【春変】(5)

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10月9日、星良は八幡浜市の旅館で、爽快に目が覚めた。またトイレで女の子式のおしっこをするが「本当にこのタックよくできてるなあ。女の子のお股にしか見えないよ」と感心していた。(バストが大きくなっていることについては、よく分からないので取り敢えず放置している!)
 
朝御飯も食べてから一休みし、10時頃精算して宿を出る。そして帰りは内陸のR56の方を通って伊予市に出た。その後はR11をひたすら走り、夕方鳴門市に到着する。途中2度ほど、コンビニに寄ってトイレ休憩し、軽食を取っている。鳴門市ではこの日もわざわざ旅館を予約して泊まった。この夜も星良は大浴場の女湯に入ったが、バストがあるし、お股はタックしているので、ノートラブルで入浴することができた。
 
女湯っていいなあ、落ち着くんだもん。男湯は凄く緊張していたけど、女湯は入っていて全然ストレが無い、と星良は思った。本当にタックは素晴らしい(なぜバストがあるのかについては何も考えていない)。
 
渚さんからは、
「88番札所まで打ったから、明日朝1番に1番札所の霊山寺を打って終了」
というメールが入っている。
 
「2番札所から始めたの?」
「1番からだよ」
「なんでそこにもう一度来る訳?」
「だって88で終えたら、88番と1番の間の道を通らないことになって、円が完成しないじゃん」
「あ、植木算か!」
「ああ、確かに植木算かもね」
 

10月6日(日)、ローズクォーツの全国ツアーが初日札幌公演から始まった。
 
出演者は、ローズクォーツ(B.マキ G.タカ Dr.サト KB.ヤス)と“代理ボーカル”のローザ+リリン(マリナとケイナ)、それからサポートミージシャンとして、Tb.金沢満(かなざわみちる), Tp,佐藤天美(さとうあまみ)、Horn.佐々木芳恵(ささきよしえ)という3人の管楽器奏者が入っている。この管楽器の音がサウンドに厚みを持たせてくれて、これまでのローズクォーツには無かった世界を創り出していた。今回は『Brass Quarts』というアルバム企画であった。音源制作の時は別の管楽器奏者が参加しており、この3人は今回のツアーでインペグ屋さんを通してお願いした人たちである。3人とも女子大生らしい。
 
「女性のトランペット奏者とかホルン奏者って格好いいですね。憧れちゃう」
などとマリナが言うと
 
「ああ。私、結構女性ファンが多いんです。女の子からデート申し込まれたことも何度もありますよ」
とトランペットの佐藤さんは言っていた。彼女は本名は佐藤真美(まみ)らしいが、誰かが「あ」を入れちゃって“あまみ”になりましたと言っていた。普段は自分のバンドでライブハウスなどに出ているらしい。
 
しかし佐藤さんの言葉を聞いて、この子たち、ひょっとして自分とケイナも女だと思ってない?とマリナは思った。
 

ライブは17:00開場・18:00開演で、20:20頃にアンコールまで終了した。内地の公演より1時間早いのだが、内地との“時差”を考慮したものである。青森県出身の大宮副社長がこの時間を設定した。
 
公演が終わってから、後片付けをイベンターの人たちに任せて、下記の12人がマイクロバスで宿泊地の定山渓(じょうざんけい)温泉に移動した。
 
ローズクォーツ 男4
ローザ+リリン ?2
管楽器奏者 女3
スタッフ(甲斐窓香・大宮副社長・★★レコードの坂口平太) 男2女1
 
合計男6 女4 ?2の12人である。マイクロバスの運転はレンタルしたバス会社のドライバーさんがしている。
 
バスの中では公演で疲れているので、ローザ+リリンも、管楽器奏者も寝ていて起きていたのは、ひたすら飲んでいたタカとマキ・ヤス、坂口さんである。サトは寝ていた。甲斐窓香は責任上起きていたが、むろんアルコールは口にしていない。大宮さんも「疲れたからごめん」と言って寝ていた。
 

21時すぎに到着してから、打ち上げをするが、乾杯した後は、30分ほど御飯を食べた所で女子大生3人、ローザ+リリンは「すみません。眠いので寝ます」といって退出した。実を言うと、女子大生たちが退出のタイミングが分からずにいるようだったので、一緒に退出してあげたのである。
 
「もう寝るといいよ」
とマリナは3人に言う。
 
「ありがとうございます。あ、でもお風呂入ってからにしようかな」
「ケイナさんたちも一緒に温泉行きません?」
「そうだな。行こうかな」
とマリナは言った。ケイナは困ったような顔をしている。
 
「大丈夫だよ。もう22時だから、ピークはすぎてるし」
とマリナは小声でケイナに言った。
 

それで一度部屋に戻ってから温泉に行く。ちなみに部屋は女子大生は3人一緒の部屋、マリナとケイナがひとつの部屋である。
 
「ケイナさんとマリナさんって、ビアンのカップルなんですって?」
と女子大生が言う。
 
「いやただの友だちだよ」
「ええ。そういうことにしておきますね」
 
どこでどう間違うと、そういう情報になってしまうのだろう?とマリナは思った。随分ゲイの夫婦には間違われたけど。そもそもこの子たち、自分たちが男とは知らない感じでもあった。
 
矢印に沿って進んでいくと、やがて通路の突き当たりに赤い暖簾(女と書いてある)と青い暖簾(男と書いてある)が並んでいる。
 
5人はおしゃべりしながらここまで来たのだが、突き当たりでマリナは
「じゃまた後で」
と言って、青い暖簾のほうに入ろうとした。
 
ところがそこに佐藤さんが、首に抱きつくようにして停める。
 
「マリナさん、酔ってるんですか?そちら、男湯ですよ」
「女が男湯に入ったら痴漢で捕まりますよ」
と佐々木さんも言う。
 
それでマリナとケイナは強引に女湯の暖簾の中に連れ込まれてしまったのである。
 

「どうする?」
とケイナが小声で訊く。
 
「入れないことないと思うけどな。過去にも何度か入ってるし」
とマリナは平気で言う。
 
実はどちらにも入れるように、マリナはあそこをタックしておいた。ふたりともバストは無いものの、それは何とか誤魔化せることを過去の経験で知っている。
 
その時であった。
 
「あれ?ケイナちゃんとマリナちゃんじゃん」
と声を掛ける人物がいる。
 
「丸山アイさん?」
「おはようございます」
「おはようございます」
 
女子大生たちも丸山アイを認識して笑顔で「おはようございます」と言った。
 
“おはよう”の挨拶が飛び交っているので、周囲の他の客が怪訝な顔をしている。
 

「こちらは営業か何か?」
「ローズクォーツの公演だったんですよ」
「ああ、例の“代理ボーカル”という建前の年替わりボーカルか」
「今年度は私たちが選ばれたので」
「ローズクォーツの代理ボーカルしたデュオはたいていその後売れてるよね」
「私たちもそうなればいいのですが」
 
「ところで君たち結婚式をあげたと噂で聞いたけど」
「ガセネタでよぉ。私たちそもそも同性だし」
 
「そうなの?マリナちゃんが性転換手術をしたとかいう噂は?」
「まさか」
 
「ふーん」
と言うと、丸山アイは、何か悪戯でも思いついた小学生のような顔をした。何だろう?と思ったら、アイはいきなりマリナの服の中に手を入れてきた。
 
「何です?」
とマリナはびっくりして言う。
 
「マリナちゃん、おっぱい小さい」
「すみませーん。育ちが悪いみたい」
 
「ケイナちゃんはどうかな?」
と言って、アイはケイナの服の中にも手を入れてくる。
 
「わっ」
とケイナも声をあげた。
 
「ケイナちゃんもおっぱい小さい」
 

「丸山さんはおっぱい大きそう」
と佐藤さんが言う。
 
「じゃご披露」
と言ってもアイは服を脱いで裸になる。Cカップサイズのバストを曝す。
 
「私、Cカップしかないよ」
とアイは言うが
「私はBです」
「私もBです」
「私、まだAなんです」
と女子大生3人の声。
 
「まあ君たちはまだ成長期だからね」
とアイは彼女たちに答える。
 
「マリナちゃんも脱ぎなよ」
とアイが言ったが、マリナはこの時、脱いでいい気がした。
 
それで服を脱いだ。お股にはもちろん何もないので、ケイナが驚いている。そして上も脱いだら、ブラジャーを外した内側に、Bカップサイズのバストが出てくる。
 
「女子大生たちと大差無い。マリナちゃん、幾つ?」
「35歳になっちゃいました」
とマリナは答える。
 
「でもまあ個人差の範囲だよね」
とアイ。
「これが何も無い真っ平らな胸だとやばいけどね」
とマリナは内心どうなってんだ?と思いながらも平然とした顔で言った。
 
「ケイナも脱ぎなよ」
とマリナが言うと、ケイナもなんかどうにかなる気がした。それでスカートを脱ぎ、パンティを脱ぐと、何も無いお股が出てくる。これは先日からずっとこういう状態である。
 
そして上も脱いだら、ブラジャーの中からCカップサイズのバストが出て来たのでケイナ自身が仰天している。
 
「何変な顔してるのさ?」
と丸山アイ。
 
「ケイナは昨日まではAカップしか無かったのに。今Cカップになってるから驚いているのよ」
とマリナが言う。
 
「ああ。北海道は重力が小さいからバストも重力から解放されて大きくなったのね(*4)」
とアイが言うと
「そういうこともあるんですね」
と女子大生たちが感心していた。
 

(*4)アイは(多分わざと)間違っている。北海道は本州や沖縄より重力が大きい。北海道で本州と同じ体重計で測ると体重が重く表示されるので、同じ体重になるように北海道で売られている体重計は調整されているという説もある(この噂?を否定する説もある)。実際には宮古島と択捉島で差は50g程度(体重60kgの人で)である。体重計はまだいいとして、科学技術や医療・薬品関係などで使用する正確な電子スケールは必ず使用する緯度に合わせた調整が必要である。
 
地球の表面における重力は、赤道が最も小さく、南極・北極がいちばん大きい。赤道に近づくほど重力が小さくなるから、種子島にしてもフロリダにしてもバイコヌールにしてもロケット打ち上げ基地は南方に作る。少しでも打ち上げに必要な燃料を節約するためである。
 

ともかくも、そういう訳で、マリナとケイナは無事(?)女子大生たちや丸山アイと一緒に、定山渓温泉の女湯に入ったのである。
 
部屋に帰ってからケイナは悩んでいたものの、マリナは
「悩むこと無いよ。まあその内何とかなるって」
と言って、スヤスヤと熟睡したのであった。
 
ちんちんが無くなっちゃったことについては個人的には「どうせ自分のではなかったし」とも思っていた。
 

翌日、マリナは自分の事務所の社長に電話した。
 
「すみません。ちょっと体調を崩したのか、男声が出にくいんです。今回のローズクォーツのツアーでは女声で歌ってもいいですか?」
 
実は女の身体になってしまったので、男の声が出ないのである。
 
「ああ。そういえばマリナちゃん、性転換手術したんだったね?それで男声が出にくくなったのかな。まあ今回のツアーは構わないよ」
 
なんか誤解されてるなあとマリナは思った。マリナはまたローズクォーツの実質的なまとめ役であるタカにも電話した(本当のリーダーはマキだが、マキについては「君臨すれども統治せず」でよい、とケイは言っている)。
 
「なんか喉の調子がよくなくて、男声がうまく出ないんですよ。うちの事務所の許可は取ったんですが、次の公演から女声で歌っていいですか?」
「ああ、いいよ。そうだ。マリナちゃん、性転換手術して女の子になったんでしょ?やはり性転換すると男声が出にくくなるのかな?」
「ええ。タカさんが手術したのと同じ病院で手術したんですよ」
「俺は性転換してないよ!」
 
ちなみに“ローズクォーツのタカ 性転換手術”でネット検索をすると、“ヤンヒー病院”と表示されることは、タカ本人以外の多くの人が知っている(タカの奥さんさえも知っている!)。
 
それでこの後、マリナとケイナはこのツアーでは女声で歌ったので、男声で歌うマリナとケイナは、札幌の観客だけが見たのであった。女子大生3人は、
「札幌では声の調子が悪かったみたいですが、金沢以降はちゃんと普通の声が出ていましたね」
などと言っていた。
 
ちなみに、元々のマリナとケイナの“男声”は、若い頃の財津和夫・さだまさし・南こうせつ、などに似たハイトーンボイスで、そもそも男声であることに気づいていない人もわりとある。
 

旗仲佐理(はたなか・さおり→すけさと)と稠野真倫(しげの・まさみち→まりん)の夫婦は真倫の誕生日でもある(2019年)10月11日に各々の実家がある米子市内で結婚式をあげた。式には、米子市内に住む高校までの友人も、松江市内に住む大学の友人も来てくれた。2人は1999年生まれで、まだ20歳だが、大学に入って以来ずっと一緒に暮らしているので、学生結婚にはなるが、もう式をあげてしまおうということになった。
 
戸籍上の性別が、夫の佐理は法的には女性で、真倫は法的には男性なので、婚姻届の上では、夫が真倫で妻が佐理として届けているものの、むろん結婚式では佐理がタキシードを着て、真倫がウェディングドレスを着ている。2人は高校時代にもよくお互いの制服を交換して着ていたので、みんなそういう2人を見慣れていて、誰も奇異には思わない、
 
式場関係者もごく普通の結婚式と思ったであろう。神職さんの祝詞でも「旗仲大地が次男・佐理」「稠野飛天が三女・真倫」と読み上げてもらった(神職さんもまさか男女入れ替わっているとは思わない)。
 
結婚式・披露宴が終わってからすぐに2人で一緒に婚姻届を市役所に提出。その後、2次会に出席している。2次会では真倫はミッシュマッシュの清楚な白いワンピース、佐理はタケオキクチの黒いカジュアル・ジャケットを着た。
 
新婚旅行は車で行ってくることにし、佐理の父の車・マツダCX-3を借りて、約1週間(予定)の旅に出かけた。友人たちが「ハネムーンベイビー作っちゃいなよ」とはやし立てていた。一応子供を作るのは大学卒業後とは言われているものの、2人は「新婚旅行の間は避妊しないから、できちゃうかもね」などと答えて、出発している。
 
ちなみに2人は佐理が男役、真倫が女役のセックスしかせず、真倫が佐理に入れることは決して無い。
 
「万が一にも入れたりしたら、即そのちんちん切り落とすから」
「切り落として欲しいー!」
 

夕方米子を出てから米子自動車道(落合JCT)中国自動車道(福崎IC)播但連絡道路(山陽姫路東IC)山陽自動車道と、2人で1時間ごとに交替で運転して、三木SAで車中泊。むろん車中セックスして、2人の“初夜”となった。
 
「ほぼ毎日セックスしてるのに、今更“初夜”もない気はするけど」
「何度でも初夜は良いもの」
「初めての初夜、大学合格した記念の初夜、一緒に暮らし始めての初夜、すけちゃんが20歳になったお祝いの初夜、そして結婚式をあげてからの初夜」
「まあいいけど」
 
「性転換手術が終わった後の初夜も待ってるよ」
「それいつ頃手術する?」
「まあ就職してお金貯めてからだね」
「学生時代は無理だよね〜」
「手術代、高すぎるもんね」
 

翌日(10/12)は、SA施設内で朝食を取ってから、更に山陽自動車道を東行。三木JCTから、山陽自動車道木見支線に入り、そのまま神戸淡路鳴門自動車道に入る。明石海峡大橋を越えて淡路SAで休憩してから淡路島を南下。大鳴門橋を越えて四国に入る。鳴門でいったん高速を降りて、午前中は鳴門の渦を見る観光船に乗った。
 
鳴門市内で徳島ラーメンを食べてお昼御飯とし、高松自動車道を走って善通寺ICで降りる。国道319号で琴平町まで南下する。
 
金刀比羅宮にお参りする。
 
2人は本宮まで登った所で「疲れたから奥社まではいいや」と言って、引き返した。そして車中で1時間ほど“ご休憩”してから、国道377号を西行。観音寺市に至る。ここで「やはりこんぴらさんで疲れたよね」と言って車をいったん置き観光タクシーに乗った。(車はタクシー会社の駐車場に駐めさせてもらった)
 
「女性の運転手さんがいいんですけど」
と言ったものの
「すみません。今出払っていて、この人はわりと女性的ですから」
などと言って、40歳前後の神崎光恵さんというドライバーさんを紹介された。
 
「みつえさん?」
と名刺をもらってから佐理が尋ねる。
 
「よく誤読されますが、実は“てるさと”なんです」
「人のこと言えないけど、読めない」
「いっそ“みつえ”か“てるえ”に改名して、性転換して女の人になりません?私もよく“さりー”とか“さおり”って誤読されて、いっそ“さおり”と読むことにして性転換して女になったら?と言われるんですよ」
と佐理がいうので、さすがに真倫が呆れている。
 

しかし性別をよく間違われるという話から、真倫と佐理はこの運転手さんに親しみを感じた。
 
そして神崎さんの案内で“天空の鳥居”として有名になった高屋神社を見た後、ここにお参りすると元気な赤ちゃんが生まれるという一方宮に行く。
 
「奥さん、安産体系ですよ。ハネムーンベイビーできちゃうかもですよ」
「ほんと?できるのは男の子かなあ、女の子かなあ」
と真倫は、はしゃいでいるが、佐理は微妙な顔をしている。そのベイビーって誰が産むんだよ?俺は絶対産まないぞ、という気分である。毎月の生理だって物凄く不快なのに、出産なんて絶対にしたくないと思っている。
 
「そうですね。おふたりとも美形だから、可愛い女の子かもですね」
と神崎ドライバーは言っている。
 
真倫が、お尻が大きく安産体型なのは、そういう体型になるように、物凄く身体をいじめてきているためである。脂肪がつきやすいように、カロリーは多めに摂取し、一方でお腹が凸にならないよう、常にボディスーツを着け、また運動で身体を引き締めている。それで真倫はH88-W58という体型で「女性のモデルになれる」と大学の友人には言われている。「但しヌードを撮る時は後ろ向きね」という困った一言が付くのだが。
 

一方宮の後は観音寺観光の目玉でもある砂絵に向かう。
 
位置的には高屋神社は観音寺市の北部、一方宮は南部、砂絵は中心部近くにあり、こういう移動は不効率なのだが、砂絵を日没近くで見ようということでの時間調整もあったのである。
 
道の駅に車を駐め、琴弾八幡宮にお参りし、お遍路の札所でもある観音寺・神恵院にも寄ってから、砂絵の展望台に行く。ちなみに観音寺市は“かんおんじし”だが、お寺の名前は“かんのんじ”である。(神恵院は“じんねいん”)。また観音寺と神恵院は歴史的経緯で同じ境内に並んでいる。
 
展望台に到着したのが17:20くらいで、太陽はもう後少しで海に沈んでいきそうである。この日の観音寺市の日没は17:36である。
 

2人が神崎さんの説明を聞きながら寛永通宝の砂絵を見ていたのだが、近くにお遍路衣装の23-24歳かなという感じの女性が立って砂絵を見ていた。こんな若いお遍路さんも居るのね〜と思って真倫が見ていると、神崎さんがその女性に気づいて言った。
 
「そちらはひょっとして歩きお遍路さんですか?」
「そうですよ。南無大師遍照金剛。そちらは新婚さんですか?」
「昨日結婚したんですぅ」
と真倫は笑顔で言った。
 
「それはおめでとう!言葉が山陰の人っぽい」
「すごーい!米子なんですよ」
 
神崎さんは尋ねる。
 
「お遍路さんはどこから歩いてこられました?」
「霊山寺を出て順打ちでここまで来ました。4分の3終わった所ですね」
「ずっと歩いて?」
「そうですよ」
 
「よく歩きますね!」
と佐理が言う。“スポーツマン”の佐理にも、とてもこの四国1200kmを歩き通す自信はない。よく見たら、このお遍路さんは凄く体格がいい。
 
「そちら何かスポーツなさってますよね?」
「バスケット選手なんですよ。調子落としてこの所2軍で調整してますけど」
「Wリーグ?」
「はいそうです。以前はスペインのリーグにもいたんですが」
「海外のリーグにいたとは!さすがプロだなあ。身体の造りがしっかりしている」
「高校時代は毎日10kmとか走ってましたから」
「凄い。見習わなくちゃ」
と佐理は本当に感激している。自分もこの人くらい鍛えたら、男子サッカー部にの選手ににしてもらえるかも、と思った。女の身体でもここまで鍛えられるんだ!
 
現状は、大学の男子サッカー部には入れてもらえたものの、選手としてやるだけの運動能力が足りないと言われてマネージャー扱いである。ただし練習は他の男子選手と一緒にやるし、佐理に勝てない選手がいると「旗仲に負けた奴は明日からマネージャーな」などと言われている。実際、結構負けてマネージャーに降格される選手が相次いでいる。
 

「なんか握手でもしたら御利益(ごりやく)がありそう」
と神崎さんが言う。
 
「あ、だったら握手してもいいですか?」
と真倫。
 
「いいですよ」
 
それでまず真倫がお遍路さんと握手し、ついでのような感じで佐理も彼女と握手し、更についでに神崎さんまで、そのお遍路さんと握手した。
 
手を握った時、明らかに“女の手”なのに、凄く力強いと佐理は思った。ちょっと痛いくらいだった(千里が“女性”の真倫は手加減したものの“男性”でスポーツマンっぽい佐理には手加減しなかったため)。
 
やがて夕日は海に沈み、急速に暗くなっていく、真倫たちはお遍路さんと別れて、道の駅に戻り、その道の駅そばにある《世界のコイン館》を見学した。
 
その後、すぐ近くの“天然温泉”琴弾廻廊で降ろしてもらった。ここでお風呂に入って食事もして1泊した上で、翌朝、電話をしたら観光タクシー会社まで連れて行ってもらい、そこで自分たちの車に戻る予定である。
 

さて・・・・観光タクシーを降りて施設の中に入り、受付で入場料を払い、宿泊の申し込みもする(宿泊は2人で8798円と、とっても安い)。
 
ロッカーの鍵は、真倫が女性用の赤い鍵、佐理が男性用の青い鍵をもらう。しかし、真倫は女湯には入れない身体だし、佐理は男湯には入れない身体なのでふたりは鍵を交換して、真倫が男湯へ、佐理が女湯へ、入ることにする。
 
これは以前にもやったことのある方式である。
 
「じゃまた後で」
と言って手を振って別れるが、佐理はお風呂に入る前に、ちょっと腹ごしらえしてから行くと言っていた。
 
真倫が男性用の脱衣室に入っていくと、変な視線は感じるものの、騒がれることはない。女性が男性用脱衣室に進入してきた場合、そこにいる男性の家族などに用事があるのだろうと思われる。これが逆なら即悲鳴をあげられ、通報されかねない。
 
ところが真倫が服を脱ごうとしたら、たちまち従業員の男性が寄ってきた。
 
「お客様、ここは男性用脱衣室です。女性のお客様は向こう側にある、女性用脱衣室をご利用ください」
 
「私、男ですけど」
「冗談はやめてください」
 
「ちゃんと付いてますから、触ってみてください」
「ちょっと待って」
と言ってその男性従業員は、50代の女性の従業員を連れてきた。
 
「このお客様が自分は男性だとおっしゃって、その証拠に自分には付いているから、お股を触ってみてくれとおっしゃるのですが、万が一にも女性だった場合、僕が触るのはまずいから、代わりに触ってみてほしいのだけど」
と説明した。
 
「分かりました。では触ってみていいですか?」
「どうぞ」
 
それでその女性従業員が真倫のお股を触る。
 
「お客様、私にはお股には何も付いてないように思われるのですが」
「嘘!?」
 
実は真倫も今触られた時の感触が変だったのである。
 
「すみません。トイレに行って、自分の性別、確認してきます」
「はい、それがよろしいかと」
 

そこで、真倫はいったん男性用脱衣室を出て、ロビーの女性用トイレに入った。(男性用脱衣室には女性用トイレは存在しない)
 
それでパンティを脱いでみて驚愕する。
 
「なんでこういうことになっちゃってるの??」
 
真倫は2〜3分考えていたが、急に不安になった。それで佐理に電話した。
 
「どうしたの?」
「もうお風呂入った?」
「まだ。今讃岐うどん食べた所で、お腹が落ち着いたから、今から入ろうかと思っていたところ」
「ねえ、お風呂入る前にトイレ行ってみなよ」
「なぜそんなことまで気にする?でも確かにお風呂入ってからトイレより、トイレ行ってからお風呂がいいよね」
 
それで電話を切った。
 
真倫はロビーで自販機のミルクティーを飲みながら待っていたが、5分後に佐理から焦ったような電話が掛かってきた。
 
「俺、ちんちんが生えてる」
「バストも無くなってない?」
「待って・・・あ、ほんどだ!胸が無くなってる」
「それで女湯に入ろうとしたら、すけちゃん、痴漢で捕まるね」
「ほんとだ。どうしよう?」
 
「私とロッカーの鍵を交換しない?それですけちゃんが男湯に入って、私が女湯に入れば問題無い」
 
「まりりん、女湯に入れるの?」
「私はちんちん無くなっちゃったんだよね〜」
「嘘。なんで?」
「理由は分からないけど、好都合じゃん。安産の神様にお参りしたから、私が赤ちゃん産めるように、性別交換してくれたのかもね」
「そんなんあり?」
「でもすけちゃん、男湯に入りたいでしょ?」
「・・・は、入りたい」
「ロビーに居るから来て。鍵交換しよう」
「分かった」
 

それで男子トイレを出た佐理はロビーで真倫と鍵を交換した。真倫は女湯に何の問題も無く入り、佐理は男湯に何の問題もなく入った。
 
「男湯に入ったのは小学1年生の時以来だよ。嬉しかった」
「よかったね」
「まりりんは問題なく女湯に入れた?」
「全然問題無いよ。私は男湯に入るのすごく恐かったから、女湯に入れてホッとした」
 
「俺たち、ずっとこのままなのかな?」
「元に戻ったら戻った時だけど、今の状態の方がお互い好都合だし、取り敢えずいいことにしない?」
 
「ね、ね、ね、今夜だけどさ」
「生でしてもいいよ」
「ほんと?やった!」
 
佐理がまるで子供のように喜んでいるので、真倫は微笑ましく思った。もっとも子供はセックスしないけど!?
 
ともかくも2人は観音寺の温泉で、何度目かの“初夜”を過ごしたのであった。初めての射精を経験した佐理は「こんなに気持ちいいものだったなんて」と、物凄く喜んでいた。真倫も佐理の愛を体内に受け入れて“女の悦び”を感じた。
 

坂口理都は、わずか2日で終わってしまった合宿の後も毎日ジョギングを中心とした自主トレを続け、少しずつ“男性時代”の身体の記憶も蘇ってきた、それで10月から始まった新人戦では、毎回2〜3点あげる活躍を見せ、順調に地区大会を優勝で飾り、都大会に進出した。
 
その地区大会が終わった後、11月2-4(土日祝)に、先日中断した合宿の続きが行われたが、前回全敗だった1on1で、理都は今回は3割くらい勝つことができて
「まだ本調子ではないみたいだけど」
とソラに言われながらも、何とか合宿選抜組の面目を保った。
 
「じゃ都大会で」
「うん。頑張ろう」
 
8月20日に初めての生理が来たのだが、次は28日後の9月17日に2度目の生理、そのまた28日後の10月15日に3度目の生理が来た。次は11月12日に来ることが予測された。
 
「生理って大変だけど、来る度に女になれたって実感を感じていいなあ」
と理都は思っていた。
 

「女に戻れたのを実感できていいなあ」
と宮田雅希(城崎綾香)は、再開後3度目の生理の処理をしながら思った。
 
雅希は小学6年生の頃までは生理が来ていた。しかし中学になってから急に生理が停まったかと思うと、唐突におちんちんが生えて来て、それ以降、生理は来ていなかったのである。しかし8月2日に突然女の身体になってから、14日後の8/16に1回目、その28日後の9/13に2回目、その28日後の今日10/11に3度目の生理が来た。
 
実は生理再開した8/16には生理用品を持っていなくて、たまたま仕事で一緒だったハイライトセブンスターズのひろしにナプキンを恵んでもらった。ちなみに、ひろしは純粋な男の子のはずで、ナプキンが必要とは思えないのだが、常時持ち歩いているらしい。
 
そういえば、数年前に“グループセックス”を重ねていた、フェイ、ひろし、アイ、綾香の4人は、結局戸籍上男の子同士であったフェイとひろしが結婚(フェイは出産に先立ち戸籍を女性に訂正した)、そして戸籍上女性同士である綾香とアイが事実婚する形でまとまってしまった。もうこの4人はグループセックスはしていない。各々のパートナーとだけしている。フェイとひろしは法的にも婚姻したが、アイと綾香はどちらも戸籍の性別を変更または訂正するつもりはないので、女同士でパートナー宣言するつもりである。
 
ちなみにフェイが産んだ子供(歌那)の遺伝子上の父親は実は綾香なのだが、このことはひろし・アイは知っているが、綾香は知らない。産んだフェイ自身はそもそも愛情というものを理解できない人なので、全く関心が無い。子育てする気も全く無いので、歌那ちゃんを実際に育てているのは、自分では子供を産めないモニカ(MTF post-op)である!(歌那はモニカのことを“おかあちゃん”、フェイのことは“ママ”と呼ぶ)
 

なお、フェイが妊娠を発表した時は、父親候補であった、ひろし・綾香・アイの3人がフェイに指輪を贈ったのだが、フェイはひろしとの婚姻届けを出した時に、アイと綾香からもらった指輪は返却している。
 
そして、アイと綾香はその“返却されたエンゲージリング”を交換した!!
 
「3つのRのReuseだよ」
などとアイは言っていた。(Reuse, Reduce, Recycle)
 
「だって私たち女同士だから、どちらもエンゲージリングを受けとる側だよね」
と綾香も言っていた。
 
なお、アイと綾香の性生活は、綾香が完全な女性になってしまっても
「じゃんけんで勝ったほうが男役」
などということをしている。綾香は結構男役でセックスするのにハマっているが
 
「なんなら男の身体に変えてあげようか?」
とアイが言っても
「ちんちんなんて、あんな面倒なものは要らない」
と言っている。
 
「オナニー随分楽しんでいたみたいだけど」
「早紀(アイの本名)のちんちんで遊ぶからいい」
 
アイは、男役も女役もどちらも各々良いなどと言っている。男の時と女の時でけっこう性格も違う気もする。男の子の時は結構やさしいのに女の時はドライだ。その落差にまた雅希は惹かれてしまう。
 
綾香は長年の習慣で、女の子の裸を見て興奮するので、結構アイと2人て一緒にAVを鑑賞したりしている。
「あの子、おっぱいの形いいね。やっちゃいたい」
などと言っているのはだいたい綾香である。
 

アイはひとつだけ気になることがあった。
 
それは綾香が男性化する以前、小学生の頃は生理があったという話である。綾香のことは、5α還元酵素欠乏症(5ARD - 5α Reductase deficiency)なのだろうと思っていたのだが、この疾患は5α還元酵素が無いために、まだ胎内にいる時期に、体内で生成された男性ホルモン(テストステロン)を身体を雄性化させる作用のあるジヒドロ・テストステロンに変換することができず、身体が胎内では男性化できずに女児のような外見で生まれてくるだけで、実際には男の子のはずである。だから生理など起きるはずがないのである。
 
でも本人を不安にさせるだけだし、詮索する必要はないとアイは思っていた。
 
「歌那ちゃんが男の子だったら、間違いなく雅希はY染色体を持っていることになるんだけど、女の子だったから、どちらもあり得るんだよなあ」
などとアイは独り言を言っていた。
 

「これ本当に困るよう。千里、勘弁してよぉ」
 
貴司は3度目の生理の処理をしながら情けない声を挙げた。
 
8月4日の夜、ひさしぶりに千里とデートしたのだが、朝起きたら千里は居なくなっていて、貴司の身体は女の身体に変えられていた。これまでは2018.3.18に美映との結婚を聞いた千里が激怒して貴司の男性器を取り上げ、何も無い股間(陰唇はあるがクリトリスやヴァギナは無い)で過ごしていた(2018.8.18にいったん返してもらったが、浮気未遂で8.31にまた取り上げられた)。
 
ところが、8月5日の朝に気づいた時、お股は、ペニスが無いのはいいとして(?)割れ目があり、クリトリスもヴァギナもある完全な女性形になっていたし、胸もCカップサイズに膨らんでいて、どこからどう見ても女にしか見えない状態になっていたのである。
 
(貴司は中国・台湾・韓国への出張が多く、入出国の度にトラブるが、面倒なので自分は性転換者であると主張することにしている)
 
なお、美映との関係では、美映は貴司がEDだと思っており(本当はペニスが無いのを作り物で誤魔化していた)、特にセックスは求めないので何とかなったが、バストを隠すのに困った。結局、ナベシャツで誤魔化す羽目になった。
 

それはまだ良かった(?)のだが、8月19日、お股から大量の血液が出て来て、ショーツを真っ赤にしているのに気づいた時は、一体どこを怪我したんだ?と思った。
 
ちょうど市川ラボにいた時だったので、お腹が痛くなって少し休んでいた貴司を、市川ドラゴンズの七瀬さんが
「どうかしました?」
と心配してくれた。
 
「どこか怪我したみたいで」
「見せて」
と言って、そこを見てくれた七瀬さんは
 
「なんだ。生理じゃん。何、無知な小学生女子みたいなこと言ってるのよ?」
と言った。
 
ちなみに市川ラボでは、最初ここに紹介された時、(千里の眷属達の悪戯で)貴司は女性として紹介されているので、ここで練習する時、貴司はいつも疑似バストを取付けて女を装っていた。
 
むろん本当は全員貴司の性別は知っているが、悪戯の延長で、貴司は女子を装い続けている。だから女子に生理があるのは全く普通である。
 
「せ、せいり?」
「もしかしてナプキン持ってない?」
「持ってません」
「じゃ貸してあげるよ」
と言って、前橋さんは1枚貸してくれたのである。
 

貴司は戸惑いながらも、その後は自分でナプキンを買って(物凄く恥ずかしかった:メモを手に持ち奥さんに頼まれたような振りをして買った)、自分で処理するようにしたものの、生理があることを美映に知られたらと思うとヒヤヒヤであった。(使用済みのナプキンは会社の多目的トイレや、コンビニのトイレなとで処分していた)
 
その生理は8/19に来た後、9/16, 10/14 と正確に28日おきに来ている。
 
ちなみに一度千里に電話してみたのだが
「あら?生理が来たの?30歳で初潮というのは珍しいね。お赤飯炊いた?」
と言われた。千里(千里2)は、きっと眷属の誰かの悪戯だろうと思っている。
 
貴司は本当に困っていた。もっとも幸いにも?この時期、貴司は会社の混乱に対応するのに多忙で、チーム練習の参加も少なかったので、何とかなっていた感もある。
 
ジャージを着ていたらバストは隠しようもない。
 

その日、観光タクシー運転手の神崎光恵(かんざき・てるさと)は、午前中にフルムーンの夫婦を市内観光に連れて行った後、特に予約は入っていなかったので、普通のタクシーとして市内を1時間流していた。午後2時すぎ、会社から
「今空いてる?」
と連絡が入るので戻ると、新婚さんの市内観光を頼まれた。
 
名刺をそのカップルに渡すと、いつも起きているようなやりとりがある。
 
「みつえさん?」
「よく誤読されますが、実は“てるさと”なんです」
「いっそ“みつえ”か“てるえ”に改名して、性転換して女の人になりません?」
 
性転換しませんか?というのは実は毎週のように名刺を渡したお客さんに言われて・・・実は快感を感じていた!
 

今日案内したのはとても若いカップルで昨日結婚式をあげたばかりということだった。自分たちの車で四国を回っていて、鳴門の渦とこんぴらさんを見てきて、この後は佐田岬・道後温泉・足摺岬・はりまや橋・室戸岬と回っていく予定だが、思いつきでコースを変えるかもということだった。この日は自分たちの車を置いて、ガイドさんに案内してもらおうということだったようである。
 
高屋神社、一方宮と案内してから、琴弾の道の駅に車を駐め、歩いて案内する。琴弾八幡宮、観音寺・神恵院を案内してから、ちょうど日没の時間になるように、砂絵の展望台に案内した。
 
それで新婚さんに砂絵の由来やメンテ体制などを説明し、また寛永通宝1枚は現在のお金にするといくらくらいだったのかというのも尋ねられた(これはよく尋ねられる)ので説明した。
 
この時、近くに若い女性のお遍路さんがいた。お遍路衣装を着ているが、お遍路さんにありがちな頭陀袋(ずだぶくろ)ではなく登山にでも使うようなしっかりしたリュックを背負っている。また靴が物凄くしっかりしたウォーキングシューズだ。それでこの人は、歩きお遍路なのたろうと判断した。
 
「そちらはひょっとして歩きお遍路さんですか?」
ち神崎が声を掛ける。
「そうですよ。南無大師遍照金剛。そちらは新婚さんですか?」
とお遍路さん。
「昨日結婚したんですぅ」
とカップルの奥さんの方が言った。
 
それでしばらく話していたら、お遍路さんはバスケット選手ということである。そして実際に霊山寺からずっとここまで順打ちで歩いて来たらしい。
 
「凄いですね。そこまで歩いている人なら、握手でもしてもらったら、御利益(ごりやく)とかありそう」
と神崎。
 
「あ、だったら握手してもいいですか?」
とカップルの奥さんのほう。
 
「いいですよ」
とお遍路さん。
 
それでお遍路さんは、若いカップルのふたりと握手し、ついでに?神崎とも握手したのである。お遍路さんは厳しい行程を歩くためか、軍手をしていたが(普通のお遍路さんなら手甲だが実用性は軍手より低い)、握手の時はそれを外して、素手で握手してくれた。
 

夕日が沈んでしまってからもしばらく解説を続けた。西の空に明るい星が2つ見えた。尋ねられたので、答える。
 
「上の方に見えるのが木星、水平線近くに見えるのが金星ですよ」
「金星って愛の星ですよね?」
「そうです。そうです。新婚カップルにふさわしいですね」
「わーい」
「ついでに木星は幸運の星だから、おふたり、きっといいことがありますよ」
「楽しみにしておこう」
 
この2人にこの夜本当に“素敵なこと”が起きたのを、神崎は知らない。
 

駐車場に戻り、2人を近くの温泉施設・琴弾廻廊で降ろして、神崎は会社に戻った。明日の朝、迎えが必要だが、それは手が空いている人が行くことになり、このカップルに関する仕事はこれで終了である。
 
神崎はその後は、流しで夜間の仕事をし、夜1時すぎに仕事を終え、車を洗車して、そのまま自宅に乗り付けて帰宅した。
 
タクシーに乗車しているとトイレもままならない。新婚夫婦を乗せてから一度営業所に戻った時にトイレに行き、その後9時頃にGSでトイレを借りてからその後は行ってなかったので、妻に「ただいま」を言って
家の中に入ったら、すぐトイレに直行した。
 
そして、おしっこをしようとして、ズボンとパンツを降ろして便器に座り、おしっこを始めた所で
 
え!?
 
と思った。
 

神崎光恵の妻・弥法(みのり)は、夫が帰宅してからトイレに入ったまま、なかなか出て来ないので心配になった。トイレの前に行き、声を掛ける。
 
「てるちゃん、お腹の調子でも悪いの?」
「どうしよう?」
「どうかしたの?」
「ボク、女になっちゃった」
「へ?」
と声を挙げてから、弥法は
「ここを開けて」
と言った。
 
光恵がドアを開ける。
「これ見てよ」
 
夫の股間はすっかり形が変わっていて、(少なくとも1週間前には確かに存在していた)ペニスも睾丸の入った袋も見当たらない。縦に割れ目の線が見えていて、まるで女の股間である。
 
「嘘?てるちゃん、性転換手術しちゃったの?」
「そんなのしてない。少なくとも10時頃にトイレ休憩した時には、確かに、ちんちんがあったのに、今見たら無いんだよ」
 

「ふーん」
と言ってから、弥法は考えた。
 
「別に問題無いんじゃない?」
 
「そうだっけ?」
「だって、てるちゃん、女の子になりたかったんでしょ?」
「それはなりたいけど、ボクはみっちゃんとの結婚を優先したいから、性転換とかするつもりは無かった」
 
「私はビアンでもいいよというのはずっと言ってたよ。法的な性別を変更されたら困るけど、変更せずに私との結婚を維持してくれるなら、女になってもいいよ」
 
「ほんとにボクが女になってもいいの?」
「中身がてるちゃんなら、問題無い。お風呂行って、そのあたり洗ってきなよ」
「うん」
 

それで頭の中が大混乱しているものの、光恵(てるさと)はお風呂場に行き、服を脱いで、いつの間にかできていてこれも仰天した豊かなバスト!と、本当にどうしてこういうことにと戸惑いながらも。女の形のお股をきれいに洗った。女の性器についてはよく研究しているので、洗い方で戸惑うことは無かった。
 
お風呂場から出てくると、弥法(みのり)も裸である。
 
そして“あれ”を装着している。
 
「なんか、それ大きくない?」
「お誕生日だから入れておげようと思って、新しいのを買った所だったのよね。さあさあ、お嬢ちゃん、いいことしようぜ。足を開きな」
 
そう言って、弥法は“いつものように”光恵を押し倒した。
 
「名前はもう“てるえ”でいいよね?」
と弥法は夫にインサートしながら言った。
 

翌日の朝、自宅に駐めていた会社のタクシーを運転して、光恵は出社した。そして社長に言った。
 
「すみません。実は私、昨夜突然女になってしまったのですが」
「へー。それはまた突然だね。でもそれがどうかした?」
「自分でもなぜ女になってしまったのか、さっぱり分からないのですが」
「うちは男女同賃金だから、君が男でも女でも給料は変わらないよ。そうだ。性別変更届け出しておいて」
 
「あのぉ、私が女でも構いませんか?」
「中身が神崎君なら全く問題無い。そもそも神崎君、本当は女になりたいとか言ってなかった?」
「それはなりたかったんですが」
「だったら、女になれて全然問題無いじゃん。そうだ。観光案内は、だいたい女性のガイドさんを希望するお客さんが多いから、うちも助かるよ。女性ドライバーはこれまで2人しかいなかったから3人になると、吉野君たちの負荷も減るし。神崎君はお仕事、今までより増えるかもね」
 
「はあ」
「吉野君からは、大変だから、せめてあと1人女性ドライバーを雇ってくれと言われていたんだけど、なかなかいい人がいなかったから、神崎君が女になってくれたら本当に助かる」
 
「そうですか」
「そうだ。女になったのなら、女性用制服を着てよ。伊賀屋君!」
と言って、社長は事務の女性を呼ぶ。
 
「神崎君が性転換して女になったらしいから、女性用制服を出してあげて」
「分かりました。神崎さん、女性になられたんですか?おめでとうございます。神崎さんならいいと思いますよ。制服はMでいいかな?神崎さん、細いし。あ、下の名前はどうするんですか?」
と伊賀屋さんが訊くと、本人が答える前に社長が言った。
 
「これまで通りの名前で、読み方を“てるえ”に変えて」
「あ、それでいいですね」
と伊賀屋さんは言い、女子制服のMを出してきてくれた。
 
女子更衣室でそれに着替えてきた神崎は、スカートの制服を着て人前に出たので、恥ずかしがっている。
 
「でもこれまでも女装で出歩いたりしてたんでしょ?」
「やったことはありますが」
「だったら、なにもそれで問題無いね。じゃ、今日からはその制服で乗車してね」
「はい」
「そうだ。今日は中原君が生理休暇なんだよ。それで女性のガイドさんを希望する予約が2件あったのをどちらも吉野君にこなしてもらおうかと思っていたんだけど、予約時間が微妙でさ。3時からのを神崎君、女性ガイドとしての初仕事になるけど頼むよ」
「分かりました」
 
それで神崎はごく普通に日常の業務に就いた。
 
なお、性別変更届なんて用紙が無いと言ったら、伊賀屋さんが速攻で作ってくれたので、神崎はそれを書いて社長に提出した。
 
性別変更届
2019年10月13日
 
氏名:神崎光恵
 
旧性別:男
新性別:女
 
旧氏名:神崎光恵(かんざきてるさと)
新氏名:神崎光恵(かんざきてるえ)
 
伊賀屋さんは「せっかく作ったからこの用紙5枚くらい届用紙入れに入れておこう」なんて言っていたが、そんなに性別の変わる社員が頻発するようには思えない!
 
しかし神崎はこんなに安易に自分の性別変更を受け入れてもらえるって、この会社はもしかしたら、物凄くいい会社なのでは?という気がした。
 
 
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【春変】(5)