【東雲】(3)
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(C)Eriko Kawaguchi 2020-08-08
アクアは1月上旬1/01-1/11にドームツアーをこなしたが、その途中の1月5日にこれまで3人に分裂していたのが唐突に2人になってしまった。NがMとFにほぼ半分ずつ吸収されたのである。千里2・山村マネージャー・コスモス社長にこのことはすぐ報せたのだが、コスモス社長は2人になったアクアが過負荷にならないよう、山村さんのレベルで気をつけてあげてと言っていた。
1月8日深夜には、父ゆかりのポルシェを初めて運転して中央道→新東名を往復して来た。これは千里さん(2番さんだと思った)に同乗してもらっている。3人で交替で運転するつもりで計画を錬っていたのに2人になってしまったので、FはNに見立てた“アクア人形”を自分の膝において運転した。
1月16日(木)、この日はFが午前中に学校に行き、Mが午後から仕事に行ったのだが、Mが仕事に行っている間、Fは冷凍ピザをチンしてそれをのんびりと食べながら、ベッドに寝転がってネット漫画を読んでいた。そこにピンポンが鳴るので焦る。
誰が来たのかにより、対応すべき内容が変わってくる。
それでモニターを見てみると、千里さん(3番さんと見た)である!だったら問題無いのでエントランスをアンロックし、しばらく待って玄関ドアがノックされた所でドアを開けた。
「お疲れ〜。今日はどちらかがいるはずと思って寄らせてもらった」
と千里さんは言ったが、千里さんの後にいる人物を見て、龍虎Fは仰天した。
「西湖ちゃん!?」
西湖がここに来るのは別に問題ないのだが、その西湖が2人いるのである!
「え〜!?西湖ちゃんも2人に分裂したの?」
と龍虎Fは驚いて言った。
「多分、龍ちゃんにしても西湖ちゃんにしてもあまりにも忙しすぎるから分裂してしまったんだと思うよ。特に3月で龍ちゃんが高校を卒業した後は、西湖ちゃんは1人しかいなかったら学校に行けなくなる」
「それボクも不安なんだけどね。自分の体力がもつか」
と龍虎Fは言う。
「こうちゃん(山村マネージャー)は適当だからなぁ」
「ですよね〜?」
取り敢えず、こういうことに関しては《こうちゃん》は全く信用が無い。
「2人の西湖を交替させながら仕事させるのに、私の“お友だち”のワシリーサ(和城理紗)を§§ミュージックに付き人として入れたけど、あの子では発言力無いから、桜木ワルツにも負荷については言っておこう」
「ワルツさんなら信頼できます」
と龍虎も言う。
それであらためてワルツにもそういう話をしておくことにした。
4人は今週末から始まる『気球に乗って5日間』のロケ中の分担についても話しあった。
「基本的にカオル役はアクアM・葉月M、カオリ役はアクアF・葉月Fで」
「それがスッキリしていいですよね」
「まあたまに違う子が相手してても気にしないで」
「気にしません」
「お風呂入るシーンも男湯に入るのは龍虎M、女湯に入るのは葉月F」
「葉月ちゃんは密かに性転換手術しているとスピカちゃんとかには思われているからそれで問題無い」
「それ困るんだけどなあ」
などと葉月M。
「まあ女子校に男子が通うのは普通無理だから」
と葉月Fなどは言っている。
なお撮影には、葉月の影武者である《かぶちゃん》も同行させるつもりだが、龍虎や葉月には特に言う必要はないと千里は考えていた。彼なら状況次第ではアクアのボディダブルも務まるはずである。そのあたりの管理もワシリーサにさせる。
1月20日から25日は、アクアや葉月を含む『気球に乗って5日間』の出演者一行がオーストラリアに渡り実際に気球を飛ばしたりしてのロケをおこなった。この撮影では“カオル”は主としてアクア(アクアM)、“カオリ”は主として葉月(葉月F)が演じている。
そして実はメインの撮影隊とは別の所で、サブカメラマンの美高鏡子により、“カオリ役”のアクアFと、カオル役の葉月M、それにドイツ人のミハエルのボディダブルさん、ブラジル人のリョーマのボディダブルさんと4人で同じシーンの撮影も進めており、両者を後に合成することにしていた。こちらは気球の操作はアクアFと葉月Mが共同でおこなっている。
アクアFがメインの撮影でカオリ役を演じたら合成の手間も要らないのだが、アクアF(マクラ)の存在は、美高さん(河村助監督の奥さん)以外には開示しないという約束なのである。
マクラはアクアの従妹ということにしてるのだが、本当の龍虎の従妹というのは長野美奈代(後の美濃山淳奈)だけで、彼女はまだ幼稚園生である。龍虎は彼女からサインをねだられたので書いてあげたが、美奈代の宝物になったようで、彼女が後に女優を目指す原動力にもなったのだが、それはまた後の物語である。
映画の撮影一行は1/26には日本に移動。27日からは国内での撮影をおこなった。
2020年2月8-9日に青葉はラピスラズリと一緒に山本大左先生、すずくりこ先生の御自宅を訪問し、撮影したビデオを翌日2月10日に金沢に持ち帰って〒〒テレビに提出した。
ちなみに青葉は入社前である!何でも青葉はきっと4月上旬の日本選手権で上位入賞して、東京五輪代表に選出されるだろうから、その前に7月放送までの分を撮影しておきたいのだという話だった。しかしそもそも青葉は日本選手権に参加するつもりも無かったし、その前に3月で大学を卒業してしまえば、自分の所属そのものが無くなるので、日本選手権自体に参加できない、と青葉は思っていた。
それでも青葉は、成り行きと、気分転換のために毎日津幡のプライベートプールで泳いでいた。
ところが2月13日、唐突に皆山幸花から電話が掛かってくる。
「青葉、日本選手権は申し込んでおいたから」
「は!?」
「今日から申し込みフォームがオープンになったのよ。参加料もこちらで払っておいたから、よろしくね。後でADカードが送られてきたら渡すね」
「あのぉ、私3月22日で大学を卒業するから、日本選手権のある4月時点ではK大水泳部には所属してないんですけど」
「むろんK大水泳部じゃないよ。〒〒テレビ・スイミングクラブだよ」
「そんなのできたんですか〜〜?」
「青葉が日本代表候補になっているのに4月以降所属団体が無くなるというのを石崎部長が聞いてさ、だったら〒〒テレビのスイミングクラブを作ろうといって。法人も立ち上げた。私が部長ね(*4)」
(*4)実は運営会社の社長である。でも無給!会長が石崎部長(当然無給)。
「そんなのが進んでいたんだ?」
「他の所属メンバーは青葉でしょ、布恋でしょ、竹原杏梨ちゃん、ジャネさんの妹の月見里公子・夢子姉妹。他に福山希美・広島夏鈴・竹下リルも準メンバー。本拠地は津幡のプライベートプールだから、女子限定だけど、男子でも無理なく女子水着が着れる人は考慮する」
「あはは」
結局、日本選手権に出ることになるのか、と青葉は悟りのような境地になった。
2月17日、バスケット女子のWリーグは、コロナ対策の第一弾として、選手の試合以外の活動(イベントの類い)を自粛するように通達した。
2月21日、Wリーグは、試合の際、スタッフはマスク着用すること、会場入口に消毒液を置くこと、また風邪症状のある人や基礎疾患のある人は来場自粛してもらうよう求めるととともに、観客にもマスク着用をお願いする方針を示した。
同日、東京のJISSで合宿をしていた水泳日本代表候補の筒石君康が検温でひっかかり、婚約者の幡山ジャネに連絡があったので、ジャネがすぐに彼を車で引き取りに行き、病院に連れて行く。新型コロナに感染していることが疑われたのでPCR検査をした所、陽性が判明する。しかし本人はピンピンしてるので、自宅隔離の対応となった。それで尾久のマンションでジャネが看病することになった。
なおジャネ本人もPCR検査を受けたが陰性であった。またジャネも(生活必要物資の買い出し以外)外出禁止を言われた。
感染者が出たJISSでは、施設を徹底的に消毒し、食堂ロピーの使用を禁止するなど激震が走った。
実際には、筒石を引き取りに行って、病院に連れていき、その後2週間お世話をしたのはジャネ本人ではなく“マラ”である。そもそもジャネは車の運転ができないが、マラは“死ぬ前”は大型免許も持っていた。ただしPCR検査を受けたのはジャネ本人である。マラは幽霊!なので今更コロナに感染することはないが医学的検査を受けるのはふつうは無理である。
(もっとも千里の師?の藍川真璃子のように、もう20年以上幽霊をやっていて毎年健康診断を受けて異常なしという診断を受けているような人もあるが!?)
マラはずっと東京尾久のマンションで筒石と暮らしているが、ジャネ本人はずっと金沢の実家に居る。しかし“外出禁止”と言われたので、2週間、津幡の火牛スポーツセンターに籠もってひたすら泳いでいた!
2月中は、プライベートプールの傍では、体育館をいったん閉館し“感染症対策”のための緊急工事が行われていた。ムーランはこの時期は、改装工事の邪魔にならないよう駐車場の中央付近(テニスコート予定地)で営業していた。
(体育館の工事が終わったところで、テニスコートの基礎工事が始まることもありいったん体育館地下に戻るが、3月になると感染症対策で、アクアゾーン前の地上に再度移動する。この時期はムーランの営業場所はめまぐるしく変わっている)
ローズ+リリーの2/23のライブは1億円を掛けた体育館の改造、大量のビニールシートにより座席を区切る仕組みの導入などにより、実施する予定だったのだが、2/21に、ついに石川県でも感染者が発生したため、冬子は苦渋の決断で、津幡公演の中止を決定した。
さて、ここで座席を区切るのに使用する予定だった大量のビニールシートの衝立(高さ2m×幅1m 約2万個:原価2000万円)が余ってしまった。
若葉が「ムーランの座席を区切るのにちょうだい」と言って、400枚・40万円分買っていった。和実もクレールの感染対策にといって200枚・20万円買っていった。更に千里も少し(?)欲しいと言って、1万枚・1000万円分も買っていった。残った分は一部を火牛アリーナの2階席の仕切りや会議室・更衣室などの仕切りなどに使用することにした。余った分は、取り敢えず開業が延期されたスポーツクラブの場所に押し込んでおいた。この分も最終的には若葉と千里が追加で欲しいと言って買っていき、全て無くなったので、冬子はストック場所も不要になり、資金も回収できて大いに助かったのである。
現在ムーランは、東京3店・9車両、埼玉(郷愁村・高崎・熊谷市街)3店・3車両、若狭(小浜・舞鶴・敦賀)3店・3車両、加越能(津幡・羽咋・高岡)3店・3車両、と運用しており、春から仙台(若林・青葉通り・石巻)3店・3車両も加わる予定で、21車両、約250席の客席を持つ。
若葉は感染症対策で、これを170席ほどまで減らした上で、ビニールシートの衝立を立て感染対策をしたいと言った。そのため約400枚の衝立が必要とみたのである。
2月上旬、和実はチーフのマキコ、“会長”伊藤君、“副会長”小野寺君と4人で感染症対策について話し合っていた。
「これ多分かなりやばいよね?」
「万が一にもうちの客から感染者が出たら、お店が潰れますよ」
「その件では、こないだから、冬子や若葉が、かなり議論しているみたい」
と言って、和実は教えてもらったイベントの感染対策について3人に話した。
「そこまでやるのか!」
と伊藤君も小野寺君も想像以上の対策内容に絶句して腕を組んでいた。
「結局、感染している客が来店すると、その客と接したメイドが感染する危険がある。メイドが感染するとそこから多くの客に感染させる可能性がある」
「その事態が起きたら店は潰れるな」
「つまりメイドの感染を絶対的に防ぐ必要がある」
「女子寮を作りません?市内にアパートとか借りていて、そこから通勤してくると通勤途中で感染する危険がある」
とマキコが提案する。
「そうそう。バスとか電車も危険だと冬子が言っていた。密閉した室内でウィルスが拡散する」
「よし。女子寮は作ろう。何部屋くらい必要?」
「今若林店に登録しているメイドが全部で38人ですが」
とマキコが言うと
「そんなに居たっけ?」
と和実がびっくりしている。
「常勤に近いのは10人くらいですね」
「全部で20人くらいかと思ってた」
「まあ幽霊メイドもいるから」
「幽霊?」
「あ、そっちの意味か」
「牡丹灯籠みたいなのだと恐いね」
「そんな子が2〜3人居ても面白いけど」
「まあ男の娘は多いし」
「今何人男の娘がいるのか分からない」
「私ももう分からなくなった」
とマキコまで言っている。
学生バイトが多いので、口座番号と電話番号・アドレスくらいまでしか把握していないメイドも多い。最初から本人が性別をバッくれていたら全く分からない。口座の名義人にしても姉妹の口座を借りていたりすると分からない。
「青葉通り店の開店で増えてたぶん登録者は60人くらいになると思いますが、特に3月で大学出る子、4月から大学に入る子は女子寮あったら入りたがると思うんですよ。だから20-30室くらいあるといいんじゃないですかね」
とマキコが言うと
「その倍で50室くらいにしようよ」
と伊藤君が言った。
「そうしようか」
和実は、公園を作ると言って、とりあえず大量の土地を買った千里と交渉して女子寮を建てられる土地を買うか借りるかしようと思ったのだが、千里は
「ああ、それはお金が余って困っている人に建てさせるよ」
と言って、若葉がお金を出して、2月中に6階建て48室(1K仕様)の女子寮を建て、ついでに女子寮とクレール若林店の間に地下通路まで作ってしまった。わずか半月でそれだけの建設と工作ができたので、和実も驚いた。
(津幡のほうの作業はムーラン建設だけでやっているので、播磨工務店は青葉通り店の工事をしていると言っても余力のあるメンバーが多かったのである。そもそも播磨工務店のメンバー自体が現在80人くらいまで増えている−精霊が堂々と働ける会社は少ない!この工事をしたのは“黄組”である)
しかしこれで早朝や深夜に帰宅・出勤する時も痴漢などの心配をしなくて済む。
「ねぇ、メイドの衣装をさ、プラスチック・スタイルにしない?」
と伊藤君が言った。
「何だっけ?」
「ファイブスター物語に出てくるんだよ」
と言って彼は説明した。
これは永野護『ファイブスター物語』(以下ゴチックメイド導入前の用語)に出てくる“ファティマ”という人造人間(多くは女性)が着る戦闘服である。物語当初に多くのファティマが着ていたのはデカダンスタイルと言って、女学生のような可愛い衣装だったが、途中で人間を惑わすような可愛い服は禁止という法律ができて、代わりにファティマが着るようになったのがこれである。無機質で未来的なデザインだが、魅力的でないので、ファンにも不評だった。
伊藤君はネットで検索して、デカダンスタイルとプラスチック・スタイルのファティマのビジュアルをみんなに見せる。
「こんな格好させるの〜〜?」
と和実が嫌そうな顔をする。しかし小野寺君は
「いや、今の時期ならこういうのはあり得る」
と言った。
「うん、今の時期だから成り立つと思うんだよ」
と伊藤君も言う。
「感染防止ということなら、メイドにフルフェイスヘルメットでもかぶせたらどうだろうなんてのも考えたんですけどね」
とマキコが言う。
「それ行こう。フェイスシールド付けさせよう」
「手は手袋だよね」
「当然。素手では物に触らないようにする」
それでみんなでわいわい言いながら詰めていって出来上がったのは凄いスタイルだ。
「これって、病院とかの防護服では?」
「うん。実際防護服だと思う」
「宇宙服にも近いね」
「頭にお花つけてもいいですか?」
とマキコが言う。
「ああ、いいね。各メイドに自分の好きなものを付けさせようよ」
「それって、個人の識別にもなるんじゃない?」
「確かに。こんな服着てたら、誰が誰か分からないもん」
これは各自自由にデザインしたものを3Dプリンタで出力してヘルメット部分に貼り付けることにした。
「でもこれ制作費が高そう」
「まあ1着20-30万するかもね」
「いや、その費用は構わない。それで感染防止になれば安いもんだよ」
と和実は言った。
(実際には10万円くらいでできたようである。この制作費も若葉が出してくれた。ついでにムーランのスタッフにも同じ仕様のものを着せた!)
この時和実たちが話し合ったのが、サーモグラフィの導入、それに引っかかった人にお帰りいただくための警備員の雇用、自動噴射式のアルコール消毒スタンド設置、掃除スタッフの雇用、マスクの無料配布、席の間引き、トイレの改造(火牛アリーナと同じ仕様)、コーヒーやフードを入れる容器・皿を当面の処置として全て紙製のカップや皿にして使い捨てること、注文用タブレットの導入(スマホからもオーダーできるようにする)、そしてドライブスルーの導入などである。
和実はクレールの土地の西側の空きスペースと、千里が所有している東側の道路部分の土地を等価交換した。それで若林植物公園の駐車場(450台収納)とクレールの駐車場がつながることになる(道路が途切れるが部外者が駐車場を横断するのは全然構わない)。そこでこの駐車場で待っている間に注文をしてもらい、どんどん商品を渡していこうということにしたのである。
(駐車場が広いので注文を取ったり商品を渡すメイドにスクーターを使わせることになる。ついでにスクーターに決済端末を搭載する)
「マスク無料配布したら、マスク目当ての来客もあったりして」
「それ全然構わない」
「でもそれで風邪気味の人か来店したら?」
「店内には入れないから問題無い」
「なるほどー」
「そのために警備員を立たせる」
「警備員は雇うわけ?警備会社から派遣してもらったら?」
「日替わりで別の人が来るというのは、感染防止の観点からは好ましくない。掃除スタッフも同じ」
「それは言えるね」
「自衛隊のOBを交替要員を入れて4-5人頼もうと思う。ちょっとツテに声を掛けた」
「体格だけでも、睨みが利くよね」
「PayPay導入できる?できたらバーコード式で」
「それ若葉に頼む。ムーランの別部門扱いか何かにしてもらってもいいし」
「カフェラテのさ」
「うん」
「ラテアートで、スティックでお絵描きするタイプを当面停止しようよ」
「ああ、それがいいかもね。注ぎ口で作るアートのみにする」
座席であるが、ライブの時はテーブルを撤去して椅子だけ並べたり、更には椅子も外して立見でのライブというのもしていたのだが、当面の間、このような運用はせず、テーブル席のみでの運用とすることにした。
更に各テーブルに椅子を4つずつ置いていたのを2つずつ(斜め向かい)の運用にすることにし、座らない席にはプラスチックの立方体の箱を置いた。椅子自体を撤去すると客が勝手に向かい合わせにしてしまう可能性があるので、椅子はわざとそのままにしたのである。
しばしばぬいぐるみを置いているお店もあるが、ぬいぐるみは客が「可愛い」とか言って触る可能性があり、感染の媒介になりかねないし、洗濯も大変である。プラスチックの箱なら、アルコール除菌ペーパーで拭けば済む。
ボニアート・アサドのライブでは席数が全然足りないので、3月のライブでは、事務所側の許可を取り、駐車場にプロジェクターと大型の布スクリーンを置いてそこにリアルタイム中継して乗り切った。この日は天気がよく風も適度にあったので、3月(仙台の3月はまだ真冬)とはいえ、何とかなったようであった。この日は店外で聴く客にはホッカイロの無料配布をした。
2月21日に津幡でのローズ+リリー公演が中止になり、大量にビニールの衝立が余ったという話を聞いた和実は、それをクレール(若林店・青葉通り店)にも導入することにした。若林店はテーブルが25個、青葉通り店は1階46個と2F/3Fは各々15個ある。それでこれらを区切るのに必要な衝立の数を計算してみると、若林店は28枚、青葉通り店は1階84枚、2F/3F 各14枚で合計140枚となった。これに楽屋に置く分、上の階のスタジオに置く分を入れて200枚、冬子から購入したのである。
2月上旬。マリナは困惑していた。
“あれ”が来ないのである。
マリナはローズクォーツのツアーで徳島に行った日、10月16日に性転換して女になってしまったのだが(正確には10月6日に定山渓で一度女になり、この日徳島ではいったん男に戻った上で再度女になった)、翌々日の10月20日に初めての生理が来た。
生理なるものを体験するのは生まれて初めてではあったが、これまでも事務所の方針(板付社長の趣味?)で毎月生理の真似をしていたので、慌てずに普段から携行している生理用品を使ってちゃんと処理した。
しかし生理が来たことで、ああ、やはり私は女になったんだという認識を持ち、結果的に自分が女の身体であることを受け入れてしまった。それで10月24日に母から「あんたの改名しといたから」と言われた時も「ま、いっか」と思ってしまった。
次の生理は11月16日に来た。前回の27日後であるが、多分まだ女になりたてだから安定しないのかもと思った。実際その次の生理は12月13日に来て、今度も27日後である。このまま27日間隔で生理が来るのか、それとも次第に28日になっていくのかは、マリナもこの時点では分からないと思った。そしてその次の生理は1月10日に来た。今度は28日後である。
そして1月13日、釧路市でマリナは初めて女としてケイナとセックスしたのだが、この時マリナは生理の直後だから万が一にも妊娠することはあるまいと思い、生でケイナのペニスを受け入れた。
その後、結果的には毎日セックスすることになってしまったのだが、1月10日に生理があったとしたら1月24日くらいが排卵日だからと思い、1月21日から27日まではセックスの時、ケイナには避妊具をつけさせた。そして多分もう大丈夫だろうと思い、1月28日以降はまた生でやらせている。
さて、1月10日に生理が来たということは、次は28日後の2月7日頃に来そうである。
ところが2月7日には生理は来なかった。
今度は少し周期が長いのかなとマリナは思った。
ところが8日になっても、9日になっても、10日になっても生理は来ない。しかもこれまでは生理の数日前から、おりものが多くなって、パンティライナーを付けていたのに、今回はその現象が無いのである。
生理、止まっちゃったのかなあ、元々私は男の身体だったから、そういう制御が不安定なのかも、などと考えていたのだが、2月11日になって、“ある可能性”に気づいてしまったのである。
マリナはドラッグストアに行くと、避妊具などの並んでいるコーナーに行った。そして避妊具の近くに置かれている“あるもの”を買物籠に入れた。
ドキドキ。
生理用品はもう10年以上買っていて、今更買うのに何の抵抗も無いのだが、こんなものを買うのは初めてである。おやつや生活雑貨などと一緒に精算する。むろんレジのお姉さんはふつうの表情でバーコードをスキャンして売上を計上する。PayPayで支払って出る。そしてドラッグストアの入口の所にあるトイレ(むろん女子トイレ)に入る。時節柄持参のアルコール除菌ペーパーで便座をきれいにしてから座る。
今買ったものを箱から出す。念のため説明書を読んで使用法を確認する。
おしっこを“それ”の先端に掛ける。
取り敢えずあの付近を拭いて立ち上がり、パンティをちゃんと穿き、手も洗って、トイレの外に出てしばらく待つ。
ガーン!
マリナはその表示に衝撃を受けた。
待ってよぉ!こういう事態は想定していなかったよぉ!
とマリナは心の準備ができないまま、思った。
※この付近のタイムスケジュール
マリナは徳島で再度女になった時を起点に考えているが、本当は定山渓で女になった日が起点なのである。
2019.10.06(日) 定山渓で性転換して女になる(最初の排卵)
2019.10.16(水)+10 徳島でいったん男になるがまた女になる
2019.10.20(金)10/6+14 初潮。
2019.11.16(土)10/20+27 2度目の生理
2019.12.13(金)11/16+27 3度目の生理
2020.01.10(金)12/13+28 4度目の生理
2020.01.13(月) ケイナと初めてのセックス
2020.01.24(金)1/10+14 マリナが想定していた排卵日 (1/21-27は避妊具使用)
2020.02.07(金)1/10+28 生理は来ず
2020.02.11(火) マリナ妊娠検査薬を使う。
やはりオギノ式は危険である!
(セックスが刺激になって排卵が起きてしまうのは、よくあること)
東雲はるこが悩んでいるようなので、町田朱美は「どうしたの?」と尋ねた。
「私、芸能人とか向いてないのかなあと思って」
「何を今更言っている」
「だって、私うまくしゃべれないし。こないだからの作曲家の先生の御自宅訪問でも、ほとんどあっちゃんにしゃべってもらつて、私あまり話せなくて」
「でも昨日は結構会話に参加したじゃん」
「しまうららさんが、うまく私に話を振ってくれたから。少しは話せたけど、それ以前の訪問ではほとんど話せなかった」
「まあ、しまうららさんは気配りが凄かったね」
と言ってから朱美は言う。
「みっちゃんはね、歌が上手いということに存在価値があるんだよ。だから別にトークはできなくてもいいんだよ」
(町田朱美は本名:落合茜で「あっちゃん」、東雲はるこは本名:月乃岬でみっちゃんである)
「トークはできなくてもいいの?」
「だって歌の上手さは私がどんなに頑張っても追いつけない点だよ。だから、みっちゃんはとにかく歌の練習をたくさんして、歌では誰にも負けないという境地を目指しなよ。トークは全部私に任せて。そのためにコスモス社長は私たちを組ませたんだから」
「じゃ私は歌の練習頑張ればいいのかな」
「そうそう。まあ後は私のトーク聞いてて、会話の感覚も少し感じで取っていけばいいね」
「そうだね。じゃ私、歌で頑張る」
「うん」
さて、龍虎は高校を卒業したら芸能活動に専念して大学には進学しないのだが、龍虎の小学校以来の親友、彩佳と桐絵は大学に進学することにしていた。親との話し合いで、国公立か、あるいは私立に特待生になれる成績で合格するというのを課されていた。
取り敢えず1月18-19日のセンター試験を受けたが(自己採点では)かなり良好な結果であった。
「それであんたたちどこ行くの?」
と、大学の下見も兼ねて東京に出て来た中学までの同級生・宏恵が尋ねる。
「私は国立ならお茶の水、私立なら早稲田。一応早稲田の願書は出した」
と桐絵。
「私は国立なら東大、私立なら上智かなと思ってたけどセンターの成績がいいから青山に行くかも。青山の願書は出した。早稲田の願書も書いてはいるけど投函するかどうかまだ迷っている」
と彩佳。
「取り敢えず投函するというのに1票。締め切り今日だから郵便局行ってきなよ。受験料くらいあるんでしょ?」
と桐絵は言う。
「東大!?マジ?」
と宏恵が言った。
「一応C判定なんだよ。だから狙ってみる価値はある」
「凄いじゃん」
「東大文3はそんなに辞退者出ないと思うから厳しいかもよ」
と桐絵は言っている。
「文3なんだ?」
「文1はさすがに無理。弁護士とかになる柄でもないし」
「確かにアヤが弁護したらふつうなら懲役10年で済む被告が死刑になりそう」
などと宏恵は言ってる。
「ヒロはどこ受けるの?」
「私は東大はD判定なんだよね。さすがに可能性無さそうだから、一橋かお茶の水受けるかも」
「私立の選択は無いんだ?」
「うち貧乏だし」
「奨学金受けたらたぶん何とかなるよ」
「卒業までに莫大な借金抱えることになるし」
「それはあるけどねー」
「先のことは考えずに奨学金は受ける」
「どうしても払いきれなくなったら、龍に春を売って払ってもらおう」
「龍はちんちん取ったんじゃないの?」
「少なくとも10月の時点では存在することを確認した」
「ちゃんと立つことも確認した」
「あんたら何やってんのさ?」
むろん彩佳たちに裸に剥かれて、バストが膨らんでいないことと、男性器が存在し男性機能もあることを確認をされたのはMである。(彩佳は龍虎のマンションの合鍵を持っている。代々木に引越後も新しいマンションの鍵をもらった)
彩佳が直接触るのでMが「直接はやめろ!」と叫んでいたが、触られただけで彩佳が手を動かしたりしない内にMのちんちんは大きく硬くなった。
桐絵が「私帰ろうか?」と言ったが、龍虎は桐絵に「居てほしい」と言った。彩佳とふたりきりになったら自分の抑えがきかないかもと不安になったからである。
最近Mは、タックもしなくなっていたので、ちんちんは順調に成長していた(中学生並み!のサイズになっていた)。一方Nのちんちんはもう立たなくなっていた。常時タックしている影響もあるだろうが、多分精神的なものが大きい。
3人の龍虎は体液が共通なので、Fの女性ホルモンとMの男性ホルモンが釣り合い、結果的に3人とも体型は女子体型であつた。Mの骨盤も完全に女子型だと千里さんは言っていた(3人のボディラインは、バストと股間を除けば完全に一致する)
ただそれでMのバストが膨らんだり、Fが男っぽくなったりすることはないのは、理由が分からないと《こうちゃん》は言っていた。Fは自分は普通の女の子よりオナニーしてる回数が多い気がするから男性ホルモンの影響かも、などと言ったが《きーちゃん》は「個人差の範囲」と言っていた。
龍虎は2月3日まで映画の撮影をしていたのだが、翌日2月4日の早朝、C学園の女子寮にやってきて、彩佳たちに
「これ映画の出演者に配られた無病息災の節分の豆」
と言って、パックに入った炒り豆を1個ずつくれた。
「疫病退散に御利益(ごりやく)のある八坂神社のご祈祷をした豆だから」
「それは強そうだ」
「無病息災でいたいね」
「ちょっと恐いよね、あれ」
ちなみに女子寮は、当然女子しか入れないのだが、龍虎の生徒カードではなぜか女子寮の出入口を通過できる。これが、龍虎の同級生の“男子生徒”武野昭徳や田中成美の生徒カードでは通過できない。田中成美など、見た目も女子にしか見えないし(実際性転換手術も終わっている)、いつも女子制服を着ているが、ここはNGである。要するに龍虎は学校のデータベースに女子として登録されているっぽい(田中成美と間違えて登録されたのでは?と天羽飛鳥(松梨詩恩)などは言っていた)。
2月9日、早稲田の合格発表があり、桐絵も彩佳も合格していた。翌日には青山の合格発表もあり、彩佳はこちらも合格していた。
「どっちに行くの?」
と桐絵は尋ねた。
「親に聞いたら絶対早稲田に行けと言われる気がするんだよね〜」
「まあネームバリューはあるよね」
「でも青山の方が英語鍛えられそうだし」
「アヤ、東京外大なぜ受けなかったのよ?アヤの実力なら合格の可能性あったと思うのに」
「龍を置いて府中までも行けん」
「そうか!青山に行きたいのは、龍のマンションに近いからか?國立を東大で受けるのも落ちた時に言い訳ができるからだ。同棲するの?」
龍虎のマンションは代々木にあり、青山学院は渋谷駅の近くである。歩いても30分ほどで到達できる。
「そんなことしたら、アクアのファンに殺される」
「ああ。そうだろうね。お葬式には奮発して1万円くらい包んであげるね」
「うむむ」
「でもアヤ、龍とは過去にセックスしてるんでしょ?」
「した内に入るのかどうか微妙なんだよね。気持ちとしては龍にバージンあげたつもりだし、龍ももらったつもりと言ったけど」
「ああ、だから平気で龍のちんちんに触ってたのか」
「ちなみにコスモス社長にはセックスしましたと言っておいた」
「あはは」
「だからこれもらったのよ」
と言って彩佳は桐絵に“会員番号3番”のアクア・ファンクラブ会員証を見せた。表面が(ICカード部分を除き)金メッキになっている豪華なものである。顔写真も金の表面にプリントされている。この仕様の会員証を持つのは6人しか居ない。
(1:松浦紗雪、2:マリ、3:彩佳、4:春風アルト、5:荻田美佐子、6:某・内親王)
これは通常行使しない。アクア・ライブのチケットを取る時は、もうひとつ持っている31番の会員証を使用する。ちなみに桐絵は32番、宏恵は33番である。
「これは龍と28歳になるまでは結婚しない代償」
「へー。でもセックスまでは禁止じゃないんでしょ?」
「まあ微妙なとこかな」
「じゃ、押し倒しちゃうに限るね」
と桐絵は煽っておいた。
彩佳はマジで考えているようだったが、やがて言った。
「それさあ、押し倒した時に、龍のちんちんが存在するか怪しい気がしない?」
「確かに龍のちんちんは無い時もあるみたいだよね。昔からだったけど」
「ね?」
2月17日(月)、彩佳は青山学院大に入学金などを納め、入学手続きを取った。上位で合格しているので実際の学納金は国立大並みで済む。親には早稲田は落ちたことにしておいた(「油断したな」と、叱られた)。
2月18日、桐絵は早稲田に入学手続きを取った。彼女も上位での合格なので通常より20万円も安い金額で済んでいる。しかしこれで2人とも4月からは女子大生になることが確定した。
2月18日(火)、大林亮平は、ケイと都内の料亭で会い、避妊に失敗してマリを妊娠させてしまったことを報告して謝罪した。マリの妊娠と、亮平との結婚については3月下旬に発表することにしたが、ケイは最低限報せておかなければならない人(そして秘密を守ってくれる人)に妊娠のことを伝達した。
氷川課長、和泉、カノン、コスモス、青葉と千里、そしてローザ+リリンである。
ケイがローザ+リリンにこのことを伝えたのは、震災イベントで2人にお手伝いをしてもらえないかと考えていたからである。この件についてはあらためて2月23日に正式に依頼があった。
2月19日にケイからの電話を受けてその話を聞いたのはマリナであった。マリナは震災イベントに“アゴアシマクラ自腹”でノーギャラで参加することについては快諾した。そして
「それはお大事に」
と言ってマリナは電話を切る。
「どうしたの?」
とビールを飲みながらくつろいでいたケイナが尋ねる。
「3月7-8日の仙台での震災イベントに協力してくれないかって。ノーギャラな上に、アゴ・アシ・マクラ自腹だけと」
「俺、7日に仕事入っている」
「うん。だから7日は私だけでやる」
「じゃ俺は8日だけで。ノーギャラは構わないよ。借金の件でも本当にお世話になったし」
とケイナは言う。
「それとマリちゃんが妊娠したらしい」
「へー。2人目か。だったら、またマリナ、お腹に詰め物して妊娠しているふりしないと」
とケイナは言った。
マリがあやめちゃんを妊娠している最中は、マリナもお腹に風船を入れてお腹が大きいように見せていたのである。そしてマリが出産した後は、“あやめ人形”を用意して、マリナたちの寝室のそばに、お人形さんのベッドを用意し、そこに寝せている。西東京市のマンションではマリナの部屋にあやめベッドを置いていたが、先週の引越の後はふたりの共同寝室のそばに置いている。
昨年春までは、ドサ廻りに“あやめ人形”を同伴し“あやめ”も絡めたコントを上演することもあったが、昨年春からローズクォーツの代理ボーカルを始めた後は、その手のショーをする機会も無く、“あやめ人形”もずっとお留守番ばかりである。
マリナは考えた。そして言った。
「今回は風船を使う必要無いかも」
「ああ。3月まではドサ廻りとかする時間も無いだろうしな」
とケイナは言った。
「実はさ、妊娠を装わなくても、私、本当に妊娠しちゃったかも」
「は?」
「昨日、病院に行って来た。心音も確認できた。予定日は10月5日だって」
と言って、マリナはバッグの中に入れていた書類を出してケイナに見せる。
「へ?」
と言ってケイナは、妊娠診断書と書かれたその書類を見た。
「誰が妊娠したの?」
「だから私」
「お前なんで妊娠とかするのよ?」
「私女だし」
「嘘!?」
「見る?」
と言ってマリナは服を全部脱いだ。ケイナが息を呑む。
「ちょっと待て」
と言って、マリナのバストに触る。そして揉む!
「これもしかして本物?」
「そうだよ」
ケイナはマリナのお股に触る。
「これタックじゃない」
「私、女の子だもん」
「マリナ、本当に女なの?」
「うん」
「だったら、やらせろ!」
「毎晩してたくせに」
ともかくも、それでケイナはマリナを“やっちゃった”のである。
ケイナは“一通りのこと”をして、そのまま眠ってしまったが、30分ほどで目が覚めた。それでマリナは徳島でのできごとを語った。
「醍醐さんと話したら、うっかり2度性転換しちゃったみたい。男に戻りたいなら戻してあげるよと言われたけど、このままでいいですと言った」
「マリナって女になりたかったんだっけ?」
「そんなつもりは無かったんだけどねー。女の身体にハマっちゃったみたい」
「だったら、女のまま生きて行くの?」
「そのつもり」
ケイナはしばらく考えていたが、やがて言った。
「もう1回やらせて」
「いつでもどうぞ。私、ケイナの奥さんだし」
「そういえばそうだった」
「だから、私の身体はケイナの物なんだよ」
「俺のもの?」
「うん。だからケイナの自由にしていいんだよ」
と言ってマリナはケイナにキスをした。
ケイナが目覚めたのはもう朝だった。コーヒーの香りがする。
「あなたぁ、おはよう」
と言ってマリナがケイナにキスをする。そしてコーヒーを渡す。強烈な香りがする。こないだハワイに行った時に買ったハワイコナである。(たくさん買ったので小分けして冷凍している)
ケイナはそれを飲みながら、マリナの顔を再度見た。
「朝御飯もできてるよ」
「ありがとう」
一緒に朝御飯を食べる。
「俺、マリナと結婚してもいい気がしてきた」
「既に結婚している気がするけど」
「そういえばそうだった!」
「もし良かったら、この子のこと、認知してくれない?」
とマリナは言う。
ケイナはまた考えていた。
「お前、戸籍も女に直してしまったと言ったな」
「うん」
「だったら婚姻届け出そうよ」
「いいの?」
「世間的には俺たち既に結婚していることになっているから今更だし」
「それはそうだよね」
婚姻届けについては、双方の親の所に郵送して各々の署名をもらってから提出しようということになる。持参したい所だが、2人はあまりにも忙しすぎた。
「マリちゃんの予定日も10月らしいから、ちょうど同じくらいのお腹の大きさになると思うよ」
「それは便利だな」
Timeline
2.11(祝) マリナが妊娠に気づく
2.13(木) 西東京市の賃貸マンションから三鷹の分譲マンションに引越。
2.15(土) 税理士からの連絡で税金の追納が必要なことをケイナが知る。
2.16-17(日月) 木原弁護士と一緒に業者を回って借金を整理完済。
2.18(火) ケイが亮平からマリの妊娠を聞く。マリナは病院で妊娠確認。深夜ケイは感染対策会議でツアー中止決定。
2.19(水) ケイからマリの妊娠を聞く。マリナは自分も妊娠したことをケイナに告げる。
2月24日(天皇誕生日の振替休日)、八雲春朗は原野妃登美のアパートを訪ね、(ドアだけ閉めた玄関先で)あらためて彼女に謝罪するとともに、彼女に自分が所持していた妃登美のアパートの鍵を返却。そして500万円の手切金を現金で渡して、2人の関係を清算した。
「どうしよう?妊娠出産の費用も兼ねているんだろうけど、私絶対出産までにこれを使い込んでしまう自信がある」
などと妃登美はひとりごとを言った。むろん田舎には帰りたくない。田舎に帰れば“世間体”のために適当な男と結婚させられるのは明らかである。
翌日2月25日には、春朗は今度は氷川真友子のマンションを訪れ(リビングに上げられたのでそこで)、やはりあらためて真友子に謝罪するとともに、彼女のマンションの鍵を返却。妃登美と同額の500万円の手切金をやはり現金で渡して、2人の関係を清算した。実はこの時、礼江も居たのだが、寝室のベッドの下!に隠れていた。
春朗が帰ってから、真友子は言った。
「こんなにもらっちゃった。これでのりちゃんにエンゲージリング買ってあげようか?」
しかし礼江は言った。
「エンゲージリングは私がまゆちゃんにあげるよ。マンション売ったのでもらったお金があるから」
「なるほどー」
妃登美と真友子との関係清算ができた所で、春朗は高木佳南に電話して言った。
「エンゲージリングを買ってあげるよ。今度の日曜とか一緒に見にいかない?」
「私、カルティエがいいなあ」
「いいよ。じゃ、カルティエに見にいこう」
と言って、3月1日に一緒に銀座に出てカルティエに行くことにしたのである。
ケイナはマリナに言った。
「俺たち、ハワイで結婚指輪は買ったけど、婚約指輪がまだだったじゃん。でも今俺金が無いから、4月くらいまで待ってくれない?」
「いいよ。いつまでも待つよ」
とマリナは幸せそうな笑顔で言った。
ローズクォーツのマネージングをしている、UTPの大宮副社長と甲斐窓香、★★レコードの八雲礼江係長と坂口平太、そしてローズクォーツのタカはZoomで会議をおこなった。
「4月からの新しい代理ボーカルどうしますかね?」
「それなんですけど、実はローザ+リリンが忙しすぎて、彼女たちに吹き込んでもらいたい音源の制作作業が3月中にはとても完了しそうにないんですよ」
とタカが状況を説明する。
「それって次の代理ボーカルに歌わせる訳にはいかないの?」
と大宮副社長がごくまっとうな疑問を述べる。
「マリナは3オクターブ声が出るんです。だから昔ケイが歌っていた時代の曲で長く演奏不能になっていたような曲もあの子には歌わせられるんで、ベスト盤の曲目ラインナップを少し見直したんです。あんなボーカルは簡単には得られないから、ローザ+リリンで録りたいんですよね」
とタカ。
「あの子、そんなに声が出るんだ!?」
「じゃ取り敢えず5月くらいまで延長する話をしましょうか」
「それと次のボーカルのオーディションが困難な情勢なんですけど」
と坂口が言う。
今のコロナの情勢ではバンド演奏をバックに生歌唱をさせるのは問題がありすぎる。
「ああ」
「それは確かに困ったなあ」
大宮副社長はザマーミロ鉄板の板付社長に連絡し、取り敢えず5月までローザ+リリンとの契約を延長できないか打診した。板付社長は
「全然OKです。永久に代理ボーカルやらせてもいいですよ」
と快諾したが、この件を本人たちに連絡するのをきれいに忘れていた!
それで契約延長のことをケイナとマリナが知ったのはそれをタカから直接聞くことになる、3月中旬になったのである。
2月25日(火)、国立大学の前期試験が行われ、桐絵はお茶の水女子大、彩佳は東大の試験を受けた。結果発表は3月10日である。
2月28日(金)、安倍首相は、全国の学校に当面の休校を要請した。
3月2日(月)に卒業式を控えていたC学園ではパニックになる。急遽理事会が開かれ、かなりの議論の上でこのようなことを決めた。
・取り敢えず3月いっぱいは休校する。出席日数が不足する生徒についてはレポートで授業に代える(芸能人でギリギリの子が数人いる)。
・月曜日の卒業式は、卒業生と3年生の担任教師・校長・教頭のみで行う。来賓は全てキャンセルすることにし、すぐに連絡する。校歌斉唱もしない。
すぐに生徒たちに連絡したが、龍虎たちも彩佳たちも、取り敢えず卒業式は実施されるということでホッとした。
「卒業式で、龍は女子制服着るよね?」
と彩佳が尋ねる。
「男子制服着るよ!」
と龍虎(龍虎M)。
「女子制服着ればいいのに。普段は半分以上女子制服着てるくせに」
「あれは気分で」
むろん女子制服を着て学校に来ているのは(たいていは)Fである。Mが女子制服を着ていることもあるが、多くは男子制服が見つからなかった場合である(龍虎のマンションではよくあること)。
むろんMも女子制服を着るのは平気だし、女子トイレや女子更衣室を使うのも平気である。龍虎はMにしてもFにしても本当は恋愛がよく分からない。Mは実は女の子の下着姿や裸を見ても何も感じない。実を言うとMはオナニーする時、自分のペニスが切られてしまうシーンを妄想しながら、している。
1月の段階でアクアのゴールデンウィークのドームツアーが発表され、2月1日(土)からファンクラブの先行予約を受け付けていた。
しかしコロナの問題から、コスモス社長とケイ会長は、2/18に、大阪府知事のイベント自粛要請が出た段階で、TKRの松前社長、沖縄にいる紅川相談役とも話した上でツアーの中止を決めた。
既にチケット代を払っていた人には即座に現金で返還する。これはチケット代相当の郵便局小為替またはQUOカードを送付することでおこなった。普通郵便なので昼間不在の人もすぐ受けとることができて好評であった。(QUOカードを希望した人が9割だった)
またファンクラブを通してチケットを申し込んでいた人には(当選していなかった人も含めて)全員に、ライブができないお詫びとして、お正月のツアー時のビデオDVDを無償で送り届けたが、これが物凄く好評であった。
(オークションで高値取引されないように、一般発売もすることを同時に発表しており、これは3月4日に発売された)
さて、3月2日(月)の朝、龍虎のマンションでは男子制服が見つからなかった!
こういう事態はよくあること!なので、普段ならどこかに予備の男子制服をキープしておくのだが、最近仕事が忙しいこともあり、その作業をするのを忘れていた。
仕方ないので龍虎はこの日、女子制服で学校に出て行った。
龍虎が女子制服を着ているのは、いつものことなのでむろん誰も何も言わない。天羽飛鳥(松梨詩恩)なども
「ああ。龍ちゃんはこちらの制服を着ている方が、何となくほっとする」
などと言っていた。むろん飛鳥は女子制服である!
今年の卒業生で男子制服(というより学生服だが)を着ていたのは武野昭徳のみであった!
「武野君も女子制服着る?予備があるよ」
「遠慮する!」
武野君のスカート姿が可愛いのは確認済み!であるが、さすがに卒業式なので彼も辞退した。(スカートなんか穿いてたら彼の両親が仰天するだろう)
なお、武野君も成美も卒業後は都内の音楽大学に進学する予定で2人とも既に合格している。
「でもなんで予備とかあるのさ」
「龍が万が一にも男子制服着てきたら、みんなで脱がせてそれを着せようと思っていたんだけどね」
「田代さんも大変だなあ」
熊谷から田代の両親も来ていたが、龍虎の女子制服姿を見ても、もちろん何も言わない。
卒業式は短時間に終えようということで、体育館で1人1人に卒業証書を渡すのはやめ、名前を読み上げて1人ずつ返事するようなこともやめ「卒業生98名」とだけ校長先生が言い、卒業生総代が代表して卒業証書を受けとった。校歌も実際には歌わず、今の学年の生徒が歌唱しているのを録音したものが流された(予行練習の時にたまたま録音していたもの)。
でもクラス単位の記念写真を撮ったので、龍虎はこれに女子制服で写ることになった。
その後、各教室で担任から各自卒業証書を受けとったが、結局、龍虎は女子制服のまま、証書を受けとった。なお、龍虎は先生からは「田代」と呼ばれたが、実際に受けとった卒業証書は戸籍通り“長野龍虎”名義である。
(体育館で卒業式に出たのはFだが、教室で卒業証書を受けとったのはM)
そのあと、他の卒業生との記念写真も女子制服のまま写った。同級生たちと“濃厚接触”が発生するのでここはまたFに交替した。実際、どさくさに紛れて腕を組んだり、胸に触ったり、胸を揉んだり!抱きついたりする子もいる。彼女らは龍虎に抱きついて女の子のような感触でも全く気にしない。実際、龍虎は本当は女の子なのだろうと思っている子がほとんどである。
(元々女の子なのか、性転換して女の子になったのかは意見が別れる。ふたなり説も一部にはある)
なお、こういう写真をネットに投稿したり、流出させるような同級生はいない。
卒業式の日は仕事は休みにしてもらっていた。
本当はこの日は、彩佳・桐絵の両親も含めて一緒にお食事でもしようと言っていたのだが、コロナの折、集まるのはやめにして、Zoomを使ってリモートで卒業記念会をした。福井の志水照絵(龍虎の最初の里親)も参加した。(田代夫妻は長野支香と春風アルトも誘ったが、ふたりとも遠慮すると言った。龍虎を育ててきた田代夫妻に悪いからだろう)
各々食事を用意して、彩佳と桐絵は都内のホテルの部屋から、龍虎は自分のマンションから、照絵は福井の実家から参加したが、なかなか楽しかった。
お互い眠くなったらいつでも寝ていいということにしていたので、疲れがたまっている龍虎は1時間ほどで眠ってしまったが、その後は龍虎の両親や照絵が代わりに色々おしゃべりして、卒業お祝い会は3時間ほど楽しく続いた。
(お祝い会に参加したのは、両親がいるので女体に気づかれては困るからMである。Fは千里の葛西のマンションに行って寝ていた)
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【東雲】(3)