【夏の日の想い出・キャンプの想い出】(1)

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ボクが◆◆高校を受験したのは、ひとつには町のタピオカドリンクのお店でお茶を飲んでいた時に近くの席にいた女の子たちのたちの会話で◆◆高校という名前が出て来て、ああそういう学校もあったなと思ったことと、もうひとつは高3の時に失恋した相手が※※高校に行くふうだったので、そこと違う高校にしてお互いに顔を合わせたりしなくてもいいようにしたかったからだった。あの失恋はボクにそんなことをさせるほど大きなものだった。
 
無事その◆◆高校に合格して、オリエンテーションの一貫でクラブ活動の紹介があった時、書道部の人がステージ上に数人の部員で大きな紙を広げ、そこに筆で「熱烈歓迎」という文字を書いたのを見て、ボクはちょっと興味を感じた。ボクは芸術の授業で音楽を選択したので、どこかで書道もしたい気分だったので、部室になっている化学教室に行き、入部手続きをした。『1年5組唐本冬彦』と書くと、そばにいた女の子が
「珍しい苗字ね。からもと?とうもと?」と訊く。
 
その子は例のタピオカドリンクのお店にいた子だった。ああ、この子も無事合格したんだなと思う。
「『からもと』だよ。そちらは、なかた?なかだ?まさこさんだったっけ?」
とボクは彼女の名札を見て、それからタピオカドリンクのお店で聞いていた名前を思い出しながら言う。
 
「あれ?私の名前知ってるんだ。苗字は『なかた』。どこかで会ったことあったっけ?」
「うん。ちょっとね。詩を書くんでしょ?」
「うん。詩は好き。あ、そうそう念のため最初に言っておくけど、私恋人がいるから」
と言って、ボクの次に入部手続きをし『1年3組中田政子』と書いた。
 
「あ、こちらも恋愛要素抜きで話せるほうが気楽。ボク小学校でも中学校でも女の子の友だちしかできなかったから、高校でもそんな感じになりそう」
「ふーん。なんか面白そうな人。じゃ、とりあえず握手」
と言ってボクと政子は握手をした。
 

政子は「恋人がいる」と言ったが、その相手が3年生で同じ書道部の花見さんであることはすぐ分かった。ふたりはよく話していたし、いつも隣同士の席にいた。しかしその一方で政子はボクともよく話をしていた。
 
「でも唐本君、あまり男の子っぽくないね」
「そうかな」
「女の子っぽいとか言われたことない?」
「別に無いけど」
ボクはこの高校では、同じ中学から来た子がほとんどいないのをいいことに、最初のころ、かなり猫をかぶっていたのだが、政子には本質を見透かされている気がした。
 
この時期、ボクは自分でも言っていたように男の子の友だちは全くできなかった。最初の頃、同じクラスの男子からいろいろ声を掛けられたりしたが、ボクは彼らとは全然話が合わないし、彼らがしばしば夢中になっているアイドルの歌はボクにとっては聞くに堪えない調子っぱずれの騒音としか思えなかった。それに彼らの放つ強烈な下ネタについていけないので、自然と距離を置くようになっていった。この時期、同じクラスの子で、何となく言葉を交わしたりすることがあったのは、当時は苗字で「渡海さん」「秋山さん」と呼んでいた仁恵と紀美香くらいであった。(ボクが男子のクラスメイトと仲良くなるのは2年生の時に同じクラスになった佐野君が最初である)
 
ボクたち書道部が使っている化学教室には、しばしば科学部の人たちも入ってきていた。科学部は物理教室を本拠にしているのだが、その日する実験によっては化学教室のほうもけっこう使うのである。琴絵との出会いは強烈だった。
 
その日科学部の人たちが書道部の方と少し離れた場所で薬品を使った実験をしていたのだが、「うっ」という低いうめき声を上げた子がいた。ドドドっと水道の所に走って来て、口の中をすすいでいる。
 
「どうしたの?」とちょうど近くにいたボクは声を掛けた。
「びっくりしたー。硫酸をメスピペットで吸い上げてて、うっかり口の中まで入っちゃった」
「大丈夫?」
硫酸と聞いてボクはびっくりして訊く。
「あ、平気平気。洗えば問題無い」
 
それから彼女とは何となく時々言葉を交わすようになったし、書道部も科学部も混ざっての雑談がひたすら続いていくようなこともしばしばあった。当時は彼女のことも苗字で「山城さん」と呼んでいた。ただ彼女とはこの時期はまだ「知り合い」に近い感覚で、「友だち」感覚になっていくのは、2年生になって同じクラスになってからである。
 

書道部の活動はのんびりしたものであった。
 
顧問の先生ものんびりしていたが、部長さんものんびりしていた。特に何か大きな大会に参加しようとかいうこともなく、部活の時間帯にも大半はおしゃべりをしていて、書きたい人は半紙に毛筆で何やら適当に書いている、というきわめて適当な活動をしていた。生徒会からの部費支給なども「特に何も使わないし」
などといって辞退していたほどである。
 
一応ボクは習字の道具を持って部室に行くのだが、政子や他の女子部員と一緒にひたすらおしゃべりをしていた。
「あ、今日は何も書かなかったね」
と言って17時頃解散して帰宅する、などというパターンも多かった。しばしばそのおしゃべりの輪に、科学部の琴絵たちも加わっていた。
 
そんなのんびりした部なのに、この年は部員が3学年合わせて20人ほどいたが、毎日出てくるのは、部長の谷繁さん、花見さん、政子、私、それに2年の静香さんの5人くらいで、それに1年の圭子・理桜も週に3回くらい出てくる感じであった、この7人の場合、なんとなく、谷繁さんと花見さん、私と政子と静香さん、圭子と理桜、という感じで会話の輪は3つに別れることが多かった。時々花見さんが政子に声を掛けるが、会話はあまり続かない雰囲気だった。
 
入学当初は政子は花見さんにピタリとくっついていることが多かったのだが、5月頃以降はそれほどでもない感じになっていた。ボクは少し心配して
「花見先輩のそばにいなくてもいいの?」と訊いたりしたが
「ああ大丈夫。日曜日にデートとかしてるから」と言う。
 
当の花見さんは、ボクが政子とよく話しているので、なんとなく嫉妬に似た視線をこちらに送ってくることがよくあったが、気にしないことにしていた。
 

ボクは中学3年の頃、半ば成り行きで男子生徒として振る舞い続けるのか、それとも自分の性格をカムアウトして女子生徒として通学したいと主張するかというのを悩んでいたのだけど、高校では取り敢えずは普通の男子生徒の振りをしていた。しかし高校では中学の時以上に男女の生徒の扱われ方に差があり、それがこの時期ボクにはけっこうストレスになっていた。
 
高校に入ってすぐにボクは応援団のリーダーに指名されてしまった。ボクは中学の時陸上部にいたし、運動部の経験者なら行けるのではと担任の先生に思われてしまった感もあった。しかしボクにそんなものが務まる訳がなかった。
 
応援団の練習に1日だけ参加したものの、その純然たる「男の世界」はボクの頭をクラクラとさせた。そこで担任の先生の所に行き、御免なさい、ボクには無理ですと言って、やめさせてもらった。「チアガールならやってもいいですけど」とボクが付け加えると、先生は冗談だと思って、笑っていた。
 
体育の時間、ボクは男子のほうでラグビーとか野球とかをしていたが、遠くで女子たちがダンスをしていた。当時はボクはそれをただ憧れのように見ているだけだった。1年生の間は男子だけに格闘技が課されていて、ボクは柔道を選択していたが、ボクは腕力とかほとんど無いのでひたすら他の子に投げられ押さえられていた。ただ、途中から他の男子たちが明らかにボクに寝技や押さえ込み技を掛けるのを避けるようになってきたのを感じていた。そこでボクは1学期の後半あたりからはひたすら投げられていた。
 
体育の授業では、1学期の末頃に水泳の授業があった。ボクはこれを全部見学させてもらった。まだまだこの時期は自分の性別意識が大きく揺れている時期ではあったけど、自分は男ではないという気持ちが少しずつ強くなってきていた。それで男子用の水泳パンツを穿き、おちんちんの形もハッキリ見えるような状態を他人の視線に晒すのは、とても耐えられない気分だった。
 
この時期、ボクはまだ男子トイレを使っていたが、基本的に個室しか使っていなかった。自分は女だという意識が強いので、女の子には存在しない器官を利用して小便器でおしっこをするというのは、許せないことであった。この時期、下着は女物を着けていることもあれば男物を着けている日もあったけど、男物の下着を使っていても、ブリーフの前開きは決して使用しなかった。ボクはしばしばその前開きを糸で縫って閉じていた。
 

どうにも辛い気持ちになった時は、ボクは中学の時の陸上部の先輩である絵里花の家に行って、女装させてもらって数時間を過ごすこともあった。
 
「そうだ。インターハイ出場、おめでとうございます」
「ありがとう。でもまだ出るだけだからね。そこで上位に食い込めるかだよね」
「でも都大会では高校新記録で優勝でしょう。もうこのまま日本一ですよ」
「うん。でも実際のレースでは駆け引きがあるからね。それがうまい子が出てくるのがインターハイだもん」
「絵里花さんなら行けるって」
 
「だけど冬子、雰囲気がずっと変わらないね」
「え?そう?」
「去勢してないよね?」
「してません。女性ホルモンとかも飲んでません。あの時以外は」
とボクは少し微笑みながら言う。
 
「あの時か。。。。あれ冬子に謝らないといけないの」
「もしかしてあれ3錠とも偽薬だった?」と笑顔でボク。
 
「うん。。。。気付いてた?」
「後になって思った。絵里花さんがボクに本物の女性ホルモンを渡す訳がないという気がしてきた。でもあの時はもうこれで男の子辞めちゃったかも、という気持ちがボクを落ち着かせた」
 
「良かった。でも、何もしてない割りにはあまり男性化してないね。むしろ中学の時より女の子っぽさが増している感じ」
「高校に入っても予想通りだけど、友だちは女の子だけです。今比較的親しくいる子が3人くらいかな」
「ふーん」
「それから最近感じてるんだけど、体育で柔道やってて、みんなボクには、寝技掛けたり押さえ込み掛けたりしないんです」
「あはは、それは冬子を押し倒したら変な気分になっちゃうからだよ」
 
「何かボク・・・女物の下着が微妙に増殖してる。今パンティ5枚、ブラ3枚あるし」
「ふふふ。そのうちそれが4倍、8倍になるよ。学校に着けて行ったりする?」
「まだその勇気はない。でも、ボク水泳の授業は全部休んじゃった。男子の水泳パンツとかの姿を晒すのは耐えられない気分だったのと、ブラの跡が分かっちゃうかもと思って」
「あはは、ブラ跡があればもう男子水着にはなれないね。カムアウトしちゃう時期も近いかな」
 
「まだその辺り気持ちの整理はつかないけど、何となく高校3年間を男子高校生のまま過ごすことは無いんじゃないかという気がしてきてる」
絵里花は頷いていた。
「よし、今度はこっちの服着てみて」
「えー?今日4着目?」
「だって冬子は私の着せ替え人形だからね」
 
女装するのは別に絵里花さんの家だけではなかったものの、この家ではこうやって着せ替え人形にされるのが快感だった。
 

高校1年の時の授業でボクにとってオアシス的な存在になったのは家庭科の授業だった。調理実習にしても、被服実習にしても、ボクの腕の見せ所である。
 
「唐本君、包丁の使い方うまーい」
「すごーい、キャベツの千切りが美しい」
「よくそんなに細く切れるねー。スピードもあるし」
「大根のかつら剥きできる?」
「こんな感じ?」
「鮮やか〜」
「だってうちではボクとお姉ちゃんとお母ちゃんと3人で交替で御飯作ってるからね」
「へー。偉いね」
 
「お菓子とかも作る?」
「うん。クッキーとかマドレーヌとか、休みの日に作ったりするよ」
「わあ、凄い」
「中学の時好きな女の子にマドレーヌ焼いてきてあげたりしてた」
「・・・唐本君、それ男女が逆」
 
被服の方では1学期の最初は手縫いで雑巾を作ったが、ボクがすいすい縫っていると、「縫い目がきれーい」「縫うのが凄い速いね」などと言われる。
 
「手縫いでもミシンでも行けるよ。お姉ちゃんがコレクションしてるお人形に着せるお洋服とか、ボクが請け負って作ってるし」
「えー!?、凄いことしてるね!」
「人間の服はミシン使うけど、人形の服だと小さいから、手縫いの方がやりやすいのよね」
「人間の服って何を作るの?」
「パジャマとか縫ってるよ。家族全員分。今も今年の夏用のパジャマをせっせと縫っているところ」
 
「ね、唐本君、私のお嫁さんに来る気無い?」などと言ったのは仁恵である。
 

音楽の時間もなかなか楽しかった。ボクは「男の子の声」では下がG#2まで出る。音楽の時間の合唱であれば、バスのパートでも歌える(テノールはもちろん歌える)ので、先生からはバスを歌ってと言われたものの、テノールを歌いたいですと強く主張してテノールに入れてもらった。しかし実際には上がC5くらいまで出るので、この声でバス、テノール、アルトのパートを歌うことができた。更には裏声を使えばソプラノのパートも歌えるので、よくひとりで4パートを順に歌ってみせて「すごーい」と言われていた。
 
「でもアルトのパート歌う時は中性的な声になるね」
「うん。そこら辺はちょっと誤魔化しが」と言ってボクは笑う。
 
「本来ボクの声域はG#2からC5くらいなんだけど、F4くらいから上は自然に中性的な声質になっちゃうのよね。C4くらいからF4くらいまでが中間領域で、声の出し方次第で男性的な声にも中性的な声にもできる。だからC4からC5まではその声で歌えるんだけど、それより下はどうしても男性的な声になっちゃうところを微妙に誤魔化して、あまり男っぽくは聞こえないようにしてる」
 
(この付近の誤魔化し方がうまくなって「アルトボイス」の声域を確保できるようになるのは2年生の夏以降である)
 
「えー?分からなかった。でも、その中性的な声でふつうにしゃべることできる?」
と仁恵。
「こんな感じでしゃべるの?」
「おぉ!」と仁恵はとても喜んでいた。
 

やがて学校は1学期が終わり夏休みに入る。
 
8月の初旬、書道部のみんなでキャンプに行こうという計画が持ち上がった。部長の谷繁さんが、中学生までボーイスカウトをしていて、キャンプのような活動が好きということで、こういうイベントになったのであった。
 
電車で伊豆のほうの海岸に行き海水浴をして、その晩キャンプ地のバンガローに泊まり、翌日はバーベキューをして帰って来ようというコースである。参加者は14人。3年生が男子2人・女子2人、2年生が男子1人・女子2人、1年生はボク以外に男子2人・女子4人であった。
 
ボクはこの日は上は青と白のボーダーのニットのシャツ、下はライトブルーのサブリナパンツを穿いていた。靴は青いウォーキングシューズである。
 
「ねえ、ちょっと訊きたいけど、そのパンツはもしかしてレディース?」と政子。
「あ、これお姉ちゃんからサイズの合わなくなった奴をもらったの」
「ウェストいくつだっけ?」
「64だよ」
「細いね。。。というか。女性体型だよね」
「うん。昔からよく言われる。中学の時の友だちの女の子からは、これだけお尻が大きかったら赤ちゃん産めるよとか言われた」
「ああ。産めそう」
「そんなだから、ボク、メンズのズボンは合わないんだよね」
「確かにこの体型じゃメンズのズボンは無理っぽい」
「学校で穿いているズボンはウェスト79の学生ズボンを自分で補正してタック入れて自分のウェストサイズに合わせてる」
「そうか。唐本君、お裁縫得意だって言ってたね」
 
のんびりした旅なので、朝遅くに出発して、お昼は海水浴をする近くの町で小さな食堂に入った。長いテーブルに向かい合って座ったが、おしゃべりの輪がそのまま席につく形になったので、ボクの右隣が政子、左が静香先輩。ボクの前は谷繁部長で、政子の前が花見さん、静香先輩の前は2年の石川先輩だった。
 
部長がメニューも見ずに「トンカツ定食14個」などと、極めて適当に注文をする。メニューを見たがトンカツなんて載ってない。お店の人も一瞬戸惑ったようであったが「いいですよ。1人前500円でいい?」と注文を受けてくれた。この部長はいつもこういう調子なので、みんなは「まいっか」という雰囲気だった。
 
突然の大量の注文にも関わらずお店の手際は良く、ほんの10分ほど待っただけで、すぐに全員の前に御飯とお味噌汁と箸が乗ったトレイが配られ、千切りのキャベツの上に乗った揚げたての大きなサイズのトンカツが乗った皿がじゃんじゃん配られていった。
 
「わあ、美味しそう」と政子。
「なんか凄いボリュームだね」とボク。
「こんな大きいトンカツなのに定食で500円って信じられない!」と静香先輩。
 
おしゃべりをしながら食べていたが、その200gはあろうかという大きなトンカツをボクはとても食べきれなかった。
 
「もう、だめー。このあたりで限界」と言って、3分の1くらいトンカツを食べたところで箸を置く。
「あれ?もう食べないの?」と政子。
「うん」
「じゃ、もらっていい?」
「いいけど」
「わーい。もらっちゃおう」と言って政子はボクの皿を(空になっていた)自分の皿の上に置き、ボクが残したトンカツを食べ始めた。
 
その時、向かい側から花見先輩の鋭い視線が来たのを感じた。わあ、また嫉妬された。この手の視線を受けるのはしょっちゅうだった。ボクは政子がわざと花見先輩に嫉妬させてるんじゃなかろうかと思いたくなるほどだった。それでも、少なくともこの頃はボクと政子は純粋に友情で結ばれていた。それに正直、まだこの頃でもボクは中3の時の失恋の痛手から完全には立ち直っていなくて、とても次の恋などする気にはなれずにいた。
 

食事が終わってからバスで1時間ほど移動した所がボクたちの目指した海水浴場だった。
「きれーい」と声を上げる子が何人もいる。
 
「ゴミひとつ落ちてない」
「不便な場所だから、あまり人が来ないんだよ」と谷繁部長。
 
みんな更衣室に行って水着に着替える。しかしボクは更衣室の方には行かなかった。
 
「どうしたの?着換えないの?」と政子。
「あ、えっと。水着は着込んできたからここで脱いじゃう」
と言ってボクはニットのシャツを脱ぎ、靴を脱ぎサブリナパンツを脱いだ。
 
「そのTシャツは?」
ボクはトランクス型のだぼだぼの水泳パンツと、上半身にTシャツを着ていた。
「これはこのまま」
「それは脱がないの?」
「えっと・・・脱がない」
「泳げないじゃん」
「うーん。水泳苦手だから」
「ふーん」
と政子はボクを興味深そうに見ていたが、いきなりボクのTシャツの中に手を入れてきた。
「きゃっ」
と言ってボクは逃げる。
 
「何するの?」
「唐本君って、何か女の子っぽいなって前から思ってたのよね。上半身裸にならないってのは、何か見せたくないものがあるんじゃないかと思って、もしかして、おっぱいがあるのを隠してるんじゃないかと思って」
「そんなのある訳無い」
「うん。おっぱい無かった。残念。でももう1回入れさせてよ」
「何に触るのさ?」
と言いながらも、ボクは政子の手を受け入れた。政子はボクの脇に触った。
 
その時「お前ら何してんの?」という声がした。花見先輩だった。
わあ、また嫉妬されてると思う。これはかなり来てる。
 
「ちょっと遊んでただけよ。後でキスしてあげるから」と政子は花見先輩に言う。
 

みんな海に入って水を掛け合って遊んだり、泳いだりしている。でもボクは水には入らず、浜辺で座ってみんなの様子を見ていた。
 
「唐本君もおいでよ。泳げなくても水浴びくらいできるでしょ?」
と静香先輩が誘ってくれた。
「そうですね。それじゃ」
と言って、ボクは海に入り、女の子たちと水を掛け合ったり、ビーチボールを投げたりして遊んだ。
 
男の子たちは遠泳して沖まで泳いで行っている。
 
「唐本君、足の毛は剃ってるの?」と同学年の圭子。
「うん。何となくね」
「脇も剃ってるよね」と政子。
「うん。さっきはそれを確認したのね?」
「何?何?さっきって」
「中田さん、いきなりボクのTシャツの中に手を突っ込んでくるんだもん」
「おぉ」
「男の子が女の子のTシャツに突っ込んだら痴漢だけど、逆だからいいじゃん」
「ボクはやられたらやり返すポリシーなんだけど、さすがに控えた」
 
「唐本君、実は女の子なんじゃって気がしてさ。おっぱいをそのTシャツで隠してるんじゃと思って、それを確かめたんだけどね」
「おっぱいなんて無いよ」
「おちんちんはあるの?」と政子。
「えっと・・・あるけど」
「その水泳パンツ、中の形が分からないんだもん。そっちも触ってみようかと思ったけど、取り敢えず今日は控えた」
 
「彼氏のいる子は大胆だなあ」と圭子。
「でも私啓介とはまだHしてないよ」
「へー。意外と奥手なんだ、花見さん」と静香。
「したいと言われたけど拒否したもん」
「えー?なんで?」
「結婚するまでは許さないの」
「今時、そんな古風な子はいないよー」
「ここにいるもん」
 
その時「助けて!」という声がした。同学年のカオルだ。
 
見ると、浮き輪を付けてはいるものの、どんどん岸から離されて行っている。離岸流だ!
 
ボクはほとんど反射的にそちらに向かって走って行くと、ある程度の水深になったところから、まっすぐにカオルのほうに向かって泳いでいった。かなり近づいた所で立ち泳ぎして、彼女に向かい「今助けるから落ち着いて!」と言う。カオルが頷く。それでも用心して彼女の後ろのほうから回り込む。そして沖に向かって流れている、カオルの長い髪をつかんだ。
 
「ちょっと痛いかも知れないけど我慢して」と言うと、ボクは彼女の髪をつかんだまま、岸と平行に泳ぎ出す。30mくらい泳いだかなと思ったところで立ち泳ぎしてみる。うん。離岸流からは出たようだ。
 
そこでボクは改めて、彼女の髪をつかんだまま、岸に向かって泳ぐ。だいたい7〜8分くらい泳いだところで足のつく所まで到達した。他の女の子たちが駆け寄ってくる。
「大丈夫?」と静香が訊く。
「うん。何とか」と顔色が悪いもののカオルはしっかりした口調で答えた。
「村沢先輩、ちょっと彼女を見てあげてもらえます?」
「うん。任せて。カオル、ちょっと向こうで少し休もう」
と言って静香はカオルを連れて更衣室の方に歩いて行った。
 
政子が「嘘つき!」と笑顔で言った。
「誰?水泳が苦手なんて言ったの?」
「あはは、いいじゃん。結果オーライだよ」
「私に恋人がいなかったら、キスしてあげたい感じだな」
「あ、ボク他の男子が戻ってくる前に着換えてくる。そろそろ時間だろうし」
 
と言うと、ボクは荷物を持って男子更衣室に行き、シャワーを浴びてから濡れた水着とTシャツを脱ぎ、身体を拭いて、ふつうの下着を着け、またニットシャツとサブリナパンツを身につけた。表に出て来たところで遠泳に行っていた男子がぼちぼち戻って来ていた。
 
やがて谷繁部長も戻って来たが、話を聞くと
「それは良かった。しかし唐本、そんなに泳げたんだ!」
「ええ、まあ」
「それなら俺たちと一緒に遠泳に来れば良かったのに。あ、でも唐本が残ってたから、木島も無事だったんだもんな」
 
やがてカオルと静香がふつうの服に着替えて女子更衣室から出て来た。
「唐本君、ありがとう」
「ううん。無事で良かった。もう大丈夫?」
「うん。もう元気になった」
 
もうこれで上がってキャンプ地に行こうということになった。
 

キャンプ地ではバンガローを使うことになっていた。バンガローは定員5人で3つ借りている。ボクを含めて男子が6人、女子が8人いるので、男子6人は定員オーバーだが1つのバンガローに押し込み、女子が3年と2年の4人でひとつ、1年の4人でひとつ、使うことになっていた。
 
今日の夕飯はカレーである。1年の女子4人で調理することになっていたが、政子から「唐本君も頭数に入れておいたから」と言われて、引っ張っていかれた。「あ、唐本君、包丁さばきが凄いって聞いた。見てみたい」と理桜。
「あ、カオルは見学しておくといいよ。まだ血圧上がらないでしょ」
「うん。ごめんねー」
「その分、唐本君連れてきたんだから」と政子。
 
「OK。お野菜もお肉もじゃんじゃん切っちゃうよ」
とボクは言って、ジャガイモの皮をどんどん剥いて行った。それを圭子が隣で食べやすいサイズに切っていく。政子が別のまな板を使ってタマネギを切り、どちらもどんどんお鍋に入れていった。理桜はお米をといで炊飯器に入れる。バンガローのコンセントが使えるので、御飯はハンゴウなどは使わず、素直に電気炊飯器である。
 
ジャガイモが終わるとボクはお肉の塊をカットしていく。政子はニンジンの皮を剥いて切っていく。味を染みこませるためにカレールーを4かけら入れて煮込み、ボクは丁寧にアク取りをして行った。
 

「でも噂通りの包丁さばき。ジャガイモの皮むきも上手だったね」
「ふだん家ではピーラー使うんだけどね。包丁でも行けるよ。姉ちゃんが後片付けするとしばしばピーラーを自分でも思い出せない所に入れちゃうんだよね。すぐに見つからないと仕方ないから包丁で皮剥くから」
 
「そうか、うちで交替で御飯作ってると言ってたね」
「うん。ボクが小学3年生の時から3人での交替制になった。最初はカレーとかおでんとか、割とシンプルなのしか作れなかったけど、レパートリーは増えたね。ジャガイモの皮むきとか、お刺身切ったりとかは小学1年生の頃からよくしてたから、それ以前に料理の基本はたたき込まれていた感じかな」
 
「でも上にお姉さんもいるのに、弟にも料理を教えるって面白いね」
「というより、ボク自身が料理したがってたから。小学1年の時、玉子焼きがなかなかうまく出来なくて、悔しくて毎日作ってたからね。それでこの子には色々教えてあげようと思ったんだって、お母ちゃん言ってた」
「いいお嫁さんになれるようにかな」と政子。
 
「それ、しょっちゅう言われるんだよねー。うちでも。いいお嫁さんになれるよとか、お嫁さんに行きたくなったら女の子になっちゃってもいいからねとか」
「唐本君って、男の子の友だち作らないよね」
「うん。ボクって幼稚園の時から友だちは女の子ばかり。男の子の友だちって出来たことない。でも小学校の4年生の頃は転校したこともあって最初なかなか女の子たちとも話しにくくて」
「ああ、その時期ってそもそも男女の意識が出てくるもんね」
 
「うん。あの時期がいちばん孤独だったよ。次第に話せる女の子はできていったけど。その後、中学になると陸上部に入ったから、その陸上部で一緒になった女の子たちとも友だちになれたしね」
「やっぱり女の子なのか!」
「男の子とはあまり話さないの?」
「うーん。話が合わないんだよね。何だか」
 
「男子が下ネタ言ってると、唐本君ってなんか下向いてたりするよね」
「下ネタ苦手〜」
「オナニーするの?」と突然政子。
「えーっと・・・」
「あまりしないんでしょ?」
「うん、まあ。たぶん他の男の子よりは頻度低いと思う」
「ふーん。することはあるんだ」
「一応健全な男子高校生のつもりではいるけど」
「健全な女子高校生ってことはないよね」
「あはは・・・・」
 
「ねえ。女装したりしないの?」と圭子。
「そんなのしないよー」
「なんか私、唐本君に女装させてみたくなった」と理桜。
「というかさあ、そもそも唐本君が今穿いてるズボン、レディースだし」と政子。
「お姉ちゃんが着れなくなったのをもらったんだよ。ボク、メンズのズボンがサイズ合わないんだ」
「それウェストいくつ?」
「64だよ。ボク、ウェストは64でヒップは94だから、学生ズボンは79のを買って自分でタック入れてウェスト64に改造して穿いてるんだ」
 
「64って、私より細いじゃん」と理桜。
「ね、スカート穿いたこと無いの?」とカオル。
「無いよ」
「穿かせてみたいね」と圭子。
「えーっと」
「唐本君、足の毛剃ってたね。スカート穿くのかなとか思った」
「うーん」
「御飯、終わってから、女子のバンガローに来ない?女の子の服着せてあげるから」と政子。「着たことないなら一度着てみてごらんよ。どうもさ。唐本君、私の服が合いそうな気がするのよね」
 
「ああ、体型近いよね。政子もかなり細いもん」
「うん、着せてみたい、着せてみたい」
「じゃ、決まりね。御飯が終わった後、唐本君は自分の荷物を持って女子のパンガローに来ること」と圭子。
 
「なんで荷物まで持っていくのさ?」とボク。
「荷物チェックするに決まってるじゃんねー」と理桜。
「えー?」
「実は女の子の服を隠し持ってないかのチェックよね」とカオル。
「あはは・・・・」
 

夕飯のカレーは美味しい美味しいと好評であった。御飯は予め1升、追加で5合炊いたのだが、全部無くなり、カレーもきれいになくなった。御飯の後、肝試しをやろうということになる。最初に脅かし役を男子6人でくじ引きしたら花見先輩と石川先輩が当たった。政子が花見先輩に頑張ってねーと手を振っている。花見先輩は政子と一緒に歩きたかったようで、名残惜しそうな顔をしてコースの方へ行った。
 
「じゃ、唐本君、私と一緒に行こうね」と政子はボクの手を取った。
「ああ、また嫉妬されそう」
「いいの。いいの」
 
適当に組んでいたら自然とペアができたので、それで順に歩いて行くことにする。谷繁部長と静香先輩のペアを先頭に2分間隔で出発した。ボクと政子は4番目に出発した。
 
「ね。時々思うんだけど、中田さん、花見先輩の嫉妬を煽ってない?」
「ふふ。その分デートの時優しくしてくれるからいいのよ」
「はいはい。ごちそうさま。でも、花見先輩がこの高校だったから、ここを受けたの?」
 
「あまり関係無いな。私、中学の時ほとんど友だちいなかったからさ。どうせなら他の子がほとんど行かない学校を受けようと思ったんだよね。それでね、どこにしようかなと思ってた時、何か凄く可愛い女子高生を町で見かけて」
「へー」
「その人がここの制服着てたから、ああここに行きたいって思ったの」
「一目惚れ?中田さん、女の子が好きなの?」
「ああ。私バイだなと思うことあるよ」
「へー。ボクもバイかも」
「ふーん。。。。むしろ唐本君、恋愛対象は男の子なのかと思った」
「うーん。初恋は男の子だけど、中学の時は女の子の恋人いたよ」
「へー、意外」
「でも受検の直前に別れちゃって。彼女と違う高校に行きたかったからここを受けたんだよね。だからうちの中学からここに来たのも3人しかいない」
「ふーん」
 
ボクはここに決めたきっかけが政子がタピオカドリンクのお店でここの名前を言っていたからだとまではさすがに言わなかった。
 
「でもその可愛い女の子の先輩とは会えた?」
「それが私と入れ替わりに卒業しちゃったみたいなのよね」
「ありゃあ、残念だったね」
「仕方ないから、誰か可愛い女の子がいないかなと物色してるんだけど」
「花見先輩と付き合ってて、他に女の子の恋人とかも作っていいの?」
「バイの人にはさ。男でも女でもいいから1人恋人を作るタイプと、男女1人ずつ恋人を作るタイプがいると思うの。私は後者だという気がする」
「でもそれ嫉妬されない?」
「されるだろうね」と政子は笑った。
 
会話をしながら歩いていたら、どうも道を間違えたようである。
 
「あれ?ここ道じゃないみたい」
「うーん。適当に歩いてたら、道に出るよ」と政子。
 
そんなことを言いながら歩いていたら、何かにぶつかった。
「きゃっ」と言って政子がボクにしがみついた。
「わっ」と言ってそのボクたちがぶつかった『もの』が段差の下に落ちていく。それで初めてそれが人であったことに気付いた。
「大丈夫ですか?」とボクは下の方に向かって声を掛けた。
その人物が腰をさすりながら立ち上がってこちらに懐中電灯を向ける。こちらも街灯の明かりで向こうの顔を認識した。
「花見先輩!」
「こらぁ、政子そいつから離れろ!」
「妬かない。妬かない。ちゃんと後で物陰でキスしてあげるから」
「だいたい、何でお前ら、そんな所から出て来るんだよ」
「ああ、ちょっと道間違えたみたいです。ごめんなさい」
 

肝試しの後は各々のバンガローに戻って24時前には寝ようということになる。ボクは女子たちから呼ばれているので行ってくるというのを部長に言っておきたかったのだが、部長と花見さんとでどこかに行ったようで見あたらなかった。そこで石川先輩に伝言してから、行くことにした。
 
「いいけど、お前最後に帰ってきたら床で寝ることになるぞ」
「はい。大丈夫です。暖かいし」
 
男子のバンガローはベッドが5つしか無いのに6人寝るので、じゃんけんで負けた人が床に寝ようなどと言っていたのだが、3年生のふたりはどこかに出ているし、1年生の他の2人も何か欲しいものがあると言って、さきほどタクシーを呼んでふたりでコンビニのある所まで行ったようであった。それで今男子のバンガローには石川先輩がひとりで残っていたのである。
 
着替えなどの入っているスポーツバッグを持ち、1年女子のバンガローを訪れる。
「こんばんはー」
「おし。来たね」
「来たということは、解剖されて、女装させられることに同意したということだよね」
「えー?解剖されるの?」
「まあ、それは勘弁してあげるか」
 
「荷物見せてもらっていい?」と政子。
「いいよ。男物の服しか入ってないけど」
 
海水浴で使った水着とTシャツを他のを濡らさないようにビニール袋に入れたもの、着替えのシャツとブリーフ、明日着るためのポロシャツ、それに歯磨きセットとタオル、ティッシュ、レポート用紙と筆記具くらいであった。
 
実は最初はこっそり女の子の下着つけようかと思い、ショーツとキャミも入れていたのだが、出かける直前に思い直して外したのである。外しておいて良かったと思った。
 
「つまんないなあ」
「絶対ブラジャーとかスカートとか入っていると思ったのに」
「あはは、そんな趣味は無いよ」
「よし。そういう趣味を覚えてもらおう。これ着てみて」と政子がボクに可愛いフリルのついた伽羅色というのだろうか茶色の明るい感じの色のチュニックと黒い膝丈のプリーツスカートを渡してくれた。
 
ボクはそれを受け取ると、今着ているニットシャツとサブリナパンツを脱ぎ、チュニックをかぶって、プリーツスカートを穿いた。
 
「ウェストきつくない?」
「うん。全然問題無い。指少し入るし」
「くそー。私少しダイエットしようかな」と政子。
「政子のダイエットって、御飯を5〜6杯食べるところを3〜4杯に控えるとか?」
と理桜。
「うーん。御飯は私そんなにたべないよ。ステーキを300g食べるところを200gにしておく感じかな」
 
「だけど、全然違和感無いね、唐本君。いや唐本さんと言うべきかな」と圭子。「冬子ちゃんでいいんじゃない?今夜は」と政子。
「別にいいけど」とボクは笑って言う。
 
「ちょっとこっち向いてみて」と理桜。
「わあ、可愛い」
「ねえ、ほんとにスカート穿いたこと無かったの?」
「ええ?初めてだよ」
「それにしては似合ってるよね」とカオル。
 
「なんかもっと本格的に女の子させてみたくなったな。眉少し削ってもいい?」
「え、よく分からないけどいいよ」
「よし」
 
政子は自分の荷物から化粧ポーチを取り出すと、ハサミを使ってボクの眉を切っていく。更にローションを付けてカミソリで短い毛を削っていった。
「ちょっと顔洗ってきて、そこの洗面台で」
「うん」
 
ボクは洗面台で顔を洗い、タオルで拭いた。
 
「わあ、かなり女の子っぽくなった」
「このまま女の子で通るよね」
「うんうん。やっぱり唐本君、というか冬子さんだっけ?男の子でいるのはもったいないよ」
「女の子になりたいとか思ったことないの?」
「別に無いけど」
「女の子だったら良かったのにとか言われたことない?」
「あはは、それはたくさんある。お母ちゃんからもお嫁に行けるねとか言われるしね」
「ああ、夕飯作る時にそんなこと言ってたね」
 
「やっぱりこれは性転換推奨だよね」
「うんうん」
 
「ね。女の子下着持ってないの?マジで」
「そんなの持ってないよ」
「じゃ、今夜は私の下着貸してあげるから、付けてみない?」と政子。
「えー!?」
 
「やっぱりスカートの下に男の子パンツというのは、いただけないよね」と圭子。
 
政子は自分の荷物の中から、パンティとブラジャーとキャミソールを出して来た。
 
「冬子私と仲良しだから私の下着付けてもいいよね?」
「ボクは構わないけど、中田さんいいの?」
「今夜は女の子同士だから政子と呼んで。他の子も名前で呼んでいいよ、ね」
他の3人も頷いている。
「じゃ、政子、構わないの?ボクが着ても」
「うん。大丈夫。啓介なんて時々私のパンティ勝手に持ってってるし、そういうのには慣れてるから」
「わっ」
 
ボクはスカートの中に手を入れてブリーフを脱ぐと、政子から渡されたショーツを穿く。Mサイズだ。ボクは玉を体内に押し込み、棒は下向きにしてショーツをきっちり上まで上げた。
 
上着をいったん脱ぎ、シャツも脱いでからブラジャーを付ける。ブラのサイズを見るとC70である。余裕で入るはず。ボクは肩紐を通した。
 
「あ、もしかして脇毛も剃ってるの?」とカオル。
「あ、うん」
「後ろのホックは留めてあげるね」
と政子は言ってボクの後ろにまわり、ホックをはめてくれた。
「おお。ピッタリだ。ホントに冬子って私とサイズが同じだね」
 
ボクは自分でブラのホックははめるつもりだったのだが、政子がやってくれたので、そうか!ここで自分ではめていたら、ブラ付けたことあるでしょ?と言われるところだったというのに思い至り、心で冷や汗を掻いた。それと、照明があまり明るくないので、ブラ痕は分からなかったようである。
 
更にキャミソールをかぶって着て、その上にまたチュニックを着た。
 
「下着を女の子のに替えただけなのに、雰囲気がまた女の子っぽくなったね」
「うんうん。女の子のオーラが出てるよ」
 
「ね、今夜はこのままここにずっといない?」
「えー?それは叱られるよ」
「だって、冬子は女の子だもん。男の子のパンガローでは寝られないよね」
「えっと」
「それに向こうは1人ベッドが足りないんでしょ?こっちはひとつ余ってるからちょうどいいじゃん」
「ねー。明日もずっとその格好でいない?」
「えー!?」
「うん、それがいい、それがいい」
「あはは」
 
「本人嫌がってないよね」
「まんざらでもない気分になっていると見た」
「もう女装が癖になる3歩手前くらいだね」
 
そういう感じで、ボクは結局そのまま女の子の服を着てバンガローのベッドに腰掛け、彼女たちと夜中までおしゃべりすることになったのであった。
 

0時過ぎた頃、トントンとノックがある。
「はーい」と言って政子がドアのところに行き「どなたですか?」と声を掛ける。
「あ、政子か。俺だけど。唐本がこちらに来てない?」
「ああ。冬ちゃんなら今夜こちらに泊めるから」
「何〜?ちょっとここ開けろ。引っ張っていく」
「だめだよ。そんな乱暴なことしちゃ。本人をちょっと見てみて」
と言って政子はドアを開けた。
 
ボクは花見先輩にペコリと会釈をする。政子がボクの手を取り
「冬ちゃんだよ。可愛いでしょ」と言った。
「え?唐本なの?」
ボクはコクリと頷く。
「冬ちゃん、女の子には興味無いからこちらのバンガローに寝ても大丈夫だよね?」
「ええ。私、恋愛対象は男の子だから」
などとボクもノリで言う。(あれこれ突っ込まれたくないので女声は使ってない)
 
「うん。まあ、そういうことならいいか」
と花見先輩は言い、帰って行った。その後再度谷繁部長が確認しに来たが、ボクの姿を見て「唐本って、そっち系統だったのか。了解」と言って戻っていった。ボクは何か重大な敷居を越えてしまったような気がした。
 
部長が戻っていった後、やはりそろそろ寝ようということになる。みんなで一緒にトイレにいくことになった。ぞろぞろと5人でトイレに行く。あれ?待てよ。
 
「もしかしてボクも女子トイレに入るの?」
「その格好で男子トイレには入れないよね」
「冬子、可愛いからOKだよ」
「あはは、まいっか」
 
個室が3つしか無いので、先に圭子と理桜とカオルが入り、ボクと政子が待った。「ね、女子トイレ初めてじゃないよね?」と政子が小声で言った。
「初めてだよ」
「嘘。だって、凄く落ち着いてる」
「えっと」
 
その時、政子が突然ボクのお股に触った。
「何するの?」と小声で言う。
「やっぱりおちんちん無い」
「隠してるだけだよ」
「ほんとかなあ。ま、いいや。そのあたりはゆっくり追求していこう」
 
やがて圭子と理桜がほとんど同時に出て来たので、ボクと政子も個室に入った。ふっと息をつく。パンティを下げ、スカートをめくって便座に腰掛ける。女子トイレに入ったのは、3月に卒業式の翌日、中学の女子制服を着て町に出て、Sと会った時以来だなと思った(公式見解では)。個室で座っておしっこするのって、何だか落ち着くよなという気もした。
 
おしっこが終わってトイレットペーパーで拭き、また玉を体内に押し込み棒を下向きにしてショーツを上まできっちり上げた。スカートの乱れを直し、流してから個室を出る。圭子と理桜とカオルが待っていたので手を振る。手を洗ってハンカチで拭いた。政子も出て来て手を洗った。みんなでバンガローに戻る。
 
「冬ちゃん、女子トイレ初体験どうだった?」と理桜。
「うん。なんか落ち着くね」
「ずっともうこちらに来ない?」と圭子。
「そうだなあ・・・それもいい気がするなあ」
「かなり女の子になりたい気分になってない?」とカオル。
「少しだけ」
とボクは笑って言った。
 

翌朝は1年女子のバンガローで御飯を炊き、朝御飯用におにぎりを作った。2〜3年女子のバンガローの方ではお味噌汁を作ってくれている。
 
「冬子きれいに三角おにぎり作るね」
「丸いのできる?」
「こんな感じかな」
「ね、ね、俵型は?」
「それも行けるよ」
「すごーい。やっぱり冬子がいるのといないのとでは戦力が全然違う」
「うん。男子から女子にトレードしてきておいて良かったね」
「ボク、トレードされたの?」
「そうそう」
「なんなら2学期から女子制服で通学してこない?」
「あはは、いいかもね」
 
なりゆきでボクは女の子の服のまま、朝御飯の席に行った。この姿を初めて見た2-3年の女子や、1-2年の男子から「わあ、可愛い」とか「似合ってる」
などという声が掛かって、ボクは嬉しくなった。ああ、もう本当にカムアウトしちゃおうかな、という気分になってくる。
 

御飯が終わった後はしばらく自由時間となる。谷繁部長は矢立を持ってきていて、毛筆で何か俳句のようなものを書いていた。そうか。うち書道部だったっけとボクは今更ながら思い出した。静香先輩がその傍に座って何やら話している。このふたりは昨夜の肝試しも一緒に歩いたし、カップル成立しかかっているのかな?とふと思った。花見先輩と政子は一緒にどこかに散歩に出かけた。せっかくキャンプに来たのに、あのふたり全然一緒にいる所を見なかったので、このお散歩で花見先輩の気持ちも少し満たされるかな?などとチラッと思った。圭子と理桜とカオルは2年の洋子先輩と一緒に広場でフリスビーをしていた。1年の男子2人と石川先輩は川で魚釣りをすると言っていた。3年の女子2人はバンガローに籠もっておしゃべりをしているようである。
 
ボクはまだ女の子の服を着たままだったが、広場の隅に座り、フリスビー組と谷繁・静香ペアの様子を見ながら、ぼんやりとしていた時、突然ある衝動が込み上げてきた。
 
荷物を置いている1年女子のバンガローに戻る。荷物の中からレポート用紙と筆記具を取り出す。ああ、ここにピアノが欲しい!そう思った時、ボクはふと携帯で何かできないかなと思った。携帯のアプリ検索で「ピアノ」というのを検索してみる。幾つか引っかかる!取り敢えず使えそうな感じのするものを1個ダウンロードした。使ってみる。うんうん。何とか行ける。
 
ボクはレポート用紙の罫線の間に定規で1本線を加える感じで、3本の罫線に2本中間線を入れて簡易五線紙を作り上げた。携帯に今ダウンロードしたピアノのアプリを使って音を探しながら、五線紙にこの春に入学祝いでもらったお金で買って気に入っているボールペンを使い、音符を記入していく。
 
おそらく30分くらいやっていたろうか。譜面は完成した。ああ、これに何か歌詞を付けたいなと思う。でも何も浮かんで来ない。ボクは気分転換にレポート用紙とボールペンを持ったまま表に出て、広場の隅の先程座っていた椅子に座った。フリスビー組はまだ遊んでいる。谷繁部長は矢立を使うのはやめて、ただ静香先輩と楽しそうに何か話していた。そこに遊歩道の方から花見先輩と政子が戻って来た。花見先輩が満足そうな顔をしている。政子が満足させて来たなと思い、つい微笑む。そのボクに政子が気付いて手を振った。瞬間また花見先輩の嫉妬する顔。もうやめてよね、ふたりの仲のダシにするのは、などとも思った。
 
その瞬間、ボクは歌詞が書ける気がした。ボールペンを取り出し、新しいレポート用紙にどんどん詩を書いていく。次から次へと言葉が浮かんでくる。こんな体験は初めてだった。書いている内に、花見先輩と政子がこちらにやってきた。
「やっほー、冬子。何書いてるの・・・ってぽえむ?」
「うん。さっき突然曲が浮かんでそれ、こちらに書いたんだけど、それに付ける歌詞が欲しくて。ぼーっとしていたら、今政子を見た瞬間、歌詞が浮かんできたんだ」
「へー。。。。。わっ、何だかこれ私が書くようなポエムだ」
「もしかしたら政子からイマジネーションの塊をもらったのかも」
 
「ああ、割とそれあるかも。私、エネルギーの放出型なのよね」
「へー」
「オーラとか分かる友だちいない?冬子はたぶんエネルギーの吸収型だよ」
「そう?」
「それもかなり強いからさ。あまりパワーの無い人だと、冬子のそばにずっといるのは辛い。冬子に友だちができにくいのは、そのせいだよ」
「ふーん。。。そういう見方もあるんだ?」
「私はかなり放出強いから、冬子のそばにいても平気だけどね」
と政子が言った瞬間、また花見先輩の嫉妬する視線。もう。。。。
「冬子が今まで作った友だちって、どちらかというと凄い人多くない?」
「あ・・・・」
「覚えがある?」
 
「中学の時の友だちで特に仲良かったふたり、どちらも陸上部の副部長をしたし、1年先輩の人とか、インターハイでこないだ全国優勝したんだよ」
「おお、凄い。多分そういうパワフルな人しか冬子とは付き合えないんだよ」
「政子もパワフルなの?」
「私は天才だもん」
「おお、凄い」
 
そんな話をしながらボクは歌詞を書き上げた。
「タイトルはどうするの?」
ボクは少し悩んでから『memory of that summer day』と書いた。
「なんで英語?歌詞は日本語なのに」
「うーん。日本語で書いてしまうと、自分が持っているイメージをその言葉で限定してしまう気がするの。英語で書いたほうが、その曖昧な雰囲気がそのまま残るから。日本語のタイトルは後であらためてよく考えて決めるよ」
 
「ふーん。ね。その歌詞添削していい?どうも気持ち悪い場所がいくつかあって」
「うん、いいよ。あ、この詩はこちらの曲に付ける歌詞だから、音の数とかを合わせてもらうと助かる」
「多少の増減は構わないよね」
「うん。それは音符の方を調整する」
 
ボクは今使っていたボールペンを渡した。政子は「よし」と言ってボクの詩に加筆修正をはじめた。ボクは驚いていた。ボクが少し言い足りないと思っていたような箇所を、政子は凄くうまい表現できれいに直していく。15分ほど彼女もいろいろ悩んだりしながらも、修正は完了した。
 
この曲はボクが実質初めて本格的に作曲した曲であり(それ以前に100曲ほど習作のようなものは書いていた)、またボクと政子が共同で作った最初の作品でもある。ただしこの歌の譜面はその後行方不明になってしまい、出てきたのはボクたちが大学4年生になる春であった。(政子の両親がタイから帰国するというので、大掃除をしていた時にポッと出て来た)
 
「政子凄いよ。ボクが言いたいと思っていたことをきれいに表現してる」
「ふふふ。私は天才ですから」
「うん。天才だと認める」
「でもこのボールペン、凄く書きやすい!これ私にくれない?」
「うーん。まあ政子ならいいか」
「高いの?」
「そうだね。4000円ほどした」
「道理で書きやすい訳だ!で、もらっていいよね?」
「いいよ。詩の修正をしてもらったお礼」
「よし。もらった。代わりに今着てる服は全部冬子にあげるから」
「えーっと・・・」
 
また花見先輩の嫉妬する目。こちらを何とかしてよ。もう。
「ふーん。セーラーなのか。インクは普通のでいいの?」
「うん。普通のセーラーの替え芯で合うし、シェーファーのでも合うよ。今入っているのもシェーファーの替え芯」
「へー。インク切れたら私もそれにしてみよう」
と言って、政子はそのボールペンを自分のバッグにしまった。
 
「だけどさ」
「うん」
「冬子、男の子の服に着替えちゃっても良かったのに、ずっと女の子の服のままでいるのは、やはりそういう格好が気に入ったのね?」
「え?だって、ずっとこの格好でいろって言われたから」
 
政子は笑ってる。
「ふつうの子なら、みんなが目を離した隙に元の服装に戻っちゃうよ。冬子って、わりと言われたことをそのまま受け入れちゃうタイプ?」
「あ、そうかも。自主性が無いとかよく言われる」
「じゃ、帰りの電車の中までその格好でいなさい」
「いつ着換えたらいいの?」
「おうちまで着ていけばいいよ。それあげたしね」
「えー!?」
 

11時にバンガローから荷物を全部出して鍵を管理棟に返却した。それから少し早めのお昼御飯とし、バーベキューをする。このキャンプ場のバーベキュー用のスペースを使う。昨晩のカレーが1年女子の担当だったので、このバーベキューの材料を切ったりするのは、2-3年女子の担当だったのだが・・・・
「なんか料理がとってもうまい子がいると聞いたんだけど」と静香先輩が言い、「はい、ここにいます」と言ってボクは圭子から静香先輩に差し出されてしまった。そこでボクはまた材料をどんどん食べやすいサイズに切ったり、お肉とタマネギを竹串に刺したりの作業をした。
 
「うまいねー。ほんとにいい子を借りだしてきた」と静香先輩。
「何か切ったり刺したりしてる様が楽しそうに見える」と洋子先輩。
「うん。ボクこういうの大好き。何か主婦の悦びを感じちゃう」
「じゃ、お嫁さんに行かなきゃね」
「今日はこんな格好させられて、かなりその気になってる」
 
バーベキューの準備作業をしている内に釣り組が帰ってきた。
「わあ、凄い大きな魚」
「うん。大物が釣れてびっくりした。バーベキューで焼こうよ」
「でもこんなのさばけないよ」
「あ、ボクがさばくよ」
「冬ちゃん、お魚がさばけるんだ!」
「ハマチとかサバとかいつもさばいてるよ」
「すごーい」
 
ボクはその魚(フナ)の鱗を取り三枚におろし、切り身の状態にした。
「これで焼きやすいでしょ」
「鮮やかだ」
「お魚屋さんみたいに手際が良い」
「ね。冬ちゃん、私のお嫁さんになる気無い?」と静香先輩。
「それクラスメイトの女の子にも言われた」
とボクは笑って言った。
 

キャンプから少したった日。夏休みの補習で学校に(もちろん学生服で)出て行き、昼休みに図書館に行くのに渡り廊下を歩いていたら、政子が遠くを見るような感じで手すりに手を掛け立っていた。彼女の髪とスカートが風になびいて、美しいと思った。
 
「どうしたの?中田さん」
ボクが声を掛けると、政子はボクのほうを振り返り、こちらに優しいまなざしを送ってきた。ボクはドキっとした。
 
「あのさ、唐本君。私、この学校で可愛い女の子がいないか探してるって言ってたでしょ」
「うん」
「私、見つけちゃった。私好みの可愛い子」
「へー。それは良かったね。彼女ともうまく行くといいね」
「うん。うまく行きそうな気がする」
 
ボクたちはおしゃべりをしながら図書館の建物の中に入っていった。
 
 
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【夏の日の想い出・キャンプの想い出】(1)