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■襖の奥(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-11-01

 
私は子供の頃、しばしばその夢を見た。
 
両親が出かけて、私はひとりで留守番をしている。私は家の階段を登って2階に行く。廊下の奥にある小さな二畳の部屋の戸を開けて中に入る。
 
そこは本来は倉庫のようになっていて、普段使わないものが雑然と置かれている。
 
ごく小さい頃は、悪いことするとよくここに閉じ込められたものだ。
 
この部屋の戸は不思議なことに“外から”ロックできるようになっていて、そうされると中からは開けられなかったのである。多分家を建てる時に建具屋さんが間違ったのでは?とメグミは言っていた。
 
「お母さん、ごめんなさい」
と言って泣いて謝っても、母はなかなか許してくれなかった。そんな時に私がよく使った手は
 
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「おしっこ漏れそう」
 
と叫ぶものである。するとさすがに母は部屋の中で漏らされては困るので戸を開けてくれて、私は一目散にトイレに走って行った。母は本当にトイレだったのか、出してもらいたいための嘘なのかは、半信半疑だったと思う。
 

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でも夢の中でこの部屋に入ると、あまり荷物が置かれていなくて、古い桐箪笥がひとつだけある。そして、私が4歳の時に亡くなったはずのお祖母ちゃんがいる。おばあちゃんは、桐箪笥から風呂敷包みを取り出し、私に今着ている服を全部脱ぐように言う。
 
風呂敷の中には服がいくつか畳んで入っていて、お祖母ちゃんはそれをひとつずつ手に取る。
 
最初に腹巻きみたいな輪っかになった木綿の下着を腰のあたりにつける。これは大きくなってから“湯文字”という下着であることを知った。それからやはり木綿の着物のような服を着せられる。これも後に肌襦袢(はだじゅばん)ということを知った。
 
その上に更に似たような形の服を着せられるが、これは何かさわやかな感じの素材で作られていた。当時はよく分からなかったが、麻の長襦袢だと思う。
 
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そしてその上にきれいな赤い着物を着せてもらう。袖の所が長くて、当時は意識していなかったが、小振袖だと思う。でもこの服がきれいで私は大好きだった。
 

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私はその小振袖を着せられた後、白い足袋(たび)に赤い草履を履き、お祖母ちゃんが開けてくれた襖(ふすま)の向こうに入っていく。そこは下に向かう階段になっていて、私はその階段を降りていった。
 
長い階段を降りた所に廊下があり、私はその廊下を歩いて行く。また階段があるので、そこを登る。廊下があり、その先に階段があるのでそこを降りる。
 
私はそうやって、いくつもの階段や廊下を歩き回っていた。
 
2階の奥の部屋の奥の襖(ふすま)から入っているのだから、建物の中だと思うが、そこは普段私たちが住んでいる家の中では全く見ないような場所だった。明り取りなどがあるのか、全体的には明るかったし、私はそこを歩いていて怖いとか寂しいとかいった気持ちはなく、むしろ楽しいお散歩であった。
 
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そして私はここを“迷宮”と呼んでいた。幼稚園の頃に読んだギリシャ神話で、クノッソス宮殿の迷宮を歩き回るアリアドネ王女に自分をなぞらえていたのである。
 
(本当はクノッソス宮殿を探求したのはテーセウスで、アリアドネは彼が脱出できるように助けただけだが、幼い頃に読んだ絵本だったので記憶が混乱していた)
 
この“迷宮”には、廊下にそって多数の部屋があるのだが、いつも障子(しょうじ)が閉まっていたし、私は開けてみようという気にもならなかった。
 
なお、私は起きている時にもこの2階の奥の部屋に入ってみて、奥の襖を見るのだが、その襖は壁に立てかけて置いてあるだけで、その襖を開けて向こうに通路があるということは無かった。“襖の奥”は、夢の中だけで行ける世界であった。
 
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この夢はわりとよく見ていて、普通夢の中では私に小振袖を着せてくれるお祖母ちゃん以外には誰とも会わないのだが、時々他の人と会うこともあった。
 
廊下を歩いている時に、たまに障子が開いていることがあり、そういう時は中に誰かがいる。いちばんよく出会ったのは、5つ年上の従姉のメグミちゃんである。彼女は最初会った時は私を見て
 
「可愛い服を着てるね」
 
と言って、私はちょっと恥ずかしい気がして、真っ赤になった。でも彼女もたいてい振袖を着ていた。
 
「メグミちゃんも可愛いよ」
 
と言うと、彼女は嬉しそうにしていた。彼女は青とか緑とか白とかの振袖を着ていた。
 
最初に会った日は、ふたりでカルタをして遊んだ。その後、彼女とは会う度に何かの遊びをしている。お手玉も彼女から習ったし、絵すごろくなどもした。トランプもだいぶして、ソリテアとかキング&クイーンとかは、彼女に教えてもらった遊びである。
 
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キング&クイーンというのは、もしかしたら別の正式名称があるかも知れないけど、私とメグミちゃんの間ではこの言葉で呼んでいた。ジョーカーを除いた52枚のカードの中から、ハートのキングとクイーンを抜き出して、他をよく切る。先頭にクイーンを置くがこれは自分自身を表す。他のカードをずっと並べて行く。(長いので適当に折り返す)そして最後にキングを置く。これは“彼氏”である。
 
間のカードを次の規則で抜いていく。
 
・同じスートのカードに挟まれた1枚のカードは外せる。 
・同じ番号のカードにはさまれた1枚のカードは外せる。 
 
それで全てのカードを抜き、無事両端のクイーン(自分)とキング(彼氏)がくっつくことができたら恋は成就するというものである。
 
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メグミちゃんはこれをやると毎回成功させていた。でも私はたいてい20枚以上残してどうにもならなくなっていた。メグミちゃんは
 
「つまり、カズちゃんはまだ“恋”には早いということね。もっと大きくなったらこれが完成できるようになるよ」
と言っていた。
 
メグミちゃんはソリテアもパーフェクトにできていたけど、私は1列くらいしか完成できなかった。神経衰弱は、彼女の番になると全部開けてしまうので遊びにならなかった。
 
「だって同じ番号の数字がどこにあるかは見れば分かるじゃん」
とメグミちゃんは言っていたけど、私にはさっぱり分からなかった。
 
かるたは、メグミの部屋に置いてあるパソコンで読み札をランダムに読んでくれるソフトを使ってふたりで対戦していたけど、これだけは私が時々勝つこともあった。勝率はだいたい1:4くらいだったと思うが、勝てた時は本当に嬉しかった。
 
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彼女とは囲碁もよくやった。最初私はルールも知らなかったのだが、丁寧に教えてくれて、あわせて色々な定石を教えてくれたし“形勢の読み方”なども教えてくれた。私が中学で囲碁部に入ったのは、やはり小学生の内に彼女にたくさん教えてもらった影響が大きいと思う。メグミとはいつもたくさん石を置いて打っていたけど、彼女に勝てたことは1度も無かった。でも石の数は最初は(たぶん)30個くらいだったけど、小学6年生の頃には5個まで減っていた。私は囲碁では高校の時に初段の段位を取ったけど、その後は段位の申請料が高いこともあり、段位の申請はしていない。
 

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この“襖の奥”で、メグミ以外の子と会うこともあった。
 
小学1年生の時、“迷宮”の中を歩いていたら、廊下に沿ってある障子のひとつが開いていて、中に近所の男の子・タクヤ君が居た。彼はゲームをしていた。2人でもできるから一緒にやろうよと誘われ、だいぶ遊んだけど全然勝てなかった。
 
「お前反射神経悪すぎ」
と彼から言われたけど、そうかも知れない気がした。彼とは3回くらい会って毎回ゲームをした。
 
その最後に夢の中で彼と会ってから1週間ほどした大雨の日、私は学校帰りに近所の雑貨屋さんの近くに大勢の大人が集まっているのを見た。私は何だろうと思って近寄る。すると雨合羽を着た男の人が数人で“何か”を抱えるようにして持って雑貨屋さんのすぐそばにある大きな暗渠の入口から出てくるのを見た。
 
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私はそこにいたお巡りさんに
「君はお家に帰りなさい」
と言って追い払われてしまった。
 
その日の夕方、母が「タクヤ君、川に流されて亡くなったんだって」と言った。
 

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小学2年生の時、私が夢の中で“迷宮”の中を歩いていたら、廊下の途中の障子が開いている部屋で、クラスメイトのゴトウヒロヒコ君がいる所に遭遇した。
 
「あれ?もしかしてカズちゃん?」
「う、うん」
「可愛いね」
「そ、そう?」
 
実は、彼とは元々仲が良く、夢じゃなくてリアルでも彼の家に遊びに行ったことが何度かある。彼のお父さんはお医者さんで、立派な黒いクラウンを持っていた。私はお父さんに、ヒロヒコ君と一緒にそのクラウンにも乗せてもらい
 
「かっこいいなぁ」
と憧れていた。うちのお父さん、免許も持ってないし、などと残念に思う。
 
私と彼が仲良くしているので、クラスメイトたちから
 
「お前ら結婚するんだろう?」
「苗字が同じだから結婚しても名前変えなくて済んで便利だな」
 
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などと随分からかわれた。私も彼のお嫁さんになる所とか想像して、赤くなったりしていた。
 
リアルで彼の家に遊びに行くと、彼は、たくさん持っているウルトラマンとか仮面ライダーのソフビ人形を見せて自慢していた。私はウルトラマンもライダーも見ていないので彼の説明がさっぱり分からなかったものの「ふーん」とか「へー」とか言って聞いていた。
 

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夢の中でも彼はソフビの人形で遊んでいて、ウルトラマンとか仮面ライダーが怪獣や怪人を倒すところを劇のように実演してくれた。彼は、仮面ライダーなどの絵本も見せてくれたが、元々の背景的なものを理解していないので、あまりよく分からなかったのが正直な所である。
 
また仮面ライダーの変身セットとかも装着して、変身のポーズなども取っていたが、私はそういう時に彼が本当に楽しそうにしているのを見て、男の子って面白いなあ、などと思っていた。
 
夢の中で最後に彼と会った時、彼のお祖父さんが出て来た。お祖父さんもお医者さんをしている。お父さんは大きな病院に勤めているが、お祖父さんは小さな病院の院長さんだった。でもこのお祖父さん、お医者さんとしてはあまり腕がよくない!という評判で、私はそこの病院にはかかったことがない。
 
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お祖父さんは振袖を着ている私の顔をじーっと見ると
「ヒロヒコのガールフレンド?」
と訊いた。
 
「ガールフレンドというほどのものではないのですが」
と私が顔を真っ赤にしながら答えると
 
「君は良いお嫁さんになりそうだ」
と言ってくれた。
 
「そうだ。君がヒロヒコのお嫁さんになった時のためにこれをあげるから飲みなさい」
といって、お祖父さんは私に赤い薬をくれた。
 
私がそれを飲むと、身体の中に何か暖かいものが広がっていくような感覚があった。
 

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ヒロヒコ君のお祖父さんが亡くなったのを聞いたのは、その夢を見てから半月ほど経った時だった。私は母と一緒にお葬式にも参列した。ヒロヒコ君が泣いていたので、私は「元気出してね」と言って、彼の手を握った。彼の手はガッチリしていたけど、その手が震えていて元気がなかった。
 
病院はヒロヒコ君のお父さんが継ぐのかと思ったのだが、何でも凄い借金が残されていたとかで、病院は閉鎖され、建物も取り壊されて跡地には、釣り具屋さんができた。でもあまりお客さんは入っていないようだった。ヒロヒコ君も青森市に転校して行ってしまった。彼のおうちも取り壊され、跡地は駐車場になった。
 

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小学3年生の時、私が夢の中で“迷宮”の中を歩いていたら、廊下の途中の障子が開いている部屋で、サチコちゃんと会った。彼女はいつもひとりでいる子だったが、本人としては、そのひとりでいるのが快適みたいで、あまり他の子と会話などはしていなかった。
 
「何してるの?」
と声を掛けると
「本を読んでるー」
というので見せてもらうと、宇宙の話とかロケット開発の話とか載っていて、すごいと思った。
 
「お空の中でいちばん明るい星はシリウスというんだけど、地球から8.6光年の距離にあるんだよ」
と彼女は言う。
 
「こうねん?」
「光の速度で進んでも8.6年かかるということ」
「光に速度ってあるんだ?」
 
私は光って瞬間的に向こうに到着すると思っていた。
 
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「それはそうだよ。太陽の光だって、太陽を出てから地球に届くまでに8分19秒かかる。だから私たちが見ている太陽の姿は8分19秒前の姿」
「へー!すごいね」
 
「シリウスが8.6光年、七夕(たなばた)の牽牛星・アルタイルは17光年、織姫星・ヴェガは25光年、の距離にある」
 
「つまり、私たちが見ている織姫星って25年前の姿なんだ?」
「そうだよ。ちなみに、織姫星と牽牛星の距離は15光年あるから、ふたりがデートしようとすると、光の速度で会いに行っても7年半かかる」
 
「15年じゃないの?」
「2人とも光の速度で行けば、半分で済むじゃん」
「あっそうか!」
 
「でもこんなのは序の口でアンドロメダ星雲なんて、200万光年も離れているんだよ」
「すごーい!」
 
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サチコちゃんとは、よくそういう宇宙の話をした。話をしたというより、彼女が色々教えてくれるのを私が聞いていただけだが、そんな時のサチコちゃんは凄く楽しそうだった。私はサチコちゃんが学校でいつもひとりでいるのは、話が合う子がいないからでは?という気がした。
 
彼女はきっとゲームとかテレビ番組とかアクセサリーとかアイドルの話はつまらないのだ。
 
彼女とも夢の中で5回くらい話したが、最後に彼女と会った時、お兄さんも一緒に居た。お兄さんは中学生で、サチコちゃんと2人だけの兄妹だが、6つも年が離れていた。お兄さんはサチコちゃんが興味を持っている宇宙とか天体とかの話は苦手みたいで、ハイネとかシラーとかの詩集を持っていた。いくつか読んでくれたけど、私はさっぱり分からなかった!
 
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その夢を見た数日後、サチコちゃんが学校を休んでいた。先生は何も言わなかったのだが、クラスメイトたちの噂話で、サチコちゃんのお兄さんが家出をしたらしいというのを聞いた。それで消息不明ということで、それなら心配でとても学校には出て来られないだろうと私も思った。
 
クラスメイトも随分心配していたのだが、結局お兄さんは翌日の朝、青森市内で発見、無事保護されたということで、みんなホッとした。
 
でもサチコちゃんはその後もしばらく学校に出て来なかった。そして担任の先生から彼女が八戸市の学校に転校したことを報された。
 
うちみたいな小さな町でこういう騒ぎを起こすと、居づらかったんじゃないの?などとメグミは言っていた。
 
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