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■男の娘とりかえばや物語・ふたつの出産(1)

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宇治の邸で、権中納言は女君(涼道)のそばで、おろおろしていました。女君は愛らしさは変わらないものの、男として生きてきた人なので、自分は苦しいはずなのに、弱音を吐くこともなく、明るくふるまっています。しかしさすがに陣痛が始まると、かなり苦しそうです。その様子を見て、権中納言は
 
「わが命と代えてもどうか無事に」
と祈っています。その効果があったのか、7月1日、少し予定より遅れて、光るような男の子が生まれました。
 
若君は萩の季節に生まれたことから、萩の君と呼ばれることになります。(ずっと後の三位中将)
 
女君は気丈で、産んだばかりで自分もかなり辛いであろうに、生まれた若君をそばに寄せ、自ら世話をしています。
 
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権中納言は、そう卑しくもない身分の女で乳の出る備前という者を乳母として呼びました。
 

この子のことを世間に公に出来たら良かったのに、などと言いながらも、権中納言はこの子のお世話をして、外出もなさりません。
 
日が経つにつれ、この子が可愛くなっていく様子を、女君に見せては、自分と女君の間に深い縁がある証だ、などと言っています。
 
「昔からこういうふうに女として暮らしていたら何も悩みなかったのに」
と言われるので
 
「そうだったかも。自分も変な生き方をしていた」
などと女君も思ってしまいました。
 

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安定した状態で十数日すぎたので、権中納言はすっかり安心しました。今までは女君が、男姿に戻ってしまわないかと心配していたのですが、女君はこの若君をたいそう可愛がっていて、権中納言としては、この子を置いてどこかに行ってしまうこともあるまいと思います。
 
すると、今にも死にそうな感じであった四の君の出差もそろそろではないかと思い、そちらが心配になってきます。それで女君に相談しました。
 
「あの人が死ぬかも知れない状況なので、様子を見にいきたい。それとあの人のこともお世話していきたいので、ここに迎えたいと思うのだが」
などと言います。権中納言としては、四の君がこの邸に同居してくれたら、ふたりを同時にお世話できるようになり、とっても楽になります。
 
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女君は極めて不愉快に思いましたが、微笑んで
「確かにそれはよいかも知れませんね。でも私、あの人に自分が元の夫だとは知られたくありません」
 
と率直な意見を言う。それで権中納言もさすがに無神経だったかなと後悔し
 
「いや、少しの間も心配したくないと思っただけだよ」
 
などと言い訳しておきました。ともかくもそれで権中納言は四の君の所に出かけていきました。
 

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権中納言としては、今は女君については安心だろうと思い、四の君の方をもっぱら心配しています。
 
四の君は勘当されて以来、父からは何もしてもらえなくなっていますし、実母は父・右大臣の気持ちに配慮して、娘には何もしていないようです。四の君が退避している家にもほとんど顔を出していないということでした。姉たちもこれまで四の君があまりにも可愛がられていたので、いい気味だという感じで見ているようです。ただ右大将からのお品は時々届けられているようでした。
 
結局四の君は自分と右大将の2人以外のみんなに放置されている状態ですが、右大将もまだ出産直後の身ですから、できることにも限度があるでしょう。結果的には自分がこの人をしっかりお世話しなければと思い、四の君にずっと付いて話し相手になったりしています。
 
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一応女君には四の君の様子を含めた手紙を毎日書くのですが、それを受けとった女君は不快な気持ちを抑えられませんでした。
 

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女君は思います。
 
「男心なんて、こんなものだ。自分は出世してバリバリ仕事をしていたのに、妊娠のために、急に身を隠すはめになった。こんな風に男を待って暮らすというのも、やはり自分の生きる道ではない。右大臣は、世間が噂している間だけ四の君を勘当しておくのだろう。そしてやがて右大臣が娘を許したら、権中納言はますますあちらに引き付けられるだろう。私は何も後ろ盾がないから、足遠くなった男をひたすら待つだけの身になる気がする。といって、元の男姿に戻っても、権中納言に性別がバレている以上、以前のようにやっていくのも難しい。結局は吉野山に入って出家するしかない」
 
しかし自分が出家した時、この若君はどうすればいいのかと考えると、自分の行動に選択肢が無い思いでした。
 
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7-8日経って権中納言は戻ってきました。そして四の君の様子を色々語るのは、女君としては不愉快です。向こうのことは向こうの事としてこちちらには何も話さなければそれでいいのにと思います。元々権中納言が浮気っぽい男なので、よけい冷めてしまうのです。
 
またこちらに数日滞在するのだろうと思っていたら、夕方使いが来て、
 
「かなり苦しそうにしておられるので、もうすぐご出産だと思います」
 
という。さすがに権中納言も、戻って来たと思ったらすぐ向こうに行くのは女君に悪いとは思ったものの、そんなことをしている内に四の君がもし死んでしまったらと思うと放置できません。結局急いで出かけられました。
 
翌朝、権中納言からの手紙があり
「今にも死にそうなので、とにかくどうなるか見極めるまでは動けない」
と書いてあります。
 
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「深く思い込んだにしても限度があるものなのに、あなたの四の君への愛は深いのですね」
と返事をするが、権中納言はこの皮肉が全く分かっておらず
 
「やはり男として生きてきたのもあって、さっぱりした人だなあ」
と権中納言は思っていました。
 

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女君(涼道)はやはり、吉野宮の所に行き出家しようと思って、吉野宮に手紙を書きたいと思いました。しかしこの邸にいるのは権中納言の配下の者ばかりで、手紙を頼める人がありません。
 
悩んだ末、女君は、若君の乳母になった備前という女に、相談しました。
 
「私のお願いを他人には話さずに聞いてもらえますか?」
「もちろんです。身を捨てろと言われても従います」
と言ってくれます。
 
「ここにいる他の人たちにも、ましてや権中納言には決して知られたくないのです。お手紙を出さなければならない事情があるのですが、工夫してもらえますでしょうか?」
 
「いとも簡単です」
 
それで女君は手紙を書きました。
 
『この何ヶ月か、お元気でいらっしゃいますか?どうなることかと心細い気持ちでしたが、今日まで私も事無く元気でおります。ご覧になっていた姿とは違ってはおりますが、何とか参上したいと思っています』
と書きました。
 
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きっちり封をして備前に託します。備前は女君の素性を聞いていないので、吉野宮にはお嬢さんがいると聞いたが、もしかしてこの人がそのお嬢様なのだろうかなどと思いました。乳母は自分に仕えている侍めいた者にしっかり教えて吉野宮に行かせました。これが出産から1月経った8月1日です。
 
(仲昌王の妻の乳母に採用されるほどの者であれば、そもそも割と良い所の家の女だろうと思われる。当然その家に仕える者がいる。乳母はそういう者に託したのである)
 

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吉野宮では、花久が宮から学問や笛などの手ほどきを受けながら、涼道からの手紙を待っていました。約束の七月も過ぎてしまい、不安になっていたところ、ある夕方、ひとりの男がやってきます。
 
「このお手紙を宮様に差し上げてください」
と言います。
 
「どちらからか?」
と訊くものの、男はそれは言わずただ
「宮様に差し上げて下さい」
と言うだけです。
 
それで男を中に通して、宮がお手紙をご覧になると、右大将のお手紙なので大喜びします。花久にも見せますと、花久も妹の無事な様子に安堵すると共に喜びました。
 
手紙にある「以前と違った姿」というのを宮は、法師の姿になられたのであろうと解釈しましたが、花久は宮には言わないものの、もしかして女の姿になったのではと思い至りました。
 
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「どこにいらっしゃるのか」
と使いの者に訊くのですが、口が硬いようでなかなか話しません。それを花久が
「私はその人の兄弟なのだ。ずっと音信がなく不安であった。ぜひ教えて欲しい」
と言うと、やっと男は
 
「宇治の辺りにいらっしゃると伺っております」
と答えました。
 
「宇治はどのあたりか」
「式部卿宮の御領地と伺っております」
 
それで花久は、そうか!あの時、邸にいた女が、右大将だったのかと思い至りました。そうか、やはり女になってしまったのかと思うと、無事であることは嬉しいものの、性別の変更についてはあの子がどんなに悩んでそうしたろうかと思うと、自身、悲しい気持ちにもなりました。
 

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宮がもちろんお返事を書きますが、花久も手紙を書きます。
 
「6月に思い立ち、男に姿を変えて、京を離れ宇治近くを通り、こちらの宮を訪ねてきました。右大将様が7月にもお手紙を差し上げようとおっしゃっていたという話を聞き、それを頼みにそのままここで待っておりました。ご様子はどうですか?何とかお目に掛かって下さいますか?私の参上できる所でしょうか?」
 
(便宜上漢字交じりで書いているが、実際には、かなの手紙!)
 
それでこのお使いの者には、充分な褒美を与えた上で、花久がここに来る時に乗って来た馬を与え、この馬に乗って早く向こうに行って、また返事を持って来て欲しいと言いました。
 
それで使いの者は急ぎ戻り、備前を通して、女君にお手紙が渡ります。涼道は宮からの手紙はよいとして、一緒に見慣れた“かな文字”で“うだいしゃうさまへ”と書かれた手紙を見てドキッとします。姉上の手紙を吉野宮様が預かっていたのだろうかと思い、まずそちちを開けて、懐かしい手の文字を読みました。
 
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思わず涙があふれます。
 
「それではこないだの誰かと思った人は、尚侍様が私を探しにと姿を変えて内裏をお出ましになったものだったのか」
と思い至ります。
 
私も女の姿になり、姉上も男姿になって、こうしているというのは、どういう運命なのだろう、などと思います。
 

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女君は備前に再度相談しました。
 
「私の兄弟にあたる人が密かに連絡をしてきているので、人知れず会いたいのです。権中納言の耳に入ると、変な入れ知恵でもするのでは勘ぐられそうで。うまく会える場所とかは作れないでしょうか」
 
平安時代の感覚では、結婚した女が自分の男兄弟と連絡を取るのは、その男兄弟が妻に何か吹き込むのではと考えられ、あまり好まれなかったのです。
 
備前は言いました。
 
「でしたら私の私室をお使い下さい。京からやってきたお使いを装って私の私室に入り、夜中に人が寝静まってから、お会いになると良いです」
 
「ありがとう。そうさせてもらう」
 
それで女君は兄へのお返事を書きます。
 
「詳しくは直接申し上げたいので、この近くにいらして、この男に命じてご連絡を下さい」
 
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その涼道からのお返事を見ると、花久は夢のように嬉しく思います。母君にも連絡したい気分ですが、もう少し詳しい状況が分かってから連絡した方がいいだろうと考え、この使いの者と一緒に宇治まで行きました。
 
(使いの者は花久の馬、花久は長谷が使った馬を使う)
 

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それで宇治の邸の近くの家(たぶん備前の家か?)にお着きになり、使いの者が備前に連絡して、夕闇に紛れて花久を邸に入れ、備前の私室に入れたのです。備前はそのやってきた人を見て、女君によく似た顔立ちなので、兄弟というのは間違い無いと思いました。
 
人が寝静まって(多分夜8時頃:昔は電灯がないから夜が早い **)、備前が女君を自分の私室に案内します。備前は若君を連れて女君の部屋に移動して、女君と花久を2人だけにしてくれます。
 
(乳母以外の邸の人は、特に呼ばれたりしない限り、女君の部屋に来ることはありません)
 
(**)これは8月4日頃と思われる。月出・月入の時間は平均して毎日 24h/29.5日 = 49分ずつずれていく。下記は2020年陰暦8月の京都地方での日入・月入の時刻である。
 
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日付 日入 月入
8.1 18:01 18:12
8.2 18:00 18:47
8.3 17:58 19:22
8.4 17:57 19:57
8.5 17:55 20:36
8.6 17:54 21:19
8.7 17:52 22:07
 
平安時代の生活サイクルはだいたいこんな感じである。
 
3:00起床 軽食を取る 6:30出勤 11:00仕事終了 12:00朝食 午後は自由時間 16:00夕食 日が暮れたら寝る。
 
日暮れは日没の36分後(季節により多少変動する)である。18時頃日没なら18時半頃が日暮れでこれを過ぎると灯りが無いと活動不能なので、みんな寝ていた。昔はテレビもネットも無いから日暮れ以降起きていてもすることがない。従って19時頃にはみんな寝静まっていた。その時間帯に乳母は2人を会わせた。
 

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