【春茎】(3)

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2019年3月23日(土).
 
夏野明恵がG大学に入学する10日ほど前。
 
青葉は『金沢ドイルの北陸霊界探訪』の撮影(取材)のため、朝から金沢の〒〒テレビに出かけた。
 
今回は昨年11月に「H高校七不思議」を取材した時に青葉が口をすべらせた“能登七不思議”の取材なのである。もっとも今回はオカルト的なものは何もなく、ひたすら自然の造形を楽しむ旅になりそうである。取材する場所は結局12ヶ所となった。
 
1.宝達志水町 モーゼの墓
2.なぎさドライブウェイ
3.羽咋のUFO
4.ワープした駅
5.曽々木海岸
6.曲木丘
7.日本の中心
8.倒さ杉
9.見附島・恋路海岸
10.ヒデッ坂・羅漢山
11.関野鼻・ヤセの断崖・義経の舟隠し
12.能登二見、巌門、鷹の巣岩
 

今回の取材に参加するのは、神谷内ディレクター、ADの幸花、青葉(金沢ドイル)、カメラマンの森下の4人である。秋の取材にまで参加していた助手の青山さんは大学を卒業して、一般企業に就職したため離脱した。代わりのスタッフについては検討中ということである。いつもドライバーをしている城山さんはこの日どうしても外せない娘さんの用事で大阪に行っているので今回は神谷内さんが自分で運転することにした。しかし青葉の日程がこの週末しか空いておらず、日程をずらせなかった。4人なので、使用する車もいつものエスティマではなくヴィッツである。
 
青葉が自分のアクアで集合場所のイオン・杜の里店に行き、駐車場に駐めて北國銀行前の入口に行くと、神谷内さんが居て
 
「何度見ても派手な車だねぇ」
と言う。
 
「私らしくないとよく言われます」
「でも目立つよね!」
「広い駐車場に駐めた時にどこに自分が駐めたか分からなくなることだけはないです」
「それはいいかも!」
 
すぐに幸花が来る。
「遅くなって済みませーん」
と言ってきたが、
 
「何あの異様に可愛い車は?」
と神谷内さん。
 
「先週、中古車屋さんで見掛けて衝動買いしました」
と幸花。
「なんかお姫様っぽい仕様」
と青葉。
「これ20代の内しか乗れないね」
「あははは。60歳になってもこれ乗っていたら、石ぶつけられるかも」
 
そういう訳で幸花が乗っているのはゼストスパークのAスタイルパッケージという特別限定車である。物凄いガーリッシュなデザインである。
 

それで残るはカメラマンの森下だけなので、3人で雑談しながら待っているとそこに18歳前後の若い女性が買物を終えたのかエコバッグを2つ持って店内から出てきた。こちらの3人と一瞬目が合う。彼女は会釈した。そしてそのまま通り過ぎようとしたのだが、幸花が彼女に飛びついた。
 
本当に首の所に抱きつくようにして飛びついたのである!
 
「待ったぁ!」
「やめてください!」
 
「君、夏野君だよね?」
「どうもその節はお世話になりました」
 
青葉はびっくりした。それはH高校七不思議の時に取材に協力してくれた夏野明宏だったのである。
 
その後、封印の旅をした時は女物の和服を着ていた。彼の曾祖叔母(曾祖母の妹)の慈眼芳子が亡くなった時は中性的な格好で青葉の所に来た(葬儀中は学校の(男子)制服を着ていた)。しかし今見る彼は、普通に女の子にしか見えない。垢抜けたブラウスとカーディガンを着て、白地に花柄のスカートを穿いている。青葉は彼に高校卒業したのを機に女装生活・女装通学を唆そうかと思っていたのだが、どうも今更その必要はないようである。
 
「性転換したの?」
「まだしてませんけど、高校も卒業したし、男の子から卒業して大学はこんな感じで通学しようかと思って」
 
「いいと思うよ!」
と幸花は言った。青葉も頷く。
 
「そうだ。君ついでにさ、これから私たちの取材に同行しない?」
「え?」
「女の子になった記念に女性アシスタント体験」
「えっと・・・」
「ディレクター、車にもうひとり乗りますよね?」
「うん。乗るけど、その格好では厳しい」
 
神谷内さんが許容的なのは、やはり慈眼芳子の親族だからだろう。
 
「どこに行くんですか?」
 
それで神谷内さんが説明すると彼(彼女?)はびっくりしていた。
 
「それスカートじゃ絶対無理。登山靴も要りません?」
「一部必要な所もある」
「いったん自宅に戻って着換えていいですか?買物した食糧も置いてきたいし」
「確かに食糧は置いて来た方がいいね。だけど登山靴持ってる?」
「持ってます。でもウォーキングシューズの方がいい所もありそう」
 
「君のおうちはどこ?」
「S町なんですが」
「ここから10分くらいで行けるね!」
「それで買い出しに来てたんですよ」
 
一方森下カメラマンだが、金沢市内で事件が発生してそちらの取材に急行したという連絡が入った(*1)。民放、特に地方局は少ない人数で運用しているので急があればジャンルに関わらず動員される。
 
「仕方ない。僕が自分で撮影しよう。いったん局に戻ってカメラ取ってくる」
と神谷内さん。
 
「でしたら、私が夏野さんを乗せてアパートまで行ってきます」
と青葉。
 
「だったら高松SAで落ち合わない?」
「そうしましょうか」
 
「私はどちらに付いて行けば?」
と幸花が迷っている。
 
「神谷内さんに付いていったら?荷物あるかも知れないし」
「そうしようかな」
 

それで神谷内さんと幸花は各々自分の車で〒〒テレビに向かい、青葉は明宏、いや明恵と呼ぶべきだろう。明恵を乗せて彼女のアパートまで行った。幸花をテレビ局の方にやったのは明恵のアパートを幸花に見せないためである。
 
「実はまだ完全には引っ越してないんですけど、洋服の大半と登山装備はもうアパートの方に持って行ってしまっていたんですよ」
「いつ引っ越すの?」
「入学式の前日です。それまでは親の金で御飯を食べておこうと」
「ああ、その考え方は正しい」
 
アパートはコンビニから近く、このコンビニは駐車場が広いのでその隅に駐めさせてもらい、アパートまで行く。階段を登る。
 
「ドイルさん、4階まで上がるのに息が乱れませんね」
「まあ水泳の日本代表だし」
「マジですか!?」
 
明恵はアパートに入るとまずメイクを全部落とした。山の中に入っていく所が多いので、香料があるとその香りに誘われて蜂が寄ってくる危険がある。山に入る時はノーメイク、整髪剤などもNGである。
 
その後、Tシャツ、白い長袖シャツ、青いジーンズのパンツに着換え、その他に着換用の服もたくさんバッグに詰めていた。
 
「これ多分何度も着換えますよね」
「そうなる気がする」
「アイゼン要ると思います?」
「もう大丈夫だと思うよ。それほど高い山には行かないし」
 
それで登山靴と登山用ステッキを持ち、ウォーキングシューズを履いて一緒に出た。
 
コンビニで飲物やおやつ、Lチキなどを買った。車に乗って山環(金沢外環状道路・山側)まで降りて行く。これをそのまま東へ進むと今町JCTから津幡バイパスに入る。舟橋JCTを過ぎると右車線に入っておく。やがて、のと里山海道(旧:能登有料道路)の分岐があるのでそちらに移行する。
 
津幡バイパス→のと里山海道へ進行するのは右分岐なので、あらかじめ右車線に入っておかなければならない。ただしその前の舟橋JCTでは左側が能登方面、右側が(富山県)高岡方面なので、舟橋までは左側に居なければならない。県外ドライバーには厳しい進行である。
 
やがて車は高松SAに入る。青葉は施設からできるだけ遠い場所に駐めた。降りてSAの施設の中も見るが、まだ神谷内さんたちは来ていないようである。
 
「トイレに行って来ます」
「私も行こうかな」
 
それでトイレに行くが、むろん2人とも女子トイレに入った。
 
「女子トイレ慣れしてる」
と青葉はトイレを出てから言った。
 
「これって開き直りという気がします」
「うんうん」
「高校卒業するまでは中途半端なことしてたけど、もう男子トイレに入ることは無いと思います」
「明恵ちゃん、男子トイレに入ったら注意されてたでしょ?」
「男子制服着てても、君こちらは男子トイレ!って言われてました」
「やはりねぇ」
 

やがて神谷内さんと幸花が乗ったヴィッツが来る。2人もトイレに行ってきてから、そのヴィッツに4人で乗って出発することにする。青葉の車はここに放置して取材終了後に回収する。
 
高松SAのすぐ先の米出(こめだし)ICで降りて、10分ほど行った所に
「←モーゼパーク」という看板がある。しかし気をつけていないと見落としそうな看板だし、ここに至るまで何も案内が無かった。実際神谷内さんは通り過ぎそうになったのだが、明恵が「そこに看板が」と言ったので気付いたのである。幸花から「おお、役立ってる、役立ってる」と言われていた。
 
そこの細い道を入って行くと黄色い目立つ建物があるので、モーゼパークの施設かと思ったら違った!どうも一般の住宅っぽい。その少し先に公衆トイレのようなものがある。緑色の看板があり「→モーゼ森林浴コース」と書かれている。降りてよく見るとそのそばに「→駐車場・伝説の森モーゼパーク」という薄くなった木の看板もある。それで念のためトイレに行った上で、その坂を登っていくと駐車場があったので駐める(トイレがある場所はバス用の駐車場のようである)。
 
「でもドイルさん、一度来たことあるって言ってなかった?」
と幸花が訊く。
「ごめーん。友だちとおしゃべりに夢中で、経路はよく見てなかった」
「ああ、ありがち」
 
「でも何でしょう?これは」
「お墓が3つあるから柱を3本立てたのかも?」
 

(2019.6.18撮影)
 
取り敢えず、青葉・幸花・明恵が各々の柱の所に立ったり、そばにあるストーン・サークル?のようなものに座ったりして撮影する。
 
「でもここ何かエネルギーは感じませんか?」
と明恵が言う。
 
ふーん。やはりそういう感覚が発達しているみたいねと青葉は思った。
 
「うん。ここはエネルギースポットだと思うよ」
と青葉も答えた。
 

その柱が3本立っている所の左手に登り口がある。
 
《注意・熊出没》
などという看板が立っている。
 

 
「熊は恐いね」
「ドイルさん、熊が出た時の対処は?」
と幸花が訊く。
 
「遭遇してしまった場合、逃げれば動物の習性として追いかけてくるから、まずは笑顔で手を挙げて挨拶して、こちらは相手とやり合う意志は無いことを示す。こちらが戦闘態勢なら向こうも戦わざるを得ないと思う」
 
「まずは友好条約ですね」
 
「そうそう。悲鳴あげたりしてこちらが怖がっていたら、向こうは何だ弱い奴かと思って襲ってくるから、対等な相手だけど今は喧嘩したくないという意志を伝えることが大事です。それで背中を見せたらいけないから、後ずさりで熊との距離を取る」
 
「ああ、それは聞いたことあります。死んだふりとか木に登るとかはNGですよね?」
 
「熊は別に死んだ動物でも食べます。横になったら、どうぞ食べて下さいと言わんばかりです。熊は木登りは得意です」
「そのあたりの昔話はやはり間違いですね。向こうが寄ってきた場合は?」
 
「万一向かってこられたら逃げるしかないですけど、その時、わざと荷物を少しずつ落としていくんです。おにぎりとかパンとか持っていたらそれを1個ずつ落としていくと、熊がそれを食べてる間に逃げられます。最後は帽子とかリュックとかを落とす」
 
「昔話の《三枚の御札》だ!」
「あれは実際、熊から逃げきった話だと思いますよ」
「ありそうですね」
 
「でも基本的にはそもそも熊と遭遇しないように、大勢で行く。熊も多人数を相手にしたくない。ひとりで行く場合はラジオとかをつけていく」
「なるほど」
 
「ラジオが無い場合は熊鈴とかをつけていく。できるだけ音を立てて熊の方から逃げて頂く」
「それで熊鈴な訳ですか」
 
「ただこれは一種の賭けなんです。人間を食べたことのない熊なら、何か大きな動物が来た。恐そうだから逃げよう、と思ってくれます。しかし人間の味を覚えてしまった熊なら、美味しい御飯が来た!と思って寄ってくるんです」
 
「人間を食べたことのある熊に会う確率は?」
「低いと思いますよ。人間が食べられたような被害が出た場合はたいてい山狩りしてその個体を退治していますからね」
 
「熊に襲いかかられた場合は?」
「イチかバチかで熊に抱きつく手もあります。熊は手が短いから、抱きつかれると対処しにくいんですよ」
 
「抱きついた後は?」
 
「南無阿弥陀仏なり南無妙法蓮華経なりアーメンなり、自分の信じる宗教の言葉を」
「私信心とか無いんですけど」
「その場で好きな宗教に入信を」
 

そんな冗談?を交わしてから道に入っていく。青葉、幸花、明恵と続いて入っていくところを神谷内さんが撮影する。
 
少し行った所に《モーゼの墓記帳所》という小さな小屋がある。
 

 
中を覗いてみると、ノートが置いてあり、来た人が思い思いのメッセージを残しているようだ。
 
「結構人が来てますね」
「日に3〜4件くらいの記帳がありますね」
「結構物好きがいるんですね〜」
と明恵が言っているが同感である!
 
そこから少し行った所に分かれ道がある。
 
道案内があるので「→三ツ子塚古墳群」「→ミステリーヤード」と書かれた右手の方に行く。
 
つづら折りに山道を登って行くと5分ほど登った所に大きな石の解説盤がありモーゼの絵と解説が書かれていた。しばしそこで撮影する。
 

 
それで
「この先にお墓があるのかな?」
と言って幸花が先に進もうとしたが青葉が停める。
 
「そちらは遊歩道に出る道です。こっちです」
と言って、青葉はその説明盤の左手にある道を指さす。
 
「そこに入って行くんですか!?」
「これ看板が欲しいですよね。ここまで到達してもお墓の場所が分からずに到達できない人もいると思いますよ」
 
実際青葉も高校生の時に来た時はそのまま進んで遊歩道に突き抜けてしまったのである。そこから道を戻っていて古墳群の裏側から入る道に気付いてお墓に到達することができた。
 
それで青葉たちがその細い道を上っていくと、塚のようなものが左右にある。青葉はその左手の塚に登っていった。
 
「待って。これきつい」
と幸花は声を挙げているが、青葉も明恵もヒョイヒョイと登っていく。その様子を下から神谷内さんが撮影する。
 
青葉たちに少し遅れて幸花も塚の上まで到達したが
「何これ〜」
と声をあげている。
 
「南無摩西大聖主と唱えて合掌したくなりますね」
 
↓のように卒塔婆のようなものが立てられ、狛犬?もいる。
 

 
でも幸花は本当に合掌していた!
 
青葉と明恵も結局目を瞑って合掌してご挨拶をする。その様子をまた神谷内さんは撮影している。神谷内さん本人も合掌してから言った。
 
「でもこれは凄いね。山道を歩いてきただけの価値はあると思う」
 
「以前来た時よりメンテされている気がします。この新しい卒塔婆は昔は無かった気がしますよ」
と青葉は言った。
 
「説明盤の所までの道もけっこう整備されている感じがあったね」
「やはりわりと人が来るんでしょうね」
 
「モーゼ饅頭とかの発売所作ったらどうだろう?」
などと幸花が言っている。
 
「まあ日に5個くらいは売れるかも知れませんね」
 

下まで降りてから柱が3本立っている所でまた少し追加撮影してから次に行く。ここまで神谷内さんが運転していたので青葉は
 
「運転は交替でしましょう。次は私が運転しますよ」
と言って運転席に就いた。神谷内さんが助手席で、後部座席に幸花と明恵である。
 
モーゼパークは県道229号線沿いにあるのだが、その229号をまっすぐ走っていくと今浜ICに到達する。
 
「これ米出ICから来るより今浜ICからの方が道が分かりやすいね」
 
「そうなんですけど、カーナビは米出IC経由の道を案内するんですよ。たぶん距離的に米出ICのほうが今浜ICより僅かに近いんでしょうね」
 
そして青葉たちは今浜ICには乗らずに!そのまま海岸側に突き抜けた。
 
ここに《千里浜なぎさドライブウェイ》の出発点があるのである。
 
入口の所に青葉・幸花・明恵の3人を立たせて記念撮影してからドライブウェイに入る。
 

(2019.6.18撮影)
 
ここは(恐らく)日本で唯一、“普通の車で”走ることのできる浜辺である。この海岸の砂が物凄く緻密なので、タイヤがめり込むことがない。普通なら特殊な4WDのSUVとかでないと砂浜に車を乗り入れると簡単にスタックしてしまうのだが、この砂浜はそのようなことがない。それで普通の道路として開放されているのである。
 
時々並行する、のと里山海道(旧:能登有料道路)の一部が砂浜になっていると誤解している人がいるが、向こうは普通の舗装道路である。
 
いったん車を駐めて、青葉たちが車のそばに立って手を振っているのを神谷内さんが撮影する。青葉はふと横をみたら《千里》という海の家があるのにギョッとした。すぐに“千里浜”だから“千里”なのだろうと思い至るが、千里姉に監視されている気分である。
 

 
車に戻ってドライブウェイを走行する。ここは幸花に運転させて、運転している所を助手席から神谷内さんが撮影したが
 
「全然普通の道路の感覚ですね!」
と幸花も言っていた。
 
青葉たちが通行した時は、青葉たちの走る海寄りの下り線は濡れているのだが、陸寄りの上り線は乾燥している。
 
「これ多分、下り線の方が少し難易度が高くないですか?」
と幸花。
 
「だと思いますよ。濡れている分砂が動きやすいから、あまり無茶な運転するとハマる危険もあります。雪道を運転する感覚で急のつく動作をしないように」
と青葉はコメントした。
 
見ていると、途中何個かある海の家の所に車を駐めている人たちがいるし、また海側に車を駐めて記念撮影したり、浜辺でくつろいでいる人たちもある。大型の観光バスともすれ違った。ここを走るのがどうも観光コースに入っているようだ。
 
千里浜ICへの出口を通過!して更に少し行った所に終点がある。時々千里浜ICが終点と書いてある資料もあるが、実際の終点はその1kmほど北側である。ここに千里浜レストハウスがあり、青葉たち一行は休憩し早めの昼食を取るとともに、ここでも砂で作られた仏像?などの前で撮影した。
 
「私たち霊界探訪3人娘ということでいいかも」
などと幸花が言っている。
「それって私、これからも出演するってことですか?」
と明恵。
「当然当然。ギャラは1回100円くらいで」
「100円なんですか〜?」
と明恵が言うと
「まあ3000円くらいは出すよ」
と神谷内さんが言っているが、どっちみち安い!
 

レストハウスの入口の所で売っているイカダンゴがもちもちしていて美味しかった。
 

 
ここから神谷内さんが運転し、羽咋市内の道を走ってコスモアイル羽咋に至る。
 

(2019.6.18撮影)
 
「UFOの形をしている!」
と幸花が楽しそうにしている。ちなみに入口横に立っているのはマーキュリー型レッドストーンロケットである(時々サターンV型ロケットと思っている人もあるがサターンV型はこれの更に5倍の100mほどある)。
 
予め取材の許可は取っているので受付の所でその旨言うと、スタッフの人が1人奥から出てきて案内してくれた。
 
まずはエレベータで2階にあがるが、青葉は神谷内さんに
「エレベータ内はずっとカメラ回していて下さい」
と言った。
 
それでカメラを回したままにしていると、エレベータはドアが閉まると灯りが消え、全面が星空のようになる。
 
「きれい!」
と明恵も幸花も声をあげた。
 
「いや、灯りが消えた時はびっくりした」
と神谷内さんが言っている。
 

展示室内に入るが、たくさんの宇宙船や月着陸船、宇宙服などが展示されており、幸花が物凄くはしゃいでいた。明恵も興味深そうに展示を見ている。
 
展示室のいちばん奥の所にはUFO関係の資料も展示されていた。神谷内さんがあれ?という顔をする。
 
「そうはちぼんの実物が以前展示されていませんでした?昔、他の局の番組で見た記憶があるんですが」
 
「あれは片付けてしまったんですよ。でも見られるんでしたら出してきましょうか?」
「はい。お願いします!」
 
それで出して来てもらった。羽咋周辺ではかなり古い時代から謎の物体が眉丈山(びじょうざん)から海の方に向かって飛んで行く現象が目撃されていたという。その飛行物体が楽器の“そうはちぼん”に似ていると言われていたらしい。それで↓がその“そうはちぼん”である。シンバルに似た楽器だが、ずっと小さい。
 

(↑は2007.6.8にコスモアイル羽咋で撮影したものです。その時はコスモアイル前のカフェに大量にUFOサミットの報告などが展示されていましたが、このカフェは現在閉鎖されています)
 
「これなら現代のUFOみたいな形ですね」
「円盤形のUFOですね」
 
と明恵・幸花は言っていた。
 
「同じようにUFOがよく目撃される場所として、飛騨の位山(くらいやま)とか、青森と秋田の境界にある梵珠山などもあります。どれも強いエネルギースポットなんですよね。恐らくは何かの自然現象なんでしょうけどね」
と青葉は解説した。
 
「やはりここはエネルギースポットですか?」
と幸花が訊く。
 
「眉丈山自体が、雨の宮古墳群とかもあって、色々ありそうな地域ですね」
「古墳群があるんですか?」
「前方後円墳・前方後方墳を含む30か40くらいの墳墓が集まっているんですよ」
「そんなものがあったんですか!この後寄ります?」
と幸花は言ったが
 
「ごめん。そこまで寄る時間が無い」
と神谷内さんは撮影しながら言った。
 
そういう訳で“雨の宮古墳群”はスキップして先に行くことにする。
 

その後しばらくスタッフの人にインタビューなどしていたら、インタビューアーの幸花の後ろから迫る怪しい影がある。
 
肩に触られるので「え?」と言って振り返ってから「きゃー!」と声をあげて危うく転びそうになった所を明恵が支えてあげた。
 
「紹介します。コスモアイルのバイトさんでサンダー君です」
とスタッフの人が言う。
 
緑色の顔の不思議な人物(?)が立っている。
 
「バイトさんなんですか?」
「UFOで地球にやってきたものの宇宙船が故障して自分の星に帰られないらしいです。それで修理代を稼ぐためにうちでバイトしているんです」
とスタッフの人が説明する。
 
「それは大変ですね!頑張って下さい」
と幸花は言ってサンダー君と握手した。
 
「ちなみに性別は?」
「男の子らしいですよ」
「年齢は?」
「1年の長さが地球と違うのでよく分からないそうです」
「なるほどー」
 
それで青葉・幸花・明恵とサンダー君の4人で並んで記念撮影した。
 

コスモアイルを出た後は、幸花が運転して、のと里山海道を通り、横田ICで降り、国道249号に出て中島町の西岸駅まで行く。駅の前が広場になっているのでここに車を駐める。
 
「みなさん、ここがワープした駅です」
と言って入口の駅名表示が一緒に映る位置に幸花が立って神谷内さんが撮影する。
 
無人駅なのでそのまま中に入る。
 
「この中のどこかにあると聞いたのですが・・・」
と言って探していたら、明恵が
 
「あ、これかな?」
と言うのでそちらに行ってみる。
 
「うーん・・・・」
と幸花が声をあげた。
 

 
“ワープした”駅名標が消えかかっているのである。↑をPhotoshopで画質調整試みたのが↓である。
 

 
この駅は西岸駅なのだが、このように無関係の駅名が書かれた駅名標が立っている。実はこの駅がアニメ『花咲くいろは』に登場する“湯の鷺”駅のモデルとなったため、2011年にこの駅で記念イベントが行われた。その時に設置されたのがこの駅名標である。本当の駅名標もちゃんとある↓
 

 
なお駅舎内には『花咲くいろは』のポスターが所狭しとたくさん貼ってあった。
 

 

「ところで、ここから穴水までぜひ、のと鉄道に乗って下さいと言われたのですが」
と幸花が言ったところでいったんカメラを停める。
 
「どうしようか?車内を森下君に撮影してもらって僕は車を穴水駅まで回送するつもりでいたんだけど」
と神谷内さんが言う。
 
「私が回送しますから3人でのと鉄道に乗って下さい」
と青葉が言う。
 
「でもドイルさんを入れない訳にはいかないし」
と神谷内さん。
 
「あのぉ、もしよかったら私が運転しましょうか?」
と明恵が言った。
 
「君、免許持ってるの?」
「先週取ったばかりです」
と言って運転免許証を見せる。
 
「ん?ちゃんと女の子の格好で写ってる!」
と幸花が嬉しそうに声をあげる。
 
「ディレクター、この免許証撮しましょう」
「ダメダメ。個人情報保護法」
と神谷内さんが言う。
 
「でも取ったばかりで運転大丈夫?」
と幸花は言うが
 
「いや取ったばかりならまだ身体が運転を覚えているはず」
と青葉は言う。
 
「じゃちょっと運転してみてよ。僕が同乗するから」
と言って実際にその付近を少し運転して戻ってきた。
 
「どうでした?」
「合格合格。免許取り立てとは思えない上手さ」
「ほほぉ。実は以前から運転していたとかは?」
「すみません。それも個人情報で」
「ふむふむ」
 
「じゃ夏野さんに車を回送してもらって、残り3人で穴水まで行こうか」
 
それで13:39の下り列車に乗ることにし、明恵がヴィッツを運転して穴水駅に向かった。
 

やがて列車が来るが、その『花咲くいろは』のラッピング列車である。
 
「わあこれ撮りたい」
 
と幸花が声をあげるが
「撮影してたら時間が掛かって迷惑だから降りてから」
 
と神谷内さんが言い、そのまま整理券を取って乗車した。「下り6・西岸」と印刷されている。それも神谷内さんは撮影していた。
 
「タイミングがわりと難しいので、次の能登鹿島を出たらずっとカメラは回し続けていてください、と事前リサーチメモには書かれている」
と神谷内さんは言い、実際鹿島を出るとずっと回していた。
 
「なんか今回の取材は霊界探訪ではなくて能登観光という感じてすね」
などと幸花が言っているが
「まあちょっとマニアックな観光かも知れないですね」
と青葉も答えておいた。
 
やがてトンネルに入る。
 
「ここかな?」
と言ってスタンバイしているが、このトンネルではなかった。それで油断していたらすぐまたトンネルがある。慌ててカメラを外に向ける。
 
「きれーい!」
と幸花が声をあげた。
 
トンネルの中で星が光っているようなイルミネーションがあったのである。
 
(乙ヶ崎トンネルというトンネル。イルミネーションは冬季限定らしいが、私が行った2019.6.7には実施されていた。突然だったので私は撮影できなかった)
 

穴水駅に到着してから、青葉と幸花がラッピング列車の前に並んで記念撮影した。
 
駅を出ると駐車場にヴィッツが駐まっている。明恵が車を降りて会釈した。
 
「どこもぶつけなかった?」
「大丈夫ですよー。カーブが多くて面白かった」
「面白かったのならOKだね」
 
トイレに寄ってから先へ行く。今度は青葉が運転した。駅の出口を出て左に行く。県道1号に出て此木(くのぎ)交差点でカーナビは直進を示しているが青葉は無視して右折した。ここから“地図に名前が載っていない高規格道路”珠洲道路が始まるのである。
 
「ああ、言い忘れていたけど、ちゃんと右折したね」
「左折でもいいんですよね」
「そうそう。それも書いてある。直進すると酷い目に遭う」
 
「カーナビが間違っているんですか?」
「カーナビは各地域の事情まで知らないから」
 
右を行くと珠洲道路の本線、左に行くと能越自動車道に入り、その終点で珠洲道路に合流する。しかしまっすぐ行くと急カーブが連続する県道1号・国道249号を行くハメになる。
 
「カーナビというのはしばしば快適なバイパスを走っているのを強引に降ろして曲がりくねって細い国道を走らせようとする」
と青葉は言っている。
 
「カーナビは、高速道路、国道、県道の順に良い道と思っているけど、特に田舎ではそうではないんだよね」
 
「この珠洲道路のことは、ローズ+リリーのケイさんが楽しそうに話してくれてました」
 
地元では“大規模”という俗称もある。多分“大規模農道”の略かと思われるが、実際には多数の県道・町道・市道・国道・農道の集合体である。
 
そういう訳で車は珠洲道路をひたすら30分ほど走るが
「この道、まるで高速道路みたい!」
と幸花が言っていた。
 
「夜中になると高速道路と間違ったかのように時速120kmくらいで走る車を結構見掛けるらしいですよ。どうせ警察は取り締まりなんかやってないだろうと思って」
 
「それは恐い」
「でも割とパトカーも走っているんですよね〜」
「それは恐い」
「点数12点で90日免停ですが、罰金10万円程度かな。前科一犯になります」
「前科というのがいちばん恐い」
「そうですよ〜。罰金の10万円は頑張って払っても前科は消えませんから」
 

やがて神和住という町名表示を見てすぐの所にドライブインのような所がある。今日はどうもお客さんが多いようでたくさん車が駐まっている。
 
「そこの丼屋さん美味しいんですけどね〜。今日は素通りします」
と言って、青葉はそのドライブインの手前の道を左手に入った。
 
それで少し走って行くのだが、何だか大量に車が縦列駐車している。
 
「何だろう?お祭りでもあるのかな?」
などと言っていたら、見慣れた顔がある。青葉は彼の近くで車を一時停止させた。
 
助手席の神谷内ディレクターが窓を開けて彼に声を掛けた。森下カメラマンなのである。
 
「どうしたの?」
「あれ?神谷内さんもこちらの取材ですか?」
「え?何か事件?」
「金沢で飲食店経営の女性が殺害された事件、この付近に死体が埋められたらしいんですよ」
「え〜〜〜!?」
「今、警察と消防団まで入って捜索しています」
「なんでこんな所に」
「あまり人が通らないだろうと思ったんでしょうね。実際にはかなり交通量の多い道らしいですよ」
 
この道は町道か農道と思われるが、柳田の中心部付近に住む人が能登空港や七尾・金沢方面に出るのに便利なので1日に推定300台前後通行するらしい。
 

結局森下さんを置いたまま、車は道を進む。県道26号との交点に出るので右折して柳田の中心部まで行く。県道6号との交差点に出るので左折して進む。15分ほど走ると県道6号の終点に到達する。右折して少し行った所に窓岩ポケットパークがあった。車をできるだけ邪魔にならない付近に駐めて降りる。
 
「ああ。これは面白い」
と幸花が声を挙げた。
 
大きな岩の真ん中に穴が空いているのである。
 
「これは海食洞が隆起したものかな?」
「だと思いますよ。能登半島はおおむね隆起地形なんです」
「月曜日に行く予定の能登金剛には海食洞が多いけど、この付近にもあったんだね」
「たぶん最後まで残ったもののひとつでしょうね」
 

(2019.6.17撮影)
 
「この窓岩の穴に夕日が沈む日があるらしいんですけどね」
「それはきれいでしょうね」
「撮影のチャンスは年に数回しか無いだろうから撮れたら奇跡の1枚ですね」
 

そのまま海岸線に沿って歩いて行く。遊歩道のような所の終端から堤防がある。
 
「あそこの岩、ちょっと変わった形してますね」
と明恵が言った。すると
「あの岩の見え方に注意していてね」
と神谷内さんが言った。
 
「何かあるんですか?」
 
それで少し歩いて行ったら幸花が
「あれ?アザラシみたいに見える」
と言った。
 
「まあ蛙岩というんだけどね」
「蛙ですか!確かにそれにも見える」
「私はカラスに見える」
「確かにカラス岩でもいいかも!」
 

(2019.6.23撮影)
 
「ずっと注目しててね」
 
「あれ、ここからは向こう側の岩も蛙に見える」
「そうそう。だから夫婦蛙岩、方言で夫婦ガット岩という」
「なるほど、ガットですか」
 
それで歩いて行く内に角度の問題で手前の岩はもう蛙には見えなくなった。ところが更に歩いて行くと
 
「あれ?蛙岩の位置が変な気がする」
「位置が変なんじゃなくて、別の岩が蛙に見えるようになったんだな」
「なるほどー!」
 
堤防が終端まで行くので道路に戻り、トンネル(八世乃洞門新トンネル)の前に駐車場があるが、ここで明恵が
「あ、蛙が増えてる」
と言う。
 

(2019.6.17撮影)
 
「大岩の手前に蛙が2匹並んでいるね!」
と幸花も嬉しそうな声をあげた。
 
 
神谷内さんが説明した。
 
「ここは最大2匹の蛙が見えるけど、見る場所によって、どの岩とどの岩が蛙に見えるかが変わるんだな」
 

(窓岩の駐車場から遊歩道が始まりその終端から堤防が続く。堤防の終端に案内所があり、案内所の向こうが八世乃洞門の駐車場である。遊歩道と堤防の境界付近では大岩は変な形の岩に見える(蛙と思えば蛙にも見える)が中岩の前くらいまで来ると明確に左向きの蛙に見えるようになる。この付近からはAの岩も左向きの蛙に見えるので2匹の蛙が見える。大岩の前付近まで来ると大岩は蛙には見えなくなり、Aの岩だけが蛙に見える。堤防の端付近まで来るとAは蛙には見えず代わってBの岩が蛙に見える。八世乃洞門の駐車場からはAとBが右向きの蛙に見える)
 
「面白いですね」
「年配の人を連れてくると、東京のオバケ煙突みたいだと言ったりする」
「それ何ですか?」
 
「もう無くなったけど、そこの発電所の煙突は、見る方角によって、2本だったり3本だったり4本だったりしたんだな」
「それってお互いに影に隠れてですか?」
「そうそう。実際には4本の煙突は菱形に配置されていた」
「なるほどー」
 

「福ヶ穴から上り梯子へ↑」という案内板があるのでそちらに向かう。洞門の入口が見えている。
 
この曽々木海岸と向こう側の垂水の滝の間は、古くは「能登の親不知」と言われた難所で毎年海に落ちて命を落とす者があったが、1780年に海蔵寺八世の麒山瑞麟が「座るも禅だが道を作るのも禅」と言い、加越能3国を托鉢してまわって浄財を集め13年掛けて1792年に両者を結ぶ道を作った。
 
明治20年(1887)になってこの麒山道を大改修し、曽々木側に手掘りのトンネルを通した。これが現在は「接吻トンネル」と呼ばれている部分である。昭和38年にそれより内側に曽々木隧道と八世乃洞門が建設され、両者を車で行き来できるようになった。
 
ところが2007年3月25日の能登半島地震で八世乃洞門の一部が崩壊。通行不能になってしまった。応急処置の工事で片側交互通行・夜間通行止めで暫定復旧したが、事実上迂回路が存在しない(迂回するには数十km走る必要がある)のでひじょうに困っていた。それが2009年11月1日、被災から2年半以上掛けて、山側に新トンネルが開通。やっと完全復旧したのであった。以前は2本の連続するトンネルで通行していたが、この新トンネルは1本で向こう側に出られるようになっている。
 

駐車場から左手に見えているのは曽々木トンネル側の入口である。トンネルは入口付近20-30mだけが通行可能になっており、その先にゲートがあって「ここを通る人は自己責任でお願いします」という掲示がある。
 
「ここは通ってはいけないよね」
「うん。危険だからこういうゲートが設けてあるんだから」
「通行中にほんとに壁面が崩れてきたりしたら、遺体を発掘するだけでもたいへんな作業だよ」
 
と青葉たちは言い合った。
 
テレビで通って見せたら、真似して通る人がたくさん出ることが安易に予測される。それでここは『通らない』という姿勢を見せておく。
 
いったんトンネルの入口まで戻り、左手にある旧道(明治時代に作られたもの)に入る。
 

(2019.6.23撮影)
 
これは50mほど行った所で通行止めになっている。以前はこの先、海沿いの遊歩道(波の花遊歩道)を歩いて垂水の滝まで行けたのだが(*3)、2007年の能登半島地震による岩石崩落で危険な状態になっているため通行止めになっている。復旧の目処は立っていない。
 
(*3)筆者も1993年に行った時はこの遊歩道を往復している。
 
この旧道の途中に福ヶ穴と呼ばれる大きな海食洞?があり、その入口の所にこのような岩がある。
 

 
自然石なのか彫ったものなのかは判然としない。現場で見た時はただの細長い岩に見えたのだが、宿に帰ってから写真をあらためてパソコンで見てみると観音様か何かのようにも見えた。
 
特に説明書きのようなものもない。福ヶ穴と不動などという看板があったので、これがお不動さんかと思ったのだが、どうもここの洞穴の奥に不動はあるようである。そこで懐中電灯を点けて!中に入っていく。リサーチャーさんの事前調査報告が無かったら、ここで懐中電灯が必要というのに思いも寄らなかった。
 
(お不動さんの近くだけは自動でライトがつくのだが、その途中が暗く、洞窟の床面の状態もよくないので懐中電灯無しでは危険である)
 
それで懐中電灯で足元を確認しながら10mほど進むと「不動明王・御縁之泉」という説明板があった。その奥に石仏のお不動様が鎮座していた。取り敢えずお賽銭を入れてお参りする。
 

 
撮影用のライトを明恵に持ってもらい、それで神谷内さんが撮影した。これもその場では分からなかったが、あとでこの動画のスティルをPhotoshopで増感してみるとレリーフ状の石仏が大きいの(これが不動か?)と右側に小さいのが並んでいるのが分かった。これは結局、画像処理はせずに、暗い中でお不動さんにお参りした、という図だけを放送することにした。
 
お不動さんの左手奥に「御縁之泉」という掲示がある(上の写真で明るい部分)ので、そこまで入ってみる。洞窟はそこで行き止まりになっているのだが、終端の所に小さな泉?があったが、泥水のようなものがあるだけで、水が湧いているのかどうかは不明であった。あるいは満潮の時に来れば水があるのかも知れない。
 

足元に気をつけながら洞窟を歩いて出て、洞門の駐車場の所まで戻る。
 
「さて、みんな準備体操しようか?」
 
それで機材を置いてみんなでラジオ体操をし、足の屈伸運動やアキレス腱を延ばす運動などをしてから登山!である。
 
車に気をつけて道路を横断(この付近は信じがたい速度で走る暴走車がいるし、トンネル内を無灯火で走る車も見受けられる)、駐車場の向かい側の登山口から登り始めた。機材は明恵と青葉が分担して持ち、神谷内さんはカメラだけにする。幸花に荷物を持たせないのは彼女は登るだけで精一杯だからである!
 
「この付近は凝灰岩地形なんだけど、それが長い年月の間に雨や流水による浸食を受けて、一見お地蔵様が多数並んでいるかのように見えるんだよ」
と神谷内さんが説明する。
 
「それってお地蔵様を彫ったのが並んでいるんではなくて自然の風景なんですか?」
と明恵が言う。
 
「そうそう。自然の造形」
 
それで登っていくのだが、これはなかなか素人には大変な道だと思った。
 
「これは・・・なかなか・・・大変な道ですね」
と幸花も言っているが、完全に息が上がっている。彼女を手ブラにしたのは正解であった。
 
ちなみに「手ブラ」とは「手でブラジャー」ではなく「手がブラブラ」の意味である!
 
「これはやはり登山ですね」
と予備のバッテリーやライトなどを持っている明恵も言っているが、彼女はこのくらいの道は平気そうである。何かスポーツしてた?と尋ねたが、彼女は「男子としては非常識なほど非力」なので、運動部には全く無縁だったらしい。
 
「でも曾祖叔母から小学3年以降毎日2kmのジョギング、中学生で4km、高校で8kmのジョギングを課されていました」
 
多分明恵は魔に憑かれやすい体質だから、それに対抗するため身体を鍛えることを慈眼芳子が課していたのだろう。
 
「毎日8km!?」
と幸花が驚いているが
 
「そのくらい普通ですよね?」
「私も中高生時代そのくらい走っていた」
と明恵と青葉は言っている。
 
道の状態はかなり悪い。倒木などもある。軽登山の装備(トレッキングシューズ、軍手・杖など)がないと通行困難な道である。それでも何とか青葉たちは40分近く掛けて展望台まで辿り着いた。途中何度も幸花が「休ませて〜!」と言い、非常食のチョコを食べて休んでいた。
 

(↑垂水滝の所の案内板から(*4))
 
「凄い道だった」
「でもこの景色は凄い」
「ほんとうにお地蔵様が並んでいるみたいに見えますね」
 
「この登山道が整備されてなかったら、一般人は拝めなかったでしょうね」
「登山の訓練受けている人しか無理だと思いますよ」
 
「ここは冬の間は雪があって危険だし、春先を過ぎると登山道に草が生い茂ってどこが道か分からなくなる。4月の前後だけが到達可能らしい」
 
「確かにここは草が生えてきたら入れないでしょうね」
 
結局現地で30分くらい休んでから下に降りた。下に降りるのは登ってきた時の半分の20分ほどで済んだ。
 

(*4)千体地蔵の写真を撮ってこようと思ったのですが、私が行った6月17日には既に登山道は草で完全に覆われていて、どこが道か判別できない状態でした。遭難したら人に迷惑を掛けるので素直に諦めて帰ってきました。↓は八世乃洞門の駐車場から撮影した恐らく千体地蔵の近くの同様の地形ではないかと思われるショットです。ひょっとしたら千体地蔵の一部なのかも知れません。
 

 
なお2018年5月に行った人のブログを発見したので少なくとも昨年の春までは到達可能であったものと思われます。その人もかなり苦労したようです。
 
今回実地撮影をギブアップしたのはこの千体地蔵と羅漢山の2つです。
 

窓岩の駐車場まで戻り、車に乗って“八世乃洞門新トンネル”を抜けた所に、垂水の滝がある。
 

(2019.6.23撮影)
 
「この垂水の滝は直接海に落ちているでしょ?こういう滝はひじょうに珍しいらしいです」
「へー!そんなもんですかね」
「やはり隆起地形ならではのものなんでしょうね」
「うん。たぶんそのせいだろうね」
 

垂水の滝の後、そこから少し先にある帆立岩に行った。
 


(2019.6.23撮影)
 
「これは知らないと見過ごす」
「まさか山側にあるとは思いませんよね」
 
逆三角形の形が、帆立舟に似ていることから帆立岩と言われる。元々は海岸にあったのだが、倒壊のおそれがあるということで、海岸線から30mほど内側、道路より山側に公園を作り、そこに移設したのである。自然のままでないのが残念だが、これが海岸線にあったら確かに波の浸食でいづれ倒壊していただろう。
 
帆立舟を思わせる岩は大小2個あり、幸花は「大帆立岩・小帆立岩」と勝手に命名して解説していた。
 
「もしかして蛙岩って、この帆立岩と同種の造形じゃないですか?」
と明恵が言った。
 
「ああ、そうだと思う。どちらも波の浸食で岩の下の方がえぐれてしまったんだろうね」
 

今日はこのまま垂水滝近くの旅館で宿泊する。
 
「あれ?僕、うっかり2人部屋を2つ予約してしまったけど、まずかったかな?」
と神谷内さんが言った。
 
多分最初の段階では明恵を男子としてカウントしていたのだろう。
 
「たぶん2人部屋って布団3つ敷けるんじゃないかな」
と幸花が言った。
 
「まあ女子高生をテレビ局の男性ディレクターと同じ部屋に泊めたら全国ニュースで報道されそうですね」
と青葉。
 
「霊界探訪じゃなくて、猥褻探訪と書かれたりして」
と幸花は言っている。
 
「でも・・・私、おふたりと一緒の部屋でいいんですか?」
と明恵の方が不安そうに言う。
 
「だってねぇ」
と青葉と幸花は顔を見合わせる。
 
「今日1日一緒に過ごしていて、明恵ちゃんが普通の女の子であることが分かったしね」
「性別について何も疑いは無いね」
 
神谷内さんも頷いている。神谷内さんの頭の中でも明恵の扱いは朝の段階では“女装男子”だったのが、既に普通の“女の子”に変化したのだろう。
 
それで旅館の人に言ったら、部屋に余裕があるから女性は4人部屋にお泊めしますよ、と言われた。料金もそのままでよいらしい。
 

部屋に入って“女3人”でおしゃべりしていたら、仲居さんが来て
 
「お食事までまだ少し時間がありますから、先にお風呂に入って下さい」
と言われた。
 
青葉は尋ねた。
「今日、私たち以外のお客さんは?」
 
「花火職人の団体さんが入っているんですよ。少し騒がしいかも知れませんけど、あんまり酷かったら帳場に言って下さいね」
と仲居さんは言っている。
 
「花火職人の団体さんというと男の人ばかり?」
「はい」
 
「女は私たちだけ?」
「ええそうです」
「男湯と女湯って別ですよね?」
「もちろんです!」
 
青葉と幸花は意味ありげに顔を見合わせた。
 

それで仲居さんが出て行った後、幸花は言った。
 
「さて、明恵ちゃん、一緒にお風呂行こう」
「え〜〜〜!? すみません。私特殊事情があるので、後から・・・夜中にでも入ろうかな」
「ここお風呂は23時までと言ってたよ」
「じゃその頃に」
 
「きっと遅い時間は従業員の人たちが入るよ。私たちはさっさと入った方が迷惑掛けないよ」
「で、でも・・・」
「大丈夫、他にお客さんは居ないし、私も青葉ちゃんも、明恵ちゃんが女の子であることは理解しているから」
 
などと言って幸花はほとんど明恵を連行するように連れてお風呂に行った。完璧なセクハラだが、本人がセクハラされたがっている感もあるので、まあいっかと思った。実際この3人だけなら問題はなかろう。
 

明恵は脱衣場に入るまでは、おどおどしていたが、中に入ってしまうと開き直ってしまったようである。
 
「普通に女の子下着つけてるね」
「男物下着はアパートには一切持って来ませんでした。実家に放置です」
「まあ使わないよね」
 
ブラジャーを外すと真っ平らな胸が露出する。
 
「おっぱい無いね」
「それが問題なんですよね〜」
と本人は言いつつもその点は開き直っている。
 
パンティを脱ぐと何も無い股間が顕わになる。
 
「あれ?ちんちん取っちゃったの?」
「隠しているだけです」
「隠せるもんなんだ!?」
「あまり深く追及しないで下さい」
 
青葉は明恵のタックを見て、これはかなり慣れているなと思った。初心者の内は“綴じ目”が、まっすぐにならなかったり、途中に穴が空いてしまったりしやすい。明恵のはほんとうに割れ目ちゃんに見えるようにきれいになっている。
 

ともかくもそれでお風呂に入る。各自身体を洗ってから湯船に入る。洗い場も4つしか無いし、湯船も3人入るとけっこう狭い。
 
「たぶん古い宿だから、女湯は狭いんじゃないの?」
「うん。ありそー」
 
湯船の中ではあまり“セクハラ”も無く、普通にガールズトークしている。このガールズトークに違和感が無い。それで幸花に言われる。
 
「明恵ちゃん、元々女の子の友だちが多かったでしょ?」
「私、男の子の友だちなんてできたことないです」
「やはり」
 
「女子たちからは純粋な意味で安全パイと思われていたから、ライブとかのペアチケットが当たった時の相手役とか、男の子に渡すラブレターの仲介とかよく頼まれていました」
 
「なるほどー」
 
「でも私がラブレターを渡すと、私自身が書いたラブレターかと思われて『悪いけど俺そっちの趣味無くて』と言われたり」
 
「ありがちありがち」
 

ところがそれで30分近く入っていて、そろそろあがろうかという話をしていた時、脱衣場との引き戸がガラッと開いて50代くらいの裸の女性が2人入ってくるからギョッとする。続けて青葉たちの部屋に来た仲居さんも(着衣のまま)入って来て、
 
「ごめん、お客さん。こちら予約入っていなかったんだけど、観光案内所からの紹介で今到着なさったお客さんなんですよ。一緒に入ってもらえます?」
と言う。
 
「あ、はい。いいですよー」
と幸花は答えた。
 
新しい客があった所ですぐあがってしまうのも感じが悪いので、ここは少し話をしてから「長湯しちゃったからそろそろあがりますね」と言ってあがる一手である。
 
しかし・・・・
 
明恵は念のため湯船の縁にタオルを置いていたので、それをさりげなく胸の所に当てて胸を隠した。しかしあまりよく見られると胸が無いことがバレそうだ。
 
2人の女性は「お邪魔しまーす」と言って入って来て、身体を洗ってから湯船に入る。5人入るとかなり狭い。明恵の身体が青葉と接触するが、明恵もまさかそれであそこが立ったりはしないだろう。実際身体が接触しても明恵は変に緊張はしていないようだ。女の子との身体的接触にも慣れているのかも!?中高生くらいだとそういうセクハラ?を同級生女子から受けてたりしがちだ。
 
明恵を幸花と青葉で挟む形にして、新たに入って来た女性たちと向かい合う形になった。
 
「どちらからいらしたんですか?」
「私たち五箇山(ごかやま)なんだけど知ってる?」
「南砺(なんと)市ですね。最初高速ラジオで『ごかやま』と言っているのが岡山に聞こえて、なんでこんな場所で中国地方の道路状況を放送しているんだろう?と思いましたよ」
と青葉が言う。
 
「そうそう。岡山との聞き違いはよくある。あんたは言葉が東北の方(ほう)みたい」
 
「ええ。岩手で育ったんで。でももう8年富山に住んでいるんですよ。だから北陸弁は分かるけど、発音がなかなか東北のが抜けないんですよね」
 
「ああ、小さい頃身についた発音は変わらないよね」
「一応3人、金沢の会社の仕事でこちらにきてて」
「へー、仕事なんだ!」
 
ここで放送局の仕事だなんて言ったら引き留められそうなので適当に誤魔化してあがろうとしたのだが、それでもおばちゃんたちの話は停まらない。能登の鰤が美味しかったとか、今朝は輪島の朝市を見てきたとか、話がマシンガンのように連続して出てくる。なかなか離脱のタイミングが見つけられず、明恵の性別がバレないか青葉も幸花もヒヤヒヤである。
 
その内、幸花が
「あんたおっぱい大きいね」
と言われる。
 
まずい。まずい。その話題は無茶苦茶まずい。
 
 
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【春茎】(3)