後の3年間、ひたすら放置してるからなあ」
「若干、ジャングル化しているエリアもあるよね」
「明日からお掃除作戦開始するよ!」
「えっと、私も参加するんだよね、その作戦」
「当然でしょ。私が先に緊縛写真とか見つけたら、ブログに貼っちゃうよ」
「それやると、みっちゃんがショック死するから」
「じゃ、冬も一緒にお掃除ね」
「はいはい」
と言って私は笑った。
そして、このお掃除大作戦で、私たちは行方不明になっていた貴重な譜面などを発見することになる。
翌1月14日(祝)。私と政子が早速、政子の実家で大掃除をしていたら、町添さんから私の携帯に着信があった。
「ね、ね、ケイちゃんさ、*KB商法って嫌い?」
「嫌いです。あれはファンを消耗させる売り方です。個人的に*KB自体は好きですよ。特にフレン*キスは好きで彼女たちのCDは全部買ってます」
「へー。それでさ、うちも*KB商法をしてみようかと思うんだけど」
「えー!?」
「お話としては、ローズ+リリーの第2ベストアルバムを作りたいんだよね」
「ああ!」
「それで、その収録曲目を投票で決めようと」と町添さん。
「それで、その投票券をCDに付けようとか?」と私。
「正解」
「最初単純なネット投票にしようと思ったんだけど、重複投票を防ぐ手が無いでしょ」
「まず無いですね。意図的な票の操作が誰にでもできます」
「それで、CDに入ってる投票券で投票されたら、かなり抑制できると思うの。ローズ+リリーのファンは*KBのファンみたいに1人で100枚買って投票しようってほどまでしないでしょ?」
「・・・・私が大学生になってから知り合った友人で、高校時代に『甘い蜜』
を100枚買ったって人を知ってますが」
「そんな人がいるのか!?」と町添さんは本当に驚いたようであった。
「でもあれは、私たちの復帰を求めての行動ですからね」
「だろうね」
「今はそこまでの人はそういないと思いますよ」
「そういう訳で、4月頭くらいに発売する予定の次のローズ+リリーのシングルに投票券を封入して、その投票結果を受けて5月に制作して、6月にも発売しようかと」
「了解です。音源は全て既存音源ですか?」
「2010年以降に収録したものについてはそのまま使おうと思う。高校時代に収録した曲がランクインした場合は、録り直しを考えたい」
「そうですね。私もあまり古い録音は出したくないです。ただ、『遙かな夢』
『涙の影』は当時の録音をそのまま使った方がいいかも。逆に今の私たちにはああいう歌い方ができないから」
「確かにそれは言えるね」
「ということで、4月頭に発売するということは、2月中に音源制作を終えないといけないから、次の曲よろしくね。あ、これ上島君にも既に伝えてあるから」
「分かりました。でも、多分それに使いたい曲は既にあります」
「おお、さすが。今聴ける?」
「はい。マリ歌うよ」
「あ、うん。最初の音を頂戴」
私がその曲の最初の音を「アー」で教えてあげる。
「じゃ、1,2,3, 」
とカウントして、私たちは『言葉は要らない』を歌い始めた。
何の曲かということを言わなかったのに、ちゃんと同じ曲を歌い始められたことで、私たちは微笑んだ。
歌い終わってからキスをする。
「いい曲だね!」と町添さんの声。
「ありがとうございます」
「ところで今ケイちゃんとマリちゃん、キスしなかった?」
「どうして分かるんですか?」と政子が驚いたように言う。
「僕は超能力者だからね、君たちの姿がクレヤボヤンスで見えるんだよ」
と町添さん。
「凄!」
電話を切ってから政子は「今日は愛がたっぷりあったね」と言った。
「そうだね」と言って、また政子にキスする。
「じゃ、今から私を7回逝かせて」
「はいはい」
私たちは部屋の片付けを中断して寝室に行った。
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【夏の日の想い出・3年生の冬】(3)