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目次]
ミステリアスツアーの列車は、その日しらさぎに連結されて名古屋まで行き、そこから一行は新幹線に乗り換えて夕方東京に帰着した。私たちは車内で明日の夕方また会おうなんて約束したのに、いざ東京に着いてみると、とてもそのまま別れる気分にはなれなかったので「どっちにする?」なんて言って、少し買物をしてから、結局その日は彼女のアパートに一緒に入った。
中に入って鍵を掛けてから、キスをする。
「お布団敷くね」
「うん」
「私、裸で寝ちゃおうっと」と言うと千早は服を脱ぎ、布団に潜り込んだ。私も裸になって、彼女のそばに潜り込む。
私たちはまたキスをして、しっかり抱き合った。
「で、でもこのあと、ボクどういう風にすればいいのかな・・・・」
「私もよく分からないけど、お互いに気持ちよくなれるようにすればいいという気がするよ」
「そうだね」
私たちはお互いの指でお互いの敏感な所を刺激したり、お互いの顔や首筋、そしてお互いのおっぱいなどにキスをしまくった。
「あ・・・」と千早が言う。
「どうしたの?」と私。
「ゆうべさ、私朔弥のヴァギナに指をまるごと入れちゃったから」
「うん」
「私、朔弥のバージンもらっちゃったのかも」
「あ、そうかもね。でも、千早がもらってくれて、ボク嬉しいよ」
私たちはちょっと笑って、またお互いをたくさん愛しんだ。次第に興奮が高まっていく。千早は少し自分の身体を起こすと、私に寝たまま足を開いてといって、90度回転させた状態で自分の足を開いて組み合わせ、お互いのお股が密着するようにした。きゃー、何かこれ気持ちいい! 後でこの体位を松葉(シザー)というのだと知った。千早も知らなかったが、後でいろいろ調べて見るとレスビアンでは基本的な体位のひとつらしい。
私たちが千早の自宅に戻ったのは夕方7時くらいだったのだけど、さすがに疲れたね、などといって普通の添い寝の状態で休みながら、おしゃべりを始めた時、時計を見たらもう10時だった。
「このまま寝ちゃう?」
「お腹空かない?」
「空いた!かなり運動したもん」
夕食を作る材料(豚肉とジャガイモとタマネギと人参、糸こんにゃく)は買っていたのだけど、作ってるうちにもっとお腹が空くなんて言って、冷凍室に千早がストックしていた海老ピラフをチンして、一緒に食べた。千早が解凍作業をしている間に、私は道具などの場所を聞きながらコーヒーを入れた。コーヒーを飲みながらピラフを食べたら、人心地付いた。
そして、私たちはそれからまた愛し合った!!
結局その日はそんな感じで明け方近くまでやっていて、最後は半分眠りながら愛し合っている感じになって、いつの間にか眠ってしまった。朝起きたらもう10時だった。
「今日、ボク学校休む」
「ごめーん。私は自営業だから、時間の自由がきくけど。今度からはちゃんと起こせるようにするね」
「うーん。女の子同士だもん。お互いに自己責任でいいんじゃない?。それにボク、学校に男の子で出て行けばいいのか、女の子で出て行けばいいのか、今日はまだ決めきれないし」
「あ、そうだよね」
「どっちみち、女の子の服、少し買わないといけない気がするし、今日はその買出しをしてこようかな」
「じゃ、私も付いてってあげるよ。女の子の服の選び方、分からないでしょ」
「うん。たぶん、さっぱり分からない!そもそも服の名前が分からない」
私の女の子の服を買うのに、千早は凄く楽しそうな感じだった。日常的に最低必要な分を買うのにもけっこうお金がいる。自分の手持ちでは足りなかったが千早が「出世払いにしておくね」といってお金を貸してくれた。
「でもさ、考えてみたんだけど、朔弥、いちど病院で診てもらった方がよくない?」
「あ、それは考えてなかった」
しかし千早の言うとおり、この身体は一度病院の先生に見せたほうがいい気がした。何科に行けばいいのか迷ったが、結局翌日も学校を休んで婦人科に行ってみた。3日前、寝ている間に突然こういう身体になってしまったという話を医者は半信半疑で聞いていたが、何か特殊な病気だったりしたら自分には判断が付かないといって、大学病院に紹介状を書いてくれた。そこでその日の内に大学病院に行って、様々な検査を受けた。
「完全に女性の身体ですね。染色体もXXですよ」と女医さんは言った。
「はあ。でも3日前までは男の身体だったのですが」
「ほんとに?」
医師は疑っている感じだったが、おそらくは半陰陽の一種ではないかと言った。物凄く稀に性別が自然に転換してしまうことはあるらしい。
「このあとどうなさいますか?戸籍を変更なさるのでしたら診断書書きます」
「お願いします」
医師は診断書を書いてくれたが、千早はこの問題について一度ちゃんと私の両親にも話した方がいいと言ったので千早に付き添ってもらって、実家に行った。
私が女の子の服を着て実家に来たので、両親はぶっ飛んだが、千早が仲介役になって、いろいろ説明してくれたので、両親も何とか私の話を聞いてくれた。
「じゃ、性転換手術を受けた訳じゃないのね?」
「うん。手術とかしてないけど、寝ている間に女の子の身体になってた」
「朔弥さんがこの身体になっちゃう、ほんの2時間くらい前、朔弥さんと私、セックスをしたんです。その時までは確かに男の身体でした」
「世の中不思議なことがあるものなのね」と先に冷静になった感じの母。「しかし、お前これからどうするんだ?」とまだ充分事態を理解していない感じの父。
「ジタバタしても仕方ないし、戸籍もちゃんと女に訂正して、女として生きる」
「できるの?そんな突然女の子になっちゃって」
「私がいろいろ教えてあげます」
私は千早とは恋人同士で半年ほどの付き合いだと親には言った。さすがに先月28日に初めて会ったなどとは言えない。
「でもあなたたち恋人だったのなら、このあとふたりの関係をどうするの?」
「私が朔弥さんを好きなことは変わりません。性別が変わっても朔弥さんは朔弥さんだから、朔弥さんの戸籍上の性別が女になっても、できたら事実婚したいと思っています」
「でも、そんなのあなたのご両親が許してくれるかしら?」
「反対されても押し切ります」
いろいろ親からは言われたものの、最終的に私が性別を女に変更することは許してもらえた。東京に戻って私は家庭裁判所に性別の訂正を申し立てた。
そして私は約10日間の休みを経て、女の子の格好で大学に出て行った。最初私だというのが、みんな分からなかったようだが、それと分かるとみんなに取り囲まれた。
「お前女装趣味あったのか!」
「特に無かったよ。でも女の子の身体になっちゃったから、女の子の身体なら、女の子の服を着たほうがいいかなと思って」
「性転換手術受けちゃったの?」
「いや、手術とかしてないんだけどね。寝ている間に女の子の身体になっちゃった」
「チンコ無くなったのか?」
「おちんちんもタマタマも無くなって、クリちゃんとヴァギナが出来てた」
「胸は?」
「Eカップのブラ付けてるよ」
「突然そんな身体になってショックじゃなかった?」
「うーん。あまりにも凄い事が起きたせいか、私自身はとっても冷静、というか、まだよく考えてないのかも知れないけど」
そんな感じで、私はその日から女学生として学校に通うようになった。女の子たちに捕まって「美術モデルになって」などと言われて、裸にされてデッサンをされた。更にもっとじっくり観察したいなどと言われたので、私は彼女たちと一緒に温泉に行き、そこで気が済むまで観察してもらった。
女の子になってから1ヶ月ほどした時、私には生理が来た。その数日前から少し気分が変で、千早に言うと、きっとPMSだと言われ、ナプキンも渡されていたので、あまり慌てずに対処できたが、きゃー女の子って毎月これをやるのか!と思うと、ちょっとだけ憂鬱な気分がした。
私と千早は同棲を始めたが「女の子同士」ということで、家事なども半々の分担ということにした。昼間時間のある千早が買物に行っておいて、調理は私がするというパターンも多かった。私たちはお互いをモデルにして、絵もたくさん描いた。そして夜になるとたくさん愛し合っていた。私たちには『インサート』というものは無縁だけど、夜の生活の満足度はとても高かった。
私の戸籍訂正は2ヶ月ほどで認可され、私は学生課で学籍簿上の性別の訂正を申告したほか、運転免許センターでも性別変更の届けをしておいた。私は名前は変更しなかったので、性別を書き換える必要のあるものは少なかった。世の中、性別なんて大した問題じゃないのでは?という気もした。
そんなことをしていた時、千早が「私、生理が何だか来ないのよね」などと言い出した。もしかしてと思い、ドラッグストアで妊娠検査キットを買ってきて、おしっこを掛けてもらったら陽性の反応だった。私と千早は一緒に産婦人科に行き、千早の妊娠を確認した。
「あの晩のが当たりだったんだ!」
「でも朔弥の子が産めるなら私嬉しい」
「しかしこれ、千早のご両親にちゃんと話をしないと」
私と千早は一緒に千早の実家に行き、事態を説明した上で、籍を入れることはできないものの、できれば結婚式もあげて事実婚させてもらいたいということ、生まれてくる子供については既に胎児認知の届けを出したこと、生まれてきたら養子縁組もするつもりであることを語った。
千早の両親は驚いていたが、私が性同一性障害などのケースではなく、病院の先生によれば一種の半陰陽で自然に性が転換してしまったのだろうと言われたということなどもきちんと説明すると理解してくれて、なんといってもふたりの子供が今、千早のお腹にいるということ、私たちが私の性が変わってしまっても愛し合っていると言っていることを踏まえた上で、私たちのことを認めてくれた。
「2年も同棲して捨てた前の彼氏に比べれば、交際半年で結婚しようと言ってくれるあんたはまともだわ」
などともお母さんは言ってくれた。
「いや、私、交際してすぐに千早さんを妊娠させちゃったからまともじゃないです」
「だって前の人だって・・・」
私はその先は制した。千早が同棲していた彼の子供を1度中絶していることは千早自身から聞いていた。
私は生まれてくる子供のために大学を辞めて働こうと思っていると言ったのだが、折角大学3年まで来ているのに、それはもったいないと言い、私が卒業するまで経済的に支援するから、ぜひ大学は卒業まで行きなさいと言ってくれた。
私は自分の実家の方とも連絡を取り、千早のご両親とも更に話合い、とにかく翌月結婚式を挙げることを決めた。うちの両親も、私の大学については支援するから卒業しなさいと言った。
私は東京周辺の結婚式場に片っ端から電話を掛けて、私たちのようなケースの結婚式を扱ってくれるところを見つけた。そして私たちは、双方の家族と私たちの友人に囲まれて結婚式を挙げた。私も千早もウエディングドレスを着た。
千早は翌年7月に女の子を出産した。私たちはその子に「虹」という名前を付けた。あの時見た虹が結果的に私たちを結びつけたんじゃないかという気がしたから。そして私は予定通り、虹を養子とする届けを出した。私が女なので、私はその子の養母になる。千早は実母であり、ふたりとも虹の「お母さん」になることになった。
もっとも私は虹を認知しているので虹の実父「お父さん」でもある。私の性別訂正と子供の認知とが両立してしまったのは、半陰陽のケースだからでしょうね、と半陰陽の自助グループの人から言われた。性同一性障害だと、どちらかが却下されたのではなかろうかと、その人は言っていた。
「だけど朔弥って、完璧に女性として適応してるよね」
「あ、それは思う。もっと色々苦労するかと思ってたんだけど、何となく普通に女として自分は生きてるなって気がするのよね」
「朔弥、女の子の友達もたくさん作るから、私最初少し嫉妬したよ」
「ごめんねー。愛してるのは千早ひとりだから」
「うん。それが分かってるから今はもう大丈夫。朔弥のお友達の女の子たちと私もだいぶ仲良くなったし」
「だけど、こんなに適応できるなんてさ、もしかして以前から女装していたとか、女の子になりたいと思っていたとかはないの?正直な話。私怒らないから」
「それは無いなあ。あのミステリアスツアーに参加する前まで、ボクは普通の男の子だったよ。女の子になりたいと思ったこともなかった」
「それなら、男の子に戻りたいなんて、思ったことない?」
「全然。ボクは女の子ライフを楽しんでるよ」
「そんな感じがする!」
私たちはそんな会話をしながら、千早のおっぱいをゴクゴク飲んでいる虹を優しく撫でていた。