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■男の娘とりかえばや物語・ふたつの出産(3)

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宇治では権中納言が戻ってきます。女君はごく普通の様子で、身だしなみもしっかりし美しく装い、権中納言のお世話をします。紅色の単衣襲に女郎花色の上着と萩色の小袿を着ています。一時は痩せていたものの、ここの所体調を回復したので、華やかで美しく、髪もつやつやで物が映るほど豊かで肩に掛かり、背丈に余った分が扇を広げるように広がっています。
 
「子を産んでからよけい美しくなりましたね。男姿を素晴らしいと思ってはいけません。こんな素敵な方が、内裏に出ていったら、みんなが見とれてしまうでしょう」
などと権中納言は言っています。
 
四の君のことはどうなんだろうと思っていたら、使いが来ます。
「ただ今もう最期のご様子で、四の君様はお亡くなりになってしまうでしょう」
などと言います。
 
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使いのある度にすぐ向こうに行くのは女君に悪いとは思うものの、
「ただどうにかなるまでの間だ。生きながらえそうもない人だから、無残に見捨てることもできない。あなたは理知的な変な嫉妬心も持たないから安心だ。私を叱るにしても、ともかくもあちらの状況を見てからにしてもらえないだろうか」
と言って、泣いています。
 
女君はもう自分はここを離れることを決めているので全く平気です。前々からこういう男なのだということが分かっていた。ただ、自分の性別を知らない人に見られるよりはと思って身を任せていただけだ。などと考えています。
 
「いちいち弁解しなくてもいいですよ。私が何も知らない方がいいのかも」
などと権中納言に言いますが、権中納言は
 
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「あなたが行きなさいと言ってくれるなら行って来よう」
と言って立とうとしません。
 
それで女君は、全くなんて女々しい奴だと思いながらも
 
「では早く。あちらが可哀想ですよ」
と言いますので、権中納言もやっと立ち上がりました。
 
それでも何度も何度も女君を見るので、女君は知らぬ顔をしています。そして権中納言が出発してしまうと、女君は、子供をしっかり抱いて「ごめんねー」と言って一晩泣き明かしました。
 

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翌朝、権中納言から便りがあり、
「四の君が出産した。生きるか死ぬか分からない状況なので、もうしばらく付いている」
ということです。
 
「分かりました。思ったよりは良い状態のようですね。先日の自分の出産のことが思い出されます」
と返事をします。
 
このタイミングでここを出ようと思い、吉野宮にも手紙を出してこの日はずっと若君を抱いていました。
 
夕方、花久がやってくるので、先日と同様に乳母の私室に入れ、人が寝静まるのを待ちます。その間、女君はずっと我が子を抱いています。
 
やがて人が寝静まった頃、乳母がやってきて
「どうぞお会いください」
と言うので、涼道は我が子を乳母に渡し、
「申し訳無いですが、しばらくの間、この子の面倒を見ていてもらえませんか」
と言いました。
 
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「はい、お預かりします」
と言って備前は受けとりましたが、まさかその“しばらく”というのが十年以上になるとは思ってもいません!
 

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乳母の私室に入った涼道はそのまま闇に紛れ、花久に導かれて車に乗りました。
 
車は一路吉野を目指します。
 
花久は涼道に寝ているように言いました。
 
車は明け方、吉野に着きました。
 
姫たちの部屋に招き入れます。涼道は姫たちには、男装でしか会ったことがないので、今更女姿で対面するのが恥ずかしくてうつむいていたのですが、その様子を見て花久はてっきり、“愛していた”権中納言と離れて寂しいのだろうと思い
 
「あなたの思い人と離れて寂しいかも知れないけど、ここで少し身体を休めよう」
と言いました。しかし涼道はここで初めて打ち明けます。
 
「権中納言とのことは私自身、心外なことだったんです。それよりも実は僕、子供を産んでしまって。その子を置いて来たのが心苦しいんだ」
 
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「そうだったのか。それは大変だったね」
と花久は言いましたが、実は涼道の身体に乳の匂いがしていたので、きっと権中納言の子供を産んだのだろうと最初から察していました。
 
「その子のことを父には知られたくなくて。それと権中納言とも縁が切りたくて」
 
「だったらこないだも言ったように私と入れ替わりましょうよ。尚侍として後宮にいれば、あまり煩わされなくていいよ。あいつは右大将の振りをしている私に言い寄ってくるかも知れないけど、さすがのプレイボーイのあいつも、男の私をやっちゃうのは無理でしょ」
 
「いや分からないよ。あいつなら男でも行けるかも」
 
「マジ?」
と花久は急に不安になりました。
 
「でも花子ちゃんは妊娠しないかもね」
「それ、ちょっと出産してくれないかと頼まれているんだけどね」
「へ?」
 
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さて宇治の邸では、朝になると女君が居ないので、大騒ぎになっています。侍女たちが手分けしてあちこち探すものの見つかりません。大混乱している所に夕方、権中納言がお帰りになりました。
 
「女君が居ないだと!?」
「だいぶお探ししたのですが」
「一体何があったのだ?誰か京から訪ね来る人などあったか?」
 
と訊きますが誰も何も知りません。
 
唯一事情を知っている、若君の乳母にしても、言えば責められるのが明らかなので何も言いません。他の人は本当に何も見ていません。
 
「何も変な様子は見られませんでした。若君をお抱きになって、しばしば泣いておられましたが、男女関係のことで何か不安に思っておられるのかなとは思っていたのですが、どこかに出て行かれるかのような様子は見えませんでした」
 
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限り無く大切にされていた御身だったのが、こつそり隠されているような宇治の侘び住まいで、頼りにする男(自分)が四の君の所にずっと行っていて、不安だったのだろか、などと反省します。ちょっと見た感じでは、全て安心しきっているように見えたのに。あまりにも悲しい気持ちになって、探そうという気力も起きませんでした。
 
「どうしよう?」
 
と悩みながらも若君の顔を見ると、あどけない顔で笑っています。きっと子供を捨てるのは忍び難かったろうに、それを捨てて居なくなってしまったのは、なんと気丈な人だろう、と権中納言は考えました。
 
女君の部屋に脱ぎ捨ててあった衣服に女君の匂いが残るのを嗅いで、よよと泣いています。権中納言の様子があまりに可哀想で侍女たちも嘆いています。
 
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誰も知らないまま出られるものだろうかと改めて侍女たちに訊くものの誰も知らないと言います。何か書き置いた歌でもないかと探しますが、そのようなものも見当たりません。普通ならこういう悲しい気持ちを歌に読むところですが、あまりにも悲しすぎて歌も出てきません。
 

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さて四の君は、権中納言が見守る中、何とか男の子を産み落としたものの、それで気力が切れてしまい、もう息も絶え絶えな感じでした。
 
「私もう死ぬかも。死ぬ前にもう一度父上に会いたい」
などと言っているので、母親が右大臣に訴えました。
 
それで右大臣も
「娘の死に際も見ることができなかったら一生悔やむ」
と言って、四の君の居る家まで来てくれました。
 
(右大臣が来るというので権中納言は退出する)
 
やってきた右大臣が見ると娘は本当に今にも死にそうな雰囲気です。それで自分は何て冷たい親だったのだと後悔し、
 
「こんな状態になるまで、見放していて済まなかった。あまりにもショックなことを聞いて、憂鬱な気分になり、叱って勘当を言い渡してしまった」
 
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と謝り、勘当を解きました。
 
そして自ら、白湯などを娘の口に含ませてやったりしますし、坊主を呼んでたくさん祈祷などさせていると、少しだけ体調が回復してきました。
 
萌子は
「私を尼にしてください」
と言いましたが、父は許しません。
「自分が生きている間はそのようなことは考えるな」
と言います。
 
そしてまた白湯など飲ませている内に、かなり安定してきたので、右大臣邸に連れて帰り、そちらでお世話するようにしました。
 

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右大臣宅への移動は、おとなしい牛の引く車に乗せてゆっくり運びますが、侍女たちの手により多数のお道具が一緒に運ばれます。
 
「結構お道具が多いな」
「はい。権中納言様が色々手配してくださいましたし、右大将様からもたくさんお品を頂きましたので」
 
「右大将が!?」
「はい。自分は事情あってまだ姿を現せないが、せめてもの助けにとおっしゃって、色々送っていただき本当に助かりました」
 
「あの男生きていたのか!」
と右大臣も驚くとともに喜びました。
 
実際、右大臣宅に戻ってすぐに右大将のお使いという者が来ます。たくさんの布や酒に魚や果物なども揃えてあります。
 
「四の君様、無事にご出産ということで、右大将は大変喜んでおります。まだ体調が充分ではないのでこちらには寄れないものの、必要なものは何でも用意させるから、遠慮無く言って欲しいとのことでした」
 
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「そうか。それは助かる」
と右大臣は喜んで言いました。
 
(もちろんこれらの品を用意させたのは式部と秋姫)
 
「あとで左大臣もこちらに寄られるでしょう」
「そうか。済まない」
と言いながら、右大臣は不安になります。それは生まれた子供の父親は誰なのかという問題です。
 
四の君自身はまだ絶対安静の状態なので、赤ん坊を抱いている乳母を呼び寄せ、萌子の母と2人で赤子の顔を見ます。
 
「右大将様に似ている気がします」
「うん。私もそう思った」
 
「だったらこの子は右大将様のお子なのですね」
「良かった!そういうことなら、勘当などするのではなかった。あの子は何も過ちをおかしてはいないではないか」
と右大臣はたいそうご機嫌になりました。
 
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その日、宮中では、土佐から緊急帰京した土佐国司が、今やほとんどひとりで朝廷を動かしているに近い、左大将・源利仲(三の君の夫)と激論を交わしていました。
 
「今とてもそちらにまで派遣する兵力が無いのだ。何とか現行兵力で抑えてくれ」
「とても無理です。漁民たちの被害、襲われた漁村の数、おびただしいものです。もはや土佐近海は無法地帯になりつつあります」
 
唐の消滅以来、東シナ海や日本海は海賊が荒らし回っており、それは太平洋沿岸の日向などでも報告されていましたが、土佐の被害もかなりの模様です。恐らく放置しておけば、やがて紀伊国あたりも荒らされるようになるでしょう。
 
しかしこの所、太宰府の兵力を増強し、東国にも気を配り、能登方面にも厳しい情勢の中で何とか増員を送り、今とても土佐まで手が回らないのです。
 
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双方意見が対立してかなり険悪になってきた所で
「何を揉めておる」
という声があります。
 
「東宮殿下!」
「お身体は大丈夫なのですか?」
と国司も左大将も議論を忘れて東宮の身体を心配します。
 
「体調がずっと悪くて伏せっていたが、お前達の声が大きすぎて、目が覚めてしまったわ」
「本当に申し訳ありません」
 
「太宰府や能登のように、妾(わらわ)が近衛兵を率いて土佐まで行った方がよいか?」
「ご病気なのに、無理なさってはいけません!」
 

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「左大将よ」
「はい」
「近衛兵の中で何とか都合をつけて100人ほど、ある程度腕の立つものを土佐に派遣してやれ」
「はい。しかし100名程度では」
 
「この際、背に腹は代えられん。左大臣殿にお頼りしよう」
「はい?」
「左大臣は源光仲殿の一派(清和源氏)を動かせるな?」
「たぶん。ただあいつらはちょっと荒っぽいのですが」
 
「妾の名前で、その者たちに帝の兵の代理をしてもらおう。費用は私が個人的に出す。私が墨付きも書こう」
「東宮様のお墨付きがあればあの者たちもおとなしくお勤めするでしょう」
 
この“雪子”の処置で土佐の件は何とかなりそうな感じになったのでした。
 

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その前日の夜。
 
大内裏の偉鑒門(いかいもん)に粗末な牛車が付けられました。
 
“右大将”が粗末な服装の女性を連れて降りてきます。
 
そして1時間ほどの後、“右大将”はまた女性を連れて門を出て牛車に乗りました。
 

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一方の権中納言は茫然自失の日々を送っていました。
 
四の君の出産に立ち会っている間に宇治の邸から右大将はいなくなってしまうし、四の君の方は父親と和解して右大臣宅に移動し、会うどころか連絡もできない状態になっています。
 
悪い噂が立っているので、とても宮中には出仕できません。
 
日々、女君が残していった若君と遊び、ぼーっとした日々を送っていました。
 
ちなみに筑紫の君は、8月上旬に左大臣宅に“右大将”が現れたのを見ていないので、彼女は“右大将”が男姿で動き回っていることを知りません。
 

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涼道が出産したのは7月1日で、吉野宮への手紙を書いたのが1ヶ月後の8月1日。おそらく四の君の出産は8月7日頃で、その翌日頃に花久は涼道を宇治の邸から脱出させています。
 
四の君の正産期は実は6/22-7/26頃だったのですが、恐らく夫の失踪に、父からの勘当という精神的なショックが重なり(どちらも権中納言が悪い!)、出産が遅くなったのだと思われます。
 
8月中旬から、涼道と花久は、実は京の北西・嵯峨野にある左大臣の別荘にごく僅かな供とともに籠もっていました。そして8月中旬、ここに顔立ちの似た吉野の姉君・海子女王を身代わりにして、内裏から密かに脱出した雪子東宮をお迎えしたのです。
 

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花久は涼道に尚侍になる練習も兼ねて、東宮の日々のお世話をしてくれるように言いました。
 
「僕は夜のお世話まではできないけど?」
「妊娠中だからそれは求められないと思うよ。でも、涼ちゃん、少し女言葉の使い方も覚えなよ」
「かったるいなぁ」
 
しかし涼道は雪子にたくさん「遊ばれて」“女性教育”も随分されたようです。涼道は隣室から
「皇女(ひめみこ)様、ご勘弁を〜!」
などという悲鳴(?)が聞こえてきても黙殺して、少しでも涼道の字と似た字を書くための筆跡の練習をしていました。
 
字の問題は大きいので、本格的な政策などを論じる文書は涼道が書くにしても日常的な文書は花久の代筆でも何とかなるようにしようと、ふたりはお互いの筆跡を真似る練習をしていました。
 
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男の娘とりかえばや物語・ふたつの出産(3)

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