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「ここを卒業したら、高等神学校卒業程度ですよね。教会の職の口は無いのでしょうか?」
と質問した子がいたが
「合唱高等学校から、教会職員にはなれないことになっていますので、もしそれが希望の方はいますぐここから退出してください」
と校長は言った。
しかし誰も出て行かない。
「それではこの後、みなさんはもうこの高等学校の生徒です。卒業するか規定に沿った退所以外では外に出られません。よろしいですか?」
誰も反応しない。それで校長は言った。
「それではみなさんをこの高等学校の生徒とみなします。最初に皆さんには自慰防止のため、陰茎の除去手術を受けてもらいます」
「えーーー!?」
という声があがる。
「教会の教えで自慰は禁止されています。それを万が一にもしないための用心です」
と校長は言う。
《じい》ってそういえば基礎学校でも何度か聞いた言葉だなとウテロは思った。それって何なんだろう。
「いやだ! 僕切られたくない。ここやめる」
とタイカが言う。
「あなたはもうこの学校の生徒ですから、手術を受けないまま退所することは許されません」
と校長。
「いやだ。いやだ」
と言ってタイカは逃げだそうとするが、体格の良い道士につかまる。
「その少年を最初に手術しなさい」
と校長が言うので、タイカは泣き叫びながら連れて行かれた。うーん。。。。基礎学校に入った時と同じじゃん。タイカって、わざとあれやってんじゃないよな?と思う。
しかし・・・・ウテロは疑問を感じていた。
「すみません。《いんけい》って何ですか?」
校長がぽかーんという感じの顔をしている。隣に居るケイジが言う。
「おちんちんのことだよ、ウテロ」
「えーー!? おちんちん取っちゃうんですか?」
「嫌だと言ってもタイカみたいになるよ」
ウテロはちょっと驚いていた。ちんちん取られちゃうなんて・・・・さすがに嫌だなとは思うけど、万一ここから逃亡したとしても、帰る家など無い。
「別に陰茎など無くてもいいのです。女になれと言っている訳ではありませんし」
などと校長は言う。
「でも、おちんちん無くなったら、おしっこはどうすればいいんですか?」
「ちゃんと出る所は確保するから心配いりませんよ」
「だったら良かった」
そのあたりの知識が全く無いウテロと校長やケイジとの会話で何だか場の空気がやわらいだ感もあった。
「ケイジさん、ここに来たら、おちんちん取られるって知ってたの?」
「知らない方がおかしい」
「私、全然知らなかった!」
どうも他の入学者の顔を見ていると、知っていた子と知らなかった子が半々くらいのようだ。しかし知らなかった子もここで暴れたりしてもどうしようもない、と諦めている感じだ。
手術は2人ずつできるということで今すぐだれか手術できますよと言われたので、クリト郡から来た子が「私行きます」と言って、医療室に連れられて行った。1時間ほどしてから、「次2名いけます」というので、ケイジとウテロが希望した。
廊下を歩いて行く時、ケイジが小声でウテロに言った。
「実は僕が合唱学校に入ったのは、この手術を受けるのが目的の半分」
「へー! おちんちん取られたかったんですか?」
「うん。物心ついたころから、無くしたいと思ってた」
「そんな人もいるんだ」
「ウテロはちんちん取るの嫌じゃない?」
「ちょっと嫌だなとは思うけど、おしっこできなくなる訳じゃなかったら別にいいかなと思います」
「ウテロって受容性が高いよね」
「じゅようせい?」
「ふふ。いいんだよ」
「でも考えてみたら女の子は、おちんちん付いてなくてもおしっこしてますもんね」
「女の子がおしっこしている所見たことある?」
「ええ。妹がしているのを」
「僕も姉がしているのを見て、あんな風におしっこできたらいいなと思った」
「あれ、おちんちん取ったらら女の子になっちゃうんですか?」
「そんなことないよ。別に女になれと言っている訳じゃないと校長も言ってたでしょ?」
「ですよね!」
2つある医療室のそれぞれに手を振って別れて入る。
「では陰茎を除去する手術をします。よろしいですか?」
「はい、お願いします」
「裸になってもらいます」
と言われるので、上衣を脱ぎシャツとパンツを脱いで裸になる。お医者さんが診察するかのようにおちんちんと、タマタマがなくなり袋だけになっている玉袋に触る。触られている内におちんちんが大きくなったのでウテロはびっくりした。
「おちんちんってこんなに大きくなるんですね」
「大きくしてみたこと無かった?」
「ええ。初めてです。びっくりしました」
「でもこれもうすぐ無くなるから、これが最初で最後だね」
「ほんとですね!」
何だかなごやかなムードになった。
「全身麻酔を打ちます」
と言われる。手術は眠っている内に終わるらしい。ウテロは横になって腕に注射針が打たれるのを見たが、その後は記憶が途切れている。
目が覚めた。知らない部屋のベッドに寝ていた。
ウテロは手伸ばして、おそるおそるお股に触ってみる。
無い!
起き上がってパンツを下げてみた。
きゃー!
おちんちんと玉袋が無くなり、代わりに割れ目ちゃんが出来ている。これってずっと以前にアンナのお股を見た時のと同じような感じだ。女の子になれって訳じゃ無いと言われたけど、これほとんど女の子じゃん。
「あ、目が覚めた?」
と女の人から声を掛けられる。
「はい。あれ?ここ女の人がいるんですね」
「まさか。私男だけど」
「えーー?そうなんですか?」
「おちんちんもタマタマも取ってるから、形だけ見たら女の子に見えるかも知れないけどね」
「なるほどー!」
女の人、もとい、女の人みたいに見える男の人はガーラと名乗った。彼女、もとい彼は、この学校を卒業したものの、スタッフとして残っているらしい。スタッフはあまり多くも必要無いので毎年募集される訳ではないらしいが、こういう進路もあるのかとウテロは思った。
手術の傷の跡をチェックされる。
「うん。だいぶ傷は治ってるね」
とガーラは言う。
「すぐ治っちゃうものなんですか?」
「ううん。傷が治るにはだいたい2週間掛かる。だから君は手術から2週間ほど寝ていたんだよ」
「そうだったんだ!」
「寝ていた方が傷が速く治るから、手術後も2週間ほどずっと全身麻酔を効かせておくんだよ」
「なるほど!」
立ってみてごらんと言われるので立って、部屋にある鏡に映してみる。うーん。これほんとに女の子みたい!
「君はソプラノだよね?」
「えっと基礎学校では高音部で歌っていましたが」
「じゃ、君の制服はこれになるから」
と言われて、白いブラウスとスカートを渡される。
「まるで女の人の服みたい」
「今までだって、ほとんど女の人みたいな服を着てたでしょ?」
「それはそうかも」
「ここでは、ソプラノはショートスカート、アルトはロングスカートなの」
「ソプラノとかアルトって言うんですか? テナーとバスじゃないの?」
「私たちは声変わり前に睾丸を取っているから声域がふつうの女性の声域なんだよね。だから高音部はソプラノで、低音部はアルトだよ」
「そうだったのか!」
「トイレに行ってみよう」と言われ、ガーラと一緒にトイレに行った。
「トイレマークが変」
「ん?」
「ここ女子トイレですか?」
「ああ、トイレマークは基礎学校までは男子トイレのマークが付いているけど、高等学校や合唱隊では女子トイレマークになるんだよ」
「どうしてですか?」
「私たちは陰茎が無いから、男子トイレに入る権利が無いの」
「男子トイレに入るのって権利なんですか!?」
「そうだよ。あれは陰茎が付いている人だけの特権。だから、陰茎のない私たちは女子トイレに入らなければならないことになっている。これ学校の外に出てもそうだからね」
「へー」
「陰茎が無い人は教会の牧師・副牧師にもなれないのよね」
「あ、だから、ここから教会には就職できないんですか」
「そそ。教会に行きたい人は基礎学校を出た段階で教会に行かなければならない」
トイレの中には個室が並んでいる。ウテロはガーラと一緒にその個室の中に入る。便器に座って、おちんちんが無くなってるし、おしっこできるかなと少し不安だったが、ふつうにできた。
「できました!」
「良かったね。たまにこれがうまくできない子もいて苦労する」
それでウテロがそのまま立とうすると
「待った」
と言われる。
「ちゃんと拭かなきゃ。あのあたりが濡れてるでしょ」
「はい、そういえば」
「そのままパンツ穿いたら、パンツが濡れちゃうから、紙で拭くのよ」
それでウテロはトイレに備えられている紙でその付近を拭いた。
「おちんちんがあれば、飛び出している所から放水するから濡れないんだけどね」
「おちんちんって実は便利なものだったんですね」
「そうだね」
傷はもう完全に治っているので、お風呂も入っていいと言われる。それでお風呂に行ってみた。何だか居る人、居る人、まるで女の人みたいに見える生徒が多い。でもみんな男なんだよなー、と思いながらウテロは服を脱いで浴室に入った。
浴室内を歩いている人を見ると、みんなおちんちんが無い。
まるで女湯に居るみたい!
ウテロは凄く小さい頃にお母さんに連れられて共同浴場の女湯に入った時のことを思い出していた。
でも女湯ならみんな、おっぱいあるよね。ここにいるのは、おちんちんは無いけどみんな男の子ばかりだから、おっぱいがないもんねー。
ウテロはそれで何だか安心した。
手術して作った新しい陰部はおちんちんよりデリケートだから丁寧に洗いなさいとガーラから言われていたのでお湯を当てながら丁寧に洗ったが、何だか触っているうちにどきどきした気分になる。なんか不思議な気分だなとウテロは思った。
でもこれ「どこまで」洗えばいいんだろう?
お股の割れ目は二重になっている。そのヒダとヒダの間は汚れがたまりやすいからよく洗った方がいいと言われたなと思い、そこを洗う。おしっこの出てくる付近を洗う。それからそれより少し前の方に少しコリコリする部分があった。何だろうと思って触っている内気持ち良くなってきたので、いけないことのような気がして触るのをやめる。
奥の方にも何か穴がある。これ何だろうと思う。うんこの出てくる穴は別にあるし。でもそこはあまり指とか入れてはいけない気がしたので軽く洗うのに留めた。
翌日から授業が始まる。いきなりヴィールの練習の時間にクレオと再会した。
「よっ、来たね」
「クレオさん、すっかり女の人みたいになってる」
「ウテロも可愛い女の子みたいになってるよ」
私語禁止は基礎学校と同じなので、あまり長時間はしゃべられないものの、クレオの顔を見てウテロは物凄く安心した。
「ちんちん取られてびっくりしなかった?」
「びっくりしました! クレオさん知ってたんですか?」
「もちろん。私の目的はそれだったから」
「なんかカイジさんもそんなこと言ってました」
「ああ、カイジは私と同じ傾向だと思った」
「へー」
おちんちんを取って欲しい子って時々いるのかな、とウテロは少し不思議な気分であった。
おちんちんが無い生活ってのは何か少し不思議な気分ではあったが、実際問題として少しその状態で暮らしてみると、無くなってもそんなに不便とかは感じなかった。そもそもウテロは学校の「おちんちん禁止」規則を守って、トイレの時とお風呂の時以外はおちんちんには触っていなかったのもある。むしろ寝る時、姿勢によってはいままでおちんちんがつっかえたり圧迫されて寝にくいことがあったのが、無くなると邪魔にならず安眠できる感じもあった。
ほんと、おちんちんなんて別に無くても良かったんだね、とウテロは新しい発見をしたような気分だった。
予備学校や基礎学校ではずっと学校の中で過ごしていたのだが、高等学校では時々外に出る機会があった。
孤児院や老人院などを訪問して歌を披露した。参加するメンバーはとりわけ歌のうまい子で、ここの生徒は(毎年入る子は7-8人だが居残りが多いので)全部で50人近く居るのだが、だいたい15-16人のチームで参加する。
ウテロは半年も経つとこの慰労合唱のメンバーに入れられるようになった。クレオはウテロが入学した時から既に入っていたし、ケイジもウテロに1回遅れで参加するようになった。
「でも私たちのコーラス聴いたら、女声合唱と思う人も多いかも知れないですね」
「実際女声合唱だと思うけど」
「え?でも男ばかりなのに」
「声はみんな女だし」
「確かに」
「服装も女みたいだし」
「そう言われれば」
ふだんは白いブラウス・白いショートスカートで学校の中で過ごしているのだが、こういう外に出る時は、特別にピンクのブラウスと赤いスカートを穿き、髪にはりぼんまで付けるので、確かに女性の合唱隊に見えるよなとウテロは思った。
「じゃ男性の合唱隊と女性の合唱隊って、見た目はあまり区別つきませんね」
とウテロは言ったのだが
「女性の合唱隊なんて無いけど」
とケイジに言われる。
「嘘。だって、国立合唱隊とか、女の人ばかりじゃないですか」
「あのメンバーはみんな、私たちと同様に、男子のみの合唱高等学校を出た子たちばかりだよ」