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■ドキドキ新入社員(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-02-23
 
淳平は愛媛県小松町新屋敷(旧・新屋敷村/現・西条市)の生まれで、地元の公立高校を卒業後、東京工業大学の物理学科に入り、4年間主として宇宙物理学の勉強をした。東京の大学に出てきたのは、やはり都会に憧れていたこともあったし、5つ年上の兄・恭介がやはり東京の大学(私立)に入り、卒業後も東京で就職していたからであった。
 
淳平は恭介と同じアパートで暮らしていたが、兄は淳平の“趣味”に許容的であり、しばしばそれを煽っていた。
 
「パーティーのペアチケット、もらっちゃったんだよ。俺、彼女なんて居ないし、お前、女の子になって同伴してよ」
 
それで兄がドレス(イオンで9800円だった)を買ってくれて、それを着て、お化粧して、ハイヒール(これは持っていた)を履いてパーティーに行ったこともある。
 
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淳平はふだんは女装であまり知人には会わないようにしているので、結構恥ずかしかったのだが、兄と一緒だったので、何とかドキドキ感を抑えることができたし、淳平が《男とバレないか》と思ってうつむき加減にしているのが、今時珍しい、おしとやかな女の子と思われた感もあって、パーティーの席上で
 
「え?月山、そんな妹さんがいたの?紹介してよ」
などと何人もから言われた。兄が
 
「ごめーん。こいつ彼氏がいるんだよ」
と言って断っていたが
 
「これだけ可愛ければ、ボーイフレンドくらい居るだろうなあ」
などと言って残念がっていた。
 

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淳平は、一応大学には男装で行っていたので、淳平がしばしば女装でも出歩いていることはクラスメイトたちには知られていなかった。
 
淳平は成績はクラスでも1〜2位を争うほどだったので、最初の頃はよく試験前に「ノートをコピーさせて」と言われていた。
 
ところが淳平のノートを見た友人たちが一様に言う。
 
「読めん」
 
淳平の問題点は物凄い悪筆であることで、それに加えて素早くノートを取るために「自己流略字」を多用している。
 
それで他の人にはほとんど読めないのである。
 
「この『大』の右側が伸びて『P』が書いてあるのは?」
「それは『題目』の『題』だよ」
「なぜそうなる?」
「その字の繞(にょう)が複雑だから『大』に略す。その上に乗ってるのは『ページ』という字だから略して『P』」
 
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淳平の解説を聞いて、何とかノートの解読を試みた者もあったが、大抵1ページも行かない内に挫折した。
 

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淳平は修士課程にも進学し、高校の理科の先生の資格(専修)を取ってから、地元に戻り教職に就くつもりだった。それで大学4年の秋には修士過程の入試を受け合格した。理学部は卒論も無いので、淳平はゼミ活動ばかりやっていた。
 
ところが卒業を目前にした大学4年の1月。母から電話がある。
 
「父ちゃんがリストラにあった」
「え〜〜!?」
 
話を聞いてみると、父が勤めていた会社は、年々営業成績が落ちていて、残業代の支払い停止、更に給料のカットまで行われていたが、とうとう指名解雇に踏み切ったらしい。それで定年間近の父は解雇されてしまったということだった。
 
「職安にも行ってみたんだけど、父ちゃん、ずっと金属加工一筋だったし、何の資格も持ってないでしょ? それであの年齢だから、相当厳しいみたい」
 
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「持ってる免許って、運転免許の他は、危険物取り扱いとか熔接とか、わりと特殊なものばかりで、潰しが効かないのよね。それにあの人、ぶっきらぼうでしょ?客商売には向かないし」
 
「お父ちゃんがレストランなんかに勤めたら、客がみんな怒って帰っちゃうよね」
 
それで結局、学資の送金ができなくなるということだった。母は明確に言わなかったが、むしろこちらから一時的にでも、実家に少し仕送りできないかという雰囲気である。実は自宅のローンがまだ5年くらい残っていて、退職金だけでは精算しきれないらしい。それで退職金をローンの繰上げ一部返済に使うべきか、生活費にリザーブしておくべきか迷っていると言っていた。当面母が何とかパートを探すという話である。
 
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この時期、実は一緒に暮らしている兄の恭介も勤めていた会社が倒産し、流通関係の会社に再就職したばかりだった。給料も以前の会社に比べると下がっているので、とても実家を支えることはできない。
 

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淳平は悩んだ末に、大学院への進学を諦めることにした。兄は、奨学金を受ければ何とかなるよ、実家の家はローンを払いきれないなら売却してもいいと思うと言ったのだが、大学院の奨学金は額が大きい。本当に返せるのか、淳平は自信が無かった。バイトしながらというのも考えたのだが、バイトで時間を取られてしまうと、ゼミの準備が間に合わない気がした。
 
「あのさ、わりと短時間で効率良く稼げるバイトあるけど」
と兄は言った。
「何か危険なバイトじゃないよね?」
「オカマバーに勤めてみない?お前、可愛いから、凄い人気になって、学費くらい簡単に稼げるよ」
 
「え〜〜〜!?」
 
確かにちょっとゲイボーイなんて、やってみたいような気は以前からしていたのだが、ちょっと怖い世界のような気がして、気が進まなかった。それに男の人とセックスとかすることになったら、どうしよう?などとも悩んだ。
 
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淳平は女性志向はあっても恋愛対象は女性なので、男性とのHなことはあまり想像したくなかった。
 

それで結局、大学の教官には謝り、大学院への進学をキャンセルして、学部だけで卒業することにした。教員免許は「専修」ではなく「一種」になるが取得できる。しかしこの時期には教員採用試験はとっくに終わっている。大学の就職関係の教官に尋ねてみたのだが、今からの時期の就職は厳しいので、むしろ職安に行った方がよいと言われた。
 
それで淳平は職安に行ってみた。
 
「実家の経済状態が悪化して急に修士課程への進学を取りやめて就職することにしたんです」
 
「それは大変でしたね」
と言って、職安の人は理系の学生が就職できそうな会社を探してくれた。
 
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「この時期からすぐにとなると、大きな会社は無いけどいいかなあ」
「中小企業でいいですよ」
 
「洋服屋さんの店頭販売員とかあるけど、どう?」
「ああ、私あまりファッションセンス無いし、あまり口もうまくないし」
 
「これはどうかな。CADオペレータなんだけど。CADって分かる?」
「分かりますが、私、絵心が無いから、向かないかも」
 
「これは?リフレクソロジスト」
「なんでしたっけ?」
「足とか手のツボを刺激して、体調の悪いのを改善するとか。マッサージみたいなものかな」
「それ資格が要るのでは?」
「最初は助手で入って、技術を学びながら資格を取ればいいみたいだよ」
「私、あまり腕力無いので」
 
「ああ、確かにあんた細いもんなあ」
 
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淳平は係の人と話しながら、何かいやに女性向きの仕事を紹介されるような気がするなあと思った。あまり男性向きの求人って無いんだろうか?
 
「あんた東工大?だったら、プログラムは書ける?」
「一応C, C++, Javaなら書けます」
「だったら、ここ行ってみる?」
 
と言って紹介してくれたのが、足立区のBMシステムという会社である。
 
「プログラマーなら、何とかなるかな」
「ここ多分残業多いと思うけど」
「それは平気です。ゼミの準備とかで徹夜は慣れているし」
 
それで係の人が連絡すると、取り敢えず来てみてと言われた。
 
「あ、私今日面接になるとは思ってなくて、こんな格好なんですけど」
と淳平は言う。
 
古着屋で買った200円の時代錯誤的なポロシャツに穴の開いたジーンズである。
 
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「多分大丈夫と思うけど」
と言いながら、係の人はその件を伝えたが、向こうは勤務する時にそれなりの服装をしていればいいので、今日は別に気にしませんよということであった。
 

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それで淳平はコンビニで履歴書の用紙を買うと、それを手書きで記入して、スピード写真で写真を撮って貼り付け、足立区のBMシステムを訪問した。
 
ノックをして中に入る。受付のテーブルがあるが誰も居ない。
 
「こんにちは」
と奥に向かって声を掛けたのだが、誰も出てこない。数回声を出したが反応が無い。それで淳平は、勝手に中まで入ったら悪いかなとは思ったものの、磨り硝子の間仕切りの向こう側に入って
 
「済みません」
と声を掛けた。
 
すると、中で3人の女性に指示を出していたふうの30代くらいの男性が
 
「はい。どなたでしょう?」
と返事をする。
 
「失礼します。受付の所で声をお掛けしたのですが、どなたも出て来られなかったので。私、さきほど職安から紹介して頂いた、月山と申しますが」
 
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「ああ、東工大を出たとかいう人?」
「3月に卒業する予定なのですが」
 
「あんた、PHP分かる?」
「ネット上で動いているPHPで書かれたSNSのプログラムを修正したことならあります」
 
「だったら、ちょっとこの仕事手伝って。月曜日までに納品しないといけないのに、ホストマシンが壊れてしまって、ソースが取り出せないんだよ。それで全社員総動員でリストから入力しなおしていて。あんたパンチ速度は?」
 
「だいたい秒7-8文字です」
「速いじゃん!取り敢えずこのソース頼む。あ、君名前は何だったっけ?」
 
「月山です」
と言って、淳平は履歴書を差し出した。
 
「OK。じゃtsukiyamaでidを発行するから」
「はい」
 

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