[*
前頁][0
目次][#
次頁]
「メス貸して」
と女医さんが言うと、看護婦さんが電気メスを渡す。それでスイッチを入れるとブーンという低い音がする。ちょっと、ちょっと、ホントに切るの〜?
「このまま切ると痛いだろうから、麻酔を打ってあげるね」
と言って注射器を数ヶ所に刺して液を注入している。そりゃあんな敏感な所を麻酔無しで切られたら、痛くてたまらないだろう。
そして鈴音の顔をした女医さんは左手で忍のおちんちんの先を握ると、まず、タマタマの真ん中を切り開いた。きゃー。
「タマタマは要らないよね。邪魔なだけだし、蹴られると苦しむし。無い方がいいよ」
と言って、タマタマを1個取りだして、それに付いている精索をハサミでチョキンと切っちゃった。ひゃー。そしてもう1個のタマタマも取り出し、同じように切っちゃう。えーん。僕、男の子じゃなくなっちゃったよー。
「ここをね。ちゃんと切開してから根元から切らないと、おちんちんって表面に出ている部分だけじゃないからさ。切開せずに切ると、根元が残っちゃって、問題なのよ」
と女医さんは言って、忍のペニスを完全に露出させた上で、根元のところで電気メスを操作し、きれいに切っちゃった! うっそー!!
「じゃ、これはゴミ箱にポイっと」
と言って、さっきのタマタマと一緒にゴミ箱に捨てちゃう。
「割れ目ちゃん、欲しい?」
と女医さん。
「えっと、女の子になっちゃうのなら、やはり欲しいです」
と忍。
「じゃ作ってあげるね。ヴァギナは欲しい?」
「男の子と結婚するつもりは無いけど、どうせならあった方がいいかな」
「じゃ、それも作ろう。子宮は欲しい?」
「妊娠するつもりは無いので不要です」
「そう。じゃサービスで作ってあげる」
うむむ。
「卵巣は欲しいよね?」
「いえ、無くてもいいです」
「じゃ大サービスで作ってあげる。それでちゃんと毎月生理が来るようになるよ」
いや、生理は無くてもいいんだけど。
そして鈴音の顔をした女医さんは、その後どんどん手術を進めていった。忍はもう目を瞑っていた。
「できたよー」
と女医さんが言うので、見てみると、お股の所は、鈴音のお股と同じように、きれいな割れ目ちゃんが出来ていた。
「ここにクリトリスがあるから、女の子の友だちに使い方は教えてもらうといいよ」
などと言っている。
自分にクリちゃんが出来ちゃったら、きっと鈴音がたくさんそれで遊びそうだな、などと忍は思った。
「ちゃんとヴァギナ、子宮、卵巣あるから。半年もしたら生理が始まるよ。生理の時はちゃんとナプキンしてね」
「はい。それは分かると思います」
「あと、おちんちん無くなっちゃったから、もう立っておしっこできないからね。おしっこする時は座ってしてね」
「はい、それも分かると思います」
「証明書もあげるね。これ学校に提出したら女生徒扱いになるから、女子制服で通学しないといけないよ」
「はい、それは何とかなると思います」
と忍は答えて、渡された《性転換証明書》を読んだ。
『患者名・桜野忍。上記の患者は本病院の治療の結果、完全に女性になったことを証明する。治療内容:陰茎・陰嚢・睾丸の除去、大陰唇・小陰唇・陰核・膣・子宮・卵巣の形成、乳房の女性化』
忍は何だか除去したものより形成したものの方が数が多いな、などと思いながらその証明書を眺めていた。
夢から覚めた時、忍は恐る恐る自分のお股に触ってみた。
そしてその感触を確かめた時、凄くがっかりした気分になった。
翌日。
学校で昼休みお弁当を食べていたら同級生の男子・加賀が寄ってきた。
「桜野〜、12月22日のボクシングのチケットもらったんだけどさ、お前行かない?」
忍は笑って応える。
「受験生がこの時期にボクシング観戦なんて有り得ないよ」
「だよなあ。いや、桜野は安全圏かなと思って」
「一応模試ではA判定出てるけど、試験は一発勝負だから、多少体調崩したりしてもそこそこの点数を取れる程度にしておかないと。特にセンター試験で失敗すると、行き先が無い」
「うん。その怖さはあるよな」
「でもどうしたの?」
「兄貴がバイト先で押しつけられたらしくて。チケットが全然売れてないらしいんだけど、あんまり観客が少ないとみっともないというので、タダ券を知り合いに配っているらしい」
「何かお金出して買った人が可哀想」
「どうかした所はバイト雇って頭数揃えるらしいぞ」
「それ買った人がますます可哀想」
そんなこと言っていたら、同級生の女子・公子も寄ってきた。
「忍〜、12月24日に終業式が終わった後、ケーキ食べ放題のクリスマス会に女子何人かで行くんだけど、忍も来ない?」
「僕、受験勉強していたい」
「受験勉強しててもお腹は空くじゃん。チケットがさぁ、本来1人2000円の所、10人分買うと1万円だったからって、蓉子がつい買っちゃったんだって。それで行くメンツを集めてるんだよ」
「うーん・・・。まあ、いっか」
「よし。じゃ、これね」
と言って、公子はチケットを2枚渡す。
「2枚?」
「当然、鈴音も誘っていくでしょ?」
「あはは。鈴音に押しつけようと思ってたのに」
「せっかくだから2人でおいでよ。別にからかったりしないからさ」
「うん・・・」
「おい、桜野、女の誘いには乗るの?」
と加賀が言ったら、
「あ、加賀君も来る?」
と公子は言う。
「そう来るのか!?」
「少食の子ばかりじゃ元が取れないじゃん。加賀君ならたくさん食べそうだし」
「ま。いっか。1000円で4000円分くらい食べるかな」
「じゃ、はい、これチケット。忍も代金はあとでいいから」
と公子は言う。
が、チケットを受け取ってから加賀が困惑するように言った。
「ちょっと待て。これ女性限定と書いてあるぞ」
「ああ。一応そういう建前なんだけど、男性でも女装すればOKなんだよ。忍はもちろん女の子の格好で来るよね?」
「なんでー?」
忍も少し焦る。確かにチケットには「女性限定・ケーキ食べ放題クリスマス会」
と書かれている。
「忍が女装することは、この学年の女子なら大抵知ってるから」
「そうなの!?」
「でも、みんな実際の女装の忍を見たことないんだよ。ぜひ、みんなの前で披露しよう」
「あははは」
「もしかして俺も女装するの?」
と加賀が少し情け無さそうな顔で言う。
「加賀君の女装も一度見てみたいね。熟視はしたくないけど。で写真を撮っておいて後で脅迫のネタに使うとか。あ、服は私が貸してあげるよ。多分母ちゃんの服が入ると思う」
「はははは」
7時間目の授業(受験生用の補講)が終わり、ちょっと図書館に寄ってから帰ろうと思っていたら、忍は廊下で保健室の先生に呼び止められた。
「桜野君、ちょっといい?」
保健室に入るのかと思ったら、面談室に連れて行かれる。
「このボールペン、桜野君のじゃないかと思って」
と言って、シーサーの絵の入ったボールペンを出す。
「あ、済みません。探してたんです。ありがとうございます」
「ああ、やはり桜野君のだったんだ?」
「はい。2月に沖縄に行った時に買ったんです」
「これね。実は体育館の女子更衣室に落ちてたんだけど」
と言って、先生はこちらを試すように見る。
女子更衣室!? あはは。それはまたヤバイ所で落としたものだ。
「済みません。そこで着替えました。先週の金曜日」
と言って、忍はその時の状況を説明した。
金曜日の放課後、忍は数人の友人と一緒に体育館のそばの芝生でおしゃべりをしていた。その時、野球部の子が打った特大ホームランがこちらに飛んできた。
そのボールは誰にも当たらなかったのだが、近くにあった「歓迎松井選手」と書かれた看板に当たった。これは数年前、うちの高校に(当時ヤンキースに所属していた)松井秀喜選手が来てくれた時に、歓迎用に作った看板であった。
そしてその看板がボールに当たって落ちてきて、ひとりの女生徒に当たりそうになった。それでとっさに忍が彼女を突き飛ばして助けたのだが、その時勢い余って忍本人はその先にあった側溝に落ちてしまった。
ずぶ濡れになったものの、着替えが無い。その時、その場に居た鈴音が「私の服を貸してあげるよ」と言い、それでふたりで体育館の女子更衣室(他の子はいなかった)に入って着替えたのであった。
「なるほど、そういうことか。それで畑中さんの体操服か何か借りたの?」
「あとでそうすれば良かったと気付きました」
「ん?」
「彼女が自分の着ていた制服を貸してくれて、本人は体操服を着たんです」
「ん? ということは、金曜日、桜野君、女子制服を着て帰ったの?」
「そうなんです。ちょっと恥ずかしかった。幸いにも知り合いに会わないまま自宅まで戻れましたけど」
「女子制服を着て帰って、お母さんびっくりしたんじゃない?」
「それが、『あら、そんな制服いつ作ったの?』と訊かれました」
「うーん・・・・」
と保健室の先生は悩んでいる。うん。悩むよねー。
12月24日。終業式とその後のホームルームが終わった後で、忍は加賀を連れて3年1組の教室に行った。
「俺、あの教室苦手」
と加賀は言う。
「なんで?」
「だって、女臭いじゃん」
と加賀は言う。
3年1組は女子クラスなので、中に入ると、思春期の女子特有の強烈な甘い香りがするのである。そもそも女子ばかりいる所に行くのを嫌がる男子は多い。
「ああ。でも慣れたら平気だよ」
と忍。
「そうか?」
教室に入って行くと、今日の幹事役の蓉子が
「よし。来たね。それじゃ、お着替えしようか」
などと楽しそうに言う。
今日の「ケーキ食べ放題クリスマス会」は女子限定だが、男子でも女装していればOKということで、忍と加賀は女装で参加することになっているのである。最初は服さえ貸してもらえたら、男子更衣室で着替えるよと言っていたのだが、その着替える過程を見たいという希望が出て、女子更衣室で着替えない?と提案されたものの、加賀が断固拒否したので、じゃ、3年1組で着替えなよという話になったのである。
何だか、3年1組の他の女子たちもこちらを注目している感じだ。そもそもこの教室では男子生徒は珍客である。
「どちらが先に着替える?」
「じゃジャンケンで」
ふたりでジャンケンをすると加賀が勝った。
「じゃ、俺、あとが良い」と加賀。
「じゃ、僕から着替えるね」と忍。
「じゃ、忍、この4枚の紙の中から1枚選んで」
と言って蓉子が白い紙を並べる。
「うーん。じゃこれ」
と言って選んだ紙をひっくり返すと「女子制服」と書かれていた。
「惜しいな」
などと蓉子が言って、他の3枚を開くと「看護婦さん風」「ビキニの水着」
「アイドル歌手風」と書かれている。
「この冬空にビキニは勘弁して欲しいなあ」
「忍、クジ運良いね」
それで着替えることにする。学生服の上下を脱ぎ、ワイシャツも脱ぐ。
「あれ?男子の下着をつけてるの?」
などと言われる。
「なんでー?」
「いや、てっきり忍は女子下着をつけてるかと思ってたのに」
「そんなので学校に出て来ないよー」
「ああ、じゃ家ではつけてるの?」
「そのあたりはプライバシーで」
「でも足の毛は無いね」
「剃ってるからね」
「今日のために剃ったの?」
「いつも剃ってるよ」
「へー」
女子同士で顔を見合わせている。
忍は下着のシャツも脱ぎ、鈴音が渡してくれた女子下着を手に取った。
「ねぇ、その下着は?」と質問が出るので
「ああ、これ忍のだよ」と鈴音は答える。
「何だ。やっぱり女子下着を持ってるんだ」
「でもそれを鈴音が持っているというのはなぜ?」
「いや、いつも鈴音に洗濯してもらってるから」
「なんか、そのあたりのふたりの関係を追求したいなあ」
「気にしない、気にしない」
と言って、忍はまずはブラジャーの肩紐を腕に通し、後ろ手でホックを填める。
「凄い。すんなりと後ろ手で留めるね」
「慣れてる〜!」
「私なんか後ろ手で留めきれないから、前で留めてぐるっと回すのに」
「それやると、バストをきちんと収められないから、後ろで留められるように練習した方がいいよ」
その後、ブラのカップの中にシリコンパッドを入れ、キャミソールを着て、女子制服の上を着て、更にスカートを穿く。それから穿いていたトランクスを脱ぎ、ショーツを穿く。穿いたままパンツを交換できるのはスカートの便利な所だ。
ちなみに今日忍が借りたのは実は鈴音の制服である。そして鈴音は友人の洗い替え用の予備の制服を借りて着ている。
着替え終わると、周囲の女子が何だか沈黙している。
「どうかした?」
「いや、普通に女の子にしか見えん」
「てか可愛い!」
「美少女じゃん」
「眉毛細いね」
「いつもこんなものだよ」
「良く見たら髪型も女の子っぽい」
「いつもこんなだよ」
「それ、先生に注意されない?」
「されたことないなあ」
「うーん」
とみんな悩んでいる。
「よし。じゃ、次は加賀の番だよ」
と忍は言ったが、加賀は自分を見詰めてぼーっとしている感じ。
「どうしたの?」
「いや、可愛いなと思っちゃって」
「でも僕、男だからね〜。ついでに恋人いるし」
「ほんとに男なんだっけ?」
「さっき着替える時に、胸が無いの見たでしょ?」
「チンコはあるんだっけ?」
「あるよー」
[*
前頁][0
目次][#
次頁]
■クリスマス・パーティー(2)