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■萌えいづる修学旅行(4)

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3日目は各々の希望ごとに幾つかのコースに別れての見学になった。和実は梓などとも一緒に嵐山・嵯峨野コースを選択していた。
 
渡月橋の近くでバスから降ろされて、嵐山公園を通り抜けて大河内山荘は前を通過だけして、天竜寺・野宮神社・落柿舎・常寂光寺・二尊院・滝口寺・祇王寺・化野念仏寺、と流れていくコースである。今日はガイドブックと拝観券・食事券のセットを渡され、ガイドさん無しで自由に散策していく。
 
滝田先生がこのコースに参加していて、和実たちは何となく先生と一緒に歩いてまわった。
「懐かしいなあ。このコース。京都への修学旅行の付き添いは何度もしたけどこのコースには不思議と縁が無くて、私自身の高校の修学旅行で回った時以来だよ」
「へー」
「当時は祇王寺に高岡智照さんっていう名物庵主さんがいてね。テープレコーダのように毎回全く変わらない解説をしてくれるので、その筋では有名だった。私が行った時に多分もう90歳くらいだったと思うけどね。その時一緒に回ってたベテランガイドさんが『あの方の解説、10年前に初めて聞いた時から全く変わらないんです。多分20-30年前から同じです。凄い記憶力です』なんて言ってた」
「わあ、ちょっとそれ聞きたかった気分」
 
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「あ、そうだ。その庵主さん、元は舞子さんで、芸者時代の名前が岩崎さんの下の名前と同じだったんだよ」
「え?照葉なんですか?」と照葉。
「そうそう」
「へー。私の名前ってけっこう昔からあったんだ!」
「かもね。その名前を名乗ってたの、大正時代だろうから」
「私、自分と同じ名前って『エクセルサーガ』の四王子照葉くらいしか見たこと無かったです」
 
野宮神社に来る。
「変わった鳥居ですね」
「黒木の鳥居だよね。一時期この黒木が手に入らなくなってさ、コンクリート製の鳥居に黒く塗ったものになってたのよね。私が高校の修学旅行で来た時がそれだったんだけど、その後、奉納してくれる人があって、今はこの自然木の鳥居が復活したんだ」
「わあ、いいですね。外見だけ取り繕ってもね。やはり偽物より本物」
 
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その話を聞いてじっと和実を見ていた奈津が唐突に言った。
「学生服着てる和実って、偽物だよね」
「え?女子制服着てる私が偽物って言われるかと思った」
「だって、和実は中身は女の子だもん。女子制服着てる時が本物で男子制服着てる時は偽物」
「確かにそうだね」と滝田先生。
「もし新学期から、女子制服で通学するというなら、私も応援するよ」
 
「ありがとうございます。その件、母は容認してくれてるんですが、父がとても認めてくれるとは思えないので・・・・通学は男子制服着て、授業中は女子制服着たりするのもいいかな、とか思ってて」
「ああ、いいんじゃない?」と先生は明るい声で言った。
「自分ができる所から少しずつ変えて行けばいいんだよ」
和実は頷いた。
 
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滝口寺・祇王寺を出て、化野念仏寺へ向かっていた時、和実は急に変な気分になった。
 
「すみません。なんかちょっと頭痛がして」と和実。
「あら、風邪でも引いた?」
「いえ・・・これ、危険地帯に近づいた時に出るサイン。私、念仏寺には行かないほうがいいかも」
「ああ、あそこは色々いるからねぇ。霊的に敏感な人はやめといた方がいいかも」
と滝田先生。
「すみません。私途中で待ってます」
「じゃ、清涼寺に行ってらっしゃいよ。帰り、そちらに回るから」
「はい。そちらに行ってます」
 

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ひとりで清涼寺の方へ行き、拝観券を渡して中に入り、本堂を見たあとで、薬師堂のほうに行き「生の六道」と書かれた石柱を見ていた時
 
「あれ?はるかちゃん?」と声を掛ける人物があった。
「永井さん!」
 
それはショコラの店長・神田の友人で東京でエヴォンというメイド喫茶を経営している永井であった。
 
「観光ですか?」
「仕事で来たんだけどね。ついでにちょっと散策。後輩で京都でこれまでチェーン店のカフェやってた奴がいてね。そのチェーン本部が潰れてしまったので、自分で喫茶店やろうかと思ってるってんで、相談に来た」
「メイド喫茶にするんですか?」
「さんざん勧めてきた」
「でも友好店が増えるのはいいことですね」
 
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「だけど、君、ふだんもそういう格好なんだね」
「ええ。今回は修学旅行で京都に来て、嵯峨野を散策してたんですが、気分が悪くなって、ちょっとみんなから離れて休んでたんです」
「じゃ学校にもその服で行ってるんだ?」
「それが今はミックス状態で。一応学生服を着て通学してそれで授業を受けてるんですが、けっこう途中でこの服に着換えて図書館などに居たりします」
「ほほお」
「姉と母にはカムアウトしてる、というかバレてるんですが、父には言ってないんですよね。今回の修学旅行は父がまだ寝ているうちにこの格好で出て来ました」
 
「ははは。僕も自分の息子がそうなってたらショックだろうね」
「お子さんいたんでしたっけ?」
「ううん。独身、子無し。まあ、あと2〜3年のうちに結婚できたらいいね」
「女の子とたくさん接していても相手はなかなか見つからないもんなんですね」
「僕は基本的には商品には手を付けない主義」
「偉いですね」
 
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「君、大学は東京に出てくるの?」
「△△△に行こうと思っています」
「学部は?」
「理学部です」
「あぁ、じゃ新宿区だよね」
「はい」
「じゃ、その近くか東西線沿線とかにアパートとか借りるなら、うちの店への通勤も楽だね」
「ええ。お世話になれたらと思ってます。理系は拘束時間の長いバイトができないので」
「君、雰囲気いいから取り敢えず仮採用ね」
「え?これ面接だったんですか?」
「そうそう」
と永井は笑っていた。
「でもショコラからチーフメイドを引き抜くんだから移籍金払わないといけないなあ」
「わ、ほんとに私たちって商品なんだ!」
 
「ところでこの『生の六道』って何か知ってる?」
「あ、何だろうと思って見てました」
「昔、小野篁(おののたかむら)って人がいてさ。この人、生身の身体で地獄の裁判官をしていたという」
「へー」
「その小野篁が地獄に行くのに使ってたのが、清水寺の近くにある『死の六道』
で、地獄からこの世に戻ってくるのに使ってたのがこの『生の六道』なんだ」
「あ、そういえば清水寺のほうの観光をしていた時にガイドさんからそんな話を聞いたような気がします」
「向こうは六道珍皇寺というお寺になってるよ。そしてここは死の世界から戻ってくる再生の象徴だね」
「わあ」
 
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「あの世とこの世を行き来するってのは、男の世界と女の世界を行き来している君とある意味似ているかもね」
「・・・・そうかも」
 
「君がその格好で『死の六道』には寄らずに『生の六道』の方に来たというのは、君にとって、男の世界が死の世界で、女の世界が生の世界なのかもね。言い換えれば、男としては死んで女として再生したのかも」
和実はそのことばを噛み締めて石柱を見つめていた。
 

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4日目は朝からバスに乗って奈良に入った。東大寺・春日大社・興福寺・法隆寺・中宮寺・薬師寺・唐招提寺などを見て、また夕方京都の宿に戻ってくるという「奈良日帰りコース」である。
 
法隆寺を拝観し、五重塔の前で3枚目の修学旅行記念写真を撮った。これで和実は修学旅行の全ての記念写真に女子制服で写ったのである。そのあと、法隆寺の隣の中宮寺に行き、有名な如意輪観音半跏思惟像を見る。和実はその美しさにしばし見とれていた。
 
「凄く美しいね」と梓。
「うん。法隆寺は何だか少し怖かったんだけど、ここに来て癒される感じ」
と和実。
「和実って霊感少しあるよね」
「霊感ってのかな・・・いわゆる霊能者さんみたいに、何かが見えたり聞こえたりってのは無いのよね。ただ、何かを感じるだけ」
「まさに霊『感』じゃん」
「あ、そうかも」
 
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和実と梓は歩き出しながら、少しみんなと離れて小声で話した。
 
「昨日はやはり念仏寺で何か感じたんでしょ?」
「まるで猛獣の生息区に近づいたような怖さがあったんで逃げ出した」
「ここは?」
「優しい。凄く優しい」
「ローズ+リリーのケイちゃんが男の子だって思ったのも、霊感でしょ?」
「あ、そうかも知れないという気はする」
「私がバージンかどうか分かる?」
「それは霊感使わなくても彼氏としたっての知ってる。1年生の6月頃だったかな」
「いや、それがその時に分かったのが霊感だよ」
「なるほど」
 
「私、△△△に合格できそう?」
「勉強すれば大丈夫だよ」
「大学生になったら彼氏できるかな?」
「できるよ」
「その彼と結婚できる?」
その答えは和実はすぐ分かったがそれを言わずにこう答える。
「それは今は答えないことにする。自分で確かめた方がいい」
 
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「私が産む子供の人数分かる?」
「3人」
「和実が産む子供の数は?」
「1人・・・あれ?」
「ふふふ。誘導尋問成功」
「あれー。私が子供を産める訳無いのに」
「いや、きっと産むんだよ。実は前からそんな気がしてた。私の霊感」
「うーん。。。」
 
「でもこのお寺の境内はそもそも女性的な雰囲気だよね」
「うん。法隆寺のほうとは雰囲気が違うね」
 

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その夜のお風呂は修学旅行最後のお風呂ということで、乱戦気味の触りっこなども発生して、みんな興奮していた。胸の大きな照葉や麗華がかなりターゲットにされていたが、好奇心の対象にされやすい和実もかなり触られていた。和実は「やられたら、やり返す」と称して、自分の胸に触ってきたみんなに触り返していた。しかしこの4日間の入浴で、3-4組の女子みんなと垣根が無くなった気がした。
 
翌日は午前中に京都御所を見学してから京都駅に向かい、新幹線で帰途に就いた。帰りの座席は、来る時に東京から京都まで乗った時と同様、梓・奈津と一緒だったので、気軽におしゃべりを楽しむことができた。
 
「ところで和実、その服のまま自宅に帰るの?」
「それが今日は土曜だから、お父さんが家にいるんだよね」
「ああ、じゃどこかで着換えてから帰るんだ」
「うん。私の例の別荘。今月から私が家賃を払い始めた」
「私も着換えたり休憩したりするのに使わせてもらおうかな」
「うん。いいよ。お店に寄ってもらったら鍵貸してあげるから」
 
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盛岡駅で解散となるので、ホームで先生からお話があり、みんな疲れているのでしゃがんで話を聞いていた。
「それでは自宅に帰り着くまでが修学旅行だから、みんな町で遊んだりせずにまっすぐ家に帰るように」
と学年主任の先生が言う。
 
「和実、寄り道するなって」と梓。
「家に帰る道の途中で立ち寄るだけだから大丈夫」
「でも和実ってさ、去年の3月頃、心理的に女の子になっちゃった気がするけど、この修学旅行を通して、今度は社会的に女の子になっちゃったんじゃない?」
「ああ、確かに」
「来年の3月頃は、肉体的にも女の子になっちゃってたりして」
「いや、受検やってる最中に性転換手術とかはあり得ない」
「そうか。さすがに無理か。でも大学受験の時は女の子の服装だよね」
「当然」
「あ、分かった!きっと来年の3月には完全な女学生になっちゃうんだよ。和実、入学願書の性別欄、女の方に丸付けちゃいなよ」
「ああ・・・それはとってもやってみたい気分」
 
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そんなことができるだけの度胸がそれまでに付くかな?などと思い巡らせながら女子制服の和実は、家に帰るのにどの服を着ようか?というのを考えていた。
 
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