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■男の娘とりかえばや物語・右大将失踪(2)

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右大将が失踪した、というのは確定的になりました。
 
父の左大臣は嘆きます。
 
「たいそう現世を嘆かわしく思っていたが、やはり普通の身ではないゆえに悩んでいたのだろうか。しかしこの年齢になってから、明確な理由もなく世を捨てたりするとは思いもよらなかった。去年の冬頃から変な気はしていた。私はそれをどうして見とがめなかったのだろう」
 
出家してどこぞにおられましたぞ、のような情報もなく、ただ日数が過ぎていくので、どうする手もない状態です。
 
内裏や院でもなにが起きたのか分からず当惑しています。早く戻って来て欲しいと祈祷などもして大騒ぎになっています。
 
右大将を一度でも見て居る人がみんな悲しみ、野山に入って探す人もありましたが見当たらないまま、日々は過ぎていきました。
 
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右大臣のお気持ちはもう尋常ではありませんでした。
 
右大臣は右大将を非難します。
「やはりうちの娘を愛していなかったのだ。まだ幼い子もいるというのに」
 
四の君の方は、やはりお覚悟を決めておられたから、あの時、あのようなことをおっしゃったのだろうと思いました。
 

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世間では噂が立ちます。
「四の君の所に、権中納言が密かに通ってきていたのを右大将は恨んでいたようだ。生まれたお子様も権中納言の子供らしいぞ」
 
その噂を聞いて父の左大臣の方は
「それはそうだろうな。(女同士では子供ができる訳ないから)変だもの」
と思っていました。
 
そして、
「やはり自分が普通の者とは違うのでひとりだけで悩んで、どこかに出家してしまったのだろう」
と泣いておられます。
 

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世間で四の君と権中納言の密通のことが噂になっていても、右大臣の周囲の者たちは、それが右大臣の耳に聞こえないよう気をつけていました。
 
しかし、4人の娘たちの中で、四の君ばかりが可愛がられていることに不満を持っていた、別の娘の乳母(**)が、他の人への手紙を装ったものを書き、右大臣が通りそうな場所にわざと落としておいたのです。
 
(**)原作は明示していないが帝に嫁がせてもらえなかった三の君の乳母と思われる。
 
その手紙にいわく
 
『右大将様は、権中納言の密事にショックを受けて失踪なさったのですよ。生まれたお子様も権中納言の子供なのです。自分の子供と思ってたいへん喜んでおられたのに、顔かたちが間違い無く権中納言に似ていて、見とがめしていたところ、七日祝いの夜に、権中納言が四の君の寝所に入って行かれるのを見てしまったのです』
 
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手紙を読んだ右大臣は激怒します。
 
そして四の君に問い糾しますと、四の君も手紙に書いてあるのはその通りだと認めました。
 
「今妊娠しているのは間違い無く右大将の子供なのであろうな?」
「分かりません」
 
これは本当に分からないのでそう答えるしかありませんが、父は更に激怒します。
 
「分からないだと!?お前は誰の物とも知れぬ子を孕んだのか?お前はそんなにふしだらな娘だったのか!?」
 
父は激怒して非難しているものの、四の君としては、何も反論ができません。それでとうとう右大臣は四の君に勘当を言い渡したのです。
 
「もうお前は私の娘ではない。今すぐこの家から出て行け」
 

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それで四の君は仕方ないので身重の身体を抱え、幼い娘を連れて、家を出て車に乗り込みます。
 
「悪いけど、私をどこかに連れていって」
 
左衛門が言いました。
「粗末な所ですが、私の実家にお連れします」
 
「うん。御免ね。よろしく」
 
四の君は侍女たちに自分はもうお前たちに給料も払えないから、各々の実家に戻るようにと言いました。それで大半の侍女が退出します。しかし数人の侍女は
 
「身重の姫様を見捨てて家に戻ったら私が勘当されます」
と言って残ってくれました。この中にはもちろん筑紫の君(本来は右大将の侍女)も居ます。
 
それで左衛門の導きにより、四の君に忠実な数人の侍女だけを連れ、四の君は取り敢えず左衛門の実家(四の君の乳母の家)に退避したのでした(**).
 
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(**)原作では四の君がどこに退避したのかは書かれていない。追い出されたと書かれているだけである。しかし生母が協力したような記載もない。むしろ自分まで右大臣に嫌われないよう、そちらに同調していたふうなので、乳母の家くらいしか退去先は考えられない。
 
左衛門は、右大将が失踪中の今、ここで頼ることのできる人は不本意ではあるが、権中納言しかいないと判断し、取り敢えずの状況をまとめた上で、支援をお願いしたいという文を権中納言宛に書きました。
 
「筑紫の君よ。今、権中納言までどこかに引きこもっておられるようだ。しかしそなたなら、連絡がつけられるよな?」
 
「はい。何とかします」
「この文を権中納言に頼む」
「分かりました。必ずお届けします」
 
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一方、宇治ではあっという間に日々が過ぎていきました。涼道としては、父母はどう思っているだろう?などと思って心苦しいものの、自分自身としては、まるで夢でも見ているかのような思いでした。
 
しかし取り敢えず京で妊娠している身体を隠し男姿で過ごしていた時期よりは辛くないので、ぼーっとしたまま過ごしてます。権中納言は盛んに
「君はこうして女の姿でいるのが自然なんだよ」
と日々言うので、涼道としても、そうなのかも知れないと考えてしまいました。
 
権中納言は
「昔からこのような人を妻にしたいと思っていた。それを神仏が叶えてくれた」
n
hnと喜び、涼道に男性時代のことなど思い出させないよう万事に気を配っていました。nhhhhhhhhhh
そんな日々を送っていた所に左衛門からの手紙が届いたのです。
 
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左衛門からの手紙を託された筑紫の君は、権中納言の腹心である家人を捉まえると、彼に四の君が勘当されてしまい、宿にも困る状態になっていることを話して、左衛門からの手紙を取り次いでくれるように頼みました。
 
彼は驚くも、必ず殿に届けると約束し、左衛門はその手紙を託しました。それでその人が手紙を宇治まで持って来てくれたのです。合わせて筑紫の君から聞いた四の君の状況を権中納言に伝えました。
 
状況を聞き、手紙を見て権中納言は驚きます。
 
左衛門は、姫様のお腹の中の子が右大将様の子か権中納言様の子かは分かりませんが、間違い無く小夜様のお父上である権中納言様のお情けにすがりたいと書いていたのですが、権中納言としては、女である右大将と四の君の間に子供ができる訳が無いから、四の君のお腹の中の子も自分の子供で間違い無いと確信しています。それでこれは何とかしなければと思ったのです。
 
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それで権中納言は涼道に
「済まない。四の君が勘当されてしまって宿にも困っているらしいのだ。放置もできないから行ってくるけど、朝までには戻るから」
と言って、出かけていきました。
 

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涼道としては尋常ではない状況の中で仲道だけが頼りだったのに、それが自分を放置して別の女の所に行ってしまうなんてと嘆き(つまり四の君に嫉妬している)、このような歌を詠みました。
 
思ひきや身を宇治川にすむ月のあるかなきかの影を見むとは
 
そんなことを思ったであろうか(思ったことも無かった)憂鬱な身をつらがってこの宇治川に映る月のあるかなきかの光を見るような運命になるとは
 

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権中納言が左衛門の家に行くと、左衛門は
 
「姫様は右大将の失踪で心労を重ねておられた上に、お父上様から勘当されてショックで、今にも死んでしまいそうです」
と泣きながら訴えました。
 
「とにかく会おう」
と言って、姫の仮宿に入ります。すると四の君は本当に今にも息絶えるかというほどやつれています。
 
「萌子、萌子」
と言って身体を揺すります(権中納言は萌子の本名を知らない)。
 
萌子は精神的にも肉体的にも辛いので横になって目を瞑っていたのですが、権中納言の顔を見ると
「また、こいつと関わりができるのか」
と不快な気分になり、すぐ目を瞑ってしまいました。
 
仲道は言いました。
 
「あまり深く悩まないで。いつかきっとお父様の許しが出ることもありますよ。それより今は赤ちゃんを抱えたあなたの身体が大事です」
 
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それで自ら彼女に白湯など飲ませたりして看病しました。
 

仲道は萌子に付いている侍女たちに言いました。
 
「君たちの給料は僕が払うし、様々な物も不足しないようにするから、君たちは姫にずっと付いてお世話をして欲しい。僕は絶対に姫を死なせない」
 
そう力強く語る権中納言に(左衛門以外の)侍女たちは、頼もしさを感じたのでした。
 
権中納言は、涼道には1晩だけと言って出て来たものの、これはとても放置して戻れないと思いました。それで涼道には文を書く一方、夜が明けたら坊主を呼んで加持祈祷をさせました。結局そのまま数日、京に留まることになります、
 
世間では「右大将の失踪は権中納言が間男したせいらしい」という噂が流れているので、権中納言は世間体からとても出仕などできず、ただずっと萌子のそばに付いていました。
 
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権中納言が四の君のお世話をしている内に、6日ほど経ってしまいました。宇治に居る涼道の方も放置できません。それで泣く泣く、左衛門に後事を託して宇治に戻るのでした。
 
それで宇治に戻ってみると、こちらの方が余程人が少なく手薄です。涼道も大きなお腹を抱えて不便していたようでした。
 
権中納言は涼道に
「何日も放置して済まなかった」
と謝り、四の君の状況を報告して、とても放置して戻れなかったと言い訳します。涼道としては自分の妻のことは気になるものの、そのために自分が放置されていたのは不愉快です。
 
更に自分の目の前で四の君への文など書いているのを見ると、要するに自分はこの人に半分しか愛されていないのだなということを認識しました。
 
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それにあの愛くるしい夏代(萌子の本名)ちゃんに比べたら、やつれている自分はひどく劣って見えるのでは、と完全に嫉妬の気持ちで一杯になります。それで涼道はこの男への気持ちがますます冷めていくのでした。
 
しかしだからといって出産まではどこも頼るべき所がないので、とりあえずそれまではこの男に拒否の態度を取るべきではない、という涼道らしいクールな気持ちが生まれてきます。結果的に涼道を自分を取り戻すことができ、それが涼道の顔を魅力的にしたので、権中納言は
「だいぶ元気になってきたようだ。本当に君は美しい」
などと言って喜んでいるようでした。
 

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ところで筑紫の君ですが、左衛門から権中納言への連絡を頼まれ、左衛門の手紙を権中納言の腹心に託したのですが、その足で左大臣宅に行くと、旧知の侍女に接触します。
 
「実は右大将様が失踪なさる前に頼まれていたことがあったんです。自分に何かあった後で、右大臣の四の君様に何か不都合があったら、式部様に連絡を取って支援してあげてほしいと」
 
「何かあったの?」
「実は四の君様がお父上に勘当されてしまって」
「え〜〜!?」
「今乳母の家に取り敢えず籠もっておられるのですが、色々不自由なさっていて」
「分かった。式部様に会ってくる」
 
それで彼女は宮中に行き、宣耀殿に行って式部にそのことを伝えました。式部はすぐに尚侍に相談します。尚侍としては四の君のお腹の中の子供は、自分の子供だという意識があります。
 
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「分かった。秋姫様に言って必要な支援をしてあげて」
と尚侍は指示を出し、式部自身が里に下がって筑紫の君から詳しい様子を聞き、秋姫とも相談して四の君の所に“右大将の名前で”色々な品物を届けさせたのです。
 
右大将が支援してくれている、ということは右大将は生きているんだということを確信したことで、四の君の精神状態は随分改善されました。
 

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さて、右大将の父・左大臣は、かねてから右大将が数日姿を消したりすることがあったので、今度もすぐ出てくるのではなどと思って期待し、またたとえ女の姿になっていてもいいから出て来て欲しい、などと思っていましたが、右大将の消息は全く知れないまま、2ヶ月ほど過ぎてしまいました。
 
(つまり時はもう6月になっている:涼道の予定日は6月下旬)
 
「もし出家したのだとしても、あれだけたくさんの所を探したのに、見聞きしない。まさか遙か田舎(関東や九州などのこと?)までも行きはしまい。ひょっとして権中納言が、都合が悪くなって、殺してしまったなどということはないだろうか」
などと、変な不安まで浮かんできます。
 
とうとう右大将のことで泣く涙も涸れてしまい、出仕もできずに、ただ横になっているだけになってしまったので、邸内の人々は、右大将のことを心配しながらも、左大臣の世話までしていました。
 
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(つまりこの時期、右大将・権中納言という実務の中核になっている2人が姿を現さず、左大臣・右大臣もダウンしているし、東宮まで“ご病気”で動けない状況になり、朝廷は完璧に機能麻痺に陥っていた。おそらくこの状況で朝廷を動かしていたのは、大納言・藤原宏長と、三の君の夫で左大将の源利仲)
 

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