広告:放浪息子(5)-BEAM-COMIX-志村貴子
[携帯Top] [文字サイズ]

■合唱隊物語(2)

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4 
前頁次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

しかしそのトイレだが、行ってみてまた戸惑う。最初入ったら個室ばかりが並んでいるので、間違って女子トイレに入ってしまったかと思い、慌てて飛び出す。しかしそのトイレにはいわゆるトイレマークの男子の印が付いている。そして同級生たちがみんなそこに入っていくのを見る。
 
「ここって男子トイレ?」
「男子トイレもなにもここには男子生徒しか居ないはず」
「でも小便器が無いよ」
「座ってすればいいんだよ」
「へー」
 
それで個室に入り、座っておしっこをしようとするのだが、これが何だかうまく行かない。座ってしようとすると、何だか、大をする感覚になってしまう。今は大はしたくない。小だけしたいんだけどと思うが、どうすれば座った状態で小だけできるのかがよく分からない。
 
↓ ↑ Bottom Top

色々試行錯誤して、後ろの方の筋肉は引き締めたまま、前の方の筋肉を緩めてみた。出た!
 
ふう。おしっこするのがこんなに大変だなんて。
 
しかしトイレに関しては最初の数日は苦労したものの、慣れてくると立ってするより楽じゃんと思うようになった。でも座ってするから、パンツの前開きは要らなかったのかということに思い至った。確かに要らないものは付ける必要無いよね。
 

↓ ↑ Bottom Top

この予備学校での規則のひとつに「おちんちん禁止」というのがあった。おしっこをする時と、お風呂で洗う時以外、おちんちんに触るのは禁止と言われた。
 
「それ以外でおちんちんに触ることって何かあるんですか?」
と訊いたら
「うん。知らなくていいことだよ」
と言われた。
 

↓ ↑ Bottom Top

予備学校では「私語禁止」というのが言われる。授業では質問をしていいが、休憩時間も生徒同士がしゃべるのはどうしても必要な場合以外、原則として禁止されている。寮でもいっさい会話は無いが、世間のことをあまり知らないウテロにとっては、その方が気楽であった。
 
ただ寮で同室になったケネラとは寝る前などに小さな声で話した。
 
「え?ケネラ君って、もうこの予備学校に3年もいるの?」
「うん。卒業せずにぐだぐだしてる。ここに居る子の半分はそんな感じ。そのうち5年経てば追い出されてどこかの修道院に入ることになるけどね」
 
「なんで?ケネラ君、歌うまいのに」
「上の学校に行きたくないからさ」
「どうして?合唱隊に入りたくないの?」
「おまえ、まさか知らないの?」
「なにを?」
「じゃ、明日教えてやるよ」
 
↓ ↑ Bottom Top

という話をしたものの、その「明日」は来なかった。翌日ケネラ君はクラヴィの授業の時に、教官と言い争いになり、それで退所を命じられてしまう。
 
「ケネラ君、どうなるの?」
「アルム州の修道院に行くことになった。ウテロ、元気でな」
「うん。ケネラ君も」
 

↓ ↑ Bottom Top

ケネラが出て行った後、ウテロは1人でその部屋を使用したので、この予備学校の後半ではウテロは授業中に歌ったり質問に答えたりする以外は何もしゃべらない生活を送った。
 
この予備学校では、何よりも歌う時間が1日の半分くらいあったが、その他に音階や基本的な和音を勉強し、楽譜の読み方・書き方を学び、またクラヴィ(ピアノに似た鍵盤楽器)とヴィール(ヴァイオリンに似た弦楽器)、フラウト(フルートに似た木管楽器)の練習もしていた。
 
そして1年ほど経った時、ウテロは校長から尋ねられた。
 
「卒業試験を受けますか?」
「受けたいです」
「本当に受けていいんですね?」
「はい」
 
と答えるが、卒業するのが、そんなに確認の必要なことなのか?と不思議に思った。それでウテロは歌唱、聴音、クラヴィ演奏の試験を受け全科目合格と言われて予備学校を最低の1年で卒業した。
 
↓ ↑ Bottom Top


9月、ウテロは合唱基礎学校に進学した。もっともホルドの町に居ても、実際には学校の外に出る機会は無いのでずっと学校の敷地の中だけで暮らしている。同じ町に居るはずのマリア姉さんや妹のアンナは元気にしているだろうかと思うが、確かめるすべもない。
 
自分たちが家を出た日、両親は自分とレグルを間引くと言っていた。それで本来はマリアとフッドの2人だけが残される予定だった。しかし予定外にマリアはアンナと一緒に自ら女衒に売られたし、自分も一緒に付いてきて合唱学校に入った。結果的にフッドとレグルの2人だけが残った。その後レグルは間引かれたのだろうか、それとも結果的に残った人数が2人だからレグルは助かったのだろうかというのも考えたが、それも確かめるすべはない。合唱学校は生徒が外部と手紙のやりとりをするのも禁止だから、連絡の取りようもない。もっとも父は全く字が読めないし、母もかなり易しい単語しか読めないから手紙を書いても仕方ない気もするし、返事ももらえないだろう。たぶん自分はもう両親の心の中では「死んだ子」同然なのかもとも思った。
 
↓ ↑ Bottom Top

基礎学校の先生が予備学校まで来てくれて、この年の9月に基礎学校に進学する生徒5人を連れ出した。基礎学校はここホルドの予備学校と、ペニラの町の予備学校分校の卒業生を併せて受け入れている。この秋の入学者は7人であった。
 
最初に校長から諸注意があるが、私語禁止などの規則はだいたい予備学校と似たような感じである。教科についても説明があるが、和声法・対位法などというのが新たに科目に加わるだけで、雰囲気は似たようなもののようである。ここでも1日の大半は歌唱の時間であることが告げられる。
 

↓ ↑ Bottom Top

そして様々な説明の最後に校長は言った。
 
「みなさんは年齢的にだいたい11歳から14歳くらいで、そろそろ声変わりが近くなっています。しかし声変わりしてしまうと高い声が出なくなってしまいますので、それを防ぐため、睾丸を取る手術を受けてもらいます」
 
え!?
 
何だかみんなそのことを知っていたのか頷いている。ところがひとりの入学生が「嘘!?なんで!?」と叫ぶ。
 
「睾丸を取る目的はひとつは声変わりを防止すること、もうひとつは自慰行為をしなくても済むようになることです。みなさんの中で自慰の経験がある人は?」
 
年上っぽい生徒が2人手をあげる。
 
「いけないことなのにしてしまう自分が嫌でした」
などと彼は言う。
 
↓ ↑ Bottom Top

「睾丸を取ってしまえば、自慰したいと思うことは少なくなりますよ。我慢しやすくなります」
と校長。
 
ウテロは自慰って何だろうと疑問に思った。
 
その時、さっき「嘘!?」と声をあげた生徒が
「いやだー。睾丸取られたくない」
と叫ぶと逃げだそうとした。
 
すかさずドアの所に立っていた道士2人に取り押さえられる。
 
「睾丸を取るのは1歩天使に近づくために必要なことです。それを嫌がるとは何ですか? その子を最初に手術します」
と校長が言うと道士2人はその子を連れて廊下の奥の方に連れて行ったようである。「嫌だー。帰して!」と叫ぶ声が遠ざかりながらずっと聞こえていて、残った新入生はお互いちょっと顔を見合わせた。
 
↓ ↑ Bottom Top

何だか騒ぐ生徒が出たので、ウテロは声を出せなくなってしまったが、自分も叫びたい気分だった。
 

残った新入生6人が交代で歌を歌っている内に、道士が来て
「タイカ君の手術が終わりました。次は誰ですか?」
と訊く。
「僕が行きます」
といちばん年上っぽいケイジという子が言うので、その子はおとなしく廊下の奥の方へ歩いていった。20分単位くらいで次の子を呼びに来る。つまり手術は15分程度で終わるということなのだろう。4番目の子を呼びに来た時、ウテロは
 
「お願いします」
と言って手を挙げた。
 
睾丸か・・・。男にとって大事なものなんだぞ、とトーマ兄さんは言ってたけど、これって何のためにあるのかよく分からない器官だよなとウテロは思う。ぶつけたりすると痛いし。以前、アンナのお股を見てしまったことがある。アンナのお股にはちんちんも睾丸も無かった。たぶんこれって男の子にだけあって女の子には無いのだろう。女の子には無いということは無くてもいいものじゃなかろうか、などと思っているうちに医療室に到着する。白衣を着たお医者さんらしき人がいる。パンツを脱いでベッドに寝てと言われるので脱いで横になる。ローブ状の服の裾をめくられて、下半身が全部露出される。
 
↓ ↑ Bottom Top

「じゃ睾丸取るよ」
「はい、お願いします」
 
最初に注射を打たれた。注射なんて打たれたのは小さい頃に熱を出して苦しんでお父さんが町の病院に連れて行ってくれた時以来だ。でもこの注射は、打つと感覚が無くなるよと言われた。麻酔というのだそうだ。
 
「ここ感じる?」
「いえ」
 
それで麻酔が効いているようなので手術が始まる。見ているとお医者さんはウテロの睾丸が入っている袋を小さな刃物(メスというんだと聞いた)で切開すると、中から玉を引き出し、その玉に付いている紐状のものを切断した。へー。ああいう紐が付いていたのかとウテロは何か他人事のようにそれを見ていた。さらにもうひとつの玉も引き出して切断する。その後、切開した傷口を糸と針のようなもので縫ってくれた。
 
↓ ↑ Bottom Top

「はい、終わりです。2-3日は痛いけどその後は痛みはなくなるから。それまではお風呂には入らないように」
「分かりました」
 

↓ ↑ Bottom Top

手術が終わった後は今日は夕方まで部屋で休んでいていいということだった。それで指定された部屋に行く。ドアを開けると髪の長い美しい人が居たので、ウテロは女の人!?と思って「済みません、間違いました!」と言って慌ててドアを閉めたが、部屋の番号を見ると、渡された紙の番号だ。それで恐る恐る開けてみる。
 
「どうしたの?この部屋に新しく入る子?」
と訊かれる。
 
「はい、ウテロと申しますが・・・」
「私はクレオ。よろしく」
「あのぉ・・・女の人ですよね?」
「この学校に女の人はいないと思うけど」
「男の人なんですか?」
「そうだよ」
「びっくりしたー。凄い美人の女の人かと想った!」
「ウテロ君かな。君もけっこうな美人だと思うけど」
「え?でも男で美人って・・・」
「君も髪を長くするといいよ」
「え?そうですか?」
 
↓ ↑ Bottom Top

合唱学校は髪の長さは自由ということだったので、ウテロは割と長めにしていた。実は髪を切るのが面倒というのもあったからである。ケネラは短くしていたし、他の長期在学組もだいたい短くしていたが、中には肩に付くくらいまで伸ばしている子もいた。でもクレオの髪は胸くらいまであって、ちょっと見た感じには女の人の髪のようである。しかもクレオは優しい顔立ちで美人だ。ウテロはクレオを見て、いいなあと思った。
 

↓ ↑ Bottom Top

基本的には校内寮内では私語禁止なので、クレオともそんなに話しはしなかったものの、時々ちょっとだけ交わす会話で、ウテロはクレオにまるで恋するかのように憧れた。
 
「クレオさん、男の人だなんてもったいない感じ。女の人にしてしまいたいくらい」
などとある時ウテロが言ったら、クレオはなぜか凄く苦しそうに笑っていた。
 

↓ ↑ Bottom Top

基礎学校の授業は基本的には予備学校のものとそう雰囲気は変わらないものの内容はより高度になっていた。発声法に関しても再度しっかり基本を教えられ、これでウテロはずいぶん音域が広くなった。予備学校では歌う時に斉唱をしていたのだが、この基礎学校では高音部と低音部に分けられ二部合唱をする。ウテロはその高音部に入れられ、さらに高音域を鍛えられた。
 
入学の時に泣き叫んで医療室に連行されたタイカは当初、しくしく泣いてばかりいたが、少しずつ立ち直ったようで、元気に歌を歌うようになっていった。彼は歌に関しては同時期に入った子の中でいちばん巧いとウテロは思っていた。
 
この基礎学校では音楽関係以外の授業として文学、ラテン語、そして習字に料理・裁縫などという授業もあった。ウテロはけっこう字がへたくそだったので、習字ではかなり鍛えられた。毎日凄い課題を出されるのでたくさん字を書いて、それで少しずつ字はうまくなっていった。
 
↓ ↑ Bottom Top

料理とか裁縫の授業は戸惑った。そんなのしたこともないので、包丁の使い方にしても針の使い方にしても新鮮に感じた。
 
「こういうの習うの女の子だけかと思ってた」
などと言うと、ケイジ君が
「修道院に行くと、男ばかりで料理もしないといけないし」
というので
「ああ、なるほどですね」
とウテロは答えたが、ケイジはその後でなぜか忍び笑いをしていた。
 

↓ ↑ Bottom Top

同室になったクレオからもウテロは大きな影響を受けた。彼が髪を伸ばしているのでウテロも髪をかなり長く伸ばしていった。単純に伸ばしていると変になるのでクレオが少し切って髪型を整えてくれたが、
 
「その髪型可愛いね」
などと他の生徒や先生からまで言われたりして、何だかウテロは嬉しかった。
 
クレオはヴィールの演奏がうまく、彼と同室になったおかげでウテロもヴィールの技術が物凄く進歩した。
 
1年後、クレオは卒業して行った。彼は順調に合唱高等学校に進学したが、同時期に卒業した5人の中で合唱高等学校に進学できたのは2人だけで、残りの3人はここの基礎学校の卒業資格(神学校の中等部卒業程度とみなされ、いきなり副牧師になることができる)で修道院に入るか、あるいはどこかの教会の職員になるのだということであった。
 
↓ ↑ Bottom Top

「ウテロは高等部に来るよね?」
と卒業の日、クレオは言った。
「行きたいです」
「ウテロなら来れるよ。じゃ頑張ってね」
 

↓ ↑ Bottom Top

クレオが卒業した後、ウテロはずっとひとり部屋で基礎学校での1年半を過ごした。
 
そして13歳の夏、ウテロは「卒業試験を受けますか?」と尋ねられる。ウテロは高等部に行けばまたクレオに会えるかもと思ったので、特に何も考えずに「はい、お願いします」と答えた。
 
その年の夏、卒業試験を受けるのは、ケイジ、タイカなど6人である。ウテロと一緒に入学した子が4人と、前の学年で1年留年した子が2人である。ウテロは試験室に入ると、
 
「ドミネムス称賛歌78番を歌って」
と言われる。試験官がピアノで最初の音をくれたので歌い出す。
 
その他、初見歌唱、聴音までやった所で、クラヴィとヴィールの演奏も見られる。特にヴィールで『ベネアスのフーガ』を弾くと、審査委員の人が顔を見合わせ、最後は拍手までもらった。
 
↓ ↑ Bottom Top

そしてウテロは卒業試験に合格した。合格したのは前の学年の子2人と、ウテロ・ケイジ・タイカの3人で、もうひとりは落ちて1年留年することになった。
 

↓ ↑ Bottom Top

9月、高等部の教官がやってきて、卒業した5人の内ウテロ・ケイジ・タイカの3人を連れていく。残りの前年からいた2人は高等学校への進学は希望しないということで、修道院に入るのだということだった。
 
予備学校、基礎学校は殺風景な雰囲気だったのだが、高等学校は何だか華やかな雰囲気であった。ウテロは「まるで女学校みたい」と最初思った。
 
入学者はバジロ郡の基礎学校卒業者3名、クリト郡の基礎学校卒業者2名、ラビア郡の基礎学校卒業者2名の合計7名であった。最初に高等学校のシステムについて校長からお話がある。
 
「ここは単位方式なので、自分の受けたい授業を受けたい時に受ければ良いです。最短で2年で卒業できますが、20歳になるまでは在学したままで居られます。また卒業試験に合格しても、研究生資格でこの学校にとどまり、更に選択科目の授業を受けたり、歌唱や楽器演奏の腕を磨いたりして、合唱隊の空きができるのを待つことも可能です。退所する場合は、どこかの修道院への入院を斡旋します」
 
↓ ↑ Bottom Top

↓ ↑ Bottom Top

前頁次頁目次

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4 
■合唱隊物語(2)

広告:オンナノコになりたい! もっともっと、オンナノコ編