【夏の日の想い出・Long Long Ago】(6)

前頁次頁時間索引目次

1  2  3  4  5  6  7  8 
 
10月29日の会議の結果を受けて、海原はCのデータの仮ミックスをして30日(土)の内に4曲の歌唱用カラオケを作り、上島は30日の1日だけで4曲のスコアを書いた(さすが筆の速い上島である)。ただし上島が手書きしたスコアは、ニュー下川工房(*25) のミュージシャンの手でCubaseに入力され楽譜がプリントされている。
 

コスモスは10月29日(金)の夕方、アクアを呼び出すと、その日の会議で決まったことを伝えた。
 
「ボクが24曲歌うんですか〜〜?」
 
(本当は32曲:アクアはコスモスの話をちゃんと理解していない)
 
「だって高岡さんが歌った曲だもん。その娘が歌ってあげなくちゃ」
「すみません。ボク娘ではなく息子です」
「そうだったっけ?ごめん」
 
(コスモスは来ているのがMだと分かっていてわざと娘と言っている)
 
「アクアで11月中に映画を撮る話はお断りしたから」(*19)
「ああ、1ヶ月で映画撮るって慌ただしいなあと思ってました」
「このワンティスのトリビュートアルバムは1ヶ月で作るけどね」
「え〜〜〜!?」
 
アクアは驚くのではなく抗議で声を出している。しかしコスモスは平然として
 
「アクアならできる」
と言った。
 

(*19) 某出版社から出て来た企画で、4姉妹を描く映画を作りたいというものであった。アクアが10月に『八犬伝』を撮影し、12月からは『少年探偵団』の撮影に入るということで、11月中に制作したいということで計画が進んでいた。
 
最初は『細雪』という話だったのだが、若い世代にはこの小説を知らない人が多いというのと、当時の上流階級の恋愛や結婚に対する考え方が、今のたぶん65歳以下!の層には理解されにくい、という意見から、『若草物語』に変更された。このような配役が予定されていた。
 
メグ:榊原美保
ジョー:七浜宇菜
ベス:木田いなほ
エイミー:アクア
 
ベスは東雲はるこにオファーがあったものの、体力的に厳しいとしてお断りした。監督は美高鏡子さんにオファーしたものの断られ(実際美高は『アルプスの少女』を撮る)、横井和子さんと交渉しているというところまで聞いていたが、アクアのスケジュールが取れなくなったことからこの企画自体か没になりそうな気がする。
 
そもそもアクアが女役だけという企画を受けるとは思えない。
 

アクアはコスモスからワンティスのCDの話を聞いた10月29日、まだその日はアルバムに関する作業は無いので、代々木の自宅に帰り、コスモス社長からもらったワンティスの『ワンザナドゥ』のCD、残りの12曲を(§§ミュージックの技術者の手で)仮ミックスしてまとめたもの、各々のmp3化したものを聴いていた。
 
アクアはあることに気付くと、ホワイトボードにしばらく色々書いていたが、コスモスに電話する。
 
「提案があります。そちらに行っていいですか?」
と訊く。
 
「今から30分後には出掛けないといけないから、30分以内なら話を聞く」
「じゃ1分でそちらに行きます」
と言って、アクアは、わっちゃんに頼んで自分を本社のある信濃町のビルに転送してもらった。
 
「社長参りました」
「じゃ話を聞こうか」
とコスモスは顔色ひとつ変えず、アクアと一緒に会議室に入る。
 
「これを見て下さい」
と言って、アクアは2枚の紙を広げた。
 
"One Xanadu"
 
Searching Cow
Long Long Ago
Voyage Romantique
朝日の海岸
光の柱
生命の水
Back to the Town
リズミトピア
川と花の物語
忘れられた座席
背中に書いたラブ・レター
祭り太鼓
 
"On the Way"
 
一杯の水
ヴィーナスの涙
ラピスラズリ
人魚諸島
夕暮れ時のスピカ
Deep Mountain
極楽鳥
Divina Commedia
髪の長い少年
雪の恵み
キャット・ウォーク
虹色の首飾り
 

事務の山林さんがケーキとコーヒーを持って入ってきた。アクアは
「ありがとう」
と言って、コーヒーを1口飲むと、コスモスに説明した。
 
「これってひとつの物語になっていたのをバラしてるんです。恐らく物語仕立てにしてしまうと、売上が落ちるとか言われて、強引にバラしてしまったんじゃないでしょうか。これが本来の物語の順序だと思います」
 
"The way to Xanadu"
 
Searching Cow
Long Long Ago
Voyage Romantique
人魚諸島
朝日の海岸
川と花の物語
Deep Mountain
極楽鳥
ヴィーナスの涙
ラピスラズリ
光の柱
生命の水
リズミトピア
Divina Commedia
Back to the Town
 
「そしてこれらの曲は本来の物語には無かった曲だと思います」
 
"Other Songs"
 
忘れられた座席
背中に書いたラブ・レター
祭り太鼓
一杯の水
夕暮れ時のスピカ
髪の長い少年
雪の恵み
キャット・ウォーク
虹色の首飾り
 
「ただ、『一杯の水』と『生命の水』は歌詞違いの同じ曲だから、多分元々は『生命の水』だったのをレコード会社から言われて、ごく普通の歌の『一杯の水』を最終盤には入れたのではないでしょうか」
とアクアは推察した。
 

「Searching Cow と Back to the Town って何か分かる?」
とコスモスはアクアを試すように訊いた。
 
「十牛図のトップの尋牛と最後の入店垂手(*20)(*24)だと思います」
「よく十牛図なんて知ってたね!」
 
とコスモスは感心している。実はコスモスも分からなくて千里から教えてもらったのである。そして実はアクアも分からなくて《じゅうちゃんさん》から教えてもらったのである。
 
(*20)入店垂手の“店”は本当は同音同意の難しい字“鄽”。
 

「だからこれは音楽の理想境を求める旅 音路歴程 music pilgrim progress なんですよ。たぶんそれでまとめるつもりがレコード会社から、文句言われて変更したんですよ」
「そうらしい。当時の制作部次長から『これでは売れん』と言われたらしいのよ。ただ、私もここまできれいに並べてはみなかった。『一杯の水』と『生命の水』の件もその通りだったらしい。ちょっと確認してみよう」
 
と言うとコスモスは上島先生の所にアクアが書いた紙をFAXするとともに電話を掛けた。
 
「はい、やはりそうですか。これでほぼ正解ですか。ありがとうございます」
と言って電話を切る。
 
「1ヶ所だけ、極楽鳥とヴィーナスの涙の順序が逆らしい」
「ついでにこれ本来は『ヴィーナスの丘』だったということは?」
「ああ、私もちょっと思った。さすがに『ヴィーナスの丘』では発禁処分になる(*21)から、涙に変えたんだと思うよ」
「ですよねー。歌詞の中に“丘”という言葉は出てくるのに“涙”なんて出てこないもん」
「ね」
 
「雨宮先生らしい作品ですよ。髪の長い少年とかもあるし」
「雨宮先生って90%が性欲でできてるからね」
「睾丸が無いのに性欲はあるんですね〜」
「きっとバーチャルな睾丸を持ってるのよ。クローム髑髏(*22)がバーチャルな内臓を持っているのと同じ」
「誰でしたっけ?ちなみに、残りの10%は?」
「男の娘をナンパすることじゃない?」
「なるほどー」
 
羽鳥セシルはその犠牲者みたいだし、千里さんや冬子さんも元を糾すと、雨宮先生の犠牲者っぽい。ゆまさんは、間違ってナンパしたんだろうな。男の娘かと思ったら逆に女の息子だった。
 
(*21) 「ヴィーナスの丘」mons Venus とは日本語でもそう呼ぶことがあるが、女性の恥丘(陰阜)のこと。ヴィーナスを漢字で書いた?紅臼山という呼称もある。ヴィーナスが紅臼なら、マルスは魔羅錘?(まんまじゃん!)
 
この歌の歌詞の内容は道に迷っていたらヴィーナスに導かれたというもので、美しい曲ではあるが、さすがにそのタイトルはまずいと上島に言われて、mons Venus (モンス・ウェヌス)を lacryma Venus (ラクリマ・ウェヌス)に変更した。でも歌詞は変えてないからどこにも“涙”という言葉が出て来ない!
 
(千里とケイは後日雨宮先生からこの曲の“本来の歌詞”で歌った演奏を聴いたが、“却下!”と言った。マリが喜びそうな歌詞だったが!)
 
このアルバム内でラテン語タイトルの曲はほとんど水上作品だが、この曲だけが雨宮作品である。但し、統一性が無いと言われてフランス語 larme de Venusに変更している。
 
なお、これとは関係無いが“ラクリマ・クリスティ”は“キリストの涙”という意味。
 
(*22) クローム髑髏(どくろ)「家庭教師ヒットマンREBORN!」の登場人物(女性)。別の登場人物・六道骸(ろくどう・むくろ:男性)の名前のアナグラムになっているので、最初はそちらの女装?あるいは分身かエイリアスとも思われたが、別人だったようである。交通事故で内臓を失い、臓器移植を勧められたものの拒否。失った内臓を“幻覚”によって補い生きている。
 
青葉が小学生から中学1年に掛けて“幻覚”で生み出した卵巣で女性ホルモンを産出していると主張していたのは、実はクローム髑髏の在りようが元ネタ。
 

「トリビュート版はこの本来の順序にしませんか?」
とアクアは言う。
 
「いいと思うよ。アクアが歌えば何でも売れるから三田原さんも同意してくれると思う」
「それも困った問題なんですけど」
 
と言いつつ、アクアはTKRなら結構認めてくれるだろうなと思った。★★レコードは保守的だから、あれこれ作品に介入してきて、ケイさんとか苦労してるみたいだし。
 
「でもおかげで制約の少ない活動ができるんだから、その状況は利用しなくちゃ。でもさっきアクア、面白いこと言ったね。音路歴程?それをタイトルにする?」
 
「キリスト教関係から抗議が来そうだから、やめましょう」
「そのあたりは私たち異教徒にはよく分からないよね」
 
アクアが歌ったCDは全世界で発売されるので、宗教問題とか人種問題は気をつける必要がある。ひとつ間違えば大規模なバッシングを引き起こしかねない。
 
「Way to Xanadu くらいで」
「そうだね。とにかく、この順序で収録するというので、交渉してみるよ。でも残りの曲はどうする?」
 
「そうですねぇ」
とアクアは一瞬悩んだが
 
「あ、分かりました。Back to the Townを2枚目先頭に置いて、そのあと、普通の恋歌・叙情歌を並べたらいいんですよ」
「ああ、それはうまい」
 
「だから2枚目はこうなります」
と言って、アクアは別の紙に書き直しながら曲順も入れ替えた。
 
"Town Songs"(仮題)
 
Back to the Town
忘れられた座席
虹色の首飾り
夕暮れ時のスピカ
一杯の水
雪の恵み
髪の長い少年
キャット・ウォーク
背中に書いたラブレター
祭り太鼓
 
「10曲しかないけど」
「『無法音楽宣言』あたりを入れるとかは?」
「ああ、それはいいかも。ちょっと提案してみるよ」
「お願いします」
 

コスモスがこのアクアの提案を上島先生に提案すると、その日の夜、再度ネット会議で検討した上で、アクアの提案通り、トリビュート版はその順序で行こうということになった。また『Back to the town』に追加する曲については『無法音楽宣言』よりレコード大賞を取った『フィドルの妖精』を入れて欲しい、と三田原部長から要請があり、ワンティスのメンバーも了承した。どちらにしても高岡作品が1曲入ることになる。
 
(アクアは父親の作品を入れたかったので母の作品『疾走』ではなく父の作品『無法音楽宣言』を提案した。でも『フィドルの妖精』も父の作品である)(*23)
 
「でも11曲って中途半端だ」
「上島、あと1曲書いてよ、新曲が1曲でもあるといい」
と海原が言ったが、上島は
「それは醍醐君に書いてもらおう」
と言う。
「え〜〜〜!?」
 
雨宮が言った。
「18年前の私たちが書きそうな感じの曲を1曲書いて」
「分かりました」
 
それで醍醐春海は一晩で『時間の忘却』(oblitus tempus) という曲を書いたのである。
 
「これ本当に18年前の水上が書きそうな曲だ」
と三宅。
「もう水上先生の作品ということでクレジットしていいですよ」
と醍醐。
「そうしよう。印税は半分あげるから」
と雨宮。
「分かりました」
 
ということで、これは本当にまるで18年前に水上先生が書いたかのような作品だったので、もう水上信次でクレジットしてしまうことにした。さすがゴーストライターの達人である。(*23)
 
「これって十牛図の“人牛倶忘”か」(*24)
と海原さんが言う。
「はい。そうです。」
と醍醐は明るく答えた。
 
(なお“印税半分”というのは、少しでも水上さんの奧さんを支援しようというので、雨宮と醍醐が実は事前に話し合って決めていたことだった)
 

(*23) トリビュートアルバムの曲名(収録順)と作者
 
1.サチ・カ (Searching Cow) 三宅
2.Long Long Ago (diu ante) 水上
3.ボヤージュ・ロマンティック (Voyage romantique) 雨宮
4.人魚諸島 (iles des sirenes) 雨宮
5.朝日の海岸 (Cote sous le soleil du matin) 夕香・雨宮
6.川と花の物語 (Story of the River and a Flower) 夕香・上島
7.深き山に入りて (Deep Mountain) 上島
8.ヴィーナスの涙 (larme de Venus) 夕香・雨宮
9.極楽鳥 (Paradies vogel) 海原
10.ラピスラズリ (Lapis Lazuli) 三宅
11.光の柱 (Columna lucis) 水上
12.生命の水 (Wasser des Lebens) 夕香・海原
13.リズミトピア (Rhythmitopia) 夕香・山根
14.神曲 (Divina Commedia) 水上
 
15.ただいま (Back to the Town) 上島
16.忘れられた座席 (Forgotten Seat) 夕香・上島
17.虹色の首飾り () 夕香・上島
18.夕暮れ時のスピカ (Spica under dusk) 夕香・上島
19.一杯の水 (Ein Glas Wasser) 夕香・海原
20.雪の恵み () 水上
21.髪の長い少年 (garçon aux cheveux longs) 雨宮
22.キャット・ウォーク (cat walk) 三宅
23.背中に書いたラブレター () 夕香・上島
24.祭り太鼓 () 夕香・上島
25.時間の忘却 (oblitus tempus) 水上
26.フィドルの妖精 (fairy on the fiddle) 高岡・ケイ
 
※ボヤージュ・ロマンティック(Voyage romantique)は「浪漫航路」などといった日本語タイトルを付ける案もあったが、米米Clubの『浪漫飛行』のパクリみたいだという意見から見送られた。
 
※「光の柱」は当時「ダイヤモンドの木(Arbor Adamasa)」という歌詞違いバージョンをアルバムに収録する案もあり、歌唱も収録されていたが、最終的にアルバムには「光の柱」の方が収録された。今回、ワンティス全員の意見でやはり本来の「光の柱」で行くことになった。
 

アクアは翌日(10/30 Sat)コスモスからの電話で昨日の方針が承認されたことを聞いたが、アクアは更に提案した。
 
「基本的にボクが全部歌うのはいいのですが、いくつかの曲で一緒に歌いたい人が居るのですが」
「ほう」
 
「キャット・ウォークで舞音ちゃん、ラピスラズリでラピスラズリの2人、リズミトピアで白鳥リズム、夕暮れ時のスピカで姫路スピカちゃん、ヴィーナスの涙で水森ビーナちゃん(芸名の由来がビーナス)、祭り太鼓で花咲ロンドちゃん(本名:大村祭梨)、川と花の物語で花ちゃんさん(本名?:川内峰花)、極楽鳥で甲斐姉妹(本名:緒方飛蝶・美鶴)、雪の恵みで水谷姉妹(芸名が水谷康恵・水谷雪花)、虹色の首飾りで花貝パールちゃんと恋珠ルビーちゃん、Voyage romantique で七尾ロマンちゃん」
 
「スピカとかラピスラズリとかは、曲名見てて私も思った。でもそれいいかも。あくまでアクアがメインボーカルで」
「はい」
「でも11曲だね」
「多すぎますか?」
「あ、分かった。『生命の水』(Wasser des Lebens) でアクアとデュエットすればいいんだよ」
「意味が分からないのですが」
「だからアクアとアクアのデュエット」
「ああ、そういうことか。いいですよ」
 
つまりアクアMとアクアFのデュエットである。
 
「これで24曲中の12曲がデュエットソングということで」
 

ところがこの案は制作会議で否決された!
 
「ボーカルはあくまでアクア。他の人が参加する場合は、楽器参加かコーラスの範囲まで」
ということになったのである。それでアクアが提案した人たちは次の形で参加することになった。
 
キャット・ウォーク:舞音=猫の鳴き声(with水谷姉妹)
ラピスラズリ:ラピスラズリ=コーラス
リズミトピア:白鳥リズム=タンバリン
夕暮れ時のスピカ:姫路スピカ=箏
ヴィーナスの涙:水森ビーナ=マリンバ
祭り太鼓:花咲ロンド=篠笛(ネオン=太鼓、夢島きらら=鉦鼓)
川と花の物語:花ちゃん=割れ目木鼓
極楽鳥:甲斐姉妹=フルート
雪の恵み:水谷姉妹=ビブラフォン連弾
虹色の首飾り;花貝パール・恋珠ルビー=コーラス
Voyage romantique:七尾ロマン=コーラス(with美崎ジョナ)
 
唯一『生命の水』だけが“アクアとアクアのデュエット”になる。
 
その他、§§ミュージックの歌手および信濃町ガールズたちに分担してコーラスを入れてもらうことにした。それで“ゼロティス”には固定のコーラス歌唱者は置かないことにした。
 

(*24) 十牛図は、悟りを求める過程を牛を探すという行為にたとえて絵に描いたもの。実際の絵は検索すると結構出てくる。↓はそのタイトル一覧。
 
1.尋牛 牛を探す。悟りを求める。
2.見跡 足跡を見る。悟りのきっかけを掴む。
3.見牛 牛を見る。悟りの境地を知る。
4.得牛 牛を捕まえる。悟りの境地に到達する。いわゆる“彼岸”。
5.牧牛 牛を乗りこなす。悟りをよくよく理解する。
6.騎牛帰家 牛に乗って家に帰る。悟りの境地から帰還する。いわゆる“如来”。
7.忘牛存人 牛のことは忘れてしまう。悟りのことは忘れる。
8.人牛倶忘 自分の存在まで忘れてしまう。
9.返本還源 全てを滅したことで物事の本来の姿が見える。
10.入店(鄽)垂手 世俗の世界にまみれる。
 
十牛図の凄さというのは6以降、特に10にある。悟りに到達することは単なるステップに過ぎないのに、多くの仏教者がそのことを忘れていて、悟りに到達することが目標のように思っている。現実の世界に戻ってきて、悟りの経験を踏まえた生き方をしていくことが重要。だから“破戒僧”一休のような生き方は、実は究極の仏教者の道のひとつなのである。
 

なお、雨宮先生監修・千里画“十娘図”というのが存在するらしい。
 
1,女の子の服に興味を持つ
2,女の子の服を着たいなと思う。
3.女の子の服を着てみる。
4,自分用の女の子の服を入手する。
5,女の子の服を着こなす。
6.女の子の服で普通に出歩けるようになる。
7.スカートなど穿かなくても女に見えるようになる。
8.自分の性別を意識しなくても女としてやっていける。
9.性別より人としての生き方を考える。
10.別に男の服を着ても気にしない。
 
雨宮先生は「スカートを穿かなくなったら女装の完成」と言っている。
 

アクアは10月31日(日)は『八犬伝』の撮影があったので熊谷の八犬伝村に出掛け、打ち上げ(実際にはお菓子と飲み物を配り『乾杯は各自で』と言われた)まで付き合ったが、翌日11月1日には朝から研修所(女子寮)内の、今回の歌唱録音専用(つまりアクア専用)で使用することになったB12スタジオに入った。
 
スピカが居るのでびっくりする。
「スピカちゃんが加わって・・・トリビュート版の方を録音するんだっけ?」
とアクアが言うと、海原先生は
「『インヴィア』の追加歌唱はアクアちゃんとスピカちゃんのデュエットなんだけど・・・まさか聞いてなかったとか?」
と言う。
 
「聞いてません!」
 
「それとトリビュート版との違いを出すために男の子っぽい声で歌ってというリクエストだったんだけど出る?」
と海原は心配そうに言う。
 
「出ますよ」
とアクアは男声で答えた。
 
「凄いね!女声が出せる男の子は時々いるけど、男声が出せる女の子は珍しい」
と海原先生が感心している。
 
あのぉ、私、男の子なんですけどぉ。
 
スピカは笑いを噛み殺していた!
 
(実はFはテレビ局にドラマなどの収録に行っている。今回補作の8曲はMが歌うことにした。トリビュートアルバムの26曲についてはまだ分担を決めていない)
 

それで昨日海原先生が仮伴奏音源を作ってくださった4曲
 
夕暮れ時のスピカ Spica under dusk
深き山に入りて (Deep Mountain)
極楽鳥 (Paradies vogel)
神曲 (Divina Commedia)
 
をこの日1日(休憩をはさみながら約7時間)で全部吹き込んでしまった。
 
アクアもスピカもほぼ一発できれいに歌ったので監修してくれた海原先生も若干の表現的な指導をしただけだった。
 
海原先生が
 
「文句の付け所がない。各々曲をよくよく理解してる」
と褒めてくれた。
 
「CDを頂いてから3日ありましたから、ずっと練習してました」
「私もずっと練習してました」
 
「忙しいのによく時間が取れるね!」
 

上島雷太は10月31日(日)、コスモスと一緒に、エレメントガードおよび4人のサポートミュージシャンと2人のコーラス歌唱者(いづれも“信濃町バンド”所属)が、制作をしているスタジオを訪れ、制作中に申し訳ないが、と言って、ワンティスのトリビュートアルバムをアクアが歌うことになったことを説明した。
 
みんな嫌そうな顔をしている!
 
ただでさえ死にそうなくらい忙しいのに!!
 
「そういう訳で、11月から12月に掛けて、ワンティスのアルバムの一部補作とトリビュートアルバムが制作されることになったのだけど、補作8曲、トリビュートアルバムの26曲を全てアクアが歌う。でも君たちは今『少年探偵団』の音源制作の方をやっているよね」
 
「はいそうです。あと数日で伴奏音源は完成すると思います」
「その後も、年末年始のライブの予定とかもあるよね」
「あります。実際、3月くらいまでの日程はほぼ埋まっています」
 
「それでトリビュートアルバムの伴奏は、このための臨時編成バンドに伴奏させることになったんだよ」
 
ほっとした空気が流れる。
 
「ただ、人数が必要だから、どうしても編成に数日掛かる。だけどアクアに少しでも余裕のある11月の内に集中して録音をしたいので、申し訳ないけど、先行して歌唱を録音したい8曲の内、伴奏ができてない4曲を君たちに伴奏してもらえないかと思って」
 
上島はそう説明すると昨日書き上げてニュー下川工房(*25)のスタッフに入力してもらったスコアを全員に配るとともに“Dグループ”の楽曲の暫定ミックス音源を聴いてもらった。
 

(*25)下川工房はその仕事の大半が上島雷太が書いた曲の編曲作業であったため、2018年3月の上島雷太の逮捕→謹慎に伴い、経営が行き詰まった。その後、ケイと雨宮が半分ずつ出資して経営再建。UDP(上島代替プロジェクト Ueshima Diversion Project)及び望坂拓美プロジェクトの作品の編曲と制作指導を請け負う会社として事業再開した。2019年4月にUDPが終了した後は、夢紗蒼依の編曲と制作指導も請け負うことになった。現在は、松本花子の編曲・制作指導を一手に引き受けているイリヤ工房に次ぐ、業界第2位の編曲工房となっている。
 
会長:雨宮、副会長:ケイ、で下川は社長である。下川は経営責任を取って退くと言ったが、雨宮は「あんたが指揮せずに誰が指揮する?」と言って、社長に留まらせた。新会社は債権者にできる限り補償したが、イリヤが独立した時に下川から要求された権利料(イリヤはこの支払いに物凄く苦労した)は雨宮がイリヤと交渉し、転換社債扱いにすることで合意した(つまりイリヤに返さなくてもよい)。この結果、イリヤはニュー下川工房の第3株主(約10%)となっている。
 
イリヤ工房の株は、イリヤと千里がほぼ半分ずつ持っていて、松本花子作品を一手に引き受けており、ニュー下川工房はケイと雨宮で90%の株を所有し、夢紗蒼依と望坂拓美の作品を一手に引け受けている。つまり業界地図がきれいに塗り分けられている。
 
松本花子 イリヤ工房 千里・青葉・イリヤ
 
夢紗蒼依・望坂拓美 ニュー下川工房 ケイ・雨宮・アイ
 
夢紗蒼依のローンチカスタマーはЮЮレコードで同社は夢紗蒼依の活用で有能な新人・再生歌手をどんどん売り出すことができるようになり、このCD不況の中で大きく成長している(実力派の歌手やバンドが多い)。松本花子のローンチカスタマーは§§ミュージックで、ここ2〜3年、§§ミュージックから多数のアイドルがデビューして、全員ちゃんとまともな曲をもらっているのは松本花子から充分な量の曲が提供されているお陰である。常滑舞音が1ヶ月単位で新曲を出したりするのも、松本花子の力で支えられている。
 

スコアを渡され、仮音源を聴いたエレメントガードのメンバーは言った。
 
「ああ、だいたい分かりました」
 
「どのくらいで伴奏音源できる?」
と上島が訊く。
 
「2日ですね」
「速いね!」
「このスコアで確定で、むしろいじってはいけませんよね?」
「そのままお願いしたい。ワンティス風にまとめているので」
「スコアが固まっていて、その通りに演奏するのであれば1日でもできますけど、念のため余裕を見て2日です」
 
「それを現在のスケジュールに割り込ませてもいい?」
「アクアちゃんの歌唱収録は、11月4日にする予定になっています。ですから、今日・明日この作業をしても、少年探偵団の方の伴奏は11月3日までに確定させられると思います」
 
「じゃ本当に忙しい所申し訳ないけど頼む」
「はい。やります」
 

ということで、エレメントガードの4人と、Fl, Tp, Sax, Vn のサポート4人、女声コーラス2人で上島から渡されたスコア通りの演奏を収録したのである。彼女らはだいたい1時間くらい練習して、録音するというパターンで休憩をはさみながら結局10月31日の1日だけで4曲の演奏を完成させてしまった。
 
(コスモスは帰ったが、上島が監修しながらウナ重とかステーキとか差し入れてくれるので、メンバーは「豊作豊作」と言いながらしっかり食べてしっかり演奏した)
 
元々超多忙なアクアに関する作業をするので、とにかく仕事が速い。そして彼女たちは11月2日には、少年探偵団の作業に戻り、そちらも2日の夕方には完成となった。それでコスモスの提案で11月3日は完全オフになり、全員自宅で死んだように眠った。コスモスは各自の自宅に豪華なお弁当を昼・夜、デリバーしてあげた。
 

エレメントガードたちが10月31日に作り上げた演奏は、ニュー下川工房の技術者の手で11月1日の内に仮ミッスクされ、伴奏音源の形になった。
 
それでアクアとスピカは11月1日に“Cグループ”の4曲を吹き込んだのに続いて11月2日には“Dグループ”の4曲も吹き込むことができた。これも1日で完了した。
 
髪の長い少年 (garçon aux cheveux longs)
雪の恵み
キャット・ウォーク (cat walk)
虹色の首飾り
 
これであっという間にワンティスのアルバムの補作の方はできあがってしまった。
 
それで、これに上島が手配した女子音大生によるコーラスなどを加えた上で、11月5日以降、『ワンザナドゥ』に収録されなかった12曲を集めたアルバム『インヴィア』は下川監修の下で、マスタリングに入る。楽曲順については、上島・海原も入ってこの3人で確定させることにした(他メンバーはこの3人に一任)。
 
(雨宮は敢えて元のワンティス版には関わらず、千里やケイを通してトリビュート版に関わるつもりでいる。コスモスやケイにしても雨宮が関わってくれることで、他のメンバーから注文を付けられるのを回避できるので、積極的に雨宮に意見を求めている。「雨宮先生がこう言ったので」と言えば、「だったらいいか」と言ってもらえる)
 
アクアは11月3日は祝日なので、テレビ局を数軒掛け持ちして仕事をした。そして11月4日(木)には、予定通り、少年探偵団の主題歌を含む27枚目のシングルの歌唱録音を行なった。
 

あけぼのテレビの紅葉レポート10月上旬にスタートしてから11月頭には、三田・山口組が北海道南端函館まできた。柳川夫妻は本州の山間部を渡り歩いている。
 
10/06(Wed) 三田:旭川・層雲峡・旭川醤油ラーメン
10/07(Thu) 柳川:日光・鬼怒川・しもつかれ
10/08(Fri) 三田:稚内・宗谷丘陵・最北のラーメン
 
10/11(Mon) 三田:網走・ザンギ丼(鮭の唐揚げ)
10/12(Tue) 柳川:軽井沢・峠の釜めし
10/13(Wed) 三田:根室・風蓮湖・エスカロップ
10/14(Thu) 柳川:長野・戸隠・戸隠そば
10/15(Fri) 三田:釧路・阿寒湖・スパカツ
 
10/18(Mon) 三田:富良野・スープカレー
10/19(Tue) 柳川:松本・上高地・山賊焼き
10/20(Wed) 三田:札幌・円山公園・札幌みそラーメン
10/21(Thu) 柳川:妙高・豚汁ラーメン
10/22(Fri) 三田:ルスツ・石狩鍋
 
10/25(Mon) 三田:札幌・定山渓・ジンギスカン
10/26(Tue) 柳川:裏磐梯・喜多方ラーメン
10/27(Wed) 三田:千歳・支笏湖・ザンギ(鶏肉の唐揚げ)
10/28(Thu) 柳川:鳴子・ラージャーメン
10/29(Fri) 三田:登別・地獄谷・室蘭カレーラーメン
 
11/01(Mon) 柳川:田沢湖・稲庭うどん
11/02(Tue) 三田:函館・大沼公園・函館塩ラーメン
11/04(Thu) 柳川:奥入瀬&十和田湖・しょっつる鍋
11/05(Fri) 三田:恐山・下北ラーメン&いかのおすし!
 
視聴者の予想通り、各地のラーメンを食べ歩いている!
 
三田・山口組は11月2日に函館のレポートをした後、3日午前中のフェリーで下北半島・大間(おおま)に渡り、5日に恐山のレポートをしている。“いかのおすし”は、青森県では、陸奥湾でも三陸でもたくさんいかが穫れるのを背景にしたものだが、三田雪代は、例のフリップボードを持って、「良い子のみんな、気をつけてね」とやっていた。
 
いか:行かない
の:乗らない
お:大きな声を出す
す:すぐ逃げる
し:報せる
 
この後は、三田組と柳川組が本州の東側・西側を分担して南下していくことになる。
 

ムーラン建設(作業しているのは大半が人間)により女子寮2号館の建設が進む中、すぐそばでは、播磨工務店(作業しているのは全員人外!)により、新本宅の建設工事が進められていた。
 
唐突にそれまでの本宅が消滅して深い穴が掘られていたので寮生たちが驚いた後、地下の工事は4日で終わり、地上階がPC工法で作られていく。そして工事が始まってからわずか半月で、5階建てのビルが建ってしまった。さすがは郷愁村でも半月でホテル1個建てた部隊である(あれはユニット工法)。
 
寮生たちはあらためて「すごーい」と言っていたが、そもそも3日で1フロア作るのが播磨工務店のいつもの仕事である。
 
そして新しい本宅は11月2日(火)“さだん”に竣工して引き渡され、退避していた天羽一家と花ちゃんは新本宅に再移動した。
 
新本宅
5F ペントハウス?
4F 寮母住宅(4LDK)
3F 新図書室・副寮母室・サロン
2F 新食堂
1F 応接室・食材倉庫
B1 ダンス練習室
B2 新厨房
 
5階(ペントハウス?サンルーム?物干し!?)は天井が全面ガラスになっており、タオルケットや毛布など持って来て寝転がって空を見るのもいいよ、ということになっている。11月19日の“ほぼ皆既”月食では、かなりの数の観測者が出た。
 

2階・3階は女子寮の1号館・2号館の2階・3階と渡り廊下で結ばれるので、寮生たちは各々のビルの2階まで降りてから渡り廊下で本宅2階に入れる。この2階の渡り廊下を、食事配送システムのレールも通る。
 
新食堂は99m2(16半間×8半間=32坪) で、70人の収容能力があり、コロナが終息したら寮生全員が一度に食事できるはずである。旧食堂は29m2(7半間×5半間=8.75坪)で20人収容だったので、コロナ直前頃は交替制になっていた。なお、ここはコロナが終息するまでは第2ダンス練習室として使用する。
 
寮母住居は、旧本宅では2階だったが、新本宅では4階まで上げられた。ただし寮母の天羽亜矢子は平日の朝と夕方〜夜は女子寮1階の寮母室に居る。寮生たちを見守り、寮生たちに「いってらっしゃい」「おかえり」を言うのが、寮母の最も大きな仕事である。
 
↓女子寮1階(11/4以降)

 
花ちゃんの部屋:副寮母室は新図書館の隣に設定された。前面は“サロン”と称し、自由に座れる丸テーブルを置いた。換気は図書室同様強力な縦の空気の流れが作られていて感染確率は低い(後述)。ここは、おやつ・紅茶などを用意しているので、寮生は好きな時に来ておやつを食べて良い(ファンからたくさん送られてくるのでお菓子には困らない)。実際、水谷姉妹や、豊科リエナ・箱崎マイコなどが、よくここに来るようになった。
 

 
このサロンの出入口はスイングドアになっていて、入りやすいようになっている。また廊下側からも図書館側からも入れる。結構、本でも探すようなふりして歩き回っていて、ひょいと副寮母室に入ってくる子も出るようになった。
 
花ちゃんは、寮生たちの相談相手になることも多いので、悩んでいる子が来やすいようにこういう環境を作った。おやつ食べがてらに来て、“相談”とかいった大げさなことでなくても、単におしゃべりするだけでもいいという趣旨である。やや深刻な相談は、防音の相談室も作っているので、そこで聴く。
 
花ちゃんは平日の日中は信濃町の本社に居ることも多い(彼女は§§ミュージックの音楽部長である)ので、花ちゃん不在の時は、花咲ロンド(寮長!)や海浜ひまわり・稲田姉妹などがお留守番していることもある。
 
ひまわりは月に1度くらいツーリングに出掛ける時以外は、だいたい寮の“どこか”に居る。よく作業服姿で油まみれになって車やバイクをいじっている。ひまわりの現在の身分は“女子寮雑用係”(不法滞在者から昇格)だが、お給料はもらっていない!でも家賃も取られないし食事はもらえるので、いいことにしている(寮内は禁酒なのだけが不満らしい)。彼女は作曲関係でたくさん稼いでいるので、給料は無くても平気である。ひまわりに相談すると、大抵のことを笑い飛ばしてくれるので、相談した側は気持ちが軽くなる。
 
「でも、ひまわりちゃん、親から有力社員の誰かと結婚してくれとか言われない?」
「ああ、私の代わりに弟が女装して大阪支店長の所にお嫁さんに行ったから大丈夫です」
「は?」
 
稲田姉妹は「可愛い弟にはスカートを穿かせよ」とか「若い頃の女装は勝手でもしろ」とかよく言っている。彼女たちに相談すると、だいたい無茶苦茶なアドバイスをする。「そんなパワハラ男は殺しちゃえ。何なら今から殺してきてあげようか?」とか
「学校を爆破しちゃえば中間テスト受けなくて済むよ。ダイナマイト調達してあげようか?」とか「ヌード写真を付けて売るとCD売れるよ」とか「半年も付き合って手を握らない男は去勢しちゃえ」とか。それで彼女たちと話しているだけでストレス解消になり、違う意味で人気がある。
 

地下のダンス練習室は、火牛アリーナなどと同様に天井に給気口、床に吸気口とが設置され、天井から床へ強制的な空気の流れが作られているので、隣同士で踊っていても空気の交換が起きない。窓は無くても強力な感染対策が施されている。
 
この上から下への強制的な空気の流れは2階の食堂や3階の図書室・サロンにも造り込まれており、当面窓開放は禁止である(かえって窓を開けると横方向の風ができてよくない)。
 
この換気システムを組み込んでいるのでフロアとフロアの間は2層(上の階からの吸気層と下の階への給気層)合計1mほどあり、本宅の全体の高さは20mほどで5階建てではあるが通常のビルの6-7階建てほどの高さになっている。
 
天羽一家と花ちゃんは、いづれも11月2日の午前中に新居に荷物を運び入れてもらった。
 
厨房の移転も11月2日に1日がかりで行われ、この日は昼と夜の食事提供が休止され、代わりにお弁当が配られた。
 
図書室の図書やCDの移動は11月4日に業者の手で行われた。女子寮1階の図書室は本だけを移動し、本棚は残して、こちらは書庫として使用する。
 
ダンス練習室が寮の1階から本宅に移動したので、女子寮側のダンス練習室跡が改造されて1Kの住居が2つ設定され、ここに臨時厨房1階に住んでいた、海浜ひまわりと稲田姉妹が移動した。
 
(再掲)

 
厨房・食材および、1階に住んでいた3人が移動した後、臨時厨房の建物は一晩で姿を消していた!
 

ともかくも新しい本宅ができて、これまで女子寮の方に住んでいた高崎ひろかも母・妹と、本宅のほうに同居することなった。寮母住宅は4LDKになっている。4つの部屋に、母、高崎ひろか、松梨詩恩、水森ビーナ!の母・娘?3人が住めるようにである!ただしビーナは女の子にならないと、女子寮に住むことはできない!!
 
(今までは2DKに母と詩恩が住んでいた。ビーナの実母・丹生は帯広に住んでいるが、亜矢子と丹生は、子供(高崎ひろか)の教育のことで、頻繁に連絡を取っていたこともあり、ふたりは仲が良い。数紀は“女の子になりたいみたいだから、女の子にしてあげてもいい”と両者は勝手に合意している!)
 
「完全な女の子にならなくても、ちんちん切っちゃえば女に準じて扱っていいよ。3月くらいに1週間くらい休めるように言ってあげるから、ちんちんだけでも切らない?」
などと詩恩は言う。
 
「勘弁して」
「睾丸はもう取ってたよね?」
「取ってないよぉ〜」
「それはいけない。今から取りに行こう」
「今から〜〜〜?」
 
ということで数紀が同居できるようになるのがいつかは不明である。それにしても数紀の睾丸は風前の灯火である(既に機能喪失してる気がするけど)。
 

ΛΛテレビの『昔話シリーズ』は、10/9-17に松田理史主演で『大工と鬼六』を撮った後、10.23-11.06にはビンゴアキ主演で『オズの魔法使い』を撮影した。『オズの魔法使い』は2時間半枠である。
 
そして11.7-20には、ラピスラズリ主演で『アルプスの少女』が撮影された。これも2時間半枠である。監督は、『大工と鬼六』『アルプスの少女』が美高鏡子、『オズの魔法使い』は沢口富恵である。
 
『アルプスの少女』では、東雲はるこがクララで、町田朱美がハイジである。その他の主な配役は下記であった。
 
クララ:東雲はるこ(16)
ハイジ:町田朱美(16)
ロッテンマイヤー:里山美祢子(37)
アルムおんじ:藤原中臣(71)
ペーター:斎藤良実(16)
デーテ:頼元麗華(42)
ゼーゼマン:香川満夫(46)
ゼーゼマンの母:長坂ひとみ(68)
ペーターの母:湯沢駒子(39)
ペーターの祖母:入江光江(67)
セバスチャン:木村次郎(32)
ティネット:栗原リア(17)
 
ギャラが高い!が、ラピスラズリ主演で視聴率が取れるのは確実なので、予算が結構付いたようである。
 
念のため親族関係を確認しておくと、アルムおんじ(原作でも名前が出てない。単にAlmöhi = Alm Onkel と呼ばれている)の息子がトビアス(Tobias)で、トビアスと妻アーデルハイト(Adelheid)の娘も母と同じアーデルハイトという名前である。物語の主人公は娘のほうのアーデルハイトであり、通常、Adelheidの愛称であるハイジ(Heidi)で呼ばれる。デーテ(Dete)は母の方のAdelheidの姉妹で、“おんじ”というのは、デーテから見て伯父になるからである。
 
なお、デーテ・アーデルハイトの曽祖母とおんじの祖母が姉妹だった。つまりハイジの両親は三従兄妹どうしの結婚である。
 
おんじはハイジからは祖父である。ハイジの父(おんじの息子)トビアスは大工さんだったが、建設中の事故で死亡した。そのあと母親も病気で亡くなり、ハイジは母親の姉妹であるデーテが引き取ったのだが、女1人で姪を育てるのは大変だった。4年間頑張って育てていたが、新しい仕事に就くのに子供の世話ができなくなり、伯父(ハイジの祖父)に託したのが、物語の発端である。
 
なお「アルプ(Alp)」といったり「アルム(Alm)」といったりしているが、いづれもアルプス地方に広がる、高山地域(2000m以下)の放牧場(Alpwirtschaft/ Almwirtschaft)のことである。そこからアルプスという名前が出たという説もある(異説もある)。アルムおんじのような人たちは結構いて、家畜の所有者たちから家畜を託され、村から離れた場所で家畜の世話をして孤独な生活をしていた。
 
原作は2本の小説から成っている。
 
『Heidis Lehr und Wander jahre』(ハイジの修業と遍歴の時代)
 
ハイジがアルプスに連れて来られて、アルプスの自然に馴染むところから始まり、フランクフルトに連れて行かれてクララと親しくなるが、病気になってアルプスに戻るまでの物語。
 
『Heidi kann brauchen, was es gelernt hat』(ハイジは習ったことを使える)
 
その後日談で、おんじがハイジを学校に行かせるようになり、自分も教会に行くようになり、またクララがアルプスを訪ね、立つことができた話。
 

今回のドラマでも、アルプスでの生活→フランクフルトでの生活→アルプスに戻る→クララが来る、という流れで物語を展開する。クライマックスのクララが立つシーンでは、クララ役の東雲はるこがずっと座って演技していたのを急に立ち上がったので、立ちくらみして(だいたい、はるこは少食すぎる)、本当によろけそうになり、慌ててハイジ役の町田朱美が支えたので、この映像を見た視聴者は「迫真の演技だ」と言っていた(実は演技ではなかった!)。
 
今回のドラマで、ゼーゼマン家の若いメイド、ティネテ役に栗原リア(ColdFly5)が起用されている。実は、後述の理由で、リアが年内くらいスケジュールが空いてしまったので、“コスモスが”美高さんに頼み込んで使ってもらったのである。最初の台本にはティネテの役が無かったのを急遽書き加えた。
 
リアはこの面倒くさがり屋の(でもたまに親切な)メイド、ティネテの役をうまく演じ、その演技力を大きく評価されることになる。
 

10月29日にトリビュートアルバムの制作が決まった後、コスモスは醍醐春海(千里)およびケイと3人で話し合った後、大宮万葉(青葉)に電話を掛けた。
 
「大宮先生、フィリピンのアジア水泳選手権に出場なさいますよね。いつ渡比なさいます?」
「あれは延期になったんですよ。既に1年延期されていたから実質中止ではないかと思っています」
「あら、でしたらスケジュール空きました?」
 
青葉は“負けるものか”と思って答える。
 
「社会人選手権が11/6-7日に宇都宮であるので、それに出ます。だから今練習で忙しくて」
「だったら、毎日津幡で泳いでおられるんですか?」
「です。だから忙しくて忙しくて」
「でも津幡と自宅の往復たいへんですよね」
 
あれ・・・?
 

「50mプールの傍に、無料で食事と宿泊ができる所をご用意しますので、ちょっと熊谷まで出てこられません?だって津幡と御自宅の行き来って、片道1時間近く掛かりますもん」
 
しまったぁ!
 
「それにそちらにおられると、結構細かい雑用とかも出ますよね。集中して練習できた方がいいですよね」
 
負けそう・・・・でもそちらに行くと“細かい”どころか“大きな”用事が用意されているのでは?
 
「それにこちらなら、フィアンセさんと会うのにも便利だし」
 
うっ・・・。桃姉からまで、もっと会ってやりなさいと言われてるし。
 
それで一応訊いてみる。
 
「で、とのくらい掛かるんですか?半月くらいですか?」
「大した期間ではないんです」
「あ、そうなんですか」
 

だったら一週間くらいかな。大会中は休ませてもらうから、大会の前後数日ずつ用事を片付ければいいんだろうか。
 
「ほんの2〜3ヶ月だと思いますから」
「え〜〜〜〜!?」
 
半月より長いじゃん!!!
 
「だからアメリカに行くのを断る理由にできますよ」
 
落ちた!
 
「行きます」
 
実は例の日食観測の件で、訓練まで受けなくてもいいから、12月に向こうで宇宙飛行士の適性検査だけでも受けてくれないかと言われていたのである。
 
11月6-7日の社会人選手権から、1月20日の北島康介杯までの間、大会日程が空いていた。そこに12月にアラブ首長国連邦で、短水路世界水泳選手権があるはずで、青葉はその派遣選手として発表されていたが、コロナの状況が厳しいのでつい一週間ほど前、10月23日に、日本は不参加を表明。派遣もキャンセルになっていた。
 
それで大会がキャンセルになったようなので、もし時間が取れたらアメリカまで半月くらいでいいから行ってきてくれないかと言われていた。
 
でも半月の約束が2年になるとか、よくある話なので、青葉は警戒していた。
 

アメリカまで宇宙飛行士の訓練に行くくらいなら、コスモスちゃんに付き合ったほうがまだマシだと青葉は思った。(でもこれ、ちー姉の入れ知恵だな?)
 
「では明日の朝、お迎えを行かせますので」
とコスモスは言った。
 
明日の朝!?
 

翌日(10/30)朝7時!青葉の家に訪問者があった。
 
「お早うございます、大宮先生いらっしゃいますか?」
と言って、笑顔で挨拶しているのは、アクアのマネージャー、高村友香と緑川志穂である。
 
「お早うございます!お疲れ様です。今出る準備しますから、ちょっとあがって休んでいてもらえませんか」
「はい、すみません」
 
それでふたりを家に上げて、母に頼んで取り敢えずコーヒーを出してもらう。
「早朝から飛行機でいらしたんですか?」
「いえ。ふたりで交替で運転してきました」
「それはお疲れ様です!」
「能登空港が8時半からなので、それからこちらに向かっていては遅くなるので」
 
つまり何か急を要する仕事なのだろうか。でも私、大会前にあまり時間を取りたくないんだけどなあ。
 

「だったら、朝御飯もまだでは?」
「いえ、有磯海(ありそうみ)SAで朝食は食べてきました」
「じゃ冷凍ピザでも」
「いただきます」
 
ということで、母が冷凍ピザをチンしてくれたので、ふたりはそれを頂いていた。
 
「そうだ。大宮先生、楽器を持ってきてくださいとのことです」
「楽器ですか?」
「サックスとフルート・龍笛にギター・ベースに」
「はいはい」
「ピアノは向こうに用意しておきますので」
「ピアノを持ち歩くのは辛いですね!」
 
というかうちに今ピアノは無いけど。もっとも千里姉は新しい家が完成したらピアノ1台買ってあげるよと言っていた。
 
それで青葉はフルートと龍笛を荷物に入れ、サックスケース、ギターとベースのケースを用意する、ギターとベースは緑川さんが持ってくれた。
 
それで、母に行ってきますを言い、出掛ける。路地を歩いて道路まで出る。近くの公園に車は駐めてあった。この付近は時間貸し駐車場のようなものも無いので、駐める場所には結構苦労する。
 
しかしこの家に2011年4月から10年半住んでるけど、この付近も区画整理されたら全然様子が変わってしまうんだろうなと青葉は少し感傷的になった。住民さんも半分くらいはどこかに移転してしまうようだ。青葉の家同様、敷地面積の狭い家が多いので、区画整理で面積が減らされると、建蔽率の問題もあり、事実上生活のできるサイズの家を建築できなくなってしまう人が多いようだ。
 
でも確かにここで火事とか起きるとどうにもならないし、死人も相当出そうだから、区画整理もやむを得ないのだろう。
 

“日産のエンブレムを付けた” BMW 225xe iPower に乗り込む。高村さんの運転で能登空港に向かう。能越自動車道を終点まで走り、9時前に能登空港に到着した。
 
高村さんだけが降りて緑川さんは車に残る、
 
「あれ?緑川さんは?」
「私はこの車を東京に回送します」
「お疲れ様です!安全運転で」
「はい。ありがとうございます」
 
それで青葉と高村さんだけで能登空港のビルの中に入り、熊谷からの便が到着するのを待つ。やがて到着するので、通行証を見せて駐機場に行き、Honda-JetRedに搭乗した。この機体はアクア専用機で、パイロットも主としてアクアを担当している高山峰代さんである。
 

9時半頃、離陸許可が出るのでホンダジェットは能登空港を離陸した。機内で高村さんは
「大宮先生、取り敢えずこのアルバムを聴いて下さい」
と言ってMP3プレイヤーを渡すので聴いてみる。
 
「ワンティスですか!」
「2004年1月に発売されるはずだったアルバムです」
「でも初めて聴いた」
「ずっと音源が行方不明になっていたのが、つい一週間ほど前に見付かったんですよ」
「それは凄い」
 
「19日に亡くなった関西に住んでいた男性が持っていたんです。このCDが大好きでいつも掛けていたので、棺に入れて送ってあげようと言っていたのをたまたま葬儀に出席していた音楽関係者が気付いて、ゆずってもらったんですよ」
 
「それは間一髪だった」
 
“音楽関係者”というけど、§§ミュージックの関係者なのだろう。だからこの話がコスモスから来たのだろう。
 

「たぶん当時営業用に作られたプロモーション版と思われるのですが、日本国内にそれ1枚だけ残っていたのではないかと思います」
 
青葉は少し考えた。
 
「たぶん3枚です」
 
「他に2枚あるんですか!」
「場所までは私には分かりませんけど」
「凄い」
 
「でも物凄い幸運でしたね」
「だと思います。詳しい話は向こうで伊藤(コスモスのこと)がすると思いますが、これのトリビュート版を作るんですよ」
 
その瞬間、青葉にはコスモスの意図が分かった。
 
「なるほどー。うまいですね。この20年ぶりに発見された音源をそのまま発売したって5万枚売れるかどうかですけど、最近の歌手・・・あ、アクアが歌うんですね?」
「そうです。彼女しか歌っていい人はいないと思います。高岡さんの娘ですから」
 
うーん。娘かどうかは疑問があるが、子供であることは間違い無い。
 
「アクアが歌えばミリオンまで行かなくても40-50万枚は売れる」
「それを狙っているんですよ。それでワンティスに興味を持ってくれた人はきっとオリジナル版も買ってくれる」
「それならオリジナル版も12-13万枚程度は売れるでしょうね」
 

青葉はフライト中にこのアルバムを全部聴き終えたが、微妙な音源だと思った。楽曲としてはわりといいのが揃っている。特に2曲目の“ロングロングアゴー”というリフレインのある曲が物凄くいい。
 
でも楽曲のアレンジが良くない!
 
きっとワンティスには、しっかりした音楽教育を受けたアレンジャーが付いてなかったんだ。青葉は、自分は正規の教育を受けた訳ではないけど、それでももう少し何とかアレンジするのにと思った。明らかな和音の間違いも目立つ。
 
また演奏技術も低い。リードギター(高岡さん?)と第1キーボード(下川さん?)はわりとまともだけど、それ以外の楽器は技術が低い。今でこそ雨宮先生とか凄いサックスプレイヤーだけど、当時はまだまだ下手だったんだなあと思った。
 
やはりワンティスって『無法音楽宣言』のインパクトが凄くて、それで3年間突っ走ったバンドではないかと青葉は思った。特に作詞担当が夕香さんになってからは、言っちゃ悪いけど、普通の曲が多くなった。ファンにもレコード会社さんにも理解しやすい曲になったけど。最後の『疾走』だけが異様だけど。あれは何か特異な状況で書かれた詩だ(薬物なら事故の時に検出されているはずだから、薬物ではない)。
 
結論として、このアルバムを今出しても多分2-3万枚行くかどうかだ!
 
 
前頁次頁時間索引目次

1  2  3  4  5  6  7  8 
【夏の日の想い出・Long Long Ago】(6)